◇◆◇◆◇
雄英高校上空。メタフィールド内。午後17時5分。
その空間の主である益子薫は、目の前の光景に何度目か分からない『身の程を知る』という経験を味わっていた。
「ジェット機かよアイツら。」
益子薫はファフナーに乗るか、ウルトラマンに変身しなければ飛行できない。
にもかかわらず生身でそれを成し得るどころか、令呪を使わずとも薫以上の速度でトランクスと宇蟲王は空を駆ける。
強く意識してかろうじて目で追える速さ。剣がぶつかる金属音も、拳をぶつけ合う音も届く頃には2人は別の場所に飛んでいる。
気を抜けばその戦いは、薫であっても光の帯のぶつかり合いとしか捉えられない。
にもかかわらず生身でそれを成し得るどころか、令呪を使わずとも薫以上の速度でトランクスと宇蟲王は空を駆ける。
強く意識してかろうじて目で追える速さ。剣がぶつかる金属音も、拳をぶつけ合う音も届く頃には2人は別の場所に飛んでいる。
気を抜けばその戦いは、薫であっても光の帯のぶつかり合いとしか捉えられない。
だが、益子薫のプライドを最も刺激したのは、そんな超人的な光景ではない。
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そのような戦いを繰り広げる両者が――薫にさえ実力が測れるほどに弱くなっていると。分かってしまうからだ。
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そのような戦いを繰り広げる両者が――薫にさえ実力が測れるほどに弱くなっていると。分かってしまうからだ。
火山や台風に勝てなくて自信を無くす人間はいない。全力のサイヤ人と宇蟲王はまさにそれらと並べられる天災が如き強さであった。それ以外の何も分からないほど、圧倒的な格の違いがあった。
今の両者にそれはない。戦いにさえならない天災ではなく、圧倒的に強い敵を前にした時のような震え……タギツヒメと相対した時に近い感覚が薫に走っている。
その実力を推し量れることこそが、益子薫が一定の実力者である証左ではあるのだが。今の薫にとってそのような評価は何の価値もないものだ。
その実力を推し量れることこそが、益子薫が一定の実力者である証左ではあるのだが。今の薫にとってそのような評価は何の価値もないものだ。
自分はなぜあの場に居ない。
自分が強ければ、トランクスと肩を並べて戦えていれば。宇蟲王の狼藉を許すことだってなかった。
宮藤芳佳も、衛藤可奈美も、ロロ・ヴィ・ブリタニアも、ディアッカ・エルスマンも。死なせることはなかった。
無力と後悔。どれだけ先へ進もうとついて回る心の穴が、益子薫に満足することを許さない。
彼女に出来ることはメタフィールドを張り続けることだけ。フェンス越しに試合を見る観客のように佇むことだけ。
自分が強ければ、トランクスと肩を並べて戦えていれば。宇蟲王の狼藉を許すことだってなかった。
宮藤芳佳も、衛藤可奈美も、ロロ・ヴィ・ブリタニアも、ディアッカ・エルスマンも。死なせることはなかった。
無力と後悔。どれだけ先へ進もうとついて回る心の穴が、益子薫に満足することを許さない。
彼女に出来ることはメタフィールドを張り続けることだけ。フェンス越しに試合を見る観客のように佇むことだけ。
そんな傍観者のような考えが頭をよぎる――その最中。
「はあああああああああ!!!!」
「うおおおおおおおおお!!!!」
「うおおおおおおおおお!!!!」
紅く迸る光と黄金色の強い気配が、益子薫の身を震わせた。
両者が令呪を使ったのだと、益子薫は理解する。
両者が令呪を使ったのだと、益子薫は理解する。
互いに大きく消耗している。互いに己が殺し合いの渦中にいると理解している。
それでもこの希望/絶望は、ここで断たねばならない。そんな矜持が、意地が、闘志が、プライドが。2人の戦士の限界を超えて突き動かす。
それでもこの希望/絶望は、ここで断たねばならない。そんな矜持が、意地が、闘志が、プライドが。2人の戦士の限界を超えて突き動かす。
それは決して、己の強さに奢った者の道ではない。
確実に勝てるという確証があってのことではない。
自分がそうすべきだと信じたから、男たちは痣を輝かせる。
確実に勝てるという確証があってのことではない。
自分がそうすべきだと信じたから、男たちは痣を輝かせる。
その一手が、光を得た少女には、英雄(ヒーロー)に憧れた少女には、何よりも眩しく映っていた。
