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EndGame_モザイクカケラ

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生きろ。

それはかつて友であった男にかけられた呪縛。
死を望んでいたその頃の自分にとっては呪いでしかない忌まわしいものだった。

だが時が経つにつれ、それが己をこの世に縛る呪いであると共に罪を償うための証へと形を変えていた。

発動条件は己が死を感じること、そして生きることを意識させられること。



トリスタンの振るう剣の軌跡が見える。
次の手がどこから襲いかかるかが見える。
まるで頭と体が分離したかのように、手は相手の攻撃を捌くため動き続ける。
だが分離していてはいけない。ギアスに引っ張られていては目の前の敵には勝てない。
知覚はギアスに任せ、意識はその感じ取ったものを正確に捌き、流し、勝つための一手を瞬時に模索し続ける。

普段ならここまで集中することはない。カレンを相手にした時でも、彼女の言葉に答えるだけの余裕はあった。
意識を戦闘に集中させ続けるのはここまで戦い詰めであることの疲労、そして何より相手が相手だからだろう。
こうなった自分はまるで機械のようだと、今更考えていた。

剣を弾き、返す体が反動から蹴りを放つ。
腕で受け止め逆にその脚を掴み上げる。
一撃で決めるため体を狙うか、長期戦を見越して体の自由を奪うため脚を切り落とすか。
瞬時の判断で脚へとMVSを振り抜く。
次の瞬間、トリスタンの腕から放たれたスラッシュハーケンがランスロットの腕や頭、胸部を貫かんと迫っていた。
体を反らして難なく避けたところで、地面に刺さったハーケンを軸にトリスタンの回し蹴りが機体を揺らす。
衝撃で手が離れる。

着地しハーケンを回収するトリスタン。しかし放った左右計4本のハーケンのうち右2本がワイヤー部分から切断されていた。

「…やるわね」

着地しながらも目前に迫るハーケンを交わしつつ呟くマリアンヌ。
仕留めるまでの時間がかかりすぎた弊害だろう。こちらの技量にはかなり付いて来ている。
スザク自身にかけられたギアスの発動の影響もあるのだろう。挙動の一つ一つに迷いがなく、気味が悪いほど精錬されている。

イリヤを引き剥がしてスザクのみをターゲットに絞ったことは判断ミスだとは思っていない。
それでも今目の前にいる戦士に勝つことは、マリアンヌの経験から判断しても困難と言わざるを得ない状況だった。

「それでもね…、負けられないのよ、私も!」

ハーケンの後ろから飛び出してくるランスロットへ向けて、その手の剣を振るう。
縦横無尽に繰り出される剣戟。その合間を縫って撃ち出されるスラッシュハーケン。
スザク自身もその全てを目視できてはいないだろうそれらの攻撃を、紙一重で受けて流して返し続ける。
無論スザクも負けず、その剣捌きの隙間を縫うように攻め続けている。

何十手ほどそれを繰り返したか。
やがてランスロットの腕がついていくことができず火花がスパークする。
一瞬の動きの停止を見逃さず斬りかかるマリアンヌ。しかしスザクもまた瞬時の判断でランスロットの左腕を犠牲に退避。

真っ二つになる腕に視界の一部を塞がれる。その奥からスラッシュハーケンが飛来、マリアンヌの腕に直撃した。
吹き飛ぶ腕に体勢を崩される。しかし元々こちらもランスロットと同じように人工筋肉が悲鳴を上げていた部位だ、問題はなかった。

迫るランスロットの眼前で二の腕から先が無くなった右腕を振るう。
噴出したオイルがランスロットの顔にかかり、カメラを汚して視界を遮る。
それでも踏み込んできた斬りつけを、宙に飛び上がって回避。そこから左腕の剣を体ごと回すように振り下ろす。

視界を塞がれていても跳んだ方向から推測したか、ナイトメアの駆動音かあるいはギアスからくる直感か。
コックピットを狙ったそれを、身をかがめて回避。
しかし完全には避けきれずコックピットの一部を刃が削り取る。

空中での体勢立て直しは困難。
方向調整の後射出されたハーケンがトリスタンの顔面を抉る。

吹き飛ばされ、地面に膝を付けながらも着地するトリスタン。
対してスザクはランスロットを振り向かせつつ、今の攻撃でボロボロになったコックピット上部を蹴り破り、汚れたカメラの代わりの視界を確保する。

