共立公歴650年、シナリス星域連合では、平和な時間が静かに流れていた。
ピースギアはその設立当初から変わらず、非戦的介入と修復、技術支援を使命とし、各地に展開する支部を通じて人道的活動を継続していた。
カナタとユナは、長い間その活動の中核を担い、数々の局地的災害や旧時代兵器の暴走事案などに尽力してきた。ユナは調査班をまとめる主任エンジニアとなり、カナタは修復班主任として現場に立ち続けた。ふたりは十代の頃に出会い、共に多くの試練を乗り越えてきた絆が、その後の人生をも強く導いていた。
年齢を重ねても、ふたりの現場志向は変わらなかった。カナタの穏やかで的確な判断と、ユナの決断力と情熱が、幾度となく危機を救ってきた。
だが、共に六十代に差し掛かる頃、彼らは初めて“撤退”を考えるようになった。
ユナ「ねぇ、カナタ。そろそろ次の世代に、全部渡してもいい頃かもしれないね」
カナタ「そうだね。でも、最後にもう一回だけ、現場に立ちたい。君と一緒に」
共立公歴652年、セトルラーム辺境の惑星で発生した大規模地殻変動と地下構造物の崩落事故が、二人の“最後の任務”となった。すでに実務からは退いていたはずだったが、彼らの経験と信頼は未だに高く、現地の職員たちから直接依頼が舞い込んだのである。
崩落した地下構造物。高エネルギー反応の残留でドローンやアンドロイド、機械生命体すら通じない状況。危険な作業に乗り込める人間は限られていた。そこで、ピースギア内部でまだ”人間”でなおかつ老いてなお危機対応に長けた二人が選ばれたのだった。
カナタ「ユナ、ここから先は本当に危ない。もし僕が先に――」
ユナ「やめて。最後まで一緒にって決めたでしょう?」
地下十七層、主電源コアの安定化処理は成功したものの、帰還用の搬送機が崩落で損傷し、ふたりは内部に閉じ込められた。通信も遮断され、救援までに要する時間は明らかに間に合わないものだった。
限界を知りつつも、ふたりは最後まで諦めなかった。ユナはカナタの腕の中で、最後まで冷静で、そして優しかった。
ユナ「こんなに静かな終わりって……思ってたより、悪くないね」
カナタ「うん。君がいるからだよ。ずっとそうだった」
その後、救助班によって発見された記録装置の断片には、ふたりが互いを励ましながら機器を安定させ続けたログと、最期に交わした声の記録が残されていた。そして最後のログに
音声データとメッセージが添えられていた。
カナタ「ユナ、ありがとう。君と出会えて、本当に幸せだった」
ユナ「わたしも。あなたと過ごせたすべてが……わたしの宝物だよ」
カナタ「また巡り合うときまで」
ユナ「ええ、また巡り合うときまで、さよなら」
ふたりが安らかに眠るその場所は、後に「星の祈りの間」と名付けられ、ピースギアの新人技術員たちが訪れる追悼と誓いの地となった。ふたりが命をかけて守ったもの、それは単なる技術や構造物ではなく、人と人とを繋ぐ「絆」だったのだ。
カナタとユナの最期は、英雄的でも、壮絶でもない。ただ、互いを思い合い、最期まで手を取り合って生きたふたりの、静かで温かな結末だった。
最終更新:2025年07月27日 11:42