巡りゆく星たちの中で > 大切なのは共に進むこと

 Q-PBキャノンの照射が終わり、静寂が広がる灰色の戦場。その中で、司令官・綾音は再びコンソールへと視線を戻す。表示されたのは、セトルラーム代表部との通信ログと、過去数回の外交交渉記録だった。

綾音「……私たちは、間違っていたのかもしれない」

 艦橋に集まるオペレーターたちが顔を見合わせる。その空気に答えるように、彼女は自らの思考を言葉にしていった。

綾音「“技術を正しく管理するためには、我々がその全てを掌握しなければならない”。かつての私は、そう信じて疑わなかった。超技術、因果操作、変異領域の再構築……これらは人類全体の脅威に関わるもの。だからこそ、選ばれた組織だけが扱うべきだと、そう考えていた。でも――」

 端末に映るのは、セトルラームからの抗議文と共に記された会議記録。そこには、ある種の“距離”が確かにあった。

綾音「セトルラームとの交渉記録には常に、“優越的管理者”としての我々の姿勢が透けていた。彼らの技術者がどれほど努力し、彼らの政府がどれだけリスクを背負って協力に応じてきたか……その過程を、私たちはどこか軽んじていたのかもしれない」

 ヴォルカンが静かに問いかける。

ヴォルカン「けれど、それが間違いとは限らない。ピースギアは世界秩序を守る任務がある。特に超技術に関しては、適切に統制されない場合、過去のような惨禍が繰り返される可能性が高い。管理は必要だ」

綾音「もちろん。それは否定しない。でも……“どう管理するか”が問題なのよ。上から目線の供与、それは時に“支配”として解釈される。たとえ善意からであっても」

 彼女は、数日前にセトルラーム代表部から送られてきた技術論文を開いた。そこには、彼ら自身の解析と、Q-PB理論に対する批判的かつ建設的な意見が記されていた。

綾音「見て。この論文……セトルラームの研究機関が、我々の陽電子理論の危険性を指摘してきたものよ。でも、彼らはただ否定するのではなく、自分たちの代替案も示している。こういう誠実な対話に、私たちはきちんと応えられてきたのかしら」

ヴォルカン「……正直、ノーだな。特に今回の試射に関しては、“既に決まったこと”としてセトルラーム側には事後通達しかしてない」

綾音「そう。まさにその姿勢が、他国に“排他性”や“技術独占主義”という印象を与えてしまっている。ピースギアが技術を盾に外交を進めれば進めるほど、“選ばれた者による統制”というイメージが強くなる」

 艦橋のスクリーンに、セトルラームの側の研究者の顔が映る。以前の技術会談時の映像だった。

セトルラーム側の研究者「――共に未来を築こうとするのなら、“信頼”という土台なしにはありえません。技術の高さは尊敬します。ですが、協調なき正義はただの専制にすぎません」

 その言葉に、綾音は深く頷いた。

綾音「私たちは、技術的優位に立つことで未来を守ろうとした。そのために他国の不安や、独自に築いてきた体系、経済、価値観を後回しにしてきた。それが正しかったのか……今は疑わざるを得ないわ」

ヴォルカン「では、どうする? Q-PBキャノンが証明したように、我々には対変異兵器の切り札がある。その情報をどう扱う?」

綾音「対等な関係を築く。それが答えよ。セトルラームとはこれまでよりも密接な技術共有体制を組む。もちろん機密情報には段階的な開示を前提とするけれど、彼らに“任される”部分も増やす。それによって、本当の意味で“共に抗う”体制が生まれる」

 しばし沈黙の後、ヴォルカンがふっと息を吐いた。

ヴォルカン「まさか、綾音司令がここまで言うとはな。……だが、納得だ。現場で血を流すのは、我々だけじゃない。セトルラームの部隊も、今回のキメラ掃討に多大な犠牲を払った。共に背負うってのは、そういうことなんだな」

綾音「うん。今回の戦いは、未来の試金石であると同時に、外交の試金石でもあった。力だけで未来は変えられない。信頼と、協力――それが必要不可欠よ」

 再びコンソールに視線を戻し、セトルラームへの返信文を起草し始める綾音。その表情に、迷いはなかった。

綾音「だから私は、変える。“技術を守る”ということの意味を。独占でも、統制でもない。共に進むための礎として――私たち自身の在り方を、問い直す」

 未来への“照射”は、戦場だけでなく、外交の場にも向けられ始めていた。
最終更新:2025年07月30日 10:34