「……何を弱気になってんだ。俺は。」
ここは戦場だ。ここは殺し合いだ。
頬を両の手で強くはたき、益子薫はまっすぐ戦場を見つめなおす。
頬を両の手で強くはたき、益子薫はまっすぐ戦場を見つめなおす。
青から黄金に変わった戦士。益子薫の知る参加者の中で間違いなく最強の一角であり、死んだと思ってた男。
迸る紅をより一層強めた王。益子薫の知る参加者の中で間違いなく最悪の一席であり、最大の怨敵である男。
迸る紅をより一層強めた王。益子薫の知る参加者の中で間違いなく最悪の一席であり、最大の怨敵である男。
「俺にも何か……できることがあるかもしれねえだろ!」
その二人の戦いに何の邪魔も入らないように。その二人の戦いが何一つ巻き込むことの無いように。
紅い荒野とオーロラが揺らめく異空間の中、二つの光から目を放さない。
紅い荒野とオーロラが揺らめく異空間の中、二つの光から目を放さない。
あまりに弱く。淡い光しかない己にも、ここにいる意味があるのだと。
そんなか細い闘志を絶やすことなく、最高峰の戦いをただ一人少女は見届けていた。
そんなか細い闘志を絶やすことなく、最高峰の戦いをただ一人少女は見届けていた。
◇
両者が令呪を起動するまで、たっぷり3秒の差があった。
その差異を生んだのは、目の前の敵に対する認識の差に他ならない。
その差異を生んだのは、目の前の敵に対する認識の差に他ならない。
トランクスには『令呪を温存する』という選択肢がある。
ノワルにアルジュナ・オルタ。幾度となく世界を滅ぼせる存在と死闘を繰り広げ、この会場でも自分と同格以上の脅威を知るトランクスは、ほんのわずかに『ギラとの戦いの後』を考え。
その3秒がイニシアチブを明け渡すという致命的な隙を招いた。
ノワルにアルジュナ・オルタ。幾度となく世界を滅ぼせる存在と死闘を繰り広げ、この会場でも自分と同格以上の脅威を知るトランクスは、ほんのわずかに『ギラとの戦いの後』を考え。
その3秒がイニシアチブを明け渡すという致命的な隙を招いた。
「俺を前に気が緩んだか!トランクス!!」
憤懣を込めた叫びとともに、赤色の死を纏った刃が振り下ろされる。
とっさにサタンサーベルで防ぐものの、がら空きになった脇腹に宇蟲王の横蹴りが叩き込まれる。
メキョメキョと嫌な音がメタフィールドに響き、トランクスは痛みに歯を食いしばった。
とっさにサタンサーベルで防ぐものの、がら空きになった脇腹に宇蟲王の横蹴りが叩き込まれる。
メキョメキョと嫌な音がメタフィールドに響き、トランクスは痛みに歯を食いしばった。
「ぐっ……」
オーロラが照らすメタフィールドの空を吹き飛ばされながら、遅れてトランクスは令呪を起動する。
全身に迸らせた気がその体を黄金に染める。待ち望んだ光景に宇蟲王は、イーヴィルキングの仮面の奥で満足そうな声を漏らした。
全身に迸らせた気がその体を黄金に染める。待ち望んだ光景に宇蟲王は、イーヴィルキングの仮面の奥で満足そうな声を漏らした。
「そうだ、その姿だ!
黄金の力を持つ貴様を倒さねば、真に打ち勝ったとは言えん!」
「大盤振る舞いじゃないか宇蟲王!!」
「赤き覇王や闇の戦士も俺の敵だが、最大限警戒すべきは貴様だ。
この俺と1人で渡り合うものなど初めてのことだからな!!確実にここで屠らねばならん!!!」
黄金の力を持つ貴様を倒さねば、真に打ち勝ったとは言えん!」
「大盤振る舞いじゃないか宇蟲王!!」
「赤き覇王や闇の戦士も俺の敵だが、最大限警戒すべきは貴様だ。
この俺と1人で渡り合うものなど初めてのことだからな!!確実にここで屠らねばならん!!!」
敵に対する殺意。邪悪の王としての傲慢さ。
その全てが乗った言葉には、ほんのわずかに高揚の色が混ざっていた。
トランクスはその色を知っている。しいて言えばそれは過去に出会った師の父に似ていた。
他者を蹂躙する魔王から微かに響くそれは、戦いそのものを楽しむ戦士の声だ。
その全てが乗った言葉には、ほんのわずかに高揚の色が混ざっていた。
トランクスはその色を知っている。しいて言えばそれは過去に出会った師の父に似ていた。
他者を蹂躙する魔王から微かに響くそれは、戦いそのものを楽しむ戦士の声だ。
「……そうか。お前には、その力をぶつけられる相手がいなかったんだな。」
ここに来て初めてトランクスは理解する。
宇蟲王という男に、対等の存在は1人としてなかった。
