「――しかし、やってくれたものだな」
苛立ちと歓喜、そして怒りと賞賛が混ざりあった
極めて形容しがたい混沌とした感情を抱きながら、
ヴォルマルフは正面の銀髪の青年の顔を見ようともせず、
俯きながらに呟いた。
そう。この男は唐突にこの管制室に現れたのだ。
アルマのこちら側に対する行き過ぎた非礼に対し、
その身の程を教えるべく応対しようとした矢先にである。
眼前の空間から、何の前触れもなく姿を現れた際には流石に度肝を抜かれたが、
その際に周囲の機械魔達が全て頭を垂れ隷属の意を示し、
またこの管制室全てが侵入者の訪問に対して歓迎の意を照明で表した時、
ヴォルマルフは即座に理解した。「この者こそがディエルゴである」と。
彼はアルマに対するいかなる“処置”も許さぬとばかり、
ヴォルマルフに対し警告を発しにきたのであった。
銀髪の青年は一見無防備にこちらに微笑みながら近づいてくる。
だが、纏い漂わせる瘴気は
キュラーのそれとは格が違っていた。
そう。この者がディエルゴであるのは間違いない。
だが、なぜキュラーではなくディエルゴ自らがこちらに乗りこんできたのだ?
――この男、どういうつもりだ?
――どうして、今になって私の前に姿を現す?
ヴォルマルフはこの男が直接管制室に姿を現したその意図が読めず、強い警戒の念を抱いていた。
その心の機微を知ってか知らずか、銀髪の青年は飄々とした様子でヴォルマルフに返す。
「それはアルマさんに対してのことでしょうか?
それとも、この私に対してのことでしょうか?」
ヴォルマルフは薄く笑うだけで、何も答えない。
「…いかようにも取ってもらって結構だ。
それにしてもだ。そうか、貴様がディエルゴなのか。
こうして直接顔を合わせるのは初めてだったな?」
ヴォルマルフは不遜さを隠そうともせず、自らにとって大恩ある存在を
対等かそれ以下の存在にでも接するかのように振舞う。
「ええ。そうですね。
はじめまして。神殿騎士団団長、ヴォルマルフ・ティンジェルさん。
私の事は
源罪のディエルゴ…、姦計と虚言の悪魔王メルギトス…、
あるいは吟遊詩人レイムのいずれで呼んでいただこうとも結構です。
先ほどの
マグナ達の会話で、これ以上姿を隠す意味もなくなりましたからね」
ヴォルマルフの不敬に対してもなんら感情を害することなく、
ディエルゴと呼ばれた銀髪の青年はさも愉しげに語りかける。
そもそも、ヴォルマルフには礼儀など最初から求めてなどいないが故に。
「彼女からの提案については、その態度から察する限り肯定ということでよろしいですね?」
「ああ、もちろんだとも。あれがもたらす今後の効果については計り知れないからな。
それについては、いちいち語るまでもあるまい?」
ヴォルマルフは目を瞑り、大きく頷くことによって肯定の意を示す。
ディエルゴは満足に微笑むと、
一転してその声色が高圧的に変じさせる。
その口調だけは決して荒げることなく。
それが、却って不気味さを際立たせていた。
「…ですが、ヴォルマルフさん?
