逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2
どこかの球技場のような場所でバットを振るう。
何があってここでそれを行っているのかは分からない。
そういえば普段は迷いを感じた時によくここでこうしてバットを振るうことで気を紛らわしていた。
ということは今も何かに迷っているのかもしれない。
射出されたボールを打ち返すとカキンと音を立てて打ち返されたそれが遠くにある的に当たる。
何があってここでそれを行っているのかは分からない。
そういえば普段は迷いを感じた時によくここでこうしてバットを振るうことで気を紛らわしていた。
ということは今も何かに迷っているのかもしれない。
射出されたボールを打ち返すとカキンと音を立てて打ち返されたそれが遠くにある的に当たる。
そんな自分の隣で同じようにバットを振るう男がもう一人いた。
こうしてバットを振るっていると不思議と出会うことが多かった男。
並んで球をうち続けたのはつい最近のことなのに、どうしてかとても懐かしいようにも感じてしまった。
並んで球をうち続けたのはつい最近のことなのに、どうしてかとても懐かしいようにも感じてしまった。
雑念が混じったからか、球を撃ち漏らしてしまう。
舌打ちをしながら再度構える。
舌打ちをしながら再度構える。
カキン、といい音がなり、ボールが遠くに備え付けられた的に当たった。
ボールを打った男は、こちらを向き微笑みかけた。
ボールを打った男は、こちらを向き微笑みかけた。
悪意のない笑顔だが、タイミングが癪に障った。
飛んできたボールを、今度は力いっぱい打ち返す。
飛んできたボールを、今度は力いっぱい打ち返す。
飛んでいったボールは、的に当たった後地面をゆっくりと転がっていった。
◇
「地図で言っていたフレンドリーショップ。この辺りですね」
村上は小さなコンビニのような施設の前に立っていた。
さやかと美遊の会話はオルフェノクの聴覚を持って聞き取ることができていた。先行していた分が有利に出たことになる。
さやかと美遊の会話はオルフェノクの聴覚を持って聞き取ることができていた。先行していた分が有利に出たことになる。
間桐桜は揉め事を避けるために置いてきていたのだが、状況の転換があまりに発生しすぎた。
あの影が彼女の生み出したものであることは予想がついていた。そして自分にとっても脅威となりうるものであることも。
だが今となっては無理をして抑える必要性を感じない。乾巧は敵となり排除対象となった以上は。
同時にあの少女達を相手にしてくれるのであればこちらの手間も省ける。
あの影が彼女の生み出したものであることは予想がついていた。そして自分にとっても脅威となりうるものであることも。
だが今となっては無理をして抑える必要性を感じない。乾巧は敵となり排除対象となった以上は。
同時にあの少女達を相手にしてくれるのであればこちらの手間も省ける。
肌に僅かに吹き上がる汗を拭う村上。
それは決して冷や汗などではない。戦いの疲労が出ただけだ。
そう、決して、あの間桐桜の生み出した影に感じた本能的な恐怖に臆したわけではないのだから。
それは決して冷や汗などではない。戦いの疲労が出ただけだ。
そう、決して、あの間桐桜の生み出した影に感じた本能的な恐怖に臆したわけではないのだから。
ふとショップの傍に人が談話できそうな一角を見つけた。
椅子や机も備わり食事もできそうで、喫煙所も見受けられる。
そこに、乾巧は横たえて寝かされていた。
椅子や机も備わり食事もできそうで、喫煙所も見受けられる。
そこに、乾巧は横たえて寝かされていた。
村上にしてみればあまりに苛立ちが大きい。
ラッキークローバー候補という期待を裏切るどころか、木場勇治すらも倒しこの手から離したのだ。
一撃で殺したとて気が晴れるかは分からないが、しかし遊んでいれば追手が迫ってくる。ことは早めに済ませてしまうのがいい。
ラッキークローバー候補という期待を裏切るどころか、木場勇治すらも倒しこの手から離したのだ。
一撃で殺したとて気が晴れるかは分からないが、しかし遊んでいれば追手が迫ってくる。ことは早めに済ませてしまうのがいい。
オルフェノクの姿に再度変化し、その腕を振り上げ。
「止めろぉぉぉぉーーーーーーー!!!!」
振り下ろそうとしたその瞬間に、宙を蹴ってきた美樹さやかがこちらに向けて剣の刀身を射出した。
当たったとて大したダメージにはならないがそれが巧に向けた手を止めはするだろうというところまで見切った村上は振り下ろしかけた手で刀身を受け止めた。
当たったとて大したダメージにはならないがそれが巧に向けた手を止めはするだろうというところまで見切った村上は振り下ろしかけた手で刀身を受け止めた。
「一人ですか?先程は二人がかりであれほど苦戦したというのに」
「うるさい!そんなこと分かってるわよ!でも、乾さんはやらせるわけにはいかないから!」
「敵わないと知りながら挑むと?全く、下の下ですね」
「うるさい!そんなこと分かってるわよ!でも、乾さんはやらせるわけにはいかないから!」
「敵わないと知りながら挑むと?全く、下の下ですね」
村上にとって最優先は乾巧の抹殺だが、今目の前に立つこの少女を無視してというのも逆に手間だろう。
まだ子供だが、こちらに向かってくるというのならば相手をしてやるのも大人としての務めか。
まだ子供だが、こちらに向かってくるというのならば相手をしてやるのも大人としての務めか。
さやかに向けて歩み寄る村上、対するさやかは両手に構えた剣を村上に向けて一気に振り下ろした。
◇
「君はやっぱり強いね。僕なんかより全然」
不意にかけられた言葉に、バットが大きく空振った。
「僕は結局、一人でいることに耐えられなかったのかもしれな
「よせよ。俺だってそんな立派なやつなんかじゃねえよ」
「よせよ。俺だってそんな立派なやつなんかじゃねえよ」
もしこいつが思うくらいに強ければ、誰も死ぬことなんてなかっただろう。