立ち上がったトリスタンは、間髪入れずに剣を振りかざして攻め込む。
左腕を喪失し剣を受け止めることが難しくなった左側へと向けて切り込み続ける。
手は休められない。片腕を損失しているのはこちらも同じ。
しかし機体パワーでは勝てる相手ではない。今の損傷で受けに回れば防ぎきれない。

防ぎにくい方向から繰り出される剣戟を、もう一方の手の剣で、あるいは避けることで的確に防ぐランスロット。
スザクにしてみれば攻めれば勝てる相手ではあるが、剣捌きの練度は向こうの方が高く攻め入る隙が見つけられない。

事態の硬直をどうにかする一手。先に動いたのはスザクだった。
トリスタンに向けてハーケンを射出。しかし避けられる。
外して地面に突き立ったハーケンを巻き取りながら斬り込むランスロット。対してトリスタンはワイヤーを切断しながら飛び上がる。

宙から斬りかかろうと剣を構え、しかし既に使った一手であることに気付き警戒のために距離を置こうと後ろに下がって着地しようとし。
次の瞬間、横から強い衝撃が殴りかかってきた。

飛び上がっていたトリスタンへと向けて、ランスロットは斬られたハーケンの先を拾い、ワイヤー部分を掴んで振り回してきた。
機体に巻き付き動きが縛られる。

空中では対応できたかどうかは分からない。
それでも攻めるか退くかの判断をした一瞬のせいで相手の行動への反応が遅れてしまった。

引き寄せられる機体。破れかぶれに左腕の剣を振るいランスロットの切り込みに備える。
剣をぶつけ体への直撃を避けるも、逸れた剣はトリスタンの脚部を切り落とす。
引き寄せられた勢いのままランスロットの後ろに転がる。

剣を杖代わりにするように立ち上がるトリスタン。

「降伏しろ。あなたの負けだ」

ランスロットから呼びかけの声が響く。
もうその機体で戦うことはできないと確信して、そう告げてくる。

確かにスザクの判断は間違っていない、とマリアンヌも思う。
機体が飛べたなら足など飾りといえたかもしれないがフライトユニットは破損済み。
足がなくなれば機体制動が難しくなり今までのような剣技に体術を交えた自在な動きも不可能。

ただ。

「そこで一声呼びかけちゃうのは、あなたの甘さよ」

その敢えて騎士らしく振る舞おうとするところはかわいいところだとも思うが。
この自分を相手にしている今は弱点だ。

バランス感覚の悪化した機体を、最後の一手を放つかのように地を蹴り剣を振りかざす。
対するランスロットは、その姿に驚くこともなく剣を構える。
至近距離で剣を受け止め。
腰のハーケンのもう一方を射出して距離を離す。

その空いた距離、手にしたMVSの間合いとなったところで。
トリスタンを胴体から一閃した。


イリヤスフィールが手に負えなくなった時点で、こんなことになるような予感はしていた。
彼女がこちらで処理できていたならば、もっと気兼ねなく枢木スザクの相手もできただろう。
騎士王の能力を引き出し始めた時点で、彼女を倒すことを諦めてせめて枢木スザクだけでもと彼女をエラスモテリウムオルフェノクに押し付けた。

それでもと残った枢木スザクも、彼女の言葉でギアスを発動させて手に余る相手となった。

コックピットの空間そのものが浮遊感に覆われる。
負けたことを理解する。

(ごめんなさいシャルル。先にまた、あの場所に行っているから)

この先どんな結末になるとしても、シャルルはまたあの世界に引き戻される。
隠そうとしていた、彼の限界にも気付いていた。

もう少しは頑張りたかったが、ここまでのようだ。

(ごめんなさい暁美ほむら。あなたに残す負荷が、少し多すぎるかもしれないわ)

イリヤスフィールはきっとあんな怪物に負けることはないだろう。
彼女が残った参加者をどこまで相手にできるか。どんな結末に辿り着くか。
見届けられないことは少し悔いが残っていた。

(――ほんとに、あなたは強かったわ)