雷鳴の勇者の手違いで神となった男は、元凶たる宇蟲王ダグデド・ドゥジャルダンでさえ一刀に切り捨て、五大国どころか星そのものの上に君臨していた。
宇蟲王という男に、対等の存在は1人としてなかった。
雷鳴の勇者の手違いで神となった男は、元凶たる宇蟲王ダグデド・ドゥジャルダンでさえ一刀に切り捨て、五大国どころか星そのものの上に君臨していた。
王様戦隊にならなかった彼に仲間はいない。
星を統べる王となった彼に敵はいない。
殺し合いの中においても、男は他の4凶と一度も相対していない。
星を統べる王となった彼に敵はいない。
殺し合いの中においても、男は他の4凶と一度も相対していない。
数多の雑魚に辟易していた宇蟲王ギラにとって、トランクスだけが対等な戦いをこなせる『敵』を超えた『好敵手』であり。
己が使命を再認識する際も、強き竜の者や幾何かの見どころの合った石くれではなく、迷うことなくこの英雄を選んでいた。
己が使命を再認識する際も、強き竜の者や幾何かの見どころの合った石くれではなく、迷うことなくこの英雄を選んでいた。
その事実に、トランクスが思うところが無いわけではない。
同情にも似た寂寥感がわずかに胸に染みる。
自分にとっての孫悟飯やマイのような存在がいれば、この邪悪の王には違う未来もあったのかもしれない。
同情にも似た寂寥感がわずかに胸に染みる。
自分にとっての孫悟飯やマイのような存在がいれば、この邪悪の王には違う未来もあったのかもしれない。
「だとしても!!」
――そんな問答でどうにかなる段階は、とっくの昔に過ぎ去っている。
頭上に刃を構え赤色のオーラを纏わせた宇蟲王を前に、トランクスはシャドーセイバーを鞘に納める。
だがそれは降伏でも非戦の意思でもない。
両の掌に迸る黄金の光がその何よりの証明。宇蟲王の宙をも切り裂きかねない一閃と同時に、トランクスの両の手が額の上で重なり合った。
だがそれは降伏でも非戦の意思でもない。
両の掌に迸る黄金の光がその何よりの証明。宇蟲王の宙をも切り裂きかねない一閃と同時に、トランクスの両の手が額の上で重なり合った。
『ロードフィニッシュ!』
「魔閃光!!!」
「魔閃光!!!」
赤と黄金。二つの光の衝突で、メタフィールドが大きく揺れた。
仮に外の空間で同じことが起きていれば、既に損傷の大きい雄英校舎は破壊していたかもしれない。
仮に外の空間で同じことが起きていれば、既に損傷の大きい雄英校舎は破壊していたかもしれない。
「……すげえ。」
メタフィールドの端からその光景を前にして、薫は無意識に口に出していた。
自身が八幡力という瞬間的な筋力の増強を得手としているから分かる。ウルトラマンネクサスの光の力を宿し光線を撃ちだせる体になったから分かる。
2人は令呪が切れる後のことを考えていない。
目の前の相手をこの瞬間に殺すのだという、清々しささえ感じる殺意と闘志に満ちている。
自身が八幡力という瞬間的な筋力の増強を得手としているから分かる。ウルトラマンネクサスの光の力を宿し光線を撃ちだせる体になったから分かる。
2人は令呪が切れる後のことを考えていない。
目の前の相手をこの瞬間に殺すのだという、清々しささえ感じる殺意と闘志に満ちている。
今の一撃は間違いなく、後のことを考えていない最大規模の攻撃同士のぶつかり合い。
だというのに次の瞬間、1秒の隙も無く2人の戦士は動いていた。
だというのに次の瞬間、1秒の隙も無く2人の戦士は動いていた。
星がぶつかり合ったかのような爆発、メタフィールドの荒野の粉塵を大きく巻き上げ飛び交う2人の視界が遮られる中。先に動いたのはトランクスだ。
いつの間にか再度シャドーセイバーを抜き、瞬間移動と見間違えそうな速さで宇蟲王の背後に回り込む。
その差を生んだのは、気の扱いに他ならない。
付け焼刃の界王拳でその身体能力を底上げしてた宇蟲王は、体に気を巡らせ迸らせるまでの事の起こりが、熟練の戦士たるトランクスに比べ明確に劣る。
いつの間にか再度シャドーセイバーを抜き、瞬間移動と見間違えそうな速さで宇蟲王の背後に回り込む。
その差を生んだのは、気の扱いに他ならない。
付け焼刃の界王拳でその身体能力を底上げしてた宇蟲王は、体に気を巡らせ迸らせるまでの事の起こりが、熟練の戦士たるトランクスに比べ明確に劣る。
「もらった!!」
「まだだ俺は……俺は宇蟲王ギラ!万象一切を我が手に収める王の中の王!!
