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Code Alice-God Speed Love

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Code Alice-God Speed Love ◆Z9iNYeY9a2



「何?気になってる子がいるって?」

いつだったか、そんな話をイレギュラーズの仲間にした覚えがある。
任務に駆り出される前の、ほんの少しの空白時間。
学校じゃどう過ごしているかと何の気はなしに雑談レベルの話に興じていたときの記憶。


「へ~、アリスもそういうお年頃ってワケ?いいなぁ、そういう任務とはいえ学生気分でいられるっていうのは。
 で、どんな男なの?」
「…そういうのじゃないわよ。ただ、同級生に少し気になる女の子がいたってだけ」
「どんな子なんですか?」

話相手は同じイレギュラーズのダルク、ルクレティア、サンチア。
皆家族を戦争で失ったもの達で、戦場で生死を共にした家族のようなもの。
だからこそ信用できるし、彼女達に対して赤裸々な部分を相談することにも大きな抵抗はない。

「なるほどねー。目が見えなくて車椅子の、不思議な子ねぇ」
「…アリス、それはお前……」
「分かってるわ。でも妹は今は関係ないわよ。何となく気になるってだけ」
「お友達なのですか?」
「…どうなんだろう」

煮え切らないアリスの言葉に、若干もやもやするものを感じた三人。
気にしているのに、近づいていいのか迷いを感じているという、傍から見たらとてももどかしく感じるアレである。

「てかさー、そんなに気になるなら友達になっちゃえばいいんじゃないの?
 別に怪しい子だとか、そういうわけじゃないんでしょ?」
「私は学生生活をするためにアッシュフォード学園に入ったわけじゃないわ。これも任務よ?
 友達なんて作ってどうするのよ?」
「べっつにいいじゃん。任務だからって楽しんじゃいけない決まりなんてないでしょ?
 私達にはできないことしてるんだから、せっかくだし楽しめばいいと思うんだけど。別にまんざらでもなさそうだし」
「…もし任務が終わったらあの子とは会えなくなるのよ。そうなったら…あの子を傷つけるだけじゃない」
「クスッ」
「…何がおかしいのよ?」
「だってアリス、何だかんだ言ってその子のこと本当に思ってるのが丸分かりだから」

そうだっただろうか。自覚はなかったがそういう風に聞こえてしまったらしい。

「アリス、私達はブリタニアの中でもやっかいもの扱いされている部隊にいる。
 正規軍を動かすことが難しい、裏の仕事も多い。なら当然、命の危険も高い」
「そうね、それを承知でここにいるんだもの」
「だからこそ、いつ死ぬことがあっても後悔しないようにしておくべきじゃないか?」
「……」
「お前はその学生と友達になりたいと思っているんだろう?
 もし離れ離れになってしまった後で後悔してももう遅いぞ」

やらずに後悔するより、やって後悔しろというやつだろうか。

だが、それでも。
もし仲良くなって自分がいなくなってしまったら、ナナリーはきっと悲しむ。
それは、何となく嫌だった。

「別に任務が終わったところで一生会いにいけなくなるわけでもないだろ?」
「それに、アリスには私達がいるんだからね。死なせたりなんて絶対にしないっての
 あーあ、それにしても寂しいなぁ。アリスが私達のところを離れていくなんて~」
「ふふ、そんなことはないわよ。私の居場所は、ここしかないんだから」
「本当にそうなるでしょうか?」
「どういう意味よ」
「いえ、別に。そろそろ出撃です」

私がナナリーと友達になる、ほんの少し前のとある任務の前の出来事。
結局この日も滞りなく任務は終了、アッシュフォード学園へと戻ってナナリーとの会話をした、という何ということもないオチでこの回想は終わる。

それが、ナナリーと親友になる少し前の出来事。



アリスには、その時言われた言葉の意味をはっきりと把握できていなかった。
その時は、まだ。




爆音が鳴り響き、木々がへし折られ倒されていく。
もしこの場に自然の森に住む動物がいたなら、多くのそれが押しつぶされ、あるいは焼かれ、はたまた鳴き声を上げながら走り去ったであろうその光景。

その中心にいたのは、一機の2足歩行のバイクと黒き巨人。
そしてその足元を高速で滑る一人の少女。

頭部に備え付けられたワイヤーナイフを射出するマークネモ。
木々を穿つ威力を持ったそれらの攻撃を、バイクは紙一重で避けていく。
変幻自在の軌道で飛び交うナイフ、それを避けるバイクは一見瞬間移動にしか見えない動きを所どころで繰り出している。

ナイフによる攻撃が当たらないと見るや、その手の太刀を振りかざして木々ごと全てを薙ぎ払った。
バイクはそれを、巨大な脚で地を蹴ることで跳躍。
そのまま太刀を振りぬいた体勢を立て直す前に空中からその腕部に取り付けられた機関銃を放射した。

それを腕で庇ってガードしたとき、その足元、巨人の認識外の辺りから一人の少女が拳銃を放つ。


アリスの、関節を狙った銃撃を受けるネモ。それを受けて、火花を散らしながら一瞬その体を止める。
そこにサイドバッシャーに掴まったポッチャマから放たれた水の柱がネモを推し返した。

体勢を崩しつつも、さしてダメージもなさそうに起き上がるネモ。
ほむらはアリスに問いかける。

「アリス。あなたあれのこと知ってるんでしょ?何か弱点とかないの?」
「……ちょっと気になることがあるわね。どうも様子がおかしいのよ」
「様子がおかしい?」
「以前戦った時に比べて攻撃が大味すぎる。
 それに、あの時のこいつなら今の私やアンタの攻撃くらいは避けられるはず。
 こいつには未来予知、あるいはそれに近い能力が備わっているという考察がされてたから。
 なのに、こいつはあれを避けなかったわ」
「未来予知…ね…」

思い出すのはかつてとあるループで守るべきものを殺した存在。
あの魔法少女もまた予知能力を持っていた。
魔女と化した魔法少女の援護もあったとはいえ、こちらの攻撃を読まれるというのはあまりに厄介な力だったことは記憶に残っている。
そして目の前にいる巨人もまた同じ能力を持っているという。


