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檻の中の猫

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檻の中の猫 ◆LlyH3hWzUo




 唐突に現れた舞台。
 怪物となった人間。
 青い炎。
 そして殺し合い。


 名簿を開くと、そこには見知った連中の名前があった。
 あの場にいた連中は何を思っていただろうか、考えがふと頭をよぎる。
 このいけ好かない枢機卿は、いつもの不敵な笑みを浮かべながら今も何か企んでいるのだろうか。
 アリスは、あの持ち前の正義感であの青髪の所業に憤ってるのだろうか。


 ボクは―――

 ボクはただ、このどこかで見たような光景にうんざりしていた。

 突然得体の知れない場所へ連れてこられ、命を牛耳られる改造を施され、命のやり取りをする場所に放り出される。

 こんなもの、イレギュラーズに入れられた時とまるで同じた。
 あの青い炎も、怪物も、“ザ・リフレイン”を手に入れたときの衝撃には到底及ばない。
 世界の主観と客観、あるいは空想と現実。
 その境界線の曖昧さと確固さを同時に、無理やりに受け入れさせられたあの時には。





 特殊名誉外国人部隊(イレギュラーズ)は、ブリタニアの属州から集められた非ブリタニア人、通称ナンバーズの中から、魔女の適正があるものが選ばれる。
 選ばれるのは難民、それも孤児であり人権はないに等しい。
 ブリタニアに誘惑されるか、それとも無理やりに連行され手術を受けてしまえば、ギアスの力――エデンバイタルに接続し、現実を改変する力――を得るのと引き換えに、移植された魔女細胞に取り殺されないようその抑制剤をブリタニアからもらわない限り生きていけない体となる。


 自分の命を人質にされ、ブリタニアの奴隷になり下がる。


 ボクもかつてはイレギュラーズの一員だった。
 中華連邦の難民から選別され、魔女細胞を植え付けられた。
 イレギュラーズを脱走した今も、この肉体は変わらない。

 デイバッグを開け、ごそごそと中を漁る。
 見慣れた道具からよくわからない代物までつまったバッグの奥底には、水や食料と一緒に並べて抑制剤が置いてあった。
 その数は、たったの一本。
 それはそうだろうと思いつつも、知らず知らずのうちに舌打つ音が口から洩れる。
 あの場にいた人間が全員ギアスユーザーというわけでもないだろうし、思いのままに使わせてしまうには殺し合いの舞台でギアスの力は強すぎる。
 抑制剤の数を絞れば、魔女細胞に殺されるリスクを恐れてギアスユーザーはその力を存分に使えない。
 この状況はそのまま、ギアスユーザー同士の殺し合いも誘発するだろう。
 能力の制限と殺し合いの誘発の一石二鳥、殺し合わせたいのなら当たり前の定石だ。
 実際にボクのこれからの行動指針にも抑制剤の収集は含まれるだろうから。


 このゲームはおそらく、ギアスと――無関係ではないとしても――大きな関わりを持つものでない。
 理由というよりは感の類だが、既視感がそう訴えかける。

 怪物と青い炎の織り成すこの世のものとも思えない半ば幻想染みた光景を見せつけられた時、ボクは言い知れない違和感に襲われた。
 これはギアスではない、という感覚。
 もしこれが他のギアスユーザーなら、これがギアスの一種だと拘るかもしれなかった。
 しかしボクのギアスである“ザ・リフレイン”は、他者のシナプス・サーキットを認識・改変する能力――人の思考を乗っ取るギアスだ。

 ナンバーズを見下すブリタニア貴族。
 ギアスユーザーを無機質に観察する研究員たち。
 戦場で親しい者や生活を失い嘆き怒り悲しむナンバーズ。

 彼らの脳を犯すたびに、ボクは徒人からギアスユーザーになったときの同じように、まるで違う常識が支配する世界を認識し、また自分の常識が崩壊する音を聞いた。
 要するに――ボクは自分の世界に頓着しない。

 あの怪物と青髪が、“ギアス”や“エデンバイタル”といった言葉を全く使わず(それどころかオルなんちゃらとかお聞いたこともない単語が飛び交っていた)あの光景を見せたのもそういうものなのだと素直に受け入れられたし、名簿を見て見知った名前やあのブリタニアの魔女の名前を見つけたときでさえ、ああやっぱり、と思っただけだった。