この程度で終わりは……終われるものかぁ!!!!」
「まだだ俺は……俺は宇蟲王ギラ!万象一切を我が手に収める王の中の王!!
この程度で終わりは……終われるものかぁ!!!!」
その陰りを、トランクスは見逃さない。
首筋にかかる刃に、とっさに振り返り受け止めるが、界王拳による肉体強化が切れたタイミングではトランクスの刃を受けきれない。
腕の骨が嫌な音を立て、軋むと同時にその体はメタフィールドの荒野へと叩きつけられた。
首筋にかかる刃に、とっさに振り返り受け止めるが、界王拳による肉体強化が切れたタイミングではトランクスの刃を受けきれない。
腕の骨が嫌な音を立て、軋むと同時にその体はメタフィールドの荒野へと叩きつけられた。
「ぐっ……があっ!!」
邪悪の王にあるまじき苦悶の声が、己の口から出たものだと何故だか自然に受け入れていた。
落下のダメージそのものは大したことはない。命の伊吹の欠片もない砂でその身を汚すことは不快であれ今はどうでもいい。
閉じた空間の冷たい風が頬に染みる。空間の主たる塵はなおも敵意と闘志を揺らがずにこの戦局を見つめていた。
落下のダメージそのものは大したことはない。命の伊吹の欠片もない砂でその身を汚すことは不快であれ今はどうでもいい。
閉じた空間の冷たい風が頬に染みる。空間の主たる塵はなおも敵意と闘志を揺らがずにこの戦局を見つめていた。
それさえも、もはやどうでもいい。
オージャカリバーを構え、邪悪の王は空を見る。
オージャカリバーを構え、邪悪の王は空を見る。
「はあああああああああああああ!!!!」
「否!俺は邪悪の王!!
英雄も希望もその悉くをねじ伏せ、踏みにじり、星を統べるただ一つの絶対たる力なれば!!」
英雄も希望もその悉くをねじ伏せ、踏みにじり、星を統べるただ一つの絶対たる力なれば!!」
瞬間、宇蟲王の体から、黄金の光が迸る。
トランクスのそれよりさらに烈しく。あらゆる光をかき消すほどに、凶悪な輝きが大地に満ちた。
トランクスのそれよりさらに烈しく。あらゆる光をかき消すほどに、凶悪な輝きが大地に満ちた。
その中心にいる王に、トランクスは目を丸くした。
「これは……」
「貴様の扱う闘気の放出……俺に出来ないと言った覚えはない!」
「貴様の扱う闘気の放出……俺に出来ないと言った覚えはない!」
赤色に染まっていたイーヴィルキングの装甲が、錆を落としたかのように黄金に変わっている。
トランクスの語彙に則れば、まさしくスーパーサイヤ人。
あるいはここにはいない『邪悪の王』に言わせれば、始祖光来とも言うべき戴冠の輝き。
トランクスの語彙に則れば、まさしくスーパーサイヤ人。
あるいはここにはいない『邪悪の王』に言わせれば、始祖光来とも言うべき戴冠の輝き。
元々疑似界王拳は、己を見つめなおした宇蟲王が『黄金の変身は消耗が激しく効率が悪い』ということで生み出した赤色の変身だ。
即ち黄金の変身はやらなかっただけであり、できないわけではない。
同時にその変身は、この場で宇蟲王ギラという存在を余さず出し尽くす覚悟を示すことを意味していた。
即ち黄金の変身はやらなかっただけであり、できないわけではない。
同時にその変身は、この場で宇蟲王ギラという存在を余さず出し尽くす覚悟を示すことを意味していた。
「……これが最後か。」
「そうだ、これが最後だ。」
「そうだ、これが最後だ。」
腰を落とし、斬り上げる体勢を宇蟲王は取る。
地に落ちた蟲の王が、宙より来た戦闘者の末裔に刃を向ける。
地に落ちた蟲の王が、宙より来た戦闘者の末裔に刃を向ける。
己が全霊を乗せた宇蟲王の姿は長くはもたないと、卓越した戦闘者であるトランクスにははっきりとわかった。
令呪の効果が切れるより速く、次の攻防を終えると同時に宇蟲王は戦闘不能だ。
つまり最善手は戦わないこと。宇蟲王の攻撃を躱し時間を稼ぎ、全ての力を出し切った宇蟲王を斬ればそれでいい。
初めて出会った時の戦いで今の状況にまでもつれ込んでいれば、トランクスは迷わず時間を稼ぐ手を選んだだろう。
令呪の効果が切れるより速く、次の攻防を終えると同時に宇蟲王は戦闘不能だ。
つまり最善手は戦わないこと。宇蟲王の攻撃を躱し時間を稼ぎ、全ての力を出し切った宇蟲王を斬ればそれでいい。
初めて出会った時の戦いで今の状況にまでもつれ込んでいれば、トランクスは迷わず時間を稼ぐ手を選んだだろう。
