◾︎
稲妻が水平に走ったかのような輝きに次いで、高出力レーザーを思わせる一閃が真横を薙ぐ。
過剰な負荷をかけられ、変形に次ぐ変形をしていた鋼の壁は、トドメとばかりに横一文字に焼き切れた。
赤熱化した断面からはどろりと液状の鉄が垂れ、もはや外敵の侵入を防ぐという役目などとっくに放棄している。
過剰な負荷をかけられ、変形に次ぐ変形をしていた鋼の壁は、トドメとばかりに横一文字に焼き切れた。
赤熱化した断面からはどろりと液状の鉄が垂れ、もはや外敵の侵入を防ぐという役目などとっくに放棄している。
「ここにはNPCしかいねぇと思ってたのによ、とんだ節穴だぜ」
切れ込みの入った壁の隙間を潜り抜ける黒い影。
軽々としながらも、緊張を滲ませる声色に秀吉は聞き覚えがある。
しかしその姿は以前相対したものと違い、血潮のように赤い複眼を携えた、漆黒の異形がそこにいた。
軽々としながらも、緊張を滲ませる声色に秀吉は聞き覚えがある。
しかしその姿は以前相対したものと違い、血潮のように赤い複眼を携えた、漆黒の異形がそこにいた。
「よぉ、随分ご機嫌じゃねぇか。俺も混ぜてくれよ」
英雄殺しの置き土産、仮面ライダーデザスト。
深い闇底を彷彿とさせる鎧装を身に纏った、自由の求道者。
檻を食い破った獰猛な獣に、名前はない。
けれど一様が抱いた印象は奇しくも──〝やみのせんし〟であった。
深い闇底を彷彿とさせる鎧装を身に纏った、自由の求道者。
檻を食い破った獰猛な獣に、名前はない。
けれど一様が抱いた印象は奇しくも──〝やみのせんし〟であった。
「また一匹、身の程を知らぬ塵が増えたか」
異端の乱入者に怯む者はいない。
各々が目を細め動向を探る中で、特にこの宇蟲王は動揺などよりも憤慨が先に出る。
並の人間ならば空気が歪むほどの威圧だけで、およそ立ち向かう気など削がれるはずだ。
一瞥すらやる価値もないと、再びトランクスへ刃を向けようとして。
各々が目を細め動向を探る中で、特にこの宇蟲王は動揺などよりも憤慨が先に出る。
並の人間ならば空気が歪むほどの威圧だけで、およそ立ち向かう気など削がれるはずだ。
一瞥すらやる価値もないと、再びトランクスへ刃を向けようとして。
「いや」
強制的に、宇蟲王の視線は変えられる。
「────〝小石〟か」
音もなく到達した最速の刺突。
いつかの刀使が見せた雫波紋突きに、さらに速度を重視したような剣技。
しっぷうづきの名に恥じぬ風刃を、苦もなく盾で受け流す。
微塵の躊躇いもなく先制攻撃を仕掛けたその男は、たしかに並の精神を逸脱していた。
いつかの刀使が見せた雫波紋突きに、さらに速度を重視したような剣技。
しっぷうづきの名に恥じぬ風刃を、苦もなく盾で受け流す。
微塵の躊躇いもなく先制攻撃を仕掛けたその男は、たしかに並の精神を逸脱していた。
しかし、この一撃で終わればただの自殺志願者。
コンマ数秒後にはがら空きの胴をオージャカリバーが両断するだろう。
コンマ数秒後にはがら空きの胴をオージャカリバーが両断するだろう。
「だろうよ」
たしかに以前のやみのせんしであれば、この時点で冒険の書が消えていた。
しかし秀吉という格上相手との戦闘を経験した今は、思考の幅がぐんと広がっている。
もとより弾かれることを想定していたのだから、当然繰り出した時点で次の手を用意していた。
しかし秀吉という格上相手との戦闘を経験した今は、思考の幅がぐんと広がっている。
もとより弾かれることを想定していたのだから、当然繰り出した時点で次の手を用意していた。
「ルーラ」
