アットウィキロゴ

氷の魔王―ジ・アイス―

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

氷の魔王―ジ・アイス― ◆Z9iNYeY9a2



「状況はいい具合に進んでいるようですね」

ロロと月との情報交換は予想外に短く終わった。
情報自体はロロ、月、そしてゲーチスの順で明かされていった。
パラレルワールド、どころか全ての参加者が別の可能性宇宙から連れてこられたという話はかなり興味深いものであった。
この仮説が正しければNのあの違和感も解消することができる。
話の中で一つ、アカギのことを話すかどうかが問題ではあった。結局自分は詳しくは知らないと言ったが。
代わりに彼について詳しく知っているだろうという者についてを教えておいた。無論シロナのことだ。

自分を最後にしておいて正解だったと考える。
なぜならロロは、政庁にいるであろう人物について話した途端、表情を鋭くして問い詰めてきたのだから。
巴マミ、C.C.なる緑髪の少女、仮面とマントに身を包んだ謎の男。
それらのことごとくが、彼の探している人物だということらしい。
話し終えると、ロロは月を伴い会話もそこそこに去っていった。
もしうまくいけば、政庁に集まったものを一網打尽にしてくれるかもしれない。殺し損ねたニャースであっても。
逆にロロ達が返り討ちにあうことがあっても問題ない。自分の手を汚すこともなく厄介者が消えてくれるだけの話なのだ。
美樹さやかは目をさましていない。それほどまでにこの情報交換が迅速に終わったのは僥倖だろう。
問題はこの後だ。


【E-3/警視庁/一日目 午前】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:意識なし
[装備]:ソウルジェム(濁り中)
[道具]:
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない。主催者を倒す
1:????
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)

【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:左腕に軽度の火傷(処置済)
[装備]:普段着、きんのたま@ポケットモンスター(ゲーム)、ベレッタM92F@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式×2、モンスターボール(サザンドラ(ダメージ小))@ポケットモンスター(ゲーム)、病院で集めた道具(薬系少な目)
    羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4@現実、不明支給品1
[思考・状況]
基本:組織の再建の為、優勝を狙う
1:どうするかを考えた後、迅速に行動する
2:表向きは「善良な人間」として行動する
3:理屈は知らないがNが手駒と確信。
4:切り札(サザンドラ)の存在は出来るだけ隠蔽する
5:美樹さやかは自分の駒として手元に置く
6:政庁からはなるべく離れる
7:今のところロロと組むつもりはない
※本編終了後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※「まどか☆マギカ」の世界の情報を、美樹さやかの知っている範囲でさらに詳しく聞きだしました。
(ただし、魔法少女の魂がソウルジェムにされていることなど、さやかが話したくないと思ったことは聞かされていません)
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※月、ロロにはサザンドラの存在と使う技を明かしました。しかし波乗り、大文字の存在と美樹さやかの詳細については話していません




(C.C.、それに仮面の男――恐らくゼロ。果たして本物なのかどうかは分からない。
 だが政庁に巴マミもいるというのならばそれだけでも向かう価値はあるな)

「…ロロ、先に言っておくが、僕は直接的な戦闘なんかはできないぞ」
「ああ、分かっているさ。ただ政庁に先行して少し場を混乱させてくれればそれでいい」

巴マミ――せっかくの仇を目の前で殺してくれた女。
C.C.――自分の知っているそれはウィッチ・ザ・ブリタニアの名を冠する魔女。
ゼロ――これまた自分の知っている奴は魔女の力を取り込んだエデンバイタルの魔王。
C.C.とゼロに関しては若干の不安要素もある。なにしろあの巴マミがゼロ本人に会ったと言っているのだ。それもルルーシュの前で。
もしかしたらその平行世界とやらの奴らなのかもしれない。だが会う価値はあるだろう。
それにあのルルーシュはおそらく平行世界のルルーシュと推測は付く。確信はゼロ本人に会うまで付けられないが。
だが、もし平行世界のルルーシュだとしても恐らく対応は変わらなかっただろう。そのルルーシュも、きっと母――マリアンヌに愛された事実は変わらないのだろうから。

時間を見る。最後にヴィンセントを呼び出してからかなりの時間が経っている。
ジ・アイスだけでいけるかと聞かれた場合、相手は魔法少女なる存在に魔王と魔女。最善の状態で向かったほうがいい。
この夜神月という男も利用すればいい。それこそボロ雑巾になるまで使い回して処分するもよし、捨て駒にするもよし。
ある程度聡いようではあるが問題ない。力関係はこちらの方が上なのだから。

「さて、では月、お前の駒、さっそくだが使わせてもらうぞ」


この政庁にはこれまでに多くの者が訪れた。
スマートブレイン倒壊に関わった者、アッシュフォード学園で多く者に遭遇した者。そのどちらにも関わらなかった者。
そんな中でこの場にはかなりの情報が集まっていた。

まず残った参加者についての情報。
スザク、C.C.はロロ・ランペルージ、マオについてを知っていた。ユーフェミアはナナリー、枢木スザク、ロロ・ヴィ・ブリタニアについて知っていた。
総一郎は月、L、ニア、メロについてを知って、あるいは聞いていた。ニャースはタケシ、サカキについて知っていた。
そこに加えてそれまでに会った者達、彼らから聞いた情報。それらをまとめるとある程度の形は見えてくる。
クロの言っていた士郎、大河、イリヤスフィール、美遊、バゼット、セイバー、バーサーカー。
総一郎やマミの遭遇したという乾巧、草加雅人、木場勇治や、彼らの知り合いらしい園田真理。

