◆
衛藤可奈美について語るなら、剣術は欠かす事の出来ない要素である。
剣術バカとの評に間違いは無く、一度実技となれば正に水を得た魚。
鍛えた己の力をぶつけ、相手の妙技に高揚する。
どんなイベントよりも試合が心を大きく滾らせ、テーマパークを訪れた子供のような心境になるのは友人達からすれば日常茶飯事。
全力で戦い楽しむ姿勢を忘れない。
鍛えた己の力をぶつけ、相手の妙技に高揚する。
どんなイベントよりも試合が心を大きく滾らせ、テーマパークを訪れた子供のような心境になるのは友人達からすれば日常茶飯事。
全力で戦い楽しむ姿勢を忘れない。
かといって、誰彼構わず剣を振るう状況を求めているのとは違う。
荒魂の被害には胸を痛め、姫和と二人で逃亡の最中にも討伐へ赴いた。
試合や立ち合いを通じ斬り結ぶことを好んではいても、闘争そのものを欲している訳ではない。
荒魂の被害には胸を痛め、姫和と二人で逃亡の最中にも討伐へ赴いた。
試合や立ち合いを通じ斬り結ぶことを好んではいても、闘争そのものを欲している訳ではない。
可奈美にとって剣術とは、相手とのコミュニケーションの一つでもあった。
言葉巧みに真意を隠し、或いは自覚しないまま口を動かそうとも。
刃に乗せた想いは誤魔化せない。
剣を通して相手を見る事で、言葉を交わす以上に理解する。
得物を用いた命の取り合いではなく、剣による対話が大荒魂を巡る一連の事件を終息へと導いた。
言葉巧みに真意を隠し、或いは自覚しないまま口を動かそうとも。
刃に乗せた想いは誤魔化せない。
剣を通して相手を見る事で、言葉を交わす以上に理解する。
得物を用いた命の取り合いではなく、剣による対話が大荒魂を巡る一連の事件を終息へと導いた。
だからこそ、彼女は――
◆
口の中を苦みでいっぱいにしただけの意味はあった。
リュージから貰った薬草を全て食し、斬られた傷を回復。
治療行為を受けずとも止血が済み、全快にはならないが戦闘の継続は可能。
リュージから貰った薬草を全て食し、斬られた傷を回復。
治療行為を受けずとも止血が済み、全快にはならないが戦闘の継続は可能。
事前に渡してくれた彼への感謝を胸中で伝え、刀を構える。
姫和との逃亡に端を発した大事件を経て、他者の追随を許さない程の力を得るに至った。
だが最強であっても万能ではない、自分一人だけで何でもこなせる訳でないのは元の世界でも、殺し合いでも同じ。
些細な事もそうでない事も、全部含めて自分を支えてくれるのだと改めて噛み締める。
姫和との逃亡に端を発した大事件を経て、他者の追随を許さない程の力を得るに至った。
だが最強であっても万能ではない、自分一人だけで何でもこなせる訳でないのは元の世界でも、殺し合いでも同じ。
些細な事もそうでない事も、全部含めて自分を支えてくれるのだと改めて噛み締める。
故に仲間やまだ見ぬ人の命を無為に奪う輩を、見逃す訳にはいかない。
得物を握る手に籠った力は溢れる戦意のみならず、纏う鎧によってより強くなっている。
四肢と胸部を覆う橙色はS装備、正式名称ストームアーマー。
稼働時間の短さと言う欠点こそあるも、身体能力と防御力の飛躍的な上昇を装着者に齎す。
写シを使えない今の可奈美には有難い支給品だ。
千鳥はおろか御刀ですらない、だが代わりとなる刀は両手にあった。
得物を握る手に籠った力は溢れる戦意のみならず、纏う鎧によってより強くなっている。
四肢と胸部を覆う橙色はS装備、正式名称ストームアーマー。
稼働時間の短さと言う欠点こそあるも、身体能力と防御力の飛躍的な上昇を装着者に齎す。
写シを使えない今の可奈美には有難い支給品だ。
千鳥はおろか御刀ですらない、だが代わりとなる刀は両手にあった。
人斬り、岡田以蔵。
水柱、冨岡義勇。
相反する理由を刃に乗せて振るった剣士の得物。
本来の使い手無き戦場に置いて、両の刀は刀使の手に渡った。
水柱、冨岡義勇。
相反する理由を刃に乗せて振るった剣士の得物。
本来の使い手無き戦場に置いて、両の刀は刀使の手に渡った。
「数を増やせば勝てると思ったのか?浅過ぎるぞクズめ」
「本当に浅いかどうか、今から見せてあげるよ」
