零の話・仮面が砕ける時

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零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2



「ほう、この魔王たる私が敗れるというのか?」
「ええ。あなたはいつか必ず敗れ、命を落とすと思うわ」


「何を根拠に?」
「根拠なんて。決まっているでしょう」

「だって、魔王っていうのは、いつだって勇者に倒されるものじゃないの」




電灯の明かりに包まれた夜の遊園地。
人が寝静まる真夜中の時間にも関わらず、その施設はまるで遊ぶ者を待っているかのように煌々と一帯を照らしている。

一方で、その園内にある最も巨大な遊具、観覧車は柱が折れ倒壊、そのフレームは地面に倒れ転がっている。

その近くに立っているのは二つの人影、二つの巨大な影。

まず動いたのは、一つの人影だった。

青い影は光輝く剣を振りかざし、目前の黒き影へと勢いよく振り下ろす。
対する影もその拳に光を纏わせその一撃を受け止める。

交差する影。

(砕くつもりだったが―――、やはりその黄金の剣は一筋縄ではいかないか)

黒い影、ゼロは既に青い影、セイバーとは幾度も剣を交えている。
しかし今受け止めた一撃は過去に受けたどの剣戟よりも重く鋭いものだった。
棒きれや竹刀は言うに及ばす、太刀を携えていた時もここまでの力はなかった。

すぐさま振り返り振るわれた剣を身を反らして回避。
振り抜いたまま剣が返される前に至近距離へと潜り拳を叩きつけようと身を屈め。

そこでセイバーの体が地を蹴り飛び上がる。
思わぬ挙動に一瞬の思考を割いた後、振り返り横から襲いかかった巨大な影に向けて拳を突き出すが、間に合わず体が宙を舞う。
背後からのランスロットの剣をまともに受けたが、それでもマントを翻していたおかげで斬撃は打撃へと変わり体が吹き飛ばされるだけで済んだ。

空中で態勢を立て直し、ランスロットの肩を足場に跳び上がってきたセイバーに向けて、その背後で直立していたガウェインの指先を放つ。

態勢を変えられない空中での強襲を受け、その指先に吹き飛ばされるセイバーの体。
放たれたスラッシュハーケンはそのままセイバーの体をコンクリートの壁に叩きつけ押し付ける。

それを、ランスロットが剣を振るいワイヤーを切り落とすことで解放。

力を失ったガウェインのワイヤーが先端を失ったままその手に戻り、セイバーは自身を押し込んでいた指を腕で押し出して立ち上がる。

「無事か」
「ああ、この程度大した傷ではない」

眼前に付着した汚れを払いながら立ち上がるセイバー。
向かい合うゼロも、一旦距離を取り態勢を立て直している。

出方を見て警戒するセイバーとスザク。
するとゼロの背後に立つガウェインの肩が稼働し赤く光った。
その意味を知る二人は、セイバーは大きく横に、スザクは空に向けて飛び退いた。

すぐさまゼロはセイバーへと向け駆け寄り。
ガウェインは飛んだランスロットを追って飛翔した。

地上には二つの光がぶつかり合い。
夜闇の空には赤と緑の閃光が飛び交った。




私は知っているぞ、枢木スザク。

お前が背負う罪を、お前がこれから生涯をかけて背負っていく宿命を。
その罪を、全て見ているのだから。

魔王ではなく、世界を導いた勇者という名の呪い、ゼロを受け継ぎし者。

果たしてその名は、魔王を打倒するものなのかどうか。

この場で以て、量らせてもらおう。




ランスロットの剣がガウェインの体を貫く。

剣を引き抜くまでの間に、その指のスラッシュハーケンがランスロットを狙い放たれた。
しかしそれを腕で絡み取り引き抜き、追撃にエナジーウィングからの光弾で全身を撃ち抜く。

炎を上げ爆発していくガウェインの体。

ランスロットの中で、スザクは一息つこうとし。

炎の中から放たれた赤い熱線を見た瞬間、手がランスロットを緊急回避させていた。
不意に体にかかったGに歯を食いしばりながら前を見ると。

そこにはこちらの攻撃で破壊されたはずのガウェインの姿があった。
傷一つもない、五体満足の状態で。


セイバーの振るう剣戟。
常人には見えぬ速さでありつつ、もし視認できるものがいたとしたらその精錬された美しい太刀筋に目を奪われたことだろうほどの太刀筋。

ゼロもまたそれを徒手空拳、そして拳に写したギアスで受け止める。
しかしその速さに対応が追いつかず、体にいくつもの切り傷が作られている。

一見攻撃に追いつけないゼロの不利にも見える戦い。しかし相対しているセイバーは最大限の警戒を以て接近戦をこなしている。
ゼロが受けているのは致命傷や以降の行動への影響がない一撃であり、大きなものは徹底して避けている。
そしてセイバーも下手に踏み込めば、ギアスの光の直撃を受けることになる。