啓太郎も、士郎も、マミも、真理も。
啓太郎も、士郎も、マミも、真理も。
「いや、君は十分強いよ。君はそうやって失っていくものを背負っていく強さがあった。
僕には、背負うことはできなかった。だから失った時に前に進むことができなかった」
僕には、背負うことはできなかった。だから失った時に前に進むことができなかった」
背負う強さ。
言われればそうなのかもしれない。それが強いことなのかどうかは別として。
言われればそうなのかもしれない。それが強いことなのかどうかは別として。
ただ、一つだけ訂正しておきたかった。
「俺だって折れそうになったことばっかだよ。
だから、強さってのはたぶんそれだけじゃねえ」
「へえ。じゃあ、何なんだい?」
「それは―」
だから、強さってのはたぶんそれだけじゃねえ」
「へえ。じゃあ、何なんだい?」
「それは―」
ちょっとクサいことを言ってしまうかもしれないが。
自分の言葉を口にした。
「ただ、運が良かっただけだよ。
一人じゃなかった。折れかけた時にも色んなやつが近くにいた、それだけだ」
一人じゃなかった。折れかけた時にも色んなやつが近くにいた、それだけだ」
◇
宙に舞う薔薇がさやかの体を削り取る。
村上が振り下ろした剣がさやかの肩を切り裂く。
追撃に振りかざされた、腹部への拳打。これは受けるわけにはいかないと体を捩って避ける。
村上が振り下ろした剣がさやかの肩を切り裂く。
追撃に振りかざされた、腹部への拳打。これは受けるわけにはいかないと体を捩って避ける。
対してさやかの振り下ろした剣は村上に届かない。
的確に捌かれ、受け止められ、弾き返される。
的確に捌かれ、受け止められ、弾き返される。
さやかは魔法少女の素質は決して低くはない。
だが、目の前にいる存在はオルフェノクの中でも上級に位置する存在。加えてさやかと比べれば戦いに身を投じた期間も圧倒的だった。
技量が、力が足りないならば策を弄してフェイントや搦め手をさやかなりに交えて戦うも、そんな小細工が通じる相手ではない。
だが、目の前にいる存在はオルフェノクの中でも上級に位置する存在。加えてさやかと比べれば戦いに身を投じた期間も圧倒的だった。
技量が、力が足りないならば策を弄してフェイントや搦め手をさやかなりに交えて戦うも、そんな小細工が通じる相手ではない。
投擲した剣が投げ返され、思わず顔を反らすさやか。
顔を上げると視線の先には村上はいない。
その事実に気付いた瞬間、視界の死角、見えない左目の方角から衝撃が走って吹き飛ばされた。
顔を上げると視線の先には村上はいない。
その事実に気付いた瞬間、視界の死角、見えない左目の方角から衝撃が走って吹き飛ばされた。
「その目は治さないのですか?」
「ぐっ……、大きな、お世話よ……」
「ぐっ……、大きな、お世話よ……」
遊ばれているのは分かっていた。
もしやろうとすれば自分のソウルジェムを狙って攻撃するなど容易いはず。これだけの攻防で腹部の一撃だけは避けてきたのだ、流石に気付いていると思う。
もしやろうとすれば自分のソウルジェムを狙って攻撃するなど容易いはず。これだけの攻防で腹部の一撃だけは避けてきたのだ、流石に気付いていると思う。
「全く、哀れですね」
ふと村上が呟く。
憐憫に満ちた口調で出た言葉に思わずさやかの頭に血が昇る。
憐憫に満ちた口調で出た言葉に思わずさやかの頭に血が昇る。
「何がよ、あんたみたいな勝ち目のないやつに向かって必死に戦うのがバカみたいって言いたいの?」
「そうではありませんよ。それほどの不思議な力を持ちながら守る価値もないものを守る戦いを続けるあなたが、ですよ」
「そうではありませんよ。それほどの不思議な力を持ちながら守る価値もないものを守る戦いを続けるあなたが、ですよ」
さやかから視線を外し、横を向いてゆっくりと歩き出す。
一見隙だらけに見えるが、攻撃しようものなら返り討ちにあう自分の姿しか見えず、待機せざるを得なかった。
一見隙だらけに見えるが、攻撃しようものなら返り討ちにあう自分の姿しか見えず、待機せざるを得なかった。
「木場勇治は乾巧よりは自分の為すべきことに早く気付いただけ利口でしたが。いえ、失うまで気付かなかったのはむしろ愚かだったのでしょうか」
静かに声に耳を傾けるさやか。しかし、村上の言葉に思わず拳を握りしめていた。
「人間とは身勝手な生き物です。自分勝手で、愚かしい。幾度も同じ歴史を繰り返しながら学ぶことをしない。
我々オルフェノクはそんな人類とは違う。高みに至った新しい存在です。
そして美樹さやかと言いましたか。あなたのような魔法少女もまた、そんな人間の中に埋もれていく存在ではないはずだ」
「…黙れ、あんたに何が分かるのよ……」
「分かりますとも。あなたはそのまま生きれば、ただの愚か者として消費されて終わるでしょう。
しかしもしもあなたの欲望の方向性を正すことができれば、もっと有用で幸福な生き方ができるはずだ」
我々オルフェノクはそんな人類とは違う。高みに至った新しい存在です。
そして美樹さやかと言いましたか。あなたのような魔法少女もまた、そんな人間の中に埋もれていく存在ではないはずだ」
「…黙れ、あんたに何が分かるのよ……」
「分かりますとも。あなたはそのまま生きれば、ただの愚か者として消費されて終わるでしょう。
しかしもしもあなたの欲望の方向性を正すことができれば、もっと有用で幸福な生き方ができるはずだ」
言葉の中には哀れみと同情が多分に含まれているように思うが、それでも言葉そのものは彼の本心なのだということを、さやかは読み取った。
「…ははっ」
そして思わず愚かしさに笑いがこぼれていた。
村上のことではない。
村上のことではない。
「何がおかしいのです?」
「あんたもたぶん、魔女と一緒なんだって。私達魔法少女が戦いの果てに全てを失ってなり果てる化物」
「あんたもたぶん、魔女と一緒なんだって。私達魔法少女が戦いの果てに全てを失ってなり果てる化物」