「本当に浅いかどうか、今から見せてあげるよ」
緊張に一筋の汗を流しながらも不敵に笑う。
安い挑発と分かり切っており、激昂するのも馬鹿らしい。
それはそれとして、自分に不遜な態度を取ったのを大目に見てはやらない。
数十歩分の距離を詰めた姿を、常人が捉えるのは断じて不可能。
赤い王が死を運び、黄金が刑を執行すべく可奈美の首へ駆ける。
安い挑発と分かり切っており、激昂するのも馬鹿らしい。
それはそれとして、自分に不遜な態度を取ったのを大目に見てはやらない。
数十歩分の距離を詰めた姿を、常人が捉えるのは断じて不可能。
赤い王が死を運び、黄金が刑を執行すべく可奈美の首へ駆ける。
「……っ!」
敵の強さは今に始まったことではないが、やはり目を見張る速さ。
動作一つを間違えるだけで、即死に繋がるのは確実。
双剣を交差させた防御では押し切られる、故に力へ逆らわず受け流す。
刀身が首を逸れ、身を捻りながら斬り付ける。
刃の向かう先へギラの剣が戻るまでの猶予は、コンマ数秒あるかないか。
突き出す速度は弾丸と見紛う程、加速の勢いが乗り威力も上昇。
動作一つを間違えるだけで、即死に繋がるのは確実。
双剣を交差させた防御では押し切られる、故に力へ逆らわず受け流す。
刀身が首を逸れ、身を捻りながら斬り付ける。
刃の向かう先へギラの剣が戻るまでの猶予は、コンマ数秒あるかないか。
突き出す速度は弾丸と見紛う程、加速の勢いが乗り威力も上昇。
しかし切っ先が貫くのは肉に非ず、闘争の熱気が漂う宙。
外れたと感触で理解し、もう片方の刀を動かす。
次の次の次の、更に先までを考えどのタイミングでどちらの得物を使うかを構築。
一瞬の硬直とて命取りだ、時間を無駄に出来るような相手では無い。
刀身同士がぶつかり、可奈美の腕を振るわせる衝撃。
S装備と呼吸込みで殺し切れない重さなれど、刀を落とす真似だけはしない。
外れたと感触で理解し、もう片方の刀を動かす。
次の次の次の、更に先までを考えどのタイミングでどちらの得物を使うかを構築。
一瞬の硬直とて命取りだ、時間を無駄に出来るような相手では無い。
刀身同士がぶつかり、可奈美の腕を振るわせる衝撃。
S装備と呼吸込みで殺し切れない重さなれど、刀を落とす真似だけはしない。
「ふっ…!」
強く吐いた息が合図となり、双剣を操る速度を一段階引き上げた。
そうしなければギラの剣には追い付けない。
黄金が噛み砕かんとし、白銀がさせじと爪を振るう。
奏でられる剣戟の音が鳴り止む気配は無く、止めれば死ぬと可奈美をプレッシャーが襲う。
そうしなければギラの剣には追い付けない。
黄金が噛み砕かんとし、白銀がさせじと爪を振るう。
奏でられる剣戟の音が鳴り止む気配は無く、止めれば死ぬと可奈美をプレッシャーが襲う。
常に首元へ刃を添えられるような圧迫感、だが後一歩の所で死は跳ね除けられる。
王の制裁を阻むのは、可奈美の脳裏に焼き付いた二刀流の技。
折神紫とタギツヒメ。
己が目で強さを捉えた彼女達の技を模倣し、ギラ相手に食らい付く。
ずば抜けた観察眼の鋭さ、相手の強さへ敬意を払いつつも自身の技へ加えるという謙虚さと好奇心。
隠世で剣を用い語り合った大荒魂との同調(トレース)が、二刀流を初の実戦で発揮可能とした。
王の制裁を阻むのは、可奈美の脳裏に焼き付いた二刀流の技。
折神紫とタギツヒメ。
己が目で強さを捉えた彼女達の技を模倣し、ギラ相手に食らい付く。
ずば抜けた観察眼の鋭さ、相手の強さへ敬意を払いつつも自身の技へ加えるという謙虚さと好奇心。
隠世で剣を用い語り合った大荒魂との同調(トレース)が、二刀流を初の実戦で発揮可能とした。
だが届かない。
聳え立つ壁の名は宇蟲王、容易く跳び越えられる小石に非ず。
千鳥よりも刀身が長い得物の使いにくさや、刀使本来の戦闘が不可能。
そういった理由以上に、敵が呆れ返る程に強いという一点が可奈美へ決して勝機を齎さない。
聳え立つ壁の名は宇蟲王、容易く跳び越えられる小石に非ず。
千鳥よりも刀身が長い得物の使いにくさや、刀使本来の戦闘が不可能。
そういった理由以上に、敵が呆れ返る程に強いという一点が可奈美へ決して勝機を齎さない。
(方法は……ある…!)
