「へー、そんなことがあったんだぁ。」私の話を聞いた和子が目を輝かせていた。
(やっぱり、不思議な子だなぁ。まぁ、そこがいいのかな。)その反応に私は思った。
「千歳って“そういうの”にひかれやすいのかな。」和子の言葉に私は嫌な顔をする。
「もう、やめてよ。」
「アハハ、ごめんごめん。」和子が笑いながら謝罪する。
そう、“あんなの”は一度だけで十分過ぎる。そう思い、知らず自分のお腹を撫でていた。
そうしていると様々な記憶が浮かび上がる
。事件の詳細をしつこく聞いてくる者。
根も葉もないこと言いふらす者。
それを真に受け自分を奇異の目で見る者。
実に色々な奴が自分の周りに集まった。
それをどうにかこうにかして取り戻した平穏である。また奪われるなどたまったものではない。
(“そういう意味”では、和子もその一人か…。)そう考え、しかしすぐに否定した。
確かに和子はそういう超常現象が大好きだが人の心にズカズカ入り込んできはしない。
相手の痛み、苦しみを知ることでそれを和らげてあげたいと思える子だ。
「?、どうしたの?」
「んー、何でも。」そう言った私の耳に予鈴の音が響いた。
「あ、じゃあ千歳。またね。」「うん、また。」私の返事を聞き、千歳は自分のクラスへ戻って行った。
時は過ぎ放課後となった。
「千歳ー、一緒に帰ろー。」
「いいよー。」和子の台詞を真似て返した千歳は廊下でまつ彼女のもとに向かった。
玄関口まで向かう途中、二人は誰かが大声を上げているのに気づいた。
「誰だろ?」
「千歳、あそこあそこ。」千歳は和子の指さす場所をみた。
そこには一人の背の低い男子生徒と一人の男性教諭が立っていた。
「あれ、坂口先生だよね。あっちの人は誰だろう?」
「え、和子知らないの?」和子が頷くと千歳は内緒話をするように教える。
「あの人は行方 彰吾って言って私達の一個上の人なの。」
「ふーん、千歳は何で知ってるの。」
「有名なの。悪い意味でね。」
行方は言ってしまえば不良である。とてもキレやすい性格でちょっとしたいさかいで何人も殴り飛ばしている。
この学校の問題児、いや要注意人物だ。
「だから、近づかないように気をつけて。」
「ふむふむ。あ、二人ともどっか行っちゃったね。」言われて見てみるとどこにも二人の姿が見えない。
「……私、坂口先生苦手だなぁ。」
「何で?いい先生だと思うけど。」“あの事件”のあと色々助けてもらった千歳は和子の言葉を疑問に思う。
「うーん、これと言った理由はないんだけどね。」
「ふーん。」まぁ合わない人間はいるものだと千歳は考えた。
そのあとは特に何もなく二人は帰路についた。
行方 彰吾が連れて行かれたのは校長室だった。
「はっ、遂に校長先生直々のお叱りかい?」彰吾はそう言って室内を見回すが校長の姿は何処にもなかった。
「いいや今日はね、私が君と二人っきりで話したくてね。校長には出てもらってるんだ。」
「おいおい、“教頭”が校長を追い出していいのかよ。で、話ってのは?」彰吾が坂口に問うた。
「わかっているだろう。君の暴力の件だ」坂口の言葉に彰吾は顔を歪める。
確かに自分はキレやすい。それに恵まれた体格でもないためケンカはいつも酷いことになる。
だが、彰吾だって始めはここまですることになるとは思わなかった。
最初にぶん殴った奴がとあるグループの一員だったためにいつのまにか自分はこんな立場に置かれる羽目になったのだ。
「…それがどうしたんだよ。」彰吾は坂口を睨んだが坂口は笑いながらこう返した。
「君に力を与えよう。」坂口の言葉に彰吾は唖然とし、直ぐに鼻で笑った。
「何だよ教頭先生、鉄パイプでもくれるのかい、それともナイ……!?」彰吾の嘲りは唐突に止まった。
見えない“何か”が彰吾の口をふさいだのだ。彰吾はそれを取り除こうともがくが、びくともしない。
「“私の”学校の生徒が外の人間に傷つけられるのは我慢がならないんだ。」坂口は彰吾を押さえつける己の“スタンド”を見た。
「この力でそんな奴等はまとめて蹴散らしてしまいなさい。」
