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第11話『フー・ザ・ファック・アー・アークティック・モンキーズ?(Who The Fuck Are Arctic Monkeys?)』その③

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orisuta

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ピー・・・ガガッ
『・・・・沢班・・・どう・・・た・・・応答せ・・・』ガガッ

バキィッ!!

柏「ふん」パラパラ・・・

丈二(何故だ・・・?)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

柏「・・・・・・・・」

丈二(世田谷への攻撃を止めたのか・・・?いや、なら何故ここにいるんだ・・・?
   攻撃は続行するのか?でも何で・・・ここだけを襲う意図がわからない)

柏「質問がありそうだな丈二」

丈二「・・・・・・・」

神田「・・・・・・・」ゴクリ

警官達「・・・・・・・・」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

天野の読みは外れた。
インフラへの攻撃計画は、予想していたよりも遥かに規模の小さいものであった。
駒沢以外の各給水所には、攻撃の予定はなかったのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ガガガ・・・ブツッ

天野「駒沢班との連絡が途絶えたッ!」

榎木「まさか、敵に拘束されたんじゃ・・・」

天野(バカな!そんなことありえない!
   計画は中止されたんだ!駒沢に柏がいるワケがないッ!)

天野(それとも計画に変更があったのか!?何故ヤツはこの土壇場で計画を書き換えた!?
   はじめから、私たちで作り上げた計画通りに事を進める気は無かったということなのか!?)

榎木「・・・・・・・・」

天野(クソ、考えてみれば至って普通の対応だ・・・これは私が練った計画で、私は既に敵なんだ!
   誰でもそうする・・・迂闊だった・・・)

榎木「すぐに各隊を呼び戻して駒沢給水所へ向かわせましょう!」

天野「・・・ああ、そうだな。
   各隊撤退しろォ!駒沢給水所へ急行するんだ!」
 
 
 




~駒沢給水所 PM4:20~

配水池では依然として、工作員たちによる突入隊員の拘束が続けられていた。
武器を失い、ただなす術もなく跪く六人。
突きつけられた四十の冷たい銃口が、彼らを『詰み』の状態へと陥れていた。

柏「・・・よし、あと20分したら『ウイルス』の撒布を始めろ」

工作員「了解」

丈二「何故だ」

柏「うん?」

丈二「こんなに人がいるワケがない。他の給水所はどうしたんだ
   テロ攻撃は中止したのか?何故ここにだけ『ウイルス』をばら撒く」

柏「私がこれまで必死に『ナイフ』を追いかけ続けてきたのは、『世田谷区を全滅させるため』だと、
  本気でそう思っているのか? 天野もお前も、どうやら何も分かってないらしい」

丈二「なに・・・?」

柏「『ウイルス』は化学兵器なんだ いくらでも培養できる。ここで全部使うわけがないだろう
  私はこの国を潰したいワケじゃあない。スタンドの資質を持たぬクズどもを地球から追い払いたいんだ」

柏「今日の攻撃は『デモンストレーション』に過ぎない。『実演販売』さ。
  『ウイルス』の威力を『買い手』に見せ付ける、それがこの攻撃の目的だ」

神田「は、『販売』・・・?」

柏「生物兵器の買い手はいくらでもいる。石油利権を巡って睨み合いを続ける某国・・・
  民族浄化に躍起になってる某国とかな。
  『彼ら』は武器を求めている。戦争は最もシンプルな外交の手段だ」

丈二「戦争だと!?」

柏「『組織』はもはや民主主義から完全に解放されているんだ。
  私が望めば、世界中、どこでも好きな場所で好きなときに戦争が起こる。
  アメリカとヨーロッパに潰し合いをさせることだって難しくない」

柏「ちまちまインフラ攻撃なんてしない・・・『ウイルス』は戦争で使ってもらうのが一番だ。
  より迅速に、効果的に『人類の選別』が進むんだ」

神田「大国に『ウイルス』を売り渡して、戦争でそれを利用させる・・・
   そうやって人々を殺していくつもりなのね!」

柏「そうだ。私は全人類にスタンドを与えたい。それには世界中で『ウイルス』を撒く以外に方法はないんだ
  世田谷の人間を皆殺しにしたって、誕生する『スタンド使い』は1000人にも満たないんだからな。」

丈二「夢物語だ・・・そういうこと言ってていいの中学2年までだぜ・・・!」
 
 
 




柏「そうかな?しかし、現に『各国の買い手』はこの世田谷に集まってきているんだよ
  今日のデモを楽しみにしてる」

神田「なんですって・・・?」

柏「今は都内のとあるビルで酒を飲みながらモニターを眺めているところだろう。
  彼らは待っている。画面が緊急ニュース速報に切り替わるのをな」
  
丈二「戦争はアンタの訴えてる『環境保護』とは遠くかけ離れた行為だろ!
   地球に深い爪痕を残すことになるんだぞ!」

柏「核兵器を使わせないための生物兵器だ!多少の傷は『スタンド使い』が癒せる!
  『砂漠にオアシスを作るスタンド』、『オゾンホールを修復するスタンド』、『産廃を抹消するスタンド』!」

丈二「アンタが望む『スタンド能力』が出てくるまで、虐殺を繰り返すつもりか!」

柏「500年後の歴史家たちは私に深い敬意を払うだろう!
  その頃人類は、一人残らず『スタンド使い』になっているんだからな!」

丈二「ラリってんのかよコイツ・・・!」

柏「ついてこい丈二。お前には特別に『処刑場』を用意した。
  直に阿鼻叫喚の巷と化すこの街を、眺めながら死ねる最高のスポットをな」

工作員「こいつらはどうしますか?」

柏「『ウイルス』を流したら消せ それまでは生かしておいていい
  自分達の無力さを思う存分噛み締めさせたら、殺してやるんだ」

そう言うと柏は、跪いた丈二を立たせ彼の両手に手錠をかけた。
工作員の一人が丈二の背中に銃を突きつけ、柏の後方にて歩かせる。三人は配水池を抜け、給水塔の方へと消えた。
 
神田(『モノブライト』)ボソッ

モノブライト『・・・・・・』

神田(彼は殺されてしまうわ、丈二に付き添って。工作員にあなたの姿は見えない・・・さあ行って!)

モノブライト『REEE・・・』

ピョンッ!