確実とは言えなくとも、取れる手はゼロでない。
御刀が手元から失われた反面、この地で手に入った力があった。
水の呼吸、悪鬼滅殺を為さんとする剣士達が代々受け継いだ技。
日輪刀を握っているからだろう、五大院が見せなかった型までも使い方が分かる。
御刀が手元から失われた反面、この地で手に入った力があった。
水の呼吸、悪鬼滅殺を為さんとする剣士達が代々受け継いだ技。
日輪刀を握っているからだろう、五大院が見せなかった型までも使い方が分かる。
問題があるとすれば、現在の可奈美は得物が二本だということ。
水の呼吸の型は、刀一本で放つのを大前提として編み出された。
冨岡義勇も竈門炭治郎も、鬼との戦いで振るった日輪刀の数は常に同じ。
音の呼吸や獣の呼吸ならまだしも、五大院に支給された日輪刀に組み込まれたソードスキルは水の呼吸のみ。
水の呼吸の型は、刀一本で放つのを大前提として編み出された。
冨岡義勇も竈門炭治郎も、鬼との戦いで振るった日輪刀の数は常に同じ。
音の呼吸や獣の呼吸ならまだしも、五大院に支給された日輪刀に組み込まれたソードスキルは水の呼吸のみ。
本来刀一本で放つ技にもう一本を加えれば威力と範囲が増す、などと単純な話では無い。
完成された型に異物を挟み、精度を著しく低下させるだけだ。
悪手中の悪手に他ならないだろう。
完成された型に異物を挟み、精度を著しく低下させるだけだ。
悪手中の悪手に他ならないだろう。
可奈美以外がやれば、だが。
刀の勢いは緩めずに、思考は焼き切れんばかりに働く。
双剣使いであるタギツヒメ達の技、水の呼吸の全て。
必要な情報は全て頭に存在している、後は自分がやれるかどうか次第。
異なる世界の強者が編み出した絶技を、反発させずに組み立てる。
どの位置へ構えれば、威力の低下を防げるか。
どのタイミングで放てば、精度はそのままにより強力な一撃となるか。
僅かなズレが一つでもあれば自身の首を絞める、だから妥協は一切許さない。
尤も、剣術に関して可奈美が手を抜くのは有り得ない話だ。
双剣使いであるタギツヒメ達の技、水の呼吸の全て。
必要な情報は全て頭に存在している、後は自分がやれるかどうか次第。
異なる世界の強者が編み出した絶技を、反発させずに組み立てる。
どの位置へ構えれば、威力の低下を防げるか。
どのタイミングで放てば、精度はそのままにより強力な一撃となるか。
僅かなズレが一つでもあれば自身の首を絞める、だから妥協は一切許さない。
尤も、剣術に関して可奈美が手を抜くのは有り得ない話だ。
(この人は……私のことを見てない)
殺し合いに乗ったことを正しいと言う気は一切無い。
けど彼の持つ、圧倒的以外に言葉の見付からない強さを刀越しに叩き付けられて。
心が滾らないと言ったら嘘になる。
同時に、彼が剣に乗せたのは徹底的に自分達を見下す傲慢さと、落胆の混じった退屈さ。
敵として見ていない、そんな感情を向けてやる価値もない。
黄金の剣が運んで来たのは死以外に、どこか渇いた声。
けど彼の持つ、圧倒的以外に言葉の見付からない強さを刀越しに叩き付けられて。
心が滾らないと言ったら嘘になる。
同時に、彼が剣に乗せたのは徹底的に自分達を見下す傲慢さと、落胆の混じった退屈さ。
敵として見ていない、そんな感情を向けてやる価値もない。
黄金の剣が運んで来たのは死以外に、どこか渇いた声。
正直に言って、頭に来た。
ただでさえ姫和の腕を斬り落とした件は怒っているのに、ここまで低く見られては。
こっちは食らい付くだけでも精一杯なのに、ロクに見ようともしないなんて。
昂る心は思考の加速を最大へと押し上げ、そして、
ただでさえ姫和の腕を斬り落とした件は怒っているのに、ここまで低く見られては。
こっちは食らい付くだけでも精一杯なのに、ロクに見ようともしないなんて。
昂る心は思考の加速を最大へと押し上げ、そして、