彰吾は自分の意識が薄れてゆくのを感じた。彼が最後に“見た”のは輝く巨大な目玉だった。
とある怪事件のあった公園に人影が蠢いていた。その数は20人前後。その中の一人が何かに気づき叫んだ。
「来やがったなぁ、行方!」その声に他の人影も反応する。
彰吾は公園の中央まで進みソコで立ち止まる。その彼を人影達は囲んだ。
「こんなに集めてどううするつもりだい?土下座でもしにきたか、チビス、グギャア!?」囲んだ者の一人が吹き飛んだ。
「今日はな、お前ら全員ぶち殺すために集めたんだよ!」彰吾が叫び周りの人影に襲いかかる。
集められた者は目の前で“不可解な”現象が起こったことで反応が遅れた。
当然だった。何も知らぬ彼らには彰吾に近づいただけで人が粉々になっているようにしか見えないのだ。
そして、彰吾に近づき殺される者は死の間際、奇妙な疲労感と手足の重さを味わった。
「た、助けてくれぇー!!」彼らはその未知なる恐怖に耐えきれず逃げだした。
たが、彼らを狙う彰吾の動きは尋常ではなかった。獣のごとき速さをもって逃げる獲物達を狩り尽くしていった。
冬野 春継は夜の公園から悲鳴が聞こえるのに気づいた。興味がわき見に行って見ると、一人の“スタンド使い”が暴れていた。
(何やってるんだか。)彼は呆れた。
まるで親に新しい玩具を買ってもらってはしゃぐ子供だ。虐殺現場を見ながら冬野が思ったのはそれだけだった。
そのときスタンド使いに殺されている人間達の最後の一人の男がこっちに気づいた。
(ヤバい!!)彼が思ったときには既に遅く、自分に向かって助けを求められた。
「ア、アンタ!!た、助け…。」最後まで言うことなく男は彰吾に殺された。
彰吾は男が助けを求めた方へ向き冬野を見つける。そして殴りかかっていった。
(見られた以上は殺すしかねえよなぁ。)彰吾の“心”はそう決定した。
己のスタンドにそう命を下し、拳を振るわせる。振るった拳はこの男の顔面をぶち抜く。筈だった。
しかし、彰吾の予想と現実は異なった。
「何ぃ!?」彰吾は叫ぶ。
届かなかったのだ。拳は男の顔の手前で止まってしまった。腕は伸びきりこれ以上は進まない。
愕然とする彰吾は男の横に立っている“もの”に気づいた。
(や、ヤバい!!)その姿に己の危機を感じた彰吾は距離を開けた。
瞬く間に10m以上の間隔が開く。しかし彰吾は男が何もしないのを疑問に思った。
無論、冬野も別に好きで何もしなかった訳ではない。相手が殺しに来た以上手加減するつもりもない。
(…参ったな。“ジ・エンド”の能力が発動しないなんて。)彼は心の内で嫌な汗をかく。
彼のスタンド“ジ・エンド”は彼の行動を省略し、結果のみを得ることの出来る能力を持つ。
しかし、この能力にはいくつか欠点がある。まず十秒以内に得られる結果でなくてはならないことだ。
更に、省略される行動は彼の思考を読み取ったスタンドが判断し決定する。
この判断行動は大方、最短時間かつ本体の意向に沿ったものが選ばれる。
そして、例え行動が省略されたとしてもその最中に受けた傷などは結果として反映される。
つまり、下手に傷を負っても構わないなどとすると相手が死んで自分も死ぬという状況になりかねない。
(“ジ・エンド”の能力の強さは行動の省略によって相手の虚をつけることにある。)
そう考え冬野は自分の行動を警戒する少年を見る。先ほどの戦いから彼のスタンドの圧倒的な動きはわかっている。
が、それを破る手立てが見つからない。
(例え虚をついてもこっちが攻撃する前に相手の拳が僕に当たる。)彼は打開策を探し思考を深めていく。
いつまでも動かない男を見て彰吾はこう結論づける。
(そうかアイツ、俺のスタンドの動きについて来れないんだな。)彰吾はほくそ笑んだ。
彼のスタンド“シェイク・ユア・ブーティ”は殴った者から速度を奪う。
20人もの人間から奪った速度は彼を獣の如く、そして彼のスタンドの動きをそれ以上加速させた。
(ここで立ち止まってたらアイツに変な策を考えられかねねぇな。)そう思い男に再び挑んでいく。
向かってくる少年を見て冬野はひとまず思考を放棄し回避行動に移る。