本体の指示を受け、『モノブライト』が去り行く丈二の背中へ飛び跳ねる。
彼に担がれ、『モノブライト』は丈二と共に外へと消えていった。

神田(なんとかチャンスを与えるのよ・・・頑張って・・・!)
 
 
 




~和田堀給水所 PM4:25~

ガガッ
『・・・各隊撤退しろォ!駒沢給水所へ急行するんだ!・・・』

未来「・・・・・・」

警官「何です?」

未来「撤退命令が出ました、駒沢給水所へ向かえとのことです。
   引き揚げましょう。」

警官「了解!」

駒沢を除く5つの給水所に攻撃はなく、各隊に撤退の指示が下された。
杞憂に終わった和田堀給水所の危機に内心少しホッとし、未来らは銃を仕舞って続々とバンに乗り込む。
しかし彼が撫で下ろした胸は、再び緊迫の鼓動で脈打つことになる。
給水所を後にしようとしたそのとき、施設内に『あってはならないもの』を見つけてしまった。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

未来「・・・・?」スタスタ・・・

未来(な、なんだコレ・・・?)

カチッ・・・カチッ・・・

給水所内の給水ポンプに取り付けれられた『それ』を最初に見たとき、未来は何かの『機械』かと錯覚した。
だがよく目を凝らしてみると、その機械は実体を持たず、後ろのポンプが透けて見えた。
これは『スタンド』だ。そしてこの心を掻き乱す、独特かつポピュラーな秒刻みのリズムは・・・

未来(まさか・・・これは・・・)

ハッとして辺りを見回す未来。
何故今まで気付かなかったのか、自分の神経を疑う。施設内には、それと同じものが至る所に無数に設置されていた。

カチッ・・・カチッ・・・

このタイマーの音に聞き覚えはない。初めて聞く音だ。
けれども『これ』が何なのか、容易に想像が付く。映画とかでお馴染みの『あれ』だ。

未来(ば・・・)

カチッ・・・カチッ・・・

未来(『爆弾』・・・!)

警官「どうしました?行きましょう」

未来「・・・・・・!」

警官にはどうやら『見えていない』らしい。
やはりこれは『スタンド』だ。『組織』は攻撃を中止したワケじゃない、標的を変えただけだった。
『ウイルス』で市民を殺すのではなく、『スタンド』で敵を吹き飛ばすつもりなのだ。

未来「い、行って・・・早く!外に出てッ!」

警官「?」

カチッ・・・カチッ・・・

未来「・・・・・・・・!!!」

カチッ

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
 
 
 




~駒沢給水所 同時刻~

給水所構内を抜けた柏と丈二は、施設の東側にそびえ立つ、双子の給水塔の頂に向かっていた。
塔高30m、8階建てのビルに相当する高さを持つ駒沢給水塔。
仲良く並ぶ二基の間を短いトラス橋が繋いでおり、三人は一号塔から二号塔に向かってその橋を歩いていた。
飾り電球が並ぶ二号塔上部で、柏は丈二と絶望に喘ぐこの街を見下ろしたいらしい。

チュドオオオオオオオオオオオオオン!

丈二「! なんだッ!?」

柏「ははは」

トラス橋を渡る最中、街の向こうで大きな爆発が起きた。
爆発の轟音が響き、街全体を包み込む。空に向かって高く昇る巨大な火柱は、何かの合図のようにも見えた。
爆心地が和田堀給水所だと丈二が気付く少し前に、二つ目、三つ目と各地で爆発が連続した。
爆発は五回起きた。黒い煙をモクモクと立ち昇らせている五箇所は、どれも仲間達が向かった給水所のある場所だ。

丈二「・・・・!」

柏「これでこの街の人間はここの水を飲む以外に無くなった
  さて、いったい何人のスタンドがこれから産声を上げるのかな?」

丈二「こ、この野郎・・・!」グッ

カチャリ
工作員「やめろ、動くな」

柏「そうだやめておけ。ここには『赤』はない・・・お前の『子猿』が私のスタンドに勝てるとでも?」

丈二(もう我慢できねえッ!このクズは!今ここでぶっ殺す!)

丈二「『モノブライト』ッ!引きずり出せッ!!俺の『罪』をだッ!!」

モノブライト『REEE!!!』

モワァァァァァァァン!!

丈二が自身のものではないスタンドの名を叫んだとき、彼の背後に隠れていた黒い『小人』がその姿を現した。
体が黒いオーラに包まれた丈二を見て、背中に銃を突きつけていた工作員の男が恐怖に駆られて銃口を下げる。

柏「!」

工作員「う、うわああああ!な、なんだ・・・!?」

丈二「・・・・・・」

柏「! おい、銃を下げるな!」

丈二「オラァッ!」

ドゴォッ!

工作員「ぐふぅ!」フラッ・・・

男が怯んだその一瞬、丈二の鋭い右脚が男の下腹部を貫いた。
突きを受けた工作員の男はフラつき、バランスを崩して橋から転落した。
地面に体を叩きつけた男の、鈍い破潰音が橋上の二人の耳へと届けられる。

グシャアアアアアッ!
 
 
 




柏(あのスタンド!丈二のものではない、十字架の女のスタンドか!)

モノブライト『REEEEEEE!』ズリズリズリ・・・

柏「!」

丈二(黒)「うおおおおおおおお」ズズズズズズ・・・

丈二「ぐうううううううう」

丈二の体から発せられる黒のオーラが、小人のスタンド、『モノブライト』の手によって体から引き剥がされ、
人型となって分離する。真っ黒の『丈二』がもう一人、二人の間に召還された。

丈二「これは俺の『殺人の罪』!お前を追い詰めて殺すッ!」

丈二(黒)「殺してやるッ!殺してやるぞッ!」
A・M(黒)『ムヒーーーーッ!!!』バシュバシュッ!

橋の上に現われた『黒い丈二』は、本来なら使用できないはずのスタンドを展開させ、敵に殴りかかる。
これは丈二の『殺人』を犯したときの『記憶』が元となって作られた人形であり、そのとき『銃』を握っていたのなら
この人形も同じものを握っているし、『スタンド』を使って行った殺人なら当然人形も『スタンド』を使うのだ。

柏「なんだか知らんが『レイト・パレード』!こいつを消せッ!」ドバァァーーーン!
L・パレード『・・・・・・』

A・M(黒)『オラオラオラオラオラオラオラオラオラ』バシュバシュバシュバシュバシュ!
L・パレード『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』バシュバシュバシュバシュバシュ!