ほむら自身、攻撃が直線的なものにも感じた。
仮定するとすれば何だろうか。


「あの禍々しい魔力…、かしら?」
「そうね、あれだけは私の情報にもない。あれが何かしらの影響を与えているとすれば。
 今ならあるいは…」

倒せるかもしれない。


そう思ったとき。フラフラと体をよろめかせながらも白髪、黒衣の少女が姿を見せる。

「…何を、やってるんですか…」

ネモの力を操っても殺すことにここまで時間をかけているのに業を煮やしたか。
まだ麻痺が解けていない桜は、木に手をつきとても緩慢な動きをしながら、巨人、マークネモに命じる。

「早く、そいつらを殺しなさい!”ナナリーさん”!!」
「――――!」

桜の言葉に動きを止めるアリス。
そこで呼ばれた名は、他ならぬ自身の友の名。

「ナナリー…?アンタ、何を言っているの…?」
「あら、知らないんですか?そのロボットみたいなものに乗ってるの、ナナリー・ランペルージさんっていうんですよ?」
「嘘をつくなっ!!そんな、そんなことが…」

あるはずがない。
このナイトメアフレームは、かつて河口湖やシンジュクで戦った正体不明のギアスユーザーのものだ。
それにナナリーが乗っているはずが―――

待て。
そういえば、初めて遭遇した河口湖。あそこに、ナナリーはいた。

いや、そんなことがあるはず――――

「車椅子に乗った女の子で、お兄さんがさっきの放送で名前を呼ばれたってことでとても悲しんでましたよ。

 ……ああ、そういえば、あなたのその服、ナナリーさんと同じですね」
「…!!」

嘘だと否定する材料が、次々と消えていくのを感じてしまった。


アリスの視界がぶれる。
自分が何を守ろうとしたのかすら分からなくなる。


「しっかりしなさい!」
「…――!」

そんなアリスに対し、ほむらは叱責の言葉をかけて持ち直させる。

「言ったでしょ!ここにいるあなたの友達は、あなたの知ってる彼女じゃない可能性だってあるって!」
「…で、でも、…ナナリーが……」
「…あなたは…。少しそこで休んでなさい!」

と、ほむらはアリスを置いたまま盾に触れる。

カチッ

ナイトメアの挙動、黒き女の息遣い、そしてこちらを見上げるアリス。
その全てが止まる。
動くのは暁美ほむらとサイドバッシャー。そして、
「ポ…、ポチャァ…」
その席の前に必死に掴まっている一匹のポケモンのみ。
そして彼女は、迷うことなくその腕部を向けた。
マフラーに当たる部分から大量のミサイルを吐き出すサイドバッシャー。

それは分離すると同時にその動きを周りと同じく動きを止めた。

空中で静止した大量のミサイル。


そして、時は動き始める。


「!!」

驚愕する一同の前で、ミサイルが爆発していく。

爆風がマークネモの腕を、胴を破壊し、頭のブロンズナイフを吹き飛ばしていく。


その光景の中、ふとアリスの脳裏をよぎる過去。

それは、己の妹を助けられなかったあの記憶。
自分が力を求めるようになった、あのきっかけ。

また、あれと同じことを繰り返すのか?

私は、また―――


「ナナリー…、ナナリー!!!」

もはや理屈ではなかった。
気が付いたら体が動いていた。

爆発していくミサイルの中。吹き荒ぶ爆風の中。
友の名を叫びながら走ったアリス。

体を焼く熱を気に留めることもなくその中へと走り。
全身のあちこちをボロボロにしたマークネモに触れた瞬間。

アリスの意識は反転した。


黒き泥に包まれた意識の中。
一人の少女は、そこに座り込んで耳を塞いでいた。

周りから聞こえるのは呪詛の声。
死を願う呪いの言葉。

この世のものとは思えないほどの、負の感情、想い。

ナナリーが受け止めるには、それはあまりにも大きすぎた。


『ナナリーちゃん、そろそろ苦しくなってきませんか?これを全部受け入れてしまえば、あなたは楽になれるんですよ?』
「………」

ナナリーには見えない、黒き少女が囁くように話しかける。

”これ”が自ら彼女を侵食することはない。
ネモがその身を張って泥の進行を受け止めているのだから。
しかし、ナナリーがそれを受け入れてしまった時はその限りではない。

「……桜さん、どうしてあなたは、こんなものを受け止めきることができるんですか…?」

ふと、桜の言葉を心で精一杯拒絶しつつにナナリーはそう問いかけた。

その呪いの重さは、ナナリーが受け止めれば押しつぶされかねないほどの膨大なもの。
この世のものとは思えないほどの呪詛にまみれていた。
自分自身が、人間に絶望しかねないほどの。

では、それを受け止めて平然としている目の前の存在は一体何者なのか。

『うふふ、それはね、ナナリーちゃん。
 私自身のいた世界が、こんなものばっかりだったからですよ』





『私が間桐って名前になったのは小さい頃の話です。昔は、遠坂って家にいました。
 でも、私が次女だったからって、お父様は養子に出して、そこが間桐って家でした』
『魔術師の跡取りがいなかった間桐家に送り出され、私はどうなったと思いますか?
 来る日も来る日も、体を間桐の魔術に馴染ませる訓練を受ける日々』

そこまで語った桜の声色に、何か強い感情が篭っているのを感じたナナリー。
しかしそれでも、今の彼女にはその言葉に耳を背けることはできなかった。
言葉の中に、桜の本当の想いが篭っているような、そんな気がしたから。

『ねえナナリーちゃん、私がどんな訓練されてきたか、分かりますか?
 間桐の魔術は、体に蟲を馴染ませることから始まるんです。
 来る日も来る日も、沢山の蟲が放り込まれた蔵の中で、体を中から外から、全部弄り回されるんですよ?
 分かりますか?気持ち悪い蟲に処女も奪われて体中ボロボロにされて、それでも死ぬことすら許されずに過ごしていく日々がどんなに辛いか』
『人間扱いすらされず、11年という年月をただただ道具として扱われてきた。それでも私には希望がありました。
 だって、私には姉さんがいるって聞かされてたから』