瞬間移動したとしか思えないその動きに彰吾は驚いたが直ぐに追撃する。
(なるほど、さっきはアレで後ろに下がったんだな。)男に襲いかかりながら彰吾は思った。
(っ!何だ!)彰吾のスタンドが唐突に7体に増えたのを見て冬野は驚愕する。
それらは本体を守るように円陣をくんだ。
(くそっ!そういうことか!)それが死角をなくすためと気づき冬野は戦慄する。
「さぁて、“終わりにしようか”。」彰吾がそう言い突っ込んでくる。
(どうする!?どの方向へ逃げても奴等は僕を見逃がさない!!)そのとき冬野はあることに気づいた。
(これしかない!)冬野は自分に残された勝機を掴むため行動し跳んだ。
自分の前から男が消えた瞬間、彰吾は己の周りのスタンドに意識を集中させた。
それは男を瞬時に見つけ次の移動を行う前に攻撃を加えるためだった。
そしてその姿を捉えた彰吾は唐突にバランスを崩した。原因は男が回避するまえに掘った穴だった。
周りに意識を向けたために彰吾はこれに気づくのが遅れ、体を地面に強く打ち付けることとなった。
「ぐあっ!…くそっ!」体の痛みにうめいた彰吾だが己のスタンドの動きを止めることはなかった。
そしてスタンドの前に現れた人影に怒りの拳を叩きつけた。
それは一撃で顔面を砕いたが拳はなおも止まらず放たれ続ける。
「こんなもんで止まると思ったか?止まらねー…!?」彰吾の叫びが止まった。
原因はナイフ。これが彰吾の脳天に突き刺さったのだ。それは彰吾が殺した奴等の一人が持っていたものだった。
「思ってないさ。」息絶えた彰吾に頭上から声がかけられた。
「だけど、怒りで周りが見えてない。それじゃあ僕には勝てないよ。」地上に降りた冬野は言った。
冬野の気づいたこと。それは上下の死角、そして自分に助けを求めた男の死体であった。
他の死体がぐちゃぐちゃにされた中、これだけが原形を保っていたのだ。
おそらく自分に気を取られたからだろう。結果オトリとして使うことが出来た。
(それにしてもコイツどこでこの能力を得たんだ?)冬野は疑問に思う。
元からならあんな行為は働かない。働くにしてももう少しやり方を考える筈だ。
彼は正義の味方ではない。しかし自分に火の粉が降りかかるかもしれないなら火の元は絶つ男だ。
(やれやれ、調べてみるかな。)そう決め、彼は去っていった。
この学校は、いやこの町は朝からとある話題で満たされていた。すなわち再びあの公園で起きた怪事件である。
20人以上の人間が死体となって発見されたのだ。その中に一人、うちの生徒がいた。名を行方 彰吾。
「あの公園どうするんだろうね。」和子の問いかけの答えを私は持っていなかった。
「くそっ!誰だ!?“私の”生徒を殺したのは誰だ!?」坂口は激昂していた。
そこには校長もいた。なぜならここは校長室だからだ。だが校長はまるで坂口がいないかのように行動していた。
坂口もそんな校長を疑問に思ったりはしない。当たり前だ。校長は坂口の“人形”なのだから。
「許さない。絶対に許さん!必ず見つけ出して殺してやる!!」そして坂口は校長室から出る。
相手は彰吾を殺した。つまりスタンド使いに違いない。ならば“力”を集めなければならない。
(確実に!絶対に!殺すために!!)廊下を歩きながら坂口は心に決めた。
運命は事件を伴い少女へと近づいて来る。
END
使用させていただいたスタンド
No.1212 | |
【スタンド名】 | プロブレム・チャイルド |
【本体】 | 教頭 |
【能力】 | 一般人をスタンド使いにし、操る |
No.952 | |
【スタンド名】 | シェイク・ユア・ブーティ |
【本体】 | 行方 彰吾 |
【能力】 | 殴ったものの速度を奪う |
No.638 | |
【スタンド名】 | ジ・エンド |
【本体】 | 冬野 春継 |
【能力】 | 本体が行おうとした行動を「終わらせる」 |
当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用、AI学習の使用を禁止します。