セキガンのアクマ◆j893VYBPfU
なあ、アルフォンス。聞こえているのか?
なら、なんでいつも返事を…って、そんな睨むなよ。お前ってさぁ、友達っているのか?
そりゃまあ、無理に答える必要はないけどな。でもやっぱ、お互いの事知っとかないと、やり辛いだろ。
でも、俺の事だけは話しておくよ。飯食いながらでいいからさ。
俺には心を許せる『親友』ってのが二人ほどいる。『仲間』だったら、もっといるけどな。
ああ、さっきも少し言ってたけど、
ネスティは俺自慢の兄弟子っていうか、兄代わりなんだ。
いっつも口煩くて理屈屋で、お前みたいにツンケンしてるんだど、根は真面目でいい奴なんだ。
それに、あとここには
アメルって女の子も来ている。多分信じちゃくれないと思うけど…。
アメルは豊穣の天使、アルミネの生まれ変わりなんだ。
癒しの奇跡が使えるってことで特別扱いされて、以前はその事ですごく悩んでたみたいだけど、
やっぱりあいつも一人の女の子なんだし、大事な仲間なんだ。
…お、おい。もしかして、お前にも天使に知り合いでもいるのか?こっちまでびっくりするじゃないか。
俺はあいつらがいるからこそ、どんな困難だって切り抜けられるって、そう思っている。
これまでも、これからも。勿論、今回の事についてもだ。一人じゃ絶対無理な事でも、
親友や仲間がいるからこそ「あいつらのために頑張らなきゃ」って、思えるんだ。
だあぁぁぁぁ。だぁーかぁーらぁー。義務とか、責任とか、使命とか、そういう堅苦しいのと違うんだってば!
『生き甲斐』って、言ったらいいのかな?あいつらがいるからこそ、自分の人生も頑張れるんだって感じだ。
俺もずいぶん昔は腐ってたけど、あいつらがいたから俺も変われたんだ。
名簿のこの
ルヴァイドだって昔は凄い悪い奴で、最初は俺と敵同士だったしな。
仲間がいれば、誰だって人は変われるんだ。
…アルフォンスだって、昔はそういうのいたんだろ?顔に出ているしさ。
だったら、たまにはそういう奴らの事を思い出してやればいい。
そうすりゃ、今の顔の強張りみたいなのも取れると思うぜ?
だから、まあ、なんだ。折角出会えたんだし、仲良くやっていこう。な、アルフォンス?
――ほう。これは驚いた。貴様と、かつての私がよく似た境遇にあるとはな。
だがな。私は元“仲間”で屍山血河を築き、その兄代わりの“親友”を死に追いやり、
そして初恋かもしれなかった少女も、私を置いて去ったのだよ…。
◇ ◇
私は
リュナンの首を刎ね、その頚部に付いていた首輪を奪う事にした。
首輪なら、眼の前の少女にも付いているものがある。
死後半日は経過しているらしく、そちらなら血が飛沫くこともないだろう。
ただし、そこから首輪を戴くためには、身体をある程度土中より堀し出す必要性がある。
だが、今はあまり時間をかけられる状況ではない。、
見失った私やリュナンを探しに、
マグナ達が血眼になって近辺をうろついていないとも限らない。
ここで時間をかけてしまったが為に「殺害現場を押さえられる」といった失態は冒したくない。
そのため、飛沫いた血が服を濡らすリスクは伴うが、
早急にリュナンの首を刎ね首輪を奪うことにした。
私は首から噴き出した鮮血が勢いを失くすのを見計らってから近づき、
血溜まりを踏まぬよう慎重に足を運び、首輪のみを回収する。
ロンバルディアの血振るいを行い、首輪についた血糊とともに、
リュナンのマントで入念に、だが迅速に拭いておいた。
念のため、眼の前の少女の首輪も回収しておくことも最初は考えた。
だが、ネスティに首輪の解析を依頼する際に、最初から複数個も持っていれば
要らぬ誤解を与えてしまうことにもなりかねないと判断したため、
ここは信頼を重視して少女の首輪は保留することにした。
もし足りなくなれば、またこちらに赴いて首輪を回収すればいい。
回収した首輪には、ご丁寧にも“リュナン”と
その持ち主の名が銘打たれていた。
――異世界人の、“銘”?
