「今週は新たな出会いに気をつけて生活しよう、かぁ。」今朝の占いを思い返しながら少女はとある場所に向かって自転車をこいでいた。
(あ……。)ふと、その足が止まった。
彼女の視線の先にあるのは休日なのに人気のない“公園”だった。
比較的広く、設備もしっかりとした公園であるというのに人がいないのには少々違和感がある。
しかし、彼女はその理由を知っている。なぜならこの公園で起きた怪事件を身をもって体験したからだ。
普通ならそんな場所の近くを通りたくはないだろう。しかし、彼女はここを避けるようなことはしなかった。何故なら、
(誰…だったんだろう…。)自分を“救った”誰かについて考える。
周りの人間からすればとても助けたようには見えないそうだが、そんなことはない。
出来れば会ってお礼をしたいが顔も分からぬ相手とあってはそれもかなわない。
ぼんやりと公園を眺めながらそんなことを考えていると、
「あの、どうしました?」
「え?」声の方へ向くとショートヘアーで暗い感じのする女性がこちらを見ていた。
「え、あ…いや、なんでもないです。」突然のことに驚き、混乱しながらも彼女はそう返答した。
「驚かせてしまったみたいね。あなたがずっと向こうを見てるから気になって。」女性はすまなそうに言った。
「い、いえいえ。」そう返す彼女の目に女性の持ち物が映った。
この近くにある書店の紙袋から透けて見える“中身”に気づいて言う。
「それ、今日発売したやつですよね。」
「ええ、そうだけど。」
「やっぱり!私も今から買いに行こうとしてたんですよ。」女性の返答にいささか興奮しながら彼女は言った。
紙袋の中身は一冊の小説だった。内容は一人の刑事が仲間と共に怪事件の謎を追っていくというものだ。
「あなたもこれのファンなの?」「はい!」女性の問いに元気よく答えると彼女は笑みを浮かべた。
「ふふ、私もよ。早く帰って読みたくてたまらないの。」
「あ、じゃあ変にひき止めちゃってすみません。」
「いえそんな、私の方から声をかけたのに。」
互いに謝りながら二人は別れた。
そのとき、女性の後ろに“何か”が現れた。胸の奥に闇をたたえるそれは双方に気づかれることなく消え失せた。
書店に着いた少女は駐輪場に自転車を停めようとしてうめいた。
「うわぁ、いっぱいだ。」
どうにか入れられないかとガチャガチャしていると、横の自転車が大きく傾いだ。
(や、ヤバい!)このままだと将棋倒しのように大量の自転車が倒れることになる。
そうなれば、元に戻す作業をしながら戻ってきた持ち主に平謝りしなければならない。
だが、もうどうしようもない。既に運命は決まっている。
はずだった。
(……あれ?)傾いた自転車がピタッと止まり元に戻った。あれほど斜めになれば戻ることはないはず。
「大丈夫ですか?」首をひねる彼女に男性の声がかかり振り向く。
無愛想な男に見えるが声には彼女を心配する響きがあった。
「今の、あなたが?えっと、どうやって?」
「…手品です。」
冗談なのか本気なのかわからなかったがともかくお礼をいうと彼は自転車を取り去っていった。
(うーん、新たな出会いかぁ。)紙袋に入れられた小説を受け取り書店を出た彼女は今日の出会いを思い返した。
「まぁ、一応気をつけておこうか。」そう言って彼女は自転車に乗って走り出した。
彼女は知らない。今日の出会いが彼女の運命のレールを動かしたことを。
スタンド使いならぬ身でひかれあう運命に呑まれたことを。
(あー、明日の学校寝不足で行く羽目になりそうだなぁ。)籠に入った小説を見て笑う。
少女は再び違う“世界”を見ることとなる。
END
使用させていただいたスタンド
No.326 | |
【スタンド名】 | Twinkle Million Rendezvous |
【本体】 | ショートヘアーの暗い女子大生 |
【能力】 | 全て人と人との出会いを操作する |
No.1536 | |
【スタンド名】 | クール・ストラッティン |
【本体】 | あまり感情を表に出さない青年 |
【能力】 | 手で触れた場所に、鉤を埋め込み、そこからワイヤーを張る |
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