臨時放送・裏 ◆imaTwclStk
暗く、巨大なモニターだけが目立つ部屋で対峙する二つの影。
向かい合うのは二人の悪魔、「ルカヴィ」と「メルギトス」。
正確にはメルギトスは実体ではなく機械が作り出した幻影なのだが。
「…それでは今回はお引き受けして頂けませんと?」
メルギトス ―今は壮麗な青年の姿『レイム』の状態で― は表面上は
にこやかに対応しているが、何の感情も見せぬままに目の前の騎士と向き合っている。
「そういう事だ、次の放送は貴様の子飼いの連中にでもやらせろ」
一方、一応は穏やかに対応しているメルギトスに対して
ルカヴィ、『神殿騎士
ヴォルマルフ』は椅子に腰掛けたまま嫌悪感を隠さずに言い放つ。
向かい合う二人の悪魔は片方は静かに、もう片方は激情のままに
今にも互いの喉笛を食いちぎらんといった様な殺気を放っている。
事はとある少女が発端だった。
メルギトスより自分に課せられた放送を終えた直後のヴォルマルフに対して、
少女『
アルマ』が意外にも接触を試みてきたのである。
少女はヴォルマルフを挑発し、裏にいるであろう
ディエルゴ ―今のメルギトスのもう一つの側面― との接触を図ろうとしていた。
ヴォルマルフはそれに対して馬鹿正直に答える義理も無ければ
自分を挑発する少女を生かしておく道理も無く、
その手は少女の首輪の起爆装置へと伸びていた。
それを制止したのが当のメルギトス本人であり、
あろう事か少女の提案を受け入れ、ゲームの設定変更まで行うとヴォルマルフに申し出てきた。
それがヴォルマルフの癪に障った。
それはルカヴィがたった一人の少女に対して手玉に取られたという事実に他ならず、
例えメルギトス側にどのような意図があったとしても許容できる事ではなかった。
かといって、今この場で自分達の協力関係を破棄してまで主催者側で殺し合いを始めるほど、
ヴォルマルフも愚かではない。
それをして喜ぶのはゲームの参加者達のみである。
が、ただメルギトスの提案を受け入れるのもヴォルマルフの面子を潰す事になる。
それゆえヴォルマルフはメルギトスに対して進行役の一時辞退という手段をとった。
進行の担い手が突然変わればゲームの参加者達にも疑惑が広がるだろうが、
そもそも意図的に参加者達の情報制限を行ったりとメルギトスはヴォルマルフを軽んじている節が合った。
それを理解していた上での謂わばヴォルマルフの『嫌がらせ』である。
メルギトス側もその点では非が在る為、ヴォルマルフの一時辞退を受け入れざるを得なかった。
「…分かりました、では次の放送は
キュラー達に任せるとします。
私は少し休まなければいけませんので」
メルギトス、『レイム』が困ったような顔をしたままぷつりとその虚像を消した。
モニターの灯りだけが照らす部屋の中で一人残されたヴォルマルフが無言で立ち上がり、
手元で何かを操作して突如として空間を切り取ったかの様に現れた出口へと歩いていく。
「ドチラニ?」
出口に番兵として立っていた機械魔がヴォルマルフに尋ねる。
「居室に戻る、メルギトスにも伝えておけ。
『あまり余計な事はするな』ともついでにな』
背後で「承リマシタ」という機械魔には目もくれず、
要件だけを告げて悠然と歩いていく。
辺りは一見すれば機械を中心とした近代的な造形だが、
一部には蔦が絡まる超自然的な場所もあり、
また一方では札を中心とした様々な呪法すら見受けられる。
その中の一つの扉の前にヴォルマルフが立つと、
僅かな開閉音と共に扉が開かれた。
ヴォルマルフ達の居た世界を再現された西洋風の部屋の中で
既に中に居た3人の人影が立ち上がり、ヴォルマルフを迎える。
部屋の中に入り、近くにあった椅子に腰掛けてヴォルマルフが口を開く。
名前を呼ばれた厳つい騎士が一歩進み出ると
その鎧に似つかわしくない腰のホルスターから拳銃を抜き放ち、
先程ヴォルマルフが入ってきた入り口の天上を打ち抜く。
「…ギ…ギギ…」
発砲音と共に天上から虫の様な小さな機械魔が一体墜ち、
