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『FAKE STAR』 その2

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匿名ユーザー

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 翌日の土曜の正午。小南は部室裏で不満げに煙草を吸っていた。
今日は夕方まで練習で、これから投手組の投げ込みに付き合う手筈なのだが、部室で主将とみずきが「どちらが公式戦で背番号の1を背負うか」で揉めていて、一向に決着が付かない。
他の者は大京のノックを受けているのだが、小南は30分近く待機中だった。
「…いつまでやってんだ」
小南が3本目の『The Boss』に火を着けたところで、部室裏に原 啓太がやってきた。
「…うっわ、ヤニ臭っ!」
「…よぉ。あいつらまだやってんの?」
「みずきさん頑固で我が儘なトコあるからなー…。今日あんま機嫌良くなかったし。
まだ長引きそうやで」
「…アホかあいつら!別にどっちでもいいっつの!」
煙を吸い込み、吐き出す小南。原が鼻をつまんだ。
「…ホントそうなんやけどな。でも本来は間違いなくキャプテンやと思うしなー…」


 約20分後、部室のドアが開いた。
「ごめーん小南君お待たせ!今から私のエース足る所以のピッチングを見せるからブルペンに…
あ、あれ!?」
主将とみずきの結論は「第三者に判断させよう」となった。
その栄光ある第三者に選任されたのが、聖タチバナ学園野球部正捕手小南であったのだが…
彼はもうここにいなかった。

「原…、まさか小南くん…」
ベンチに腰掛けていた原に、みずきが聞いた。
「「頭痛いから帰る」そうや。…あと「夫婦喧嘩は他所でやれ」って言っとったわ」
「夫婦って何よ!」
「…みずき、もうやめね?」
「イ ヤ!」


しかし…みずきが背番号「1」を背負う事は無かった。
「じゃあ持久力で勝負よ!」と言い出したみずきは、長距離走での勝負で、ウソのようにボロ負けした...

---

『♪I'm calling your name,many times~!You are my blieving star!
君の名前を呼ぶよー♪』
「♪呼ぶよ~!」
 1時間後。部活を抜けた小南は既に『アウターヘヴン』でボーナスを引いていた。昨日と変わらず野球着のまま『パワプロクン711』を打っている彼だが、今日は出だし好調のようだ。
この機種は、7を揃えて『めぐBig』を選ぶと歌手不詳のオリジナルソングが流れる。その曲が好評なのも相俟ってか、小南以外にもこの機種のファンは多かった。
尤もすみおは「他よりメダルが沢山出るから」との理由からだったが。
「おっ!今日は出てるな」
突然の背後からの声に、小南の打つ手がピタリと止まる。
『まさかバレたのか…!?早過ぎるッ!』
だが彼が振り向いた先にいたのは、野球部員ではなくすみおだった。
「よぉ」
「…びっくりさせないでよぉすみおさん!みずきかと思ったじゃん!」
「悪い悪い。しかしまたサボって来たのか?懲りない奴だ」
「…今日は午前中で終わったんですよ」
小南は振り向き、再びボーナスを消化し始める。彼の横の椅子にすみおは腰を下ろした。


「ところで小南。この後ヒマか?」
「え?…別に予定は無いけど…」
「そいつぁ良かった。じゃあ一つ頼まれてくれ」
どうやらすみおは、小南に用事があってこの店に来たようだった。まるで小南がここに居る事が判っていたかのように。手を動かしながら、小南は会話を続ける。
「いいですよ。この台ももう出なそうだし、このボーナス終わったら帰ろうかなって思ってたから」
ボーナスの消化を終え、小南がメダルを箱に詰める。
「そうか、悪いな。…ホレ。バイト代先払いだ」
すみおが財布から壱萬円札を取り出し、小南に渡した。
「…話聞く前から受け取るのは怖いんですけど」
「ん?気にするな。どうせ泡銭だ」

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 店から出た二人は、カイザース寮に向かい歩き出した。今日の小南の収益は、すみおのバイト代を入れて+37000円。1時間ちょいにしては中々だ。
「で?俺は何をすればいいの?」
「ああ…今日、寮にワシの姪っ子が遊びに来てるんだが、この後ちょいと用事があってな?
ワシは構ってやれないから、その子と遊んでやって欲しいんだ」
子守の類だと思った小南は、すぐさま快諾する。
「分かった。任せて下さいな。すみおさんの用事って何?」
「麻雀だ。古い友人とな」
「…ダメ人間」
「お前が言うな。では頼んだぞ!お前の事はもう伝えてある。鍵は空いてるから、勝手に入ってくれ」
それだけ言うと、小南が止める間もなくすみおは行ってしまった。
「…不用心な」
寮はもう目の前だった。小南は、すみおにその子についてもう少し聞いておきたかったのだが、取り敢えず会ってみる事にした。

