朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2
「砲撃(シュート)!!」
美遊が空中を跳びながら巨人に向けて魔力の砲撃を撃ち出す。
しかし影は怯む気配すら見せずにこちらを捉えようと触手を動かし続ける。
しかし影は怯む気配すら見せずにこちらを捉えようと触手を動かし続ける。
動きは速くなく、カレイドの力を持ってすれば避けられるものだが、少し触れただけでも魔力の減衰が早まる。
もし万が一にでも捕まってしまったら。そのプレッシャーは大きい。
もし万が一にでも捕まってしまったら。そのプレッシャーは大きい。
「イリヤ!!」
「大丈夫!だけどこのカードとは相性が悪い…」
「大丈夫!だけどこのカードとは相性が悪い…」
イリヤもまた同じ状況。
こちらの放つ魔力弾を越えた砲撃を幾度も放っているが、それでもびくともしない。
『あの巨人は純粋な魔力の塊です。高い神秘を兼ね備えた宝具クラスの攻撃であればまだしも、通常の魔力の攻撃では…』
「やっぱり、操っている本人を…」
「お願い、それは待って!もう少し頑張るから!」
「やっぱり、操っている本人を…」
「お願い、それは待って!もう少し頑張るから!」
操っている本人。それは今離れたところで戦う二人、正確に言えばイリヤの姿を見ている少女。
瞳に強い憎悪の感情を宿らせた影の統制者、間桐桜。
瞳に強い憎悪の感情を宿らせた影の統制者、間桐桜。
時を少し巻き戻す。
「あなたは、誰なんですか?」
影を避けたイリヤに向けて投げかけられた問いかけ。
今にして思えば、この時の影にはまだ殺意はなかったように思える。
問いかけ通り、巨人に捕まえさせて自分が誰なのかを確かめたかったのだろう。
無論実際に捕まったならばそれだけではすまず魔力を軒並み吸収されていただろうが。
今にして思えば、この時の影にはまだ殺意はなかったように思える。
問いかけ通り、巨人に捕まえさせて自分が誰なのかを確かめたかったのだろう。
無論実際に捕まったならばそれだけではすまず魔力を軒並み吸収されていただろうが。
「あなたは、間桐桜さん、ですよね?」
こちらを知らない相手に対し、こちらは相手のことを知っていた。
セイバーからその存在を聞いていて、更にこの人が夜神総一郎という人を消滅させるところも見ている。
セイバーからその存在を聞いていて、更にこの人が夜神総一郎という人を消滅させるところも見ている。
「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン!たぶんあなたの知ってるその人じゃないけど…!」
名乗り上げると同時に、巨人の動きが止まる。
「何なんですかあなたは…。私の知るイリヤさんはもっと…」
「うん、分かってます。あなたが知ってるその人とは違うんだって。
だけど、そんなことより今は聞いてほしいんです、士郎さんのこと」
「うん、分かってます。あなたが知ってるその人とは違うんだって。
だけど、そんなことより今は聞いてほしいんです、士郎さんのこと」
そう言って桜の近くに寄るイリヤ。
距離はあるが声は張り上げなくても届くような位置だ。
距離はあるが声は張り上げなくても届くような位置だ。
『イリヤさん、これ以上近寄ると…』
「分かってる。だからたぶんここが限界。これ以上は、今は。
だけど大丈夫、話すだけだから…!」
「分かってる。だからたぶんここが限界。これ以上は、今は。
だけど大丈夫、話すだけだから…!」
彼女を見た時最初に目についたのはその瞳。
さっきの映像の中にいた彼女の目もまた強い虚無を感じたが、そこに狂気が同居していた。
対して今は強い虚無は感じられるがそれだけだ。意志と思えるものがあまりに希薄だった。
さっきの映像の中にいた彼女の目もまた強い虚無を感じたが、そこに狂気が同居していた。
対して今は強い虚無は感じられるがそれだけだ。意志と思えるものがあまりに希薄だった。
さっきと今、その間に何があったのか。
イリヤには想像は容易かった。
きっと放送を聞いて、衛宮士郎の死を知ったからだろう。
きっと放送を聞いて、衛宮士郎の死を知ったからだろう。
言葉を間違えないように、ゆっくりと口を開く。
話さねばならないことだ。向き合わなければならないことだ。
彼のことを最も知りたがっているのはきっと彼女なのだろうから。
彼のことを最も知りたがっているのはきっと彼女なのだろうから。
「先輩のこと、知ってるんですか?」
桜の瞳に僅かだが光が宿る。
その様子に、もしかすると彼女を救えるかもしれないと希望を抱く。
その様子に、もしかすると彼女を救えるかもしれないと希望を抱く。
下手な言葉の装飾など無意味だろうと、単刀直入に切り出したイリヤ。
「士郎さんは、私を守って…死にました」
今のイリヤは冷静に努めようとはしていたが、やはりそうではなく相手の感情の機微を察することまではできていなかった。
衛宮士郎の件に意識を囚われすぎ、間桐桜の現状を把握することを怠っていた。
いや、意識が向かなかったというべきか。
衛宮士郎の件に意識を囚われすぎ、間桐桜の現状を把握することを怠っていた。
いや、意識が向かなかったというべきか。
もし正確に言うのならば、背負った重すぎるものをどうにか軽くしたいということに頭が行き過ぎていたのかもしれない。
決して戦士ではない10歳の少女に対しそれを責めるのは酷だろう。
だが、結果だけ言うならばそれは悪手だった。
決して戦士ではない10歳の少女に対しそれを責めるのは酷だろう。
だが、結果だけ言うならばそれは悪手だった。
「そう…」
「だけど、士郎さんは――」
「あなたが、私から先輩を奪ったんですね…」
「だけど、士郎さんは――」
「あなたが、私から先輩を奪ったんですね…」
◇
イリヤの短い言葉。イリヤであって桜の知るイリヤではない。
魔術の基礎的教養も受けていない間桐桜には魔術、魔法的な平行世界についての概念を持たない。
しかしこの殺し合いの場で出会った数々の人やモノと出会った。オルフェノクや魔法少女、ポケモン、そして姉の臭いを感じさせてくる少女。
見たことも聞いたこともない、しかし確かに目の前にあった彼らとの経験は、目の前のイリヤもそういった世界を越えた何処かにあるものなのだという考えに至るには十分だった。
しかしこの殺し合いの場で出会った数々の人やモノと出会った。オルフェノクや魔法少女、ポケモン、そして姉の臭いを感じさせてくる少女。
見たことも聞いたこともない、しかし確かに目の前にあった彼らとの経験は、目の前のイリヤもそういった世界を越えた何処かにあるものなのだという考えに至るには十分だった。
