◆
リュージにとって死の疑似体験はこれが初めてではない。
ダーウィンズゲームのトップランカー、劉雪蘭にカナメが攫われた時のことはよく覚えている。
強烈な殺気を当てられ、レイン共々意識を失った。
シギルではない、武を鍛えて我が物とした技術である。
ダーウィンズゲームのトップランカー、劉雪蘭にカナメが攫われた時のことはよく覚えている。
強烈な殺気を当てられ、レイン共々意識を失った。
シギルではない、武を鍛えて我が物とした技術である。
では今現在起こったこれも、雪蘭がやったような古武術の一種なのか。
そんな訳が無いと断言出来る。
武道に精通していないリュージにだって、自分達が何をされたのか。
いきなり現れた男が何をやってくれたのかが分かる、分かってしまう。
そんな訳が無いと断言出来る。
武道に精通していないリュージにだって、自分達が何をされたのか。
いきなり現れた男が何をやってくれたのかが分かる、分かってしまう。
真紅を纏ったこの男は何も特別な事をしていない。
偉そうな態度で自分達の前に堂々と姿を見せた。
首を落とされてはいない、心臓を貫かれてもいない、全身を裁断機に掛けたように細切れにされてだっていない。
血の一滴はおろか、髪の毛一本すら地面には落ちていなかった。
ただそこにいるだけで、自分達はもう死んだ気になってしまっている。
この男が現れた時点で最早、自分達の末路は確定なのだと。
小難しく考えるまでも無く、己の内が悲観するかのように告げて来た。
偉そうな態度で自分達の前に堂々と姿を見せた。
首を落とされてはいない、心臓を貫かれてもいない、全身を裁断機に掛けたように細切れにされてだっていない。
血の一滴はおろか、髪の毛一本すら地面には落ちていなかった。
ただそこにいるだけで、自分達はもう死んだ気になってしまっている。
この男が現れた時点で最早、自分達の末路は確定なのだと。
小難しく考えるまでも無く、己の内が悲観するかのように告げて来た。
(笑えねぇ…冗談にしたって気が利き過ぎだぜ……)
苦笑いを浮かべようとするも、頬が強張り歪な表情しか作れない。
アンクの話では殺された連中の内の一人は、先に男へ突っかかって殺そうとしたとのこと。
よくまあこんな相手に喧嘩を売ろうなどと考えられたものだ。
恐怖を誤魔化す為の強がりだったのか、或いは頭が鈍過ぎたのかは知る由も無いし興味も無い。
最優先で思考を回し、答えを弾き出さねばならないのはたった一つ。
ここからどうやって生き延びるか。
大変困ったことに、何をやろうと無事で済む予感がまるでしなかった。
アンクの話では殺された連中の内の一人は、先に男へ突っかかって殺そうとしたとのこと。
よくまあこんな相手に喧嘩を売ろうなどと考えられたものだ。
恐怖を誤魔化す為の強がりだったのか、或いは頭が鈍過ぎたのかは知る由も無いし興味も無い。
最優先で思考を回し、答えを弾き出さねばならないのはたった一つ。
ここからどうやって生き延びるか。
大変困ったことに、何をやろうと無事で済む予感がまるでしなかった。
「……果穂、お前達は――」
「…だっ、大丈夫、ですっ!」
「…だっ、大丈夫、ですっ!」
自分の言葉を遮った声には明らかな怯えが混じっていた。
無理もないだろうと思いつつ、チェイスは男から視線を外せない。
人では無い、人のような感情を持たない自分でさえ男が紛れも無い特大の脅威と分かる。
殺し合いで戦って来たとはいえ、元々一般人の果穂には相当な恐怖の筈。
怯えを直接口に出さないのはチェイスに誓った決意があるから。
もう一つ、自分が恐怖する様を晒して仲間を不安にさせたくないからか。
無理もないだろうと思いつつ、チェイスは男から視線を外せない。
人では無い、人のような感情を持たない自分でさえ男が紛れも無い特大の脅威と分かる。
殺し合いで戦って来たとはいえ、元々一般人の果穂には相当な恐怖の筈。
怯えを直接口に出さないのはチェイスに誓った決意があるから。
もう一つ、自分が恐怖する様を晒して仲間を不安にさせたくないからか。
「な…に……この、人……」
「はる、マジアマゼンタ…?だ、大丈夫…?」
「…え、あ、だ、勿論!全っ然大丈夫だよ!」
「はる、マジアマゼンタ…?だ、大丈夫…?」
「…え、あ、だ、勿論!全っ然大丈夫だよ!」
千佳の不安気な様子にはるかは笑みを返すも、顔色の悪さだけは誤魔化せない。
魔法少女である彼女は魔力感知が可能。
男の外見や存在感ではなく、秘めた力をダイレクトに感じ取った。
魔法少女である彼女は魔力感知が可能。
男の外見や存在感ではなく、秘めた力をダイレクトに感じ取った。
(魔力…とはちょっと違うかもだけど……こんな力、信じられない……)
嫌でも脳裏に浮かぶ、闇檻を操る魔女と同じ。
余りに邪悪、余りに暴力的、余りにおぞましい。
こんな力を人間が持てる筈が無い、持っているなんて有り得ない。
人の形をしていても、人の枠に収めるのは大間違いの怪物。
せり上がる嘔吐感を必死に堪え、千佳を背に庇い意識を保つ。
余りに邪悪、余りに暴力的、余りにおぞましい。
こんな力を人間が持てる筈が無い、持っているなんて有り得ない。
人の形をしていても、人の枠に収めるのは大間違いの怪物。
せり上がる嘔吐感を必死に堪え、千佳を背に庇い意識を保つ。
「アンクさん、もしかしてあの人が……」
「もしかしなくてもそうだ。本当に戻って来やがった…!」
「もしかしなくてもそうだ。本当に戻って来やがった…!」
心底忌々しいとばかりに吐き捨て、可奈美達も理解せざるを得ない。
三人の男を返り討ちにした挙句、姫和の右腕を奪った張本人。
姫和の実力は可奈美も薫も、肩を並べて戦っただけあってよく知っている。
小烏丸が手元に無くても御刀を持った彼女が負ける程の相手。
剣を合わせる前から納得を抱き兼ねない、強烈なプレッシャーに冷汗が止まらなかった。
三人の男を返り討ちにした挙句、姫和の右腕を奪った張本人。
姫和の実力は可奈美も薫も、肩を並べて戦っただけあってよく知っている。
小烏丸が手元に無くても御刀を持った彼女が負ける程の相手。
剣を合わせる前から納得を抱き兼ねない、強烈なプレッシャーに冷汗が止まらなかった。
「あの時のクズか。野垂れ死んだと思っていたが…別のクズに寄生され生き延びるとは、全く見るに堪えん生き汚さだな」
「はっ、お前の目が節穴なのをカッコ付けて言い訳すんなよ。こいつの欲望は中々のもんだぞ?」
「はっ、お前の目が節穴なのをカッコ付けて言い訳すんなよ。こいつの欲望は中々のもんだぞ?」
姫和の生存を知っても態度が特別変わりはしない。
どうせ先は長くないと捨て置いた、男にとっては有象無象の内の一人。
何やら違う生命体が憑いてはいるが、さして興味も抱かない。
憑りついた存在共々殺せば済むだけの話だ。
どうせ先は長くないと捨て置いた、男にとっては有象無象の内の一人。
何やら違う生命体が憑いてはいるが、さして興味も抱かない。
憑りついた存在共々殺せば済むだけの話だ。
「わざわざ戻って来たってことは、こいつが生きて復讐するかもしれないのにビビりでもしたか?」
「ほざくな寄生虫め。卑しくも群がったクズどもを、手ずから始末しに来たに過ぎん」
「ほざくな寄生虫め。卑しくも群がったクズどもを、手ずから始末しに来たに過ぎん」
挑発へ激昂する様子も無く、どこまでも尊大に切り捨てる。
暴君の如き振る舞いの男へ従うかのように、背後へ二匹の異形が現れた。
片方は可奈美の御刀を持ったバタフライオルフェノク、もう一匹はスズムシを彷彿とさせる茶褐色の体躯の蟲。
名をノビスタドール、プラーガと呼ばれる寄生生物によって生み出された生物兵器の一種。
暴君の如き振る舞いの男へ従うかのように、背後へ二匹の異形が現れた。
片方は可奈美の御刀を持ったバタフライオルフェノク、もう一匹はスズムシを彷彿とさせる茶褐色の体躯の蟲。
名をノビスタドール、プラーガと呼ばれる寄生生物によって生み出された生物兵器の一種。
浅利切人達を殺害後、一旦はエリアを去った男だが移動先でノビスタドールを配下に加えふと思い付いた。
放置された支給品目当てで集まった参加者を纏めて葬れば、少しは手間が減るだろうと。