それは、己の全てを吐露するかのように。
悪意すらも己の内に抱え込めるほどの、彼女の心の闇を明かす言葉であった。

『そうなら、いつか姉さんが助けにきてくれると信じてました。
 もしかしたら、私をこんな闇の中から救い出してくれるんじゃないかって。
 でも、来てくれなかった。
 私のことなんか知らずに、いつも綺麗なままで笑ってて、私のいた本当の家で、幸せに暮らしてた。
 そして、気が付いたらこの場で頭を割られて死んでたんですよ?』

『こんなになった私のことを気にした様子もなく!まるで虫けらのように!
 私よりすごくて頭も良くて、大事な人まで持っていこうとしておいて!』

その叫びの中に、周囲の悪意が波立ったような気配を、ナナリーは感じた。
ナナリーへ向けたものでも、その姉自身へ向けたものでもない、彼女自身のやり場のない感情そのものが言葉の中にあった。



『あの金髪の人も、所詮姉さんの偽者でしかなかったんですよ。いくら似ていても、姉さんには絶対に成り得ない。もう、姉さんはいないんですから』
「………」

『姉さんの死体を見た時から、もう私はおかしくなってたのかもしれませんね。
 あのベルトを使ったときでも、教会や森で人を殺したときでもなく』
『そして、大切な人さえも、この手で殺して』

『ナナリーちゃん、分かりますか?この気持ちが。この

己を助けてくれるかもしれない存在を永遠に失った悲しみ。
人として扱われることもなく、目的のための道具のように扱われる日々。

「―――桜さん」

それによって、受け止めきることができてしまった膨大な悪意。
そして暴走。

「桜さんがどれだけ辛い思いを持って生きてきたか、私には測ることはできません…」

親に捨てられ、全てを失くし。
まるで道具のように扱われ。

そんな彼女の想いが。なまじナナリーには理解できてしまったから。

「私も、同じです。お母様は殺され、体の自由も失って、お父様には戦争のための道具として追い出されて。
 それでもどうにか手に入れた平穏すらも、ただ一人残ったお兄様すらも」

だからこそ。

「でも、桜さん。それでも、あなたにはまだ、残っているものがあるはずです。
 あなたを想い、心から大切に思ってくれる人が。
 目を、覚ましてください…!」

その絶望全てを肯定するわけにはいかなかった。



「う…ぅ…、ここ、は…」

そこは真っ暗な空間だった。
何も見えず、何もなく。

ただ微かに聞こえてくる風のような音が、まるで呪詛の響きにも聞こえる、そんな空間。
周囲を見回すアリス。
しかし何も見えない。何も触れられるものがない。

人の死を望むその呪詛の中。
それが、アリスにはかつて妹を失ったあの戦場での絶望の声にも聞こえて。

「私は…、また大切なものを…、守ることもできないの…?」

膝を折るアリス。

もう二度と大切なものを失くさないように誓ったのに。
そのためにこの人の手に余る強大な力まで手に入れたというのに。

またあの時と同じことを繰り返すというのか。

――お姉ちゃん

「私は…、また守れなかった…!また駄目だったんだ…!」

気が付けばその瞳からは涙が溢れ出していた。

大切なものを失ったあの時のように。
こんな闇の中、激しい炎の中から救い出すことのできなかったナナリーを。

――お姉ちゃんはここで終わるの?

ふとそんな妹の声が耳に届いた。
いるはずのない妹の声。それが聞こえた時点で、もう自分は死んだのだと思い込んでいたアリス。

「もう…、私は……」

――まだ間に合うって知ったら、お姉ちゃんはどうする?ナナリーを助けるための力を求める?

まだ、ナナリーを助けられるなら?
もちろん求めるだろう。もっと力があれば、私にナナリーを守ることができたはずなのだから―――


「まだ間に合うさ」
「―――!」

と、それまでうっすらとしか聞こえてこなかった妹の声が、急に鮮明になってアリスの耳に届いた。
振り向いたアリスの目の前に立っていたのは、かつて守れなかった妹。

しかし、その姿は次の瞬間糸を解くように崩れ落ち、小さな泥人形のような物体へと変化した。
その頭部とも言える部位には、鳥の羽ばたくような紋様だけが描かれた、小さな人形。

「アンタは…」
「時間がない。お前が何者かは今問いている暇もない。しかしお前はナナリーの親友だ。
 だから単刀直入に言う。この中からナナリーを救い出せ。これは、お前にしかできないことだ」


まだ彼女が”間桐桜”であったとナナリーが思ったあの頃。
正確に言うなら、真理やタケシ達とも共に行動していた時の話。

ネモの警告もあって、ナナリーは桜の異常に気付いていた。
しかし、それでもナナリーは桜を拒絶しようとは、見捨てようとは思わなかった。

何故か。
後付となるが先に聞いたように彼女から自分に似たものがあると感じた。それも否定はしない。

しかしそれ以上に、ナナリーは桜との情報交換の中で気付いていたことがあった。


―――衛宮…、士郎…。私の先輩です。
―――世界で一番大切な、私の大切な人。

その名前を呟く彼女の声は、とても優しく心のこもったものだった。

ネモの言う通り、警戒は必要だっただろう。
確かに彼女の中には危険な何かが巣食っていた。それは紛れもない事実だったから。
しかし、だからと言って見捨てようとは、突き放していこうとは思わなかった。

彼女は、優しさというものを知っているはずなのだから。



「あなたのいた世界は辛いことばかりだったかもしれません。でも、それだけではなかったはずです。
 辛く苦しい世界の中にも、光はあったはずです」

いつ命の危機に晒されるか分からない世界で、自分の傍にいてくれた兄のように。
そしてその兄を失った時にも、傍にいてくれた親友のように。

だからこそ、自分も優しい世界を信じられたのだ。

「…桜さん、もう止めましょう。あなたの大切に思っている人は、あなたがこんなことをするなんて望んでいないはずです」
『ふふふ……、あっはははははははははははは!!!
 先輩は、私がどんな風になっても愛してくれるって、そう言いました!私がどんなになっても、私のことを受け入れてくれるって!』
「なぜ、そう言い切れるのですか?」
『だって、先輩が言ってくれたんですもの!いつだって私だけの、桜の味方をしてくれるって!
 世界の全てを敵に回しても、私の味方でいてくれるって!』
「それは違います!
 あなたの大切な人がどんな人なのかは存じません、でもその人はあなたが人殺しになることを望むような人ではないはずです!」