これらの情報をまとめると、ある程度の情報が見えてくる。
顔見知りの参加者でも平行世界から呼ばれている。また、同じ世界からでも違う時間から連れてこられている可能性もある。
<ルルーシュ、C.C.、ロロ・ランペルージ><ユーフェミア、ゼロ、ロロ・ヴィ・ブリタニア>は恐らく同じ世界であると考えられる。
また、月、メロ、ニアは同じ世界となり、総一郎とはまた別の世界。また、アッシュフォード学園で拡声器を使った女は総一郎の言から弥海砂との推測が立った。
巴マミから聞いた話から、彼女と美樹さやかはまた別の世界の存在である様子。鹿目まどか、佐倉杏子は彼女のことを知っている点から美樹さやかと同じ世界。
また、千歳ゆまという魔法少女もいて、彼女は美国織莉子という者について話していたらしい。これは巴マミ本人から聞くしかない。
それ以外については何ともいえない。
オルフェノクが存在する世界の者。乾巧、草加雅人、木場勇治、園田真理、村上峡児。そして彼らとは別にぼさぼさ髪の少年。加えてアッシュフォード学園で見たオルフェノク。
そしてクロの知り合い達のいる世界。
ニャースの世界に関してもシロナやオーキド博士、サカキといった者は有名人であり、またニャース自身知らない地方もあることから本人談だけでは判断できない。

「これが大まかなまとめになります」

ともあれほとんどの参加者についての情報が出揃ったことになる。
残った名前は間桐桜、海堂直也、長田結花、呉キリカ、アリス、北崎。
名前から察するにアッシュフォード学園で謎の強化服を纏った女が間桐桜、長田結花、呉キリカ、アリスのいずれか。
そして残りの二人はいずれにしてもオルフェノク、片方は要警戒人物となっている。

最後に忘れてはならないのが、主催者であるアカギ。
ニャースやシロナは知っている存在であることから、ポケモンの存在する世界の人間なのだろう。
ニャース曰く、神話のポケモンの力を使い、感情の無い世界を作ろうとした男。その力があればこれだけのこともできる可能性があるという。
では、何故このようなバトルロワイヤルを開催したのか。それが目的のために必要なことなのか、あるいは別の目的なのか。そして、この全てをアカギが一人で行ったことなのか。
情報量はかなりのものだが、この場にいる者達では持て余し気味のものだ。

「さっき出て行った二人にも話したほうが良かったんじゃないのか?」
「急いでいるようだったし仕方あるまい。それに彼らもそれなりに頭は回るだろう。
 分別もつけずに人に襲い掛かったりなどすることもないだろう」

彼らはおとなしく考察するような者でもないだろう、とスザクは推察する。
きっと出た先で各々に判断を下すだろう。そうでなければゼロがいるかもしれないこの付近から飛び出したりはしない。

ともあれ、これらが何をもって平行世界となっているのか。
ユフィのいた世界ではルルーシュがシンジュクゲットーで行方不明となり、どうしたことかナリタでナナリーがナイトメアフレームに搭乗していたという。
また、総一郎の聞いた世界、いた世界の話は驚くものであった。人の命を奪うノートが存在する世界。そしてそれを悪用した者こそが彼の息子だと。
Lという探偵はその月と戦ったのだという。総一郎のいた世界ではLが月に勝利、そしてもう一つの世界ではLが敗北し、彼の後継者が月と戦っていると聞いたらしい。
根本を同じ世界としながらも、何かのきっかけで分岐した世界。各々では自覚できないがこうやって比べてみると、どの世界にも何かしらの特徴がある。
ギアス、オルフェノク、魔法少女、魔術、ポケモン、デスノート。この選出には何か意味があるのだろうか。

「Lなら何か気付けるかもしれないが、俺には少し厳しいな」
「なるほど、ならばLという人物を探すことを優先するべきか。
 あとはこの魔女の口付けという呪いだが、これは確か魔法少女の世界のものであっているのだな?」
「それが、佐倉君からは特に何も聞けていないんだ。これはどうも彼女達にとっても謎の多いものらしくてな。
 魔女という存在についても、その戦うべき敵だということ以上は語ってくれなかった」
「なるほどな」
「頼りにならなくて、すまないな」
「いえ、大体のことは掴めました。この情報を、Lという方に伝えればいいのですね?」
「ああ。それとこちらは12時に流星塾という場所で待ち合わせしている者達がいるんだ、こっちにも向かわないといけないんだが」
「彼らについてはこちらでも把握している。だが間に合わせようと思うなら今すぐ出ないとまずいのではないか?」
「そうだな、少し落ち着いたら、出発させてもらおう」

ともあれ、一通りの纏まった情報の元で、ある程度の目的ができたところで情報交換は終わった。




「あなたは…何なの…?キュウべえの仲間…?」
「キュウベエとかいうのがにゃんにゃのかは知らんにゃが、ニャーはポケモンにゃ。
 さっきのミュウツーっていう奴も、同じにゃ」

C.C.は巴マミの近くで様子を伺っていた。
そこでふとあることに気付く。

「おい、そのキュゥべえとか言ったな。そいつは何なんだ?」

この質問自体はC.C.にとっては意味があまりない。その存在は美樹さやかから既に聞いているからだ。
だが一つ気になる。キュゥべえとはさやか自身も言っていた通りかなり悪質な契約を迫る生き物だと聞いた。
奇跡の代償に、その命を戦うことに特化させた形に変換する。実際さやかはかなりそのことを気にしていた。
それを、この女は知っているのだろうか。

「キュゥべえは…、私の友達よ。家族を亡くして独りだった私の傍に、ずっといてくれたの」
(やはりか)

どうやらその辺りの事情には気付いていない様子だ。
そもそも知っていればずっと傍にいる理由も想像がつくはずだ。いくらなんでもそこまで馬鹿ではないはず。
だがそれは私の説明することではなさそうだ。それに今のこいつに変な方向で追い討ちを掛けても仕方ない。
今はそれよりもっと重要な話があった。

「さて、そろそろ思い出してもらおうか。お前に一体何があったのかを」
「そ、それは…」

精神科医のようにゆっくり優しくするつもりはない。最悪ショックイメージで無理にでも思い出させることも視野に入れている。
それをはっきりさせておかなければこの娘と共にいるのは危険すぎる。

と、ここまで考えてやはりルルーシュが絡んでいるとなると冷静さを失った自分がいることに気付く。

「ルルーシュに、心臓を撃たれたのよ…。バークローバーってところで。
 それでも急所は外したみたいでどうにか生き延びて…、そう、そうよ…!
 金色のロボット、金色のロボットがいた…。4mくらいの」
「金色のロボットだと?」
「にゃーの製作したメカが支給されてたって言うにゃか?」