先程のマグナの話しから、少々の違和感を感じ
その文字の字体を、今度は食い入るように眺める。
…明らかに未知の言語である。
古代神聖語でもゼテギネアで使われる言語ですらもない。
それは名簿や支給品説明書に使われてある文字も同様だ。
だがしかし、その内容を何故か私は“理解できる”のだ。
これは明らかに、異常である。
これは、マグナから召喚術の話を聞くまでは、
全く気にも止めなかった事だったのだが。
あまりにも自然過ぎるが故に、強く意識しなければそうと気が付かない程に、
出会った者達との意思疎通は至極当然の事であると先程までは認識していたのだ。
例えるなら、蜘蛛が誰に教わるでもなく精緻な糸の張り方を心得ているように、
“未知の言語”による会話と読解能力は私の頭蓋に余さず刻み込まれていた。
だが、それは一体“いつ”“何者達の手によって”付与されたものなのか?
考えるまでもない。
このゲームの“主催者達によって”“この舞台に召喚された時”以外にありえないだろう。
それは魔法を付与するかのように、ごく当然のように人にその知識を刻みつけたのだ。
――やはり、そうなのか?
私はあの場を立ち去る前、マグナが話していた内容を思い出す。
それは別世界の住人をリィンバウムに呼び出し、
現地の言語を理解する力を与える『召喚術』なるものの存在だ。
カオスゲートも何もなく、異世界の存在を大規模に召喚し、支配する魔法か。
無論、無条件でなんの代償も必要としない力などどの世界にも存在しないだろうが…。
だが、特別な“門”も“鍵”も必要がなく。
一切の時と場所を選びさえもせず。
無数にある異世界の存在を欲しいままに呼び出し、
言語を理解する力を与え、
文書を読解する力を与え、
支配し得るほどの手段を、
もし“こちら側が”手に入れることが出来たなら?
もし、この召喚術がリィンバウムでしか使えないものであっても。
それが長年の知識の蓄積により立脚された“技術”である以上、
時を掛けその技術を解析し、応用をすればいずれゼテギネアでも
使用できるものに改良出来るであろう。
そうなれば、もはやカオスゲートの解放どころの話しではない。
危険を冒して“門”を探し、こじ開ける必要性は全くなくなる。
この召喚術を応用すれば、オウガはおろか異界の神々でさえも
必要な数だけ呼び出し、あるいは不必要な存在のみを送還し、
思いのままに従わせることさえも可能であろう。
天界や魔界の存在との接触が容易になるということは、
向こう側にある“究極の力”さえも容易く手に入るだろう。
この“召喚術”を手に入れて生還すれば、この上ない功績となる。
それは部下の造反に合い、暗黒騎士団壊滅の憂き目にあった
その失態を帳消しにして余りあるものといっていい。
――禍転じて、といったところか。
だが、それは己の才覚次第となる。
“召喚術”なる未知なる技術をいかに首尾よく手に入れた所で、
まずは生還の目途を立てないことにはどうにもならない。
この世界から脱出を図るにしろ、優勝を狙うにしろ。
その二つの選択肢の見極めの為にも、ネスティとの接触と
“抜剣者達”との接触はいち早く行わねばならない。
そして、彼らに利用価値があるかどうか、早急に見極めねばならない。
利用価値があれば良し。もし、そうでなければ――――。
首輪の事については“
カーチス”と呼ばれた存在も気にはなるのだが、
それはネスティとの交渉後でも構わないだろう。
ならば、このような場でぐずぐずとしている暇はない。
私はそう判断すると、いち早く森を西側へと駆け抜けた。
◇ ◇
西に駆け抜け街道に入った私が遭遇したものは、
憔悴の極みにあるその身体を小柄な背に預けている女騎士と、
それを満面の笑顔で背負う、エンジェルナイトの
出来損ないのような幼女であった。
街道を通るのは余りにも目立ち過ぎるが故に、
なるべく通らずに南方の町を目指したかったが、
相手側もどうも同じ事を考えて、西の城へと向かっていたらしい。
夕暮れ過ぎの街道は想像よりも視界が悪く、
故にお互い接近に気が付かなかったのだろう。
相手側に装備は一切なく、周囲を警戒した様子もない。
おまけに重装の女騎士を背負うような姿勢では、
あの幼女に機敏な動作は至難の業であろう。
余りにも、不用心に過ぎる。
故に、こちらが先に二人に気付く形となった。
そして、距離は二十歩前後とやや近いい。
――さて、どうすべきか?