そして、舞い降りてきた少女はホムンクルスではない、年相応の女の子に見えた。
もしかしたらあの可哀想と思った少女がただの少女として生きた、そんな場所もあったのかもしれない。
もしかしたらあの可哀想と思った少女がただの少女として生きた、そんな場所もあったのかもしれない。
それが目の前にいることがどれほどおかしいかなど、魔術教養がない桜には思い至れない。
別にそれが事実ならばそれでいい。気になっていただけで個人としての興味はそれで終わる。
そのはずだった。
そのはずだった。
衛宮士郎は、この少女を守って死んでいった。
その言葉を聞いた時、桜の心中に湧き上がってきたのは強い怒り、憎悪、そして妬みだった。
もしかすると遠坂凛、姉に対するそれにかなり近かったのかもしれない。
もしかすると遠坂凛、姉に対するそれにかなり近かったのかもしれない。
見た目通りに相応に、幸福に生きた少女が、自分を選んでくれた人を奪った。
虚無の心が激しい感情に埋め尽くされていくのもそう時間がかからなかった。
虚無の心が激しい感情に埋め尽くされていくのもそう時間がかからなかった。
◇
『イリヤさん危ない!』
咄嗟のことでルビーすらもそう叫ぶことしかできなかった。
その声でただ反射的に宙に飛び上がるイリヤ。
桜の足元の影が帯のように形作り、イリヤのいたところを貫くように通り過ぎていったのはその一瞬後だった。
桜の足元の影が帯のように形作り、イリヤのいたところを貫くように通り過ぎていったのはその一瞬後だった。
「あれは…」
『虚数空間、先程の影と同質のものです。あれを出したということは、影を操っていたのは彼女で確定です』
『虚数空間、先程の影と同質のものです。あれを出したということは、影を操っていたのは彼女で確定です』
サファイアは解説するも、その可能性は間桐桜を目にした時から美遊は考えていた。いや、普通は考えるだろうし、実際に映像を見ていたというイリヤなら尚更だろう。
イリヤの元へと跳び、影の伸ばす触手を魔力弾で弾き飛ばす。
魔力はすぐに吸収されて消滅するも、勢いまでは殺しきれずに後ろにはためき、その隙にイリヤは美遊の傍まで飛び退く。
魔力はすぐに吸収されて消滅するも、勢いまでは殺しきれずに後ろにはためき、その隙にイリヤは美遊の傍まで飛び退く。
そんな二人を追うかのように、先程現れた巨人は触手を伸ばしてこちらを捕えんとしている。
飛ぶ先を縫うように覆ってくる触手を一つ、また一つと避け、射程外まで飛び退く。
飛ぶ先を縫うように覆ってくる触手を一つ、また一つと避け、射程外まで飛び退く。
「イリヤ、やっぱりあの人と話すのは危険…!」
「ごめん美遊、でもやっぱり諦めきれない……」
「ごめん美遊、でもやっぱり諦めきれない……」
悔しげに表情を歪めるイリヤ。
だが、戦う意思がないわけではない様子で、更に迫ってくる巨人に対してはその手の杖を構える。
だが、戦う意思がないわけではない様子で、更に迫ってくる巨人に対してはその手の杖を構える。
「まずはこの巨人を倒してから!だからお願い、桜さんを狙うのは待って!」
おそらく桜を直接狙った方が楽にこの場を乗り越えられるだろう。彼女の付近にも影はあるが、巨人と比べればまだ対処し易い。
それでもイリヤは、困難な道を選んでいる。
それでもイリヤは、困難な道を選んでいる。
背負い過ぎている、とも思ったが、しかしイリヤの本質は変わっていないことを感じ取り、安堵する美遊。
ならば、その背中を守るのは自分の役目だ。
ならば、その背中を守るのは自分の役目だ。
「…分かった。だけどもしイリヤに本当に危険が及んだら、その時はたぶん約束は守れない」
「大丈夫、私だって、まだ戦える!!」
「大丈夫、私だって、まだ戦える!!」
杖を掲げ、宙に多数の魔法陣を生み出すイリヤ。
美遊はそんなイリヤを守るように、迫る巨人の触手を牽制。
美遊はそんなイリヤを守るように、迫る巨人の触手を牽制。
そうして今へと至る。
いくら攻撃をしてもそもそもが膨大な魔力の塊であるあの巨人にはまるで巨大な湖に小さな石を投じたほどの影響しか与えられない。
いくら攻撃をしてもそもそもが膨大な魔力の塊であるあの巨人にはまるで巨大な湖に小さな石を投じたほどの影響しか与えられない。
目の前の相手を完全に打ち倒すには、それこそ宝具クラスの火力が必要になる。
今手元にあるのはライダーのカード。
イリヤの持っているアサシンは火力不足。アーチャーは可能かもしれないが―――
今手元にあるのはライダーのカード。
イリヤの持っているアサシンは火力不足。アーチャーは可能かもしれないが―――
「イリヤ、アーチャーのカードだといけそう?」
「分からない、たぶん使ってみれば何か浮かぶかもしれないけど…」
「分からない、たぶん使ってみれば何か浮かぶかもしれないけど…」
アーチャーのカードは飛行能力を失う。
今地面に足をつければ地からの影の襲撃が激化し、巨人との攻撃も合わせての対処となると危険度が高い。
それに気付いた時美遊はイリヤがアーチャーを使うことを制止していた。
今地面に足をつければ地からの影の襲撃が激化し、巨人との攻撃も合わせての対処となると危険度が高い。
それに気付いた時美遊はイリヤがアーチャーを使うことを制止していた。
有効打とならないと分かっていながらも今イリヤがキャスターを夢幻召喚し続けている理由の1つはそこだろう。
現状このカードであれば、イリヤの攻撃より火力を出せ、尚且つ飛行能力を備えている。
現状このカードであれば、イリヤの攻撃より火力を出せ、尚且つ飛行能力を備えている。
あるいはセイバーのカードのように超火力が備わったものであれば、飛行能力の喪失を埋めるほどの一撃が放てたかもしれないが。
そういう意味では、美遊の持つライダーのカードにはそれがないわけではなかった。
だが、あれは英霊の力の天敵、触れれば正規の英霊は正気を失い闇に侵されるというステッキたちの警告が使用を思いとどまらせていた。
あのセイバーを黒き騎士王へと変化させていたという力だ。もし宝具による突撃をしくじればこちらの精神ごと泥に侵される危険性がある。
あのセイバーを黒き騎士王へと変化させていたという力だ。もし宝具による突撃をしくじればこちらの精神ごと泥に侵される危険性がある。
だが、現状で思いつく最良の手段はそれしかない。
隙を見せれば嫌な予感が脳裏をひたすらによぎる。血を流して倒れたまま二度と動かなくなったロロの姿、瞳を閉じたら二度と戻らなくなった結花の最後の姿。
ここでこの大切な友だけは失うわけにはいかない。
ここでこの大切な友だけは失うわけにはいかない。
(…やるしか、ないか…!)