ニャースはニャースで何か考えているようだったが、C.C.には金色のロボットと言われて一人の人物を思い浮かべた。
ロロ・ランペルージ。ルルーシュの義弟であり、ギアス能力者。彼の乗っていた機体、ヴィンセントは金色だった。
あいつであればルルーシュの指示で他人を騙すことなど迷いなくやるだろう。だが、それならばヴィンセントはどこから持ってきたのだろうか。
いや、自分の知識だけで考えるのは危険だろう。この場では平行世界などという夢物語のようなものまで確認されているのだから。

「にゃ、思い出したにゃ。C.C.、ちょっと席を外すにゃ」

ニャースは何を思い出したか、部屋から出て行った。
ちょうどいい。これからやることは少し荒療治になるだろう。

「え…、何…?」
「少しお前の記憶、覗かせてもらうぞ」

C.C.は巴マミの頭の上に手を乗せた。



ニャースは政庁を歩き回っていた。ポッチャマを探してだ。だが、政庁内には姿はおろか気配も無かった。
もしかしたら外に行ってしまったのだろうか。もしそうならここを出たほうがいいのだろうか。
一人で行動するのは危険だが、個人的な感情でC.C.達を巻き込むのも気が引ける。
どうしたものだろうか。

そう考えて政庁内を回っていると、ふと何者かの気配を感じた。
気配というより、むしろ音。それも近くから聞こえてくる。だが姿は見えない。

「にゃにゃ、にゃんの音にゃ…?」

その音の中にはとても懐かしさを感じた。
そう、ロケット団としてムサシやコジロウと共に作戦行動に移していたときの記憶だ。
穴を掘り、罠を仕掛け、建物の柱を削り――

「にゃ?」

そういえばこの音は壁の中から聞こえてくる。
すぐ脇の壁に耳を押し当てる。

「キシャ」

と、目の前から何かが飛び出してきた。
両腕にはカッター状のクロー、頭部には巨大な刃。全身は赤いスーツとプロテクターで覆われている。
ニャースは、それが一目でポケモンだと察した。
そのポケモンは、こちらを見た瞬間その手の刃を振りかざして飛び掛ってきた。

「ニャ!どうしたニャ!?」

いきなり襲い掛かられて困惑するニャース。
どうにかかわしたものの、後ろの壁は大きく切り裂かれていた。間違いなく本気だ。
仕方なくその手の爪を持って応戦するも、先の謎のポケモンと違い、その体はとても硬い。
外見から考えると、どうも鋼タイプのポケモンのようだ。乱れ引っかきだけではどうにもならない。
両腕をクロスさせての突撃をかわす。だがその先でストーンエッジを放たれる。

「ぐ…、にゃあああ!!」

まともに受けてしまい、そのまま吹き飛ばされるニャース。
そのまま追撃をかけようとして、そこで謎のポケモンは膝をついた。
起き上がったニャースは疑問に思い、警戒しつつ近くに寄る。

「にゃ、もしかしておみゃー、怪我してるにゃか?」

ダメージなどろくに与えていないはずなのに疲労の色を表している。
もしかしてここにくるまでに何かしらの戦いでもして、そのダメージが残っているのだろうか。

「キ…、キシャン!!」
「敵の情けはうけにゃいって…、おみゃーそんなこと言って無茶して死んでみゃったら元も子もないにゃ!
 くだりゃん意地張ってにゃいで早く座るにゃ!!」」


このバトルロワイヤルに連れてこられて以降のキリキザンは幸運とは言い難かった。
最初の支給者、ルルーシュにはゼロ相手の当て馬にされ、いきなり大ダメージを負ってしまう。
その後主であるゲーチスと再会できたのも束の間、知らない男の下に渡されてしまった。
ゲーチスにはもう自分は必要ないのであろうか。そんな考えすら浮かんできた。
そしてやらされていることと言えば、また建築物への穴掘り。
生まれてくるのは、他人に対する大きな不信感。
この場では主ですら信じることはできない。そう結論付けてしまった。
故に、同じポケモンとはいえニャースの行動、それは小さなものだが彼にはとても大きかった。

「にゃるほどにゃん、トレーナーに見捨てられて誰も信じられにゃくなった、と
 おみゃーも苦労してるにゃな」

足に巻かれた包帯、脇に塗られた薬はある程度キリキザンの辛さを半減させていた。
まさか見ず知らずの相手にこうまで優しくされるとは思っていなかったのだ。
休めば楽になるだろうと言ったニャース相手に、なぜかここに来て以降の自身の身の上話などを語ってしまっていた。
そしてニャースはそんな話を真摯に聞いてくれていたのだ。

「にゃーも色々と苦労も辛いこともあったにゃ、でも生きていればそのうちいいこともあるにゃ。
 そうにゃ、おみゃーも一緒にこっちに来ないにゃ?みんないい奴にゃよ?」

そう言ってキリキザンのことを慮ってくれるニャース。
だがキリキザンには人間に対する不信感が未だ残っていたのだ。あのロロという人間の冷徹な眼を思い出すと寒気が走る。
と、そこまで考えて思い出す。
自分はここに何をしに来た?

「キ、ザンザンザン!!!」
「にゃ、どうしたにゃ?」

他の人間のことは知らない。
だがこのニャースは死なせたくない。
そう思ったキリキザンは落ち着かない口調でニャースの手を引きながら話し始めた。


夜神総一郎には今の状況というものは受け入れ難いものであり、何があっても解決しなければならないことであるというのはずっと変わらない。
ここに死んだ息子がいたとしても。この場には死神に会った自分にすら想像を絶するような存在がいる事実があっても。
部下である松田が死んだと聞いても。そして、まだ小学生や中学生の子供が巻き込まれ、死に逝くような状況であっても。
佐倉杏子。この場で最初に出会った少女。先輩である巴マミを迎えに行ったきり、そのまま帰ってくることは無くなった少女。
死は突然訪れるものであるという覚悟はあった。事実キラ対策室にいたときはいつ自分達が殺されるか分からない状況だったのだから。
しかしだからといって、佐倉杏子が死んだという事実に動揺しなかったかと言われれば否定するだろう。
それでも動揺を表に出すわけにはいかなかった。巴マミ、佐倉杏子の仲間でありその死を目の前で見た彼女のほうがずっと辛いのだ。そんな彼女の前で自分まで冷静さを失うわけにはいかない。
冷静な自分を、自分にも敢えて装うために纏められた情報に改めて歩きながら目を通す。