「ならば……行くぞ宇蟲王!!!!」
だがそう呟くや否や……トランクスは一直線に宇蟲王へと距離を詰めた。
スーパーサイヤ人としての全霊の気。
轟雷を人の形に押しとどめたかのような光と熱が、トランクスの全身から吹き荒れていた。
スーパーサイヤ人としての全霊の気。
轟雷を人の形に押しとどめたかのような光と熱が、トランクスの全身から吹き荒れていた。
その姿は流星のようだったと、益子薫は後に語る。
己と対等な強者との戦いを最後の最後まで楽しみたいという願いを叶える流れ星。
己と対等な強者との戦いを最後の最後まで楽しみたいという願いを叶える流れ星。
「来い!トランクス!!」
迫りくる星(きぼう)にほんのわずかに笑みを浮かべ、宇蟲王は構えを変える。
広域を薙ぎ払う剣ではなく、オージャカリバーを持つ右腕を深く落とした、一点を刺し貫く構え。
刺突剣(レイピア)というより槍(ランス)を扱うような構えが、降下するトランクスへと突きつけられる。
広域を薙ぎ払う剣ではなく、オージャカリバーを持つ右腕を深く落とした、一点を刺し貫く構え。
刺突剣(レイピア)というより槍(ランス)を扱うような構えが、降下するトランクスへと突きつけられる。
振り下ろされる刃。刺し貫く刃。
刃が交差し、2人の英雄が地に降り立つ。
何かが砕けるような音が世界に響いた。見上げるとメタフィールドの果ての無い空が割れていた。
黄金に染まった、限界を超えた宇蟲王の刺突。その一撃がメタフィールドさえも砕き。その合間から差し込む陽光が、青と橙が混ざり合う空が、2人の戦士を照らしていた。
刃が交差し、2人の英雄が地に降り立つ。
何かが砕けるような音が世界に響いた。見上げるとメタフィールドの果ての無い空が割れていた。
黄金に染まった、限界を超えた宇蟲王の刺突。その一撃がメタフィールドさえも砕き。その合間から差し込む陽光が、青と橙が混ざり合う空が、2人の戦士を照らしていた。
水が粟立つような音と共に、男が膝をつく。宇蟲王ギラだ。
イーヴィルキングの姿には深々と傷が刻まれ、その変身が解けていく。
邪悪の王は口からどろりとした血を零し、己を討った希望をその瞳に移す。希望の脇腹は深々と抉れ、その服を真っ赤に染めていた。
イーヴィルキングの姿には深々と傷が刻まれ、その変身が解けていく。
邪悪の王は口からどろりとした血を零し、己を討った希望をその瞳に移す。希望の脇腹は深々と抉れ、その服を真っ赤に染めていた。
「討ち……漏らしたか。」
「あれ程の気を練ったのは初めてだろう。
なまじ大きい出力だと扱いも難しい。」
「そう……か。そう……いうもの……か。
ならば次……は、かなら……ず。」
「あれ程の気を練ったのは初めてだろう。
なまじ大きい出力だと扱いも難しい。」
「そう……か。そう……いうもの……か。
ならば次……は、かなら……ず。」
そこから先を、この男が紡ぐことはなかった。
ばたりと男は倒れ、邪悪の王はこのまま滅びる。
ばたりと男は倒れ、邪悪の王はこのまま滅びる。
……はずだった。
「あーあ。『俺様』やられてるじゃん。」
嘲笑。憐憫。軽薄。害悪。
宇蟲王の悪しき部分を煮詰めたような声が、宇蟲王の体の中から響く。
傷口がごぽごぽと泡だったかと思えば、そこから黒と橙のゼリーのようなものが一気に溢れ出る。
大鍋を丸ごと満たすだろうサイズの『それ』が、ぐにょぐにょとその身を形作ると、巨大な橙色のクワガタムシへと姿を変えた。
宇蟲王の悪しき部分を煮詰めたような声が、宇蟲王の体の中から響く。
傷口がごぽごぽと泡だったかと思えば、そこから黒と橙のゼリーのようなものが一気に溢れ出る。
大鍋を丸ごと満たすだろうサイズの『それ』が、ぐにょぐにょとその身を形作ると、巨大な橙色のクワガタムシへと姿を変えた。
「ようやく出てこれた。ずっと抑え込みやがって俺様よぉ!!」
「……なんだ、お前は!」
「なんて言えばいいのか。名前がねえもんでな。
ただはっきり言えることとしたら……俺様も『宇蟲王』だ。」
「……は?」
「……なんだ、お前は!」
「なんて言えばいいのか。名前がねえもんでな。
ただはっきり言えることとしたら……俺様も『宇蟲王』だ。」
「……は?」
言葉の意味が理解できず、驚愕と共に目を見開いた。
「よくぞ宇蟲王ギラを倒した!そしてよくも『宇蟲王』に土をつけてくれやがったなこのクソヤロウ!!