擬態能力を持ったノビスタドールを死体が転がる場所へ向かわせ、誰か来たならばこっちに伝えるよう命令。
後は控えさせた一体を除き、下僕のNPC達を使って排除。
ついでに自身に支給された玩具のテストも兼ねて、NPC達を対象に効果を発動。
使ったのはランドソルのギルド、美食殿のユウキが所持する剣。
例の如く主催者の手が加えられており、ユウキが持つプリンセスナイトの力を使用可能だった。
NPC達が妙に手強かったのは、プリンセスナイトの力による強化を受けた為である。
尤も、使い捨ての道具としか見ていない男ではユウキ程の効果は表れなかったが。
放置された支給品目当てで集まった参加者を纏めて葬れば、少しは手間が減るだろうと。
擬態能力を持ったノビスタドールを死体が転がる場所へ向かわせ、誰か来たならばこっちに伝えるよう命令。
後は控えさせた一体を除き、下僕のNPC達を使って排除。
ついでに自身に支給された玩具のテストも兼ねて、NPC達を対象に効果を発動。
使ったのはランドソルのギルド、美食殿のユウキが所持する剣。
例の如く主催者の手が加えられており、ユウキが持つプリンセスナイトの力を使用可能だった。
NPC達が妙に手強かったのは、プリンセスナイトの力による強化を受けた為である。
尤も、使い捨ての道具としか見ていない男ではユウキ程の効果は表れなかったが。
「少なくともあの連中よりはマシか。だが所詮雑魚は雑魚。雁首揃えてこの程度とは、つくづく俺をコケにした罪は重いぞ」
個々の能力や連携の上手さもあり、強化を受けたNPC数体程度敵じゃない。
かと言って自分には遠く及ばず、男の中で参加者への評価が変わりはしない。
このような児戯にも劣る茶番に自分を招き、あまつさえ殺戮を強要する愚行。
羂索一派への殺意を煮え滾らせるが、まずは目の前の連中の掃除から始める。
かと言って自分には遠く及ばず、男の中で参加者への評価が変わりはしない。
このような児戯にも劣る茶番に自分を招き、あまつさえ殺戮を強要する愚行。
羂索一派への殺意を煮え滾らせるが、まずは目の前の連中の掃除から始める。
邪魔なので退がっていろと下僕に命じ一同を睨み付ければ、最早戦闘は絶対に避けられないと思い知らされる。
他者を傷付ける事を好まない者も。
命を奪う事を良しとしない者も。
殺す為ではなく守る為に剣を振るう者も。
皆等しく、死に物狂いで抗った果てにしか生は掴めないと、闘争心を根こそぎ引き摺り出した。
他者を傷付ける事を好まない者も。
命を奪う事を良しとしない者も。
殺す為ではなく守る為に剣を振るう者も。
皆等しく、死に物狂いで抗った果てにしか生は掴めないと、闘争心を根こそぎ引き摺り出した。
「ピ、ピオリム…!」
言葉を交わせる段階が終わりを告げ、真っ先に呪文を唱えたのは千佳。
何故自分でもこれ程素早く判断を下せたのか。
詳細な理由はハッキリせず、ただ何かしなくてはという衝動に駆られるがまま叫ぶ。
呪文の効果で味方全員のすばやさが再度上昇。
千佳の行動が決して間違いで無いと、すぐに知る事となった。
何故自分でもこれ程素早く判断を下せたのか。
詳細な理由はハッキリせず、ただ何かしなくてはという衝動に駆られるがまま叫ぶ。
呪文の効果で味方全員のすばやさが再度上昇。
千佳の行動が決して間違いで無いと、すぐに知る事となった。
「先に俺を潰そうってか…!」
最初のターゲットは赤のコアメダルの王、アンク。
敏捷性が上がり、間を置かず眼前へとギラが急接近。
それなりの距離はあっただろうに、何をどうすればこうも異様な走力を出せるのか。
ラトラーターコンボのオーズや、黄色のコアメダルの王カザリ等高い敏捷性を持つ者は知っている。
しかし記憶にある者達と違い、ギラは生身にも関わらずアンクですら目を剥く速度で迫った。
人の見た目をしているのに、グリードと並ぶかそれ以上の化け物だ。
驚き続けている暇はない、後方へと大きく跳ぶ。
敏捷性が上がり、間を置かず眼前へとギラが急接近。
それなりの距離はあっただろうに、何をどうすればこうも異様な走力を出せるのか。
ラトラーターコンボのオーズや、黄色のコアメダルの王カザリ等高い敏捷性を持つ者は知っている。
しかし記憶にある者達と違い、ギラは生身にも関わらずアンクですら目を剥く速度で迫った。
人の見た目をしているのに、グリードと並ぶかそれ以上の化け物だ。
驚き続けている暇はない、後方へと大きく跳ぶ。
「グッ…!?」
距離を大きく開いて剣の間合いから逃れた。
クジャクの胴体を黄金色の切っ先が掠め、鋭い痛みが襲う。
掠めただけでこれだ、直撃したらどうなるかは宿主の少女が証明済み。
ピオリムを唱えた千佳に今だけは感謝してやってもいいと、上から目線で思うのは一瞬に留める。
離した距離を10歩と駆けずに詰め、黄金の剣が首目掛けて走った。
クジャクの胴体を黄金色の切っ先が掠め、鋭い痛みが襲う。
掠めただけでこれだ、直撃したらどうなるかは宿主の少女が証明済み。
ピオリムを唱えた千佳に今だけは感謝してやってもいいと、上から目線で思うのは一瞬に留める。
離した距離を10歩と駆けずに詰め、黄金の剣が首目掛けて走った。
――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き
斬首を阻むは人斬り岡田以蔵の愛刀。
繰り出すは水の呼吸の使い手が継承する漆の型。
斬るのではなく突く技故に鬼の頸を落とすには不向きだが、最も速度に優れている。
切っ先が剣の腹を叩き、首への狙いが逸らされた。
繰り出すは水の呼吸の使い手が継承する漆の型。
斬るのではなく突く技故に鬼の頸を落とすには不向きだが、最も速度に優れている。
切っ先が剣の腹を叩き、首への狙いが逸らされた。
剣を弾けば得物を握る腕もあらぬ方へと跳ね、結果体勢にも揺らぎが生じる。
晒す隙が僅かであろうと、反撃の機会を逃す手はない。
アンクが両手から火球を連射、ギラから離れながらも攻撃の手は止めない。
しかし届かない、強欲の齎す火炎など宇蟲王には目障りな小蝿に等しい。
一振りで数十発の火球を掻き消し、黒と赤の混じり合った刃が飛来。
上体を捩って回避しようとするも刃の到達には間に合わず、その身へ斬傷を新たに生んだ。
晒す隙が僅かであろうと、反撃の機会を逃す手はない。
アンクが両手から火球を連射、ギラから離れながらも攻撃の手は止めない。
しかし届かない、強欲の齎す火炎など宇蟲王には目障りな小蝿に等しい。
一振りで数十発の火球を掻き消し、黒と赤の混じり合った刃が飛来。
上体を捩って回避しようとするも刃の到達には間に合わず、その身へ斬傷を新たに生んだ。
――水の…
「横槍を入れるな、身の程知らずめ」
アンク一人で済ませてやりはしない。
構えた刀目掛けて踵落としが炸裂、上方からの衝撃で右腕に痺れが来た。
柄から手を放さなかったのは流石の判断と、褒める性質の王に非ず。
迫りくる横薙ぎに、技を放つのに拘れば首が落ちると理解。
全集中の呼吸で身体能力こそ上がっても、写シを張っていない以上は死の身代わりは不可能。
回避を選ぶまでに時間は掛からず、姿勢を低くしやり過ごす。
頭上で吹いた死の風に何か思うより早く、目の前の赤を見失った。
構えた刀目掛けて踵落としが炸裂、上方からの衝撃で右腕に痺れが来た。
柄から手を放さなかったのは流石の判断と、褒める性質の王に非ず。
迫りくる横薙ぎに、技を放つのに拘れば首が落ちると理解。
全集中の呼吸で身体能力こそ上がっても、写シを張っていない以上は死の身代わりは不可能。
回避を選ぶまでに時間は掛からず、姿勢を低くしやり過ごす。
頭上で吹いた死の風に何か思うより早く、目の前の赤を見失った。
(うし――)
「ノロマが、その鈍重さで俺の前に立つとは笑わせる」
「ノロマが、その鈍重さで俺の前に立つとは笑わせる」
可奈美が回避へ動きを見せた時にはもう、次の手を構築し実行。
跳躍し背後を取ってからの一撃。
振り返るのも必死こいて対処に動くのも、悠長に待ってやらない。
黄金が白い首へ食い込むまで残り数秒の猶予も無し。
跳躍し背後を取ってからの一撃。