――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り
刃が奔る。
迫る黄金を弾くは人を斬る為の刀と、鬼を斬る為の刀。
相容れない筈の両者は寸分の狂いなく交差。
十字を刻んだ刃が黄金と激突、ギラの剣をほんの少しとはいえ弾き返す。
タギツヒメ達の技でなければ、義勇や炭治郎の剣とも異なる。
可奈美だけが編み出した剣で以て、闘争の流れを変えに出た。
迫る黄金を弾くは人を斬る為の刀と、鬼を斬る為の刀。
相容れない筈の両者は寸分の狂いなく交差。
十字を刻んだ刃が黄金と激突、ギラの剣をほんの少しとはいえ弾き返す。
タギツヒメ達の技でなければ、義勇や炭治郎の剣とも異なる。
可奈美だけが編み出した剣で以て、闘争の流れを変えに出た。
剣を手元に戻し可奈美へ斬るまでに、膨大な時間はいらない。
技の完成へ喜ぶ余裕は最初から捨て、思考のリソース全てを戦いの為に注ぐ。
技の完成へ喜ぶ余裕は最初から捨て、思考のリソース全てを戦いの為に注ぐ。
――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き
こちらも時間を掛けてはいられない。
最速の突き技を放ち、二つの切っ先が剣の腹へ命中。
瞬間的な威力は他の型以上、鬼の頸を落とせなくても使い道は多々ある。
先程よりも強い衝撃で剣を弾き、より多くの猶予を得た。
最速の突き技を放ち、二つの切っ先が剣の腹へ命中。
瞬間的な威力は他の型以上、鬼の頸を落とせなくても使い道は多々ある。
先程よりも強い衝撃で剣を弾き、より多くの猶予を得た。
――水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦
上半身と下半身を反対に捩じり、回転の勢いを上乗せ。
双剣を豪快に振り回し、竜巻の如き斬撃が巻き起こる。
本来は水中でこそ最大限に活きる技だが、地上で使った場合でも非常に高い効果を齎す。
渦上の刃を前に、ギラが選ぶのは後退ではなく迎撃。
剣一本を振り回す動作は一見乱雑、その実己へ当たる攻撃のみを的確に防ぐ。
無意味な動作が多ければ多い程、生じる隙が大きいのはギラとて理解していた。
双剣を豪快に振り回し、竜巻の如き斬撃が巻き起こる。
本来は水中でこそ最大限に活きる技だが、地上で使った場合でも非常に高い効果を齎す。
渦上の刃を前に、ギラが選ぶのは後退ではなく迎撃。
剣一本を振り回す動作は一見乱雑、その実己へ当たる攻撃のみを的確に防ぐ。
無意味な動作が多ければ多い程、生じる隙が大きいのはギラとて理解していた。
可奈美の好き勝手をいつまでも許可した覚えはない。
竜巻を捻じ伏せ、発生させた当人も剣の餌食にせんと振り被る。
竜巻を捻じ伏せ、発生させた当人も剣の餌食にせんと振り被る。
――水の呼吸 参ノ型 流流舞い
ならばこちらが取る手は回避と攻撃、共に可能な技。
流水の如き軽やかな足運びにより、紙一重で躱す。
顔の真横を剣が通り抜けるも、焦りは面に出さず視線はギラへ固定。
舞うように描いた斬撃を、ギラもまた涼しい表情で難なく避けた。
外れた所まで予測済だ、次の手は勿論考えてある。
流水の如き軽やかな足運びにより、紙一重で躱す。
顔の真横を剣が通り抜けるも、焦りは面に出さず視線はギラへ固定。
舞うように描いた斬撃を、ギラもまた涼しい表情で難なく避けた。
外れた所まで予測済だ、次の手は勿論考えてある。
――水の呼吸 弐ノ型 横水車
水平回転を行っての斬り付け。
威力のみならず範囲も広い剣技に、ギラも真正面から迎え撃つ。
垂直に剣を叩き付け回転を強制的に中断、次は心臓を貫き永遠に動きを止める。
一直線に突き進む魔弾を思わせる脅威へ、双剣を敵の刀身に添える事で対処。
滑らせ狙いをほんの数ミリズラし、上体を捻りノーダメージでやり過ごす。
腕部の装甲が微かに削られたが動作に影響は無い。