黒の『アークティック・モンキーズ』が、雄叫びを上げながらマシンガンのように突き出す拳を、
『レイト・パレード』が無言のまま丁寧に一つずつ、自身の拳をそれにぶつけて威力を相殺させていく。

柏「ぬぅ・・・ッ!」

スッ・・・
丈二「『モノブライト』!手錠を外してくれッ!」

モノブライト『REEE!』バキィッ!

丈二「助かった!」

橋の中間部にてラッシュの応酬を繰り広げる二体のスタンドから一歩引き、丈二が手錠を外す。
そしてズボンの裾の部分に隠し持っていた『ダガーナイフ』を右手に握り、柏に向かい駆け出した。

ダッ!
丈二「行くぜオラァァァァ!!」スチャッ

丈二(黒)「うおおおおおおおおおおおおッ!」
 
 
 




A・M(黒)『ムヒーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!』

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴッ!!

L・パレード『・・・・・・・・!』
柏(くッ!こいつ、スピードもパワーも互角か!)

柏「『レイト・パレード』!ラッシュを『遅らせろ』ッ!」
L・パレード『・・・・・・・・・』グッ

『レイト・パレード』が能力を発動させ、迫り来る敵の拳を急停止させる。
軽快にパンチを繰り出していた『アークティック・モンキーズ』の動きが止まり、続く次の拳は数分後となった。

A・M(黒)『ムヒッ!?』
丈二(黒)「なんだッ!?」

L・パレード『クラァァッ!』ドシュッ!

ドスウッ!

丈二(黒)「うぐええええッ! う、うわあああああああ・・・・・・・・」

静止した『アークティック・モンキーズ』のがら空きとなったボディに、『レイト・パレード』がその拳を突き出す。
拳はお腹に深くめり込み、黒い『猿』とその本体は苦痛に顔を歪めて橋から身を乗り出し、重力に引かれて落下した。

ドサァァッ・・・

柏の眼下にて、地に叩きつけられた黒い丈二がその体を四方に飛び散らせる。バラバラになった魂はオーラ状に戻って宙に消えた。
敵の注意が橋の下に向いている隙、距離を詰めた丈二が『ダガーナイフ』を柏の肩へと突き刺した。

ザクゥッ!

柏「!! ぐあ・・・ッ!」

丈二「・・・・・・・・」グリグリッ!

柏「ぐお・・・ッ!」ガシッ!

ズボッ!

柏「ぐ・・・!」

丈二「『レイト・パレード』で傷を遅らせなかったのか?」

柏「・・・っ、このガキ・・・!」

丈二「これが『痛み』だ。お前がたくさんの人々に与え続けてきたモノ。
   『痛み』。勉強になったか?」

丈二「こうやって『ナイフ』を一突きずつしていく。お前が死ぬまで、何度でも!
   何度でも何度でも!何度でもだ!」
 
 
 




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

柏「いい気になるんじゃあない・・・!」

丈二「『モノブライト』ッ!引きずれッ!」

モノブライト『REEEEE!』ズリズリズリ!

ぴょんぴょんと橋の上を飛び跳ねる『小人』のスタンドが丈二の体に触れ、再びオーラの引き剥がしを行う。
『黒い魂』は何体でも製作可能らしく、先ほど橋から転落した『黒い丈二』とそのスタンドが、柏の目の前に再臨した。

丈二(黒)「うおおおおおおおお!」
A・M(黒)『ムヒャアアアアアアアア!!!』

柏(バカな!この『人形』は、無尽蔵に生み出せるのかッ!
  あの小さなスタンド!ヤツの能力で!)

モノブライト『REEE・・・』

柏(ならば先に始末するのはあの『小人』!ちょこまかと目障りなッ!)

柏「『レイト・パレード』ッ!」ドバァァーーン!
L・パレード『・・・・・・・』

丈二(黒)「『アークティック・モンキーズ』ッ!」
A・M(黒)『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

バシバシバシバシバシバシバシバシバシィッ!

『アークティック・モンキーズ』と『レイト・パレード』のラッシュの掛け合いが再度勃発する。
互いに相手の拳がどこに来るかわかっているように、正確に拳をぶつけて自分への攻撃を許さない。
火花を散らし合うスタンドとスタンドの合間を縫うように、敵に近づいた丈二が刃物を柏のわき腹に突き刺した。

ザクゥッ!

柏「! ぐ・・・!」

丈二「余所見してんじゃねーよ」グリグリ

柏「うおおお」

丈二(黒)「やったぜ!ハラワタぶちまけて死にやがえエエエエエエ!」

柏「・・・っ、バカが・・・!敢えて懐に飛び込ませてやったんだ・・・!『敢えて』・・・・・・!」
 
 
 




丈二「! 俺から離れろ『モノブライト』!」

柏「もう遅いッ!『レイト・パレード』ッ!!」
L・パレード『・・・・・・・』スッ

ガシィッ!

モノブライト『RE!』ギリギリギリ・・・

丈二の足元を跳ねて回る『小人』の首を、『レイト・パレード』が掴み、持ち上げる。
弱々しい呻きを漏らし、『モノブライト』の手足がバタバタと動く。
一旦距離をとり、神田のスタンドを助けようと考えた丈二だが、彼の体は柏の懐から『離れなかった』。

丈二(くそ!『ナイフ』を引き抜けない、『遅らされて』いるッ!)

丈二「『モノブライト』を助けろッ!」

丈二(黒)「わかってんだよ!『アークティック』、ヤツの頭を吹き飛ばせッ!」
A・M(黒)『ムヒーーッ!』

柏「お前らは所詮このスタンドの能力で作られた『人形』にすぎない・・・」

モノブライト『RE・・・』ギリギリギリ

柏「コイツを消せばお前らも消える」

L・パレード『・・・・・・・』スッ

丈二「よせ!」

A・M(黒)『ムヒャアアアアアアア!!』ブオオオン!

グシャアアアッ!!