それを受ければこの魔力によって動く肉体は致命的な消耗を受けることとなる。
もし致命傷を与えたとしてもカウンターを受けてしまえばそれで終わる。さらにゼロ自身には治癒能力が備わっている。これを上回る一撃が必要となる。

故に、セイバーが狙っているのは。

(――この剣の真名解放が叶えば…)

聖剣の光をもって、一撃でゼロの体を消し飛ばす。
現状で最もゼロを打倒しうる可能性があるのはそれだろう。

しかし魔力を消耗している今、この身を全て魔力へと変換して撃てるかどうかという状態。
そして相手もまた頭が回る敵だ、そう易々と撃たせてはくれないだろう。


と、次の瞬間空から巨大な影が地面に落ちる。
土煙を上げながら頭部と片腕を失い地に叩きつけられた巨体。

ゼロの視線も思わずそちらに、そして空から追ってきた白い巨体に向けられた。
巨大な剣がその体に斬りつけられるもゼロもザ・ゼロにより光を受け止める。

追撃を止め、勢いを殺して後ろに一気に下がる巨体。
セイバーが下がった辺りで、停止した。

その右腕に備え付けられた装飾からは火花が散っており、一瞬翠色の光盾が現れかけて消えた。

「その傷は、大丈夫なのか」
「ああ。少し避け損ねてブレイズルミナス、盾が壊れただけだ。
…しかしあの機体、おかしい。いくら破壊しても壊した場所がすぐに再生する」

機体から漏れた呟きと共に、眼前に倒れた巨体の破壊された頭、腕が光と共に元の形を取り戻した。

元々ゼロも治癒能力は持っている。あの機体が同じ力を持っていても不思議はない。
だが、この時のセイバーには嫌な予感がしていた。

「――ゼロ、貴様まさか私の鞘を」
「その通りだ、あれはこのガウェインに埋め込ませてもらった」

ランスロットアルビオンとガウェイン。
同じ世界であれば用途も生み出された時代も異なるものであり、機体性能は後に生み出されたアルビオンの方が遥かに上をいく。

だがそれでも、無限に再生し続ける機体といつまでも戦い続けていればいずれは隙も生まれ、エネルギーも切れる。
実際ガウェインはランスロットの攻撃で既に5回は戦闘不能に陥るほどのダメージを受けている。そしてその間に、ランスロットに一撃を入れ武装の一つを損耗させた。

「無論私を倒せるならば再生は止まるだろうが、果たしてガウェインを無視して私を攻め続けることができるかな?」

言ってゼロは、ガウェインの肩に飛び乗りハドロン砲を放った。

「乗れ!!」

スザクの声にセイバーはその白い肩に飛び乗り、同時にランスロットも空へと飛び上がって砲撃を避けた。
背後で着弾した地面が高熱を発して赤く溶解する。

追って放たれたハドロン砲、スラッシュハーケンの間を飛び交い、ゼロと距離を取り向き合うランスロット。

ハーケンは届かず砲撃も見てからの対応が叶う位置だ。
一方でこちらの攻撃もまともには当たらないだろう。


「一つ問いたい。
あの巨人の、核となりそうな場所は分かるか?」
「核?」
「人間でいう心臓のようなものだ。
おそらくはそこに鞘が埋め込まれているのだと思う」
「それなら―――」

スザクが示したのは、ガウェインの背にあるこげ茶色の膨らみがある場所。
自分の知る機体と同一なら、あそこがコックピットに当たる部位となるだろう。




「もし全て遠き理想郷があるとすれば、そこではないかと思う」




「そこまで迫り、あの鎧を破壊できればあるいは取り返すことができるかもしれない」
「ならば僕が隙を作ろう」
「ああ。だが、もう一つ頼みたいことがある」


スザクとセイバーが話し込んでいる頃、ゼロもまたその様子を観察しつつ自身の状態を確かめていた。
セイバー、ランスロットアルビオンの攻撃は着実にゼロの体にダメージを与えている。
しかしそれも時間経過で少しずつ回復していた。

