巡りゆく星たちの中で > 噓を見破るチカラ

未来因果班に、新たな依頼が舞い込んだ。
シェルタードーム7にて、未来因果スキャンの結果に「異常値」が記録されたという報告である。事故ではなく、また自然現象とも異なる。だが提出された資料はきわめて簡素で、異常の詳細が巧妙にぼかされていた。

会議室。
綾音が静かにホログラムを展開する。

綾音「これが研究班から上がってきたスキャンログだ。異常波形が出ているはずだが、随分と簡略化されている」
レオン「報告書を読む限り、ただの機器エラーだと言い張っているな」

キューラは端末を覗き込み、すぐに眉を寄せた。

キューラ「……やっぱり。これ、嘘だよ」
レオン「またか」
キューラ「“また”じゃないよ。僕にはわかるんだ。数値の並びが、自然な事故やエラーを装って“人の手で削られてる”。これは意図的な隠蔽だ」

綾音はわずかに目を細め、ため息をついた。

綾音「よし。現地で直接確かめるしかないな」

現地調査。
ドーム内の研究施設は清潔で、迎え入れた職員たちは柔らかな笑みを浮かべていた。だがその笑顔の奥に、キューラには妙なざわめきが感じ取れた。

研究員C「今回の件、本当にご迷惑を……機器が老朽化してましてね。測定値も乱れるんです」
綾音「なるほど。ではその機材を確認させてもらおう」
研究員C「ええ、どうぞ」

表向きは協力的な態度。しかし、その声色の奥にわずかな“濁り”があった。
キューラの胸がひやりとする。

キューラ「……嘘をついてる」

レオン「……」
綾音「どういう意味だ、キューラ」

キューラは一歩前に出て、研究員をじっと見つめた。

キューラ「データに混ぜ込まれた“空白”。あれは偶然じゃない。あなた、本当は何を隠してるの?」

研究員Cは一瞬視線を逸らし、そして苦笑いを浮かべた。

研究員C「……参ったな。やはり見抜かれるか」

キューラはすぐさま彼を別室に連れ出した。
詰所の隅、静かな観測ルーム。壁面には制御端末とシールドガラスだけ。仲間たちはあえて同行せず、二人きりでの対話となった。

キューラ「ここなら、言い訳も通じない。あなたが何を恐れてるのか、教えてほしい」
研究員C「恐れてる……か。確かにそうだ。我々は、スキャンの異常が示す未来因果を隠した」
キューラ「やっぱり……」

彼は深く息を吐き、声を震わせながら続けた。

研究員C「スキャンが示したのは“共同体の崩壊”だったんだ。このドームが数年のうちに分裂し、互いに争い始める未来……。それを公式に報告すれば、住民に動揺が広がる。混乱が現実を早めるかもしれない。だから私たちは、あえて結果を塗り潰した」

キューラ「……」

静寂が落ちた。彼の言葉には確かに“恐れ”と“善意”が混じっている。だがそれでも、未来因果班に対して虚偽の報告を行ったのは重大な背信であった。

キューラ「あなたの気持ちはわかる。でも、嘘は未来を歪める。報告を受け取る僕たちの判断を狂わせるんだ。それは、もっと大きな悲劇に繋がる」
研究員C「……っ」

キューラは一歩近づき、彼の目を真っ直ぐに見つめた。

キューラ「僕は嘘を見抜くために生まれた存在だ。だからこそ言うよ。恐れに縋って真実を隠すことは、未来を守る選択にはならない」

研究員Cの顔が苦痛に歪む。
だがやがて彼は観念したように、肩を落とした。

研究員C「……わかった。全て報告する。責任は私が負おう」
キューラ「うん。それが正しい。あなたを責めるつもりはない。嘘を正したいだけなんだ」

後日。
本部に戻った未来因果班は、シェルタードーム7の未来因果異常について詳細な解析を進めた。確かに内部の不和を示す兆候はあるが、それを早期に共有できたことで、逆に事前の対策を練ることが可能になった。

レオン「やはり正直に報告させて正解だったな」
綾音「その判断を導いたのはキューラだ。よくやった」

キューラは小さく笑みを浮かべたが、胸の奥ではまだ微かな痛みが残っていた。

キューラ(彼は嘘をついた。でも、その嘘には“守りたい”という願いがあった。僕はそれを否定した……それでも、未来を守るためには必要なことだったんだよね)

窓の外、遠い空に瞬く光を見つめながら、彼女は心に誓う。

キューラ「僕はこれからも嘘を見抜き、未来を守る。誰かを責めるためじゃなく、真実を繋ぐために」

その言葉は、未来因果班の新たな誓いとして静かに刻まれていった。
最終更新:2025年08月24日 06:24