私は気付かぬ振りをする事も選択肢の中に入れていた。
だが、こちらが身を隠す前にエンジェルナイトも私に気づいてしまい、
小さな白い手を激しく左右に振ってこちらの存在をアピールする。
――気付かれたか。
現時点での二人との接触によるこちらの害は少なく、
逆に逃亡する事によって発生するデメリットは大きい。
私は即座にそう判断し接触を決意したが、私の行動より早く、
エンジェルナイトは軽やかにステップを踏み近づいてきた。
私はそのあまりの不用心さにも呆れたが、それ以上に。
重装の女騎士を背負って息一つ切らさず、
全く重量を感じさせない滑らかな動きで
こちらに疾走したその体力に驚愕した。
一方、女騎士はその振動で初めて気が付いたらしく、
自分が今置かれた状態に呆然自失とする。
女騎士は“不審者”に気づくのが大幅に遅れてしまい、
苦渋に満ちた顔を隠そうともせずこちらに向ける。
それは己がした油断と、幼女への注意が致命的に
遅れてしまった自責の念もあるのだろう。
だが、それ以上に。
その血色の悪い青白い顔が心なしか紅に染まっていた事から、
そこには己の恥ずかしい光景を見られた羞恥の感情も含まれていた。
◇ ◇
「――それで、今ここに到るというわけですね。ランスロットさん。」
「ああ。そして貴公らはこの森から出て間もないということか。」
フロンと名乗るエンジェルナイトの出来そこないは、
アグリアスと名乗る女騎士を肩から降ろし、お互いの情報を交換する事になった。
女騎士は重度の疲労(顔色から察するに生命に関わる程の貧血)を伴っての強行軍の上、
ヴォルマルフの放送とやらによって知らされた、仲間の死亡による心労が重なった事により
ついに倒れてしまったので、それをフロンが責任を“取る(?)”形で肩車をしていたのだという。
女騎士はこちらを最初から警戒していたようだが、気づくのがフロンよりも遅れてしまい、
なおかつフロンがこちらとの会話を始めてしまったため、口を利く機会を逸したようだった。
私はこれまでのあらましを二人に説明する。
ただし、内容は少し伝え方を変えているが。
「同行するには危険性が高いと判断したため、
ラムザ達と袂を分かった」とは言わず、
「同行中に不審者を発見したため、それを追う内にはぐれてしまった」と伝えておく。
不審者(リュナン)を追跡していた事に関して、別段私は嘘はついていない。
ただし、利用価値の無い不審者を始末した事については何も言わなかったが。
女騎士はラムザと別行動を取った事に不信感を抱いたようだが、
その理由を深く追及しようとまではしなかったらしい。
失態を犯した私を気遣っての事か?いや、それは違う。
おそらくはこの場でこの私の不興を買ってしまえば、
身に危険が迫る可能性程度は計算しているのだろう。
――賢明な判断だ。
無防備で愚かな幼女と違い、ある程度の判断力は付いているらしい。
フロンは私の言い分を鵜呑みにしてあるので、もはや論外なのだが。
二人には名前を“ランスロット”と名乗ることにした。
これまで通り“アルフォンス”と名乗ってもよかったのだが、
先程の件のように余計な誤解を与え事態をややこしくするよりは、
最初から名を名乗った方が良いと判断したからだ。
私は会話中に鞄に入っていた透明の水筒を一本取り出すと、
貧血で意識を保つのが億劫になっている女騎士に差し出す。
女騎士は一瞬物欲しそうな顔を浮かべるものの、
「それは受け取れぬ」と謝罪し、丁重にこちらに返した。
私はその拒絶の真意をよく理解していたので、
「警戒するのも無理はない」と謝罪の言葉を添え、深く頭を下げる。
そして自分から一口だけ水筒に口を付け「毒味」を行った後、
ハンカチを添えて改めてもう一度差し出す。
…これは、別段親切で行ったわけではない。
警戒心を解かせる為であるのも勿論だが、それ以上に。
女騎士が会話の中でこの私をどう判断しているか?
女騎士がどのような人間性を持つ人物であるか?
それを値踏みしておきたかったのである。
すぐに水筒を口にするなら油断しきっている証であり、
一切水筒を口にしないなら警戒が残っている証である。
こちらが相手の気を遣い、「毒味」までして安全を保証した際に、
それでなお口にしないなら敵意まで持たれていると考えればよい。
女騎士は、こちらの反応に対して申し訳なさそうな顔を浮かべてから
しばらく悩み続け、そして思い切ったように私のハンカチを使い、
飲み口を拭いてから水筒を口にした。
――しかし、まだ甘いな。
――そのハンカチに毒でも塗り込めてあれば、一体どうするつもりなのだ?