どんな風になっても愛する人を守ることと、その人がどのようになっても構わないことは違う。
ナナリー自身、同じ思いをしたことが、させたことがあるから分かる。

実の兄がゼロとして人を殺していると知ったときの悲しみ。
そして、彼が自分に言った、戦場に出てはいけないという言葉の意味。
その思いは、きっと彼女を大切に思っている彼も同じはずだ。

きっとその彼も、間桐桜という少女の幸福を望んでいるはずなのだから。

「あなたにまだ、大切な人を思う気持ちが残っているのなら、もうこんなことは止めましょう…。
 あなたを止めようとしたあの人も、そんなことは望んでいないはずです」
『そう、そうです。私はあの人を殺してしまったんです。だからもう、戻れないんですよ。
 間桐桜は、戻ることができない』
「桜さんは…?」

その言葉に引っかかりを覚えたナナリー。

大きくなる違和感。
今、私が話しているこれは、一体何なのだ―――?


「貴女は…間桐桜さんじゃありませんね…?誰なんですか?」
『ええ、”私”は間桐桜の器を得たこの悪意に過ぎません。
 だけど、この絶望も感情も、全て彼女自身のものであることには代わりはありません』

『そうですね。彼女は己の死を望んでいます。他ならぬその大切な人の手にかかることで。
 もし止めたいと思うのなら、私を受け入れなさい』

それの誘いの言葉は止まらない。
そう、ここから抜け出すには彼女を受け入れるしかない。
しかしネモを乗っ取られた様子から考えると、きっとこれを受け入れれば彼女の僕として多くの人を殺すことになるのは目に見えている。

『ほら、また一人この中に入ってきました。
 あなたと同じくらいの歳の、同じ制服を着た子です』
「え…?」

自分と同じ服を着た、同じくらいの歳の子…?

確信はできないが、一人だけ心当たりがある人物が脳裏をよぎる。

「アリス…ちゃん…?」
『ふふふふふ、どうしますか、ナナリーさん。ずっとここに篭って友達を見捨てますか?それとも友達を、桜を助けるために私を受け入れますか?』

強い迷い。
2択のうちそのどちらもが、何かを失う選択。

「私は…」

しかし、迷っている時間がないこともナナリーには一目瞭然だった。

「私は―――!」


「まさか魔導器、ネモか…!」
「ナナリーを助けたいというなら、私に力を貸せ。
 お前の手を借りることさえできれば、ここからナナリーを、お前の友を救い出すことができる」

白い人形はそう、アリスへと問いかけた。
一見すればまるで悪魔の囁きのようにも聞こえるが、しかし人形の静かな口調の中にも大きな焦りがあるのをアリスは感じ取った。

「ふざけるな!貴様のせいでナナリーは…!」
「私はあくまでもナナリーの意志に、想いに従って彼女を守っていただけだ。
 私がいなければ、ナナリーはこの泥に侵食されて、体も心も犯しつくされて死んでいたかもな。無論、お前も」
「っ…」
「そして、お前の元にこうして来ている今、ナナリーの守りは緩まっている。
 なぜそうまでしてこんなところに来てお前にこうやって懇願しているか分かるか?」

そう、ナナリーを守るべき魔導器がこのようなところで自分と話していること自体、本来ならばおかしい。
ナナリーの守りをおろそかにしてまで、何故自分との会話などに興じているのか。

「お前が、ナナリーの友だからだ」

「ナナリーがこの中にいると聞いたお前は、あの攻撃の中ナナリーの元へと駆け寄った。
 そのお前のナナリーを想う気持ちに、私はかけようと思ったのだ」
「私が…?」
「そうだとも。私に手を貸し、ナナリーを救いたいと願うのなら決断しろ。
 だがやるというなら急げ!時間はあまり残っていない!」

そう急かすネモの声は、とても急いでいるかのようだった。
まるで今にも切れ掛かっている命綱を握っているかのような。




ネモはナナリーへと侵食する泥を抑えることに全ての力を使っていた。
それゆえに、ナナリーへと語りかける存在に気付くのが遅れてしまった。

気付いたのはアリスがここへと侵入してくる僅か前だった。
だからこそ、その存在に手を打つには遅すぎたのだ。

もし、ナナリーが己の親友がこのようなところへと取り込まれたと知ったら一体どうするだろうか。
心優しいナナリーが、この悪意を受け入れるとは到底思えない。
ならば、きっと己の命を差し出してアリスを救おうとするだろう。
それはネモとしては何があっても避けなければならないことだった。

だからこそ、ナナリーがアリスの存在に気付く前にこちらで手を撃たなければいけないと判断した上で接触したのだ。

もしここでネモに誤算があったとすれば。
ナナリーが万一その事実に気付いても、決断から結果を出すまでの間にしばらく時間があると踏んだことだろう。

だが、それも無理からぬこと。
ネモ自身知らされていなかったことなのだから。

ナナリーに眠る本当の力。
それは、未来視すらも霞むほどの強大な力。

魔王・ゼロの持つそれと同質の能力。
森羅万象全てを無へと帰すギアス、ザ・ゼロ。

それが、親友を助けたいという思いに反応し、この間桐桜の中で発動した。




「?!ナナリー!」
「え…、何…?」

ネモの様子がおかしくなると共に、周囲の様子が変わりつつあった。
あれほど満ち溢れていた悪意が、少しずつその量を減らしはじめたのだ。
しかし、何が起こっているのかはネモすらも把握できている様子ではない。