貴方の先程の件ですが…。
貴方は二度越権行為を、いえ違反行為を行いました。
その理由についてお聞きしたい。
その返答いかんによっては、これまでの関係を完全に破棄いたします。
無論、その場合は貴方達全員の処分は当然として、
今あの会場にある貴方達が選んだ“女王蜂候補者達”も
全て廃棄処分とさせて頂きますが?」
お前の事など知ったことではないと言いたげな冷笑を浮かべていたヴォルマルフだが、
“女王蜂候補者達”、という言葉に初めて僅かに眉を寄せ、そして初めてその顔を前に向ける。
『そうそう、わかっておられるとは思いますが、くれぐれも参加者達に手出しはしないようにとのことです。
主催側はゲームに干渉しないのが
ルールですからね……ククククク』
そう。キュラーが以前警告したように、参加者達には一切の干渉を
行わないのがディエルゴとの取り決めであった。
だがヴォルマルフは今禁じられた一般参加者との直接会話を行い、
そしてまた我を忘れ一般参加者の一人を始末せんと殺意を向けた。
それらは言うまでもなく重大な違反行為である。
ゲームの進行役は、あの会場にいる“内通者”相手でもない限り、
特別な便宜を図ることや、その場で始末する事は禁じられている。
――全てはこのゲームを円滑に進める為に。
進行役が私情に任せて不公平な行為を行えば、
ただちにこのゲームは破たんするが故に。
「私にとってそのような事態は実に不本意な事なのですが…。
そうでもしなければ、周囲に示しがつきませんからね?」
レイム=ディエルゴの双眸が、鋼を思わせる冷血さを帯びる。
周囲の機械魔達全てがその牙を剥き出しにし、主の号令を待つ。
多彩なセキュリティ・システム全てがヴォルマルフに銃口を向ける。
レイムの殺意は、先ほどのヴォルマルフがアルマに見せつけた殺意とは
根本的にその質量を隔てるもであった。
人間ならそれらの残滓に軽く当てられただけでも
ショック死しそうなほどの殺意の重圧を浴びながら、
ヴォルマルフは笑みさえ浮かべその警告に答えた。
「……戯れはよせ。ディエルゴ。
第一、その二つの問いの答えなら、すでに貴様自身が出しているのではないか?」
「……ほう。そう言われますと?」
ディエルゴの瞳に、若干の好奇の色が混ざる。
ディエルゴは当然、返答次第ではこの男とその仲間達を処分するつもりである。
それに対して、この男がどのような不様な命乞いを見せるのか?
あるいはどのようなちっぽけな反抗をみせるのか?
この絶体絶命の窮地の中で、男のまるで平静を崩さぬ余裕の態度から何かの切り札を予感し、
その最期のあがきを知りたいという興味と関心を抑えずにはいられなくなる。
「まず一つ。アルマと直接会話の件についてだが、その前に一つ聞いておこう。
貴様はなぜ“我々”のような存在をゲームの進行役に選んだのだ?
“我々”を凌駕する者たちなら、これだけ無数の世界があればいくらでも探せるはず。
あの超魔王バールのようにな」
ヴォルマルフの自己陶酔とも自負とも言えぬ弁舌が始まる。
その声は明朗ながらも、口調はあくまでも淡々として抑揚というものがない。
しかしながら、聴衆を落ち着かせるには最適な口調で。
「だが、貴様はあえてこの我々を選んだ。
最強というわけでもなく、今のように逆らう危険性をも併せ持つ扱い辛い存在を。
それらの欠点を差し引いてでも、貴様らが我々に望まんとするところは何だ?」
ヴォルマルフはそこであえて一時の間沈黙を行う。
ディエルゴの反応を窺っているのだ。目の前の青年の殺意は、
もはや消え失せ、その代わりに興味と好奇の色彩に満ち溢れている。
「あえて我々を選んだ理由は、この私が元は人間であるからではないのか?、
最初から悪魔であり人間というものを理解できぬ貴様らなどより、
よほど人間どもの感情の機微を理解しうるからではなかったか?