もし彼らが本気で攻撃を直撃させれば治癒も追いつかなくなるかもしれない。故にその隙だけは作らぬように徹してきた。
元よりゼロは武人ではない。ナイトメアフレームを蹂躙するほどの力を得たとしても、力量と装備の整った戦士には技量面で遅れを取ってしまうこともある。

そして今の彼らは、それが揃った相手だ。

しかしランスロットは一撃は重いが巨体故に決定打の一撃は速さにかける。
セイバーは速く力もあるが、その体は生身であるがゆえにこちらの攻撃を警戒し攻めきれていない。

(さて、どう出る)

機動力に劣るガウェインから攻め込ませるような愚策はしない。
ゼロの脳内にはいくつもの相手の攻撃パターンとその対処が映っている。どのように来たとしても迎え撃てるように。
何より相手はよく知る相手、枢木スザクだ。パターンは分かっている。


と、ゼロの視線の先でランスロットが動いた。
ハドロン砲を警戒してか縦横無尽の軌跡を描きながら迫ってくる。

(ああ、だがどれほど軌道を乱して動いても)

スザクの一撃は正面からだ。

ガウェインの頭部に真っ直ぐに振り下ろされた剣をギアスで受け止める。
そのままガウェインの指を向け放つと同時にスザクは後退。

剣を収めつつその手にヴァリスを持ち替えて構えた。
ガウェインの構えた追撃のハドロン砲を正面から受けるかのように、青い銃身を展開させてガウェインのそれと同等の砲撃を放った。

ぶつかり合う二つの赤い熱線、その中心では爆発が起き周囲の視界を塞ぐ。

数秒の沈黙の後、その爆煙の中を一陣の風が切り裂く。

咄嗟に前面に手をかざすゼロ。

放たれたそれがヴァリスの砲弾だと判断してのその勢いをゼロに還すための防御。
しかし視界に映ったのは、砲弾ではなく剣を構えたセイバーの姿だった。

(―――!!)

ヴァリスの砲弾の前に足を乗せて自身の身を弾丸と化してこちらへと肉薄していた。
生身の人間であれば風圧と銃弾で体がバラバラになるだろう暴挙を、サーヴァントという、霊基で構成された超常の身を得ていた彼女はやってのけた。

砲撃を受けるつもりだったギアスでは受け切れず、かざした左手の親指付近が切り落とされ、そのまま脇まで大きく斬りつけられる。

(ちぃ、見誤ったか!)

振り返りつつも背後にも手をかざす。
右腕でセイバーの剣を、左腕で更に追撃で放たれたヴァリスの弾丸を受ける。

左手の治癒が間に合っていないゼロはヴァリスの弾丸の衝撃にバランスを崩しながらもその体制のズレを利用し回し蹴りを放ちセイバーを弾き飛ばす。
宙に投げ出されたセイバーの体は重力に任せて墜落。
更にガウェインのスラッシュハーケンの指先に足を置いたゼロは指先の射出によりランスロットの目前に迫り、なおも放たれるヴァリスの砲弾に拳をぶつけ叩き落す。


ランスロットがMVSを抜き対処しようとした瞬間、スザクの内から強い衝動が走る。
生存のギアスが発動したことで、次の攻撃が致命的なものであると瞬時に認識。
逃げ出したいという強制的な欲求を押さえ込みながら機体を動かす。


至近距離へと迫ったゼロの体に腰のスラッシュハーケンを投射。生存のギアスにより脳が認識するより先に目の前に迫った死の気配に体が反応した。
ゼロの腕が機体前部を突き破りコックピット前面へと穴を開けたと同時にその体が大きく後ろへ弾かれる。

同時に迫っていたゼロの拳により眼前のモニタが破壊され、飛び散った破片が被っていた仮面に亀裂を入れる。
もしハーケンでの迎撃が遅れていればこのまま機体から引きずり出され宙に投げられるなりその腕で握りつぶされるなりしていただろう。

ギリギリのところで攻撃を防ぎ生存のギアスの要求が下がり。
息つく暇もなくランスロットへと向けてゼロの背後のガウェインからハドロン砲が放たれた。

(―――っ)

生きろとギアスが発動するも、今度の攻撃には行動が間に合わない。

ゼロに気をとられ、更にコックピットを破壊されたことでカメラによる視認が遅れたことによる対応不足。
たとえ『生きろ』ギアスがかかり、発動しようとも、スザク自身が死を認識できない攻撃には対応できず、対応も人間に決して不可能なものであれば間に合わない。

