概要
クシルは、
レイルティーネ王国北部の寒冷な地域に原産する、中型の草食性哺乳類である。王国を象徴する固有種の一つであり、その存在は古くから北方の住民の生活と文化に深く結びついている。成獣は体高2メートルで、頑強な体躯を持ち、全身が厚く長い毛皮で覆われている。この毛皮は二層構造になっており、外側の剛毛が雪や風を防ぎ、内側の密生した柔毛が体温を保持するため、厳しい冬の気候にも十分に適応している。頭部には雄雌を問わず、螺旋状に湾曲した壮麗な一対の角が生えており、これは年齢と共に大きく成長する。古くは古典古代の時代から、その有用性が見出され、家畜化が進められてきた。温厚で従順な性質を持つことから、農耕や重量物の運搬における動力源として、また、その毛皮や乳、肉は人々の生活を支える重要な資源として活用されてきた。特にクシルの毛から作られる織物は、極めて高い保温性と耐久性を誇り、王国の特産品の一つとして都市部の市場でも取引されている。現代においても、その役割は変わらず、農村部、とりわけ自然界の生活様式において不可欠な存在である。
生態
クシルは本来、高地の岩場や森林限界付近のツンドラ地帯に群れを形成して生息する動物である。野生の個体は、数十頭からなる家族単位の群れで行動し、経験豊富な年長の個体がリーダーシップをとる社会構造を持つ。強靭な四肢と幅広の蹄は、雪深い平原や凍結した地面を安定して移動するために発達したもので、冬季には、この蹄で雪を掘り、地中に埋もれた植物の根や地衣類を主食とする。夏期には高地の植物や新芽を求めて移動する季節性の回遊を行う。その分厚い毛皮と皮下脂肪、そして基礎代謝を低く抑える能力により、食料が乏しい環境でも長期間生存することが可能である。人間との共生の歴史は、レイルティーネの建国以前にまで遡る。遥かな古代、東方の部族がクシルの強靭な体力と耐寒性に着目し、狩猟対象から家畜化へと移行させたのが始まりとされる。飼育下におけるクシルは非常に穏やかで、人間によく懐く。繁殖期は春に訪れ、約10ヶ月の妊娠期間を経て一頭の子を産む。生まれた子は数時間で立ち上がり、母親の乳で育てられる。家族の一員として扱われることも少なくない。春先の換毛期に合わせて行われる毛刈りは、地域の共同作業として行われる伝統行事の一つとなっている。刈り取られた毛は、防寒具や織物の原料として加工され、王国の伝統文化を彩る源泉となった。王国軍の兵士が着用する冬季装備にもクシルの毛織物が採用されており、軍事面でも間接的に貢献している。
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最終更新:2025年10月04日 10:33