いや、そのネモすらも少しずつ体の形を崩しつつある。

「契約が…、…強制解除だと…?そうか…、この力…、このギアスがナナリーの…。
 急げ!想定外の事態が起こった!もう時間がない!」
「―――!…私は……」

しかし、急かされて尚もアリスの迷いは晴れなかった。
アリスの中にあった一つの恐怖。
ナナリーを守りたいという思いの根源。
それが、彼女を立ち上がらせることを躊躇わせていた。

「私は…、怖いのよ…。
 また大切な人を守れないかもしれない…。それが…」
「…ナナリーは、この悪意の中心という、おそらくは最も危険な場所にいる。
 それでも今まで無事でいられたのは私が守っていたからだ。もし私がいなくなれば、ナナリーにこの悪意を受け止める術は無い」

ネモはその手の形すらも取ることができていない短い腕をアリスへと伸ばす。

「そしてナナリーもそのことは分かっているだろう。
 それでも、ナナリーは私の守りを捨てた。何故だか分かるか?」

それはナナリーと繋がっていたからこそ分かる感情。
この悪意の中でも、ナナリーの暖かい思いだけははっきりと認識できたネモだからこそ、分かるものだった。

「お前を助けるためだ。
 己の命と友の命を天秤にかけ、選んだのがお前だ、アリス」
「…!」
「このまま、お前の命を救ったナナリーを見捨てるか?!
 妹を救えなかった後悔の念に怯えるか?!」
「………」

ネモの、その弱さを責め立てるかのような言葉。
そう、アリスにはもう分かっていた。自分には選択肢などないということを。


「妖言で人を惑わすなんて、まさしく魔女ね。
 だけど、もう私には迷う資格なんてない――」

ナナリーを守ると誓ったはずの私が、ナナリーの命と引き換えに助かろうとしている。
そんなこと、許されるはずがない。

ナナリーに守られる私ではない、ナナリーを守ることができる私に変わらなければいけない。

ただの友達ではない。
ナイトメア・オブ・ナナリー
ナナリー姫の騎士に。

「結ぶわネモ、その契約―――」



その泥の中の中心地点。
周囲を蠢いていた膨大な魔力がその総量を急激に減らしつつあった。

『ナナリーさん…!あなた一体何を…!?』

驚く彼女に対し、ナナリーは答えることはできない。
一体何が起きたのか。
ナナリー自身にすらも、詳しいことは把握できていないのだから。

しかしそれでも分かることはあった。
自分とネモの中に僅かに残っていた繋がりが消えようとしている。
そして、ここにあった大量の恨みも、憎しみも、絶望も、その全てが無へと帰ろうとしている。

これを自分がやっている、というその事実。それだけは何となく認識できた。
本来ならば戸惑いが先にきたであろうナナリーだが、今はそうなることはなかった。

「桜さんの背負っているこの絶望と憎しみ。
 背負える限り、私が受け止めます。もうこんなものに飲み込まれるのは、私で最後になるように」
『…っ!ここにあるのは人類が生み出した全ての悪意…、例えナナリーさんであっても、消し尽くせるものでは―――』
「ええ、ですから私が、受け止めきれる限りの呪いを消し止めます」

この能力を持ってしてどれだけ消すことができるかは分からないだろう。
だが、分かっていることはある。
それが成功するにしても失敗するにしても、ナナリーが生きられる可能性が低いということ。

『それじゃあ、あなたはここで死ぬということを選ぶんですね?
 間桐桜を
「それは、違います。
 私はここで死ぬかもしれません。でも、アリスさんがいます。真理さんやタケシさんも、そしてあなたの思っている人も。
 彼らがきっと桜さんを助けるでしょう。私はそう信じてます」
『結局他人にすがるのですか?』
「ええ、皆は、世界は、あなたが知っているよりももっと優しいものだって、私は信じていますから」

ナナリーの、閉じられた目でありながら見据えられたその視線は真っ直ぐと、ゆるぎないものだった。
それは、心から皆の優しさを信じている、ナナリーの言葉だった。

『いいでしょう。ナナリーさんとはここでお別れですが、あなたの言うそれが迷い事や絵空事ではなく本当のことであるかどうか、見せてもらいましょう。
 ナナリーさん、さようなら』

その言葉を最後に、ナナリーの感覚からそのドス黒い、桜を形取った何かは消滅していった。

残されたナナリーの体に、消滅しきれない泥が迫り。
黒い悪意の集合体がナナリーの体へと被さった。

呪いの声。
殺意の声。
死を願う呪詛。

様々なものが彼女へと入り込む。
あるいはこれを受け入れることができれば、例え己を見失うことになっただろうがナナリーに命はあったかもしれない。
しかし、ナナリーは優しい人間だった。
こんなものを受け入れ世界を憎むくらいならば死んだ方がいいと、そう思ってしまうほどに。
それによって生まれる斥力は、ナナリーの心を殺し、精神を殺し。
そしてその姿を溶かしつつあった。

(ごめんなさい、お兄様…、ネモ…、…アリスちゃん)

あの影に対してああ言ったのはせめてもの、ナナリーなりの強がりだった。
優しい世界を信じるナナリーは、だからこそ世界が優しさだけではないことも知っている。
友達を殺された人間が、殺した相手を恨まずにいられるかと言われれば自信はない。

結局は友達を助けるためだけに、自分の命を投げ出したに過ぎなかったのだ。
でも、後悔はしていない。

こんな命でも、友達を助けるくらいはできたのだから。
もしかしたら会うことになったかもしれない、兄を殺した何者かを顔も知らないまま憎むことなく死ねるのだから。

(ああ、でもやっぱり―――)

一人で死んでいくのは、悲しい。

(―――アリスちゃん)


同じ場所にいながら、それでもこんなに遠い。
自分がどうにかできるほどの近くにいながら、それでもその声を聞くこともできない、そんな距離。



彼女との出会いが、走馬灯のように脳裏をよぎる。
苛められていた自分を助けてくれたこと。
学園の屋上でたい焼きをくれたこと。
生徒会で色々な服を、自分と一緒にさせられたこと。

ホテルジャックで巻き込み怪我をさせてしまったこと。

(――私、また巻き込んでしまったのね…、アリスちゃん)

友達といいつつ、いつも迷惑をかけてばかりだった。
もっと私がちゃんとできていれば、こんなことにもならなかっただろうに。

(せめて最後にもう一回、あなたに会いたかったな―――)

アリス、初めてできた、私の親友―――
















―――――ナナリィィィィィ!!!!