一瞬の認識の遅れにより迫る死。
回避、防御、脱出。全てが間に合わない。




「全て遠き理想郷(アヴァロン)!!!!」


そこに一つの光が割り込んだ。

目を閉じる間もなかったスザクの視線の先に、手を翳してハドロン砲を防ぐセイバーの姿。

思わずゼロが振り返ると、その視線の先、ガウェインのコックピットはまるで巨大な砲弾でも通り過ぎたように破壊されていた。




「ゼロの気を引きつけることはできるか?」

ランスロットの肩に乗ったセイバーは、スザクに問う。

「どれくらいの時間を引きつければいい?」
「私がゼロの認識から外れて数秒だ」
「それなら大丈夫だ」

スザクには一つの確信があった。
もし自分がそれ以外の誰かかが共にゼロへと攻撃を仕掛けた場合、彼はきっと自分への対処を優先するだろう、と。

彼が自分のよく知る男であれば、だが。

「ならその対応を頼みたい。
あと、その認識が逸れている間に戦線復帰できるような手筈も、可能であれば整えてくれないか?」
「善処はしよう」




ゼロの見立てではセイバーが地に落ちてからの復帰まではまだ時間がかかる見積もりだった。
何しろ投げ出した態勢が態勢だ。普通に墜落すれば大ダメージは免れない。

なのでセイバーは落ちるまでの間に風王結界の風を操ることで落下速度を落としていた。
無論それは逆に地に足をつけるまでの時間がかかってしまうということでもあったが。
それをセイバーは、ランスロットが落としたヴァリスを足場として飛び上がることで戦線復帰を果たしていた。

彼女の行動を見越してのヴァリス投棄。
普通であればできるはずがない行動、しかしヴァリスの弾丸に乗ってゼロに迫るという超人技を見せたセイバーであればできるとスザクは信じていた。

そしてゼロの意識が逸れている間にガウェインのコックピットからアヴァロンを回収。ランスロットへと迫るハドロン砲を、その鞘の真名を開放することで防ぎきった。

「今のうちに、あの砲台を!!」

ランスロットの胸部に足を乗せたセイバーは、目前で赤き熱線を防ぎながらスザクへと叫ぶ。

MVSを引き抜き、アヴァロンの力で砲撃を押し返しながら一気に距離を詰める。
迫る二人を迎撃せんと砲撃の間から迫りくるゼロ。

対してセイバーが砲撃を防ぎつつもゼロへの迎撃のためにランスロットの胸を蹴った。

衝突の一瞬、ゼロの手に展開されたギアスがセイバーのアヴァロンを掻き消し。
消滅の瞬間に、後ろに構えていたエクスカリバーをゼロへと叩きつける。

ハドロン砲をせき止めていた障壁が消え、セイバーの後ろのランスロットへ向けて迫る。
すかさずランスロットは片腕のブレイズルミナスを展開。翡翠色の障壁がハドロン砲の軌道を変える。しかし発生装置を破壊された右側の砲撃は防げず白い装甲を溶かし尽くした。
しかし左のそれが保っている間はまだ持ちこたえられる。
砲撃を防ぎつつランスロットの腰部のハーケンを射出。狙いは目の前で剣を振り下ろしたセイバー。

その背にハーケンが打ち付けられると同時に、セイバーの体はガウェインに向けて前進、そのままガウェインの胸部を勢いに任せてゼロを巻き込んで貫通する。
ハドロン砲をあらぬ向きへと放出しながら爆散していくガウェイン。

そして、視界の先のセイバーは、ゼロを地面へと蹴り落としながらも、自身も後を追って落下していく。

その手に、光輝く剣を構えて。




「それともう一つ。
できれば私がゼロを相手取れるように計らってくれないか。
この剣の一撃を奴に叩き込むことができれば、おそらくはこの戦いに勝利することができるはずだ」
「それは―――」
「ああ。命懸けの勝負になるだろう。おそらくは私も道連れになるかもしれないだろうな」

一瞬の沈黙の後、セイバーは口を開く。

「私は、既に死んだような存在だ。
己の願いに縋って奇跡を信じて戦いに参じて、しかしその願いすらも失って大切なものに手をかけた。
もしもこの先を生きるものがいるとするならば、私のような亡霊ではなくあなた達のような未来があるものであるべきだ」
「………未来があるもの、か」