『宇蟲王』に敗北はあり得ない。『宇蟲王』は王の中の王!チキューの支配者にして暴力にて世界を統べる邪悪の王!!!
それが負けちまったら何の意味も価値もねえ!!!」
「なっ……。」
「あー、分かってる。宇蟲王ギラは何人も人を殺してるし、お前との戦いを望んだのも宇蟲王ギラだ。
だがそれはテメエの足元でくたばってる負けちまった奴の理屈だろ!!俺は認めねえ!!!『宇蟲王』の敗北なんざ許されねえ!!」
『宇蟲王』に敗北はあり得ない。『宇蟲王』は王の中の王!チキューの支配者にして暴力にて世界を統べる邪悪の王!!!
それが負けちまったら何の意味も価値もねえ!!!」
「なっ……。」
「あー、分かってる。宇蟲王ギラは何人も人を殺してるし、お前との戦いを望んだのも宇蟲王ギラだ。
だがそれはテメエの足元でくたばってる負けちまった奴の理屈だろ!!俺は認めねえ!!!『宇蟲王』の敗北なんざ許されねえ!!」
宇蟲王ギラのような悠然とした余裕もない。張りつめるような覇気もない。
ただ甲虫の姿から放つ悪意だけが、『それ』が宇蟲王であるとトランクスに信じさせていた。
ただ甲虫の姿から放つ悪意だけが、『それ』が宇蟲王であるとトランクスに信じさせていた。
「ふざ……けるな。
お前があの男と同じだというのなら……ここで必ず……」
お前があの男と同じだというのなら……ここで必ず……」
既にトランクスは令呪が解けている。スーパーサイヤ人でなくなったどころか、戦える状態ではなかった。
肩の傷、あばらの損傷。抉れた脇腹からぼたぼたと血が滴り続け、間違いなく数十分は戦えない。
肩の傷、あばらの損傷。抉れた脇腹からぼたぼたと血が滴り続け、間違いなく数十分は戦えない。
宇蟲王でさえ認めた勇者が、震えた手で刃を向ける。
宇蟲王ギラであったなら、塵の足掻きと嘲笑いつつも真正面から受け止めただろう。
宇蟲王ギラであったなら、塵の足掻きと嘲笑いつつも真正面から受け止めただろう。
だが『それ』にとってトランクスは、『好敵手』ではなく『敵』でしかない。
宇蟲王を殺してのけた、最大の障害にして一秒でも早く消すべき汚点でしかない。
宇蟲王を殺してのけた、最大の障害にして一秒でも早く消すべき汚点でしかない。
「五月蠅え。死ね。」
故に巨大な顎をいっぱいに広げ、満身創痍の男の肉を千切り喰らおうと動き出す。
その動きに、今のトランクスは反応できない。
目では追えるが体がついていかない、肉を千切ろうと迫る刃を受けるも防ぐも出来ず。
その動きに、今のトランクスは反応できない。
目では追えるが体がついていかない、肉を千切ろうと迫る刃を受けるも防ぐも出来ず。
「よく分かんねえけどよ。テメエみてえな奴は『仕事柄』滅茶苦茶見てんだわ。」
その刃を防いだのは、白銀と赤の戦士の腕。
戦士――益子薫は、『それ』の顎を蹴り飛ばすと、鬱憤を全て吐き出すように『それ』を指さした。
戦士――益子薫は、『それ』の顎を蹴り飛ばすと、鬱憤を全て吐き出すように『それ』を指さした。
「選手交代だ。
アイツは俺が『祓う』。」
アイツは俺が『祓う』。」
◇◆◇
『それ』はいうなれば、偶然生み出された存在だった。
宇蟲王ギラを掠めた、黒見セリカの『信頼の銃弾』。
マジアベーゼの怪人精製能力を黒見セリカに適合する形で変質した『それ』を、宇蟲王ギラは洗脳の類と考えていたが、それは違う。
宇蟲王ギラを掠めた、黒見セリカの『信頼の銃弾』。
マジアベーゼの怪人精製能力を黒見セリカに適合する形で変質した『それ』を、宇蟲王ギラは洗脳の類と考えていたが、それは違う。
その力は、物質を元に元々新たな命を生み出す力。
黒見セリカも宇蟲王ギラも知ることなく生まれた新たな命たる『それ』の母体は、彼が幼少の頃に取り込んだシュゴッドソウルに作用していた。
守護神の魂と宇蟲王ダグデドの遺伝子情報が『信頼の銃弾』により変質した者。それが宇蟲王ギラより生まれし『それ』の正体だ。
黒見セリカも宇蟲王ギラも知ることなく生まれた新たな命たる『それ』の母体は、彼が幼少の頃に取り込んだシュゴッドソウルに作用していた。
守護神の魂と宇蟲王ダグデドの遺伝子情報が『信頼の銃弾』により変質した者。それが宇蟲王ギラより生まれし『それ』の正体だ。
『それ』は宙を統べる王の敗北を認めない、最後の足掻き。