それでもさっぱり分からない。そもそもあのアカギという男を、法の力で裁くなど可能なのか。
自分達の常識など容易く崩れることはキラ事件で経験済みだ。それでもそう簡単に今まで生きていく中で培われた常識を壊すなどできるはずもない。
これはやはりLに知らせるべきものだろう。
だが一つ気にしてしまうことがある。他でもない息子のことだ。
この情報、月に教えてしまってよいものだろうか。
月はLやメロ達の悪評をばら撒いていると聞いた。しかしだからといって殺し合いに乗ったと結びつけるのは短絡的だろう。
ただ邪魔者を消しておこうと考えているだけか、あるいは本当に乗ってしまったか。
そんなことを考えながら歩いていたせいだろうか。

「父さん…?」

一瞬幻聴かとも思った。
だが、目の前に立っていたのは、自分の知る月とは若干顔つきの変わった、いや、成長したのだろう。
紛れも無く、夜神月だった。



「にゃ、早く逃げろ、死人が出るぞって、どういうことにゃ!」
「キザ、キシャキシャン!」

位置的には月と邂逅した総一郎のいたところとは正反対の場所だろう。
キリキザンはニャースの手を引いて出口を目指していた。
この場にいては危険だと、そう言って聞かないのだ。

「待つにゃ、ここにはにゃーの仲間もいるにゃ!皆に知らせにゃいとダメにゃ!!」
「ザン!」
「そんな時間は無いって、だからってにゃーだけ逃げるわけには――」

政庁の出口を目指すキリキザンとニャースの声は大きく、辺りの廊下一帯に声が響いていた。
キリキザンも無用心だったかもしれない。誰かが襲撃してくるというなら静かに逃げるべきだったのだ。

「使えない駒だな」
「キシャ…!」

気付いたときには手遅れだった。
ニャースとキリキザンの足は凍りついて地面から動かせなくなっていたのだから。

「そのような役割を与えた覚えはないが…、ふん、だが一応仕事はしたようだな」
「にゃ…、おみゃーは何にゃ…!!」
「褒美だ、その生き物ともども凍り付いて死ぬがいい」
「にゃ―――――」

突如現れた男が横を通りすぎるのを確認した直後、ニャースの意識は冷たい氷の中に沈んだ。


「何をしているのですか?」

手をかざした瞬間であった。その部屋にユーフェミアが現れたのは。

「こいつに少し記憶を思い出してもらおうと考えただけだ。危険だから早く出て行ったほうがいい」
「それは、何のためにするのですか?」
「この女は危険だ。先ほどゼロとミュウツーに戦いを仕掛けたのを聞いていただろう?
 可能なら放っておきたいがこいつには聞きたいこともある。ならなぜそんなに不安定なのかはっきりさせねばなるまい?」
「反対です。今彼女は落ち着いています。下手に精神状態を悪化させてどうするのです?」
「こいつはもしかしたら、…ルルーシュを殺しているのかもしれない。それでもか?」
「それを知ったところでどうするのです?あなたが彼女を裁こうというのですか?」

C.C.はここに来てユーフェミアとはある程度会話を交わしてきたつもりではあったが、ここまで我が強いとは思わなかった。
正直もし巴マミが錯乱して発砲してきたとしても、自分だけならある程度対処できるつもりだった。肉体に掛かっている制限を把握するいい機会だったからだ。
ユーフェミアがいる状態でも強行すれば不可能ではないが、もしものことがあったらスザクが何をするか分からない。
仕方ないが今は諦めるしかなさそうだ。

「トモエさん、でいいのですよね?無理して話すことはありません。
 今のあなたに必要なのは、休息です」
「でも、私がいたら…、いないと誰かが襲ってきたときには――」
「大丈夫です。ここにはゼロ―いえ、あなたの会ったほうではありませんが、彼もいますし、他の方達も信用に値する方です。
 傷付いた子供にばかり戦わせるような人はいませんよ」

傷付いた、子供。
そんな扱いを受けたのは初めてだった。
だって自分は魔法少女で、皆を守るために戦わなければいけない。ずっとそう思ってきたのだから。

話自体は他愛のないものだった。
いつごろぶりだろうか。こんな風に人と話すのは。
魔法少女として戦ううちにどんどん疎遠になってしまった友達しかいないマミにとっては、心が安らぐ時間であった。

カツカツカツカツ

ふと、廊下から足音が聞こえてきた。

「ん?この足音、ゼロのものでも夜神総一郎のものでもないな」
「ここは大きな施設ですし、人が寄ることもあるのでしょう。でもそれより――」
「ああ、今はなるべく静かに、だ」

足音はこちら側に向かって歩いてくる様子だ。そして何より気になったこと。それは、

「こいつ、部屋を一つ一つ見て回っている…?
 まずい…!お前達注意しろ」

巴マミは慌ててマスケット銃を取り出し、ユーフェミアも扱えるかどうかはさておき拳銃を構える。
部屋を一つ一つ回っている。それも足音から察するに特に警戒している様子もない。
つまり、この足音の主は高確率で乗っている。それも何かしらの力を所持して。
出ようにも出口は一つ。窓から飛び出るのはC.C.とマミならいざ知らず、ユーフェミアには厳しい。
足音は部屋の前まで近づいてきている。最悪、一瞬でも相手の対応を鈍らせれば逃げることはできる。ゆえに各々の武器を構えて迎える準備をしているのだ。
そして、足音は部屋の前までたどり着き――

ガチャッ

扉が開く。

「「え?」」

一応どのような相手であろうと、少なくともC.C.は乗っているなら取り押さえるなり迎え撃つなりするつもりであった。
しかし、扉の向こうから見えてきた姿、それはあまりに予想外の姿をしていた。
呆けた声をあげてしまったのはC.C.と、その隣にいる巴マミ。
なぜなら、その相手の姿は――