だが剣だけが敵の得物ではない、四肢を用いた打撃も可奈美を追い詰める。
双剣の交差で蹴りを防ぐも、体が浮くのまではどうしようもない。
S装備を纏っているにも関わらず、枯れ葉が舞うように宙へ吹き飛ばされた。
すかさず跳躍し接近、振り下ろす刃へ迎え撃つ準備は出来てる。
威力のみならず範囲も広い剣技に、ギラも真正面から迎え撃つ。
垂直に剣を叩き付け回転を強制的に中断、次は心臓を貫き永遠に動きを止める。
一直線に突き進む魔弾を思わせる脅威へ、双剣を敵の刀身に添える事で対処。
滑らせ狙いをほんの数ミリズラし、上体を捻りノーダメージでやり過ごす。
腕部の装甲が微かに削られたが動作に影響は無い。
だが剣だけが敵の得物ではない、四肢を用いた打撃も可奈美を追い詰める。
双剣の交差で蹴りを防ぐも、体が浮くのまではどうしようもない。
S装備を纏っているにも関わらず、枯れ葉が舞うように宙へ吹き飛ばされた。
すかさず跳躍し接近、振り下ろす刃へ迎え撃つ準備は出来てる。
――水の呼吸 肆ノ型 打ち潮・乱
ギラが幾度も斬り付けるなら、対応する斬撃を可奈美も放つ。
澱みの無い刃が王の剣を寄せ付けまいとし、空中で剣戟を展開。
しかし膂力の差ではギラが上、弾き返され地面へ叩き落とされる。
澱みの無い刃が王の剣を寄せ付けまいとし、空中で剣戟を展開。
しかし膂力の差ではギラが上、弾き返され地面へ叩き落とされる。
――水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱
激突を防ぎ尚且つ、勝負を望む方へ持って行く。
アスファルトを蹴り、近場の建造物の壁に足を付ける。
再度蹴って別の壁へ向かえば、今度は電柱を蹴ってまた別の方へ。
縦横無尽に跳ね回って翻弄する、のではなくギラから大きく距離を取った。
アスファルトを蹴り、近場の建造物の壁に足を付ける。
再度蹴って別の壁へ向かえば、今度は電柱を蹴ってまた別の方へ。
縦横無尽に跳ね回って翻弄する、のではなくギラから大きく距離を取った。
逃げる為ではない、次の型を決める為に必要な動作だ。
距離が近くては余りに脆い刃しか放てず、敗北へ自ら踏み入れるも同然。
一旦離れ、しかしギラの方から仕掛けて来るのを待たない。
迅移が使えない分、現在出せる最大の走力を引き出し疾走。
間近へ到達し間髪入れずに振るった剣は、案の定敵の得物に防がれるもこれで良い。
距離が近くては余りに脆い刃しか放てず、敗北へ自ら踏み入れるも同然。
一旦離れ、しかしギラの方から仕掛けて来るのを待たない。
迅移が使えない分、現在出せる最大の走力を引き出し疾走。
間近へ到達し間髪入れずに振るった剣は、案の定敵の得物に防がれるもこれで良い。
「はああああっ!!」
斬る、斬る、斬る、斬る。
その全てが黄金の刀身を叩き、砕けんばかりの音が広まる。
後ろは見ない、前だけに目を向けて斬撃を重ねた。
双剣の勢いは低下どころか上昇し留まる所を知らない。
十を超え、二十を超え、ついに放つべき時が来たと確信。
その全てが黄金の刀身を叩き、砕けんばかりの音が広まる。
後ろは見ない、前だけに目を向けて斬撃を重ねた。
双剣の勢いは低下どころか上昇し留まる所を知らない。
十を超え、二十を超え、ついに放つべき時が来たと確信。
――水の呼吸 拾ノ型 生生流転
二本の刀は双竜と化し、王を噛み砕かんと咆える。
水の呼吸の中でも随一の威力を誇る反面、十分な数の連撃が必須となるのがこの型だ。
炭治郎をして水の呼吸最強と評した斬撃が、此度は双剣により更なる威力を叩き出す。
剣を弾き飛ばすには至らない、しかし真っ向から受け止め体勢が崩れる。
水の呼吸の中でも随一の威力を誇る反面、十分な数の連撃が必須となるのがこの型だ。
炭治郎をして水の呼吸最強と評した斬撃が、此度は双剣により更なる威力を叩き出す。
剣を弾き飛ばすには至らない、しかし真っ向から受け止め体勢が崩れる。
(来た…!)