触手を避けて小型の魔力弾を3発放つ美遊。
狙ったのは巨人ではない。それを操っているのだろう間桐桜。
狙ったのは巨人ではない。それを操っているのだろう間桐桜。
狙い澄ましたわけではなくただ周辺にでも命中すればいいと妥協した程度のもの。
しかし意識をそれに向けることに成功はしたらしい。影は魔力弾を払い落とさんを腕を振るう。
2発は消滅するも、残った1つは桜のすぐ足元に着弾し土煙をあげた。
手で前を防ぎつつも、追撃を警戒してか美遊からは視線を逸らさなかった桜。
しかし意識をそれに向けることに成功はしたらしい。影は魔力弾を払い落とさんを腕を振るう。
2発は消滅するも、残った1つは桜のすぐ足元に着弾し土煙をあげた。
手で前を防ぎつつも、追撃を警戒してか美遊からは視線を逸らさなかった桜。
その視線の先の少女は夜闇にはっきりと聞き取れる声で一説の言葉を詠唱。
次の瞬間光に包まれ、蒼色の魔法少女の姿は別のものへと変化していた。
次の瞬間光に包まれ、蒼色の魔法少女の姿は別のものへと変化していた。
「……!何で、あなたが、それを…」
彼女の呟いた言葉には、その姿をとった少女に対する強い感情が感じられた。
ライダー・メドゥーサの力をその身に宿した美遊は、天馬の背に乗り空に一陣の光を奔らせる。
「イリヤ!」
「分かった、出来る限り支援するから!」
「分かった、出来る限り支援するから!」
狙いを悟ったイリヤは咄嗟に後方に下がりつつ魔法陣を宙に描く。
美遊は眼帯を外し、まっすぐに敵、影の巨人を見据える。
巨体の動きがほんの僅かに鈍くなる。
美遊は眼帯を外し、まっすぐに敵、影の巨人を見据える。
巨体の動きがほんの僅かに鈍くなる。
石化の魔眼の重圧。
しかし膨大な魔力を持った巨人相手では石化はできず、せいぜいがほんの僅かに動きを劣らせる程度にしかならない。
しかし膨大な魔力を持った巨人相手では石化はできず、せいぜいがほんの僅かに動きを劣らせる程度にしかならない。
故に、イリヤは魔法陣から赤き魔力の竜巻をその上から放出。
石化の魔眼に大魔術による拘束、二重の縛りにより巨人の動きが完全に止まる。
石化の魔眼に大魔術による拘束、二重の縛りにより巨人の動きが完全に止まる。
蠢く巨人。しかし触手を僅かに動かすだけがせいぜい。
「急いで美遊!あとちょっとしか持たない!」
だが、その拘束も長くは続かない。巨人はイリヤの魔法陣の魔力を吸収し束縛を緩めている。
「分かった!サファイアお願い!」
『了解しました!』
『了解しました!』
一気に天馬は高く飛翔。
そのまま空から閃光を纏ったまま勢いをつけて巨人に向けて突撃をかける。
そのまま空から閃光を纏ったまま勢いをつけて巨人に向けて突撃をかける。
「騎英の手綱(ベルレフォーン)!!」
その突撃は巨人の中心を穿ち、体に巨大な穴を空ける。
体のバランスを崩した巨人は、魔力を霧散させながら体を崩壊させていく。
体のバランスを崩した巨人は、魔力を霧散させながら体を崩壊させていく。
だが、美遊も全くの無事というわけではなかった。
宝具を使用しているとはいえ接触は一瞬のつもりだったが、黒き魔力に触れたペガサスはその頭から少しずつ色を黒化させ消滅していく。
宝具を使用しているとはいえ接触は一瞬のつもりだったが、黒き魔力に触れたペガサスはその頭から少しずつ色を黒化させ消滅していく。
ペガサスでの追撃はできないと判断した美遊は、眼帯を掛け直してペガサスから飛び降りる。
そのまま身軽な身のこなしで小さな影が震わせる触手を回避。
そのまま身軽な身のこなしで小さな影が震わせる触手を回避。
間桐桜とのすれ違いざまに鎖をその体に巻きつけて縛り上げた。
「お願い、大人しくして。話を聞いて。
イリヤがあなたと話したがってる」
「………」
「…?」
イリヤがあなたと話したがってる」
「………」
「…?」
縛った体が、呼びかけても全く反応しない。
不審に思い振り返る美遊。
不審に思い振り返る美遊。
「私から先輩だけじゃなく、ライダーまで奪うのね…」
「何を言ってるの?」
「何を言ってるの?」
言葉の意味を問う美遊。ふと桜の手に目をやった時に、その手に握られたものに視線を奪われた。
異形の頭部を持った、細身の怪物が描かれたカード。
「クラスカード…!?」
「夢幻召喚」
「夢幻召喚」
◇
「時に桜さん、このようなカードに見覚えはありますか?」
「……、これは…?」
「支給品の1つに入っていたのですが、私には使い方が分からなかったもので」
「バーサーカー……?」
「心当たりがあるのですか?」
「聞いたことは、あります」
「そうですか。もしかするとこれは、あなたに縁のあるものなのかもしれない。お譲りしましょう」
「……、これは…?」
「支給品の1つに入っていたのですが、私には使い方が分からなかったもので」
「バーサーカー……?」
「心当たりがあるのですか?」
「聞いたことは、あります」
「そうですか。もしかするとこれは、あなたに縁のあるものなのかもしれない。お譲りしましょう」
◇
正直、村上にそれを譲られた時には使い方も分からなかった。
別に捨てる理由もなかったが、手元にあってもどうしようもない。
別に捨てる理由もなかったが、手元にあってもどうしようもない。
そういえばほんの一時、似たようなカードを拾って持っていたことがあった気もした。
だが、全ては瑣末なこと。
ずっと意識の底に捨てて、忘れかけてもいた。
ずっと意識の底に捨てて、忘れかけてもいた。
蝶を連想する少女が、その姿に変わるまでは。
その瞬間に使い方を理解してしまった。
そして、同時に目の前にいる少女に対して、強い敵愾心も湧き上がってきた。
そして、同時に目の前にいる少女に対して、強い敵愾心も湧き上がってきた。
例えばその力が衛宮士郎のために振るわれるならいい。
例えば間桐慎二の力になったとしても、平時であれば戦うことを放棄していた自分は気にも留めないだろう。
例えば間桐慎二の力になったとしても、平時であれば戦うことを放棄していた自分は気にも留めないだろう。
だが、強い孤独を、虚無を感じ、かろうじて憎悪によって自身の意識を支えている今の桜には、見ず知らずの他人にその力を使われることにはあまりに嫉妬が大きかった。