村上のいう言葉は木場勇治のそれとあまりに似通ったものだった。
そして、その木場勇治はその弱さを自覚しながらも必死にもがいていた。
そして、その木場勇治はその弱さを自覚しながらも必死にもがいていた。
だが、弱さを自覚した木場勇治に対し目の前の男はそれを弱さと認めず心を捨てて人を襲う化物としての理想を語り続ける。
心どころか人としての全てを失った魔女、弱さ故に人を襲うことを自覚した悲しき魔物。
彼らと比べれば哀れで滑稽に見えた。
心どころか人としての全てを失った魔女、弱さ故に人を襲うことを自覚した悲しき魔物。
彼らと比べれば哀れで滑稽に見えた。
「私を愚弄するつもりですか?」
「だったら教えてあげるわよ、私の戦う理由。
私はただ、守りたいものがあった。それだけなのよ」
「だったら教えてあげるわよ、私の戦う理由。
私はただ、守りたいものがあった。それだけなのよ」
かつて目の前で失った先輩のような悲劇を繰り返さないために。
大切な友達を、愛する人が幸福に暮らせる世界を守るために。
大切な友達を、愛する人が幸福に暮らせる世界を守るために。
ただ小さな願いだった。
感謝なんてされなくてもいい、ただそんな小さな幸せを守りたい。
感謝なんてされなくてもいい、ただそんな小さな幸せを守りたい。
そしてそんな風に戦う男がいた。
ただ、自分と違ったのは彼は何があっても世界を、周りを憎まなかった。全てを自分の手で背負う覚悟があった。
ただ、自分と違ったのは彼は何があっても世界を、周りを憎まなかった。全てを自分の手で背負う覚悟があった。
たぶん自分では手が届かないんだろうと思う。
「だから、そんなふうに戦う巧さんがすごく眩しいって思った。だけど同時にすごく悲しそうって」
もしかしたらマミさんもそうだったのかもしれない。
気づかずに憧れた存在は、遥か遠い手の届かぬほどの人たちだった。
気づかずに憧れた存在は、遥か遠い手の届かぬほどの人たちだった。
だけど。
「だから、そんな人達の力になりたいって、私の正義なんて届かなくても、その人達の背中くらいは、この手で守れるようになりたい。
それが、今私があんたと戦う理由よ!!」
「全く、これだから子供というものは!」
それが、今私があんたと戦う理由よ!!」
「全く、これだから子供というものは!」
手を振るい、薔薇の花弁をこちらへ放る村上。
両腕で体を庇うが、衝撃は強く体を吹き飛ばされる。だが今度は体制を保つことができた。
両腕で体を庇うが、衝撃は強く体を吹き飛ばされる。だが今度は体制を保つことができた。
「夜神月といい、あなたといい。何故こうも私が差し伸べる手を払うのですか」
「敢えていうんだったら…あんたのやり方に”愛”とかが足りないんじゃないの?」
「愛ならありますよ。人間という種を更なる高みへと導こうという思いが」
「それがおかしいって言ってるのよ!」
「敢えていうんだったら…あんたのやり方に”愛”とかが足りないんじゃないの?」
「愛ならありますよ。人間という種を更なる高みへと導こうという思いが」
「それがおかしいって言ってるのよ!」
離された距離を一気に詰めて、両手にした剣で目にも留まらぬ連撃を突き出すさやか。
しかし技術の不足がある多は、研ぎ澄まされた一の剣の突きに打ち返される。
しかし技術の不足がある多は、研ぎ澄まされた一の剣の突きに打ち返される。
弾かれた剣は胴に大きな隙を作る。そして村上の手にした剣は明らかに腹部のソウルジェムを狙っている。
「ああああああっ!!」
叫びながら腕を思い切り振り下ろし、剣の軌道を反らす。
致命傷と引き換えに、両刃の剣は左足を大きく斬り、腕を振り下ろした際に左腕を肘から切断した。
回復が間に合わず踏ん張ることもできぬまま、そのまま掌底で突き崩されるさやか。
致命傷と引き換えに、両刃の剣は左足を大きく斬り、腕を振り下ろした際に左腕を肘から切断した。
回復が間に合わず踏ん張ることもできぬまま、そのまま掌底で突き崩されるさやか。
吹き飛ぶ最中、不意に自分が手にかけた一人の少女のことが思い浮かんできた。
どうしてあんなにも自分のことを気にかけたのか分からなかった魔法少女。
あの時もう少し冷静であったならば、何も殺さずには済んだのではないかという思いは消えない。
どうしてあんなにも自分のことを気にかけたのか分からなかった魔法少女。
あの時もう少し冷静であったならば、何も殺さずには済んだのではないかという思いは消えない。
(やっぱ巧さんみたいに、上手くはできないのかな…)
意識が飛んだのかいつの間にか転がっていた地面を掴むさやか。
その手がふと何かに触れた。
その手がふと何かに触れた。
槍を持った戦士が描かれたカード。確か木場勇治に渡されたバッグに入っていたものだ。
なんとなくだがその槍を持った姿に、一瞬思いを馳せた少女を連想した。
なんとなくだがその槍を持った姿に、一瞬思いを馳せた少女を連想した。
そして思い出したのは、さっきこんなカードを使って戦っていた一人の魔法少女の姿。
今の自分では村上には届かない。だけど、もしあんな風に力を自分も使いこなせれば?
今の自分では村上には届かない。だけど、もしあんな風に力を自分も使いこなせれば?
やり方は見よう見まねでしかないし、そもそも使えるものなのか、使っていいものなのかも分からない。
もし使うことで何か副作用のようなものが出たりするものだったら?
最悪死んでしまうようなことも想像できる。
もし使うことで何か副作用のようなものが出たりするものだったら?
最悪死んでしまうようなことも想像できる。
だけど。
今ここで自分が負けて死ねば、次に殺されるのは間違いなく今眠り続けている彼だろう。もしかしたら、その後はまどかにも危険が及ぶ可能性だってある。
今ここで自分が負けて死ねば、次に殺されるのは間違いなく今眠り続けている彼だろう。もしかしたら、その後はまどかにも危険が及ぶ可能性だってある。
自分の死よりも、その方がずっと怖いと思った。
本当にできるのか?