振り返るのも必死こいて対処に動くのも、悠長に待ってやらない。
黄金が白い首へ食い込むまで残り数秒の猶予も無し。
「きええええええええっ!!」
『BREAK』
その死刑執行へ待ったを掛けるは、もう一人の刀使とロイミュード。
大剣によるものとは思えないスピードで、ギラに鉄塊を叩き付ける。
別方向から放たれるは破壊力を増加した打撃。
ブレイクガンナーを生身相手に使うのは前代未聞なれど、呑気な危惧が通用する相手では無い。
両名共に敏捷性が上がった勢いを味方に付け、悪しき王を粉砕せんとした。
大剣によるものとは思えないスピードで、ギラに鉄塊を叩き付ける。
別方向から放たれるは破壊力を増加した打撃。
ブレイクガンナーを生身相手に使うのは前代未聞なれど、呑気な危惧が通用する相手では無い。
両名共に敏捷性が上がった勢いを味方に付け、悪しき王を粉砕せんとした。
薫にも魔進チェイサーにも、ギラの視線が寄越されはしない。
剣の標的は可奈美から移り大剣にぶつけた。
得物の大きさで言ったら薫の持つ大剣が上、しかし敵は膂力と剣の強度の両方で遥かに勝る。
ワイヤーで急速に巻き取られるように、薫は後方へと吹き飛ぶ。
当然もう一体の打撃でギラに傷が生まれるのも有り得ない。
反対の手で魔進チェイサーの腕を掴み引き寄せ、膝蹴りを腹部に見舞う。
自ら膝の骨を砕きにいく愚行とは言えない、現に外部装甲越しへ襲うダメージに呻き声が漏れた。
剣の標的は可奈美から移り大剣にぶつけた。
得物の大きさで言ったら薫の持つ大剣が上、しかし敵は膂力と剣の強度の両方で遥かに勝る。
ワイヤーで急速に巻き取られるように、薫は後方へと吹き飛ぶ。
当然もう一体の打撃でギラに傷が生まれるのも有り得ない。
反対の手で魔進チェイサーの腕を掴み引き寄せ、膝蹴りを腹部に見舞う。
自ら膝の骨を砕きにいく愚行とは言えない、現に外部装甲越しへ襲うダメージに呻き声が漏れた。
「鉄屑にしては頑丈だな。ンコパソの負け犬共ならさぞ欲しがるだろうよ」
「知るか…!」
「知るか…!」
ぶつけられた冷笑を切って捨て、こちらも武器を持つのとは反対の手で拳を放つ。
顔色一つ変えずに紙一重で回避し、魔進チェイサーを掴んだ方の腕を跳ね上げた。
112kgの機械戦士を空き缶のように放り投げ、激突まで待たずに跳躍。
振り被った剣が部品の雨を散らすのも時間の問題。
顔色一つ変えずに紙一重で回避し、魔進チェイサーを掴んだ方の腕を跳ね上げた。
112kgの機械戦士を空き缶のように放り投げ、激突まで待たずに跳躍。
振り被った剣が部品の雨を散らすのも時間の問題。
『TIME CHARGE!5・4・3・2・1…ZERO TIME!』
とはいえ他の者も見物に徹する気は毛頭なく、ここまで立っているだけの案山子になってもいない。
戦闘開始から間を置かずに、ジオウは自身の得物を操作。
ジカンギレード上部のスイッチを押しエネルギーを充填、ライドウォッチを装填せずとも技は放てる。
カウントダウン終了を聞きトリガーを引くと、『ジュウ』の文字型の弾が連続で発射。
的が地上から宙に変わった所で外さない、三文字が群れを成してギラへ襲い掛かった。
戦闘開始から間を置かずに、ジオウは自身の得物を操作。
ジカンギレード上部のスイッチを押しエネルギーを充填、ライドウォッチを装填せずとも技は放てる。
カウントダウン終了を聞きトリガーを引くと、『ジュウ』の文字型の弾が連続で発射。
的が地上から宙に変わった所で外さない、三文字が群れを成してギラへ襲い掛かった。
数が増えたとて脅威にはなり得ない。
アンクの火球同様に一振りで霧散、再度魔進チェイサーを見下ろすも妨害に出たのはジオウ一人に非ず。
アンクの火球同様に一振りで霧散、再度魔進チェイサーを見下ろすも妨害に出たのはジオウ一人に非ず。
――水の呼吸 肆ノ型 打ち潮・乱
地面を離れ範囲を広げた斬撃を繰り出す可奈美へ、ギラも無言のまま剣を振るう。
四方八方よりの刃を打ち伏せ、一足早く着地。
視線をわざわざ向けるまでも無い、次の斬撃が迫りつつあった。
四方八方よりの刃を打ち伏せ、一足早く着地。
視線をわざわざ向けるまでも無い、次の斬撃が迫りつつあった。
――水の呼吸 捌ノ型 滝壷
範囲は真下のみだが威力は絶大。
岩石を叩き割らん滝の勢いを以て急降下。
狙いを付けたのは肩、剣を振るう者にとって負傷は致命的。
岩石を叩き割らん滝の勢いを以て急降下。
狙いを付けたのは肩、剣を振るう者にとって負傷は致命的。
「ゴミの遊戯が通用するのは、トウフの八百長試合くらいだろう」
落下の勢いを乗せた剣も、ギラから見れば綿埃が舞い落ちるのと変わらぬ遅さ。
斬り上げにより弾かれた可奈美があらぬ方へと吹き飛び、先に待つのはコンクリートの壁。
体勢を変えて激突回避に動こうとするも、ギラの接近の方が遥かに速い。
突き出した剣は吸い込まれるように左胸へと迫る。
白い制服が可奈美自身が流す赤で汚れるのを、ギラ以外の誰も望んではいない。
斬り上げにより弾かれた可奈美があらぬ方へと吹き飛び、先に待つのはコンクリートの壁。
体勢を変えて激突回避に動こうとするも、ギラの接近の方が遥かに速い。
突き出した剣は吸い込まれるように左胸へと迫る。
白い制服が可奈美自身が流す赤で汚れるのを、ギラ以外の誰も望んではいない。
「させない!」
割り込んだ槍が剣をこれ以上進ませまいとし、またもや可奈美は死から遠ざかった。
入れ替わりに攻撃を放つのはマジアマゼンタだ、身の丈程もある槍を豪快且つスピーディーに振り回す。
リーチの差を活かしギラを攻め立て、反撃に移る隙を与えまいとする。
槍を振るう間にもマジアマゼンタの額には汗が浮かび、腕には鈍い痛みが走った。
こっちは両手で武器を握っているのに、向こうは片腕持ちで難なく対処。
やはり純粋な力一つ取っても敵が上回るらしい。
入れ替わりに攻撃を放つのはマジアマゼンタだ、身の丈程もある槍を豪快且つスピーディーに振り回す。
リーチの差を活かしギラを攻め立て、反撃に移る隙を与えまいとする。
槍を振るう間にもマジアマゼンタの額には汗が浮かび、腕には鈍い痛みが走った。
こっちは両手で武器を握っているのに、向こうは片腕持ちで難なく対処。
やはり純粋な力一つ取っても敵が上回るらしい。
代わりに自分達が勝っているのは仲間の数。
マジアマゼンタの槍を弾いてすぐに、死角から銃弾が殺到。
得物を使った応酬の間、位置が固定されるのまで狙い通りか。
リュージが狙い撃つのに躊躇はない、銃口から吐き出された弾は全てギラへ向けたもの。
間違ってマジアマゼンタに被弾、などと凡ミスは犯さない。
剣で斬り落とし、僅かな動きで躱す。
銃弾と槍の両方を己から遠ざけ、掠らせもしない。
マジアマゼンタの槍を弾いてすぐに、死角から銃弾が殺到。
得物を使った応酬の間、位置が固定されるのまで狙い通りか。
リュージが狙い撃つのに躊躇はない、銃口から吐き出された弾は全てギラへ向けたもの。
間違ってマジアマゼンタに被弾、などと凡ミスは犯さない。
剣で斬り落とし、僅かな動きで躱す。
銃弾と槍の両方を己から遠ざけ、掠らせもしない。
斬り合う相手はマジアマゼンタ一人に留まらない。
復帰を果たした薫が頭上から、背後からは手刀を突き出したアンクが接近。
銃弾を斬りながら真横へ跳ぶも、二方向よりのエネルギー弾に狙われる。
二丁拳銃の手数を活かすジオウと持ち前の射撃能力を魔進チェイサーが発揮し、ギラから攻撃の機会を少しでも削ぎ落とす。
そこへリュージがアサルトライフルを連射し加われば、三方向からの掃射を剣一本で凌ぐ。
復帰を果たした薫が頭上から、背後からは手刀を突き出したアンクが接近。
銃弾を斬りながら真横へ跳ぶも、二方向よりのエネルギー弾に狙われる。
二丁拳銃の手数を活かすジオウと持ち前の射撃能力を魔進チェイサーが発揮し、ギラから攻撃の機会を少しでも削ぎ落とす。
そこへリュージがアサルトライフルを連射し加われば、三方向からの掃射を剣一本で凌ぐ。
埒が明かないと思ったのか、ギラが片脚を軸に一回転し刃を飛ばす。
魔進チェイサーとジオウはともかく、リュージは敏捷性が上がったとて確実に躱せるかは不明。