青い光がやみのせんしの身体を包み込む。
瞬間、宇蟲王の列撃は空振りを決めることとなった。
瞬間、宇蟲王の列撃は空振りを決めることとなった。
三人の視線が注がれたのは、雄英高校の正門。
融解した鉄の扉の前、まさに今しがた刺突を繰り出した場所に、やみのせんしは再び立っていた。
融解した鉄の扉の前、まさに今しがた刺突を繰り出した場所に、やみのせんしは再び立っていた。
「吹けば飛ぶような小石風情が……この俺をコケにするとはな」
「よく言うぜ、最初に舐めたのはアンタだろ」
「よく言うぜ、最初に舐めたのはアンタだろ」
宇蟲王の逆鱗に触れるのも当然。
この男は無礼にも、宇宙を統べる王相手に当て逃げを決めたのだ。
何度首を撥ねても釣り合わない愚弄を前に、しかし宇蟲王は取り乱さずに剣を構える。
問題はない、殺すべきゴミが一つ増えただけだ。
この男は無礼にも、宇宙を統べる王相手に当て逃げを決めたのだ。
何度首を撥ねても釣り合わない愚弄を前に、しかし宇蟲王は取り乱さずに剣を構える。
問題はない、殺すべきゴミが一つ増えただけだ。
「おのれ貴様、性懲りも無く我が覇道を邪魔しに来たか!」
「そう怒鳴んなよ、おっさん。あん時の続きはこの虫野郎を殺してからにしようぜ」
「一丁前に指図をするな、獣めが。我が軍門に下らぬならば、彼奴の次は貴様を討つのみよ」
「へ、上等」
「そう怒鳴んなよ、おっさん。あん時の続きはこの虫野郎を殺してからにしようぜ」
「一丁前に指図をするな、獣めが。我が軍門に下らぬならば、彼奴の次は貴様を討つのみよ」
「へ、上等」
存外に早い再会を果たしたやみのせんしと秀吉。
一時間ほど前に令呪を費やす死闘を繰り広げた仲とは露知らず、状況整理を求めるトランクスは口を挟んだ。
一時間ほど前に令呪を費やす死闘を繰り広げた仲とは露知らず、状況整理を求めるトランクスは口を挟んだ。
「お前は……味方なのか?」
「まさかな。ただ、アンタやおっさんよりあの虫野郎のが気に食わねぇってだけだ」
「まさかな。ただ、アンタやおっさんよりあの虫野郎のが気に食わねぇってだけだ」
トランクスは静かに、警告の意を込めて睨む。
この黒い戦士から感じられる気は、どちらかと言えば邪悪なものに近い。
秀吉の反応からしても、およそ信頼に足る人物ではないと推測できる。
だがそれで言えば、秀吉もまた善人とは言い難いのでこの場での思考は戦闘の邪魔になると切り捨てた。
この黒い戦士から感じられる気は、どちらかと言えば邪悪なものに近い。
秀吉の反応からしても、およそ信頼に足る人物ではないと推測できる。
だがそれで言えば、秀吉もまた善人とは言い難いのでこの場での思考は戦闘の邪魔になると切り捨てた。
「敵になるようなら容赦しない」
「ああ、気に留めとくよ」
「ああ、気に留めとくよ」
だから、告げる言葉はそれだけ。
宇蟲王に負けず劣らずのオーラを軽く受け流し、やみのせんしは無骨な剣を翳す。
鈍い光を帯びる切っ先は、気に食わない邪悪の王へ。
光輪の施された篭手も、燦然と輝く王剣も同じ敵へ向けられる。
宇蟲王に負けず劣らずのオーラを軽く受け流し、やみのせんしは無骨な剣を翳す。
鈍い光を帯びる切っ先は、気に食わない邪悪の王へ。
光輪の施された篭手も、燦然と輝く王剣も同じ敵へ向けられる。
「たった三匹程度で、この宇蟲王ギラを殺すだと?」
三対一、圧倒的な数的不利。
しかしこの宇蟲王からすれば、頭数をいくら揃えようとも不利という認識はない。
だって彼にとっては、自分以外の万物は必滅の運命にあるのだから。