それをフードを被った騎士が拾い上げ、ヴォルマルフに差し出した。
「先程言った筈だ、『余計な真似はするな』とな。
お互いに余計な干渉はしない筈だぞ?」
手渡された小さな機械魔に向けてそれだけを言うと、力を込めて握り潰した。
手の中からパラパラと落ちる様々な部品と共に、血とオイルが混じった液体が手を汚す。
それを茶髪の涼しげな表情をした騎士から渡されたハンカチで拭き取りながら
ヴォルマルフは三人の騎士に向き直る。
短く告げたヴォルマルフに対して、フードを被った騎士『ローファル』が先に口を開いた。
「ハッ! 現在、聖石は全て此処から持ち運ばれています。
恐らくは既にあの会場となっている島に渡ったものと思われます。
如何致しますか?」
ローファルの報告をある程度、予測済みだったのかヴォルマルフの表情は変わらない。
「放っておけ、アレは人を選ぶ。
奴の事だ、アレを何かの付属の如くぞんざいに扱うだろうが必ず誰かの手には渡る。
今はそれだけで良い」
自分達の目的を叶える為の手段である聖石を持ち去られたにしては、
余裕は崩さずにヴォルマルフは手を拭ったハンカチを投げ捨ててあっさりと言い捨てた。
ヴォルマルフの指示を受け、ローファルはそれ以上は何も言わずに引き下がった。
それを確かめると次に厳つい騎士『バルク』が口を開く。
「報告します。 この遺跡は現状では稼働状況は本来の7割に満たない程度だと思われ、
有事の際の最攻略候補である『喚起の門』も現状での稼動は難しいものと思われます」
バルクからの報告に対しては思うところがあったのか、ヴォルマルフは目を細めて含み笑いを漏らす。
「ククク…そういう事か。
奴が何故このゲームの設定を変えてまで拘るのかと思えばそういう事だったとはな。
私にとっての戯れは奴にしてみれば死活問題か」
実に楽しそうな表情のヴォルマルフに対して、バルクは報告を続ける。
「又、メルギトスの核があると思われる間は中心に向かう程、警備が厳しく特定は出来ていません。
ですが、やはり中心部に奴の核があると思って間違いは無いものと思われます」
其処までを受けて、ヴォルマルフの笑いが止まる。
「…分かった。 奴も此方の動きには気づいているだろう。
これからはより慎重に動け」
厳かに告げたヴォルマルフに敬礼を返し、バルクがさがる。
最後に茶髪の騎士『クレティアン』が進み出て報告を始めた。
「現在、我々以外の外部からの干渉は見受けられません。
ですが、今後は有り得ないとも名言は出来ませんね…それと、ですが」
言葉尻を濁すクレティアンにヴォルマルフが続けるように手で促す。
「“奴”の姿が見受けられません」
クレティアンの報告の他の二者は驚いてクレティアンに向き直るが、
ヴォルマルフは「そうか」と一言返しただけだった。
「宜しいのですか? “奴”は我々と違い唯の人間です。
いつ我々を裏切るとも限りません。
探し出して始末するべきでは?」
一向に焦る様子の無いヴォルマルフに対して逆に焦りを覚えたのかクレティアンが
焦燥感のままに続ける。
「口を慎め、クレティアン!」
ローファルが取り乱し始めたクレティアンを咎めるが、それをヴォルマルフが制止する。
「構わん。 “奴”は敢えて見逃している。
何、あそこには
ラムザが居る。
“奴”はあの小僧を見捨てて動くことは出来ない。
だから今は“奴”は我々を裏切れん」
ヴォルマルフに其処まで言われ、返す事も出来ずに黙ってクレティアンは引き下がる。
「それに時に人間は我々の予想を超えた動きを見せる事がある。
“奴”はこちらのメルギトス達への切り札でもあるのだからな」
椅子に腰掛けたまま、ヴォルマルフは含み笑いを再度浮かべ、
三騎士は彼に跪き、頭を下げる。
悪魔はその思惑を秘めたまま、静かに蠢いて行く。
【不明/1日目・夕方(放送後)】
【ヴォルマルフ・ティンジェル@FFT】
【ローファル・ウォドリング@FFT】
【クレティアン・ドロワ@FFT】
【バルク・フェンゾル@FFT】
最終更新:2011年01月28日 14:23