私の名前は【鑓田 一巳(ヤリタ カズミ)】
訳あって、先月このアパートに越してきた。
恥ずかしながら金銭的な事情と言うか・・・去年のちょうど今頃、精神疾患を患い、休職の後、職場を辞めた。
1年間、仕事も出来ずプラプラしていたので、流石に40歳独身貴族の貯金も心細くなり、家賃の安いアパートへ移ったのだ。
将来の先行きは分からず不安。
田舎の父と母も高齢である。
無職のままでは、両親を養うなど到底無理であるし、何より自分の生活が出来なくなる。
だが、私の病は良くなるどころかますます悪くなる一方だ。
??「・・・・・
今、私のそばには何者かが立っている。
他の人には見えない。
私の心が生んだ幻覚なのだ。
コイツは、何をするでもなく一日中私の側に立っている。
ただそれだけ。
コイツが見えるようになってから、街でもたまに似たようなのを見かけるようになった。
当然見えていないだろうし、見ず知らずの人にいきなり
「あなたの側に何かいますよ」
などとは性格上出来ない。
きっと私の頭がおかしいだけだ。
ただそれだけの話なのだ。
―パタタタタタ・・・
あぁ、そうだ。
このアパートには小人が住んでいる。
今の足音も他の人には聞こえまい。
そいつは私の側に立つ奴とは違い、部屋の中を駆け回っているのだが・・・
これ以上言っても、ますます私の頭がおかしいと思われるだけなので、話を本題に戻そう。
実はこのアパート・・・・
秘密があるのだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
まぁ、秘密と言っても大した事ではない。
この、古い木造アパートは押入の天袋・・そこの上板が外れるようになっており、隣の部屋へ行くことが出来る。
それだけなのだが・・・
なんと
隣には若い女が住んでいるのだ。
しかも一人で。
良からぬ事を考えてしまいそうだが、そこをグッと堪えて
隠しカメラで覗くだけに留める。
犯罪行為だとは分かっているが、少しのスリルと背徳感も人生には必要であると割り切って、楽しむ事にしている。
ちなみに・・・私と私の両親の名誉の為に言っておくが、カメラを仕掛けた場所は、台所と居間の二カ所。
間違っても、寝室や風呂、トイレには仕掛けていない。
ただ彼女が食事をしたり、くつろいでいるのを見ているだけだ。
おや、そう言っているうちに彼女が帰って来た・・・
――ニヶ月後。
私の名前は鎗田一巳・・・
隣の部屋はもう覗いていない。
覗かないのは理由がある訳ではなく、
ただ単に【飽きた】のだ。
初めこそ、他人の・・・それも若い女性の生活を覗く物珍しさから、喜々として覗いていたが
見慣れてしまうと、面白くも何ともない。
しかし、変化らしい変化もなく、延々と流れる画面の映像を長時間見ていて
まるで自分がそこにいるかの様な錯覚を覚える様になっていたのも事実だ。
私が隣にいても自然じゃあないか?
自分もそこに行ってみたい。
ある日、そんな衝動を押さえきれなくなり、
彼女の部屋へ行ったのだ。
彼女が昼飯を作りに台所へ立つのをモニターで見届ける。
鎗田「カップ焼きそば、か・・・
ふふッ、意外に女の生活も私と変わらんのだな。
そうして私は天袋へと登り、彼女の部屋の天袋の襖を少しだけ開けて中の様子を伺った。
台所から戻った彼女は、湯を捨てるのを待つ間、鏡の前でポーズをとり始めた・・・・
鎗田「(マズい!鏡に私が写っていないか!?
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
しかし、心配は杞憂に終わり私は胸をなで下ろした。
鎗田「(ホッ。写って・・・ないか
―パタパタパタパタ・・・
鎗田「(小人の足音・・ッ!
だが、小人は俺以外には見えない。
??「・・・・・
鎗田「(コイツも、俺にしか見えない。
襖から半分だけ出している私の顔の上に
もう一つ、不気味な顔が乗る。
気にするな。私の妄想なのだから。
そう自分に言い聞かせたその時・・・
―グラグラ・・ッ!!
鎗田「(地震・・!?
突然大きな揺れが私を襲った。
―ガタンッ!!
鏡が倒れる。
しばらくして・・・揺れは収まり、彼女は鏡を立てようと手をかける。
しまった。
そう思った時は、既に遅かった。
「ぎゃああぁああぁあッ!!
泣き鬼の様な声をあげて走り出し、台所へ逃走を図る女。
――・・・・ベコンッ!!
「ひ!
お湯がこぼれたのか・・・シンクが音を立てると女が一言だけ発して
そして、静けさが私を包んだ。
部屋に戻って、モニターを見ると
台所には、女がうつぶせに倒れていた。
それから毎日モニターを見ていたが、女は一向に動かない。
何日も何日も
何日も何日も
同じ体勢で倒れたままなのだ。
最近は膨らんできた。
床も濡れている。
それでも女は動かない。
完全に興味を無くした私は、モニターを見ることもなくなり、今に至る訳だ。
どこかで何かを腐らせたのか。
部屋中ひどい臭いがする。
―パタパタタタタ・・・
あぁ、また足音が聞こえる。・・ん?今一瞬姿が見えたか・・・?
と、言ってもどうせ誰も信じないか。
そういえば・・・コイツらが見えるようになる前、出張で行った街で言われたのは何だったのだろうか?
―――近くに目覚めた者がいると、それに引き寄せられるように目覚める者もいる。
何のことだか分からないな・・・。
ま、昔のことだ・・・どうでもいいか。
彼女が出かけたら、すぐにでもカメラは引き上げよう。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
終わり
使用させていただいたスタンド
No.765 | |
【スタンド名】 | デッド・クラウン |
【本体】 | 鑓田 一巳(ヤリタ カズミ) |
【能力】 | 範囲内の肉体を腐敗させる |
No.1874 | |
【スタンド名】 | アサニー・ワサン |
【本体】 | なし |
【能力】 | 対象がカップ焼そば等のお湯をシンクに流した時、「ベコッ」という音を鳴らす |
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