届け。
届け。

ナナリーはすぐそこにいる。
自分をも覆おうと迫るこの泥が鬱陶しい。

どこだ、ナナリー。
すぐ近くに存在を感じられるのに、どこにいるのか見えない。
体よ、もっと速く、もっと速く動け。

せめてナナリーを見つけ出せるくらいに速く。

速くだ。もっと速く。
こんな泥の邪魔をものともしない速度を。
ナナリーに手を伸ばせる速さを。

ほんの刹那の時間が、とてつもなく長く感じる。
だがその刹那の時間ですらも、ナナリーの命の鼓動が弱まっている、とネモは言う。

急げ。急げ――――

「ナナリィィィィィ!!!!」

思わず叫んだその時、

真っ黒な空間に、ほんの僅かに身動ぎする存在が見えた。

(―――そこか!)

「ナナリー!手を!」

ナナリーの元まであるその距離を、一瞬で詰めると同時。
弱弱しく伸ばされたその手を掴み。

「―――ザ・ ゴッドスピード!!!」

その体を抱きかかえた瞬間、己の手にした新たなギアスを発動させた。



体から魔力が消滅していくのが分かった。
外側からではない、内側から。
満たされてこそいなかったとはいえ、人が持つには過ぎたといえるほどの容量の魔力が。

嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

このまま空っぽになってしまえば、私はもう誰も殺すことができない。
悪者になることができない。

そうなってしまえば、”彼”に殺してもらえない。

嫌だ。
それだけは嫌だ。
藤村先生を殺すような悪い子は、正義の味方によって滅ぼされなければいけないのに。


(――嫌…)

まだ死ねない。
まだ死にたくない。

ここから早く離れないと。

私が、消えちゃう――――


「?!」

収まりつつある泥を確認したほむらが、黒い女の元に駆け寄った瞬間のこと。
どこからともなく、ソウルジェムが強く反応する何かの存在を捉えた。

魔力反応に驚くほむらの目の前で。
その一瞬の隙とでもいう間に。

黒き少女はいきなり周囲に蠢く泥の中に溶け込んだと思うと、魔力反応を完全に消滅させた。
魔法のような何かを使った反応自体はあることから、転移のようなものを使ったのだろうか。

「…何が起きたの?」

あれほど溢れそうだった魔力反応は既にここにはない。周囲に僅かに黒い魔力の残滓を残すのみだ。
脅威は去った、と考えてもいいのだろうか。

だとすればひとまず安心だろうか。
いや、

「アリス?」

彼女がいない。
まさか、あの中に飲まれて消滅したとでもいうのだろうか。

「ポチャ…」
「あなたも探すのを手伝って。もし腕の一本、髪の一房でも、見つけたら言いなさい。
 いいわね?」



ここがどこなのか、桜には判別できなかった。
自分の中を丸ごとごっそり消し去られるあの恐怖から逃げたくて、ただ夢中で願い、気がついたらこんな場所にいた。

間桐桜の中に埋め込まれた願望器。
曲りなりにも体の中に残っていた小聖杯としての役割が、彼女の強い想いに反応してその現象を引き起こし、その体を転移魔術で移動させたのだ。
しかしそれが、皮肉にも桜にあった魔力の多くを使い尽くしてしまい、結果的に彼女の望みに反するものになってしまったのだが。

体の求める強い飢え、そして全身に残った痺れが彼女の身動きを遅らせる。
デルタギア、ナナリー、魔力を失い。
さらに体に残ったダメージはその意識を遠のかせていた。


「ナナリーさん……、もういないのですね…」

彼女とはもっと仲良くなれるんじゃないかという思いもあった。
一人きりは寂しいから。
失ったものの代わりにはならないだろうが、それでもそれを埋める新しいものを求めたのだ。

だが、もういない。
今の自分に残ったのは、ほとんど魔力の残ってない空の器。


(おなかが…空きました…)

一人っきりになった虚無感、そして疲労を残したまま動き続けた影響による肉体の限界、そして強い飢え。
それらに襲われた桜は、今自分がどこにいるのかを把握することもなく、静かに意識を闇へと落とした。


【???/一日目 昼】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:意識無し、黒化(大)、『デモンズスレート』の影響による凶暴化状態、喪失感と歓喜、強い饑餓
    ダメージ(頭部に集中、手当済み)(右腕欠損・止血)、魔力消耗(特大)、ジョーイさんの制服(ボロボロ)、麻痺状態
[装備]:コルト ポリスポジティブ(6/6)@DEATH NOTE(漫画)、黒い魔力のドレス
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:“悪い人”になる
0:いずれ先輩に会いたい
1:“悪い人”になるため他の参加者を殺す
2:先輩(衛宮士郎)に会ったら“悪い人”として先輩に殺される
3:くうくうおなかがすきました…
[備考]
※『デモンズスレート』の影響で、精神の平衡を失っています
※学園に居た人間と出来事は既に頭の隅に追いやられています。平静な時に顔を見れば思い出すかも?
※ルヴィアの名前を把握してません
※アンリマユと同調し、黒化が進行しました。魔力が補充されていくごとにさらに黒化も進行していくでしょう。
※精神の根幹は一旦安定したため、泥が漏れ出すことはしばらくはありません。黒い影も自在に出すことはできないと思われます。

※聖杯の魔力を使い、会場のどこかへ転移しました。それにより何処へ着いたかは本人は今のところ把握できていません



「ナナリー!ナナリー!!」



アリスの発現した新たなギアスは、ナナリーの体を覆っていた泥を弾き飛ばし。
それを確認したアリスは即座にあなぬけのヒモを使用することで、あの空間からの脱出に成功した。