ルビーが言っていた言葉がふと思い出された。
『迷った時は、自分の中にある声に従って進めばいいんですよ』
そう、私は魔法少女。奇跡を願い希望とした存在。
できると信じている。
できると信じている。
「私は、あんたみたいな、自分の弱さと向き合えないようなやつには、絶対に負けない!
絶対に勝つ、この生命を燃やしてでも!!」
絶対に勝つ、この生命を燃やしてでも!!」
少女の心にはもう、迷いも恐れもなかった。
「――――夢幻召喚!!」
◇
「別に俺一人じゃそんな大層なこと何もできねえんだよ。
でもあいつらがいたから俺はずっと戦ってこれた。ただそれだけだ」
「それが、君の強さの秘密なのかもしれないな」
でもあいつらがいたから俺はずっと戦ってこれた。ただそれだけだ」
「それが、君の強さの秘密なのかもしれないな」
いつしかバットを振るうことを止めていた。
風景もバッティングセンターではない、どこかも分からない真っ白な場所にいるように感じられた。
風景もバッティングセンターではない、どこかも分からない真っ白な場所にいるように感じられた。
「僕は一人で全部背負い込もうとしちゃったんだろうと思う。それは君も同じなのかもしれない。
だけど君は守って守られて。その、何ていうのかな、人としての当たり前のことが自然にできていたんじゃないかな」
「言ってることがクセえよ」
「ははは」
だけど君は守って守られて。その、何ていうのかな、人としての当たり前のことが自然にできていたんじゃないかな」
「言ってることがクセえよ」
「ははは」
ふと、どこからともなく声が聞こえた。
自分に呼びかけているものではない。時折響く体のぶつかるような鈍い音や金属の響く音は誰かと誰かが戦っているようにも聞こえる。
自分に呼びかけているものではない。時折響く体のぶつかるような鈍い音や金属の響く音は誰かと誰かが戦っているようにも聞こえる。
「さて、君はそろそろ起きないといけないんじゃないかな。君の帰りを待ってる人がいるみたいだ」
「かもな」
「かもな」
そう答え、音の聞こえる方に向かう。
何となくだが、この男と会うのはこれが最期なのだと直感していた。ここから出れば、もう会うことはないのだと。
何となくだが、この男と会うのはこれが最期なのだと直感していた。ここから出れば、もう会うことはないのだと。
「じゃあな、木場」
「さよなら、乾くん」
「さよなら、乾くん」
それでもそんな様子をおくびにも出さぬまま、ただ自然な別れの言葉と、突き合わせた拳をぶつけ合うというほんの些細なやり取りで。
乾巧は木場勇治に今生の別れを告げた。
乾巧は木場勇治に今生の別れを告げた。
◇
暗き森の中に突如発生した光に思わず村上の動きが止まる。
光自体は先程にも見たそれと相違ないものだったが、電灯などの灯りがあった市街地と違い闇の色が強い森の中であったことが影響していたのだろう。
光自体は先程にも見たそれと相違ないものだったが、電灯などの灯りがあった市街地と違い闇の色が強い森の中であったことが影響していたのだろう。
「…この光は」
先にあの言葉を唱えた少女は、それまでのものとは異なる、強力な力を持った姿へと変えた。あれはオルフェノクの中でも上位に迫る可能性があったように思う。
であれば、次にその姿を表すのは。
であれば、次にその姿を表すのは。
光の中から紅い刃が突き出される。
見えていたはずのそれは、しかし自身の反応速度ギリギリの速さで突き出され、顔を掠めていく。
見えていたはずのそれは、しかし自身の反応速度ギリギリの速さで突き出され、顔を掠めていく。
光が収まると共に、槍はその中にいるものの手元に戻り、グルリと回って紅き閃光を走らせた。
中から現れた少女の姿、衣装もまた想像に違わず大きく変わっていた。
羽織っていたマントは灰色の獣の皮を連想させる材質になり。
その身に纏っていた少女らしさと騎士らしさを合わせた服装は上半身は青を強調した色合いに、下半身はハーフパンツへと変化。
右腕には手首ほどまでの鋼の手甲が備え付けられている。
羽織っていたマントは灰色の獣の皮を連想させる材質になり。
その身に纏っていた少女らしさと騎士らしさを合わせた服装は上半身は青を強調した色合いに、下半身はハーフパンツへと変化。
右腕には手首ほどまでの鋼の手甲が備え付けられている。
顔つきには変化はないが、眼帯が外れ元の傷一つない瞳が見えている。
(なるほど、先程の少女が遠距離からの攻撃に長けた姿だとすれば、彼女はより接近戦に長けたものとなったということですか)
(できた…)
その自身の変化に最も驚いていたのはさやか自身だったのかもしれない。
自分のものではない何者かの記憶が頭の中に流れ込んでくる。
いや、記憶だけではない、体もまた自分のものではないかのような錯覚を感じるほどに別の何かへと変化したように感じられる。
いや、記憶だけではない、体もまた自分のものではないかのような錯覚を感じるほどに別の何かへと変化したように感じられる。
しかし呆けている暇はなかった。
村上が剣を携えてこちらへと斬りかかる。
だが、今のさやかにはその軌道を見切ることができた。
槍で受け流して弾き返し。それだけに留まらず、返す手で瞬時に槍を振るう。
だが、今のさやかにはその軌道を見切ることができた。
槍で受け流して弾き返し。それだけに留まらず、返す手で瞬時に槍を振るう。
先程までのさやかの剣戟とは比較にならない速度の一撃を防ぎきれずまともに受ける村上。
だがそれだけでは終わらない。
体制を立て直すまでの僅かな隙をつくかのように、力を込めた一撃を突きつける。
一瞬だった故に狙いまでは正確につけられなかったのか、肩と胸の間辺りを貫き青い火の粉を散らす。
だがそれだけでは終わらない。
体制を立て直すまでの僅かな隙をつくかのように、力を込めた一撃を突きつける。
一瞬だった故に狙いまでは正確につけられなかったのか、肩と胸の間辺りを貫き青い火の粉を散らす。
(…まずった……)