下半身もなくなり、残っているのは胴体と頭と片腕のみ。
機体ももうすぐ爆散するだろう。

その残った左腕を、前に出して。
最後の足掻きとして、腕のハーケンを射出した。

こちらの最後を見届けようとしていたスザクは当然のように見切り、その軌跡から機体を反らした。
一直線に伸びていくハーケン。こちらを表情もなく見届ける枢木スザク。

その様子を見て、マリアンヌはほくそ笑んだ。

「だけど残念。私の、勝ちよ」

次の瞬間、ハーケンの軌道が折れ曲がるように切り替わり。
スザクの視界の外から、一直線にコックピットへと向けて突き抜け。

その体を引き裂くと同時に、トリスタンの上半身は爆散し搭乗していたマリアンヌごと消滅した。


マリアンヌのいた世界には、ナナリーやアリスが操っていたナイトメアフレームと同じように特殊な仕様を施された機体がいくつもある。
ギアス能力に対応して超加速や怪力を発揮する機体といったように。

このトリスタンにも、ハーケンの軌道を自在に切り替えることができる能力が備わっていた。
しかし、今の今までマリアンヌはその使用を封じていた。

なくても勝てる相手だと舐めていたわけではない。
ただ、もし手の内がバレていればこれを使ったとて対応してくる。使うのであれば、この一撃で仕留めねばならない。
使わずに勝てるのであればそれでよし。もし使って勝てないなら手はない。むしろ生存のギアスを刺激してしまう分こちらが不利になる。

だから隠し続け、この自身が敗北するその瞬間に。勝ちを確信し意識に隙を見せたそのタイミングで。
最後の一手を撃ち込んだ。

マリアンヌは枢木スザクに敗北した。
しかし、最後の一瞬で、引き分けにまで持ち込ませることに成功した。


トリスタンだったものの残骸が炎を上げている。
その近くに、背部のコックピットを抉り取られたランスロットsiNが倒れていた。

中から転がり出たスザクは、ランスロットの機体に背中を預けて座り込む。
腹を抑えていた手を退ける。服は血に濡れ、腹を大きく破られている。致命傷だ。
生きなければならない、とギアスが命じる。しかしどうやっても手遅れだ。
いくらギアスといえども、ただの人間の体の傷を瞬時に治すことなどできない。

(最後の最後で…、くそ、油断した…)

もし軌道を変えるハーケンが視界の中にチラリとでも映っていれば、ギアスが反応して対処しただろう。
最後の最後、自身の命を担保にして、こちらの命を刈り取る隙を見出したのだ。その瞬間まで、最大の切り札を隠し続けて。
閃光のマリアンヌ。技量は元より経験、覚悟も恐ろしい相手であったことに今更気付かされた。

息を吐き出すと、体から力が抜けていくのを感じていた。

体を強引にでも生かそうとするギアスの働きが体に苦痛を与える、
無理だと分かっていても、この呪いは勝手に働き続ける。その度に出血が増しているにも関わらず。

ふと、マリアンヌに言われた言葉を思い出す。

顔も名も、生きている証も無くして世界への償いのために生きる。
それは果たして生きていると言えるのかと。

その通りだ。
だからこそ、ほんの短い間でも枢木スザクとしていられたこの場は、居心地がよかった。
なんて、そんなことを考えてしまえばルルーシュには怒られてしまうかもしれないが。

"枢木スザク"としていた自分は、何かを遺せたのだろうか。

「眠いな…、少しだけ……」

遠ざかっていく意識の中で、静かに瞳を閉じていく。
瞳の奥で光るギアスが抗っていても、それがもう二度と目覚めないものだと分かっていても。
その睡魔に抗うことはできなかった。



エラスモテリウムオルフェノクを撃破したイリヤはNと共にスザクの援護に向かっていた。
その時まず目に入ったのは地面で炎を上げるトリスタンだったものの成れの果て。

「よかった…、スザクさん勝ったんだ…」

安堵の声を漏らすイリヤ。
どこかにいるはずのスザクと合流しようと周囲を見渡して。

「イリヤスフィール」

Nの声が耳に届く。
その色を感じない声に、嫌な予感が心のなかに湧き立つ。

Nの元に駆け寄ったイリヤの目に入ったのは、地面に倒れ伏したランスロットsiNの姿。
機体そのものは部分的なダメージはあるが比較的原型を留めている。ただコックピット部分が潰れていた。

そして、その機体の裏で。
ランスロットに背を預ける形で座り込んだ状態で、枢木スザクは眠っていた。

『心肺停止状態、お亡くなりになっています…、イリヤさん…』
「なんで…、そんな…」

腹部から流れた血が体と地面を真っ赤に染めて。
二度と目覚めることのない眠りへと落ちていた。

【マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー 死亡】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】

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