寮の裏口の扉を開け、小南が管理人室へと入ると、すぐにストーブの熱気が漂ってくる。暖かいを通り越して暑い程だ。
「…暑い」
小南はとりあえずストーブを消す。そして、勝手が分かっている管理人室の奥へと進み、すみおの姪っ子を捜した。

「・・・」
その子は寝室にいた。設定温度を上げすぎたストーブのせいか、うっすらと汗をかいて上下の下着だけで寝苦しそうに眠っていた。
小南はその子の前で固まる。幼い子だとばかり思っていた彼だったが、目の前で眠る女は間違いなく「幼く」はない。自分と同じ位の年子だ。
さらに、小南はその娘に見覚えがあった。それもつい昨日だ。
部活を見ていた黒髪の綺麗な女の子。その子が今、極めて無防備な格好で彼の前にいた。
「…ん…」
彼女が声を出す。中々に挑発的な声だ。小南に気付いたのだろうか?ただそこに立ち尽くしていた彼だが、段々と理性が擦り減っていくのを自覚し、取り敢えず部屋を出る事にした。


「…おじさん…、あついよ…」
部屋を出かけた小南の足が止まる。彼女の言う「暑い」はおそらく「ストーブを消してくれ」との意味合いも持っているのだろう。だが、やはり言い方が色っぽい。
「…ストーブ消したよ。暑かったから。…その格好風邪ひくよ?」
「…だいじょうぶだよ。おじさん…」

数秒後、彼女はガバッと起き上がり、小南を見た。
「…だれ」
「えーと俺は…、たぶん君のおじさんだと思う人に用事を頼まれたんだけど、今ここに君しかいないの?」
「…すみおおじさんの…ともだち?」
「うん」
「・・・」
彼女の口調が冷淡な事もあってか、小南は焦らず質問に応じる事ができた。彼女はまだ半ば起き切れていないようで、顔と目が寝ぼけていた。小南には、その表情がとても可愛く見えた。
「…あ、あのさ」
「…はい」
「その…すみおさんに、たぶん君の事頼まれたんだけどさ…、
もう少し寝てる?それなら俺はあっちで暫く待ってるけど…」
遂に彼女の瞳がはっきりと開き、昨日と同じ顔になった。
「着替えます…」
「そっか。じゃあ俺あっちにいるから、なんかあったら言ってね」
彼女はこくりと頷いた。小南はそれを確認し、部屋を出て戸を閉めた。

---

 「勘弁してよ…。もっと子供だと思ってたのに、俺と同い年位の女の子じゃねぇかよ…。っつーか昨日会ったし。俺にどうしろと?
…まぁ結構可愛いけどさ」
彼女の着替えを待つ小南は、居間で独り愚痴りながら煙草を吹かし、ソファに腰掛けていた。すみおに一言抗議したいが、すみおの携帯の番号は知らないし、何処にいるかも分からない。そもそもすみおは携帯を持ってるのだろうか?
よって彼は、今は考えない事にした。
数分後、彼女が着替えを終え出て来る。小南はそれに合わせて煙草を消した。先日嫌がられた事からの配慮だ。彼女は、白のハイネックセーターとデニムのパンツを身につけていた。胸がそこそこ大きいようだ。
「あ、終わったの?」
彼女は無言で小南の横に腰掛け、こくりと頷いた。
「…えーっと、君は」
「…今野です。今野早矢」
「えー…、早矢ちゃん?あの…」
「はい」
「…近いんだけど」
「・・・」
完全に小南に体を預けていた早矢は、少し体をずらして小南との間に距離を置いた。
「…さむい」
が、一言そう漏らし、すぐにまた小南に寄り添った。先ほどストーブを消火したばかりだが、本来だいぶ気温が低いせいか、部屋の暖気は瞬く間に無くなってゆくばかり。寝起きとあらば尚更かも知れない。
小南の嗅覚を、何時ぞやと同じ早矢の匂いが擽る。淡く甘い香りだ。ちょっと視界を下げれば見える早矢の黒髪も、やはり変わらず美しかった。