決めるつもりで放った一撃だったのだが、得られた力をぶっつけ本番では使いこなせてはいなかった。
さやかのこれまでの戦って見た相手の手数と、クーフーリンの経験、その二つを合わせた結果ある警告をしていた。この力を以ってしても今の自分には村上に届くほどではないと。
さやかのこれまでの戦って見た相手の手数と、クーフーリンの経験、その二つを合わせた結果ある警告をしていた。この力を以ってしても今の自分には村上に届くほどではないと。
もしサーヴァント、クー・フーリンであればクラスに関わらず村上とも互角以上に戦うことができるほどの技量を持っていただろう。
しかしその力を借り受けたさやかは現状お世辞にも練度があるとは言えず、その影響で引き出せている力が限られている状態。
この状態で戦うならば、村上がこちらを舐めているうちに決めねばならなかった。
しかしその力を借り受けたさやかは現状お世辞にも練度があるとは言えず、その影響で引き出せている力が限られている状態。
この状態で戦うならば、村上がこちらを舐めているうちに決めねばならなかった。
その一撃をしくじってしまったのだ。
「…なるほど、少し過小評価が過ぎたようだ。今のあなたには私とて本気を出さねばならないようですね」
嫌な予感は完全に的中してしまった。
剣、拳の間合いを避けるように槍を構えるさやか、しかし村上が腕を振るった瞬間手に衝撃が走って槍が弾き飛ばされた。
村上の手首から伸びた茨状の鞭が手を打ち付けたのだと気付いた時には、村上は既に目の前にいた。
勢い良く振りかざされた腕を、その手に剣を作って防御するも、剣をも打ち砕いてさやかの体を吹き飛ばす。
村上の手首から伸びた茨状の鞭が手を打ち付けたのだと気付いた時には、村上は既に目の前にいた。
勢い良く振りかざされた腕を、その手に剣を作って防御するも、剣をも打ち砕いてさやかの体を吹き飛ばす。
しかし敢えて大きく吹き飛ぶことで距離を図りつつ、更にその手に作り出した剣を空中で蹴り飛ばした。
完全な不意打ちであり村上も虚を突かれていたはずだったが、人のそれを遥かに越えた反射速度で払い除けられてしまった。
逆に呆気に取られたさやかに向けて、今度は村上が手に作り出した青い炎を放出。思わず手で払いのけようとして着地に失敗、地面に転がり込む。
完全な不意打ちであり村上も虚を突かれていたはずだったが、人のそれを遥かに越えた反射速度で払い除けられてしまった。
逆に呆気に取られたさやかに向けて、今度は村上が手に作り出した青い炎を放出。思わず手で払いのけようとして着地に失敗、地面に転がり込む。
「なるほど、技量も上がっていますね。私の機嫌さえここまで損ねなければ、まだ観察対象にはなったでしょうにもったいないものですよ」
「くっ……」
「くっ……」
弾かれた槍の場所は遠い。
剣よりはあれで突く方がより村上に対し傷を負わせられるが、手が届かない。
剣よりはあれで突く方がより村上に対し傷を負わせられるが、手が届かない。
村上はイリヤのように今のさやかも上級オルフェノクに並ぶ存在と称したが、それはあながち間違いではない。
問題は、上級オルフェノク一人では村上を相手にするには手に余るということ。
ラッキークローバーとも戦えるほどの力量になったファイズやカイザであっても二人がかりでギリギリの戦いとなるのだ。
まだ力を使いこなし切れないさやかでは正面からの戦いに勝ち目はない。
問題は、上級オルフェノク一人では村上を相手にするには手に余るということ。
ラッキークローバーとも戦えるほどの力量になったファイズやカイザであっても二人がかりでギリギリの戦いとなるのだ。
まだ力を使いこなし切れないさやかでは正面からの戦いに勝ち目はない。
槍を弾き飛ばした鞭を再度作り出して迫る村上。
――burst mode
そこに幾つもの光線が飛来した。
白い体に火花を散らし、思わず動きを止める。
白い体に火花を散らし、思わず動きを止める。
視線を光線が飛んできた方に向けると、薄暗い闇の中を赤き光と輝く複眼で照らす、携帯型の銃口を向けた戦士が立っていた。
「…ったく、おちおち休めもしねえのかよ」
「巧さん…!」
「何だよその格好。まあいい、そいつはお前の手に余るからよ。後は俺に任せろ」
「何言ってんのよ、そっちは連戦でしょ。私のほうが戦えるんだから、そっちのが休んでてよ」
「じゃあ仕方ねえか。一緒に戦ってもらうぞ。あいつ相手は流石に俺もきついからな」
「巧さん…!」
「何だよその格好。まあいい、そいつはお前の手に余るからよ。後は俺に任せろ」
「何言ってんのよ、そっちは連戦でしょ。私のほうが戦えるんだから、そっちのが休んでてよ」
「じゃあ仕方ねえか。一緒に戦ってもらうぞ。あいつ相手は流石に俺もきついからな」
手に作り出した剣を構えるさやかの隣に並び立つファイズ。
「ファイズの力、あなたの手元に戻ってしまいましたか。全く…」
「あんたとの縁もこれっきりにさせてもらうぜ」
「一応、あなたの口から聞かせてもらいましょう。その力を我々のために振るうつもりはないですか?」
「ざけんな、お前らの仲間になるくらいだったらな、死んだほうがマシだよ」
「そうですか。では、二人仲良く死ぬといい」
「あんたとの縁もこれっきりにさせてもらうぜ」
「一応、あなたの口から聞かせてもらいましょう。その力を我々のために振るうつもりはないですか?」
「ざけんな、お前らの仲間になるくらいだったらな、死んだほうがマシだよ」
「そうですか。では、二人仲良く死ぬといい」
もはや巧に対して思うところはないとばかりに走り寄り掌底を叩き込む村上。
衝撃に下がりながらも、巧は反撃の拳を突き出す。しかし腕一本で防がれ、逆にカウンターの一撃を受けてしまう。
その横からさやかが剣を突き出す。先程より精度の上がった剣撃は容易く防げるものではない、しかしそれを村上は手に持ち出したバスターソードで捌き切る。
衝撃に下がりながらも、巧は反撃の拳を突き出す。しかし腕一本で防がれ、逆にカウンターの一撃を受けてしまう。