それだけではない。
瑣末と切り捨てていたことだが、忘れてはいなかった。あのカードを自分の手元から奪ったのは、あの姉によく似た金髪の女だ。
瑣末と切り捨てていたことだが、忘れてはいなかった。あのカードを自分の手元から奪ったのは、あの姉によく似た金髪の女だ。
偶然のはずなのに、イリヤの件を知った後ではまるで運命のいたずらのように感じてしまう。
許せない。
そうやって私から何もかもを奪っていくんだ、と。
そうやって私から何もかもを奪っていくんだ、と。
噴出した思いは留まることを知らず。
気がつけば体は自然に動いていた。
ほんの僅かに見えたカードを使う姿、それだけで十分だった。
気がつけば体は自然に動いていた。
ほんの僅かに見えたカードを使う姿、それだけで十分だった。
できるのかどうか、などに迷いはなかった。むしろできないなどという思いがなかった。
そうして、間桐桜はかつて自分を染め上げたデルタギアを越える狂気に身を窶していく―――
◇
何が起こったのかを美遊が認識したのは、体が地面に倒れた時にようやくだった。
胸に奔った痛みを感じた時にようやく、縛ったはずの鎖が千切れ、叩き込まれた拳で体が吹き飛んだのだということを思い出した。
「美遊?!」
イリヤの叫び声と、自分に近寄る足音が美遊の耳に届く。
間桐桜のものであるということは分かっているはずなのに、その歩みに同期して鎧がぶつかるような音がなることが美遊を混乱させた。
間桐桜のものであるということは分かっているはずなのに、その歩みに同期して鎧がぶつかるような音がなることが美遊を混乱させた。
顔を上げると、そこにいた少女の姿はさっきまでの影を纏った姿とは大きく変わっていた。
体は腕や足、胸部を覆う黒い鎧に包まれ、顔は上半分を兜に隠されている。黒く鼻の下辺りまでを覆い、目は赤く光るバイザーの奥にありこちらからその表情を伺うことはできない。
兜の後ろから白い長髪をたなびかせながら美遊の元へと迫っている。
兜の後ろから白い長髪をたなびかせながら美遊の元へと迫っている。
(何…?このカードは…)
このような英霊は知らない。カードの存在も、英霊と戦った記憶もない。
(まさか…、凛さんが言っていた8枚目のカード…?!)
だとすればまずい。
正体の分からない英霊の力、どんな能力を、宝具を持っているのかも把握できない。
正体の分からない英霊の力、どんな能力を、宝具を持っているのかも把握できない。
起き上がり撤退のための牽制として釘を構えて飛びかかる。
肩と脇腹を狙った一撃。致命傷となるのは避けるが動きを止めさせる程度のダメージを与えるためのもの。
しかし桜はそれを的確に捌き、逆にこちらの手を絡め取る。
ならば、と身をかがめて足払いを放とうと足を突き出すが、飛んで回避されてしまう。だが想定通り、それはこちらの手を放させるための囮。
離れた隙に飛び退こうと地を蹴り跳び上がる。
肩と脇腹を狙った一撃。致命傷となるのは避けるが動きを止めさせる程度のダメージを与えるためのもの。
しかし桜はそれを的確に捌き、逆にこちらの手を絡め取る。
ならば、と身をかがめて足払いを放とうと足を突き出すが、飛んで回避されてしまう。だが想定通り、それはこちらの手を放させるための囮。
離れた隙に飛び退こうと地を蹴り跳び上がる。
その時美遊の体が宙で急に停止する。
思わず振り返ると、手に持っていた釘に備えついた鎖が相手の腕に絡まっている。
あのような絡み方をする攻撃はしていない。おそらくはこちらの攻撃を受け止めた際、素早く鎖を絡め取ったのだろう。
あのような絡み方をする攻撃はしていない。おそらくはこちらの攻撃を受け止めた際、素早く鎖を絡め取ったのだろう。
それが瞬時にできるとするのであれば、あのカードの英霊はとてつもない技量を持っていることになる。
鎖が引き寄せられた気配を感じた美遊は咄嗟に手を放すが、判断が一瞬遅かった。引き寄せられた慣性は止まらず地面へと叩き付けられた。
「がっ…」
急な視界の反転による平衡感覚のブレと体を襲った衝撃で動きが止まる。
『――美遊様!』
美遊の手から離れた鎖は桜の手元でサファイアの姿に戻る。
桜の手から逃れて逃げようとするが、その手から噴出した黒い霧がサファイアを包み込み逃すことを許さない。
桜の手から逃れて逃げようとするが、その手から噴出した黒い霧がサファイアを包み込み逃すことを許さない。
『こ、これは…この英霊の宝具…?』
『サファイアちゃん!?』
「二人から離れて!!」
『サファイアちゃん!?』
「二人から離れて!!」
二人の距離が近すぎることもあって攻撃を躊躇っていたイリヤ。しかしここに来てそれでもやらねばならない局面と判断し、杖から魔力弾を射出。
『えっ?!』
サファイアの驚愕の声と共に、桜の手元のサファイアが魔力の刃を形成する。
撃ち込んだ魔力弾は、その刃によって全てが切り払われる。
撃ち込んだ魔力弾は、その刃によって全てが切り払われる。
『ちょっとサファイアちゃん何やってるんですか!?』
『私じゃない!魔術礼装としての機能の制御が、奪われてる…』
『私じゃない!魔術礼装としての機能の制御が、奪われてる…』
「ひらひらひらひら、羽虫みたいで鬱陶しいですね…」
バイザーの光が強まったと思うと、その敵意を明確にイリヤへと集中させる。
地を蹴って一気にイリヤの元へと飛びかかる。それなりの高さにいたはずのイリヤへと届き、バイザー越しの奥の目が見えるほどに目前まで迫った。
そのまま腕を捕まれ、一気に地面へと振り落とされる。
地を蹴って一気にイリヤの元へと飛びかかる。それなりの高さにいたはずのイリヤへと届き、バイザー越しの奥の目が見えるほどに目前まで迫った。
そのまま腕を捕まれ、一気に地面へと振り落とされる。
「きゃあっ!!」
地面に思い切り叩き付けられた衝撃で夢幻召喚が解除され元の魔法少女の衣装へと姿が戻る。
「やっぱりイリヤさんにそっくり。そっくりだからこそ、すごく憎らしい」
着地した桜は、間髪入れずに最接近、黒き篭手に覆われた腕をイリヤへと振り上げる。
防壁を張る間もなくその小柄な体が吹き飛ぶ。
防壁を張る間もなくその小柄な体が吹き飛ぶ。