私は騎士の不用心さに心中で溜息を付く。
今回は別段毒は用意できなかったし、またあったとしても塗るつもりもなかったのだが。
だが、私のハンカチをあえて使ったのは、
「私はお前を信頼する。一切、疑ってなどはいない。」
という感情をその行為に表わしたものなのかもしれない。
つまり、警戒する心は忘れぬものの「相手の誠意には出来るだけ答えたがる」
感情が何よりも優先される、極めて実直な性格の騎士なのだろう。
これは好都合である。扱いさえ間違えなければ、何よりも御しやすいといえよう。
そして、もう一方のエンジェルナイトの出来損ないだが、
これは極めて掴み所のない妙な変人であった。
救いようのない愚者の類であるのは間違いがない。
この殺し合いの場において、他の競争者を背負うなどもはや狂気の沙汰としか思えない。
そして、もしその対象に全く敵意が無かった場合としても。
二人揃って機動性を失うような行為を他の敵意もつ存在に発見された場合、
飛び道具を持っていれば二人もろとも蜂の巣にされる危険性がある。
半回転して女騎士を盾にすること位は出来るだろうが、背負う危険性がはるかに勝る。
どうやら女騎士は私の接近でようやく意識が戻った風であったが、
彼女自身が進んでその幼女の背に乗ったというわけではないようだ。
それは女騎士の先ほどの態度から見ても明らかである。
ただし、重装の女騎士を背負う幼女に息一つ切らせた様子はなく、
むしろ体力が有り余っている様子であることから、
人間の常識を超えた体力の持ち主であるのは間違いない。
その貧相な体格で、それだけの筋力や持久力を
只の人間は出せるはずがないのだから。
恐れるには足りぬが、その桁外れの身体能力だけは注意すべきであろう。
私は出来るだけ聞き手に徹し、目の前の幼女から情報を引き出す事に集中する。
話しの脱線(特に神の愛について)には軽くいなし、
フロン自身やこの場にいる仲間の話題、あるいはこれまでの遭遇者の話しへと
流れを変えて情報を引き出すには、格別の苦労を必要とした。
幼女が何一つ包み隠さず流暢に話す様子は、心中で失笑を禁じえなかったが、
その甲斐あってか、情報には大いに役立つ事も含まれていた。
曰く、自らは愛の天使であり、この戦いを終わり主催者に神の愛を説くのだと。
(呆然を通り越して軽い偏頭痛さえ覚えたが、主催に最後まで反抗する立場である事だけは理解した。)
曰く、自らは大天使に罰として花へと姿を変えられたはずが、
ラハールの力によって再び天使見習として生を得たという事。
(この天使は大罪を犯し完全なる堕天前に封印された、聖魔シャヘルに匹敵する危険な存在だと認識する。)
曰く、自らとラハールとはただならぬ関係であり、今度は自分がラハールの為に命を賭す覚悟でいる事。
(外見年齢も近いことから、ようはこの幼女はラハールの寵愛を受けた愛人関係にあると解釈する。)
曰く、こちらに呼び出されてから“乱暴なお兄さん”からの襲撃を受け、
デニム、
カチュア、ランスロット・タルタロスの三人の事を聞かれた事。
(さらに詳しく尋ねた人相から、記憶にある“身の程知らず”の人相とが一致した。)
曰く、さらに支給された紫の宝石の力によって、同行する女騎士と深い愛によって結ばれたということ。
(この発言に眼の前の女騎士は渋面を浮かべ、私は軽い眩暈さえ覚えた。
支給された紫の宝石(サモナイト石?)に封じられた魔物にこの天使が憑依されてしまい、
目の前の女騎士に欲望の限りを尽くしたものだと推測する。)
最後に、ラハールが口にしたカーチスという男を知っているかどうか尋ねてみたが、
やはりこの女もその存在は知っていたらしい。首輪についてさりげなく聞いてみたものの、
「首輪に使われるようなカラクリについて、カーチスに勝るカガクシャはない」らしい。
これには、隣で話しを聞いていたアグリアスも目を剥いていた。
やはり、これは大きな収穫である。
無論、首輪を解除できる可能性のある人物をあえてこの舞台に参加させる以上、
主催側もなんらかの保険は打ってあると考えるべきだが、これで一歩前進したのは間違いない。
ともあれ、ネスティと同様に極めて重要な存在であることだけは理解した。
さて。二人から聞き出すべき事は、全て聞き出した。
あとは二人の処遇について、最善の対策を考察してみる。
聞けばアグリアスという女騎士も、ラムザとは深い関係にあるらしい。