脆弱な参加者どもの思惑を汲み取り、思うがままに操作しうる存在が
何よりも欲しかったのではないのか?」
ディエルゴは大きく頷き、楽しげに切り返す。
その声には掛け値なしの賞賛とその推論への同意、
そしてある種の侮蔑とがないまじっていた。
「“人は人でなくなって初めて、人のなんたるかを知る。”
――フフッ。どこの世界で聞いたかも忘れてしまいましたがね。
おそらくは元人間であった何者かがどこかで遺した未練の言葉です。
この私は人間の感情は知識としては分析が出来ようとも、
決して理解する事は出来ません。元より人ではありませんからね。
かつて人間だったころの悲憤や慟哭、憤怒や哀愁、絶望と欲望、
そういったものを抱いたことのある存在でなければ、
参加者の感情のヒダをくすぐり、負の感情を集積する事は難しいですからね。
その点、貴方のような“成り上がりもの”は、
進行役としてうってつけということなのです。
貴方は只の人間以上に、人間のなんたるかを理解できる存在ですからね」
ヴォルマルフはその言葉に含まれた非礼に顔を顰めながらも、
努めて平静を装いながら言葉を続ける。
「そして、ただお前に与えられた命令を忠実にこなすだけなら、そこにいる機械魔どもでも充分だ。
あるいは、貴様の従える三匹の使い魔どもを進行役に据え、我々を助言者程度の立場に留めればいい。
それであってなお、我々をゲームの進行役という大役を任せた理由は何だ?」
ディエルゴの目が、大きく見開かれる。
歓喜と愉悦に。好奇と関心に。
「法(ルール)には何事も例外が存在する。
誰よりも法を守る側が、超法規的措置をとらざるを得ない例外も存在する。
だが、それをやりすぎてもならぬ。法破りこそ、バランス感覚が重要なのだ。
その無法と秩序とのバランスを取り、流動する現場において常に最適な状況判断が下せる存在。
全く融通の利かぬ機械魔どもでは到底為し得ぬ、非常事態において臨機応変に対処しうる存在。
それだけの器量を、貴様の従える三匹の使い魔風情に求めるには酷というものだ。
悪魔には、最初から法という概念など存在せぬが故にな。……奴らは常にやりすぎる。
だからこそ、そういった計算され尽くしたルール破りを生業とする、
法の下でのテロ行為と姦計のプロフェッショナル…。
すなわち、神殿騎士団でもある我々を貴様は欲した。違うか?」
そういってヴォルマルフは無言で笑う。嗤う。哂う。
その嘲りは一体誰に向けられたものか?その心は知る術もない。
――神殿騎士団。
ミュロンド・グレバトス教会の教皇フューネラルの身辺警護を司る名誉職である。
だが、その実際は教会の意に沿わぬものを異端者に仕立て上げて社会的に抹殺を行ったり、
邪魔な内部関係者の粛清であったりと、実に血生臭く救いのない行動が数多い。
かつて、ラムザ・ベオルブや元異端審問官のシモンに対して行ったように。
聖職者が聞いて呆れる、どころの騒ぎではない。存在自体が既に邪悪なのだ。
だが、グレバトス教会が巨大組織となった以上、これは必要悪とも言える。
人間は建前と綺麗事では決して立ち行かぬ醜い動物の集団であり、
自らの悪しき欲望を法を以て正当化する存在も実に多いのだから。
ならば、悪にはそれ以上の悪を、無法にはそれ以上の無法を以て処罰するしか道はない。
巨大な組織が活動を続ければ、必ずどこかに悪質な腫瘍が発生するが故に。
そして、それは全体に影響を及ぼす前に速やかに切除しなければならない。
善では人は裁けない。善では人は悔い改める事もないが故に。
そう、人の善性など教皇からして欠片も信じてはおらぬのだ。
教義における“神の子”聖アジョラが己の野心の為に全てを偽る、
性別さえも偽っていた救いようのないペテン師であったが故に。
だが、そのような現実世界の不浄は、決して民衆に悟られてはならぬだ。
それは神への信仰と言う名の、救い無き現実世界において
「最後の幻想(FanalFantasy)」を破壊される事に他ならないのだから。
どこまでも救いのない世界の真実を、醜い教団の現実を人に悟られてはならない。
そんな教会の表面を清潔に保ち、見栄えを保つため、
民衆の「最後の幻想(FanalFantasy)」を守るため、
神殿騎士団は歴史の陰で暗躍を続ける。
そして、時としては英雄の真似事さえも演じてみせる。
最初から存在しなかったお伽噺の伝説の英雄、“ゾディアック・ブレイブ”の新生として。
民衆に、最期まで醒めぬ夢を与え続ける為に。
そう。それは計算された選りすぐりのペテン師集団でもあった。
その実態は、隻眼の参加者の率いる暗黒騎士団に酷似してさえいる。
神殿騎士団とは、所詮そういった組織なのだ。
「此度の件については、アルマの提案がこちら側に間違いなく利する要素が多いと予想され、
なおかつ機密漏えい等のデメリットが極少とこの私が判断したから接触したまでの事。
結果は聞いての通り。あの提案は、間違いなく“我々”や貴様らに大きな利をもたらす。
――それでも、この私の判断能力に疑問を抱くかね?