見せた隙は間違いなくこれまで以上に大きい。
ここしかない、勝負を決めるにはこの瞬間を置いて他に無い。
逃せぬ瞬間を前に可奈美もまた、取るべき手を一つに絞る。
ここしかない、勝負を決めるにはこの瞬間を置いて他に無い。
逃せぬ瞬間を前に可奈美もまた、取るべき手を一つに絞る。
――水の呼吸
日輪刀を握りソードスキルが脳内に浮かんだ中に、この時の為に使おうと決めた技があった。
五大院も存在は把握していたが、可奈美相手には終ぞ見せぬまま。
使わなかった理由にも察しは付く。
五大院も存在は把握していたが、可奈美相手には終ぞ見せぬまま。
使わなかった理由にも察しは付く。
――拾壱ノ型
正確には使えなかったと言うのが正しい。
元々の高い身体能力に加え、ソードスキルによる呼吸の使用。
超人と呼ぶに相応しい力があって尚、使いこなすのは非常に困難な技。
友を喪い、己が柱であることへ悩み続け、それでも鬼を斬り続けた男の歩みの証。
技が生まれた経緯も、鬼殺隊の長きに渡る戦いだって可奈美は知らない。
元々の高い身体能力に加え、ソードスキルによる呼吸の使用。
超人と呼ぶに相応しい力があって尚、使いこなすのは非常に困難な技。
友を喪い、己が柱であることへ悩み続け、それでも鬼を斬り続けた男の歩みの証。
技が生まれた経緯も、鬼殺隊の長きに渡る戦いだって可奈美は知らない。
けれど、同じ剣を振るう者として技を編み出した者には尊敬の念を抱く。
修練と実戦の果てに生み出した顔も知らぬ男へ、心中で一礼。
あなたの剣を、あなたの技を、守る為に使わせて欲しいと。
修練と実戦の果てに生み出した顔も知らぬ男へ、心中で一礼。
あなたの剣を、あなたの技を、守る為に使わせて欲しいと。
呼吸とS装備に加えもう一つ、令呪を使い技を引き出せるコンディションへと近付ける。
肉体が出せる限界の、ほんの少しだけ先へ。
体中の血液が煮え滾り、内より溢れた熱が指先まで行き渡る。
肉体が出せる限界の、ほんの少しだけ先へ。
体中の血液が煮え滾り、内より溢れた熱が指先まで行き渡る。
鬼を狩り人を守った男の技が、荒魂を狩り人を守る少女へと継がれた。
――凪
双剣が咆える、剣士の戦意に呼応し煌めく。
可奈美が閉じ込めた範囲全てが、双剣の支配下に置かれる。
刀の届く範囲全てに縦横無尽の斬撃が襲う、攻防一体にして水の呼吸の奥義。
狩り場であり絶対の領域へ、王が侵入した時が決着の時だ。
終わらせる、これ以上誰も殺させない為の剣が迫り――
可奈美が閉じ込めた範囲全てが、双剣の支配下に置かれる。
刀の届く範囲全てに縦横無尽の斬撃が襲う、攻防一体にして水の呼吸の奥義。
狩り場であり絶対の領域へ、王が侵入した時が決着の時だ。
終わらせる、これ以上誰も殺させない為の剣が迫り――
首に食い込んだ刃が真横へ動き、可奈美は呆気なく死んだ。
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!!!!」
見えた光景は、己の死は現実では無い。
だがもう間もなく起こる、覆せない未来。
だがもう間もなく起こる、覆せない未来。
(ダメ、だ…!)