しかしこの宇蟲王からすれば、頭数をいくら揃えようとも不利という認識はない。
だって彼にとっては、自分以外の万物は必滅の運命にあるのだから。
「笑えん冗談だな」
「冗談かどうか試してみろッ!」
「冗談かどうか試してみろッ!」
思想、信条、目的、矜恃、価値観、生き様。
全てが多種多様、決して混じり合わない三人の強者。
宇蟲王ギラを討つというたった一つの共通点の上で成り立つ利害関係は、あまりにギリギリの綱渡り。
踏み外せば、問答無用で死ぬ。
全てが多種多様、決して混じり合わない三人の強者。
宇蟲王ギラを討つというたった一つの共通点の上で成り立つ利害関係は、あまりにギリギリの綱渡り。
踏み外せば、問答無用で死ぬ。
蹂躙の時間は終わった。
さあ、始めよう。
生きるか死ぬか、殺すか殺されるか。
さあ、始めよう。
生きるか死ぬか、殺すか殺されるか。
生命誕生より受け継がれてきた、醜くも美しい聖戦を。
◾︎
戦いにおいて、数の力は強大だ。
現実基準で考えれば、武術の達人であっても素人が10人でも集まれば逃走を選ぶだろう。
いかに強力な個であろうと、数の前では無力なのが常識的な現実論。
現実基準で考えれば、武術の達人であっても素人が10人でも集まれば逃走を選ぶだろう。
いかに強力な個であろうと、数の前では無力なのが常識的な現実論。
トランクスと秀吉、二人相手の時点で戦いは拮抗していた。
そこにやみのせんしという戦力が加われば当然、宇蟲王は劣勢を強いられるはずだ。
そこにやみのせんしという戦力が加われば当然、宇蟲王は劣勢を強いられるはずだ。
「ちぃっ……!」
それなのに、戦況はどうやら真逆。
苦しい舌打ちをしたのは誰か。少なくともギラではない。
横を転がるやみのせんしに目もくれず、呼吸を整える秀吉の顔は鬼神のように険しかった。
苦しい舌打ちをしたのは誰か。少なくともギラではない。
横を転がるやみのせんしに目もくれず、呼吸を整える秀吉の顔は鬼神のように険しかった。
「一匹増えたとは思えん醜態だな。もっと芸を見せてみろ」
トランクスが宇蟲王へ斬り掛かる。
常人からすれば十分捉えることなど出来ぬ速攻も、秀吉から見れば激しく衰えている。
超サイヤ人化が出来ない状態で、2倍に強化された宇蟲王の相手をさせられているのだから、結果は明白だった。
常人からすれば十分捉えることなど出来ぬ速攻も、秀吉から見れば激しく衰えている。
超サイヤ人化が出来ない状態で、2倍に強化された宇蟲王の相手をさせられているのだから、結果は明白だった。
「ぐ……っ!」
「なんとも脆弱なものだ」
「なんとも脆弱なものだ」
剣戟を合わされ、押し潰される前にトランクスは後方へ離脱。
苦し紛れの気弾を片手で振り払い、瞬歩で間合いを詰める宇蟲王。
秀吉が横槍を入れるよりも速く、雷鳴のような横薙ぎが、剣越しにトランクスを吹き飛ばした。
苦し紛れの気弾を片手で振り払い、瞬歩で間合いを詰める宇蟲王。
秀吉が横槍を入れるよりも速く、雷鳴のような横薙ぎが、剣越しにトランクスを吹き飛ばした。
秀吉から距離を離す為、そしてトランクスに体勢を立て直す暇を与えない為、地面を陥没させながら駆ける宇蟲王。
しかし獲物へ到達する寸前、その両脚は突如金縛りにあったかのように縫い付けられた。
しかし獲物へ到達する寸前、その両脚は突如金縛りにあったかのように縫い付けられた。
「──煩わしい……っ!」
ノーリスクで2倍の恩恵を得ようなど、例え邪悪の王であろうと許されない。
界王神の下で修行を受けた訳でもなく、持って生まれた才覚のみで再現出来てしまった代償。