となると他の者が助けに動くのは自然な流れだ。
アンクが翼を広げアスファルトを撫でるように飛行、リュージの襟首を掴んで刃から遠ざかる。
地面へ雑に降ろす場面を眺めてはいられない、銃撃が止んだなら至近距離での戦闘へ臨む。
魔進チェイサーとジオウはともかく、リュージは敏捷性が上がったとて確実に躱せるかは不明。
となると他の者が助けに動くのは自然な流れだ。
アンクが翼を広げアスファルトを撫でるように飛行、リュージの襟首を掴んで刃から遠ざかる。
地面へ雑に降ろす場面を眺めてはいられない、銃撃が止んだなら至近距離での戦闘へ臨む。
可奈美、薫、マジアマゼンタ。
少女達の刃が闘争の熱を加速させ、宇蟲王へ届かせるべく牙を突き立てる。
少女達の刃が闘争の熱を加速させ、宇蟲王へ届かせるべく牙を突き立てる。
防ぎ、躱し、弾き、距離を取れば銃弾が飛び、また接近し、斬り合う。
7対1の構図が生まれ、一見すれば後者が圧倒的に不利。
前者の連携は数時間か数十分の付き合いが大半でありながら、綻びが見当たらない。
殺し合いに巻き込まれる前から戦いの渦中に身を置き、培ったスキルと経験をここぞとばかりに活かしている。
だというのに全員顔へ余裕の二文字が全く浮かんではいなかった。
7対1の構図が生まれ、一見すれば後者が圧倒的に不利。
前者の連携は数時間か数十分の付き合いが大半でありながら、綻びが見当たらない。
殺し合いに巻き込まれる前から戦いの渦中に身を置き、培ったスキルと経験をここぞとばかりに活かしている。
だというのに全員顔へ余裕の二文字が全く浮かんではいなかった。
7人全員が苛烈に攻め立て、敵に斬られてはいない。
だがそこより先に進めない。
7人掛かりで倒せないばかりか、敵はたった一人にも関わらず猛攻を平然と凌いでいた。
加えて、自分達の助けとなっている強化も長続きはしない。
限界が来る前に倒さねば、マズい状態に陥るのは二人のアイドルの方なのだから。
だがそこより先に進めない。
7人掛かりで倒せないばかりか、敵はたった一人にも関わらず猛攻を平然と凌いでいた。
加えて、自分達の助けとなっている強化も長続きはしない。
限界が来る前に倒さねば、マズい状態に陥るのは二人のアイドルの方なのだから。
「スクルト…!ピオリム…!」
呪文を唱え千佳は仲間達の能力を引き上げる。
前者は防御力、後者はすばやさを強化するが共に時間経過で解けてしまう。
故に一定の感覚で唱え効果時間を延長、途切れて仲間達が不利にならないよう気を張っていた。
前者は防御力、後者はすばやさを強化するが共に時間経過で解けてしまう。
故に一定の感覚で唱え効果時間を延長、途切れて仲間達が不利にならないよう気を張っていた。
彼女を守るように傍らで演奏を続けるのはナーゴ。
ビートフォームの能力による影響は今更言うまでもない。
演奏が止まれば味方への強化が消えると、ディケイドとの戦闘で把握している。
故にギターから決して手を放さず、ただの一度も休憩を挟まない。
曲の停止が仲間達のピンチに繋がると思えば、絶対に止めるつもりはなかった。
ビートフォームの能力による影響は今更言うまでもない。
演奏が止まれば味方への強化が消えると、ディケイドとの戦闘で把握している。
故にギターから決して手を放さず、ただの一度も休憩を挟まない。
曲の停止が仲間達のピンチに繋がると思えば、絶対に止めるつもりはなかった。
「ハァ…ハァ……」
まどうしのつえを構える千佳の頬を汗が伝い、苦し気な吐息が疲労の蓄積を聞く者に伝えて来る。
魔法使いや賢者でなくとも呪文が使えると言えば聞こえは良いが、制約が無い訳では無い。
魔力や類する力を持つ者以外、魔力に乏しかったり或いは魔力の概念自体が存在しない世界の参加者。
そういった者がまどうしのつえを使う場合、魔力の代わりに体力を消費する。
主催者が施した細工によって、ノワルから魔力は期待出来ないと評されたにも関わらず千佳は複数回呪文を唱えられた。
だが勇者一行のMPが常に無限だったのとは違うように、千佳とて無制限に呪文は使えない。
アイドルとしてのレッスンをこなし、同年代の少女より体力は多いと言っても。
唱える度に容赦なく削られれば、動かなくても息が上がるのは必然だった。
魔法使いや賢者でなくとも呪文が使えると言えば聞こえは良いが、制約が無い訳では無い。
魔力や類する力を持つ者以外、魔力に乏しかったり或いは魔力の概念自体が存在しない世界の参加者。
そういった者がまどうしのつえを使う場合、魔力の代わりに体力を消費する。
主催者が施した細工によって、ノワルから魔力は期待出来ないと評されたにも関わらず千佳は複数回呪文を唱えられた。
だが勇者一行のMPが常に無限だったのとは違うように、千佳とて無制限に呪文は使えない。
アイドルとしてのレッスンをこなし、同年代の少女より体力は多いと言っても。
唱える度に容赦なく削られれば、動かなくても息が上がるのは必然だった。
(指が痛くなってきたけど…止めちゃダメだ…!)
果穂もまた演奏の継続で消耗に襲われている。
ビートフォームの機能ならば完璧にギターを弾けるとはいえ、変身者が永遠にその状態を保てるかは別。
NPCとの戦闘から間を置かずに再度演奏し、変身中だが指へ負担が掛かる。
ましてギター演奏などナーゴになって初めての経験。
一流のバンドマンとて曲の合間には手を止めるが、果穂には許されない。
止めてしまえばその時どうなるか、言うまでもない。
ビートフォームの機能ならば完璧にギターを弾けるとはいえ、変身者が永遠にその状態を保てるかは別。
NPCとの戦闘から間を置かずに再度演奏し、変身中だが指へ負担が掛かる。
ましてギター演奏などナーゴになって初めての経験。
一流のバンドマンとて曲の合間には手を止めるが、果穂には許されない。
止めてしまえばその時どうなるか、言うまでもない。
「果穂ちゃん大丈夫…?」
「はいっ!これくらいへっちゃらです!千佳ちゃんこそ大丈夫ですか…?」
「えへへ…ラブリーチカは、まだまだぜーんぜん…元気だよ…!」
「はいっ!これくらいへっちゃらです!千佳ちゃんこそ大丈夫ですか…?」
「えへへ…ラブリーチカは、まだまだぜーんぜん…元気だよ…!」
汗を拭ってニッカリと笑い、平気なことを伝える。
仮面で顔が隠れているけど、でも苦しい顔は作らずに大丈夫だと返す。
表面上で取り繕っても消耗は時間経過で膨らみ、着実に二人を蝕む。
だけど弱音は吐かない、強くて恐い相手と誰もが戦い続けているのだ。
彼と、彼女と、皆と一緒に頑張ろうと決めたのに、自分で自分の言葉を嘘にはしたくない。
仮面で顔が隠れているけど、でも苦しい顔は作らずに大丈夫だと返す。
表面上で取り繕っても消耗は時間経過で膨らみ、着実に二人を蝕む。
だけど弱音は吐かない、強くて恐い相手と誰もが戦い続けているのだ。
彼と、彼女と、皆と一緒に頑張ろうと決めたのに、自分で自分の言葉を嘘にはしたくない。
仲間達の力となるべく口を開き、仲間達の支えとなるべく指の動きを速める。
圧し掛かる疲れなんかに負けてたまるかと奮い立たせ、仲間達の姿を両目に映した。
剣と銃弾が絶えず飛び交う光景が飛び込み、
圧し掛かる疲れなんかに負けてたまるかと奮い立たせ、仲間達の姿を両目に映した。
剣と銃弾が絶えず飛び交う光景が飛び込み、
『――――――っ』
ゾワリと、尋常ならざる恐怖に身を包まれた。
斬り結びながら弾を躱す、真紅を纏いし王。
自分達のプロデューサーのように、信頼出来るものを只の一つも宿していない男が。
一瞬、瞳を衣服と同じかそれ以上に色濃い赤に染めて。
ハッキリと、こちらを見た。
斬り結びながら弾を躱す、真紅を纏いし王。
自分達のプロデューサーのように、信頼出来るものを只の一つも宿していない男が。
一瞬、瞳を衣服と同じかそれ以上に色濃い赤に染めて。
ハッキリと、こちらを見た。
「フン、そうか」
汗の一滴も掻かない、戦闘が始まって常に維持し続けた余裕の表情で呟く。
ゴッカンの愚衆どもが好むような音楽と、横でキャンキャン吠える小娘。
クズどもの中でも取り分けくだらない、ちっぽけな連中と思っていたが成程。