熟したトマトを潰したときのような、ねっとりとした不快な破裂音が橋全体に響いた。
『モノブライト』の小さな頭を挟んだ『レイト・パレード』の両掌が、勢いよくそれを押し潰したのだ。
頭部を失った『モノブライト』の胴体が足元に落ちて、消えた。

丈二「・・・・・・・!!」

A・M(黒)『ムヒャア・・・・・・・』シュウウウウウ・・・・

それに比例して、黒い『猿』と本体も、熱々の鉄板に乗せた氷のように体を蒸発させていった。
『アークティック・モンキーズ』の拳はあと数ミリで柏の顔面を打ち抜いていただろう。そんな惜しいところで動きが止まり、
やがて彼らもいなくなった。
 
 
 




~駒沢給水所構内・配水池 同時刻~

神田「う・・・ぐ・・・・ッ」ギリギリギリ・・・

拘束が続く給水所構内にて、跪く神田が急に顔色を変え、苦しそうに呻き出した。
周りの警官も、『組織』の工作員たちも何が起きたのか理解できないらしく、首を押さえてもがく神田に対して動揺を隠せない。

神田「あああああああ」

警官「!!」

工作員「!?」

ざわざわ

神田「あああああああああああああ」ググググググ・・・

絶叫する神田の頭が、粘土のようにぐにゃぐにゃと歪んでいく。
周囲の恐怖と混乱が頂点に達したそのとき、彼女の頭部は一人でに脳漿を外へ撒き散らした。

警官「うわあああああああああああああああ!!」

工作員「・・・・・・!!!」

騒然とする給水所構内。
ひしゃげて飛散した彼女の脳みそが、辺り一面を真っ赤に染めていた。
 
 
 
 スタンド:モノブライト 
 本体:神田 愛莉  死亡 







~駒沢給水塔・二号塔 PM4:30~

スタンドの使えない自分の切り札であった『モノブライト』を失い、逃げるしかなくなった丈二。
ナイフ一本でこの男と、そのスタンドを倒すのは不可能に近い。
トラス橋を駆け渡りなんとか二号塔を登ったが、実際どうすればいいのかわからなくなっていた。

丈二(クソ、なんで逃げてんだよ俺!)

柏「ククク・・・」スタスタ

塔の天辺にそびえるドーム状の屋根、その真下の東屋の周り、
ガラスボールの飾り電球が並ぶ円柱状の広い空間に、ハシゴをのぼって二人はたどり着いた。
この何もない場所で、丈二は柏を迎え撃たなければならない。ギミックもスタンドもなく、
純粋に自分の力のみでだ。

ビュオオオオオオオオ!

丈二「・・・・・・・!」

柏「ここは風が強いな・・・」

丈二(このナイフで首を一突き・・・それで全て終わる。
   終わるんだ・・・)グッ

柏「・・・・・・・・」

丈二(あと10分で『ウイルス』が撒かれる、今仕留めなければ・・・この街は終わりだ!)

柏「丈二、やめておいたほうがいい。お前は今スタンドが使えない、違うか?」

丈二「!」

柏「なんでそうなったのかは知らんが、お前が逃げ回ってるのは武器がナイフしかないからだ
  しかもこの場所・・・足掻くんじゃない、苦しまないように殺してやるから」

丈二「なめんなよ・・・」

丈二「うおおおおおお!」ダダダダ!

ナイフを構え、敵に向かって駆ける丈二。
だがナイフは当然のように敵スタンドによって弾かれ、場外へ飛んで行った。
そしてその一瞬に、『レイト・パレード』の重い拳を腹に受けた丈二が、その場にへたり込んで悶絶する。
血と唾液を口から零しながら、腹を抱えて苦しそうに息を吸った。

丈二「・・・・・・う、う・・・」

柏「いい子だ」
L・パレード『・・・・・・・・』ス・・・

『レイト・パレード』が右掌を、丈二の頭上にて振り上げる。
手刀だ。掌から発せられる冷たくて鋭い、身を裂くようなジリジリとした空気が肌に触れ、
もうこれはどうにもならないことなんだと、丈二はその身を以って理解した。
俺の人生は、ここで終わりだ。

丈二(・・・・・)
 
 
 




『与えて奪う』。それが世界の本質だ。
奪うばかりでは人を不幸にするだけだし、与えてばかりでは自分が幸せになれない。
俺は何を与えた?何を奪う?

柏「・・・・・・」
L・パレード『・・・・』

ブオオオオオ!

この男はどうだ?俺から『命』を奪う気だ。でも、その前に何か俺に与えてくれたか?
『与えて奪う』・・・
それともこいつは、世の理から解放された人間だとでもいうのか?

丈二(・・・・)

そうだ、こいつからは何も貰ってない。与えられていない。
こいつは奪うだけだ。人から奪い続けるだけ・・・そういう人間なんだ。
俺は奪わせない。こんなやつに、何も奪わせたりしない。
奪わせてたまるか。

従ってもらう、世界に。

柏「死ね」

ブオオオオオオオン!

丈二「・・・・・・・」

ブオオオオオオ・・・・

振り落とされる手刀。それが丈二の首を切り落とそうとしたそのとき、
横から伸びた、一本の見慣れない『腕』が、『レイト・パレード』の手首を掴んだ。

ガシィッ!

L・パレード『・・・・???』ギリギリギリ

柏「!? な、なんだ・・・・・・」
 
 
 




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

???『・・・・・・・・』ギリギリギリ・・・

スタンドだ。スタンドが使えないはずの丈二のそばで、
誰も見たことが無い、全く新しいスタンド像が、『レイト・パレード』の腕を掴んでいる。

???『・・・・・・・・』ギリギリギリッ!

丈二(こ、こいつは・・・このスタンドは・・・・・・!)

柏「なんだコイツはーーーーァッ!何処から出たァーーーーーーッ!?」

ベキィッ!!

L・パレード『ウグゥッ!!』ブシュウウウウ!

???『・・・・・・・・』

丈二「『アークティック』・・・だ 『アークティック・モンキーズ』
   俺の・・・スタンドだ」

柏(バ、バカな・・・ありえない・・・まさか・・・!)

???『・・・・・・・』

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

柏(『進化』したというのか・・・・ッ!)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
 
 
 




ビュオオオオオオオッ!

『レイト・パレード』の腕を掴み、へし折ったスタンド・・・
顔面右半分にナイフが突き刺さり、片手に『Humbug』のロゴが入った小袋を持つ人型のスタンド。
これは『アークティック・モンキーズ』だと、丈二は言った。
ヴィジョンこそ違えど、敵から庇うように本体の前にて佇むその姿は、紛れも無く『アークティック・モンキーズ』
そのものであった。

???『・・・・・・』

柏(ぐゥ・・・・ッ!)ボタボタッ

丈二「・・・・・・」

ビュオオオオオオオッ!