『それ』は戦士ですらない男を変質させた、今は無き愚王たちの末路の果て。
『それ』は戦士ですらない男を変質させた、今は無き愚王たちの末路の果て。
「よく分かんねえけどよ。テメエみてえな奴は『仕事柄』滅茶苦茶見てんだわ。」
益子薫は当然、そんな事情の全てを知らない。
その上で彼女は、彼女なりの経験と感性から、ただ1つの結論を下した。
その上で彼女は、彼女なりの経験と感性から、ただ1つの結論を下した。
「選手交代だ。
アイツは俺が『祓う』。」
アイツは俺が『祓う』。」
こいつは、荒魂であると。
それも自身の相棒のような善の者ではなく、祓わねばならない悪しき魂であるのだと。
それも自身の相棒のような善の者ではなく、祓わねばならない悪しき魂であるのだと。
◇
宇蟲王ギラを殴った時、強大な荒魂のようだと思った。
重く、硬く、その中に膨大な何かがギチギチに詰まっているような。
そんな感覚が間違いじゃなかったことを、益子薫はこのタイミングで確信する。
重く、硬く、その中に膨大な何かがギチギチに詰まっているような。
そんな感覚が間違いじゃなかったことを、益子薫はこのタイミングで確信する。
「『宇蟲王』……ね。
ノロとは違うみてえだが、似たようなものを取り込んだ結果があの暴君って訳か。」
ノロとは違うみてえだが、似たようなものを取り込んだ結果があの暴君って訳か。」
正しいようで間違ってる認識を下し、益子薫は飛び上がる。
その手に宇蟲王ギラより拾い上げた、オージャカリバーを強く握りしめ。ネクサスの全力の飛行速度で橙のクワガタを射程に捉えた。
その手に宇蟲王ギラより拾い上げた、オージャカリバーを強く握りしめ。ネクサスの全力の飛行速度で橙のクワガタを射程に捉えた。
「今更何しに来たんだよこの塵が!!!」
クワガタの口から粘液のようなものが発射される。
当たれば間違いなく危険なそれを、宙を一回転して躱しながら、目の前の荒魂の言葉を益子薫は噛み締める。
当たれば間違いなく危険なそれを、宙を一回転して躱しながら、目の前の荒魂の言葉を益子薫は噛み締める。
塵。そう塵だ。
塵だの砂利だの言われても何の怒りも抱かなくなったのはいつからだ。
圧倒的な実力差を前にそれが当たり前だと思ったのはいつからだ。
塵だの砂利だの言われても何の怒りも抱かなくなったのはいつからだ。
圧倒的な実力差を前にそれが当たり前だと思ったのはいつからだ。
そんな彼らと比べたら、益子薫などまだまだ弱い。
憧れた英雄(ヒーロー)には程遠い。待ち望んだ勇者には程遠い。
憧れた英雄(ヒーロー)には程遠い。待ち望んだ勇者には程遠い。
「だぁかぁらぁ……」
だけどそれでも、この体は進むことを辞めないのだ。
多分自分はこの瞬間、もう一度進み始めるためにここにいるのだ。
多分自分はこの瞬間、もう一度進み始めるためにここにいるのだ。
「テメエを祓いに来たって言ってんだろうが!!」
刹那、メタフィールドの展開から3分が経過。
宇蟲王ギラが砕いた空の穴を中心に異界の荒野が光の粒子となって溶け去り初め、益子薫もまたウルトラマンとしての姿を失う。
宇蟲王ギラが砕いた空の穴を中心に異界の荒野が光の粒子となって溶け去り初め、益子薫もまたウルトラマンとしての姿を失う。
まるで羽化したように光の中から姿を見せた少女――益子薫は刀使である。
その真骨頂は写シによる身体強化でもなく、彼女が得意とする八幡力による超筋力でもない。
・・・・・・・・・・・・・・・
御刀の力を引き出し荒魂を祓う事。それが刀使を刀使たらしめる。剣士でも勇者でも英雄でも為せない素質である。
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御刀の力を引き出し荒魂を祓う事。それが刀使を刀使たらしめる。剣士でも勇者でも英雄でも為せない素質である。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
その手に持つは、オージャカリバーZERO。
宇蟲王を殺すための、不死殺しの刃。
無論薫はそんなことは知らない、だが初めて握るはずの剣は、ずっと愛用していたかのように腕に吸いついた。
吠え猛ける己がその性能を、十全以上に引き出して守護神の魂――宇蟲王の残穢を切り裂いていたことに気づかぬまま、その一閃は巨大なクワガタを切り裂いた。