「ルルー、…シュ?」

そう、放送で死んだと聞いたルルーシュの姿そのものであったのだから。

「見つけたぞ、兄の仇、そしてブリタニアの魔女」
「…!!!!いけません!!!」

ユーフェミアが声を張り上げたときには手遅れだった。
部屋の中の温度が急激に下がり、壁を、床を凍結させ始めた。

「な、これは――」

扉に最も近い場所にいたC.C.の脚が凍り始めた。
まるで、生き物の動きを、血液の流れを、体温を、その全てを無―ゼロへとするがごとく。

「…っ!」

驚きつつも、マミは冷静にC.C.の体にリボンを飛ばし、まだ凍り付いていない場所へと引き込む。
さらに凍り付いていない場所に根を張り、宙にリボンで足場を作る。

「は、早く!」

焦りつつもC.C.を抱えてユーフェミアも持ち上げ、急遽作った足場に乗る。

「窓から飛び降ります!!私がどうにか受け止めますから早く!」

そう言ってマミはリボンの足場を戻しつつ窓から飛び出す。
少し迷った後ユーフェミアも後を追って飛び降りていった。

その姿をルルーシュの顔をした男、ロロはじっと見つめていた。
逃がすつもりはない。せっかく見つけた仇、そして魔王の力の源。
だがあの様子ではそう遠くに逃げることはできないだろう。何しろ奴らはけが人を連れているのだから。
そうタカをくくって敢えて見逃したのだ。それに、背後には興味深いやつがいる。

「ゼロというから誰かと思えば、何だ、紛い物か」
「ロロ・ヴィ・ブリタニアだな」

背後でバスタードソードを突きつけているのはゼロの仮面を模したものを被ったマントの男。
巴マミからはエデンバイタルの魔人たるゼロの存在があることも聞いている。一体この場には何人のゼロ、あるいはルルーシュがいるというのだ。
最も自分もそのルルーシュの顔を持つ一人なのだが。

「早く追わねばならないのでな。邪魔しないでもらおうか」

銃を向けると同時に、バスタードソードが振り下ろされる。
が、その腕は途中で止まることになる。バスタードソードが凍りつくのを確認した瞬間、ギアスがスザクの動きを止めたのだ。
そのまま脚を凍らせて動けなくした後で顔を確認して殺してやろう。そんな段取りを組んでいたロロ。
しかし攻撃の特性を悟ったスザクはすかさずマントで下半身を覆う。一瞬で凍りつき内側まで冷気で包もうと入り込む。
その一瞬の隙にスザクはマントを外し、冷気への身代わりとして戦闘から離脱した。
何の備えもなく勝てる相手ではないと悟ったのだ。

「息巻いて戦いを挑んできた割には随分と大したことはないのだな。
 まあいい。今はあっちを優先するとしようか」

一応、手はずとしてはそろそろ十分だろう。
次の段階として、ロロは自身の切り札を呼び出した。


逃げてきたとはいえ、体の状態は芳しいものではなかった。
両脚はマントで防ぎきれなかった冷気によって凍傷を起こしている。
バスタードソードだけでどうにかなる相手ではなかった。いや、あの様子であればまだ何か残している可能性もある。
ユフィ達が気がかりだ。早くここから離れなければ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

と、次の瞬間、政庁の壁が、柱が崩れ始めた。
ガラスが割れ、地面に亀裂が走り始める。よく見ると崩れた柱には大きく割れているのに気付く。何者かが壊れやすくなるよう工作したとしか考えられない。
先ほどのロロが何かしたのだろう。早くここから抜け出さなければ押しつぶされる。
あの男の狙いが、奴自身の言っていたようにC.C.と巴マミにあるというのなら自分や他の参加者はこの場で押しつぶしてしまっても問題ないとでもいうのだろうか。
総一郎氏やニャースは気がかりではあるが、今はギアスが発動しかけている。下手に探しにいっていまうと逆にまずい。
出口まで一直線に走るスザク。落ちてくる瓦礫はどうにか避けることはできる。
脚力の許す限りの、全力をもって走り抜けた。


「彼はロロ・ヴィ・ブリタニア、エデンバイタル教団枢機卿にして異端審問官、ルルーシュの双子の弟です」
「ちっ、巴マミ、お前はまんまとしてやられたみたいだぞ…」
「え…、どういう、ことなの?」
「ルルーシュに実際に会ったお前なら分かるだろう。あの男は、お前にルルーシュのふりをして近づいてきたんだよ!」

地上に降りた三人は政庁内に戻って走っていた。
危険なのは承知だが、まだ中にはゼロやニャース、総一郎がいるのだ。彼らを放置できないとユーフェミアと巴マミの談だ。
C.C.は反対しようともしたが、こうやって背負われている以上、選択権はないに等しい。それにやはりニャースのことは気がかりだ。
そもそもこうやって足が凍り付いて動けないのもほとんど自分のせいだ。話には聞いていたはずなのに、いざ顔を見てしまった瞬間頭の中が真っ白になってしまったのだから。

「そんな…。それじゃあ私は、何をしてたの…?」

と、次の瞬間、突然政庁内で地鳴りが起き始めた。
地震ではない。揺れているのは政庁自体だ。
壁に走り始める亀裂、崩れだす天井。そして、落ちてくる瓦礫。
それは当然、三人の元にも降り注ぐ。

「危ない…!」

例え如何に動揺していようと、決して人を見捨てたりはしない。
巴マミはリボンを網状に編むことで頭上の瓦礫を全て受け止める。
が、そこでそれは現れた。

ドォォォォォン

瓦礫の中に混じって金色の巨人が地面に降り立つ。
サザーランドやグロースターのような量産期と違い、より人型に近づいたフレーム。それも金色という圧倒的な存在感を放つ色、そして胸部に刻まれたギアスを模した紋様。
ユーフェミアには分からなかった。巴マミはその存在の意味に戦慄した。そして、その機体の名称を知っていたのはC.C.だけだった。
ヴィンセント。ロロ・ランペルージがほぼ専用機として搭乗していたKMF。
ここまでくると運命まで感じるな、とC.C.は思った。