???『・・・・・・』ゴソゴソッ

突如発生した『予想外』の出現にじっと押し黙る二人。少しばかりの沈黙を、吹き付ける強風の音が掻き乱す。
そんな空気もお構いなしに、スタンドは左手に持つ小袋(おそらくキャンディの袋)に右手をいれて中をゴソゴソと漁り出した。

丈二「・・・?」

???『・・・・・・』スッ

やがて袋の中から一粒一粒丁寧に包装された、カラフルな小粒のキャンディを数粒取り出すと、
それを手のひらの上に乗せ、柏に向けて構えた。

柏(な、なにか・・・)

???『・・・・・・』

柏(何か『ヤバイ』ッ!)

???『・・・・・・・』ビュッ!

スタンドが手のひらのキャンディをもう一方の手の指で弾き、弾丸のようにそれを発射した。
 
 
 




柏「うおおおッ!」
サッ

バリィィィン!

本能的に危険を察知し、キャンディが放たれるコンマ数秒前に体をずらして迫る弾丸を回避する。
キャンディは柏の後方に並ぶガラスボールの一つにあたり、中の電球ごとそれをぶち砕いた。
砕け散ったガラスの破片が、風に乗って街まで運ばれていく。

柏(い、いったい・・・なにを飛ばしたんだ・・・?ヤツは・・・・!)

丈二「・・・『ハムバグ』」

柏「なに?」

丈二「その袋のロゴ・・・『ハムバグ』だ。キャンディの名前・・・」

柏「キャ、キャンディ・・・?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

???『・・・・・・』

丈二「『アークティック・モンキーズ』の、『ハムバグ』」

柏(・・・・・・!)

丈二「『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』!
    決めたぜ、これが俺の!」

A・M:H『・・・・・・・・』

丈二「新しいスタンドの名だ・・・!」

A・M:H『ムヒーーーッ!』
 
 
 




額に汗が滲む。手のひらが湿る。
我が『レイト・パレード』は無敵だ。神から与えられし、究極の力だ。
こんなやつに負けるわけがない。ありえない。既に一回こいつには勝っているんだ。
なのに何故・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

A・M:H『・・・・・・・』

丈二「覚悟しろ・・・!」

柏(なのに何故!体の震えがとまらないッ!)

A・M:H『ムヒャアアアアアアアッ!』

ビリビリィッ!

柏「!!」

バラバラッ!

突如、『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』がキャンディの袋を勢いよく引き裂き、
中身を派手にぶちまけた。空高くキャンディは舞い、その後雨粒のように降り注ぐ。
しかし飛び散ったキャンディたちは床に落ちずに、静止画の如く空中に固定された。
スタンドを中心に半径20mに渡って周囲を漂う飴粒たちは、薄暗い夜の空をバックにキラキラとそれぞれの彩色を主張する。

キラキラキラ

A・M:H『・・・・・・・・』

柏(なんだか知らんが、あのキャンディがヤバイ!触れるのは危険だ!)

柏「『レイト・パレード』ォォッ!」ドバァーーーン!
L・パレード『クラァァァッ!!!』ドシュッ!

ドゴォォン!

敵スタンドから距離をとり、『レイト・パレード』が壁を拳で打ち砕いて刺々しい大きな瓦礫を手にする。
未知なる物質の壁に脅威と恐怖を感じ取った、柏の感性は至って正常だ。
この行動は正しい。だが、満点の回答ではない。
敵の新たなる力が羽化したその瞬間に、踵を返して逃げるべきだったのだ。
 
 
 




柏「うおおおおおッ!」
L・パレード『クラァァァァァッ!!』ブンッ!

ブオオオオン!

自身の不安をかき消すように、雄叫びを上げながら手に持った瓦礫を勢いよく敵に向かって投げつける。
風切音を響かせ、グングンと直線に進む瓦礫。
『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』はそれに顔色一つ変えず、迫る瓦礫にキャンディの粒を発射した。
放たれた数粒のキャンディが瓦礫をバラバラにして貫通、柏の胴体を撃ち抜いた。

ビスッ、ビスッ、ビスッ!

柏「がはァァッ!」ドバドバドバ

腹に開いた三つの風穴を手で押さえながら、フラフラとした足取りで壁にもたれ掛かる。
下腹部の穴からは絶えず、大量の血液が垂れ流しとなっていた。

柏「ぐ・・・・お・・・・ッ!!!」

丈二「・・・・・・」

柏(お・・・おかしい・・・)ハァハァ

丈二「・・・・・・」スタスタスタ

柏(『レイト・パレード』で・・・銃創の発生を『遅らせた』んだ!そのハズなのに・・・
  何故だ?向こうの方が・・・私のスタンドより・・・速かったのか・・・!?)

丈二「俺の親父を覚えてるか?」

柏「・・・・・・」ハァハァ

丈二「福野 一樹は!虹村 那由多は!その他たくさんの罪のない人々の名前を!
   覚えているのかッ!」

柏「何が望みだ・・・?」

丈二「お前を倒して『組織』の人間を一人残らず刑務所へ入れること!
   それが俺の望みだ」

柏「・・・丈二、考えてみろ・・・」ハァハァ
 
 
 




柏「今の世の中・・・みんなの心はバラバラだ・・・誰かが纏めないといけない。
  『リーダー』が必要なんだ、新しい地球には。わかるだろう・・・?」

丈二「お前は『リーダー』にはなれない」

柏「いいやッ!私が『リーダー』だッ!
  京都議定書が!モントリオール議定書が!世界を変えてくれたか!?何も!変わっちゃいないッ!」

柏「『ウイルス』が地球を変える!綺麗な星へと戻す!変えられるのは!力あるものだけだッ!」

丈二「黙れ・・・!人殺しに世直しなんかできやしない!世界を哀しみのどん底に突き落とすだけだ!」

柏「『哀しみ』が人を強くする!人と人との絆を!より一層強固なものにするんだ!
  人々は手を取り合って、慈しみ合って成長する!」

柏「絶望に打ちひしがれる人々を率いて立つのはこの私だ!私だけなんだッ!」

丈二「お前は誰からも求められちゃいない・・・!」スタスタ・・・

柏「それ以上近づかないほうがいいぞ、丈二・・・!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

丈二「・・・・・・」

柏「動きを見てわかった、スピードとパワーなら私の『レイト・パレード』の方が上だ!
  貴様の『ハムバグ』よりな・・・!」

丈二「・・・・・・」
A・M:H『・・・・・・』

柏「射程内に入ったのなら!『レイト・パレード』の手刀が貴様のノドを切り裂く!
  私の方が速い、貴様は勝てないッ!
  その一歩が!貴様の生と死の境界線だ・・・!」

丈二「・・・・・・やっぱり」

丈二「やっぱりお前は、何も分かってない」

ザッ!