神経に棘が刺さったかのような鋭い激痛が、宇蟲王の快進を食い止めた。
界王神の下で修行を受けた訳でもなく、持って生まれた才覚のみで再現出来てしまった代償。
神経に棘が刺さったかのような鋭い激痛が、宇蟲王の快進を食い止めた。
「今だッ!!」
またとない逆転のチャンス。
それをみすみす逃すようであれば戦士ではない。
トランクスと秀吉は同時に肉薄し、王を討たんと唸りを上げる。
それをみすみす逃すようであれば戦士ではない。
トランクスと秀吉は同時に肉薄し、王を討たんと唸りを上げる。
しかし、この戦いに参加しているのは三人だけではない。
突如、秀吉とトランクスの第六感が危機を告げた。
反撃を中断し、両者共にその場から離脱する。
それとほぼ同時、稲妻を纏った一閃が彼らのいた空間を斬り裂いた。
反撃を中断し、両者共にその場から離脱する。
それとほぼ同時、稲妻を纏った一閃が彼らのいた空間を斬り裂いた。
「なっ……!?」
トランクスの顔が吃驚に染まる。
やみのせんしが寝返ったわけではない。宇蟲王の首を狙った軌道上に、たまたまトランクスたちがいただけ。
こいつを殺すのは俺だと、目に映るもの全て断つ勢いで放った斬撃はほんの僅かに首を引く動作で躱される。
逆に、破城槌じみた返しの蹴りがやみのせんしの胸甲を捉え、火花の明滅と共に吹き飛ばされた。
やみのせんしが寝返ったわけではない。宇蟲王の首を狙った軌道上に、たまたまトランクスたちがいただけ。
こいつを殺すのは俺だと、目に映るもの全て断つ勢いで放った斬撃はほんの僅かに首を引く動作で躱される。
逆に、破城槌じみた返しの蹴りがやみのせんしの胸甲を捉え、火花の明滅と共に吹き飛ばされた。
──劣勢の理由は、これだ。
トランクスに戦い方を合わせ宇蟲王討伐を第一に掲げる秀吉と違い、やみのせんしは我を貫く。
当然彼に共闘という意識はなく、戦い方を合わせてやる道理もない。
頭数が増えたように見えてその実、制御の出来ない飢えた獣が混じっただけ。
統率の取れない怪物を気にかけなければない分、むしろ悪化したと言っていい。
当然彼に共闘という意識はなく、戦い方を合わせてやる道理もない。
頭数が増えたように見えてその実、制御の出来ない飢えた獣が混じっただけ。
統率の取れない怪物を気にかけなければない分、むしろ悪化したと言っていい。
連携をする気がない。
というよりも、知らないのだ。
彼は常に、一人で戦い続けてきたのだから。
というよりも、知らないのだ。
彼は常に、一人で戦い続けてきたのだから。
「ハハッ、楽しいねぇ!」
孤独の裏返しを、狂喜で誤魔化す。
実力という面ではたしかにこの戦場に立つ資格があるというのに、誰からも歓迎されていない。
命を狙われている宇蟲王ですら、放っておいても自分の脅威にはならないと下したのか、歯牙にもかけずにいた。
実力という面ではたしかにこの戦場に立つ資格があるというのに、誰からも歓迎されていない。
命を狙われている宇蟲王ですら、放っておいても自分の脅威にはならないと下したのか、歯牙にもかけずにいた。
「それは貴様だけだ、獣」
「あ?」
「あ?」
だがここに一人、狼藉を見逃せない王がいた。
宇蟲王とトランクスの死闘をよそに、秀吉の五指が万力の如くやみのせんしの頭を掴む。
みしり、とマスクが嫌な音を立てる。
生身であれば頭蓋にヒビが入っていたかもしれないが、戦慄している暇はない。
宇蟲王とトランクスの死闘をよそに、秀吉の五指が万力の如くやみのせんしの頭を掴む。
みしり、とマスクが嫌な音を立てる。