構築した戦闘図式へ新たに書き込まれる自分の死。
妄想では無い。
凪を使う為極限まで張り詰めた神経が、この戦闘中もずっとギラの剣を目に焼き付けた観察眼が。
宇蟲王の殺気を叩き付けられた心が、結末を知らせたのだ。
妄想では無い。
凪を使う為極限まで張り詰めた神経が、この戦闘中もずっとギラの剣を目に焼き付けた観察眼が。
宇蟲王の殺気を叩き付けられた心が、結末を知らせたのだ。
組み替える、組み替える、組み替える、組み替える、組み替える。
持ち前の臨機応変さが別の戦術を再構築。
持ち前の臨機応変さが別の戦術を再構築。
回避に動く――――死。
別の方法で攻撃――――死。
双剣を翳して防御――――死。
残っている令呪を使う――――死。
別の方法で攻撃――――死。
双剣を翳して防御――――死。
残っている令呪を使う――――死。
壱ノ型――死。
弐ノ型――死。
参ノ型――死。
肆ノ型――死。
伍ノ死。
弐ノ型――死。
参ノ型――死。
肆ノ型――死。
伍ノ死。
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
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死
死
死
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死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
死
「ゴミが」
○
膝を付き、可奈美は自分の体が妙に軽いと気付いた。
ずっと持っていた大事なものを落としてしまったような、そんな不安に駆られて。
視線を左右に動かし、すぐに納得する。
見るんじゃなかったと、心の底からの後悔も抱く羽目になったが。
ずっと持っていた大事なものを落としてしまったような、そんな不安に駆られて。
視線を左右に動かし、すぐに納得する。
見るんじゃなかったと、心の底からの後悔も抱く羽目になったが。
地面を転がるのは刀身の長さが異なる二本の刀。
他にも見覚えがある、白と橙色と、その先の肌色。
剣士に無くてはならない体の部位、刀使としても一人の少女としても可奈美と共にあったモノ。
両腕がS装備諸共斬り落とされ、地面を汚す血の上に浸していた。
他にも見覚えがある、白と橙色と、その先の肌色。
剣士に無くてはならない体の部位、刀使としても一人の少女としても可奈美と共にあったモノ。
両腕がS装備諸共斬り落とされ、地面を汚す血の上に浸していた。
遅れて体に熱さを覚え、それも急速に薄れていく。
見下ろせば美濃関学院の制服は、元の色が分からない程に真っ赤。
骨まで断たれ皮数枚で繋がるだけの腹部から、血と無くしたらいけないものが溢れ出す。
元に戻そうにも、そうする為の手が自分にはもう存在しない。
見下ろせば美濃関学院の制服は、元の色が分からない程に真っ赤。
骨まで断たれ皮数枚で繋がるだけの腹部から、血と無くしたらいけないものが溢れ出す。
元に戻そうにも、そうする為の手が自分にはもう存在しない。
視界に一瞬、血とは別の赤が映り込んだ。
顔を上げる動作をやけに億劫に感じながら、眼前に立つ王を見る。
顔を上げる動作をやけに億劫に感じながら、眼前に立つ王を見る。
「殺意なき剣で俺に歯向かうとは笑止千万。あのゴミ(羂索)といい貴様といい、どこまで俺を不愉快にさせれば気が済む」
斬り合いを続け、刃の檻に閉じ込められた時もずっと気付いていた。
可奈美の猛攻に自分を殺す為の刃は無い。
あの手この手で攻め立て、技を次から次に繰り出しても。
急所を狙った一撃はただの一つも無く、命を奪わずに無力化し戦いを終わらせる算段。
本来であれば範囲内の標的を細切れにするのだろう檻すら、ものの見事に即死には至らぬ箇所のみを襲って来た。
可奈美の猛攻に自分を殺す為の刃は無い。
あの手この手で攻め立て、技を次から次に繰り出しても。
急所を狙った一撃はただの一つも無く、命を奪わずに無力化し戦いを終わらせる算段。