しかし。

ナナリーの体を覆う黒い泥を払いのける。
本来なら手で触れられるようなものではなかったが、今のアリスはそれどころではなかった。

ナナリーの鼓動が、あまりに弱弱しかった。

「ナナリー…!」
「ア…リス…ちゃん…」

ナナリーの体が死に近づいているのが分かる。
体には傷一つないというのに。
彼女の体に、精神にかけられた呪いによる強い負荷が、その生命力を削り取っていたのだ。

「また、間に合わなかったの…!?」
「アリスちゃん…、大丈夫…?」
「私は大丈夫よ!そんなことよりナナリーが…」
「そう…、良かった…」

それでもなお、ナナリーは親友のことだけを思い、考えている。
何故こんな優しい子が死ななければならないのか。

「私ね…、怖かった…。一人であんな真っ黒な場所にいて、…そこで一人で死んでいくって思ったら…」
「大丈夫だ!ナナリーはまだ死なない!私が、絶対に―――。
 ネモ!おい、ネモ!いるんだろう!お前なら、ナナリーを助けられるんじゃないのか!?」

魔導器の名前を呼ぶアリス。しかし返答はどこからも得られない。
全てを自分に任せた、ということなのだろうが、それにしてもあまりに無責任ではないか。
いや、これは、自分の選択に対するけじめをつけろ、とでもいうことなのだろうか。

「ナナリー…!私はまた……」

また、守れなかったのか。
また、目の前で大切なものを失ってしまうというのか。
私は、何のために力を手に入れたというのだろう。

「アリス…ちゃん…、ごめんね…、あなたのこと、傷つけちゃって……」
「………!―いや、いいの、いいのよナナリー…。
 私は、ナナリーの騎士だから…。ナナリーのためならいくらでも傷付いてあげられるし、どんなことだってできる…」

それは、不意に口から出た、己を取り繕うかのような言葉。
己の悲しみをナナリーに悟られ、ナナリー自身への重荷にしてはいけない。
でも、ナナリーは鋭い。
そんな嘘に、気付かれなかったかどうかと言われれば厳しい。


だがナナリーはその嘘を気付いてか気付かずか、その顔に僅かに笑みを浮かべて、次の言葉を続けた。

「そう…アリスちゃんは、私の騎士…なのね?
 それじゃあ…、最後に、お願いがあるの…」
「…何……?」
「桜さんを、助けてあげて…。…恨まないであげて……。
 あの人も…、苦しんでいるから…。
 アリスちゃんは、アリスちゃんのままでいて…」
「うん…分かった…」

ナナリーが伸ばした手を握りながら、アリスはそう答えた。
それが本当にアリスにできるかどうかなど、今は考えることはできなかった。

「それでね…、桜さんにも見せてあげて欲しいの…。
 もっと優しい、あんな悲しみや絶望に負けないくらいに、喜びに満ちた世界を……」
「ナナリーは…優しいね」


ナナリーのその言葉に、強く握り締めたままの手を支え、頷きながらそう答えた。

すると、ナナリーの残った左手がアリスの顔に優しく触れた。

「ナナリー…?」
「―――アリスちゃん、綺麗な顔…」

その言葉にハッとしてアリスはナナリーの顔を見る。
すると、閉じられていたはずの目がうっすらとだが開いているようにも見えた。

「ナナリー、もしかして目が―――ナナリー…?」

しかし、その言葉を最後にナナリーの伸ばされた手は地面に落ち。
その開きかけた瞳も、心臓の鼓動も、二度と動くことはなかった。




【ナナリー・ランペルージ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー 死亡】


「悪いわね。こんなことにまで付き合せちゃって」
「それで、気は済んだの?」

ほむらがアリスを見つけるのに、そう時間はかからなかった。

森の中を走っていたときに唐突に聞こえたポッチャマの大きな鳴き声。
その先に行くと、いたのは一人の少女の骸を抱えたまま歩いてくるアリスがいた。

何があったのかは、その真っ赤に腫らした目を見れば想像はつく。

その後は、その亡骸を埋葬したいというアリスに付き合い、一通りのことを終わらせて今に至っている。


ナナリーが埋められた地面の前で、アリスはふと呟く。

「私は、ナナリーに昔の自分の罪を重ねていた。それで、また同じことを繰り返しそうになった時、決断することができなかった。
 でも、私が守らなきゃいけないのは守れなかった妹の幻影じゃなくて、ナナリー自身だって気づいたの」
「それで、その守るべきだったものを守ることができなかったあなたはどうするのかしら、アリス?
 そういえばアカギが言っていたわね。優勝すれば、脱落した参加者の蘇生をすることも可能だって」

これは聞いておかなければならないことだろう。
もしそれを望むのであれば、今から目の前の少女は敵となる。

「確かに、ナナリーが死んだ今、私には守るものは何も無いものね」
「……」

親友の埋葬まで頼んでおいてここですぐさま行動を起こすとは考えづらいが、念のためにいつでも時間を止められるように構えておく。
しかし、その警戒もやはり杞憂に終わることになったが。

「でも、ナナリーの言っていた、あの子が守りたかったものはまだ残っている」
「それがその子を守ることに繋がる、とでも言うのかしら?」

いくらその子が守ろうとしたものを守ったとしても、守ろうとした存在はもういない。
アカギのいう願いとやらに縋って生きるのも愚かではあるが、だからと言ってそのような綺麗事、自己満足に生きるのもまた、ほむらには受け入れ難かった。

「まあその通りかもね。私が妹の幻影にナナリーを重ねていたように、ナナリーの願いにナナリーを重ねるのも同じことかもしれない」


「でも、私はナナリーの騎士だから」
「…騎士?」

ふとアリスの口にした単語に首を傾げるほむら。


「うん、ナナリーの騎士。ナナリーのために生きて、あの子を、あの子が守りたかったものを守っていく、そんな存在。
 私はそうあることに決めた。
  だから、ナナリーが望んだのなら私は殺し合いには乗れない」
「ナナリーって子のために、見返りも求めずに戦うっていうのかしら?あなた自身の願いを度外視してでも」
「そういうことに、なるのかしらね」
「その選択が、決してあなた自身を救うことがなくても?」
「ナナリーを救えなかった以上、あの子の望みくらいは守っていきたいもの」