宇蟲王を殺すための、不死殺しの刃。
無論薫はそんなことは知らない、だが初めて握るはずの剣は、ずっと愛用していたかのように腕に吸いついた。
吠え猛ける己がその性能を、十全以上に引き出して守護神の魂――宇蟲王の残穢を切り裂いていたことに気づかぬまま、その一閃は巨大なクワガタを切り裂いた。
「馬鹿……な。
馬鹿なああああああああああああああああああああああ!!!!こんな塵に!!!!!!!!!!!!俺様が!!!!!!!」
馬鹿なああああああああああああああああああああああ!!!!こんな塵に!!!!!!!!!!!!俺様が!!!!!!!」
残骸となった体が金切り声を上げた。その体を構築する『信頼の銃弾』の力を失い、無数のゲルとなって空中に溶けていく。
残ったのはオージャカリバーZERO片手に空に投げ出された益子薫だ。
残ったのはオージャカリバーZERO片手に空に投げ出された益子薫だ。
「勝った……のか?」
そうじゃないならトランクスが動くだろうが、見下ろした彼は晴れやかそうな顔をしている。
倒したのだろうと思うが、どうにも達成感のようなものは感じない。
宇蟲王に勝ったのはトランクス。自分はただそこから溢れた荒魂を祓ったに過ぎない。
自分に出来ることをやっただけ。
倒したのだろうと思うが、どうにも達成感のようなものは感じない。
宇蟲王に勝ったのはトランクス。自分はただそこから溢れた荒魂を祓ったに過ぎない。
自分に出来ることをやっただけ。
「ま、これが今の俺の限界か。」
メタフィールドの荒野が消えていく。飛び散ったシュゴッドソウルも消えていく。
落下していく自分はトランクスが受け止めるだろう。青年が動いているのがはっきり見える。
終わったら聞かなきゃならないことがたくさんある。
最初の戦いで自分以外死んだと思っていたのに、トランクスは生きていた。他の人は生きているのだろうか。
それにグリオンとの戦いがどうなっているか分からない。トランクスの力を借りれるならどうにかしたいし。彼から学びたいことだってある。
落下していく自分はトランクスが受け止めるだろう。青年が動いているのがはっきり見える。
終わったら聞かなきゃならないことがたくさんある。
最初の戦いで自分以外死んだと思っていたのに、トランクスは生きていた。他の人は生きているのだろうか。
それにグリオンとの戦いがどうなっているか分からない。トランクスの力を借りれるならどうにかしたいし。彼から学びたいことだってある。
ああどうしようかと。ほんの一瞬益子薫は目を閉じた。
後から思い返せば、その瞬間はっきりと気が緩んでいたのだと思う。
多分、トランクスもそうなのだろう。浮いているのが精いっぱいなほど彼の体は限界で、その全ての意識を落下する薫に向けていた。
後から思い返せば、その瞬間はっきりと気が緩んでいたのだと思う。
多分、トランクスもそうなのだろう。浮いているのが精いっぱいなほど彼の体は限界で、その全ての意識を落下する薫に向けていた。
だから、薫もトランクスも気づかなかった。
地上の戦場――シェフィの領域があった場所から飛び立った黒い影が、自分たちのど真ん中を飛び去って行くことを。
地上の戦場――シェフィの領域があった場所から飛び立った黒い影が、自分たちのど真ん中を飛び去って行くことを。
「うわっ!!!」
「なっ……!!!」
「なっ……!!!」
益子薫とトランクスがどよめきながら、高速で飛翔する『何か』のせいでバランスを崩し吹き飛ばされる。
同時に起きた大爆発……宇蟲王ギラの骸が爆ぜたことで、2人は別々の方向に大きく吹き飛ばされてしまった。
同時に起きた大爆発……宇蟲王ギラの骸が爆ぜたことで、2人は別々の方向に大きく吹き飛ばされてしまった。
爆発の後、雄英高校の空には何も残っていなかった。
益子薫も。トランクスも。宇蟲王ギラも。そこから溢れたナニカも。
何もかもが初めから無かったかのような空だけが、そこには静かに広がっていた。
益子薫も。トランクスも。宇蟲王ギラも。そこから溢れたナニカも。
何もかもが初めから無かったかのような空だけが、そこには静かに広がっていた。
【宇蟲王ギラ@王様戦隊キングオージャー 死亡】
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