その横からさやかが剣を突き出す。先程より精度の上がった剣撃は容易く防げるものではない、しかしそれを村上は手に持ち出したバスターソードで捌き切る。
ファイズポインターを装着したファイズの拳を避け、そのまま蹴り飛ばし。
さやかの剣もまた、受けつつ致命打は避けて受けることでその体を放る。
さやかの剣もまた、受けつつ致命打は避けて受けることでその体を放る。
地面を転がる二人の体。
そのまま、透明な頭から放たれた赤い花弁が二人を襲った。
視界を覆うほどの花弁の攻撃に倒れ伏す巧とさやか。
そのまま、透明な頭から放たれた赤い花弁が二人を襲った。
視界を覆うほどの花弁の攻撃に倒れ伏す巧とさやか。
「…っぅ、啖呵切ったはいいけど、やっぱ強えな…」
「ねえ、巧さん。少しだけ、あいつの動き止められる?」
「ねえ、巧さん。少しだけ、あいつの動き止められる?」
思わず弱音が出てくる巧。しかし先に立ち上がったさやかは相手を見てそう巧に問うた。
「手があんのかよ」
「無理ならあの赤いやつになって戦ってほしいって思うくらい」
「あれ向こうに置いてんだよ。あいつ取りに行かせてくれねえぞ」
「なら、これやるしかないと思う」
「無理ならあの赤いやつになって戦ってほしいって思うくらい」
「あれ向こうに置いてんだよ。あいつ取りに行かせてくれねえぞ」
「なら、これやるしかないと思う」
さやかの閉じられていたはずの眼ははっきりと開き、そこに映る光は自身の敗北ではない、未来に繋がる勝機を見ているように思えた。
なら、応えるしかない。
起き上がりながら巧も頼みを入れる。
なら、応えるしかない。
起き上がりながら巧も頼みを入れる。
「じゃあこっちからも頼みだ。ちょっとでいいからあいつに隙、作ってくれ。ほんのちょっとでいい」
「了解!!」
「何をするつもりかは知りませんが…」
「了解!!」
「何をするつもりかは知りませんが…」
村上の姿が掻き消える。
次の瞬間、二人の間に白い体が現れ、割り込んだ拳が顔面を打ち付けて二人を吹き飛ばす。
別方向に転がる体、そのうち村上が追撃をかけたのはファイズ。
倒れ込んだ体を強引に引き上げて殴りつける。衝撃で巧の体がふらつく。
次の瞬間、二人の間に白い体が現れ、割り込んだ拳が顔面を打ち付けて二人を吹き飛ばす。
別方向に転がる体、そのうち村上が追撃をかけたのはファイズ。
倒れ込んだ体を強引に引き上げて殴りつける。衝撃で巧の体がふらつく。
その背後でさやかが立ち上がる気配を感じた村上。
「やああああああああ!!!!」
ヤケを起こしたかのように叫びながらこちらに駆け寄ってくるさやか。
まだ手があるかのように言っておきながらこれか、と失望感を感じながら、巧の首を掴んだままさやかの方に頭だけを向けて花弁を飛ばす村上。
周囲の視界を覆い、空中に火花が散る。
まだ手があるかのように言っておきながらこれか、と失望感を感じながら、巧の首を掴んだままさやかの方に頭だけを向けて花弁を飛ばす村上。
周囲の視界を覆い、空中に火花が散る。
だが、何故だ。
「…何?!」
何故この少女は未だこちらへ駆ける速度を変えていないのか。
いや、変わるはずもない。そもそも花弁が命中していない。彼女の直前で不自然に逸れていた。
いや、変わるはずもない。そもそも花弁が命中していない。彼女の直前で不自然に逸れていた。
幾つもの姿を持つクー・フーリン、その全てが備えている特性の一つ、矢避けの加護。
視界に捉えているならいかなる飛び道具もその体には当たらないという固有のスキル。
一度目の炎を受けた時は、その能力を信じきれず自分から当たりに行ってしまったため発動させられなかった。しかしこれが逆に存在を村上の認識から反らすことにも繋がっていた。
視界に捉えているならいかなる飛び道具もその体には当たらないという固有のスキル。
一度目の炎を受けた時は、その能力を信じきれず自分から当たりに行ってしまったため発動させられなかった。しかしこれが逆に存在を村上の認識から反らすことにも繋がっていた。
「返ってきて!!」
更に村上の目前まで迫ったさやかは叫び声を上げる。
瞬間、10メートルほど向こうに転がっていた槍がさやかの元に飛来、その手に収まる。
瞬間、10メートルほど向こうに転がっていた槍がさやかの元に飛来、その手に収まる。
村上の中に焦りが生まれる。技量こそ上がっていたが剣の威力はそこまでではなかったため受けても問題はない。
しかしあの槍は別だった。未だに突かれた胸には強い痛みが残り続けているものなのだ。
しかしあの槍は別だった。未だに突かれた胸には強い痛みが残り続けているものなのだ。
物理法則やさやかの戦いから見た経験を越えた現象に反応が遅れ、振りかざされた穂先をまともに受けてしまう。
「がっ……!」
体を大きく斬りつけられたことで、怯み大きく後退する村上。
【Exceed Charge】
そこに電子音が響き渡り、村上の体目掛けて赤いポインタが射出される。
村上の動きがその場に縫い付けられるかのように静止する。
村上の動きがその場に縫い付けられるかのように静止する。
そのポインタの射出元から、巧が飛び上がる。
「はあああああああああっ!!」
「ぬ、ぐぅおおおおおお!!」
「ぬ、ぐぅおおおおおお!!」
縫い付けられた場所で、声を上げながらファイズのクリムゾンスマッシュに抗するローズオルフェノク。
巧の足元から薔薇の花弁が湧き上がり、巧の身を押し戻そうとする。
巧の足元から薔薇の花弁が湧き上がり、巧の身を押し戻そうとする。
数秒の拮抗の後、巧の体が村上を貫く。しかしその瞬間白い体は掻き消える。
身を貫くほんの一瞬前に、村上は薔薇を囮に瞬間移動で避けたのだ。
身を貫くほんの一瞬前に、村上は薔薇を囮に瞬間移動で避けたのだ。
巧の数メートル先横にその身が現れる。
今の直撃を避けるのに力を使ったのか、息を切らせる村上。
今の直撃を避けるのに力を使ったのか、息を切らせる村上。