時を少し戻す。

月としては彼との遭遇は想定外ではあった。まさか政庁にいたとは。
果たしてゲーチスがこれを教えなかったのはわざとなのかとも勘繰ってしまった。実際のところはゲーチスと総一郎はニアミスしたため存在を把握できなかっただけなのだが。
政庁に多くの人が集まっていたことは知っている。その中に父さんがいたということが何を意味するのか。
月は父、総一郎のことは味方として信頼に値する人物であると考えていた。無論キラではない月としてではだが。
その父がいたということはここに集まった参加者には月のことは信用に値する人間であるという情報が広がっていることになる。
ロロに潰させるには惜しいことではあるが、今は数少ない味方である父のことの方が重要だ。
問題はあの自分が流してしまった偽情報だが、それについてはまあある程度ならどうとでもなるだろう。

そういうわけで、月は総一郎を連れて急いで政庁の外に出たのだった。

「本当なのか、ここに危険な殺人者が迫っているというのは?!」
「ああ、本当なんだよ父さん!僕が逃げる中であそこに入れてしまったんだ!」
「なら他の皆に――」
「いけない!今あそこに行ったら父さんも危ないんだ!後で僕が戻るから父さんにはこの近くで待ってて欲しいんだ!」

総一郎の知っている月を演じられているか、若干不安もあった。
だが最悪平行世界と言えばどうにかならないこともないだろう。信じてもらえるかどうかに不安も残るが。
政庁の外部、近くの建物の中に総一郎を潜ませる月。

「父さん、ちょっとここで待っててくれないか?父さんの仲間っていう人は僕が助けにいくから」
「…月、少し待ってくれ」

言うと同時に政庁の方から地震のような響きが鳴り始める。
どうやらロロは本格的に行動し始めたようだ。故に行くかどうかはともかく、行くポーズだけは見せておかねば月らしくはないだろう。
だからこそ、総一郎自身に止められるのは予想外だった。

「父さん?」
「彼らは俺達の想像以上に強い。もう事が起こってしまっているなら月が行ってどうにかなるものでもないだろう。
 いや、これは個人的な感情への言い訳なのかもしれないな。だがここが安全というなら、ちょうどいい。
 お前に聞きたいこともある」

月の失敗。
それは自身と父―数少ない味方たりうる存在の生存を優先してしまったあまり、情報交換も疎かに行動してしまったことだ。

「お前は、キラなのだろう?」

その声は、質問といったものではなく、むしろ確信に近い響きが含まれていた。


「巴マミ、よくも我が怨敵ルルーシュの命を奪ってくれたな。その償い、貴様の命をもって償ってもらおう」

ヴィンセント搭乗者の声はルルーシュのそれにしか聞こえない。だがその声の主がルルーシュでないことはこの場にいる一同皆が知っていた。

「ロロとか言ったな。そいつを貴様はどこから持ち出した?」
「フ、やはりお前もウィッチ・ザ・ブリタニアたるC.C.ではないようだな。
 ワイアードギアス所有者は量子シフトによってエデンバイタルより呼び出すことが可能なのだよ」

その場の誰もが理解できない用語を連発しつつ剣を構える。
相手はナイトメアフレーム。拳銃などではどうにもできない。
可能性があるとすれば、この巴マミなのかもしれない。しかし肝心の少女はロロの放った、ルルーシュを殺したという言葉、そしてその償いという言葉に身を震わせている。
ヴィンセントの剣は巴マミに向かって真っ直ぐ振り下ろされる。呆然と立つ少女がそれを避けられはしない――はずだった。
しかし彼女は避けた。
巴マミは如何に動揺しようと精神状態が悪かろうと、戦いにおいては正確に戦術を考えられるほどには戦い慣れしたベテラン魔法少女である。
これまでにも動揺や驚きの中でも戦闘面では正確に立ち回ってはいたのだから。
だがこの場合の問題は一つ。
振り下ろされた剣の傍にいたユーフェミアを完全に置き去りにしてしまったことだろう。

「ユーフェミア?!」

さすがにC.C.も驚く。今の動きはこれまでの巴マミらしからぬ動きだったからだ。

「え…?」

どうしたことか巴マミ本人も驚きの声を上げている。
ユーフェミアを放置していった結果、それが一つの事態を引き起こしてしまった。
すなわち、人質。
ヴィンセントはユーフェミアの体をその手に持ち上げ、首筋には剣を突きつけていた。

「魔女を目の前にしてあの時のような砲撃を放たれては敵わないからな。さて、ユーフェミアを放して欲しければ私の元に来てもらおうか」
「そんな……またなの…?」

マミがそう呟いたのをC.C.は聞き逃しはしなかった。

ロロにとってはこのユーフェミアは生きていようと死んでいようとどうでもいい存在である。
この巴マミという少女に彼女を見捨てることができるかと言うと、少なくともあの砲撃を行うことはできないだろう。人質としての意味はそれだけでもある。
さらにC.C.は足を動かすことはできない。彼女の動向次第では魔女を確保することも可能だろう。

と言うのに、

「構いません。あなた達はお逃げなさい」

ユーフェミアはそんなことを言ってのけたのだ。

「私はルルーシュを殺したあなたのことを許しはしません。ですがその命をもって償おうというのであればなお許しません。
 その命をもって、残されたものの力となるのです。ナナリーを、スザクを守り、一人でも多くの人を救いなさい」

ロロにはユーフェミアが何を言っているのか測りかねた。
だがマミは足を震わせている。人を見捨てるということに対して何かトラウマでもあるのだろうか。
どちらにしても彼女には残酷な選択となる。それをユーフェミアは敢えて選ばせようとしているのだ。
それでも、彼女は選択した。



「ユーフェミア?!」

崩れた天井の上から追いついてきた様子のゼロが驚きの声をあげる。
今までのゼロの声色と比較しても不思議なくらいに揺れているのが聞いて分かった。

「ロロ・ヴィ・ブリタニア!!ユーフェミアを離せ!」
「ふん、生憎貴様には今用はないのだよ」

ヴィンセントはゼロに向かって腰のスラッシュハーケンを放つ。
崩れかけの天井に突き刺さったハーケンは上の階にいたゼロを撃ち落とす。

「ゼロ!」
「ちっ、逃げたか」

見ると肝心の二人の姿はすでに無かった。
一瞬でもゼロに気をとられたのはまずかったのか。

「…私のことなら好きにするといいわ。でもあなたをこの先には行かせない。
 ナナリーを、皆を危険に晒させはしません」

ロロにはユーフェミアのことなどどうでもいい。
生きようが死のうが興味はない。逆に言えば人質としての役割を果たさなくなった彼女のことなどどうなってもいいのだ。
獲物を逃がした苛立ちもある。
握った手を空中で離し――