柏「踏み込んだッ!射程内だァァーーーーッ!!!」
 
 
 




A・M:H『・・・・・・・』

柏「切り裂けェェッ!!『レイト・パ・・・・・・

ボトンッ!

柏「!?」

胃から逆流した血液を口の端から流しながら、擦れた声で柏が叫ぶ。
しかしスタンドの名を言い切らぬうちに、柏は思わず声を出すのをやめてしまった。
目の前に、空から『犬』が降ってきたのだ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

犬『キャウーン・・・・・・』

柏「な、なんだコイツは・・・?どこから・・・?!」

ポメラニアンに似てるが、少し違う。初めて見る種の犬だった。
注意深く観察するうち、この犬が何なのか、何故突然降ってきたのか。
その二つの疑問に対しての回答が、同時に得られた。

犬『ハッ、ハッ』

柏(ス、スタンドだ・・・!この犬・・・・
  良く見ると、体が少し透けている・・・・・・!)

丈二「・・・・・・」

柏「こ、この犬はッ!貴様のスタンドか丈二ィィーーーッ!」

犬『くぅーん・・・・・・』ペロペロ

柏「こんな犬ッ!いったい何だと言うんだッ!」

丈二「・・・『ロン』だ」

柏「・・・!? なに?」
 
 
 




丈二「その犬の・・・いや、スタンドの名前だよ。『ロン』。
   『ロン』だ。覚えとけ」

ロン『ハッ、ハッ』ブルブル

柏「ロ、『ロン』・・・?」

丈二「そしてもう一つ。『ロン』は俺のスタンドじゃあない。いいか?
   それは『お前のスタンド』だ」

ビュウオオオオオオオオオオッ!!

気を抜いたら体ごと飛ばされてしまいそうなほど、強く冷たい風が二号塔の頂に吹き荒れる。
突然現われた飼い主のわからぬ『子犬』が、寒そうにぶるぶると体を震わしていた。
柏はおもわず言葉を飲み込んだ。青年の話が、自分の認識を越えた領域にまで及んでしまったからだ。
何とかノド元に詰まった言葉を反芻し、恐る恐るそれを口に出してみた。

柏「・・・な、何の話だ・・・・?」

丈二「『ロン』は俺が『作った』スタンドだ・・・見た目も、名前も、能力も・・・
   お前に『プレゼント』したんだよ。
   そしてお前は受け取った。『Humbug』に、『キャンディ』に触れてしまったからな」

ロン『ワンッ!!』

丈二「『キャンディ』に触れた人間に、俺の『オリジナル・スタンド』を贈与する。
   これが『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』の能力だ」

A・M:H『・・・・・・・・』

柏「い、意味がわからない・・・何を言ってるんだ・・・?
  私の『レイト・パレード』は・・・・?」

丈二「完全に消滅したよ。これからは『ロン』がお前の新しいスタンドだ。
   バトルはできない、特殊能力は一切なし。見た目はキュートだけどな。
   スタンドに強い弱いの概念は無いが、敢えて言わせて貰うなら・・・・・・」

丈二「超『クズスタンド』だ」

柏(・・・・・・)ポカーン

脳みそが情報を上手く処理してくれない。完全に思考が停止し、焦点の定まらぬ視線を泳がせる柏に、
青年はスタンドを構えて一歩ずつ距離を近づける。スタンドは拳にゆっくりと力を込め、柏を鋭く睨み付けた。

A・M:H『ムヒィ・・・・・・・・・』

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

空気が震える。青年の合図で、この爆弾のような拳はその溜まりに溜まった憤りを私に向かって放出するだろう。
自慢のスタンドを勝手にクズスタンドと交換され、無防備となった私に。
これは何かの間違いだ。ありえない。
ペテンだ、インチキだ。そんな能力はデタラメだ。私がこんな、こんなガキに―――――

丈二「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

こんなガキに―――――
 
 
 




A・M:H『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ』

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ

柏(・・・・・・・・)グシャグシャグシャグシャアァ

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ

まるで、全身の骨格を無理やり変形させられているような感覚だった。
繰り出される拳の連打。先端が鉄球の巨大な振り子を、体に何度も当てられ続けているかのようだ。
筋肉は潰れ、体中のあらゆる骨が粉々に砕かれていく。全身を巡る血管はブチブチと千切れ、裂けた表皮から体液がほとばしる。
内臓のほとんどが押し潰されて、呼吸器官系が破砕した。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ』

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ

耳と鼻がもげ、目玉が飛び出す。もちろん歯など一本も残ってはいない。折られた前歯が舌に突き刺さっている。
呼吸ができない。ノドも、肺も、全てがベチャベチャに潰れていた。
もはやこれが人間の体なのか、ただのたんぱく質の塊なのか、自分には区別が付けられない。
神経系は殆ど死んでいるハズなのに、体中に叩き込まれる強烈な痛みはいつまでも止まなかった。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ』

柏(・・・・・・・・・・・)グッチャグッチャグッチャグッチャアァッ

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ

この九十秒間、特に何も考えてはいなかった。思考する余裕など無かった。
『組織』のこと、計画のこと、地球のこと。心残りは山ほどあったが、脳を動かすことを『ハムバグ』は許してくれなかった。
ただ、これだけは確信している。私は正しい行いをした、誰が何と言おうと。
私は、間違ってなんかいなかった。

『オラァッ!!!!』

ドゴォォォォン!!!!

ラッシュが止んだ。フィニッシュの拳で肉塊は宙に舞い上げられ、ドーム状の屋根へと叩きつけられた。
ベチョリ、とテーブルにイチゴジャムをぶちまけたかのように、肉と骨の真っ赤なシェイクが東屋を伝って床に零れ落ちた。

丈二「ハァ・・・ハァッ・・・・!やった・・・!」ゴロンッ


丈二「やったぞ・・・!くそったれ・・・!」
 
 
 
 スタンド:レイト・パレード 
 本体:柏 龍太郎  死亡 







~駒沢給水所・構内 PM4:36~

太陽は沈み、辺りはすっかり夜の闇に覆われていた。
個人的な感情の吐き出しは終わったが、迫り来る脅威の除去が済んだわけではない。
丈二は急いで給水塔を駆け下りると、『ウイルス』の危機に晒されている配水池へと向かった。

タタタ・・・

丈二「!」

ザッ!