私に臨機応変の対応を期待し、現場における法を超えた柔軟性を何よりも望み、
その為に“我々”を進行役に自ら任命しておきながら?」
ヴォルマルフは挑戦的にディエルゴを正面から見据え、胸に手を置く。
口元が大きく挑発を含んだ笑みに歪む。
「そして、今なんの落ち度無くこの私を疑うといういうことは、
同時に貴様の人を見る目も疑わざるを得なくなるということだ。
貴様ほどのものが、まさかとは思うがそのような思慮無き愚者を
このゲームの進行役という大役に選んだというわけではあるまい?」
慇懃無礼の極みのごとき発言である。
だがその見識、間違ってはいないのだ。
こういった言葉を弄んだ駆け引きに関しては、
ともすればこの男はこの私さえ凌駕するかもしれない。
ディエルゴはこの男の妄言とも屁理屈とも言えぬ言葉の曲芸に、
呆れながらも心より感心もしていた。
ある一定の事実の断片を意図的に編集して繋ぎ合わせ、
自らが望む方向へと誘導を行い、もっとも都合良い現実を作り上げる。
それを絶対不変の真実だと高らかに謳い上げ、反論を悪魔化して駆逐する。
かつて、
ラムザを異端者に仕立てあげたように。
自らの違反行為への糾弾者さえもが、実はこの違反を最初から望んでいた
正当なる行為なのだと、この男は強弁する。糾弾者のプライドをくすぐりながら。
そしてこの論理への反論自体を、愚者の所業であるとあらかじめ封じる。
それは洗練された詭弁による、ある種の言葉の芸術でもあった。
この小憎らしいまでの姑息さは、元人間でなければ到底発想しえまい。
「なるほど、アルマへの干渉については納得いたしました。
ですが、アルマへの殺害未遂の件については…。これはどうなのですか?」
ディエルゴは愉悦の表情でヴォルマルフを見据える。
ヴォルマルフが詭弁で以て返答するなど百も承知。
だが、その詭弁の芸術を心行くまで味わいたいという気持ちが大きく勝った。
「では、それも分かりやすいように貴様に問おう。
先ほど貴様が私に見せた殺意、あれは本気のものであったか?」
そう。返答次第によっては、ディエルゴは彼らを始末するつもりであった。
だが、逆を言うならば最初から問答無用で殺すつもりも毛頭なかった。
それはヴォルマルフの反応を心より楽しむためでもあったのだが、
その殺意が本気のものではなかったのは事実である。
もしディエルゴが本気で殺意を抱いていたなら、
四の五の言わせず屁理屈など言わせる隙も与えず
目の前の不遜な成り上がりものを即座に肉塊に変えている。
ヴォルマルフもまた、アルマに対してはそうであったと暗に言いたいのだ。
ディエルゴに笑みが漏れる。その口が半月形にぱかりと裂ける。
心底楽しそうに、実に朗らかに、声を上げて笑う。嗤う。哂う。
だが、その瞳には全く喜色というものがない。
見るもの全てを戦慄させずにはいられぬ、まさに悪魔の笑み。
それは赤毛の参加者が宝物ほどに大切にする「笑顔」とは似て非なるもの。
いや、むしろその対極にある「笑顔」。
「……なるほど。あれはそういうことでしたか。
あれはあくまでアルマさんへの脅しに過ぎぬと。
この私はまんまと釣り出されてしまったと、そういうことですね?