「さようなら、ユーフェミア」

一気に剣を突き立てた。


巴マミがルルーシュを殺したというのは本当だろう。
その事実を知ったとき私は彼女を仇と思って憎んだだろうか。
私には彼女が悪い人間には見えなかった。しかし強い人間とも思えなかった。
よくも悪くも普通の少女。そんな彼女が果たしてルルーシュを殺せるのか。
彼女の精神状態を見ているとある程度考えは付く。きっと不幸なすれ違いか何かがあったのだろう。
だからこそ、彼女には強く生きて欲しかった。きっとナナリーと仲良くすることもできるだろう。
そしてこの男、ロロ・ヴィ・ブリタニアは倒さなければいけない。絶対にナナリーの元に向かわせてはいけない。
だから、巴マミに一つ賭けてみることにした。この命をもって。

ゼロ、こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい。
コゥお姉さま、こんなところで死ぬ妹をお許しください。
ナナリー、ルルーシュの死に囚われず強く生きて。
そして、スザク。あなたと共に歩む大望、こんなところで終わらせてしまってごめんなさい。
せめて、最後にあなたの声が聞きたかった―――

「ユフィィィィーーーーーー!!!」


「父さん、何を言ってるんだい…?」

言葉の意味を理解することに少しの時間を要した。

「メロという青年から全てを聞いている。お前がキラだと」
「メロ…?父さん何を言ってるんだ…?」
「一つ言い忘れていたな。俺はお前のいた世界とやらの夜神総一郎ではないんだ」
「…?!」

つまりメロは別世界の父親に自分がキラということを話したのか。
どこまでも鬱陶しい奴。
生前も奴さえいなければ、あのような失態を晒して死ぬこともなかっただけにその怒りは大きい。
いや、メロ。奴だからこそ父さんを説得する術を持っている。

「…父さん、メロは悪人だ。父さんは知らないだろうけど、奴こそデスノートを狙ってマフィアを操り、たくさんの人間の命を奪った男なんだ。
 そんな男のいうことを信じるのか?!」
「俺にはそのような青年には見えなかったぞ」
「本当だ。奴が粧裕を誘拐したことで粧裕の心は傷付き、父さんも命を落としたんだ!」

これ自体は真実だ。
粧裕の心に大きな傷を負わせた上、父さんを殺した。この事実には一分の間違いも無い。

「……」

父さんは僕の顔をじっと見つめている。
別世界の父さん、というのは、いや、警視庁での暁美ほむら、アリスとのやり取りからある程度の想定はしていた。
だが、父さんはキラ、と言った。そして僕に疑いの目を向けてきた。
つまりキラが存在する世界、メロと接触しなかった世界、そして、未だキラが健在であり父さん達が戦っている世界だと考えたのだ。
父さんならば信じてくれるはずだ、と考えている。

「月、今のお前は嘘を言っているようには見えなかった。メロがこれまでしたことについては信じよう。あとで彼に会ったら改めて俺が聞く。
 ならもう一つ聞かせてくれ。L達が悪人と言ったそうだが、あれは何だ?」

やはりそれか。だがそのことはある程度対処は考えている。

「父さんのいた世界では分からないけど、僕のいた世界ではLはキラという疑惑を解かず、拷問までしてキラだと認めようとしたんだ。
 後継者のニアもそんな考えで捜査を続け、他の皆も、父さん以外の誰もが信じられなくなったんだ」

平行世界という言葉を蓑にしてどこまでの嘘が突き通せるか、それが問題である。
言ってしまったことは取り消せない以上、これでどうにか凌ぐしかない。

「月」

なのに、父さんは言った。

「一つ言わせてくれ。俺は一目お前を見たとき、お前のことがキラだと確信した。何故だか分かるか?
 お前の目、俺が以前見たある男と同じ目をしていたからだ」
「ある男…?」
「夜神月。俺の世界での、俺の息子。Lに敗れて死神の手で殺された俺の息子のことだ」
「!!!!!!」

はっきり言おう。僕はその世界のことを考えていなかった。
Lは最高の探偵であり、最高の宿敵だった。だが、神である僕はその試練を常に乗り越える存在である。
そんな驕りがどこかにあったのだろう。
だから、父さんの言葉に柄にもなく大きく動揺してしまったのだ。

「あまり父親というものを甘くみないほうがいいぞ」

つまりあれか、父さんは全て知った上でこれまでの会話に付き合ってきたというのか。

「ふ、ふはははははは、Lに負けて死神に殺されたって?ははははははは!!」

笑うしかなかった。僕の世界と父さんの世界。その違いはニアに負けたかLに負けたかの違いしかないというのだ。
はっきり言おう。ここは僕の負けだ。

「そうさ。僕も、キラだよ、父さん」
「月…!」
「そして、父さんなら分かってくれる。僕はそう信じている。
 世界にキラは必要だ。キラの手で犯罪者を殺すことで世界を平和にすることができる。
 犯罪の起こらない理想の社会を作ることができるんだ」
「お前は、そのためにここでどうするというんだ」
「キラは世界に必要な象徴だ。僕は何があっても帰らなければいけない。
 それに、今更たかだか50人と少しの人間の命、惜しんでいるわけにはいかないんだよ」

そう、世界にはキラという象徴は必要なのだ。そもそも悪を許さない心、それは何よりも父さんから教えられたものなのだから。
だから、キラという存在を認められない父さんであっても、悪人を裁く僕の心は分かってくれるはずだ。
犯罪者のいない理想の社会。誰もが笑ってすごせる世界。
父さんの生きる理想と僕の道は同じはずだと。
そう、信じていた。