「本当にイリヤさんじゃないんですね。イリヤさんだったら今ので死んでたんじゃないかってくらいに貧弱だったのに」
「っ…、痛い…」
「っ…、痛い…」
痛みに呻くイリヤ。しかし足を止める暇はない。
周囲にまた影の触手が蠢き、イリヤを捕えんと飛びかかる。
周囲にまた影の触手が蠢き、イリヤを捕えんと飛びかかる。
安全地帯へと飛び上がろうとしたところで、今度は桜が肉薄してくる。空へと逃げる暇がない。
「あなた、確か話がしたいんでしたよね。だったら、しましょうか。お話を」
『イリヤ様、逃げてください!』
『サファイアちゃん放置して逃げるとかできないですよ!』
『私なら大丈夫です!機能は奪われてますが、精霊の人格までは乗っ取れないみたいです。
私は隙を見て逃げますから、ですから今は美遊様を連れて逃げて!』
『イリヤ様、逃げてください!』
『サファイアちゃん放置して逃げるとかできないですよ!』
『私なら大丈夫です!機能は奪われてますが、精霊の人格までは乗っ取れないみたいです。
私は隙を見て逃げますから、ですから今は美遊様を連れて逃げて!』
ならば美遊の元へと急ごうとしたイリヤだが、その先に立ちふさがるかのように桜が迫る。
ゾッとする気配を間近で当てられ、足を止めてしまうイリヤ。
その足元を、影の触手が掴んだ。
その足元を、影の触手が掴んだ。
「捕まえた」
「いっ……、離して…!」
「いっ……、離して…!」
捕まった場所から徐々に力が抜けていく。
魔力、生命力を吸収されている。このまま吸収され続ければ動く体力もなくなりやがて吸収能力は肉体へと及んでいくだろう。
魔力、生命力を吸収されている。このまま吸収され続ければ動く体力もなくなりやがて吸収能力は肉体へと及んでいくだろう。
「健康そうな体で、お友達もいて、ずいぶんと幸せそうに生きてきたんですね。私の知るイリヤさんとはホント、大違い」
「何を…」
「そんなあなたが、私から先輩を奪ったんですよ。
本当、許せない、許せない、許せない―――」
「何を…」
「そんなあなたが、私から先輩を奪ったんですよ。
本当、許せない、許せない、許せない―――」
狂気に満ちた呟きがイリヤの耳に届く。
そして、その言葉はイリヤの思考を止めるには十分だった。
そして、その言葉はイリヤの思考を止めるには十分だった。
(そうだ…、士郎さんには桜さんって守らないといけない人がいたのに…私と関わったせいで…)
衛宮士郎の死は乗り越えても、そこに連なる数々の事象への後悔はまだ乗り越えきれていなかった。
桜の存在を知ったのは彼が死んだ後だった。もしもっと早く知っていれば、彼を自分の兄のように見て関わろうとはしなかったはずだ。
桜の存在を知ったのは彼が死んだ後だった。もしもっと早く知っていれば、彼を自分の兄のように見て関わろうとはしなかったはずだ。
だから―――
「イリヤ!!」
美遊の叫び声と共に、イリヤの体が押し倒された。
突き出されたサファイアの魔力の刃は正体不明の嫌な音を立てて目前を通り過ぎる。
突き出されたサファイアの魔力の刃は正体不明の嫌な音を立てて目前を通り過ぎる。
「……えっ?」
体に寄りかかった美遊の背に手が触れる。
そして、その手に生暖かい液体が付着するのを感じた。
手のひらを見ると、それは真っ赤に染まっている。
そして、その手に生暖かい液体が付着するのを感じた。
手のひらを見ると、それは真っ赤に染まっている。
「美遊…?」
『美遊様!』
『美遊様!』
触れた小さな背中はすぐに分かるほどの大きな凹みができており、大きく抉られていた。
同時に、咳き込んだ美遊は口から血を吐き出した。
同時に、咳き込んだ美遊は口から血を吐き出した。
「イリヤ、美遊!」
「お前ら、大丈夫……っ?!」
「お前ら、大丈夫……っ?!」
その時だった。
巧とさやかが戦場に現れたのは。
巧とさやかが戦場に現れたのは。
痛みを堪えるように歯を食いしばって、イリヤの体を二人に向けて投げる。
ただならぬ気配に動きが止まる二人の元に転がるイリヤ。
「イリヤを連れて、逃げて!!」
立ち上がった美遊、その背からは血が流れ落ちている。
何が起きているのか、理解が追いついた二人は叫ぶ。
何が起きているのか、理解が追いついた二人は叫ぶ。
「あんた、その傷…」
「今のイリヤじゃこの人は助けられない…!イリヤがいたら、さやかさんと巧さんがいても守りきれないかもしれない…」
「お前はどうすんだよ!」
「私なら大丈夫……じゃないけど、この傷だと長くは持たない…。だから私が時間を稼ぐから…」
「今のイリヤじゃこの人は助けられない…!イリヤがいたら、さやかさんと巧さんがいても守りきれないかもしれない…」
「お前はどうすんだよ!」
「私なら大丈夫……じゃないけど、この傷だと長くは持たない…。だから私が時間を稼ぐから…」
そう言って、眼帯を再度外してイリヤ達から視線を外す美遊。
魔眼による重圧で桜の動きが大きく鈍る。
そのまま決して振り向かないのは少女の決意の現れだろう。
魔眼による重圧で桜の動きが大きく鈍る。
そのまま決して振り向かないのは少女の決意の現れだろう。
しかしそれを受け入れられるはずもない。
駆け寄ろうとするさやかと巧。しかしその動きが止まる。
「逃しません…!」
二人の直ぐ側に、巨大な影が再度出没。
逃走を防がんと徐々にその体を肥大化させていく。
「何だこいつは!?」
「こんな時に……」
「こんな時に……」
美遊のいる場所への道を、肥大化する体は塞いでいく。
さやかは剣の投擲を、巧はファイズフォンによる射撃を行うが、効き目があるようには見られない。
さやかは剣の投擲を、巧はファイズフォンによる射撃を行うが、効き目があるようには見られない。
『……お二人とも、この場は逃げてください』
「お前何言ってんだよ!」
「美遊を見捨てろっていうの?!」
『確率の話です。美遊さんはもう命は永くない、そう察して時間稼ぎを買っているのです。
もしここで逃げられれば、態勢を立て直すこともできます。しかしもし動き出せば、お二人の力を合わせてもあの人と巨人を両方相手にすれば、命の危険があります』
「待って、ルビー。だって、あそこにはサファイアも――」
『そのサファイアちゃんが!美遊さんの意思を尊重して逃げろって言ってるんです!!』