大した役者ぶりですよ。よりにもよって、この私をも欺くとは」
ディエルゴは素直に賛辞の言葉を述べる。
姦計と虚言を司る悪魔王をも欺く、このヴォルマルフという存在に。
だが、そこには殺意の残滓のようなものさえも含まれていた。
「しかし、この意図が理解できないようであればどうしたものかと、
そういう意味ではこの私も懸念はしたがね」
この男の妄言、虚言の手本として見るならそれは非常に面白い。
こちらが手本としたいほどに、それはそれは見事な詭弁である。
だが、自らが謀られたとなると話しは別だ。
軽く殺意さえも抱きたくもなるものだ。
「フフフ、貴方は大変面白い人のようですね。
キュラーが大変に気に入った理由も、分かる気がいたします。
心の中の鬼と一つに融け合った人間とは、これほどまでに楽しい存在だとは。
貴方はただ職務に対し、私の意図を事前に察しその期待通りに動いたのみ、と。
そして全ては結果のみで語り、不手際が生じた際には責任を取る用意もある。
さらには、今回は私の誤解と勇み足であったと、そうおっしゃるのですね?
そこまで仰られるなら、この私も口の出しようがありません。
なるほど。貴方は理想的な管理職のようですね」
――そう。理想的な管理職としての振る舞いである。その中に渦巻いているものは兎も角として。
「貴方のその舌と今回がもたらした結果に免じて、今回のみは不問といたしましょう」
ディエルゴはヴォルマルフに微笑みかける。
「…ですが、この次はありませんよ?
そして、今後の非常事態による特例措置や働きかけについては、
全て私の事前承認を得ることを絶対条件とします。
連絡による遅延が原因のあらゆる損失に関しては、全て免責いたしますのでご安心を。
それは“内通者”との連絡においても同様です。
勿論、アドラメレクさんや今度現れるであろう貴方達のお仲間たちに対しても、
それは例外ではありませんよ」
ディエルゴはヴォルマルフの独走を防ぐため、念入りに釘を指す。
己の暴走にディエルゴの名を使わせぬようにと、それは細かく注意を促す。
それはヴォルマルフに対して忠告を発すると言うより、
むしろ周囲の心無き機械魔に言い聞かせているようでもあった。
「では、先ほどのアルマさんの提案ですが、
午後7:00の禁止エリアの設定と同時に
臨時放送を行うという形を取って下さい。
あの集会場で貴方が仰られた『その他進行に必要となったルール』としての、
追っての説明という形を取ればよろしいでしょう。
最後の死亡者の時間ですが、これだけは唐突なルール変更に対する
参加者への特例として特別に教えて差し上げてもよろしいでしょう。
たしか、午後の
リチャードさんが最後の死者でしたね?」
ヴォルマルフは無言で頷き、さらに意見を付け足す。
「少し大目に見て、16:00ということに再設定してはもらえぬか?」
実の所、ヴォルマルフは秒単位で彼の生命反応停止時間を把握している。
だが、リミット変更についてどこまでの事が出来るのか、
それを主催者の口からあらかじめ確かめて起きたかったのだ。
主催者の能力とその限界を値踏みしておきたかったが故に。
「…どこまでの詳細さを伝えるかについては、貴方に一任いたします。
私はその裁定に合わせて差し上げましょう。
貴方の判断力を、私は何よりも信頼しておりますので。
その期待は、決して裏切らないで下さいね?」
その意図を知ってか知らずか、ディエルゴはひどく大雑把な返答をそのままに返す。
先ほどの質問については、あえてまともに答えてなどいない。
自分で考えろということなのだ。そしてその現場判断がディエルゴの意に沿わぬものであれば、
こちらに責任を取らせるつもりでいるとも、暗にそう警告しているのである。
「心得た。では、後は“こちら”に任せてくれ」
「ええ。貴方がたが“こちら”に忠実である限りはね」
「では、早速だが“そちら”の取り決めに従い、アドラメレクや他の内通者への接触許可を戴きたい。
今回の変更の件も含めて、伝えておきたいことがあるからな」
「分かりました。“そちら”の請願を一度認めましょう。ただし、与えるのは情報のみとしてください。
直接的な物的支援は一切を認めません。具体的な裁量は貴方に委ねましょう」
ディエルゴはそういって、現れた時と同じように唐突にその姿を掻き消す。
言葉とは裏腹に信頼など欠片もない、詭弁と腹の探り合いによる極寒の会話はこれにて終了した。
あとはヴォルマルフがディエルゴに託された仕事を意に沿うようこなすのみである。
ヴォルマルフは、これまでにあった事柄から、思索を開始する。
――さて、あのタイミングでディエルゴが現れたということは、
この管制室の会話も全てその場で盗聴されているとでも考えておいた方が良い。
これは思わぬ収穫ではあったが、今後うかつな行動はとれぬと考えるべきだろう。
アドラメレクや“内通者”にはすぐにでも接触を行いたいのだが、
その会話内容の全てを知られては困るのだ。
ならば――。
懐に入れてあった聖石レオを見ながら、ヴォルマルフは考える。
――これを、使うしかあるまい?
ヴォルマルフは不敵に笑いながら、熟考する。
これからの放送内容と、アドラメレクを含めた“内通者”へ与えるべき情報を。
ディエルゴらに伝えるべき内容と、伝えるべきでない内容の選別を。
あの者達との関係も、感謝こそしてはいるが所詮は利用する者と利用されるものの関係でしかない。
実際の所、マグナという青年には何か記憶にブロックを掛けていたと思われる節がある。
その上で、こちらの敵であるラムザには一切そういった事前措置等は無かったのである。
それはとりもなおさず、こちらを使い捨ての道具としか見なしていないことを示している。
万が一ゲームが破たんした場合は参加者どもにこちらを始末させ、
トカゲの尻尾切りを行う気でいるのは間違いない。
あるいは、ディエルゴが求めるだけの充分な負の感情の集積が終わった場合は、
「蜚鳥尽きて良弓蔵せられ、狡兎死して走狗煮らる」の運命となるであろう。
最後まで運命を共にすべき存在ではない。こちらが裏切りに合う前に離反しなければならない。
だが、その意図を奴らに悟られてしまってはどうにもならぬのだ。
事は慎重を要する。今はまだ雌伏が必要な時である。
そう。今はまだ、だ。長らく待ちわびた悲願だ。
あとほんの少し待つ程度の事など造作もない。
急いて事を焦り、すべてを水泡と帰してしまっては何の意味もないのだ。
仲間達の帰還のために。
器の育成と選出のために。
『すべては、我らが野望のために……――』
そう、今はまだ雌伏の時だ。
ヴォルマルフは己の心の中で、あの集会場で呟いた会話を繰り返した。
【備考】:レイム=源罪のディエルゴはヴォルマルフの過去について全て把握済であり、
それらを見込んだ上で彼をゲームの進行役として選出しました。
なお、今回のゲームの参加者の選定基準についてはヴォルマルフの思惑が
ある程度からんでおり、「女王蜂の選出」が彼らの目的となっております。
この管制室の情報が全て盗聴されていることをヴォルマルフは把握しました。
この会場には“内通者”が存在します(少なくとも、アルマ以外の存在です)。
【不明/1日目・夜(放送後)】
【
レイム・メルギトス@サモンナイト2】(【源罪のディエルゴ@サモンナイト3】)
【ヴォルマルフ・ティンジェル@FFT】
最終更新:2013年04月17日 00:15