工作員達「撃てッ!」

カチャカチャカチャッ!

構内を駆ける丈二の行く手を、現われた十人ほどの工作員らが塞ぐ。
彼らは標的に向かってマシンガンを構え、間髪いれずに引き金を引いた。

ババババババババババババババババッ!

丈二「『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』!」
A・M:H『・・・・・・・・』

バラバラバラバラバラッ

『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』の出現と共に、その周囲で花びらのようにキャンディが舞う。
宙に浮かぶキャンディたちが放たれた弾丸を弾き飛ばして本体の身を護り、反撃に打って出た。
『ハムバグ』が工作員の一人を指差し、飴粒をそこへ撃ち込む。
ヒザを射抜かれた工作員の男が倒れこみ、数人の仲間が歩けなくなった彼の体を物陰へと引きずっていく。

ビシュッ!

バスッ
工作員1「ぐうううあああああ」

工作員2「マズイ、早く移せッ!」ズリズリズリ・・・
工作員3「クソォッ、撃て撃て撃てェーーーッ!」

丈二「くれてやったぜ・・・『自爆能力のスタンド』!
   二秒後だ・・・!」

撃たれた男のヒザに、タコのような姿をした『精神エネルギー体』が絡みつく。
男は突如出現した怪生物に気付いて絶叫するが、仲間たちにはタコのスタンドが見えていない。
タコはぷくーっと風船のように大きく膨れ上がると、ドン!と大きな音を立てて周囲の人間をバラバラに吹き飛ばした。

ドォォォォォン!

丈二「『オクトパシー・007』!そのタコちゃんの名前だ・・・
   邪魔するやつは誰であろうと全員吹っ飛ばすッ!」
 
 
 




・・・バンッ!バンッ!バララララ・・・

丈二「!!」

バンッ!バンッ!・・・

丈二(銃声・・・!)

配水池の方向から銃声が響き、思わず足を止める丈二。
まさか・・・警官達が撃たれたのか?
胸に広がる絶望感を必死に払い除け、ツバを飲み込み覚悟を決めて配水池へ進入した。

タタタ・・・

丈二「!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

死体「・・・・・・」

警官達「・・・クリア!」

榎木「丈二!?」

丈二「これは・・・?」

配水池内で起きていた事態は、丈二の想像を良い意味で裏切った。
辺りに転がる工作員らの屍。数十名に増えた警官たち。
駒沢給水所配水池は、警官隊の増援によって既に制圧済みであった。
丈二の姿を一瞥し、『ウイルス』の容器を手に持った榎木が、こちらに向かって歩み寄る。

丈二「なんでここに・・・いったいなにが・・・?」

榎木「僕の『コネ』を使ってね、ありったけの人員をここに投入したんだ。
   スタンド使いが居なかったのが幸いだった。『ウイルス』・・・確保したよ」

丈二「・・・!」

榎木「君が無事で何よりだが・・・今までどこにいたんだ?」

丈二「・・・」チラリ

ずいぶんあっさりと潰えたテロ攻撃にちょっぴり拍子抜けして、丈二は現場となった周囲を見回す。
視線の先には、十数時間前に出会ったばかりの女性の姿があった。頭がひしゃげ、中身が飛び散った彼女に、
カメラを構えた警官がパシャパシャとフラッシュをたいている。
やるせなかった。殺されてしまったことがじゃない、涙を流してやれない自分がだ。
もっと親しくなっていたら、友達になってたら・・・

榎木「丈二?」

丈二「・・・柏を、やったよ」

榎木「・・・・・・そうか」

丈二「ああ・・・・・・」

ピーポー、ピーポー

丈二「・・・・・・」

その後のことはよく覚えていない。
あの夜の記憶は、世田谷の街に鳴り響く緊急通行車両のサイレンを聴いたところで、ブツリと途切れていた。
 
 
 




結論から言うと、この事件のあと俺達を苦しめ続けてきた民主主義の脅威は、
その悪行の全てを白昼の元に晒して瓦解した。
警視庁が都内某都市銀行本社ビルの立ち入り調査を開始し、工作員らは一斉に検挙、
都市銀行の役員連中もお縄となり、彼らは法廷で洗いざらい関係者たちの名前を吐き出した。

腐敗は内閣府にまで及んでいた。
『組織』と密接な繋がりを持っていた事務次官、他数名の官僚らが東京地検によって摘発され、
大手金融企業と政府内の腐敗が世間に露呈し、それからしばらくの間この国は
真夜中のように暗い暗黒の日々を送ることとなった。

強い閉塞感に包まれた社会を見て思う。
正義と自由は手にしたが、あまりに多くのものを失った。
この息苦しい箱庭の中の『正義』と『自由』が、本当に自分は欲しかったのだろうか?

俺は誰のために、何のために戦ったのだろう。
 
 
 




三ヶ月後

~都内○○総合病院・ロビー PM1:30~

未来「お世話になりました」ペコリ

医者「はい、お大事にね」

未来「はい」

和田堀給水所がスタンド能力によって爆破されたあの日、未来は確かにそこにいた。
だが生きている。
他の給水所の爆発ではメンバーが全員爆死した中、未来は奇跡的に、全身に酷い火傷を負った程度で済んでいた。
『ウエスタン・ヒーロー』で体を変質させ、穴を掘って避難したのだと笑いながら彼は言う。
そして、今日が未来の退院の日。

ガーッ

丈二「よ」

未来「丈二!」

丈二「うわ、ひでえな。顔に包帯グルグルじゃねえか。ミイラみてえだ」

未来「いきなりストレートですね・・・確かに不気味ですけど」

丈二「行こうぜ、とっととそんな火傷は治しちまおう」

未来「でもホントにそんな人がいるんですか?
   『どんな傷でも完璧に治せる』スタンド使いが」

丈二「ああ」

未来「よく見つけましたねそんな人。天野さんの知り合いですか?」

丈二「俺が作った」

未来「は?」

丈二「俺が『与えた』スタンドなんだよ。退院おめでとう未来」
 
 
 