生身であれば頭蓋にヒビが入っていたかもしれないが、戦慄している暇はない。
「貴様は邪魔だッ!」
「がっ……!?」
「がっ……!?」
無法者を地面へ叩き付け、即座にトランクスの援護へ向かおうとする秀吉。
しかしその無防備な背面へ、稲光が襲いかかった。
振り返ると同時に拳を振り、奇しくも宇蟲王と同じ名の呪文を食い破る。
覇王へ茶々を入れた無粋な獣は、ゆらりと幽鬼のように立ち上がった。
しかしその無防備な背面へ、稲光が襲いかかった。
振り返ると同時に拳を振り、奇しくも宇蟲王と同じ名の呪文を食い破る。
覇王へ茶々を入れた無粋な獣は、ゆらりと幽鬼のように立ち上がった。
「やってくれるじゃねぇか、先に決着を付けようか?」
「貴様……」
「貴様……」
やみのせんしが駆ける。
大振りな斬撃、躱してカウンターを叩き込むのは容易い。
けれど秀吉はそれをあえて手甲で受け止め、拳の代わりに言葉を投げた。
大振りな斬撃、躱してカウンターを叩き込むのは容易い。
けれど秀吉はそれをあえて手甲で受け止め、拳の代わりに言葉を投げた。
「貴様は自由の先に何を見る」
「はぁ? 何言って……」
「己以外の全てを滅し、孤高となった先で、貴様は何を目指す」
「はぁ? 何言って……」
「己以外の全てを滅し、孤高となった先で、貴様は何を目指す」
耳を貸すつもりなどなかった。
けれど、やみのせんしは一蹴出来ない。
下らないことを言うなと、刃を振れない。
一騎当千の覇王の眼差しは、有無を言わさぬほど強くて、深くて、どこか憐れみを孕んでいたから。
けれど、やみのせんしは一蹴出来ない。
下らないことを言うなと、刃を振れない。
一騎当千の覇王の眼差しは、有無を言わさぬほど強くて、深くて、どこか憐れみを孕んでいたから。
「貴様は自由などではない。己以外を拒絶し、殲滅することしか知らぬのであれば、意思を持たぬ絡繰と同じ」
否定しなければ。
いつものように、眼前の敵を狩らなければ。
いつものように、眼前の敵を狩らなければ。
正気に戻ったら、狂ってしまうから。
自分が何者か、どう在りたいのか。
そんなことを考えたら、きっと抜け出せなくなってしまうから。
自分が何者か、どう在りたいのか。
そんなことを考えたら、きっと抜け出せなくなってしまうから。
「なん、っ……てめ……」
だからこうして、やりたいことをやる。
独り善がりな自由を貫いて、自分を否定するものを否定しなければならない。
独り善がりな自由を貫いて、自分を否定するものを否定しなければならない。
なのにどうして身体が動かない。
どうして、考えようとしてしまう。
どうして、考えようとしてしまう。
「自由とやらの檻で死ね、獣め」
きっとそれは、目を見てしまったから。
真なる自由を持ち、果てなき目標を掲げた覇王の瞳に、射抜かれてしまったから。
我が道の究極を歩む豊臣秀吉から、否定されてしまったから。
ならば自分はなんなのかと、疑ってしまった。
真なる自由を持ち、果てなき目標を掲げた覇王の瞳に、射抜かれてしまったから。
我が道の究極を歩む豊臣秀吉から、否定されてしまったから。
ならば自分はなんなのかと、疑ってしまった。
「──っ、は……!」
振り払うような覇王の拳。
普段ならば対処も出来ただろうに、今のやみのせんしが躱せるはずもなく。
無抵抗で腹部を撃ち抜かれる形で、大きく吹き飛ばされた。
普段ならば対処も出来ただろうに、今のやみのせんしが躱せるはずもなく。
無抵抗で腹部を撃ち抜かれる形で、大きく吹き飛ばされた。
「トランクス!」