「月、以前息子に言った言葉、もう一度お前に言おう。
 お前は一人よがりだ」

真っ向から否定された。一寸の迷いもなく、ばっさりと。

「お前は神などではない。ただの人殺しだ」

その言葉は以前ニアに言われた言葉と同じもの。
だが何故だろうか。ニアに言われたときには感じなかった謎の感情が湧き上がってくる。
怒り?違う。苛立ち?違う。哀しみ?違う。
分からない。なぜこんな言いようもない気持ちが湧き上がるのか。

「…父さん、僕が救いたいのは父さんのように真面目で正直な人間なんだ。
 そんな人達がバカを見るような世界で、本当にいいのか?
 僕なら作れるんだよ!腐った人間を排除して、皆の理想の社会を――」
「っ!!」

バシッ

もしかしたら、月にとって父親に殴られるという経験は初めてだっただろうし、総一郎にとっても息子を殴るという経験は初めてだっただろう。
頬に拳がめり込むなどということはめったにあることではなかった。それも相手が父親であるなど。
当然受身など取れず吹き飛ぶしかない。


総一郎は考える。何があの正義感の強かった息子をここまで歪めてしまったのか。
まさか二度もこんな姿の息子を見ることになるなど、誰が思おうか。
信じていた。正義感の強い大人になって警察官として社会を良き方向に進めていく男になってくれるだろうと。
だが、息子はこんなにも歪んでしまった。Lと轡を並べられる存在にもなれたかもしれないのに。
あの時の、第三のキラの時のように。そう、第三のキラ――

(待て、まさか月は――)
「はぁ、はぁ…」

起き上がった月は剣を構える。
真っ黒な剣だった。かつては黄金に輝き、使用者に勝利をもたらすであったはずの剣。
それは、まるで今の月を象徴しているかのよう。
多くの人を導くはずだった輝く姿を、闇に落としてしまったかのように。

「分かってくれないというのなら、殺すしかない。僕は生きなくてはいけないんだ」

ここはそこまで開けた場所ではない。さらに月は目の前に立っている。
だから銃を構える暇もないだろう。恐らくその剣が突き刺さる方が早い。

「さようなら、父さん。できれば殺したくはなかったよ」

構えた剣でその胸を突こうと前進する月。
迷いはない。父親であろうと殺す。月は知らないが、それはかつての”夜神総一郎”の本当の息子である”夜神月”の姿でもあった。

「月、―――」

父は最期に何かを言おうとしている。
命乞いか?いや、それは有り得ないな。説得の言葉か?それとも叱責の言葉か?
それくらいは聞いてやろう。何があろうと、僕は道を変えることなど、許されないのだから――

「――済まなかった」


枢木スザクはゼロでなければならない。
それが世界への償い。かつて仕えたあの人への償い。
もう、枢木スザクという男は死んだ。あの時、紅月カレンとの一騎打ちの戦いに敗れて。
だからこそ、何があろうと枢木スザクという存在はゼロ―無でなくてはならない。
虚無の中でゼロを演じきらなければいけないのだ。
例え目の前に、かつて共に理想を追った彼女がいたとしても。


政庁内には既にヴィンセントの姿は無い。
あの後、すぐさま逃げたC.C.と巴マミを追っていったのだ。
場に残ったのは、ゼロ、巨大な剣。
そして、それに腹部を貫かれたユーフェミア。

「ユフ…、ユーフェミア!しっかりしろ!!」

声をかけるゼロ。だが、自身ももう分かっていた。彼女を助けることはできない、と。
それでも諦めたくはなかった。彼女はこんなところで死んでよい人間ではないのだから。
少し僅かでもいい。奇跡があれば、彼女を救えたかもしれない。
だが、そんなものはどこにも落ちていない。
戦場において数々の奇跡を起こしてきたゼロ。その名を継いだ彼であっても、この場においてはどうしようもなく無力だった。

「ゼ、…ゼロ。お願いが、あります」

だが、それでも彼女には、まだ意識が残っていた。
口から、刺された部位から多くの血を流しつつも、ユーフェミアには僅かに時間が残されていた。

「あの子のこと、恨まないであげて。ナナリーのこと、助けてあげて。そして、皆の力になってあげて」
「分かった。分かったから、もう喋るな!」
「それと最後に、ありがとう。―――スザク」

それに気付くには遅かった。
先のヴィンセントのハーケンによる攻撃、そして墜落の際の衝撃。それはゼロの仮面の前面、レンズで覆われた部分を破壊していた。
つまり、ユーフェミアから見れば、ゼロの中、スザクの目は丸分かりの状態であったのだ。

「ずっと、傍にいてくれたのね。私のこと、…守ってくれてたのね」
「ユフィ…」

ゼロ、いや、スザクは仮面を外す。彼女をゼロとして、ではなく、枢木スザクとして看取るために。
たとえ神が、かつて殺した友が、犠牲にしてきた人々が許さなくても、せめてこの時のこの我儘だけは、他ならぬ自分自身だけは許したかった。
その中にはこの自分が、彼女の知るスザクと同一人物と見られたくなかったという思いもあったのだろう。

「僕は、君のような気高い人とは、一緒の道を歩けない…。顔を見ることなんて、できない。
 だって、僕の顔は、手は、こんなにも汚れてしまっているんだから…。
 枢木スザクという人間は、もう死んでいるんだから…!」

そう、理想を追った枢木スザクはもう死んだ。ここにいるのは、多くの罪を犯してきたゼロという男。
だからこそ、最後に顔を晒したのは、ある種自身への罰だったのかもしれない。
血塗られた顔を見せること。それがスザクにとってどれだけ辛いことか。

「…大丈夫、あなたは、まだ生きているのだから」

なのに、彼女はそんな自分に笑みを向けてくる。
かつてのあの人と同じように。僕の全てを好きだと言ってくれた彼女のように。

「あなたは、私のために泣いてくれた。それだけで、もう、十分――よ――」

そして最後に、スザクの頬を手でなぞる。
自分ですら気付かなかった、目から溢れていた涙をなぞり、その手は力なく地面に落ちた。

「…ユフィ」

スザクは、涙を拭き取り、ほんの数秒、その亡骸の前で目を閉じる。
これが、枢木スザクの生涯最後の涙となるようにと願い。
そして、脇においた仮面を手に立ち上がり、政庁の奥に走っていった。
『魔王』ロロ打倒の切り札たりえるかもしれない、一つの希望を手にして。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー