数多の世界で自由と平和のために戦う仮面ライダーの中においても、仮面ライダークロノスは群を抜いた強者の1人だ。
時を止めるという『伝説の戦士』に相応しい力もそうであるが、純然たる身体能力という点においても仮面ライダーの中でも指折りである。
クルーゼがヒースクリフへの資格にクロノスを選んだのも『復活を繰り返すバグスターを殺せる』という特有の能力もさることながら、ヒースクリフがいかな異能を有していようと覆せるだけの基本性能が仮面ライダークロノスが有しているからに他ならない。
時を止めるという『伝説の戦士』に相応しい力もそうであるが、純然たる身体能力という点においても仮面ライダーの中でも指折りである。
クルーゼがヒースクリフへの資格にクロノスを選んだのも『復活を繰り返すバグスターを殺せる』という特有の能力もさることながら、ヒースクリフがいかな異能を有していようと覆せるだけの基本性能が仮面ライダークロノスが有しているからに他ならない。
その力が、今やヒースクリフの手に落ちた。
眼前に迫る黄金の宝剣『デウスラッシャー』を背後に反らして躱しながら、キリトはその意味を否が応でも理解させられた。
眼前に迫る黄金の宝剣『デウスラッシャー』を背後に反らして躱しながら、キリトはその意味を否が応でも理解させられた。
水平に裂かれた風がキリトの頬を薙ぎ、垂れた冷や汗を吹き飛ばす。
単純な身体能力で言えば、絶剣と呼ばれた少女ややみのせんしを名乗った男を凌駕しているかもしれない。
単純な身体能力で言えば、絶剣と呼ばれた少女ややみのせんしを名乗った男を凌駕しているかもしれない。
(速い!
だけど、俺なら対処できる!)
だけど、俺なら対処できる!)
水平に切り裂いて崩れた体制を身を捩じるように立て直し、頭上から斬りかかる刃をキリトは二刀で受け止める。
刃を擦らせながら、体全体で刃を押し込みキリトは距離を詰めていく。
刃を擦らせながら、体全体で刃を押し込みキリトは距離を詰めていく。
脱落した参加者の能力を再現できるヒースクリフを相手に、距離を取ることは悪手だ。
剣と剣のぶつけ合いに……今は無き鉄の城の決闘(デュエル)にも似た構図に持ち込まねば、キリトに勝ち目はない。
そんなキリトの思考を見抜いているのかいないのか、ヒースクリフはクロノスの仮面の奥で上機嫌に笑みを浮かべた。
剣と剣のぶつけ合いに……今は無き鉄の城の決闘(デュエル)にも似た構図に持ち込まねば、キリトに勝ち目はない。
そんなキリトの思考を見抜いているのかいないのか、ヒースクリフはクロノスの仮面の奥で上機嫌に笑みを浮かべた。
「流石の反射速度だ。キミに二刀流スキルを渡したことはやはり間違いじゃなかった!!」
「そういうテメエは色々ゴテゴテ継ぎ足してるくせに、攻撃が単調だな!」
「だとしてもだ!
クロノスになった私の攻撃に対処できるのは、そう多くない!!」
「そういうテメエは色々ゴテゴテ継ぎ足してるくせに、攻撃が単調だな!」
「だとしてもだ!
クロノスになった私の攻撃に対処できるのは、そう多くない!!」
キリトを称えるというより、自分の正しさを押し付けるような言葉に、キリトは思わずため息交じりに噴き出した。失笑だ。
「そう多くない?
たぶんこの会場には結構いると思うぜ。お前程度の素人剣術を対処できる奴なんて。」
「何?」
「アインクラッドの時から進歩がねえんだよ。アシストがなきゃただ剣を振り回してるだけじゃねえか。
やみのせんしとか言う奴の方が、俺からすればずっとヤバかった。」
たぶんこの会場には結構いると思うぜ。お前程度の素人剣術を対処できる奴なんて。」
「何?」
「アインクラッドの時から進歩がねえんだよ。アシストがなきゃただ剣を振り回してるだけじゃねえか。
やみのせんしとか言う奴の方が、俺からすればずっとヤバかった。」
仮に仮面ライダークロノスに変身したのがヒースクリフでなければ、それこそクルーゼが用立てたNPCだとしてもキリト1人で勝つのは至難だっただろう。
だが彼の前に居るのは、鉄の城で2度も戦い1度は勝利した相手で。使う動きも死闘の最中体にしみ込んだ動きである。
慣れ親しんだ予兆を読み解き、適切な対応をする。鉄の城での命を懸けた2年間が、キリトに体を最適な形で動かしていた。
抑え込んでいた剣を弾き、右手を大盾の隙間に差し込む。文字通り懐に入り込んだキリトは、努めて冷静に令呪を輝かせる。
だが彼の前に居るのは、鉄の城で2度も戦い1度は勝利した相手で。使う動きも死闘の最中体にしみ込んだ動きである。
慣れ親しんだ予兆を読み解き、適切な対応をする。鉄の城での命を懸けた2年間が、キリトに体を最適な形で動かしていた。
抑え込んでいた剣を弾き、右手を大盾の隙間に差し込む。文字通り懐に入り込んだキリトは、努めて冷静に令呪を輝かせる。
「スターバーストストリーム!!」
赤い光を宿した一撃が、手首を弾いた。
一撃目にインセインコンカラーが弾き飛ばされ、瞬きほどの刹那に放たれた十五の斬撃がヒースクリフの体を勢いよく吹き飛ばす。
その先には、臨戦態勢に入っていた覇王とパラドが既に動き出していた。
一撃目にインセインコンカラーが弾き飛ばされ、瞬きほどの刹那に放たれた十五の斬撃がヒースクリフの体を勢いよく吹き飛ばす。
その先には、臨戦態勢に入っていた覇王とパラドが既に動き出していた。
覇王のデインノモスは彼の錬金術によるものか、禍々しい漆黒に変色していた。
その刃を上段からヒースクリフへと叩きつける。
その対極から、パラドはパラブレイガンの斬撃を勢いよく振るいあげる。
その刃を上段からヒースクリフへと叩きつける。
その対極から、パラドはパラブレイガンの斬撃を勢いよく振るいあげる。
「これは1対1の決闘(デュエル)ではない。
貴様とキリトの関係性など、俺たちにとっては些事だ。そうだろ?」
「無粋な真似を……!!
だが私も、君たちに配慮をするつもりは微塵もない!」
貴様とキリトの関係性など、俺たちにとっては些事だ。そうだろ?」
「無粋な真似を……!!
だが私も、君たちに配慮をするつもりは微塵もない!」
心底無関心などす黒い声と共に、覇王とパラドの体が赤い何かに弾かれる。
ヒースクリフの背から生えたそれを、覇王たちは翼か何かかと思ったが、違う。
赤く輝く糸が30本ほど。ヒースクリフの背から伸びて高速で動き回っていた。
ヒースクリフの背から生えたそれを、覇王たちは翼か何かかと思ったが、違う。
赤く輝く糸が30本ほど。ヒースクリフの背から伸びて高速で動き回っていた。
ヒースクリフの背を守るように、動き回る生命戦維。
その動きを中心として、渦巻く風が何かが砕けるような音を立てている。
それが渦巻く風が熱を奪い、周囲を凍結させる音だとまずパラドが気づいた。遅れて気づいた覇王とともに背後にさがると、彼らの足元は既に凍結し始めていた。
その動きを中心として、渦巻く風が何かが砕けるような音を立てている。
それが渦巻く風が熱を奪い、周囲を凍結させる音だとまずパラドが気づいた。遅れて気づいた覇王とともに背後にさがると、彼らの足元は既に凍結し始めていた。
生命戦維に氷を生み出す力はない。
だが生命戦維は糸である以上、それを用いて氷を生み出せる参加者没しているのなら。
死者の能力を再現できるヒースクリフであれば、その技巧(スキル)を扱えるのは当然の話だ。
だが生命戦維は糸である以上、それを用いて氷を生み出せる参加者没しているのなら。
死者の能力を再現できるヒースクリフであれば、その技巧(スキル)を扱えるのは当然の話だ。
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『鬼龍院羅暁』 実装完了』
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『覇世川左虎』 実装完了』
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『覇世川左虎』 実装完了』
ノイズがかった声に混じり、地面伝いに広がる氷が氷山を思わせる鋭利な壁となって四方八方に飛び散っていく。
速度こそ本物に劣るからかかろうじて参加者たちは躱せるが、消え損ねていたリーファやシノンの贋作が対処できる速度ではない。
あっさりと飲み込まれ、顔を歪めた少女達が赤い粒子となって消えていく。
その姿にまふゆは思わず目を反らし、キリトが忌々し気に目をしかめる。
半面パラドと覇王が考えていたのは、攻撃があまりに無秩序であることへの違和感だった。
速度こそ本物に劣るからかかろうじて参加者たちは躱せるが、消え損ねていたリーファやシノンの贋作が対処できる速度ではない。
あっさりと飲み込まれ、顔を歪めた少女達が赤い粒子となって消えていく。
その姿にまふゆは思わず目を反らし、キリトが忌々し気に目をしかめる。
半面パラドと覇王が考えていたのは、攻撃があまりに無秩序であることへの違和感だった。
「味方もお構いなしかよ!!」
「4凶でもなければ君たちレベルの手練れの集団を足止めする贋作は作れないさ。
下手な分離体は私の体力を削るだけだ、いないほうが効率がいい。」
「足止めか。随分な言いぐさじゃねえか。ヒースクリフ!」
「4凶でもなければ君たちレベルの手練れの集団を足止めする贋作は作れないさ。
下手な分離体は私の体力を削るだけだ、いないほうが効率がいい。」
「足止めか。随分な言いぐさじゃねえか。ヒースクリフ!」
ボス戦の前に現れる雑魚の群れに使うような表現に、仮面ライダーパラドクスは仮面の奥で眉間に青筋を浮かべている。
「お前の敵はキリトだけ。他の連中はその戦いを邪魔する妨害とでもいう気かよ。」
「どう答えても角が立ちそうだから断言させてもらうが——『そうだ』。
他の目的や理由もいくつかはあるが、私個人がこの殺し合いに関わった最大の理由は、キリトとの戦いの再演のためだ。」
「どう答えても角が立ちそうだから断言させてもらうが——『そうだ』。
他の目的や理由もいくつかはあるが、私個人がこの殺し合いに関わった最大の理由は、キリトとの戦いの再演のためだ。」
振り向くこともせずに、氷山を広げながらヒースクリフは嘯いた。
キリトも他の全員も、網の目のように広がる氷を避けるのに全力を注ぐしかないなか。1人楽し気にヒースクリフは語り続ける。
キリトも他の全員も、網の目のように広がる氷を避けるのに全力を注ぐしかないなか。1人楽し気にヒースクリフは語り続ける。
「そのために己をバグスターに変え、ソードアートオンラインの残骸データを埋め込んだ。
羂索の手ほどきで呪力を得て、ひそかに領域を会得した。
権能に『赤』の宝具を選んだのだって、『存在しない城を構築する』赤のアサシンの宝具が、私にとって何より有用だったからだ。」
「随分熱心なことだな。そこまでしてキリトと戦いたかったのか。
オッサンのメンヘラは需要ねえぞ。」
「他の者ならともかく、君なら私の気持ちが理解できるんじゃないか?パラド。」
羂索の手ほどきで呪力を得て、ひそかに領域を会得した。
権能に『赤』の宝具を選んだのだって、『存在しない城を構築する』赤のアサシンの宝具が、私にとって何より有用だったからだ。」
「随分熱心なことだな。そこまでしてキリトと戦いたかったのか。
オッサンのメンヘラは需要ねえぞ。」
「他の者ならともかく、君なら私の気持ちが理解できるんじゃないか?パラド。」
ここで初めてヒースクリフはパラドへと意識を向ける。
感情の無い眼の描かれたクロノスの仮面を前に、パラドの背中に嫌な汗が垂れた。
感情の無い眼の描かれたクロノスの仮面を前に、パラドの背中に嫌な汗が垂れた。
「仮面ライダークロニクル。檀正宗が介入し君たちが運営していた期間に、正規の攻略はその大半を終えていたわけだが……。
そのときクロニクルの攻略者に宝生永夢が存在しない可能性を、君は想像できるかね?
西馬ニコですらない有象無象のライドプレイヤーが君たちの首を飛ばし、ゲムデウスを撃破する可能性をほんの少しでも考えたか?」
「それは……」
そのときクロニクルの攻略者に宝生永夢が存在しない可能性を、君は想像できるかね?
西馬ニコですらない有象無象のライドプレイヤーが君たちの首を飛ばし、ゲムデウスを撃破する可能性をほんの少しでも考えたか?」
「それは……」
出来ないとパラドにも思う。考えもしなかったと今なら言える。
パラドにとって宝生永夢は、何があっても己の前に立ちはだかる因縁であり、特別な遊び相手だ。
ヒースクリフにとってキリトもまた、同じようなものである。
パラドにとって宝生永夢は、何があっても己の前に立ちはだかる因縁であり、特別な遊び相手だ。
ヒースクリフにとってキリトもまた、同じようなものである。
4凶を筆頭とした強敵が犇めこうと、数多の世界の兵器や異能が幅を利かせようと。
アインクラッドの英雄は英雄として自分の元までその刃を届かせると、ヒースクリフは確信していた。
アインクラッドの英雄は英雄として自分の元までその刃を届かせると、ヒースクリフは確信していた。
「自分に因縁を持つ者、自分に特別な縁がある者に期待をするのは何らおかしな話ではないだろう。むしろ当然だ。
特定の誰かを勝たせるために動いているわけではないことは、私と……ついでにクルーゼの名誉のためにはっきりと言わせてもらうがね。」
「なら、ルルーシュ・ランペルージのことはどう説明する。」
「知らないよ。
彼に関して色々進めていたのはクルーゼの方だ。
とはいえ二代目ゼロの言葉を今更すべては否定しない。私とクルーゼが選んだ以上、参加者には期待する役割がある。それを順守するかどうかは無論君たちの自由だが。」
特定の誰かを勝たせるために動いているわけではないことは、私と……ついでにクルーゼの名誉のためにはっきりと言わせてもらうがね。」
「なら、ルルーシュ・ランペルージのことはどう説明する。」
「知らないよ。
彼に関して色々進めていたのはクルーゼの方だ。
とはいえ二代目ゼロの言葉を今更すべては否定しない。私とクルーゼが選んだ以上、参加者には期待する役割がある。それを順守するかどうかは無論君たちの自由だが。」
二代目ゼロの放送であった、ルルーシュ・ランペルージに対する明らかな優遇。あるいはその周囲の参加者に対する明確な不遇。
運営の選んだ『主役』に倒される、あるいは服従するだけの『端役』の存在は、もはや誰であろうと否定はできない。
運営の選んだ『主役』に倒される、あるいは服従するだけの『端役』の存在は、もはや誰であろうと否定はできない。
「その上で言わせてもらうが、この場に立つことを期待していたのはキリトと……しいていえばパラドくらいだ。
覇王十代や朝比奈まふゆが私の前に立つことを想定も期待もしていなかったし、その資格があるとは私は全く思っていない。」
覇王十代や朝比奈まふゆが私の前に立つことを想定も期待もしていなかったし、その資格があるとは私は全く思っていない。」
ゆらりと、ヒースクリフの纏う空気が変わる。
いつの間にか彼の周囲に渦巻き空間を凍結させていた生命戦維はその姿を消し、代わりのように男の手にする宝剣に禍々しい力が満ちていく。
『技巧(スキル)』が切り替わる。
いつの間にか彼の周囲に渦巻き空間を凍結させていた生命戦維はその姿を消し、代わりのように男の手にする宝剣に禍々しい力が満ちていく。
『技巧(スキル)』が切り替わる。
「君たちにその資格があるというのなら、行動で示したまえ。」
ノイズのような声と共に、デウスラッシャーが、力強く虚空を裂いた。
合成音声に合わせて放たれる無数の斬撃が、漆黒の雨となりこの場全てに降り注ぐ。
それが柱刀骸街(ゼノブレード)と呼ばれる技であると知るのは運営側に属していたシロコ1人だし、この場においては分かっていても関係のないことだ。
合成音声に合わせて放たれる無数の斬撃が、漆黒の雨となりこの場全てに降り注ぐ。
それが柱刀骸街(ゼノブレード)と呼ばれる技であると知るのは運営側に属していたシロコ1人だし、この場においては分かっていても関係のないことだ。
「地面がっ……。」
「泥の幽波紋(スタンド)。といっても早々に脱落した参加者である以上、君たちにはカラクリが分かりはしないだろうけどね。」
「泥の幽波紋(スタンド)。といっても早々に脱落した参加者である以上、君たちにはカラクリが分かりはしないだろうけどね。」
石畳の大部分は、凍り付き鋭く尖っている。
必然参加者たちは、その合間を飛び交い逃げ惑うことになるが、その全てが泥のようにぬかるんでいた。
キリトは毒づきながら、音を立てて沈み込む足を強引に引き上げ降り注ぐ斬撃を弾く。
弾丸を斬れるほどの剣捌きと動体視力がなせる業だが、それでも致命的な攻撃を凌ぐのがやっとだ。
必然参加者たちは、その合間を飛び交い逃げ惑うことになるが、その全てが泥のようにぬかるんでいた。
キリトは毒づきながら、音を立てて沈み込む足を強引に引き上げ降り注ぐ斬撃を弾く。
弾丸を斬れるほどの剣捌きと動体視力がなせる業だが、それでも致命的な攻撃を凌ぐのがやっとだ。
その動きは、朝比奈まふゆには不可能だ。
降り注ぐ漆黒の斬撃に牙の勇者の体が地に濡れる。変身していなければ八つ裂きにされていただろう攻撃を、まふゆは殆どその体で受けていた。
降り注ぐ漆黒の斬撃に牙の勇者の体が地に濡れる。変身していなければ八つ裂きにされていただろう攻撃を、まふゆは殆どその体で受けていた。
「くっ……はぁ……」
「まふゆ!!」
「まふゆ!!」
朝比奈まふゆは弱い。
基礎的な戦闘力や生存能力で言えば、参加者の中でワースト5を抜け出すことはありえない。
キョウリュウレッドに変身しているとはいえ、4凶の枠を超えた神殺しが幅を利かせ大多数の参加者に戦闘力が与えられている以上、その力は朝比奈まふゆの優位を意味しない。
基礎的な戦闘力や生存能力で言えば、参加者の中でワースト5を抜け出すことはありえない。
キョウリュウレッドに変身しているとはいえ、4凶の枠を超えた神殺しが幅を利かせ大多数の参加者に戦闘力が与えられている以上、その力は朝比奈まふゆの優位を意味しない。
元々少女は、序盤に脱落し同行しているユフィリア・マゼンタに闘争を促すカンフル剤か、『弱者を守る』思想を持つ強者に殺し合いへの参加を促す置物として選ばれていた。
パラドもまた、内心少女のことをそのように考えていたかもしれない。
”NPCは人間でない””だから傷つけてもいい”。そんな『理由』を与えねば戦うことさえできない、弱い小鳥であると。
だからこそパラドは自分に降り注ぐ斬撃を喰らうことを甘んじてでも、朝比奈まふゆへと駆けだしていた。
ユフィリア・マゼンタやギラ・ハスティーがここにいたら、きっと同じことをしただろう。
パラドもまた、内心少女のことをそのように考えていたかもしれない。
”NPCは人間でない””だから傷つけてもいい”。そんな『理由』を与えねば戦うことさえできない、弱い小鳥であると。
だからこそパラドは自分に降り注ぐ斬撃を喰らうことを甘んじてでも、朝比奈まふゆへと駆けだしていた。
ユフィリア・マゼンタやギラ・ハスティーがここにいたら、きっと同じことをしただろう。
降り注ぐ斬撃を切り払い、パラドは少女を支えようとその顔を見て。手を止めた。
少女は歩いていた。
泥になった足場を、凍り付いた柱を支えに沈まぬように進んでいた。
その右手には、ガブリボルバー。その先端には小さな恐竜が接続され、闘志を示すように牙を向けている。
少女は歩いていた。
泥になった足場を、凍り付いた柱を支えに沈まぬように進んでいた。
その右手には、ガブリボルバー。その先端には小さな恐竜が接続され、闘志を示すように牙を向けている。
肩で息をして、痛みに歯を食いしばって。それでも少女は引き金に指をかけていた。
倒れることも、泣くこともせずに。仮面の奥でしっかりとヒースクリフを睨みつける。勇者の姿がそこにあった。
倒れることも、泣くこともせずに。仮面の奥でしっかりとヒースクリフを睨みつける。勇者の姿がそこにあった。
「まふゆ……。」
「ぎらおにいちゃんなら。たぶんこうするから……!!」
「ぎらおにいちゃんなら。たぶんこうするから……!!」
『バモラ!!ガッブーン!!!』
痛みに苦しんだ破れかぶれの攻撃ではない。狙いすました一撃にこの場の全員が目を見開く。
ヒースクリフにとっても予想外の反撃に、彼はその攻撃を真正面から受けるしかなかった。
閃光が爆ぜ、同時にヒースクリフが動かしていた権能が切れる。
幽波紋(スタンド)によって泥になった足場も硬度を取り戻す、その隙を逃がす素人はここにはいない。
ヒースクリフにとっても予想外の反撃に、彼はその攻撃を真正面から受けるしかなかった。
閃光が爆ぜ、同時にヒースクリフが動かしていた権能が切れる。
幽波紋(スタンド)によって泥になった足場も硬度を取り戻す、その隙を逃がす素人はここにはいない。
「……やるじゃないか。邪悪の王!」
「硬度が戻れば……。」
「令呪が切れるまであと7秒……これだけあれば!!」
「硬度が戻れば……。」
「令呪が切れるまであと7秒……これだけあれば!!」
覇王が刃を抜き、キリトも強く足を踏みしめてヒースクリフへと刺突を狙う。
両者とはタイミングをずらし、シロコまたキズナブラックとしての全エネルギーを右腕に集約させヒースクリフへと叩き込む。
三人の攻撃がクロノスを捉え、硬く鈍い音が会場に響く。
両者とはタイミングをずらし、シロコまたキズナブラックとしての全エネルギーを右腕に集約させヒースクリフへと叩き込む。
三人の攻撃がクロノスを捉え、硬く鈍い音が会場に響く。
仮面ライダークロノスの性能を知るパラドにしても、三人の攻撃を正面から喰らえばただでは済まない。
変身解除か、そうでなくても大ダメージは与えられるはず。
変身解除か、そうでなくても大ダメージは与えられるはず。
「成程。油断があったことは認めよう。」
そんな確信をはぎ取るように、仮面ライダークロノス——ヒースクリフが呟いた。
遅れて響くのは、ヒースクリフが権能を使用したことを示す歪な声。
遅れて響くのは、ヒースクリフが権能を使用したことを示す歪な声。
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『切島鋭児郎』 実装完了——贋剣技巧(ソードスキル):安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)』
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『花菱はるか』 実装完了——贋剣技巧(ソードスキル):エリアルグレイス』
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『花菱はるか』 実装完了——贋剣技巧(ソードスキル):エリアルグレイス』
その能力が何を意味するのか、全てを正確に知る者はいない。
ヒーロー『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』の不屈の切り札に、ヒーロー『マジアマゼンタ』”本来の”真化。
二重の異能で引き上げられた仮面ライダークロノスの防御力を、彼らだけでは崩せなかった。
ヒーロー『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』の不屈の切り札に、ヒーロー『マジアマゼンタ』”本来の”真化。
二重の異能で引き上げられた仮面ライダークロノスの防御力を、彼らだけでは崩せなかった。
「朝比奈まふゆの闘志を侮っていた。ギラ・ハスティーの死か、ここまでの出会いによるものか。
どちらにせよ前言は撤回する。君には十分資格はある。
覇王十代も然り。一ノ瀬宝太郎を腑抜けにしたことも含めて色々引っ掻き回してくれたが、単なる踏み台にするには惜しい人材には違いない。」
どちらにせよ前言は撤回する。君には十分資格はある。
覇王十代も然り。一ノ瀬宝太郎を腑抜けにしたことも含めて色々引っ掻き回してくれたが、単なる踏み台にするには惜しい人材には違いない。」
「だが、」そう忌々し気に口を開き、ヒースクリフはキリトと覇王を蹴り飛ばす。
一人残ったキズナブラック——砂狼シロコを足蹴にし、仮面の奥からでも分かる冷たい視線で見下ろした。
一人残ったキズナブラック——砂狼シロコを足蹴にし、仮面の奥からでも分かる冷たい視線で見下ろした。
「君だけは別だ。亡失鎮魂。
君の存在を認めることはできない。」
「ヒースクリフッ……!!」
「君の事情を考慮するなら気持ちは理解できる。
私が関与する前とはいえ、殺し合いの為に故郷を滅ぼされたんだ。
運営に与する獅子身中の虫となってでも故郷を取り戻そうと足掻く君の事情には同情するがね。」
君の存在を認めることはできない。」
「ヒースクリフッ……!!」
「君の事情を考慮するなら気持ちは理解できる。
私が関与する前とはいえ、殺し合いの為に故郷を滅ぼされたんだ。
運営に与する獅子身中の虫となってでも故郷を取り戻そうと足掻く君の事情には同情するがね。」
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『バルバトス・ゲーティア』 実装完了——贋剣技巧(ソードスキル):ワールドデストロイヤー』
両手で握ったデウスラッシャーがキズナブラックを叩き潰し、地震にも似た振動が世界を揺らす。
一瞬にしてシロコの変身は解け、少女は口から血の混じった嗚咽を吐き出した。
神秘を有する体ゆえか五道化としての改造故か、英雄殺し必滅一撃を受けても少女は五体を保っている。
それでも中では無数の骨が折れ、臓器もいくつか潰れている。口から噴きでる血に別の液体が混ざり酷い粘性を帯びていた。
一瞬にしてシロコの変身は解け、少女は口から血の混じった嗚咽を吐き出した。
神秘を有する体ゆえか五道化としての改造故か、英雄殺し必滅一撃を受けても少女は五体を保っている。
それでも中では無数の骨が折れ、臓器もいくつか潰れている。口から噴きでる血に別の液体が混ざり酷い粘性を帯びていた。
「ついでに言えば、君が参加者を殺して奪ったアイテムを、我が物顔で使うことは許さない。」
そんな少女をヒースクリフは気にも留めず、手首に装着されたキズナブレスを強引にはぎ取ると鳩尾を狙って蹴り飛ばす。
数度地面を跳ねた少女の体が凍り付いた氷山にぶつかり。その頃には既にヒースクリフは次なる行動に移っていた。
数度地面を跳ねた少女の体が凍り付いた氷山にぶつかり。その頃には既にヒースクリフは次なる行動に移っていた。
「やはり君は駄目だ。
キリトをメラから逃がし私の元に連れてきてくれたことを評価点としても、君の存在はメラと同じかそれ以上に許容できない。」
キリトをメラから逃がし私の元に連れてきてくれたことを評価点としても、君の存在はメラと同じかそれ以上に許容できない。」
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『柊うてな』 実装完了』
ヒースクリフが手にしていたのは、支配の鞭(フルスタ・ドミネイト)という漆黒の鞭だ。
その鞭でキズナブレスを、そして周囲に広がる無数の氷山を引っぱたく。
破裂した様な軽い音に合わせ、鞭の魔力を前にそれらの道具が蠢いていく。
その鞭でキズナブレスを、そして周囲に広がる無数の氷山を引っぱたく。
破裂した様な軽い音に合わせ、鞭の魔力を前にそれらの道具が蠢いていく。
魔法少女の敵が持つ、魔物を生成し操る能力。
その力を受けて無数の氷山がアメーバのように結びつき、見上げるほどに巨大な龍へとその姿を変えていく。
ゆうに10mを超える体躯の龍が、勢いよく尾を振るった。
その斜線上にいるのは、キリトを除く全員だ。
その力を受けて無数の氷山がアメーバのように結びつき、見上げるほどに巨大な龍へとその姿を変えていく。
ゆうに10mを超える体躯の龍が、勢いよく尾を振るった。
その斜線上にいるのは、キリトを除く全員だ。
「ヒースクリフ、キリトと戦うために”そこまで”するか!」
パラドが毒づき、すぐ隣にいるまふゆを突き飛ばす。
まふゆが「きゃっ!」と声を上げてへたり込む間に、パラドの体は龍の尾に弾かれ視界から消えていた。
それは覇王十代もシロコも同様だ。
その事実を示すように覇王の持っていたデインノモスがくるくると宙を舞い、まふゆの前に突き刺さる。
まふゆが「きゃっ!」と声を上げてへたり込む間に、パラドの体は龍の尾に弾かれ視界から消えていた。
それは覇王十代もシロコも同様だ。
その事実を示すように覇王の持っていたデインノモスがくるくると宙を舞い、まふゆの前に突き刺さる。
「お前マジか。」
状況を俯瞰したキリトから、呆れるような言葉がこぼれた。
朝比奈まふゆと彼、そしてヒースクリフを囲うように、氷の龍はとぐろを巻いている。
その体は壁のようにはっきりと戦場を分断し、その頭上にはキズナブレスが変質したと思しき真っ黒の狼男が腕を組んで佇んでいた。
さながら佇む怪物と氷の龍は、彼らの戦いに他の連中を交わらせないための番人と言ったところだろうか。
朝比奈まふゆと彼、そしてヒースクリフを囲うように、氷の龍はとぐろを巻いている。
その体は壁のようにはっきりと戦場を分断し、その頭上にはキズナブレスが変質したと思しき真っ黒の狼男が腕を組んで佇んでいた。
さながら佇む怪物と氷の龍は、彼らの戦いに他の連中を交わらせないための番人と言ったところだろうか。
「舐めているわけでも、なりふり構ってない訳でもないんだな。
お前はお前の意思で、俺との戦いを優先するのか。」
「そうだ。
なんならこの程度分断にも妨害にもあたいしないさ。ギラ・ハスティーによるダメージが無ければ彼らの相手は宇蟲王ギラの再現体のはずだった。
あの程度の怪物では、贋作と比較しても戦闘力は3分の1にも満たないが。まあ十分だ。」
お前はお前の意思で、俺との戦いを優先するのか。」
「そうだ。
なんならこの程度分断にも妨害にもあたいしないさ。ギラ・ハスティーによるダメージが無ければ彼らの相手は宇蟲王ギラの再現体のはずだった。
あの程度の怪物では、贋作と比較しても戦闘力は3分の1にも満たないが。まあ十分だ。」
ヒースクリフの言葉に嘘はない。
彼は今でも、キリトとの戦いに固執している。
ゲームマスターでなくなった彼にとって、戦う理由はそれしかないのだ。
彼は今でも、キリトとの戦いに固執している。
ゲームマスターでなくなった彼にとって、戦う理由はそれしかないのだ。
飛び掛かったキリトの突きを、十字の盾が受け止める。
金属がぶつかり合い火花を散らす感覚も、伝わってくる衝撃も、かのデスゲームで決闘した時と何1つ変わらない。
金属がぶつかり合い火花を散らす感覚も、伝わってくる衝撃も、かのデスゲームで決闘した時と何1つ変わらない。
「私を倒すのはそれにふさわしい英雄であってほしい。
そしてその中心には、君がいるべきだ。
ただそれだけのことなんだよ。」
そしてその中心には、君がいるべきだ。
ただそれだけのことなんだよ。」
黒の剣士は理解する。
目の前の男の魂は、未だあの浮遊城から離れられてなどいないのだと。
目の前の男の魂は、未だあの浮遊城から離れられてなどいないのだと。
◆◇◆
砂狼シロコには、痛み以外の感覚が既にない。
ワールドデストロイヤーの直撃を受け、体内の筋肉や臓器はズタズタに裂かれて、いくつかは破裂し別の幾つかは骨が突き刺さってる。
それでも彼女が生きているのは五道化になるにあたっての改造と、彼女の持つ『権能』によるところが大きい。
ワールドデストロイヤーの直撃を受け、体内の筋肉や臓器はズタズタに裂かれて、いくつかは破裂し別の幾つかは骨が突き刺さってる。
それでも彼女が生きているのは五道化になるにあたっての改造と、彼女の持つ『権能』によるところが大きい。
生きている筋肉と骨を神秘と『権能』で補強しながら、シロコは立ち上がる。背骨が砕けなかったのは不幸中の幸いだった。
「まだ戦えるか?」
「……当然。」
「ならいい。
それで、何が起きたのか知っている限りで説明しろ。」
「……当然。」
「ならいい。
それで、何が起きたのか知っている限りで説明しろ。」
人間と飛蝗を混ぜ合わせたような怪人……アナザーガッチャ―ドこと覇王十代のぶっきらぼうな言葉に、口元の血を拭い答える。
心配しているわけではないことはないだろう。覇王十代が善人ではないことをシロコは知っている。
覇王十代は、参加者としては『殺戮者(マーダー)』に分類される。他者を害し殺すことに躊躇いがない人物として選定されている。
今だって彼はシロコのことを、この場で味方であるかどうかだけで判断している。
心配しているわけではないことはないだろう。覇王十代が善人ではないことをシロコは知っている。
覇王十代は、参加者としては『殺戮者(マーダー)』に分類される。他者を害し殺すことに躊躇いがない人物として選定されている。
今だって彼はシロコのことを、この場で味方であるかどうかだけで判断している。
「奴が使ったのはマジアベーゼ……『柊うてな』の力。
魔物を生み出し従わせる力。時間制限があるかは知らない。」
「つまりただ雑魚モンスターを召喚しただけか。」
魔物を生み出し従わせる力。時間制限があるかは知らない。」
「つまりただ雑魚モンスターを召喚しただけか。」
その天秤に乗っ取れば、覇王十代にとってシロコは味方である。
つまり、彼女の情報は一先ず信じて問題ない。セレブロやpohのような腹芸も必要ない。
つまり、彼女の情報は一先ず信じて問題ない。セレブロやpohのような腹芸も必要ない。
「なら、単純だな。」
覇王は構えた。デインノモスは既に無く、格闘の経験も乏しい素人の構えだと見ればわかる。
その目の前に勢いよく飛び降りた漆黒の狼男——キズナブレスが変質した怪物が2人を前にうなりを上げ。その後ろでは氷竜が鎌首もたげている。
狼は爪を鋭く伸ばし、龍はその口に凍てつくようなエネルギーを蓄えている。
その目の前に勢いよく飛び降りた漆黒の狼男——キズナブレスが変質した怪物が2人を前にうなりを上げ。その後ろでは氷竜が鎌首もたげている。
狼は爪を鋭く伸ばし、龍はその口に凍てつくようなエネルギーを蓄えている。
彼らの狙いは砂狼シロコ——亡失鎮魂の■■■■■■■。
マジアベーゼの支配の鞭(フルスタ・ドミネイト)は素体に限らず厄介な怪物を生み出し、百戦錬磨のトレスマジアを幾度となく苦戦させた強敵だ。
アナザーガッチャ―ドとなったとはいえ、真っ向勝負となれば覇王十代でも苦戦する。そんなことは覇王十代も分かっている。
マジアベーゼの支配の鞭(フルスタ・ドミネイト)は素体に限らず厄介な怪物を生み出し、百戦錬磨のトレスマジアを幾度となく苦戦させた強敵だ。
アナザーガッチャ―ドとなったとはいえ、真っ向勝負となれば覇王十代でも苦戦する。そんなことは覇王十代も分かっている。
「狙いが明確な相手なら、処理は容易い。」
なら、真っ向勝負をしなければいい。罠(トラップ)を用いた奇策も、決闘者(デュエリスト)にとっては基本である。
覇王が指を鳴らと錬金術の効果範囲にある石畳が波打ち、飛び掛かる狼男の体を勢いよく縛り上げた。
とはいえ鋼ならまだしも石畳であり、そもそもヒースクリフが創り出した領域の一部だ。ぎちぎちと体を締め上げる石の網は狼男が藻掻くほどに音を立てて崩れていく。
バキンと音を立てて砕けるまで約8秒。覇王十代が狼男に接近するには十分な時間だ。
覇王が指を鳴らと錬金術の効果範囲にある石畳が波打ち、飛び掛かる狼男の体を勢いよく縛り上げた。
とはいえ鋼ならまだしも石畳であり、そもそもヒースクリフが創り出した領域の一部だ。ぎちぎちと体を締め上げる石の網は狼男が藻掻くほどに音を立てて崩れていく。
バキンと音を立てて砕けるまで約8秒。覇王十代が狼男に接近するには十分な時間だ。
「焼け。ザ・サン。」
命令を下すと同時に、覇王十代は狼男の顔面を殴り飛ばした。
頭から石畳に激突し3度ほど地面をバウンドした怪物だが、立ち上がるより早く顔面から走る痛みが怪物の神経を焼き始めた。
地面に打ち付けた激痛など比にならない痛み。それが覇王に殴られた顔面の火傷が原因だと気づいたのは、焦げるような匂いを感知した時で、その頃にはすべてが終わっていた。
頭から石畳に激突し3度ほど地面をバウンドした怪物だが、立ち上がるより早く顔面から走る痛みが怪物の神経を焼き始めた。
地面に打ち付けた激痛など比にならない痛み。それが覇王に殴られた顔面の火傷が原因だと気づいたのは、焦げるような匂いを感知した時で、その頃にはすべてが終わっていた。
覇王の手には『ザ・サン』と呼ばれる、太陽のケミーのカードがある。
モチーフに違わず無尽蔵のエネルギーを有する人口生命体の熱の一部を、殴ると同時に怪物の顔面に送り込む。
一部とはいえ怪物を燃やすには十分な熱量だ。
モチーフに違わず無尽蔵のエネルギーを有する人口生命体の熱の一部を、殴ると同時に怪物の顔面に送り込む。
一部とはいえ怪物を燃やすには十分な熱量だ。
「ガググググガァァァアアアア!!!」
燃え上がる怪物の顔から火の手が上がり、痛みに悶えてのたうち回る。
膨大な熱で沸騰し焦げ始めた眼球で、怪物はその犯人を睨んだ。
膨大な熱で沸騰し焦げ始めた眼球で、怪物はその犯人を睨んだ。
覇王十代。危険人物であるが戦闘能力は並かそれ以下。
だがこの男には、朝比奈まふゆのような『善性』もヒースクリフのような『理想』もない。
絶望に身を窶しただ強さを求めるだけの存在は、『強さ』の形に頓着しない。
何をするか分からないし、何をしてもおかしくない。
狼男は半ば本能のようなものに突き動かされ、覇王十代にへと爪を突き立てる。
だがこの男には、朝比奈まふゆのような『善性』もヒースクリフのような『理想』もない。
絶望に身を窶しただ強さを求めるだけの存在は、『強さ』の形に頓着しない。
何をするか分からないし、何をしてもおかしくない。
狼男は半ば本能のようなものに突き動かされ、覇王十代にへと爪を突き立てる。
殺さねばならない。殺さねばならない。殺さねばならない。こいつは今すぐ殺さないと。
「成程。
全てを取り戻すほどの力を欲するなら、そのくらいの覚悟は必要か。」
全てを取り戻すほどの力を欲するなら、そのくらいの覚悟は必要か。」
バチリと空気に稲妻が走る。
焼けただれる聴覚器官で狼男は最後にそのことを知覚し、そのまま意識を闇に溶かした。
地面に落下し崩れ落ちるその体は、上半身がまるごと消し飛んでいた。
焼けただれる聴覚器官で狼男は最後にそのことを知覚し、そのまま意識を闇に溶かした。
地面に落下し崩れ落ちるその体は、上半身がまるごと消し飛んでいた。
覇王は死体を一瞥したのち、今しがた起きた出来事を思い返す。
燃え上がった狼男が飛び掛かると同時に、覇王の背後から雷が轟、狼男の上半身を消し飛ばした。
覇王の語彙に当てはめれば、巨大な槍と言うのが一番実情に即しているだろうか。
セレブロが戦った五道化——凶星病理のコルファウスメットの攻撃性能を考えれば、十分納得できる威力だろう。
燃え上がった狼男が飛び掛かると同時に、覇王の背後から雷が轟、狼男の上半身を消し飛ばした。
覇王の語彙に当てはめれば、巨大な槍と言うのが一番実情に即しているだろうか。
セレブロが戦った五道化——凶星病理のコルファウスメットの攻撃性能を考えれば、十分納得できる威力だろう。
「それは、五道化としての権能か?」
「本当のことを言うと、使いたく無かったけど。
私もなりふり構わない。」
「本当のことを言うと、使いたく無かったけど。
私もなりふり構わない。」
万全には程遠い体で一撃を放つのに、どれだけの能力を注いだのか。
今にも倒れそうな体で、しかしシロコの目は鋭い。
今にも倒れそうな体で、しかしシロコの目は鋭い。
太陽の力を宿した怪人と、雷を撃ちだす道化。
氷龍はその存在に数度目を瞬かせ、怯えたよう身を震わせた。
氷龍はその存在に数度目を瞬かせ、怯えたよう身を震わせた。
この龍はその気になればこの場一体を凍結させるだけの力があった。
マジアベーゼの魔物たちは、本来拘束や凌辱に特化した存在だ。
そうした趣味の無いヒースクリフが生み出す以上、相手を行動不能にするという機能はより一層磨きがかかっており、口から氷のブレスを吐くだけで彼の勝ちは確定していた。
マジアベーゼの魔物たちは、本来拘束や凌辱に特化した存在だ。
そうした趣味の無いヒースクリフが生み出す以上、相手を行動不能にするという機能はより一層磨きがかかっており、口から氷のブレスを吐くだけで彼の勝ちは確定していた。
『パーフェクトクリティカルフィニッシュ!!』
そんなことをこの場の誰も、氷龍自身さえも知ることはない。
怯え竦んだ隙をつかれ、彼方から響く電子音に合わせ銃撃が龍の脳を射抜いた。覇王とシロコに意識を向けすぎた龍は、最も警戒すべき天才ゲーマーの存在を完全に失念していたのだ。
龍の頭蓋は砕け、パラドは覇王とシロコへと駆け寄りながら状況を一人俯瞰していた。
怯え竦んだ隙をつかれ、彼方から響く電子音に合わせ銃撃が龍の脳を射抜いた。覇王とシロコに意識を向けすぎた龍は、最も警戒すべき天才ゲーマーの存在を完全に失念していたのだ。
龍の頭蓋は砕け、パラドは覇王とシロコへと駆け寄りながら状況を一人俯瞰していた。
(……これで終わりか?)
狼男の半身が抉れ、氷龍も砕けた。
はっきりとした死骸が視界に映っているのに、パラドはまるで勝った気がしなかった。
はっきりとした死骸が視界に映っているのに、パラドはまるで勝った気がしなかった。
パラドにはヒースクリフの気持ちが分かる。
納得はできないが、共感できるし理解も出来る。そうした自分の欲望にのみ乗っ取った在り方は、檀黎斗のようでもありバグスターのようでもあった。
納得はできないが、共感できるし理解も出来る。そうした自分の欲望にのみ乗っ取った在り方は、檀黎斗のようでもありバグスターのようでもあった。
自分が同じようにデスゲームを仕掛けその参加者を選定するなら、宝生永夢を入れないことはあり得ない。
それこそ二代目ゼロが推察したように、永夢に倒されるだけの雑魚殺戮者(マーダー)や永夢を乗り気にさせるための無力な人物を近くに配置するような仕込みも、きっとするだろう。
それと同じように、ゲームバランスの調整にも気を遣う。永夢が活躍できるが最強になりすぎないように、そして想定外の連中より永夢が活躍する公算がある舞台をきっと考える。
それこそ二代目ゼロが推察したように、永夢に倒されるだけの雑魚殺戮者(マーダー)や永夢を乗り気にさせるための無力な人物を近くに配置するような仕込みも、きっとするだろう。
それと同じように、ゲームバランスの調整にも気を遣う。永夢が活躍できるが最強になりすぎないように、そして想定外の連中より永夢が活躍する公算がある舞台をきっと考える。
(ヒースクリフの目的は、そのバランスを崩した存在の排除だ。今回ならメラとシロコ!
つまりこいつらは、シロコを殺すためのNPC!それが……”こんなに弱いことがあるか”?)
つまりこいつらは、シロコを殺すためのNPC!それが……”こんなに弱いことがあるか”?)
どちらもNPCモンスターとしては強力な部類なのかもしれないが、ここまで生き残った参加者ならどうとでもなるレベルでしかない。
五道化を倒すには役者が不足だ。満身創痍だろうと指一本触れられないし、現に今そうなっている。
五道化を倒すには役者が不足だ。満身創痍だろうと指一本触れられないし、現に今そうなっている。
何かあるとパラドの直感が告げている。
先に答えを述べるなら、その直感は当たっていた。
パラドがそう確信したのは、銃撃で弾き飛ばした氷龍の頭部。
今は地面に落下し、砕けて崩れた氷の中に何かが光っていた。
先に答えを述べるなら、その直感は当たっていた。
パラドがそう確信したのは、銃撃で弾き飛ばした氷龍の頭部。
今は地面に落下し、砕けて崩れた氷の中に何かが光っていた。
だがパラドは、現在生き残っている参加者の中でも群を抜いて参加者との交戦が少ない一団だ。
贋作のロロ・ランペルージのギアスにまんまと引っかかったように、大半の参加者の能力は彼にとって未知だ。
贋作のロロ・ランペルージのギアスにまんまと引っかかったように、大半の参加者の能力は彼にとって未知だ。
故に気づいても分からない。
光ったそれは暗い色をした楕円形の物体で。それがグレイズ部隊……クルーゼの命で動いていたNPCの頭部であると気づいても、壊すことにまで頭が回らなかった。
光ったそれは暗い色をした楕円形の物体で。それがグレイズ部隊……クルーゼの命で動いていたNPCの頭部であると気づいても、壊すことにまで頭が回らなかった。
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『レジィ・スター』 実装完了』
ノイズがかった電子音が響き、機体がグレイズの頭部が一瞬にして燃え尽きる。
レジィ・スターの術式。『再契象』。
契約を記した物体を焼き切ることで、契約内容を再現する術式。
その呪力を宿す焔が、NPCとしての『ラウ・ル・クルーゼからの命令契約』を記したグレイズの電子頭脳を焼き尽くし。術式(オーダー)は受諾される。
レジィ・スターの術式。『再契象』。
契約を記した物体を焼き切ることで、契約内容を再現する術式。
その呪力を宿す焔が、NPCとしての『ラウ・ル・クルーゼからの命令契約』を記したグレイズの電子頭脳を焼き尽くし。術式(オーダー)は受諾される。
「成程。
こいつが本命か。クソッタレ!!」
こいつが本命か。クソッタレ!!」
パラドたちが気づいた頃には、既に手遅れだった。
契約は成された。
契約は成された。
ダイスレイヴの射出命令は滞りなく実行される。
死が、彼らの頭場から降ってきた。
◆
キヴォトスを取り戻す。シロコはずっとそれだけを考えていた。
硝煙と青空の香りが人の焼ける脂ぎったものに塗りつぶされて。笑い声の響いた街には怨嗟と絶望しか残っていない。
そんな世界を取り戻したくて、そんな終わりを認められなくて、足掻いた果てに彼女は五道化と成り果てた。
硝煙と青空の香りが人の焼ける脂ぎったものに塗りつぶされて。笑い声の響いた街には怨嗟と絶望しか残っていない。
そんな世界を取り戻したくて、そんな終わりを認められなくて、足掻いた果てに彼女は五道化と成り果てた。
「覚悟も恐怖も無く引き金を引き、小競り合いのように弾丸が飛び交う。子どものする飯事にも劣る歪な環境を青春などと呼称する。
私にしてみればね、このキヴォトスは偽物の世界だ。最も重んじるべきものがない、薄く空っぽの世界だ。」
私にしてみればね、このキヴォトスは偽物の世界だ。最も重んじるべきものがない、薄く空っぽの世界だ。」
自分を五道化にする前に、クルーゼはそのように言っていた。
ザラサリキエルのように人格を崩すではなく、オリジナルの人格をそのまま残すという羂索とヒースクリフの案を拒否する言葉。
それ以上に、彼がキヴォトスそのものを根本から忌避しての言葉だった。
ザラサリキエルのように人格を崩すではなく、オリジナルの人格をそのまま残すという羂索とヒースクリフの案を拒否する言葉。
それ以上に、彼がキヴォトスそのものを根本から忌避しての言葉だった。
その言葉を聞いて、抗いようのない怒りが湧いたことだけは覚えている。
怒りの戦騎の素体となるのに過不足がないほどの怒りが、あの時の自分からは噴き出ていた。
その怒りを出す先を知らぬ、見ず知らずの者たちに刃を向けることさえ受け入れてしまう。そんな段階になるまで少女は壊れ切っていた。
怒りの戦騎の素体となるのに過不足がないほどの怒りが、あの時の自分からは噴き出ていた。
その怒りを出す先を知らぬ、見ず知らずの者たちに刃を向けることさえ受け入れてしまう。そんな段階になるまで少女は壊れ切っていた。
或いは、今でも壊れたままなのかもしれないとシロコは思う。
シロコの胸中に燃え上がるのは、その時の怒りとよく似ている。焔のような激情だった。
——クルーゼの扱う兵器に。ヒースクリフの扱う力に。二度と屈服したくない。
本能が、敵意が、殺意が、激情が。ただそれだけがシロコの体を突き動かしている。
覇王十代がそうしたように、手段もやり方も関係ない。
使いたくない力でも、何でも使ってすべきことを果たす。それだけが今の彼女の至上命令(オーダー)ならば。
覇王十代がそうしたように、手段もやり方も関係ない。
使いたくない力でも、何でも使ってすべきことを果たす。それだけが今の彼女の至上命令(オーダー)ならば。
「権能。悠戯解放!!」
砂狼シロコ——亡失鎮魂の■■■■■■■に与えられた権能。イデアケィジの魔王族。
先に怪物を葬った稲妻は、その中の1人『究愛のヴィダン』と呼ばれる男の能力だった。
先に怪物を葬った稲妻は、その中の1人『究愛のヴィダン』と呼ばれる男の能力だった。
そして今回、彼女が用いたのは『悠戯のブイダラ』という女の力だ。
その正体は——異能の再現。
既に射出されたダインスレイヴを、ヒースクリフは凌いでいる。
ならば迎撃に使うのは、ヒースクリフの力であるべきだ。
その正体は——異能の再現。
既に射出されたダインスレイヴを、ヒースクリフは凌いでいる。
ならば迎撃に使うのは、ヒースクリフの力であるべきだ。
・・・・・・・・・・・・・・
バトルロワイヤル主催者ごっこ。
あえて呼称されるならそう呼ぶべき異能が、シロコの体を変質させる。
バトルロワイヤル主催者ごっこ。
あえて呼称されるならそう呼ぶべき異能が、シロコの体を変質させる。
「宝具解放。金型は槍兵」
砕けた右手を突き出し、槍のように突き出して。叫ぶ。
ヒースクリフは——聖杯大戦の、赤のサーヴァントの宝具を扱える。
砂狼シロコが選んだのは、その中でも最大の火力を誇るだろう、太陽の一撃。
ヒースクリフは——聖杯大戦の、赤のサーヴァントの宝具を扱える。
砂狼シロコが選んだのは、その中でも最大の火力を誇るだろう、太陽の一撃。
「『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』!!!」
それは、施しの英雄と呼ばれる英霊(サーヴァント)がたった一度だけ使える必殺の神鎗。
再現されただけのものに関わらず、討ち放つ前の放熱でシロコの左手は焼け焦げた。
覇王が用いた錬金生物(ケミー)の熱とは比にならない、太陽神(スーリヤ)の血を引く英雄の焔。
肉が焼ける。血が煙る。
炭がまとわりついた骨だけが右手を形作り、そこから撃ちだされた熱線がダインスレイヴとぶつかり合った。
再現されただけのものに関わらず、討ち放つ前の放熱でシロコの左手は焼け焦げた。
覇王が用いた錬金生物(ケミー)の熱とは比にならない、太陽神(スーリヤ)の血を引く英雄の焔。
肉が焼ける。血が煙る。
炭がまとわりついた骨だけが右手を形作り、そこから撃ちだされた熱線がダインスレイヴとぶつかり合った。
「あああああああああああああああああああああ!!!」
身を焼かれながらも、それでもシロコは止まらない。
参加者でない彼女は、レジスターの破損を心配する必要がない。四肢がもげてもこの一撃さえ止められれば、彼女の勝利と言っていい。
火山の噴火にもよく似た熱線の直撃を受け、高硬度レアアロイの矢が徐々に赤く焼けていく。
そもそも大気圏を超えても形を保ってる矢だ、熔解するとはシロコも思っていない。ただ矢の推進力が落ちてくれれば十分。
そう考えるシロコを嘲笑うかのように、矢は突如大きく膨らみ、ポップコーンのように弾けとんだ。
歪で耳ざわりな声が一体に響く。機械音とも高笑いともつかない、殊更不快なノイズ。
参加者でない彼女は、レジスターの破損を心配する必要がない。四肢がもげてもこの一撃さえ止められれば、彼女の勝利と言っていい。
火山の噴火にもよく似た熱線の直撃を受け、高硬度レアアロイの矢が徐々に赤く焼けていく。
そもそも大気圏を超えても形を保ってる矢だ、熔解するとはシロコも思っていない。ただ矢の推進力が落ちてくれれば十分。
そう考えるシロコを嘲笑うかのように、矢は突如大きく膨らみ、ポップコーンのように弾けとんだ。
歪で耳ざわりな声が一体に響く。機械音とも高笑いともつかない、殊更不快なノイズ。
『贋剣技巧(ソードスキル)装填:個体名『ダークマイト』実装完了』
「ん!!!」
「ん!!!」
ふざけるなよ糞野郎という罵倒が、乾いた口に張り付いていた。
ダインスレイヴはヒースクリフに殆どダメージを与えられていない。それだけでシロコを殺せないとヒースクリフは分かっていた。
だから仕込んでいた、兵器をさらに凶悪にする必滅の弐の矢を。
ダインスレイヴはヒースクリフに殆どダメージを与えられていない。それだけでシロコを殺せないとヒースクリフは分かっていた。
だから仕込んでいた、兵器をさらに凶悪にする必滅の弐の矢を。
日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)は間違いなく、ダインスレイヴの威力を殺しきった。
だがダインスレイヴとは極端に言えば、めちゃくちゃ硬くてめちゃくちゃ速い矢でしかない。
砕けた金属片が捻じれながら寄り集まり、銛とも槍ともつかない鋭利な形状に形を変える。
それが、4つ。
重力によって加速した槍が一本シロコの体を貫いた。骨が剥き出しになった右腕がクッキーでも砕くような軽い音と共に吹き飛んでいた。
だがダインスレイヴとは極端に言えば、めちゃくちゃ硬くてめちゃくちゃ速い矢でしかない。
砕けた金属片が捻じれながら寄り集まり、銛とも槍ともつかない鋭利な形状に形を変える。
それが、4つ。
重力によって加速した槍が一本シロコの体を貫いた。骨が剥き出しになった右腕がクッキーでも砕くような軽い音と共に吹き飛んでいた。
「あっ。」
悲鳴は出なかった。苦悶の声も漏らさなかった。
ただ、死んだという確信だけがあった。
まだ槍は3本ある。
その動きが酷く遅い。最後の数秒を噛み締めるような感覚が、走馬灯と呼ばれる現象だとどこかで聞いたことがあった。
その時間はシロコにとって、後悔と懺悔以外の意味を与えない。
ただ、死んだという確信だけがあった。
まだ槍は3本ある。
その動きが酷く遅い。最後の数秒を噛み締めるような感覚が、走馬灯と呼ばれる現象だとどこかで聞いたことがあった。
その時間はシロコにとって、後悔と懺悔以外の意味を与えない。
(ああ、ごめんみんな。”やっぱり”駄目だった。)
世界が滅び、その元凶に与し、世界を取り戻す。
先生がいれば。先輩がいれば。あるいは出来たかもしれないが。
シロコはひとりぼっちだった。桐藤ナギサは人質同然の傀儡で、錠前サオリに至っては自我はとうに残っていない。
だれにも頼れず、だれにも手伝えず。ただ手を穢すだけの死にぞこない。
先生がいれば。先輩がいれば。あるいは出来たかもしれないが。
シロコはひとりぼっちだった。桐藤ナギサは人質同然の傀儡で、錠前サオリに至っては自我はとうに残っていない。
だれにも頼れず、だれにも手伝えず。ただ手を穢すだけの死にぞこない。
それが今の砂狼シロコだ。
そんな自分がどの面下げて、アビドスの皆に会えるのだろうか。
瞬きほど先にある未来を受け入れたくない思いを押し殺し、瞼を閉じる。
そんな自分がどの面下げて、アビドスの皆に会えるのだろうか。
瞬きほど先にある未来を受け入れたくない思いを押し殺し、瞼を閉じる。
三本の銛がシロコの体を貫き、肉を抉り骨をかき回す。
悲しみ。怒り。憎しみ。苦しみ。
負の感情の海に、少女の意識は解けて消えていき。そして……。
悲しみ。怒り。憎しみ。苦しみ。
負の感情の海に、少女の意識は解けて消えていき。そして……。
◆
ダインスレイヴの一撃は、覇王とパラドにはほとんど影響を及ぼさなかった。
『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』の灼熱がわずかにパラドと覇王の表面を焼いたが、ただそれだけだ。
『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』の灼熱がわずかにパラドと覇王の表面を焼いたが、ただそれだけだ。
「こいつ……NPCなんだ……よな?」
目の前で起きた光景をどう解釈したらいいのか、パラドには分からない。
NPCだから殺しても問題ない。いつか朝比奈まふゆに言った言葉であり、今でもパラドはそう考えている。
NPCだから殺しても問題ない。いつか朝比奈まふゆに言った言葉であり、今でもパラドはそう考えている。
それでもパラドには、今ここで砂狼シロコが死ぬことが正しい事には思えない。
桐藤ナギサのような『キヴォトスの生き残り』がNPCとして存在している。彼らは特別なカテゴリーとして、尊重すべきなのだろうか。
少し前のパラドなら、そう単純に決めてかかったかもしれない。
桐藤ナギサのような『キヴォトスの生き残り』がNPCとして存在している。彼らは特別なカテゴリーとして、尊重すべきなのだろうか。
少し前のパラドなら、そう単純に決めてかかったかもしれない。
「こいつも、死にたくなかったんだな。」
今のパラドは、もっとシンプルに考える。
命の大切さを知った、失ってはならないものを知った。
彼女もまた、それを守るために戦っていたのだと。
命の大切さを知った、失ってはならないものを知った。
彼女もまた、それを守るために戦っていたのだと。
そう考えるパラドをよそに、覇王はシロコに近づくと体に突き刺さる銛を無造作に引き抜いている。
1つ抜くたびに、少女の体がビクンと揺れる。
呼吸はある。だがそれが消えるのも時間の問題だろう。
1つ抜くたびに、少女の体がビクンと揺れる。
呼吸はある。だがそれが消えるのも時間の問題だろう。
「何をする気だ?」
「この力は『使える』。だから俺が貰う。
——万物はこれなる一者の改造として生まれうく。」
「この力は『使える』。だから俺が貰う。
——万物はこれなる一者の改造として生まれうく。」
覇王の言葉に合わせダインスレイヴの破片はねじり集まり、金属製の弓と矢をデフォルメしたような生物が覇王の手の中でぴょこぴょこと動き回っている。
Eーケミーと命名された、覇王が生み出す錬金生命。
覇王の意思でいつでも実体化できる、人間大のダインスレイヴ。
覇王はその存在を一枚のカードに収めると、パラドへと振り返り尋ねた。
Eーケミーと命名された、覇王が生み出す錬金生命。
覇王の意思でいつでも実体化できる、人間大のダインスレイヴ。
覇王はその存在を一枚のカードに収めると、パラドへと振り返り尋ねた。
「ブレイドガシャットは持っているか?」
「ああ。いつでも使えるが……今のヒースクリフ相手に使うのは難しいんじゃねえのか?」
「ああ。いつでも使えるが……今のヒースクリフ相手に使うのは難しいんじゃねえのか?」
紺色のガシャットをくるくると回し、パラドは首を傾げる。
レベル1に変身できるガシャットにはバグスターと人間を分離させる力があるが、仮面ライダーとしての性能はレベル99のパラドクスに大きく劣る。
アナザーガッチャ―ドやキョウリュウレッドと比較しても、後塵を拝するだろう。
レベル1に変身できるガシャットにはバグスターと人間を分離させる力があるが、仮面ライダーとしての性能はレベル99のパラドクスに大きく劣る。
アナザーガッチャ―ドやキョウリュウレッドと比較しても、後塵を拝するだろう。
「ヒースクリフがどれだけの能力を持っているのか俺たちは知らねえ。
バグスターを分離させる一撃を叩き込むのだって、それなりの隙がねえと無理じゃねえか。」
「それに関しては考えがある。
それに、邪悪の王が俺の見込んだとおりの相手なら、俺の剣を上手く利用するはずだ。」
「お前の剣?」
バグスターを分離させる一撃を叩き込むのだって、それなりの隙がねえと無理じゃねえか。」
「それに関しては考えがある。
それに、邪悪の王が俺の見込んだとおりの相手なら、俺の剣を上手く利用するはずだ。」
「お前の剣?」
偽剣デインノモス。覇王が持つその剣は氷龍によって分断されていた時に弾き飛ばされている。
漆黒が覇王の力で黒く染まった刃。
つまり覇王は——既にその剣に何らかの仕込みをしている。
漆黒が覇王の力で黒く染まった刃。
つまり覇王は——既にその剣に何らかの仕込みをしている。
「あの剣は偽剣の名の通りレプリカのようなものだそうだが。その真作は『皇帝継承の証となる剣』だそうだ。
何かに似ているとは、思わないか?」
「……ギラの持つ。オージャカリバーそのものじゃねえか。」
何かに似ているとは、思わないか?」
「……ギラの持つ。オージャカリバーそのものじゃねえか。」
覇王十代は、セレブロがコルファウスメットを乗っ取った関係で、コルファウスメットの標的……『宇蟲王ギラ』のことを知っている。
ギラ・ハスティーが有していた。王であることを証明する剣を知っている。
ギラ・ハスティーが有していた。王であることを証明する剣を知っている。
「俺はその事実を知り、あの剣に拾ったカードを融合させた。
宇蟲王ギラの力を欠片でも手にすることが目的だったが。邪悪の王の心意があれば、その目論見が叶う可能性はあるだろう。」
宇蟲王ギラの力を欠片でも手にすることが目的だったが。邪悪の王の心意があれば、その目論見が叶う可能性はあるだろう。」
そう語る覇王十代は、いつの間にか変身を解いていた。
漆黒の鎧を身にまとい、凍てついたような表情をパラドに向ける。
漆黒の鎧を身にまとい、凍てついたような表情をパラドに向ける。
「その上でだ。俺に1つ策がある。乗るか?」
「聞いてみないと何とも言えねえが。聞く価値はありそうだ。
それに俺も1つ、アンタの話を聞いて思いついたことがある。」
「ならばそちらも聞かせてもらう。」
「聞いてみないと何とも言えねえが。聞く価値はありそうだ。
それに俺も1つ、アンタの話を聞いて思いついたことがある。」
「ならばそちらも聞かせてもらう。」
眉一つ動かさない表情で言いきった覇王は、倒れる砂狼シロコを見下ろした。
全身からどろどろと血を流しているが、まだ生きている。
全身からどろどろと血を流しているが、まだ生きている。
「貴様にも、まだ働いてもらうぞ。」
少女の死に場所は、まだここではない。
覇王の言葉に少女は、おぼつかない瞬きを浮かべていた。
覇王の言葉に少女は、おぼつかない瞬きを浮かべていた。
| 196:シュゴッダムの秘密 | 投下順 | 197:ドグマF:剣の無い世界 |
| 190:想 Emotion | 時系列 | |
| 185:遊戯-第Ⅲ形態:朝比奈まふゆ:リスタート/桐ヶ谷和人:リスタート | キリト | |
| 朝比奈まふゆ | ||
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| 赤枝逆徒のヒースクリフ | ||
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