「っ……はい!」
「っ……はい!」
力なく瓦礫に埋もれるやみのせんしへ一瞥もくれず、トランクスの援護へ戻る。
疲弊した身体ではやはり分が悪いようで、全身には幾らか傷が増えていた。
砲弾を凌ぐ右ストレートで無理やり宇蟲王を引き剥がすも、剣の腹で受けられたせいでダメージはない。
不意打ちでこれなのだから、自分では決定打に欠けると思い知らされた秀吉は静かに口を開く。
疲弊した身体ではやはり分が悪いようで、全身には幾らか傷が増えていた。
砲弾を凌ぐ右ストレートで無理やり宇蟲王を引き剥がすも、剣の腹で受けられたせいでダメージはない。
不意打ちでこれなのだから、自分では決定打に欠けると思い知らされた秀吉は静かに口を開く。
「先の形態になるには如何ほど掛かる」
「……疲労が激しいので、最低でも1分以上は気を練らないと……」
「……疲労が激しいので、最低でも1分以上は気を練らないと……」
言いづらそうに顔を伏せるトランクスへ、秀吉は「そうか」と短く返す。
「ならばその時間、我が受け持とう」
「なっ……!? 1分かかるんですよ!?」
「なっ……!? 1分かかるんですよ!?」
耳を疑う。
秀吉の消耗具合はトランクスとさほど変わらない。
そんな状態で、素の実力でも遥かに凌ぐ宇蟲王を相手に単身で挑むなど自殺行為。
宇蟲王の力を持ってすれば、60秒もあれば人間一人殺す事など造作もない。
秀吉の消耗具合はトランクスとさほど変わらない。
そんな状態で、素の実力でも遥かに凌ぐ宇蟲王を相手に単身で挑むなど自殺行為。
宇蟲王の力を持ってすれば、60秒もあれば人間一人殺す事など造作もない。
「ならばここで全員死ぬか?」
「っ……!」
「っ……!」
しかし、この男が言えばただの無謀で終わらない。
先を見据えた将の目は、トランクスを黙らせる。
たしかに、 超サイヤ人になれないまま長期戦を続けていれば、宇蟲王より先に秀吉かトランクスがスタミナ切れを起こすだろう。
そうなれば全滅は必至。校舎内に残された参加者の蹂躙が始まるだけだ。
先を見据えた将の目は、トランクスを黙らせる。
たしかに、 超サイヤ人になれないまま長期戦を続けていれば、宇蟲王より先に秀吉かトランクスがスタミナ切れを起こすだろう。
そうなれば全滅は必至。校舎内に残された参加者の蹂躙が始まるだけだ。
「聞こえたぞ、石くれ」
瓦礫を踏みしめる音と共に、膨大な殺気が秀吉の肌を灼く。
暴風に見舞われてるかのような高純度の殺意を前に、怯むようであれば王は名乗れない。
無言で拳を構え、狂言ではないことをここに示す。
暴風に見舞われてるかのような高純度の殺意を前に、怯むようであれば王は名乗れない。
無言で拳を構え、狂言ではないことをここに示す。
「猿めが、この俺を前に単身で時間を稼ぐだと?」
「フン、そうやって無駄口を叩いていろ。知らぬ様ならば教えてやるが、貴様が下らん戯言を吐いている間も時間は過ぎているぞ?」
「ほざけ、10秒もあれば貴様程度塵に出来る」
「フン、そうやって無駄口を叩いていろ。知らぬ様ならば教えてやるが、貴様が下らん戯言を吐いている間も時間は過ぎているぞ?」
「ほざけ、10秒もあれば貴様程度塵に出来る」
一触即発、どころではない。
呼吸すら忘れる程重苦しい空気の中で、トランクスは静かに剣を納める。
覇王の意を汲み、精神統一に集中するために。
呼吸すら忘れる程重苦しい空気の中で、トランクスは静かに剣を納める。
覇王の意を汲み、精神統一に集中するために。
「秀吉さん、貴方は正直……善人とは思えない」