~丈二のアパート PM2:02~

ジュワァァァァ・・・

女「ハイ、これで完璧に治ったハズよ」

未来「・・・・・・」

丈二「包帯外してみろよ」

未来「はい・・・」

するするする・・・

治療は三分で終わった。スタンド使いの女性が未来の手を握り、力を込める。それで終了。
丈二に言われ、未来が鏡の前で恐る恐る自分の顔を覆う包帯をほどいていく。

未来「・・・!」ツルピカーン

丈二「な?上手くいったろ?」

未来「・・・はい!はい・・・!」じわっ

鏡に映る自分の皮膚は、焼け爛れてぶよぶよになったそれではもうなくて、
事故以前の、スベスベとした美しい張りとツヤを取り戻していた。
火傷のあともニキビのあとも見付からない。治すどころか、赤ちゃんの皮膚に取り替えてくれたかのようだった。
じわりと目に涙が浮かんで、零れ出す。みっともないとは思いつつも、ボロボロと溢れる涙を止めることはできなかった。

丈二「ありがとな」

女「こんくらい別にいいって。じゃ、あたし仕事あるから」

丈二「気をつけて帰れよ」

女「ありがと、またねジョジョ」
 
 
 




暖かい春の風が吹き込むアパートの一室で、丈二と未来はイスに座り、スクラブルをしながら紅茶を飲んだ。
ゆったりとした時間が流れ、部屋を優しく包み込む。
時が経つのも忘れて、二人は親友のように兄弟のように他愛もない話で笑いあった。

未来「・・・丈二は、これからどうするんです?」

丈二「さあ・・・どうしようかな。大学に戻るのもめんどくせーし」

未来「僕は公務員試験を受けて警察官になります」

丈二「マジ?」ズズーッ

未来「マジ。実は子供の頃から憧れてたんですよ。
   新たなスタートを切るなら、走るのは夢のコースでないとね」

丈二「まあな。でも大丈夫なのか?公務員って『コネ』が全て!って感じだけど」

未来「その辺は榎木さんに任せてありますから」

丈二「oh・・・よかったじゃねえか」

未来「ええ。ようやく自分の人生を歩み出せそうです」

丈二「そっか・・・
   ・・・・・・・・・よし、決めた」

未来「?」

丈二「俺はとにかくやりたいことをやる!」

未来「何を?」

丈二「何でも。まずは海外旅行だね。世界中を飛び回る。いろんな国で美味いモン食べ歩いたり
   道路の脇で野宿したり。社会復帰はその後だ」

未来「いいですね、楽しそうだ」

丈二「だろ?
   ・・・・・・あ」

未来「なに?」

丈二「その前にやんなきゃいけないこと一個見つけた・・・」
 
 
 




一週間後

アメリカ・フロリダ州マイアミ
~ニューポート ビーチサイド ホテル 某時刻~

太陽煌く東海岸の巨大観光都市、アメリカ・フロリダ州マイアミ。
サウスビーチからやや離れた場所に建つ高級宿泊施設、ニューポート ビーチサイド ホテル。

丈二「・・・・・・」ペラッ

ホテルのロビーのソファーに腰掛け、英字新聞を広げる若い日本人観光客。
丈二だ。時折コーヒーを啜りつつ、新聞越しにチラチラとエレベーターの方を覗いている。
誰かを待っているらしく、その様子はどこか落ち着きが無い。

やがて、一人の日本人男性がエレベーターから現われた。
男は丈二に気付かず、一人フロントカウンターへ向かう。

平田「荷物が届いてるって?」

フロント「ヒラタさま、こちらになります」スッ

平田「? 封筒か」

ビリビリ

丈二「・・・・・・」チラリ

フロントから封筒を受け取った平田が、その場でビリビリと封を開ける。
『赤透明の下敷き』が一枚、中に入っていた。学生がテスト勉強によく使うアレである。
封筒の中身はそれ一枚のみで、他には何も入っていなかった。

平田「これ誰から?」

フロント「アークティック・モンキーズ様からでございます」

平田「『アークティック・モンキーズ』?はて・・・
   アークティック、アークティック・・・・・・」

平田「アークティック・モンキーズって誰だっけ?」

丈二(すぐに思い出すよ・・・)
 
 
 




戦いの理由は見付からない。
この世界の『正義』と『自由』が、自分にとってどれほどの価値になるのかもわからない。
でもこれだけは言える。自分はあの時、どうしても戦わねばならなかったのだ。

生きることは醜い。この世界も。
けれどこの世界で、自分は息を吸って吐き出す。
自由意志や選択なんてない。望もうと望むまいと、俺はこの世界で生き続けなければならない。

ならば諦めて、大人しくそれを受け入れよう。
そして戦おう。あらゆるものと。
理由なんてなくていい、相手が何でもかまわない。
生きている限り、自分は戦い続けよう。

エサを与えられ、満足して眠るだけの猿に俺はならない。
人間であり続けるために、『生きる』ために。俺は戦う。



平田「ん~?」ジロジロ

受け取った下敷きを注意深く観察する平田。
光に透かしてみたり、折り曲げてみたり、鼻に近づけて匂いを嗅いだりしている。
そんな平田の後方で、丈二が新聞を畳んでソファーから立ち上がり、フロントに向け歩き出した。
そして歩みながらに彼が自分のスタンドの名を叫ぶと、

「『アークティック・モンキーズ』!」

『赤』の下敷きから一本、小さな猿の腕が飛び出した。




【アークティック】オリジナルスタンドSSスレ【モンキーズ】 おわり


使用させていただいたスタンド


No.113
【スタンド名】 アークティック・モンキーズ
【本体】 城嶋 丈二
【能力】 赤い色のものに出入りできる

No.678
【スタンド名】 アークティック・モンキーズ:ハムバグ
【本体】 城嶋 丈二
【能力】 「キャンディ」に触れた者に「スタンド」を贈与する

No.177
【スタンド名】 ウエスタン・ヒーロー
【本体】 倉井 未来
【能力】 殴った物質をヒーローベルトに変え、巻いた者はその物質が持っていた性質を取得する

No.727
【スタンド名】 モノブライト
【本体】 神田 愛莉
【能力】 触れた生物の「罪」を形にして引きずり出す

No.149
【スタンド名】 レイト・パレード
【本体】 柏 龍太郎
【能力】 本体やこのスタンドが触れたものに対してのあらゆる事象の発生を数分「遅らせる」




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