 同時にボクのおかれた現状も冷静に把握できた。


 さて、ボクはどうすべきだろう?
 まず一つ目の目的は当然のものとして決まっている。
 そもそもボクは、エデンバイタル教団の情報をもとにイレブンに向かっていたところを気づいたらここに連れてこられたのだ。
 なら最大の目的はただ一つ――名簿にあるナナリー・ランペルージを見つけ出し、その魔道器を奪うことだ。
 魔道器を得れば、ボクは正真正銘の魔女になれる。
 魔女そのものになってしまえば、もはや魔女細胞に取り殺される心配もなくなり、ボクは苦痛から解放される。
 今も魔女細胞に浸食された腕が疼き、痛む。しかしこれも、あと少しの辛抱だ。

 二つ目は抑制剤の集積になる。
 もちろん、この目的は一つ目の目的が達成された時点で必要なくなる。
 支給品としての所持する普通の人間ならともかく、他のギアスユーザーとの奪い合いになったときのリスクは大きい。
 できることなら一つ目の目標を速やかに達成するのが望ましい。
 最大目標さえ達成すれば、あとはこの会場から脱出すればいいのだから。
 バカ正直に殺し合いに乗るつもりなど、ない。


 以上、思考終了。
 気が緩み、ボクは背後の樹木を背もたれにその場に座り込んだ。
 やがて左手をかざして目を多い、感覚のうち視覚を遮断する。
 夜の森に映る景色は闇に覆われた虚ろだったが、聴覚のみで感じる森の風景も風と木のざわめきだけで、虫や鳥といった生き物の気配はなく、不気味な静謐に包まれていた。
 まったく何の景色も映さなくなった視界にはかつての上司の顔や枢機卿の顔が浮かんでは消えた。

 そして最後に、あの青髪の――アカギの顔だけが残った。

 やがて手を目から鼻、口元へと下ろす。
 目の間のしわは寄り、歯は真一文字に食いしばられ、頬の肉がひきつっているのがわかる。

 ボクから命の手綱を奪い、人死を強いる、人間としての矜持や尊厳を弄ぶ連中。
 その行為に怒り、憎悪する感情。
 これはボクの行動を促す糧になる。


 ここに連れてこられ、ゲームの趣旨と置かれた状況――檻の中に再び閉じ込められたような自分の姿――を理解し、最初浮かんだのは悲嘆だった。
 それから、諦念が浮かんだ。
 イレブンの諺でいう、二度あることは三度ある。
 ボクはブリタニアから逃げても、魔女の呪いから抜けても、どうにもならないのではないか。
 だが――同時に、僕は悲嘆や諦めの無意味さを知っている。
 諦念や諦め以上にどす黒い感情の奔流を知っている。
 悲嘆や諦めは、自分の感情を滞らせるものにすぎない。
 感情は、幸福だろうと、達成感だろうと、悲嘆だろうと、諦めだろうと、それが自分の中で完結する限り、何ももたらさない。
 それで幸せになれるのは自分以外の人間だけであり――感情の繰り手、“ザ・リフレイン”の使い手である自分は、観測者として、魔女細胞に蝕まれるギアスユーザーとして、現実から逃げられない。


 だからボクは行動を起こすしかない。
 そして行動起こすのに有効な感情は、苦痛からの解放、自由への渇望と他者への憎悪だ。


 ボクは自分の気持ちを確認し、その場を離れた。
 やがて遠目に見えた建物から、ここが【C-3】地区、アッシュフォード学園近くの森なのだと把握する。
 まずはナナリーを見つけ、この苦痛から脱する。
 そしてあらゆる手段を使ってでも、ブリタニアや教団、あの青髪の檻を破って見せよう。
 『己が魂の存在を賭け』ボクは“自分の”目的を完遂する。


【C-3/森の中/一日目 深夜】
【マオ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:魔女細胞の浸食(小)
[装備]:左目の眼帯
[道具]:共通支給品一式、魔女細胞の抑制剤@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本:ナナリーの魔道器を奪って魔女となり、この『儀式』から脱出する
1:ナナリーを探し魔道器を奪う
2:抑制剤を持つものを探す
3:この『儀式』から脱出する術を探す
[備考]
※日本に到着する前からの参戦です


020:白い魔法少女と黒い男と銀の機神 投下順に読む 021:そういうのじゃないのよね
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初登場 マオ 057:「Not human」(前編)


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