己の感情、己の望み、欲望よりもナナリーの思いを汲んで生きようというらしい。それが、彼女の言う騎士だと。
どこかの誰かさんみたいだとも一瞬思った。


「ナナリーが救えなかった現実はちゃんと受け止めていかないといけないんだと思う」
「そう…」

その言葉に一呼吸置いて、少し考えた後それとなく呟く。

「それなら、せいぜい足元を掬われないようにね。
 守りたいものを失ったあなたが、そのまま理想に、その矛盾に溺れることがないように」
「むっ…」

そんな前例を知っているからこその、念のための警告だった。
一体いくつの世界で、あの青い魔法少女がそうやって自分の理想に殺されていったのかなどもう思い出せない。

と、そんなことを思っていたが、少し予想外の方に事が運んでいく。

「ねえ、前から思ってたんだけどさ。その喋り方どうにかならないの?
 いちいち他の人に突っかかってるような話し方ばっかりしてるように見えるんだけど」
「…そういう性質なのよ。気に障ったなら謝るわ」
「ちょっと今のはカチンときたのよね」

…ちょっと厄介なことになってしまったみたいだ。
口は災いの元とでもいうことだろうか。これが元で彼女からの信頼が崩れるのは問題である。

「今の言葉は取り消すわ。本当にごめんなさい。
 …そうね、気がすまないっていうなら、謝罪の意味で何か一つくらい言うこと聞いてあげるわ」
「何でもいいの?」
「私にできることならね」
「そう。それじゃあ――」

振り向いたアリスは言った。

「私が友達になってあげるから、あんたのその口の悪いところとか色々直しなさいよ」



正直カチンときたのは本当だった。
自分のことだけならまだしも、まるでナナリーのことまで言われているような、そんな気がして。

いっそ一発引っ叩いてやろうかとも思ったが、ふと思い返せばほむらは割とずっとこんな調子だったような気がしてきた。
初対面の時も上から目線っぽくてあんまりいい印象はなかったし。
ポッチャマに銃口を向けたときもやりすぎではないかと思ったし。
海堂直也の時も、もっと言いようというものもあっただろうと思うし。

ならいっそ、自分が手綱を取るのではなく、そういった部分を矯正してやってはどうだろう、などと思い付いた。
まあ若干意趣返しという意味もあった。何というか、友達が少なそうな気がしたし。

なのに。

その時のほむらの顔は、しばらくは忘れられそうになかった。
ずっと無表情だったはずの顔が、面白いようにキョトンとしていて。
そんな顔もできるんだと思ってしまった。

数秒の沈黙の後慌てるように咳込んで無表情に戻したものの、何というか、その表情自体も妙に意識しているように見えてきて。
この状況、心境で、思わず笑いそうになってしまった。


「…………」
「何でも言うこと聞くって言わなかった?」
「……。馴れ合いならお断りよ」

何か強い警戒心のようなものが見える気がする。
というか警戒されている気がする。
何だこの反応。


「というか、どうしてそこで友達なのよ?」
「だって、あんたそんなのじゃ世渡りとか人付き合いとか苦労しそうだし。
 だから私が直してあげるって言ってるのよ」
「大きなお世話よ」
「あんたが言ったんじゃない。理想に沈むなーって。なら沈みそうになったとき引き上げてよ」
「何で私が」

そのまままるで顔を見られることを避けるかのように後ろを向いて歩き出すほむら。

「大体何?そのナナリーって子はあなたの親友だったんじゃないの?」
「どうしてあんたとナナリーの間に関係ができるのよ?」
「質問を質問で返さないで」
「いつだったか私があんたに言った言葉ね」
「………」

言い合うことを諦めたのか、そっぽを向いて傍に停めてあったサイドバッシャーに近寄る。

「そんなことより、そろそろ放送も近いわ。次は何処に向かうか、終わるまでにちゃんと考えておきなさい」
「まどかって子を探すんじゃないの?」

まるで気を取り直すかのようにそう言って、ほむらは支給品に入っていた食料に口をつけた。



(ナナリー、ごめんね…。あなたを守ってあげられなくて…)

視線の先、即席の粗末な墓に埋められた愛しき友。

涙はもう流さない。流せない。それは彼女がその生を終えたとき流し尽くした。
今の私は、ナナリーの騎士。彼女のためにこの身を捧げた。
それは、ナナリーが死んだ今とて変わらない。

ただ、一つだけほむらには言っていない、自分の望みがあった。

アカギの言っていた、生き残れば如何なる願いも叶えるというあの言葉。
もし、あれが真実であるなら、ここで死んでしまったナナリーを生き返らせることも可能なのではないか、と。

だからと言って殺し合いに乗るわけはない。
それをしてしまえば、もう私はナナリーの騎士ではいられなくなる。
ならばどうするべきか。
その力をアカギから奪い、ナナリーを生き返らせるのだ。
この殺し合いから抜け出し、アカギの元に辿り着き、そしてその奇跡とやらを起こすのに必要な力をどうにかこの手にすることができれば。

ナナリーは怒るだろうか。こんなことを望んだ私を。
それでも、ナナリーにまだ未来を見せてあげたいという想いもまた強く心に残っていた。

この願い自体は、ナナリーの願いではない、あくまでアリスのためのものとなるのだろう。
小さな可能性だったが、ナナリーの騎士としてのアリスの中に残った、アリス自身の思い。
だからこそ、できれば他の人に知られることは避けたい願い。


(ナナリー、もし叶うなら、私がまた、あなたに光を見せてあげるから。
 だから、もう少しだけ待っていて)

あの時ゼロがふと発した言葉の意味が分かった。
きっと私がナナリーの騎士になることは定められた運命だったのかもしれない。

私は前に向かって進み続けよう。
いずれまたナナリーに会えた時に、胸を張ってナイトメア・オブ・ナナリーだと誇れるように。


【C-5/森林/一日目 昼】

【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、ネモと一体化
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:共通支給品一式、 C.C.細胞抑制剤中和剤(2回分)@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:脱出のための協力者が得られるなら一人でも多く得たい
4:ほむらが若干気になっている
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
  魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。


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