あの二人の騒音がクズどもにチマチマ力を与えているらしい。
ゴッカンの愚衆どもが好むような音楽と、横でキャンキャン吠える小娘。
クズどもの中でも取り分けくだらない、ちっぽけな連中と思っていたが成程。
あの二人の騒音がクズどもにチマチマ力を与えているらしい。
そう分かった所で、ギラの思考に大きな変化は訪れない。
むしろ益々落胆が広まるばかり。
小娘どもの力を頼って尚、発揮出来るのはこの程度。
今更思う事ではないが、つくづく羂索が始めた殺し合いには腹が立ってしょうがない。
せめて強き竜の者…桐生ダイゴでもいれば話は別だったが。
ダイゴはおらず、代わりに名簿に載っていたのはハスティー姓を名乗る自分。
大方別の次元のギラなのだとすぐに察しは付き、だからといって自分同士仲良くする気も起きない。
むしろ己でありながら狭っ苦しい国の王程度に収まる矮小さが、非常に気に食わない。
ギラと言う名の王は一人で良い、雑魚の王など別次元の自分であっても存在する価値は無い。
むしろ益々落胆が広まるばかり。
小娘どもの力を頼って尚、発揮出来るのはこの程度。
今更思う事ではないが、つくづく羂索が始めた殺し合いには腹が立ってしょうがない。
せめて強き竜の者…桐生ダイゴでもいれば話は別だったが。
ダイゴはおらず、代わりに名簿に載っていたのはハスティー姓を名乗る自分。
大方別の次元のギラなのだとすぐに察しは付き、だからといって自分同士仲良くする気も起きない。
むしろ己でありながら狭っ苦しい国の王程度に収まる矮小さが、非常に気に食わない。
ギラと言う名の王は一人で良い、雑魚の王など別次元の自分であっても存在する価値は無い。
矮小な力を振るうだけの雑魚を、延々と調子付かせてやる奇異な趣味は持ち合わせていない。
茶番は早々に終わらせるに限る。
ギラの放つ殺気が数段階上の重圧となり、マズいほうへ状況が傾いたと誰もが理解した。
茶番は早々に終わらせるに限る。
ギラの放つ殺気が数段階上の重圧となり、マズいほうへ状況が傾いたと誰もが理解した。
「――っ!?ぃぁ……」
だが分かった時にはもう手遅れだ。
雫波紋突き、水の呼吸最速の一撃がするりと躱され、脳が空振りを認識するより早く。
可奈美を灼熱が襲い、視界いっぱいに赤い雫が煌めいた。
斬られた、写シを使っていない生身の肉体に駆け巡る熱い感触。
スクルトの効果で即死には至らずとも、軽傷で済む程の脆い剣ではない。
動かなければ、刀を振るわねばと必死に体が反応を見せ、無駄と言わんばかりに蹴飛ばされた。
雫波紋突き、水の呼吸最速の一撃がするりと躱され、脳が空振りを認識するより早く。
可奈美を灼熱が襲い、視界いっぱいに赤い雫が煌めいた。
斬られた、写シを使っていない生身の肉体に駆け巡る熱い感触。
スクルトの効果で即死には至らずとも、軽傷で済む程の脆い剣ではない。
動かなければ、刀を振るわねばと必死に体が反応を見せ、無駄と言わんばかりに蹴飛ばされた。
「可奈美!?」
「待って!今私が――」
「待って!今私が――」
顔色を変えた薫を制し、マジアマゼンタが回復へ急ぐ。
まだ死んでいないなら自身の魔法で助けられる。
意識が眼前の敵から重傷の仲間へ移り、大きなミスだと体に直接叩き込まれた。
まだ死んでいないなら自身の魔法で助けられる。
意識が眼前の敵から重傷の仲間へ移り、大きなミスだと体に直接叩き込まれた。
「ごっ……」
腹部に拳が捻じ込まれ、発せられたのは人体から出るとは思えない軋む音。
呼吸が止まったその一瞬で、可奈美同様弾丸の勢いで吹き飛ぶ。
携帯ショップの自動ドアに頭から突っ込み、激突したカウンターを破壊しようやくストップ。
呼吸が止まったその一瞬で、可奈美同様弾丸の勢いで吹き飛ぶ。
携帯ショップの自動ドアに頭から突っ込み、激突したカウンターを破壊しようやくストップ。
「貴様もうろちょろと目障りだ、小蝿が」
「がっ!?テメ…はな…!?」
「がっ!?テメ…はな…!?」
顔面を鷲掴みにされ、素手でありながら万力もかくやの握力で締め付けられた。
頭蓋骨が砕かれ兼ねない痛みに、焦りが急激に湧き出す。
だったら向こうから放したくなるようにするだけと、空いた手でギラの腕を掴んだ。
ドレインタッチで体力も魔力も根こそぎ奪えば、あっという間に崩れ落ちるに違いない。
頭蓋骨が砕かれ兼ねない痛みに、焦りが急激に湧き出す。
だったら向こうから放したくなるようにするだけと、空いた手でギラの腕を掴んだ。
ドレインタッチで体力も魔力も根こそぎ奪えば、あっという間に崩れ落ちるに違いない。
「向こうのゴミ共々這い蹲るがいい」
薫の目論見は魔力を奪う前にギラが投げ飛ばしたことで、呆気なく失敗に終わる。
小柄とはいえ10代の少女が、ロクに体勢を立て直すことも叶わない速度で宙を泳ぐ。
遠ざかる真紅すらも霞む加速へと囚われ、
小柄とはいえ10代の少女が、ロクに体勢を立て直すことも叶わない速度で宙を泳ぐ。
遠ざかる真紅すらも霞む加速へと囚われ、
「い゛っ!?」
「がぁ…!」
「がぁ…!」
援護射撃の為に離れた位置で銃を構えていたリュージへ命中。
頭部が胴体を直撃し、共に衝突箇所への痛みに短い悲鳴が漏れるも災難は続く。
二人揃って錐もみ回転し壁に叩き付けられ、地面へ転がった時には声も出せなかった。
頭部が胴体を直撃し、共に衝突箇所への痛みに短い悲鳴が漏れるも災難は続く。
二人揃って錐もみ回転し壁に叩き付けられ、地面へ転がった時には声も出せなかった。
纏わり付く小娘三人と、離れてコソコソ動くネズミ一匹が一瞬でダウン。
次は人ならざる二体を標的に定め、紫のボディを視界に閉じ込める。
ブレイクガンナーが圧縮生成したエネルギー弾を連射、照準は一発残らずギラへ合わせてあった。
しかし無意味だ、剣を軽く振るって叩き落とし急接近。
魔進チェイサーの視覚センサーを以てしても、一歩踏み込んだ瞬間以外まともに捉えられない。
目と鼻の先へ現れたギラに、複合モジュールが最適解を弾き出す暇すら無く。
防御、迎撃、回避、重加速の発動と複数ある選択も、本人が追い付かなければ無意味だ。
真一文字を胸部へ刻まれ、紙風船のように宙へと呆気なく斬り飛ばされる。
次は人ならざる二体を標的に定め、紫のボディを視界に閉じ込める。
ブレイクガンナーが圧縮生成したエネルギー弾を連射、照準は一発残らずギラへ合わせてあった。
しかし無意味だ、剣を軽く振るって叩き落とし急接近。
魔進チェイサーの視覚センサーを以てしても、一歩踏み込んだ瞬間以外まともに捉えられない。
目と鼻の先へ現れたギラに、複合モジュールが最適解を弾き出す暇すら無く。
防御、迎撃、回避、重加速の発動と複数ある選択も、本人が追い付かなければ無意味だ。
真一文字を胸部へ刻まれ、紙風船のように宙へと呆気なく斬り飛ばされる。
火花の雨を降らす魔進チェイサーから視線を外し、もう一体の元へ疾走。
標的は地上では無く空中に陣取り、火球を放ち続けている。
何の脅威にもならない、斬り落とし跳躍すればあっという間に目の前へ到達。
標的は地上では無く空中に陣取り、火球を放ち続けている。
何の脅威にもならない、斬り落とし跳躍すればあっという間に目の前へ到達。
「羽虫如きが王を見下ろすな」
「お前…!ぐあっ…!」
「お前…!ぐあっ…!」
突き出した手刀を素手で受け止め、脇腹を蹴りが叩く。
両の翼で踏み止まろうにも、一体脚へどれ程の力が籠められているのか。
アスファルトを砕き叩き付けられたアンクへ、着地前に剣を振るって刃を飛ばす。
黒と赤、二つの輝きが抵抗の隙を与えずにグリードの肉体を焼いた。
苦悶の声と共に、出血代わりでセルメダルが撒き散らされる。
両の翼で踏み止まろうにも、一体脚へどれ程の力が籠められているのか。
アスファルトを砕き叩き付けられたアンクへ、着地前に剣を振るって刃を飛ばす。
黒と赤、二つの輝きが抵抗の隙を与えずにグリードの肉体を焼いた。
苦悶の声と共に、出血代わりでセルメダルが撒き散らされる。
「……矮小なゴミめ、つまらん真似に出たな」
地へ足を付けた途端に動きを止めた。
より正確に言うなら、両足が凍り付き動けなくなる。