しかし、村上に息をつく暇はなかった。
着地して振り返った巧の向こう側に映る、槍を構えた少女の姿。
真紅の長槍はさらに赤い気を周囲に放出しながら構えている。
真紅の長槍はさらに赤い気を周囲に放出しながら構えている。
「―――突き穿つ……」
曲げた脚をバネの如く伸ばし、先の巧の飛び蹴りを越える高さまで一気に飛び上がる。
その手の槍の発する魔力――村上の言葉で言うなら気とでも呼ぶか――は遠くからでも感じられるほどに膨れ上がる。
その手の槍の発する魔力――村上の言葉で言うなら気とでも呼ぶか――は遠くからでも感じられるほどに膨れ上がる。
避けようともした。守ろうともした。
しかしほんの一瞬に全てを感じ取った村上は、未来がその先の見えていた。
回避も防御も全てが無意味。あれは、少女の手を離れた瞬間に自分を貫く必殺の槍となるだろうと。
しかしほんの一瞬に全てを感じ取った村上は、未来がその先の見えていた。
回避も防御も全てが無意味。あれは、少女の手を離れた瞬間に自分を貫く必殺の槍となるだろうと。
「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!!!」
村上を中心に鋭角に投げつけられた槍は、一直線に村上へと向けて飛翔。
赤い閃光をほとばしらせ、その白い肉体を突き穿ち、それだけに留まらず地面を大きく抉り取った。
その瞬間、激しい土煙を上げて爆発。
赤い閃光をほとばしらせ、その白い肉体を突き穿ち、それだけに留まらず地面を大きく抉り取った。
その瞬間、激しい土煙を上げて爆発。
着地したさやかは、巧と共に振り返る。
「ガ…ぁ……」
土煙が晴れると、中には地面に突き立った長槍。そして、中でうめき声を上げる村上。
足掻きで守ろうとしたのだろうか、その手で地面に杖として支えるバスターソードは中心から真っ二つに砕けている。
そして、その体は心臓があったと思われる場所には大きな穴が穿たれ、千切れかけた体は大きく歪んで脇の皮膚でかろうじて繋がっているような状態だ。
足掻きで守ろうとしたのだろうか、その手で地面に杖として支えるバスターソードは中心から真っ二つに砕けている。
そして、その体は心臓があったと思われる場所には大きな穴が穿たれ、千切れかけた体は大きく歪んで脇の皮膚でかろうじて繋がっているような状態だ。
千切れた場所からは青い炎をチロチロと発しているが、全身にその炎が回ってはいない。いや、それどころかどうして未だ生きているのか不思議な姿だ。
「が、ああああ……」
叫ぶ声には、死に抗おうという意志を感じさせる。本人の強い気力が命の終着を食い止めているのだろう。
さやかにはその姿は、一見醜いようでその奥に彼なりの強い誇りを感じさせていた。
どうしてその力を巧達のようにもっと良い方向に向けることができなかったのだろうと思ってしまった。
どうしてその力を巧達のようにもっと良い方向に向けることができなかったのだろうと思ってしまった。
「何…故…、あなた達は……」
だからこそ、納得できないのだろう。強い意志で成そうとしたことが潰えることが。
答えを求めているのだ。もう終わりかけている命だからこそ。
答えを求めているのだ。もう終わりかけている命だからこそ。
「何故、あなた達は…、抗えるのか…、戦えるのか…」
何故負けたのか、ではない。
巧は口を開かない。
彼の問いに答える気はないということなのだろう。
彼の問いに答える気はないということなのだろう。
だけど、こうなってまで生きようとする姿に魔女へと変異した巴マミのことを思い出してしまったさやかは、とても哀れなようにも思えてしまった。
だからこそ問いかけに答えた。
さやか自身の言葉で。
さやか自身の言葉で。
「人間、だからよ。魔法少女とかオルフェノクとかそういうのじゃない。
ただ夢や願いを持って、そのために戦って生きる、人間だから」
ただ夢や願いを持って、そのために戦って生きる、人間だから」
見かけではない。
自分も乾巧も、巴マミも木場勇治も、そして目の前にいる村上峡児も。
まどかやL、シロナ達のような人たちと何も変わらない。
もしかしたらあの時自分たちを逃がすために巨人に立ち向かったガブリアスもそういう意味では変わらなかったのだと思う。
まどかやL、シロナ達のような人たちと何も変わらない。
もしかしたらあの時自分たちを逃がすために巨人に立ち向かったガブリアスもそういう意味では変わらなかったのだと思う。
「ふ、は、ははははははははははは!!」
どこにそんな力が残っていたのか分からないほどに大きな声を上げて笑う村上。
同時に、その体から一気に青い炎が吹き上がる。
同時に、その体から一気に青い炎が吹き上がる。
「私のことも人間だと、そういうのですか……。なるほど、実に愚かしい、実にバカバカしい評価だ。
しかし―――」
しかし―――」
村上の脳裏によぎるのは、オーキド博士の最後の言葉。
『人間というものは、いきなりは変われんよ』
あれを聞いた時自分はいきなり変化した自分たちオルフェノクは生命として間違っているとでも言いたいのかと受け取っていた。
だが、きっとそういう意味ではなかったのだろう。
だが、きっとそういう意味ではなかったのだろう。
彼が言いたかったのは、例えどれだけ姿形が変化しようとも本質的には人間であるということ。
その殻は破るには多大な年月を要する。少なくとも今の自分にそれが変えられるほどの時は生きていなかったのだろう。
その殻は破るには多大な年月を要する。少なくとも今の自分にそれが変えられるほどの時は生きていなかったのだろう。
もしかしたらオーキド博士は少女の答えにずっと前から気付いていた、いや、そういう世界で生きてきたのだろう。
人間とポケモン―そうでないものが共に生きる世界で探求を続ける者。
だからこそ人間かどうかなど些細なもの、命を持ち生きるものとして差などなく等価であるとして見ていたのかもしれない。
人間とポケモン―そうでないものが共に生きる世界で探求を続ける者。