その言葉に、スザクの脳裏に色々なものがよぎる。
まだ名があった頃に積み重ねた数々の罪と、仮面を被った時のこと。
この場に来て出会ったユフィや夜神月、多くの者たちのこと。

「分かった。なら僕とこのランスロットが、君の行く道を切り拓こう」
「感謝する」




叩きつけられた地面から起き上がりながら、ゼロは頭上の光を見上げる。
夜闇の中で、空を照らす月よりも遥かに眩く輝くその閃光。

(こちらが決め手だったか)

回避が間に合うものではない。
下手に下がれば逆に光に呑まれるだろう。ギアスで相殺しきれるかどうかも怪しい。

真っ向から迎え撃つしかない。

(私を撃つのはお前だと思っていたのだがな)

うっすらと視界の中に映っている、こちらを見下ろすランスロットを見ながら、ゼロはその刹那の中で思考した。

枢木スザク。ルルーシュの親友であり、いずれの世界でも幾度となくぶつかり、時として手を取り合った因縁の相手。
ここであいつがこの場まで生き延びて巡り会えたことに運命すら感じていた。

(いや、むしろこれは俺の失策か)

その運命に縛られすぎたのかもしれない。
あの男に執着しセイバーへの対応を疎かにし、結果鞘を奪取されて隙を作らせてしまった。

この局面においても、あの男はこちらに介入する意志を見せない。
つまりはこの状況を承諾したということだ。

(フ、ハハハ、なるほど、これは私の負けだろうな)

あいつもきっと、この場で様々な出会いを通じて自分の知らぬところに行ったのだろう。
自分の中にある、ルルーシュという因果を乗り越えられるほどの。

だが、我とて魔王。世界のため全てを捨てるための覚悟をもってこの姿となったのだ。
ただでは死なない。

(だから、せめて付き合ってもらうぞ、騎士王―――――!!!)




鞘が還ってきたことで魔力は体に満ちている。この剣の一撃を放つには絶好の状態だ。

この位置から振り下ろした聖剣を完全に避けることは難しいだろう。
避けたとしても、この剣の余波に巻き込まれる。ましてや防げる一撃ではない。


それを悟ってか、ゼロはその場から動かず。
同時にその手にはあの光が集まっている。

あの光の威力は身を以て把握している。魔力を、生命力を根こそぎ持っていく、桜の影と近い属性を感じるあの攻撃。
今度の一撃はこちらに対抗してか、光がこれまで以上に眩い。おそらくだがあれが直撃すれば消滅は必須。

宙から落ちる自分に、その手を避けることはできない。
この一撃を叩き込むために身をよじることはできても、直後にカウンターとして叩き込まれたあの光がこの体を消し飛ばすことだろう。

(――ここまで、か)

思えば今宵の現界は多くの裏切りを繰り返してその果てに色々なものを削ぎ落とすように失ってきた。

償いというわけではない。これで償いと言えるほど軽い罪ではないだろう。

(――――申し訳ない、シロウ。私にはサクラを助けることはできなかったようだ)


だからせめて、今を生きる者たちに。

イリヤスフィールや乾巧、Lや鹿目まどか達、そして。



『時に騎兵よ、この白き巨人の名は、ランスロットというのか?』
『ん?ああ、ブリタニアに伝わる高名な騎士にあやかって付けられた名だ』
『そうか。…良き名だ。
そなたの名は、何というのだ?』
『――――、…枢木スザクだ』

今宵背を預け共に戦った枢木スザク。
彼らのような今を戦い生きる者たち。

そして、小さな戦士達に託した士郎の希望、間桐桜。

彼らの未来に光があることを願い。

(この一撃が、彼らの未来への灯火とならんことを――――)

祈りの結晶たる黄金の剣に、未来へと託す己の願いを込めて。
高らかに奇跡の真名を解き放つ―――




「約束された勝利の剣(エクスカリバー)――――!!」
「虚無へと還れ、―――ザ・ゼロ!!」


セイバーの振り下ろした光の剣が、ゼロの左肩へと斬りかかり。
同時にセイバーのその胸に、ゼロの拳の光が叩き込まれ。

ゼロの体は立ち昇った膨大な魔力の光の柱の中に巻き込まれ。

セイバーの体は魔力の残滓を残すこともなく光の中に消えていった。




立ち昇る光の柱に目を細めながらも、その姿から目をそらすことなく見届けるスザク。
やがて静かに光が収まった頃に、幾度も機体に生じたダメージで飛行するエネルギーも覚束なくなってきたランスロットを地面に下ろす。