「お前何言ってんだよ!」
「美遊を見捨てろっていうの?!」
『確率の話です。美遊さんはもう命は永くない、そう察して時間稼ぎを買っているのです。
もしここで逃げられれば、態勢を立て直すこともできます。しかしもし動き出せば、お二人の力を合わせてもあの人と巨人を両方相手にすれば、命の危険があります』
「待って、ルビー。だって、あそこにはサファイアも――」
『そのサファイアちゃんが!美遊さんの意思を尊重して逃げろって言ってるんです!!』
ルビーの口調は普段のおどけたようなものではない。
自分と同時に作られた双子のステッキ、その片割れが如何なる想いでその願いを口にしたのかなど察せぬはずもない。
自分と同時に作られた双子のステッキ、その片割れが如何なる想いでその願いを口にしたのかなど察せぬはずもない。
だからこそ、この場でどうするべきかの非情とも思える決断を下した。
「待って、美遊、美遊!!」
「イリヤ…」
「イリヤ…」
鎧がぶつかり地を走る音が響く中で、掠れそうな声を確かにイリヤは聞き届けた。
「これまでずっと、ありがとう。
あなたは、生きて―――」
「美遊!」
あなたは、生きて―――」
「美遊!」
「ちっ、何なんだよこの黒いのは!!そこどけよ!!!」
迂闊に近寄ることができない巨人。さやかは元より、巧すらもその気配には本能的に近寄ってはいけないと思わせるほどのものがあった。
しかしさやかとファイズの離れた場所からの攻撃ではびくともしない。
しかしさやかとファイズの離れた場所からの攻撃ではびくともしない。
かといって、巨人が完成するまでもう時間もない。
もし戦略を練ることが得意な何者かがこの場にいれば、あるいは何か思いついたかもしれない。
しかし巧もさやかも、そういったことには疎かった。敢えて言えばルビーだったのだろうが、そのルビーももう合理的判断でイリヤ達の安全を優先しているため頼りにできない。
しかし巧もさやかも、そういったことには疎かった。敢えて言えばルビーだったのだろうが、そのルビーももう合理的判断でイリヤ達の安全を優先しているため頼りにできない。
最終的に二人が出した結論は、イリヤを連れて逃げる。それしかなかった。
「おい!合図したら3秒くらいでイリヤ連れて走り出せ!」
「逃げるの?!」
「………ああ!」
「逃げるの?!」
「………ああ!」
僅かな沈黙の後巧は手の時計型ツールからメモリーを取り外し、ファイズフォンのそれと入れ替える。
ファイズの胸部の装甲が開き、全身のラインが赤から銀色に変化、顔の複眼は赤く染まる。
ファイズの胸部の装甲が開き、全身のラインが赤から銀色に変化、顔の複眼は赤く染まる。
同時にさやかはイリヤの体を抱き上げる。
言うことを聞かない可能性も考慮して、腕の力は強めだ。
言うことを聞かない可能性も考慮して、腕の力は強めだ。
「今だ、行くぞ!」
掛け声と共にファイズの姿が掻き消える。
逃げるべき逃走先に蠢く触手に、一気に赤い円錐型のエネルギーがいくつも叩き込まれる。
逃げるべき逃走先に蠢く触手に、一気に赤い円錐型のエネルギーがいくつも叩き込まれる。
それが完全に消失するまでが3秒。
数え終わったさやかは駆け出す。
数え終わったさやかは駆け出す。
「美遊ーーーっ!!!!!!」
手を伸ばして叫ぶイリヤ。
しかしイリヤの想いとは裏腹に、その気配はどんどん遠くに離れていった。
10秒。
アクセルフォームに与えられた時間。
アクセルフォームに与えられた時間。
うち、3秒を逃走先の確保に、2秒を反転に使用。
残り5秒で、巧は可能な限りのクリムゾンスマッシュのエネルギーを巨人へと叩き込んだ。
残り5秒で、巧は可能な限りのクリムゾンスマッシュのエネルギーを巨人へと叩き込んだ。
しかし巨人は完全には崩れない。
幾つもの穴をその身に作って体を揺らがせながらも、まだその体を維持し続けている。
幾つもの穴をその身に作って体を揺らがせながらも、まだその体を維持し続けている。
もしここでブラスターフォームに変身していれば、まだこの巨人を打ち倒すことができたかもしれない。
だが今となってはもう間に合わない。
だが今となってはもう間に合わない。
胸部の装甲が元に戻る。だが巨人は未だ健在。
さやかにはイリヤを逃がす手前ああは言ったが、それでも可能ならば助けたかった。
ファイズブラスターを取り出そうとする巧。
「巧さん……」
そんな巧の気配が伝わったのか掻き消えそうな声が巨人の向こうから聞こえた。
「待ってろ、今―――」
「イリヤを、お願い……」
「イリヤを、お願い……」
諦めずに助けようとする巧、しかしその美遊の懇願で巧の動きが止まってしまう。
偶然だろう。しかしかつて守れなかった一人の少年と交わした約束と、少女の言葉が被ってしまった。
無論目の前の少女を助けることと約束は矛盾はしないだろう。
しかし真に命をかけるべき時は今ではないと、そう言われているように感じ、実際に自分でもそうなのではないかと思ってしまった。
無論目の前の少女を助けることと約束は矛盾はしないだろう。
しかし真に命をかけるべき時は今ではないと、そう言われているように感じ、実際に自分でもそうなのではないかと思ってしまった。
「クソ、クソォッ!!!!」
湧き上がる悔恨に悪態をつきながら、巧はファイズの変身を解除。
ただ一刻も早くこの場を離れるために、救えなかった少女の願いを守るためにウルフオルフェノクへと変身して地を蹴り駆け出した。
ただ一刻も早くこの場を離れるために、救えなかった少女の願いを守るためにウルフオルフェノクへと変身して地を蹴り駆け出した。
◇
イリヤ達が逃げたことを確認したことで美遊の気が抜ける。
「サファイア、みんなはもう、行った?」
『はい、3人とも遠ざかっています』
「そう…、良かった…」
『桜様お願いです!私を美遊様に返してください!』
『はい、3人とも遠ざかっています』
「そう…、良かった…」
『桜様お願いです!私を美遊様に返してください!』
もしサファイアが美遊の手元に戻れば、カレイドサファイアに転身できれば、魔力による治癒で傷を癒やし生き延びることもできるかもしれない。
さっきから何度も懇願しているのだが、桜は全く意に介さずにサファイアを振るい続ける。