「きのう、私と会いませんでした?」
早矢が突然聞いてきた。
「…うん。早矢ちゃん昨日、ウチの部活見に来てたでしょ。すみおさんに連れて来られたの?」
「ううん」
早矢は小さく首を横に振った。

「野球を、見てみたくなったから…」
「へぇ。…で、見た感想は?」
「…たばこ吸ってる不良さんにからまれたから、よくわかりませんでした」
その言葉が、小南の心にグサリと突き刺さる。外ならぬ彼自身の事だ。
「・・・」
「たばこの吸いすぎは、体にわるいですよ」
「…はい。…ごめんなさい」
小南が謝ると、早矢が彼の方に振り向いた。

「…また、見にいってもいいですか?」
「ん?いいよ。またおいで」
「…はい」
小南が了承すると、早矢はうっすらと微笑んだ。その、彼女が初めて見せてくれた笑顔は、彼の恋心を強く擽った。
(やっべ、この子可愛い…)

「あ。それと…」
真顔に戻った早矢がそう呟く。
「ん?何?」
「あなたは…」
「うん」


「…あなたは…、なんてゆう名前なの?」

---

 「矢部く~ん!あたしの球受けてよぉ(はぁと)」
「嫌でやんす!みずきちゃんのシンカーなんてオイラ捕れないでやんす!」
一方で、タチバナ学園野球部では、みずきが矢部をかどわかし、(半ば強制的に)ブルペン捕手をさせようとしていた。
時刻は夕方5時30分。そろそろ西日も沈み切る頃だ。
「矢部とか俺じゃ無理。痛いのもうヤダ。小南引っ張ってきなよ。たぶんあいつアウターヘヴンにいるよ?」
「イ ヤ!もう暗くなっちゃうじゃん!
あたし今日一球も投げ込んでないのよ?あんたばっかりズルイ!いいから受けなさいよ矢部!」
「だから嫌でやんす!」
 みずき必殺のシンキングボールは、体から遠い位置で下からリリースするフォームも相俟り、(特に)初見の右打者に「消えた!?」と思わせる程に沈み、空振らせる事が狙える。
だが同時に、捕手の手前でショートバウンドする際に無作為にイレギュラーする性質があった。
勿論捕れない事は無くはない。だが、矢部はこれで一度眼鏡を割り、主将は2~3度股間に痛恨の一撃を喰らっている。みずきの捕手を経験した他の部員も、同程度の被害を被っている者が大多数だった。
ただ一人、小南を除いて。

---

 「…早矢ちゃん、どういう人が好き?」
「プロ野球選手」
「…ええ!?」
「…と結婚しろ。…ってすみおおじさんが言ってます」
グラウンドでの部員の嘆きなどいざ知らず。小南は早矢とずっと話していた。ストーブの暖など疾うに消え去り、部屋はもう冷え切ってしまったが、何故か再び火を燈そうとはしなかった。
少なくとも、このまま早矢と寄り添っていたかった小南は燈さなかった。結果、二人はずっと寄り添っていた。
「…すみおさんなら…、そう言うだろうな」
小南は少し落胆する。ウチの主将ならプロの世界へ行けるかもしれない。だが自分は行ける筈も無い。そもそも余り興味が無かった。
そう。今の今までは。


「…そっか。そうだよな」
明らかに落胆を含んだ声で小南がそう漏らす。無論、早矢は彼の心境の変化なぞ知る由もない。
「…早矢ちゃんは…早矢ちゃん自身はどんな人が好きなの?」

「…よく…わかりません」
「…「分からない」?」
「…男の人と、遊んだこととかないから」
「…そう…、か。」


それ以上、深く聞くまいと思った小南は別の話題を思索したが、適当な話題が思い付かなかった。結果、場を沈黙が支配する。
数十秒後にそれを破ったのは早矢だった。
「…でも」
「ん?」

「…小南さんみたいな人は…きらいじゃない、と思います」
「…うぇ!?…俺みたいな!?」
「…やさしそうだし、あったかいから。」
唐突な早矢のカミングアウトに小南は驚く。嫌われる事こそあれど、好かれる事なぞありえないと思っていたからだ。
早矢の言葉は、幼子のそれと似ていた。恋愛はもとより、人付き合いすらも極めて希薄であろうこの子の言葉は、他の誰より本心を語っている気がした。
「たばこは嫌いですけど」
「・・・」
小南はしばらく固まり、切り返しに手間取った。そのうち言われるだろうと思ってはいたが、面と向かって言われてみると些かショックだ。一方の早矢には、もちろん悪びれた様子などはない。