だからこそ人間かどうかなど些細なもの、命を持ち生きるものとして差などなく等価であるとして見ていたのかもしれない。
無論そうだと気付いていれば彼とは分かり合えないと手にかけることになっただろうことは想像に易い。
しかしそれに気づかずに、ただ侮辱されたのだと怒りに任せて殺した。
そうしてたかだか10年と少ししか生きていない少女の言葉を聞くまでは彼の言いたかったことすらも意味を取り違えていた。
結果は同じでも、過程が全く異なっている。
しかしそれに気づかずに、ただ侮辱されたのだと怒りに任せて殺した。
そうしてたかだか10年と少ししか生きていない少女の言葉を聞くまでは彼の言いたかったことすらも意味を取り違えていた。
結果は同じでも、過程が全く異なっている。
愚かなのは自分の方だろう。
「気付かなかった私も、尚愚かだったということか。あなた達にも、負けるわけだ――」
そうして、敗北の理由を悟ったローズオルフェノクの体は灰になって崩れ落ちていった。
「………」
村上の体は消滅し、残ったのは武器である紅い槍のみ。
この手で敵を倒したのだということを実感する。
だけど爽快感などなかった。ただあるのは、明確に一つの命を奪ったのだという認識だけ。
例え相手がどんなものだったとしても、やはり奪った命は重かった。
この手で敵を倒したのだということを実感する。
だけど爽快感などなかった。ただあるのは、明確に一つの命を奪ったのだという認識だけ。
例え相手がどんなものだったとしても、やはり奪った命は重かった。
かつて誤って手にかけてしまった佐倉杏子のそれと、何ら変わりない。
「おい、大丈夫か?」
物思いに耽っていた時間は僅かだったと思うが、それでも心配はさせてしまったらしい。
巧が呼びかけた声で我に返る。
巧が呼びかけた声で我に返る。
「大丈夫よ。うん、大丈夫。
それよりイリヤ達の方に戻らないと。あっちでもたぶん戦いが始まってるから」
「あいつ、来てるのか」
「うん、さっきイリヤと美遊の二人と合流したんだけど、こいつとあと変な影が出てきて。
二人はたぶん影と戦ってると思う。あっちの助けにもいかないと」
それよりイリヤ達の方に戻らないと。あっちでもたぶん戦いが始まってるから」
「あいつ、来てるのか」
「うん、さっきイリヤと美遊の二人と合流したんだけど、こいつとあと変な影が出てきて。
二人はたぶん影と戦ってると思う。あっちの助けにもいかないと」
そこまで言ったところで、一息ついた影響か気が抜け、体からカードが排出される。
魔法少女の姿を飛び越えて見滝原の制服まで一気に戻る。
魔法少女の姿を飛び越えて見滝原の制服まで一気に戻る。
手元にないソウルジェムを探すと、紅い槍が刺さっているところに転がっていた。
無自覚だったが自分の命を武器に変換して戦っていたらしい。ゾッとしないでもないことだ。
無自覚だったが自分の命を武器に変換して戦っていたらしい。ゾッとしないでもないことだ。
ソウルジェムの色はかなりの濁りが生じている。
さらに。
さらに。
「………」
その石の表面に、僅かに亀裂が見える。
さやかは知る由もないことだが、クラスカードによる夢幻召喚は自身の存在を英霊のそれに上書きするもの。
そしてさやかの場合は使用法も分かっていない見よう見真似での再現であったことも影響してか、ソウルジェムそのものを触媒として用いてしまっていた。
だが英霊の力は膨大であり、例えば衛宮士郎は自分自身とも呼べる存在から腕を移植し力を借り受けただけでも自身の肉体や精神に大きな負荷をかけた。
無論クラスカードがそこまでのものでないことはイリヤや美遊達自身が証明しているが、ソウルジェムを触媒とした点がいいやり方ではなかった。
精神化している魂であれば多少のことは問題とはならなかっただろうが、物質化した魂に負荷をかけたことで物理現象としてソウルジェムに影響を与えてしまった。
そしてさやかの場合は使用法も分かっていない見よう見真似での再現であったことも影響してか、ソウルジェムそのものを触媒として用いてしまっていた。
だが英霊の力は膨大であり、例えば衛宮士郎は自分自身とも呼べる存在から腕を移植し力を借り受けただけでも自身の肉体や精神に大きな負荷をかけた。
無論クラスカードがそこまでのものでないことはイリヤや美遊達自身が証明しているが、ソウルジェムを触媒とした点がいいやり方ではなかった。
精神化している魂であれば多少のことは問題とはならなかっただろうが、物質化した魂に負荷をかけたことで物理現象としてソウルジェムに影響を与えてしまった。
「どうした?」
「う、ううん。大丈夫、何でもない。ちょっと急ごう、私も走るから」
「ああ、頼んだ。そういやお前、その目治ったのか?」
「え?あれ?本当だ、治ってる」
「う、ううん。大丈夫、何でもない。ちょっと急ごう、私も走るから」
「ああ、頼んだ。そういやお前、その目治ったのか?」
「え?あれ?本当だ、治ってる」
亀裂の入ったソウルジェムを隠しながら、グリーフシードでソウルジェムを浄化、魔力を回復させながら、瞳の前に手をやるさやか。
確かに目の傷が治っている。
クロに切られて以降ずっと治らないと思っていたものだったのだが。
確かに目の傷が治っている。
クロに切られて以降ずっと治らないと思っていたものだったのだが。
「まあいい。それよりあいつらのところだ。
案内頼めるか」
「分かった。ちゃんとついてきなさいよ」
案内頼めるか」
「分かった。ちゃんとついてきなさいよ」
そう言って再度魔法少女へと変身したさやかは、ファイズに変身したままの巧と共に走り出した。
元より戦うことに命をすり減らすのは覚悟の上だ。それ自体はこの戦いのずっと前から意識していたのだから。
ただ、今死ぬわけにはいかない。まだやるべきことが自分の中に残ってる気がしたから。
ただ、今死ぬわけにはいかない。まだやるべきことが自分の中に残ってる気がしたから。
【村上峡児@仮面ライダー555 死亡】
◇