さっきから何度も懇願しているのだが、桜は全く意に介さずにサファイアを振るい続ける。
美遊自身は重傷を負っているが、桜もまた魔眼の重圧で動きが大きく制約されている。
非常に緩慢な戦いとなっていた。
非常に緩慢な戦いとなっていた。
しかし、それもここまで。美遊の気が抜けたことで、体からライダーのカードが排出されてしまう。
英霊の姿から一気に生身に戻り、どっと血が流れるのを感じた。
同時に血と共に体の力も抜け、地面に倒れ込む。
同時に血と共に体の力も抜け、地面に倒れ込む。
「ふふふ、よくも邪魔をしてくれましたね…」
重圧の解けた桜は仰向けに倒れた美遊を見下ろしながら刃に変化させたサファイアを向ける。
「ですけど、これを回収できたから今は良しとしましょう。まあ結局追いかけるんですけどね」
「サファ、イア…」
『美遊様!』
「もし、その時が来たら…、イリヤの力に…」
『分かりました!ですからもう喋らないで!』
「何を勝手に話してるんですか?」
「サファ、イア…」
『美遊様!』
「もし、その時が来たら…、イリヤの力に…」
『分かりました!ですからもう喋らないで!』
「何を勝手に話してるんですか?」
刃を向けながらもそれを振り下ろしてトドメを刺そうとはしない。
死にゆく自分を見て嗜虐心を満たしているのだろう。だとすれば好都合だ、皆が逃げるまでの時間が稼げる。
死にゆく自分を見て嗜虐心を満たしているのだろう。だとすれば好都合だ、皆が逃げるまでの時間が稼げる。
そう思っていたがそろそろ体が限界のようだ。
「ですけど、残念ですね。誰も助けに来てくれなくて」
おかしなことを言っていると思った。
逃げるようにしたのは自分だ。なのに皆に見捨てられたと思っている。
逃げるようにしたのは自分だ。なのに皆に見捨てられたと思っている。
もしかしたらカードの影響で周囲が見えなくなっているのかもしれない。
「一人ぼっちで友達にも見捨てられて死んでいく気分はどうですか?」
問いかけてくる桜の言葉も、もう耳には入ってはこなかった。
だけど、そうか、と先程の言葉から連想した結果1つの事実に気付く。
ずっと気が付かなかったこと。自分の周りにはこんなに色んな人がいたんだと。
ずっと気が付かなかったこと。自分の周りにはこんなに色んな人がいたんだと。
イリヤだけがいればいいと思ったことがあった。
だけど今の自分の中には色んな人がいた。
助けられなかった人、助けられた人。イリヤを託すことができた人。
だけど今の自分の中には色んな人がいた。
助けられなかった人、助けられた人。イリヤを託すことができた人。
悲しいことも嬉しいことも。
篭っていただけでは分からなかった、世界はこんなに広かったんだということを。
篭っていただけでは分からなかった、世界はこんなに広かったんだということを。
ふと手が何かに触れた。純白の白い羽。
それはこんな場所でできた、友達となれた人の欠片。
それはこんな場所でできた、友達となれた人の欠片。
もし、こんな私が最期に1つだけ願うことが許されるなら。
「…イリヤが、みんなと一緒に笑顔で、いられますように」
そう願ったのを最期に、美遊の意識は静かに闇の中に落ちていった。
◇
気がつけば少女は動かなくなっていた。
突いてみても何も反応しない。
突いてみても何も反応しない。
『美遊様…』
「もう動かなくなっちゃったんですか?なぁんだ呆気ない」
『あなたは…!』
「もう動かなくなっちゃったんですか?なぁんだ呆気ない」
『あなたは…!』
ただの死体となった美遊にはもう興味がなくなったとばかりに、桜は視線を逸らす。
歩む先にあるのは、排出されたクラスカード。
歩む先にあるのは、排出されたクラスカード。
今の自分には赤の他人にこれを使われるのは怒りが抑えきれなくなる。
”彼女”は私のものなのだ。自分だけの力だ。
”彼女”は私のものなのだ。自分だけの力だ。
そう認識した瞬間、桜の中で1つの考え方が浮かんできた。
カードの英霊。その使い方。
カードを泥の中に落とす。
それは自分を中心に渦巻く魔力の泥だ。周囲に転がった残滓ではない。
それは自分を中心に渦巻く魔力の泥だ。周囲に転がった残滓ではない。
すると魔力の泥は少しずつカードの周りに収束していき。
やがて1つの人型の黒い魔力の塊となった。
やがて1つの人型の黒い魔力の塊となった。
泥の中から少しずつその体が現れ、同時に黒でしかなかったそれが色づき始める。
紫の長髪。黒い衣装を纏った、長身の女。
紫の長髪。黒い衣装を纏った、長身の女。
「よく似合ってるわ、”ライダー”」
かつての自身の傍にいた一人のサーヴァントと同じ姿を象ったそれを、桜はそう呼んだ。
◇
ライダーの体を作る間、桜は無意識に泥を周囲に広げていた。
それは美遊の亡骸へも達しており、その体を静かに泥の中に沈めていった。
それは美遊の亡骸へも達しており、その体を静かに泥の中に沈めていった。
その手に抱かれた羽は美遊の体が半分ほど呑まれた辺りでふわりとその手から浮き上がり。
しかしそのまま浮力を失い、黒い泥の中に誰に気付かれることもなく静かに溶けていった。
しかしそのまま浮力を失い、黒い泥の中に誰に気付かれることもなく静かに溶けていった。
【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】
【C-4/市街地/一日目 夜中】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、胸に打撲(回復中)、精神的ショック(大)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)(使用時間制限)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アサシン)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アーチャー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:美遊や皆と共に絶対に帰る
0:美遊…っ…!