会話などしている場合ではない。
だからこれは、トランクスの一方的な独白。
決して長くは無い共闘の中で感じた、豊臣秀吉という漢への率直な印象。
だからこれは、トランクスの一方的な独白。
決して長くは無い共闘の中で感じた、豊臣秀吉という漢への率直な印象。
「けれど、死んで欲しくなんかない。危なくなったら、絶対に自分の命を優先してください」
それを聞いているのか、トランクスからは秀吉の表情が窺えないせいで分からない。
言葉を返すことも、身動ぎ一つもせず、宇蟲王と対峙する秀吉の背中を見て、トランクスは再び気を溜めることに専念した。
言葉を返すことも、身動ぎ一つもせず、宇蟲王と対峙する秀吉の背中を見て、トランクスは再び気を溜めることに専念した。
──トランクスの掲げる理想は甘い。
弱者を見捨てられず、全てを助けようとする彼の大志は、必ずや枷となるだろう。
だから秀吉は、トランクスを軍門に加えようとはしなかった。
だから秀吉は、トランクスを軍門に加えようとはしなかった。
強き者は力を持たぬ民のためにある、それは確かに正しい。
けれどトランクスのように自己犠牲を続けていれば、いずれ弱者だけが生き残る世界となってしまう。
そうなれば戦う者は居なくなり、いずれ衰退していくのが目に見えている。
けれどトランクスのように自己犠牲を続けていれば、いずれ弱者だけが生き残る世界となってしまう。
そうなれば戦う者は居なくなり、いずれ衰退していくのが目に見えている。
秀吉は、そんな〝先〟を見据えていた。
「精々油断するな宇蟲王。気を抜けばその首、討ち取られると思え」
「俺は油断などせん。見せるのは余裕だけだ」
「俺は油断などせん。見せるのは余裕だけだ」
先を見る目があるからこそ、秀吉は挑む。
王とは何かを履き違え、己以外の全てを滅さんとする宇蟲王へ。
これで己が朽ちるならばそれも運命と、常に今に拘らず先を見通している。
それこそが、豊臣秀吉を構築するカリスマ性だった。
王とは何かを履き違え、己以外の全てを滅さんとする宇蟲王へ。
これで己が朽ちるならばそれも運命と、常に今に拘らず先を見通している。
それこそが、豊臣秀吉を構築するカリスマ性だった。
◾︎
勝負と呼べるものではなかった。
怪人態となり、更に身体能力を2倍に引き上げた宇蟲王からすれば、消耗した秀吉など相手にならない。
そんな隔絶の差があるにも関わらず、今の宇蟲王には遊びがない。
怪人態となり、更に身体能力を2倍に引き上げた宇蟲王からすれば、消耗した秀吉など相手にならない。
そんな隔絶の差があるにも関わらず、今の宇蟲王には遊びがない。
初撃は辛うじて弾くも、二撃目は防御が間に合わず頑強な肩甲が破壊される。
振り直しの隙を見て肉薄し、剣のリーチを活かせない間合いまで密着。
独壇場である肉弾戦に持ち込めば単純な腕力で凌駕され、信じられぬ衝撃に血を吐いた。
振り直しの隙を見て肉薄し、剣のリーチを活かせない間合いまで密着。
独壇場である肉弾戦に持ち込めば単純な腕力で凌駕され、信じられぬ衝撃に血を吐いた。
これは、戦闘開始より8.3秒の間で起きた出来事。
60秒という目標まではまだ、果てしなく遠い。
全力の宇蟲王を単身で相手取るというのは、それほどまでに絶望的なのだ。
60秒という目標まではまだ、果てしなく遠い。
全力の宇蟲王を単身で相手取るというのは、それほどまでに絶望的なのだ。
「させん」
「……ッ!」
「……ッ!」
10秒に差し掛かる頃、秀吉は出し惜しみを捨て令呪の使用を決意する。
