アットウィキロゴ

巡りゆく星たちの中で > 大切なのは共に進むこと

Q-PBキャノンの照射が終わり、灰色の戦場には不自然なほどの静寂が広がっていた。
空間ごと削り取られたE-17地点には、熱も残骸も存在せず、ただ現実が欠落した痕跡だけが漂っている。

司令室に戻った綾音は、ゆっくりとコンソールへ視線を落とした。
表示されていたのは、セトルラーム代表部との通信ログと、これまで積み重ねられてきた外交交渉の記録だった。

綾音「……私たちは、間違っていたのかもしれない」

艦橋に詰めるオペレーターたちが息を詰め、互いに視線を交わす。
その沈黙を破るように、綾音は言葉を続けた。

綾音「技術を正しく管理するには、すべてを掌握しなければならない。私はずっと、そう信じてきた。因果操作も、超技術も、変異領域も……扱いを誤れば人類そのものを滅ぼしかねない。だから、選ばれた組織だけが管理すべきだと」

彼女の指先が、過去の会議記録を呼び出す。
そこには、セトルラーム側からの抗議文と、淡々とした議事録が並んでいた。

綾音「でも、この記録を見ていると……私たちは常に“管理する側”だった。彼らの努力も、覚悟も、どこか当然の前提として扱っていたのかもしれない」

副官のセラ=ヴォルカンが、慎重に口を開く。

ヴォルカン「だが、統制が不要だとは思えない。ピースギアは世界秩序を守るために存在している。超技術を無制限に広めれば、過去の惨禍が再来する可能性は高い」

綾音「ええ、それは事実よ。問題は“統制のやり方”。上から与えるだけの管理は、いつか支配と受け取られる。善意であっても、ね」

彼女は数日前に届いた、セトルラーム研究機関の技術論文を開いた。
Q-PB理論への批判と同時に、代替案と独自解析が丁寧に記されている。

綾音「彼らは否定するだけじゃない。自分たちの答えを提示している。こんな誠実な対話に、私たちはきちんと向き合ってきたのかしら」

ヴォルカン「……正直に言えば、今回の試射は事後通達だ。協議の余地はなかった」

綾音「それが、排他的で独善的だという印象を生む。技術で未来を守ろうとすればするほど、“選ばれた者の支配”に見えてしまう」

艦橋スクリーンに、過去の技術会談の映像が映し出される。
セトルラームの研究者が、真剣な表情で語っていた。

セトルラーム研究者「共に未来を築くには、信頼が不可欠です。協調なき正義は、専制と変わりません」

綾音は、静かに頷いた。

綾音「私たちは力で未来を抑え込もうとしてきた。その結果、相手の恐れや価値観を後回しにしていた……今なら、そう思える」

ヴォルカン「なら、どうする。Q-PBキャノンという切り札を、どう扱う?」

綾音「対等になる。セトルラームとは段階的な技術共有体制を築く。管理ではなく、信頼を前提にした協力関係を」

しばしの沈黙の後、ヴォルカンが小さく息を吐いた。

ヴォルカン「……現場で血を流したのは、俺たちだけじゃない。彼らも同じだ。共に背負うって、そういうことか」

綾音「ええ。今回の戦いは、兵器の試金石であると同時に、私たち自身の在り方を問うものだった。力だけじゃ、未来は変えられない」

彼女は新たな通信文を起草し始める。
その横顔に、迷いはなかった。

綾音「技術を守るという意味を、私は変える。独占でも統制でもない。共に進むための礎として――」

戦場で放たれた“照射”は、今、外交というもう一つの未来へ向けられようとしていた。

最終更新:2025年12月17日 20:59