概要
《アーカイン・プロトコル》とは、
旧ピースギアが保有していた終末対処機構である。正式名称を「多重位相文明遺構封鎖機構」といい、パラレル多世界構造の破綻という極限状況に対応するため設計された。時間因果の再構成を通じて世界線そのものを巻き戻すという特異な性質を有しており、旧ピースギアにおける最終手段として位置づけられていた。プロトコルの設計思想は希望的選択を前提とせず、最終的な喪失と忘却を受け入れることで文明の連続性を確保するという点にある。通常の物理的攻撃手段とは根本的に異なり、観測された歴史と因果の全記録を量子的残滓へ変換したうえで、指定された再構成基点まで世界の状態を段階的に復元する機序が想定されていた。旧ピースギア時代にはT5等級(構造終末級)に分類され、同機関が保有する装備体系の頂点に君臨する存在として極秘裏に管理されてきた。
歴史
《アーカイン・プロトコル》の起源は、旧ピースギア創設以前の時代にまで遡るとされている。
文明連続性の維持を目的として秘匿された「非選択的リフレクション・コード」に基づき構築されたという伝承が残るものの、正確な技術継承経路は現在も解明されていない。旧ピースギアの記録によれば、本機構は六重構造の崩壊連鎖装置から構成されており、その中枢に配置された「因果補正回廊」が次元と時間の巻き戻しを実行する役割を担っていた。各構成モジュールの役割は以下のとおりである。
| 構成モジュール名 |
役割 |
| ---------- |
------------------------------------ |
| 時相観測ノード群 |
各時間軸における巻き戻し可能点の測定および収集 |
| 存在証跡抽出子 |
全構成員と構造物、歴史の記録ログを量子パターンとして保存 |
| 連鎖崩壊整合コイル |
構造場における重力、因果、物理法則の崩壊を段階的に誘導する中和フィールド |
| ネオ・マルドゥク因子 |
巻き戻し演算を司る終末因子であり、観測者非依存の再起点を生成 |
| 孤絶観測遮断システム |
外界からの干渉を完全遮断する絶対孤立フィールド |
| 再起同期トリガ |
選定された再構成世界線へ意識情報のみを移送する発信機構 |
発動条件は極めて厳格に定められていた。旧ピースギア最高中枢(Q-HUB)からの生存信号が完全に途絶し、
Q-NET内で稼働する倫理中枢AI群が同時に「生存価値判定:不能」と応答したうえで、複数世界線からの並行存在ログが全てゼロ化して世界線孤立化が確定した場合に限り、発動承認フェーズへと移行する仕組みであった。これらの条件が満たされると、プロトコル内に封じられた時間再構築コア「ネオ・マルドゥク因子」が解凍され、機構が発動段階へと進む設計となっている。プロトコル制御核は6名の最高評議員により多重分散封印が施されており、地平収束点と呼ばれる6ヶ所に分散配置されていたという。本機構の存在が初めて示されたのは、過去のクデュック戦争末期における第十三世界圏の消滅後である。当時のデータによれば、既に一度「不完全発動」された形跡が確認されたものの、その直後に関係する全記録と関係者が消滅したため、実際に何が起こったのかを知る者は存在しない。
作用機序
《アーカイン・プロトコル》の起動によって達成される状態は、崩壊した世界を再現して復旧させるという意味合いとは異なっていた。あらゆる選択と存在、行動が無かったこととされ、「崩壊しなかった可能性の世界線」へと集合意識を再投影することが本機構の目的であった。旧ピースギアの理論体系においては、巻き戻し演算の過程で当該世界線における全ての観測記録が量子的残滓へと変換され、定められた再構成基点まで世界の状態を段階的にロールバックする機序が想定されている。再構成された世界線においては、元のピースギア、そして構成員が存在していた痕跡さえも完全に消去されるという副作用を伴う。倫理的および記憶的観点からは「事実上の全構成員の自己犠牲」と等価であり、起動に至るまでの精神的障壁は計り知れないものがあったとされる。発動に際しては「自己を証明するものが世界上に何も残っていない」ことをAI倫理群が自動判定する必要があり、プロトコルは「誰にも起動されることのない兵器」として設計された。その存在自体が旧ピースギアと全世界線の終末に備えるための「沈黙の選択肢」として静かに眠り続ける性質を持っていたのである。
現状
共立世界において《アーカイン・プロトコル》は、再現することも効力を発揮させることも不可能な遺物として扱われている。旧ピースギアが存在した世界と共立世界では根本的な法則が異なり、本機構の前提となる多世界構造の在り方そのものが成立しない。時間因果の再構成という核心的な機能は共立世界の物理法則と相容れず、仮に技術的な再現を試みたとしても、想定された作用を引き起こすことは原理的に困難である。
新ピースギアにおいてはT5等級(構造終末級)という分類体系が継承されたものの、《アーカイン・プロトコル》自体を同等級の現役装備として運用する計画は存在しない。本機構に関する情報は旧世界の歴史的記録として保管され、かつて存在した終末対処思想を理解するための参考資料という位置づけにとどまる。
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最終更新:2026年02月03日 23:19