誰の仕業かを考えるまでも無い。
より正確に言うなら、両足が凍り付き動けなくなる。
誰の仕業かを考えるまでも無い。
『FINISH TIME』
『ZI-O!SURESURE SHOOTING!』
共闘相手が次々に倒れる場面を見せ付けられ、ジオウの中から躊躇は即座に消え去った。
温存していたギアス、ジ・アイスを発動しギラを凍結。
動きを止めた程度でどうにかなる相手では無い、むしろ己のギアスとて苦も無く打ち破られる予感がしてならない。
流れる動作でライドウォッチを装填し、先の文字型エネルギーを超える火力を叩き込むべくトリガーを引いた。
温存していたギアス、ジ・アイスを発動しギラを凍結。
動きを止めた程度でどうにかなる相手では無い、むしろ己のギアスとて苦も無く打ち破られる予感がしてならない。
流れる動作でライドウォッチを装填し、先の文字型エネルギーを超える火力を叩き込むべくトリガーを引いた。
「なっ――」
狙いはズレていない、巨大な光弾はギラ目掛けて真っ直ぐに突き進む。
なれど、瞳を焼き潰す輝きが迫ろうと焦りは欠片も抱かない。
偽りの魔王の輝きなど、宇蟲王の足元にも及ばず。
アンクへ放った時以上の規模と威力で斬撃を放てば、光弾共々ジオウを飲み込んだ。
装甲越しとは思えない激痛に悲鳴が上がり、どちらが王に相応しいかを思い知らされる。
なれど、瞳を焼き潰す輝きが迫ろうと焦りは欠片も抱かない。
偽りの魔王の輝きなど、宇蟲王の足元にも及ばず。
アンクへ放った時以上の規模と威力で斬撃を放てば、光弾共々ジオウを飲み込んだ。
装甲越しとは思えない激痛に悲鳴が上がり、どちらが王に相応しいかを思い知らされる。
「え……」
起きた全てを瞳が映し出し、だが千佳には未だ理解が追い付かない。
マジアマゼンタが、魔進チェイサーが、戦っていた皆が。
闇檻の魔女にも並ぶ恐ろしさの王相手に、奮戦していた誰も彼もが。
地に体を横たえ呻き声を発し、或いはピクリとも動かない。
マジアマゼンタが、魔進チェイサーが、戦っていた皆が。
闇檻の魔女にも並ぶ恐ろしさの王相手に、奮戦していた誰も彼もが。
地に体を横たえ呻き声を発し、或いはピクリとも動かない。
「っ!千佳ちゃ――」
「囀るな煩わしい、騒音ならゴッカンの罪人どもに聞かせていろ」
「囀るな煩わしい、騒音ならゴッカンの罪人どもに聞かせていろ」
仲間が倒れ、呆然とする間に敵は自分達の目の前にいた。
衝撃を受けたのはナーゴも同じだが、後ろに庇った千佳の存在が一足先に意識を取り戻させる。
レイズバックルに手を伸ばし技の発動に必須の操作を実行。
と、頭で考えたは良いもののギラを前にしては余りにも遅い。
黄金の刀身が胴体を撫で、決死の抵抗も無に帰す。
衝撃を受けたのはナーゴも同じだが、後ろに庇った千佳の存在が一足先に意識を取り戻させる。
レイズバックルに手を伸ばし技の発動に必須の操作を実行。
と、頭で考えたは良いもののギラを前にしては余りにも遅い。
黄金の刀身が胴体を撫で、決死の抵抗も無に帰す。
最初、自分に何が起こったのかを果穂は正しく認識出来なかった。
千佳を守ろうとナーゴの技を使おうとし、次の瞬間には体が宙へ浮かんでいた。
目まぐるしく通り過ぎ、変化し続ける光景はまるで絶叫マシンに乗っているかのよう。
アッシュフォード学園で、チェイスが先生から自分を守ってくれた時みたいだと。
思考の片隅に浮かんだソレは、背中への衝撃で砂のように霧散。
千佳を守ろうとナーゴの技を使おうとし、次の瞬間には体が宙へ浮かんでいた。
目まぐるしく通り過ぎ、変化し続ける光景はまるで絶叫マシンに乗っているかのよう。
アッシュフォード学園で、チェイスが先生から自分を守ってくれた時みたいだと。
思考の片隅に浮かんだソレは、背中への衝撃で砂のように霧散。
「……ぃうっ!?う…あ……」
続けて襲ったのは頭を働かせるのを大きく阻む、猛烈な痛み。
転んで擦りむいただとか、日常で起こる怪我とは訳が違う。
スクルトで防御力が強化されていた為、浅利のように装甲ごと骨まで斬られてはいない。
命が繋がっている現状は幸運と言えるのかもしれないが、本人に喜べる余裕はゼロ。
転んで擦りむいただとか、日常で起こる怪我とは訳が違う。
スクルトで防御力が強化されていた為、浅利のように装甲ごと骨まで斬られてはいない。
命が繋がっている現状は幸運と言えるのかもしれないが、本人に喜べる余裕はゼロ。
「はっ……ああっ…!い、た……」
激突した背中以上に、胸とお腹が裂かれるように痛む。
エントリーフォーム以上の耐久性があるビートフォームであっても、大ダメージは免れないギラの剣。
まして果穂は元々争いとは一切無縁の小学生。
本来の世界では生涯味わう事の無かっただろう激痛に呼吸は乱れ、望まなくとも涙が零れる。
エントリーフォーム以上の耐久性があるビートフォームであっても、大ダメージは免れないギラの剣。
まして果穂は元々争いとは一切無縁の小学生。
本来の世界では生涯味わう事の無かっただろう激痛に呼吸は乱れ、望まなくとも涙が零れる。
「あ、か、果穂ちゃん…!」
この地で出会った同じアイドルの仲間の痛ましい姿に、千佳も我に返った。
いつまでもぼうっと突っ立っている場合じゃない。
血相を変えて駆け寄ろうとし、
いつまでもぼうっと突っ立っている場合じゃない。
血相を変えて駆け寄ろうとし、
「ひっ…!」
その眼前に真紅が立ち塞がり、凍てつく瞳で射抜かれた。
足が竦んで動けない、押し退ける為の手も動かせない。
退いてと言う為の口は自分でもみっともない程に震え、カチカチと歯が鳴る音が出るだけ。
腰を抜かさないだけでも大したものだと、誰もが口を揃えて言うだろう。
足が竦んで動けない、押し退ける為の手も動かせない。
退いてと言う為の口は自分でもみっともない程に震え、カチカチと歯が鳴る音が出るだけ。
腰を抜かさないだけでも大したものだと、誰もが口を揃えて言うだろう。
見下ろす瞳の邪悪さはノワルに負けず劣らず、しかし明確に違う。
あの魔女は自分を一時は玩具として生かし、殺そうとした時も苦痛が長続きする方法を取った。
しかし王にはそのような遊びが毛先程も無い。
本当に、自分が生きることへ全く価値を見出しておらず、地面へ転がる塵に視線を落としているに過ぎなかった。
あの魔女は自分を一時は玩具として生かし、殺そうとした時も苦痛が長続きする方法を取った。
しかし王にはそのような遊びが毛先程も無い。
本当に、自分が生きることへ全く価値を見出しておらず、地面へ転がる塵に視線を落としているに過ぎなかった。
「花を愛で一生を終えるイシャバーナのカスどもと同じ、全く下らん小娘だな。奴め、俺をこのゴミと同列に数えるつもりか?」
奇怪な術も支給品の力によるもの、今しがた蹴散らした連中のように戦いを経験してる風でもない。
殺し合いに有無を言わせず招いておきながら、用意されたのは呆れるくらいにちっぽけな少女。
宇蟲王たる己を悉く舐め腐った怒りは、この手で羂索達を処さねば消えそうもなかった。
膨れ上がる殺気は千佳に向けられたのでなくとも、間近で受ければ一層の恐怖を煽る。
殺し合いに有無を言わせず招いておきながら、用意されたのは呆れるくらいにちっぽけな少女。
宇蟲王たる己を悉く舐め腐った怒りは、この手で羂索達を処さねば消えそうもなかった。
膨れ上がる殺気は千佳に向けられたのでなくとも、間近で受ければ一層の恐怖を煽る。
「待っていろ。群がるゴミを片付けたら次は貴様らだ」
瞳は千佳を射抜いてはいるが、その実千佳を見ていない。
現在最も殺意を抱く羂索一派にであり、参加者など踏み潰す為に集められたゴミ。
齢9歳の少女だろうと認識は変わらない。
現在最も殺意を抱く羂索一派にであり、参加者など踏み潰す為に集められたゴミ。
齢9歳の少女だろうと認識は変わらない。
「あ――」
迫る終わりに悲観する暇は与えられず、人生を彩った思い出の数々が頭に浮かぶ時間も無い。
死にかけの蟻がいたから踏み潰す気軽さで剣を振るう。
チキューを支配したギラにとっては、今更感じ入ることも無い作業の一環。