地面に降ろしたところでランスロットに膝をつかせてコックピットから出る。
光の柱が立ち昇った中心地はコンクリートの地面に大きなクレーターを作り、地下道の天井まで達したのかところどころに穴を空けてボロボロと崩れさせている。

その中心に、ゼロは立っていた。

「…!!」

思わず身構えるスザク。
ランスロットに乗るのは間に合うだろうが、機体の損傷が大きい。
だが今は生身でも武器はない。

セイバーが倒し損ねた相手を、素手で倒すことができるか。
逃走の算段を立てるかのように瞳が赤く光り。

しかしゼロが振り向いたところでその必要がないことを悟って思考が落ち着いていく。

ゼロの体は左肩から大きく切り込まれ、傷口から少しずつ体が崩れ落ち続けている。
かつてロロ・ヴィ・ブリタニアを倒した時のそれと同じ状態だ。

セイバーの一撃は、確かにこの男に届いたのだ。

「枢木スザク」

クレーターから、静かにこちらへと歩みを進めながら、ゼロは呼びかける。

割れているとはいえ未だ仮面を被り続けるゼロとしてではなく、枢木スザクとして。

「よくぞ魔王を打倒した」
「……いや、僕は何もしていない」
「倒したさ。直接この身を死に追いやったのはあのセイバーであろうが、その道を切り開いたのはお前だ。
こうして私が滅びへと向かっている中で、お前はしっかりと地に足をつけて立っている。それは誇ってもいいことだ」

賛美の言葉を否定するスザクに、更に否定を投げて肯定するゼロ。
やがてその体がスザクの目と鼻の先というところに来た辺りで、ゼロはスザクの被る仮面へと手を伸ばし。

その中心に静かに、しかし力強くその指を突きつけた。

「その褒美として、お前はこの場においては、ゼロではなく枢木スザクの真名を名乗るがいい。
私が許可しよう。お前の罪も苦しみも全てを知る、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして」

小さく亀裂が入った仮面は真っ二つに割れ、スザクの素顔が外気に触れる。
同時にゼロの仮面もまた、砕けて塵となって消えていき、その下のルルーシュの顔が現れる。

同じ顔をした男には会ってきたが、今目の前にいる顔は確かにかつて自分が手にかけた友と同じ表情をした存在だった。

「お前は、どんな世界でも相変わらず頑固なやつだな」
「――君のその身勝手な上から目線も、変わらないね」

小さく笑い合う、別世界の存在でこそあるが互いに通じ合った友。

やがて、体にはしる亀裂が顔にまで及んでくる。

「スザク、お前は生きろよ。魔王ではなく、人として」

最期に、かつてギアスの呪縛をかけられた時の友の願いと同じものを口にして。
魔王の体は塵となって消えていった。

風に吹かれて散っていく残滓を見送りながら。
静かにスザクは、纏っていたマントを外した。


【セイバー@Fate/stay night 死亡】
【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー 死亡】




【C-5/遊園地/一日目 真夜中】

【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:ゼロの衣装(マント、仮面無し)、「生きろ」ギアス継続中、疲労(大)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷
[装備]:ゼロの服@コードギアス 反逆のルルーシュ、ランスロット・アルビオン(右足・ランドスピナー破損、右腕破損、胸部貫通)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)@現実
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:この場でだけ枢木スザクとして生き、皆の力となって帰還を目指す
2:他の生存者との合流
3:アカギの協力者にシャルル・ジ・ブリタニアがいる前提で考える


◇◇

主を失った魔女の力、コードは光となって還っていく。

行き先はCの世界――エデンバイタルの扉の奥。
本来であれば次の力を受け継ぎし者へと宿るべき力であり喪失されることはない。

しかしこの儀式によって制約のかけられた空間においてはその法則も絶対ではない。

純粋なるエネルギーと化した力は、しかし本来であればくぐるはずの扉を通らず別の門へと進んでいく。

儀式により因果、死者の魂といったエネルギーを集めるための門へと、意志もなく前進していき。

やがてその力は、突如その進行方向に現れた黒い闇が包み込んで消滅した。


156:believe 投下順に読む 158:悪魔が生まれた日
時系列順に読む
150:舞い降りる剣 枢木スザク 162:星が降るユメ
セイバー GAME OVER
ゼロ GAME OVER


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