本来であれば範囲内の標的を細切れにするのだろう檻すら、ものの見事に即死には至らぬ箇所のみを襲って来た。
雑魚相手には通用するだろう。
だが忘れるなかれ、ここに立つのは宇蟲王。
黒き最後の神や13の災害の魔女に並ぶ、絶対的な強者。
急所を外す為に生まれる針の穴程の綻びをも見逃さず、己が剣で檻を完全に破壊。
殺意の宿らぬ刀が届くなど有り得ないと、そう思い知らせるかのように終焉を与えた。
所詮はゴミの児戯と下に見るのは変わらないがしかし、しかしだ。
自らの刃を腐らせるが如き愚行に出るなど、宇蟲王へ剣を向けておきながら許し難い。
立ち塞がり啖呵を切ってみせたのなら、相応に全てを出し切るのが道理だろうに。
些事に過ぎなくとも、妙な苛立ちが僅かにあった。
だが忘れるなかれ、ここに立つのは宇蟲王。
黒き最後の神や13の災害の魔女に並ぶ、絶対的な強者。
急所を外す為に生まれる針の穴程の綻びをも見逃さず、己が剣で檻を完全に破壊。
殺意の宿らぬ刀が届くなど有り得ないと、そう思い知らせるかのように終焉を与えた。
所詮はゴミの児戯と下に見るのは変わらないがしかし、しかしだ。
自らの刃を腐らせるが如き愚行に出るなど、宇蟲王へ剣を向けておきながら許し難い。
立ち塞がり啖呵を切ってみせたのなら、相応に全てを出し切るのが道理だろうに。
些事に過ぎなくとも、妙な苛立ちが僅かにあった。
「そっか……負け…ちゃった……んだ……」
敗北と、待ち受ける末路を噛み締めるように呟く。
悔しいと思わない筈が無い。
悲しみが無いなんて有り得ない。
悔しいと思わない筈が無い。
悲しみが無いなんて有り得ない。
それでも、どうしても相手を殺す為の剣は振るえなかった。
試合だったら負けて悔しいけど、そこが終わりじゃない。
もっと鍛えて強くなって、今度は勝てるようになろうという。
次があるから、終わりにはならない。
けど死んだらもうそこで最後。
次の為に頑張れはしない、だってその『次』が無いのだから。
試合だったら負けて悔しいけど、そこが終わりじゃない。
もっと鍛えて強くなって、今度は勝てるようになろうという。
次があるから、終わりにはならない。
けど死んだらもうそこで最後。
次の為に頑張れはしない、だってその『次』が無いのだから。
一人の女の子を思い出す。
強くて、時間が無くて、誰よりも焦っていた少女。
最期を直接見てはいないけど、納得できなかったろうとは流石に分かる。
あの時は時間が無かったのもあって、自分達を先に行かせた仲間の判断を責めはしない。
だけど、無念と悔しさに蝕まれながら逝ったのは自分が考えるよりずっと悲しくて。
守る為の剣ではない、誰かの次を奪う、死を与える剣を振るうのは。
リュージから忠告を受けて尚も、やっぱり出来なかった。
強くて、時間が無くて、誰よりも焦っていた少女。
最期を直接見てはいないけど、納得できなかったろうとは流石に分かる。
あの時は時間が無かったのもあって、自分達を先に行かせた仲間の判断を責めはしない。
だけど、無念と悔しさに蝕まれながら逝ったのは自分が考えるよりずっと悲しくて。
守る為の剣ではない、誰かの次を奪う、死を与える剣を振るうのは。
リュージから忠告を受けて尚も、やっぱり出来なかった。
口元が動き、血の塊を吐き出す。
幽世から帰ってきた世界で待っていてくれた皆。
殺し合いに巻き込まれてしまった友達。
幽世から帰ってきた世界で待っていてくれた皆。
殺し合いに巻き込まれてしまった友達。
そして、何でも一人で抱え込んでばかりだったあの子。
この先もずっと一緒にいられて、決勝戦の続きをする筈だった――
この先もずっと一緒にいられて、決勝戦の続きをする筈だった――
「ごめん、ね……」
涙と共に紡がれた言葉は、届くことなく霞のように消える。
あの日、二人で見た桜はもう、どこにもなかった。
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