死にかけの蟻がいたから踏み潰す気軽さで剣を振るう。
チキューを支配したギラにとっては、今更感じ入ることも無い作業の一環。
しかし忘れてはならない、ありふれた悲劇を決して望まない者がいることを。
ガキンという音は、少女の首へ刃を食いこませたのとは異なる。
視線の先には数秒前と違い、ゴミがもう一匹増えていた。
翳した得物は光り輝く魔力の槍、正しき心の少女が得意とする守る為の力。
視線の先には数秒前と違い、ゴミがもう一匹増えていた。
翳した得物は光り輝く魔力の槍、正しき心の少女が得意とする守る為の力。
「ゴミじゃ…ない……」
口の端から血を垂らし、痛みと疲労で息は上がっている。
防ぐだけでも意識が飛びそうな力を真っ向から受け止め、両腕に掛かる負担は軽くない。
それでも毅然と王を睨み返し、マジアマゼンタは一歩も退かない。
防ぐだけでも意識が飛びそうな力を真っ向から受け止め、両腕に掛かる負担は軽くない。
それでも毅然と王を睨み返し、マジアマゼンタは一歩も退かない。
「千佳ちゃんも…皆も……ゴミなんかじゃ、ない……!」
自分が何を言っても、ギラには届かないのかもしれない。
聞く価値のない戯言と、数秒後にはアッサリ忘れられるのだとしても。
黙ってはいられない、真正面から否定せずにはいられなかった。
聞く価値のない戯言と、数秒後にはアッサリ忘れられるのだとしても。
黙ってはいられない、真正面から否定せずにはいられなかった。
この目で全部見たから知っている。
ノワルとの戦いで誰よりも恐怖を味わい、苦痛をその身に受けたのが誰かを。
逃げ出したって責められない状況で、ただの一度も自分達を置いて行こうとはしなかったのが誰かを。
小さな体に収まりきらない程の勇気で自分達を助けてくれた、魔法少女が誰なのかを。
近くでずっと見たからこそ、恐怖を凌駕する怒りを王にぶつける。
ノワルとの戦いで誰よりも恐怖を味わい、苦痛をその身に受けたのが誰かを。
逃げ出したって責められない状況で、ただの一度も自分達を置いて行こうとはしなかったのが誰かを。
小さな体に収まりきらない程の勇気で自分達を助けてくれた、魔法少女が誰なのかを。
近くでずっと見たからこそ、恐怖を凌駕する怒りを王にぶつける。
「知るか」
尤も、王が何を思ったかは言い放った三文字が全て。
ギラはノワルとの戦いを知らない、知った所で千佳へ思う事は変わらない。
故に仲間への…友への想いに突き動かされた怒りは一つとして響かず。
ギラはノワルとの戦いを知らない、知った所で千佳へ思う事は変わらない。
故に仲間への…友への想いに突き動かされた怒りは一つとして響かず。
「――――」
僅かに力を籠め、王を象徴する色彩の斬撃を放った。
優しさと気高さの宿った魔力が簡単に食らい尽くされ、おぞましい赤はマジアマゼンタをも蝕む。
優しさと気高さの宿った魔力が簡単に食らい尽くされ、おぞましい赤はマジアマゼンタをも蝕む。
「千佳…ちゃ……」
ピンク色の衣装が汚されるのに時間は掛からず、意識が途切れるまでの猶予も無い。
痛いのかどうかすら曖昧になりながらも、背中に庇った小さな友へと振り返る。
痛いのかどうかすら曖昧になりながらも、背中に庇った小さな友へと振り返る。
「逃げ……」
言葉がそれ以上口から出ることはなく、代わりにゴボリと血を吐き出す。
トレスマジアの衣装が花弁のように散り、制服もすぐに赤で汚れた。
うつ伏せに倒れ、それっきり糸の切れた人形のように動かない。
流れ続ける大量の血は、花菱はるかの終わりが時間の問題と知らしめていた。
トレスマジアの衣装が花弁のように散り、制服もすぐに赤で汚れた。
うつ伏せに倒れ、それっきり糸の切れた人形のように動かない。
流れ続ける大量の血は、花菱はるかの終わりが時間の問題と知らしめていた。
「はるか…ちゃ……やだ…やだやだやだ…!」
自らが作った血溜まりに横たわるはるかに、千佳は泣き叫ぶしかできない。
何度声を掛けても黙ったまま、こっちを向いてくれない。
待ち受けるのが何か分からない程無知では無く、だからこそその結末は認められなかった。
何度声を掛けても黙ったまま、こっちを向いてくれない。
待ち受けるのが何か分からない程無知では無く、だからこそその結末は認められなかった。
「あ、つえ、つえ、となえない、と…!」
顔をくしゃくしゃに歪めしゃくりあげつつも、はるかを助ける選択を諦めない。
治す為の力が今の自分にはある。
齎したのが殺し合いの主催者達だという事実を気にしてなどいられず、両手でまどうしのつえを強く握った。
どうか助けてと懇願するように、小さな手が白ばむ程の力を籠めて。
治す為の力が今の自分にはある。
齎したのが殺し合いの主催者達だという事実を気にしてなどいられず、両手でまどうしのつえを強く握った。
どうか助けてと懇願するように、小さな手が白ばむ程の力を籠めて。
「ゴミが足掻くな見苦しい」
千佳の献身もギラには憐憫一つを抱かせる効果がなかった。
たかが命一つ、踏み躙った大勢に加わるだけでしかない。
纏めて葬り、見るに堪えない三文芝居も終いにしてやる。
たかが命一つ、踏み躙った大勢に加わるだけでしかない。
纏めて葬り、見るに堪えない三文芝居も終いにしてやる。
『NEXT DRIVE SYSTEM DEAD HEAT』
振り被った剣は千佳ではなく、背後からの拳を防ぐのに使われた。
真紅の装甲を纏った魔進チェイサーが、全身から赤い稲妻を迸らせる。
デッドヒートは既に乗りこなしている、時間経過で暴走のリスクは存在しない。
戦線復帰が遅れたばかりにこの様だ、下手人と不甲斐ない己への怒りに呼応しパワーが急激に上昇。
真紅の装甲を纏った魔進チェイサーが、全身から赤い稲妻を迸らせる。
デッドヒートは既に乗りこなしている、時間経過で暴走のリスクは存在しない。
戦線復帰が遅れたばかりにこの様だ、下手人と不甲斐ない己への怒りに呼応しパワーが急激に上昇。
「急くなガラクタ。そこの死にぞこない共を片付けたら、すぐに貴様も殺してやったというのに」
「ふざけるな…!」
「ふざけるな…!」
両の拳に赤を纏い、真紅の王へと殴打の嵐が炸裂。
同じ王であってもハートとは違う、同胞への愛すらこの男からは感じられない。
これ以上は誰も殺させまいと己が正義を宿す拳を幾度も放ち、ギラは涼しい顔で捌く。
一発一発の威力は通常の魔進チェイサー以上、なれどギラの体勢が崩れる様子はまるでない。
ディケイドを退けた力も宇蟲王には及ばないのが現実、だからといって退く訳にもいかない。
同じ王であってもハートとは違う、同胞への愛すらこの男からは感じられない。
これ以上は誰も殺させまいと己が正義を宿す拳を幾度も放ち、ギラは涼しい顔で捌く。
一発一発の威力は通常の魔進チェイサー以上、なれどギラの体勢が崩れる様子はまるでない。
ディケイドを退けた力も宇蟲王には及ばないのが現実、だからといって退く訳にもいかない。
「いつまで好き勝手やってやがんだ!」
苛立ちを叫び加勢に入ったのはもう一体の赤い王。
火球を放ちつつ接近し、魔進チェイサーとは別方向からの打撃を繰り出した。
グリードの腕力も恐れるには足りず、剣を持つのと反対の手で受け止めいなす。
火球を放ちつつ接近し、魔進チェイサーとは別方向からの打撃を繰り出した。
グリードの腕力も恐れるには足りず、剣を持つのと反対の手で受け止めいなす。
「こっちはいい加減お前の相手は飽きてんだよ…!」
「ならば早々に死ね。貴様らこそ俺の手を煩わせていると自覚しろ」
「ならば早々に死ね。貴様らこそ俺の手を煩わせていると自覚しろ」
毒舌の応酬を挟みながらも、双方攻撃の手は止まらない。
胸部へ突き出した拳を受け止め、ギラの蹴りが胴を叩く。
片方が呻くももう片方には意識を向ける余裕も非ず、魔進チェイサーが拳速を引き上げる。
数十か所へ一遍に拳が叩き込まれるかの如き勢い、だが速さも威力もギラという壁を超えるにはまるで足りない。
視覚センサーが敵の剣を捉えんと働きかけるが、映し出されるのは黄金の影のみ。
ロイミュードの技術を以てしても、時間経過で追い付くのが困難になる。
剣の腹で拳を打ち返し、肘が手刀の狙いを逸らす。