「小南…さん」
「なに?」
沈黙を破ったのは早矢。さしたる会話が思い付かなかった小南は、内心安堵した。
「おなかがすきました」
「…そう?じゃあなんか食べにいこっか?」
「…人込みは嫌いです」
「…じゃあ、何か買って来るよ。早矢ちゃんはここで待っててな」
早矢の答えは半ば予想できたものだったので、小南は単身でコンビニに行こうと立ち上がる。
「あ…」
「ん?」
吃る早矢。何か買ってきて欲しい物のリクエストでもあるのだろうか?

「…わ、わたしも、いっしょに行っていいですか」
これは予想外だった。小南は少し驚いたが、早矢の気持ちが変わってしまう前に連れていく事にした。

---

「何がいい?早矢ちゃん」
「あ…あの…、わたしはその…なんでも…」
聖タチバナの近くのコンビニで、二人は品定めをする。早矢はまるで初めて来る場所でもあるかのように、終始落ち着かない様子だった。
早矢に歩を合わせ、彼女の嗜好を聞いたりしながら、暖房の効いた店内を回る。商品を選び終える頃には、なんと入店から1時間近くが経過していた。
「い、いいんですか?わたしもいくつか買ったのに…」
「あ、大丈夫だよ?すみおさんにお金貰ってるから」
「…はぁ」
遠慮する早矢を制し、会計を済ませて二人は店を出る。先程より北風が強くなっていた。
「…さむい…ですね」
「…早いとこ帰ろっか」
早矢がマフラーを巻き直し、二人がさしたる明かりもない街路を歩き出したその時。

「寒い寒い~!う~凍死しちゃう~!」
その大袈裟な声に二人が振り向くと、聖タチバナ学園の制服に身を包んだ女生徒が、数人の連れと店に入ってゆくのが見えた。

先頭を切って入店したのは、紛れも無く橘みずきだった。


「やばいッ!みずきだッッ!!」
学校の最寄りである事、そして時間を掛け過ぎた事が災いした。
小南はそれらを一瞬後悔したが、幸運にも暗がりにいた彼等に誰も気付く事なく、全員が店内に消えていった。
「小南のヤツは結局戻って来ないしさ!次会ったら天に還してやる!」
店内から、暖気に安堵する声と共にこう聞こえた気がした。是が非でも空耳であってほしいものだ。

「…あー怖かった」
「ど、どうしたんですか」
何が起こったのか分からない、という顔をした早矢が、小南に尋ねる。
「…あ?ああ、あれうちの部の奴ら。見つかったら私刑にされる」
「…しけい?」
「具体的に言うと、ゴムの拷問器具で殴打される」
小南は間違った事 は 言っていないが、この説明に大半の人間は、事実よりもはるかに恐ろしい事を想像するだろう。もっとも、早矢は頭に?マークを浮かべていたが。
「…あんまり想像しなくていいよ。世の中には知らなければ良かった事の方が多いから」
「はぁ…。…あの」
「ん?」

何か言いかける早矢。そこで小南は気が付いた。さっき走って逃げようとした際に、早矢の手を握り込んでいた事に。

「…」
「…ゴメン」
直ぐさま手を離す小南。咄嗟の行為に過ぎなかったが、早矢にそれを意見された事に、彼は些かショックを受けた。

「…帰ろっか」
「…はい」
表情を変えない早矢。行いを後悔してしまい、俯く小南。よって彼は、今自分の手の甲を包み込んだ冷たい柔肌。それが早矢のものである事に気付くのにやや時間を要した。

「…あれ」
「…手、つないでてくれないんですか?」


「…繋いでていい?」
「放したら、さむいじゃないですか」

「…うん」

自分の手より遥かに小さい早矢のそれは、とても冷たかった。

そして早矢は笑った。マフラーの合間から覗ける早矢の顔は、確かに笑っていた。

小南は幸せだった。早矢はどうなのだろうか?自分と同じ感情が彼女にも芽生えてくれているのだろうか?
だが、今はそう信じた。

そして、凍てつく空にそう願った。

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