しかし宇蟲王はそれを読んでいたのか、左の手甲が赤く輝くよりも先に、朱殷の太刀が翻された。
しかし宇蟲王はそれを読んでいたのか、左の手甲が赤く輝くよりも先に、朱殷の太刀が翻された。
令呪を発動すれば確かに、時間稼ぎという目的は果たせるだろう。
ディアッカがそうであったように、追い詰められた人間が令呪を使用すれば予期せぬ力を発揮する。
ならば宇蟲王がそれをみすみす許すかと言われれば、断じて否。
ディアッカがそうであったように、追い詰められた人間が令呪を使用すれば予期せぬ力を発揮する。
ならば宇蟲王がそれをみすみす許すかと言われれば、断じて否。
「──ちィ……っ!」
終焉の刃が弧を描く。
隆起した筋骨を綿のように斬り裂いて、秀吉の左肘から先が宙を舞った。
切り札諸共に持ち主から離れたそれは、もはやクソの役にも立たない。
吹き出す覇王の血を顔面に浴びて、宇蟲王は嘲笑う。
隆起した筋骨を綿のように斬り裂いて、秀吉の左肘から先が宙を舞った。
切り札諸共に持ち主から離れたそれは、もはやクソの役にも立たない。
吹き出す覇王の血を顔面に浴びて、宇蟲王は嘲笑う。
「終わりだな」
そう、終わり。
どれだけ威勢よく吠えても、実力差は埋まらない。
秀吉が弱いのではなく、宇蟲王の存在が規格外。
この怪物を相手にこれほど持ち堪えた時点で、十分賞賛に値するだろう。
どれだけ威勢よく吠えても、実力差は埋まらない。
秀吉が弱いのではなく、宇蟲王の存在が規格外。
この怪物を相手にこれほど持ち堪えた時点で、十分賞賛に値するだろう。
しかし、そんなものに価値はない。
己が目的を果たせぬなら、犬死にと変わらない。
豊臣秀吉に限って、そんなことが許されるはずがない。
己が目的を果たせぬなら、犬死にと変わらない。
豊臣秀吉に限って、そんなことが許されるはずがない。
「────オオオオォォォォォッ!!」
痛みや恐怖に顔を引き攣らせるようなら、覇王は目指せない。
片腕が無くなっただけだ、もう片方の腕がある。
まるで元よりくれてやるつもりだったかのように、気後れひとつせずに拳が振るわれた。
片腕が無くなっただけだ、もう片方の腕がある。
まるで元よりくれてやるつもりだったかのように、気後れひとつせずに拳が振るわれた。
「ほう」
さしもの宇蟲王も感嘆する。
しかし無情にも、それだけ。
片腕を失った直後に放たれた悪足掻きは、ろくに力も籠っていない。
本来の威力からかけ離れたそれは、宇蟲王の頬へ到達し、身動ぎ一つさせずに終わる。
しかし無情にも、それだけ。
片腕を失った直後に放たれた悪足掻きは、ろくに力も籠っていない。
本来の威力からかけ離れたそれは、宇蟲王の頬へ到達し、身動ぎ一つさせずに終わる。
「醜いな、赤猿」
宇蟲王の勝利宣言。
諦めて楽になるという選択肢を持たない秀吉は、懸命に拳を振り直す。
避けることも、防ぐこともせず。その拳一発分、宇蟲王は慢心に時間を費やした。
諦めて楽になるという選択肢を持たない秀吉は、懸命に拳を振り直す。
避けることも、防ぐこともせず。その拳一発分、宇蟲王は慢心に時間を費やした。
秀吉の心ごと完膚なきまでに目論見を破綻させてやるために。
自らの前で王を名乗った不届きを、償わせるために。
さてこいつはどう殺してやろうかと、猛る咆哮を聴きながら宇蟲王は熟考した。
自らの前で王を名乗った不届きを、償わせるために。
さてこいつはどう殺してやろうかと、猛る咆哮を聴きながら宇蟲王は熟考した。
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