共に片腕があらぬ方へ動き、引き戻すまでの1秒にも満たない時間ですらギラには十分過ぎた。
大振りながら鈍重とは程遠い速さで薙ぎ払い、二体共に大きく怯ませる。
胸部へ突き出した拳を受け止め、ギラの蹴りが胴を叩く。
片方が呻くももう片方には意識を向ける余裕も非ず、魔進チェイサーが拳速を引き上げる。
数十か所へ一遍に拳が叩き込まれるかの如き勢い、だが速さも威力もギラという壁を超えるにはまるで足りない。
視覚センサーが敵の剣を捉えんと働きかけるが、映し出されるのは黄金の影のみ。
ロイミュードの技術を以てしても、時間経過で追い付くのが困難になる。
剣の腹で拳を打ち返し、肘が手刀の狙いを逸らす。
共に片腕があらぬ方へ動き、引き戻すまでの1秒にも満たない時間ですらギラには十分過ぎた。
大振りながら鈍重とは程遠い速さで薙ぎ払い、二体共に大きく怯ませる。
余裕綽々の態度で追撃に歩き、脚へ猛烈な冷たさを感じた。
凍結し動けなくなった現象はさっきと同じ。
懲りずに小細工を繰り返そうと、王の歩みを止めるのは無駄だと教えねばなるまい。
内から力をほんの少し放って粉砕、すると間髪入れずに四肢が再度凍り付く。
凍結し動けなくなった現象はさっきと同じ。
懲りずに小細工を繰り返そうと、王の歩みを止めるのは無駄だと教えねばなるまい。
内から力をほんの少し放って粉砕、すると間髪入れずに四肢が再度凍り付く。
『TUNE CHASER COBRA』
『BOOST』
何度拘束を重ねた所で無力化は叶わないが、数秒だけでも動きを止めるだけでも大きな意味はあった。
武装展開した魔進チェイサーが鋼鉄の蛇をギラに巻き付け、二重の拘束を行う。
同時に動くのはブーストフォームに再変身した果穂。
ブーストレイズバックルの時間制限は解除されている、脚部から火を吹き猛加速で接近を果たす。
狙いは千佳とはるかの救出だ、両脇に二人を抱えギラから遠ざかる。
武装展開した魔進チェイサーが鋼鉄の蛇をギラに巻き付け、二重の拘束を行う。
同時に動くのはブーストフォームに再変身した果穂。
ブーストレイズバックルの時間制限は解除されている、脚部から火を吹き猛加速で接近を果たす。
狙いは千佳とはるかの救出だ、両脇に二人を抱えギラから遠ざかる。
「すまない果穂、無理をさせた…」
「あたしなら…大丈夫です!まだ…頑張れますからっ!」
「あたしなら…大丈夫です!まだ…頑張れますからっ!」
痛みを押し殺し、途切れ途切れながらも声を張り上げて返す。
はるかが負った傷に比べれば、まだまだ自分は動ける。
皆それぞれの形で戦っているのに、休んではいられないと奮い立たせた。
はるかが負った傷に比べれば、まだまだ自分は動ける。
皆それぞれの形で戦っているのに、休んではいられないと奮い立たせた。
千佳は今も泣き腫らした顔で、はるかの瞼は閉じられたまま。
しかし青白かった肌には少しずつ熱が戻り、溢れる血もいつの間にか止まっていた。
しかし青白かった肌には少しずつ熱が戻り、溢れる血もいつの間にか止まっていた。
「はるかちゃん…お願い…死んじゃやだよぉ……」
千佳が唱えたのはホイミ、回復系の基本となる呪文。
効果は然程大きく無いが複数回唱え、結果出血は止まり一命は取り留めた。
但し完全に危機を脱していないのは、ギラが健在なのを見れば明らか。
効果は然程大きく無いが複数回唱え、結果出血は止まり一命は取り留めた。
但し完全に危機を脱していないのは、ギラが健在なのを見れば明らか。
「小賢しい!」
両腕に力を張り、鋼鉄の蛇が砕け散った。
四肢を覆う氷も同様に粉砕、取り戻した自由で真っ先に何をするか。
決まっている、王の歩みを邪魔したゴミどもへ制裁を下す。
睨みつけた先とは別方向より、またもや目障りな妨害が向かって来る。
一々視界に入れる必要などない、剣を数回振るえばパラパラと落ちたのは金属片。
四肢を覆う氷も同様に粉砕、取り戻した自由で真っ先に何をするか。
決まっている、王の歩みを邪魔したゴミどもへ制裁を下す。
睨みつけた先とは別方向より、またもや目障りな妨害が向かって来る。
一々視界に入れる必要などない、剣を数回振るえばパラパラと落ちたのは金属片。
「笑えねえ…チートも大概にしろよ…!」
「文句言ってもどうにもならねぇって。気持ちは分かるけどな!」
「文句言ってもどうにもならねぇって。気持ちは分かるけどな!」
愚痴を吐き捨てながらリュージは引き金に掛けた力を抜かず、アサルトライフルの銃身は一向に冷たさを取り戻さない。
大量の予備弾倉があって助かったと思う反面、全弾使っても倒せる相手じゃ無いだろうと言いたかった。
文句を叫びたい気持ちには同意し、薫も頭を抑えて立ち上がる。
ぶつかった箇所の鈍痛は互いに響いているが、休んでいられる相手では無い。
大量の予備弾倉があって助かったと思う反面、全弾使っても倒せる相手じゃ無いだろうと言いたかった。
文句を叫びたい気持ちには同意し、薫も頭を抑えて立ち上がる。
ぶつかった箇所の鈍痛は互いに響いているが、休んでいられる相手では無い。
大剣片手に突進という、最早何度目になるかも分からない戦法。
御刀も無しにどうこう出来る相手じゃないだろと、これまで戦った面々を脳裏に浮かべつつ振るう威力に翳りは無し。
鉄塊の如き大剣に続きギラへ斬り掛かるのは、魔進チェイサーが展開する武装。
デッドヒートとなった今なら、ファングスパイディーの斬撃も強化されている。
しかし届くかどうかは別、此度の敵はデッドヒートだろうとまるで勝機が見出せない。
薫の大剣を掴むや地面に彼女を叩き付け、振り返り様魔進チェイサーに切っ先を突き出す。
ファングスパイディーで咄嗟の防御が間に合ったものの、暴風へ揉みくちゃにされる木の葉のように宙で踊る羽目となった。
ついでとばかりに距離を詰めて蹴りを叩き込むと、ジオウの元へ突っ込み揃って地面を転がる。
復帰などさせたやりはしない、刃が飛び追い打ちに大量の花を散らす。
御刀も無しにどうこう出来る相手じゃないだろと、これまで戦った面々を脳裏に浮かべつつ振るう威力に翳りは無し。
鉄塊の如き大剣に続きギラへ斬り掛かるのは、魔進チェイサーが展開する武装。
デッドヒートとなった今なら、ファングスパイディーの斬撃も強化されている。
しかし届くかどうかは別、此度の敵はデッドヒートだろうとまるで勝機が見出せない。
薫の大剣を掴むや地面に彼女を叩き付け、振り返り様魔進チェイサーに切っ先を突き出す。
ファングスパイディーで咄嗟の防御が間に合ったものの、暴風へ揉みくちゃにされる木の葉のように宙で踊る羽目となった。
ついでとばかりに距離を詰めて蹴りを叩き込むと、ジオウの元へ突っ込み揃って地面を転がる。
復帰などさせたやりはしない、刃が飛び追い打ちに大量の花を散らす。
絶えず発砲するリュージには視線一つくれてやらずに、片手を振り回して防御。
軽く斬撃を放つだけで潰えるちっぽけな命だろうと、王と同じ舞台に立った以上死は絶対。
ある意味ではダーウィンズゲーム以上に理不尽極まる存在と、会ってしまったのが運の尽き。
何千回と繰り返した刑を執行すべく腕を上げ、
軽く斬撃を放つだけで潰えるちっぽけな命だろうと、王と同じ舞台に立った以上死は絶対。
ある意味ではダーウィンズゲーム以上に理不尽極まる存在と、会ってしまったのが運の尽き。
何千回と繰り返した刑を執行すべく腕を上げ、
「駄目だよ、あなたには誰も殺させない」
王の前に立つ者が一人。
滅ぼす剣と守る剣、揺るがぬ邪悪と砕けぬ信念が対峙する。
滅ぼす剣と守る剣、揺るがぬ邪悪と砕けぬ信念が対峙する。
029:波瀾Ⅱ:ザ・マーセナリーズ | 投下順 | 029:波瀾Ⅳ:衛藤可奈美という少女 |
時系列順 | ||
十条姫和 | ||
アンク | ||
前坂隆二(リュージ) | ||
衛藤可奈美 | ||
花菱はるか | ||
横山千佳 | ||
小宮果穂 | ||
チェイス | ||
益子薫 | ||
ロロ・ヴィ・ブリタニア | ||
ジンガ | ||
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