1:皆で帰れるように全力を尽くす
2:間桐桜に対して―――
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました
[状態]:疲労(大)、胸に打撲(回復中)、精神的ショック(大)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)(使用時間制限)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アサシン)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アーチャー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:美遊や皆と共に絶対に帰る
0:美遊…っ…!
1:皆で帰れるように全力を尽くす
2:間桐桜に対して―――
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました
【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、決意、美遊を救えなかったことへの後悔
[装備]:ファイズギア+各ツール一式@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:イリヤ、さやかを連れて撤退する
2:状況が把握したい
[備考]
※参戦時期は36話~38話の時期です
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、決意、美遊を救えなかったことへの後悔
[装備]:ファイズギア+各ツール一式@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:イリヤ、さやかを連れて撤退する
2:状況が把握したい
[備考]
※参戦時期は36話~38話の時期です
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)
[装備]:ソウルジェム(濁り30%)(小さな亀裂有り) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード(濁り70%)、アヴァロンのカードキー@コードギアス 反逆のルルーシュ、クラスカード(ランサー)(使用制限中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:自分を信じて生き、戦う
1:巧、イリヤと共に鎧の女や影の巨人から撤退する
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました
[状態]:疲労(大)
[装備]:ソウルジェム(濁り30%)(小さな亀裂有り) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード(濁り70%)、アヴァロンのカードキー@コードギアス 反逆のルルーシュ、クラスカード(ランサー)(使用制限中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:自分を信じて生き、戦う
1:巧、イリヤと共に鎧の女や影の巨人から撤退する
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました
【D-3/市街地/一日目 夜中】
【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化、右腕欠損、魔力消耗(中)、クラスカード(???)夢幻召喚中
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服(ボロボロ)@ポケットモンスター(ゲーム)、カレイドステッキ(サファイア)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
クラスカード(ライダー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(???)(夢幻召喚中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:狂気に任せて行動する
1:逃げた人たちを追いかける。特にイリヤは逃さない
2:先輩のいない世界などもうどうにでもなればいいと思う
[状態]:黒化、右腕欠損、魔力消耗(中)、クラスカード(???)夢幻召喚中
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服(ボロボロ)@ポケットモンスター(ゲーム)、カレイドステッキ(サファイア)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
クラスカード(ライダー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(???)(夢幻召喚中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:狂気に任せて行動する
1:逃げた人たちを追いかける。特にイリヤは逃さない
2:先輩のいない世界などもうどうにでもなればいいと思う
[備考]
※黒化は現状では高い段階まで進行しています。
※クラスカードを夢幻召喚した影響で状況判断力、思考力が落ちています。時間経過で更に狂化が進行する可能性があります。
※ライダーのクラスカードは泥の影響で英霊の形を象った使い魔となっています。その姿はプリズマ☆イリヤ本編の黒化英霊のそれに近いです。
※欠損した右腕は現状夢幻召喚の影響で一時的に治っています。解除すると元に戻るでしょう。
※黒化は現状では高い段階まで進行しています。
※クラスカードを夢幻召喚した影響で状況判断力、思考力が落ちています。時間経過で更に狂化が進行する可能性があります。
※ライダーのクラスカードは泥の影響で英霊の形を象った使い魔となっています。その姿はプリズマ☆イリヤ本編の黒化英霊のそれに近いです。
※欠損した右腕は現状夢幻召喚の影響で一時的に治っています。解除すると元に戻るでしょう。
【クラスカード(???)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
バーサーカーではないかと思われるクラスカード。
しかしヘラクレスのものではなく、夢幻召喚した英霊は高い技術を備えた黒き鎧の騎士の姿となっている。
一説にはこれはランスロット(バーサーカー)ではないかとも言われているが詳細は不明。
バーサーカーではないかと思われるクラスカード。
しかしヘラクレスのものではなく、夢幻召喚した英霊は高い技術を備えた黒き鎧の騎士の姿となっている。
一説にはこれはランスロット(バーサーカー)ではないかとも言われているが詳細は不明。
145:待ち人ダイアリー | 投下順に読む | 147:永劫の神々 |
時系列順に読む | ||
142:一歩先へ(前編) | イリヤスフィール・フォン・アインツベルン | 149:キボウノカケラ |
美遊・エーデルフェルト | GAME OVER | |
140:パラダイス・ロスト | 乾巧 | 149:キボウノカケラ |
美樹さやか | ||
141:喪失-黒き虚の中で少女は | 間桐桜 | 151:Another Heaven/霞んでく星を探しながら |
村上峡児 | GAME OVER |