それが恋愛関係なのか、それとも単に信頼の置ける戦友止まりなのか、
そこまでは判断が付かなかったが、あの人の良さそうな少年の事。
いずれの場合も苦境にある女騎士を見捨てる事は決してないだろう。
――つまり、これから考えだされる、二人に対して私が取るべき行動は“二つ”。
一つの案は、二人の護衛を申し出て、ラハール達の元に届けるということ。
ただでさえ両者ともに今の状態では戦闘力はなく、護衛は欲する筈である。
こちらから護衛を申し出て、断られる道理は何一つない。
だが、問題は護衛が終了し、ラハール達と合流してからの事である。
たとえ一時であれ、彼らを捨て置き単独行動を取ったことについては、
当然非難の視線や詳しい追及もあることだろう。
だが、それについてはなんら心配はしていない。
「不審者を発見したので追っていた内にはぐれてしまった、
急を要しており、残念ながら声をとかける暇さえなかった。」
とでも言えば言い訳は立つ。
それに、あの人を疑う事を知らぬ愚物なら勝手に助け舟を出すだろうし
護衛されている二人も“善良な”(失笑すべき)人間ばかりと来ている。
それが経緯はどうあれ助けられた中で、こちらを悪く言うことはまずありえない。
この二人の愛人かもしれぬ者達を無事保護して連れて来たとなれば、
これまでのラハール達の不信感を払拭して余りある功績となるだろう。
情けは人の為ならず、とも言う。
それにラハール達の信頼を得ておけば、今後のカーチスとの接触も有利に働く。
その上、二人の護衛するにあたり、城までの距離はそう遠くない。
二人を無事届けてから、「思い当たることがある」とでも言って、
しばらくの単独行動を改めて申し入れてもいいだろう。
マグナの始末も、その後でゆっくりと考えればよい。
そう、悪くはない話なのだ。
だが、二人の処遇については、もう一つ案がある――――。
こちらは、ともすれば下策とも言えるものだろう。
本来は、あまり私らしくもない案だと言える。
だが、上手く私の狙い通りにいくならば、
それは私が心より望む未来を得る事ができるだろう。
それに、私は――――。
腹は決まった。
私は二つの選択肢のうち、その一つを決断する。
私はその覚悟を丹田に据え、感情を制御すると
女騎士に話しをもちかけた。
◇ ◇
「アグリアス殿。貴公の今の状態では、いかに騎士とは言えまともに立つことさえも辛かろう。
故に貴公はそのままフロン殿に背負われ続けてるといい。今の貴殿に、護衛は荷が重い。
あとは私一人が責任を持って護衛を行い、ラムザ達の元へ送り届けよう。…それで構わぬな?」
私はあえて気の毒そうな視線を送り、女騎士を知らずして誇りを傷付ける振りを装う。
私の厚意に甘えるならよし、拒絶するなら、それもまたよし。
そして、女騎士の取った行動は、やはり激昂による拒絶であった。
「…ふざけるなッ!たとえ疲労困憊にあろうが、私とて騎士のはしくれッ!
ラムザ達を見失いなお平然としている貴様と違い、矜持もあれば恥を知る心もあるッ!
確かに出会った時は不様を見せたとはいえ、この私をか弱い女扱いされては困るッ!
これより先は、この私が先導するッ!!
…貴様こそ、指を銜えて後ろに下がっていると良いッ!!」
想像通り、女騎士は完全に被保護者扱いされた事に完全に激昂し、私に詰め寄る。
「…うむ。実に良い返事だ。だが、これで気力は蘇ったか?
それでこそ騎士というべきものだ。私とは違ってな。
ならば、貴公にも警戒を任せたいのだが、武器はどうしたものか。」
女騎士は私の発言に何かを気付かされたように衝撃を受け、
そして恥じ入るように私を見つめ、そして口ごもる。
女騎士には、腰に下げる武器が一切ないが故に。
「…すまない。貴殿はあえて私の為に憎まれ口を叩き…。いや、今は感傷に浸る場合ではないなッ。
武器は…、なくとも素手での格闘なら心得ている。それなら任せておくがいいッ。」
女騎士は私の騎士剣を一瞬だけ物欲しそうに眺めると露骨に目を伏せ、
そして空元気とも虚勢とも言えぬ覚悟を見せ、自らの胸を拳で叩く。
肉体の衰弱は精神を弱らせ、気力を萎えさせる。
すがるべき剣でもあれば、話しは別なのだろうが。
私はロンバルディアを鞘からゆっくりと引き抜き、
柄の方を女騎士に向け、丁重に渡そうとする。
「だが、このロンバルディアがあれば、なお仲間の護衛は果たせるであろう。
それに、先程の非礼の詫びの意味もある。これを一時の間、貴公に預けよう。
何、私とて鞘さえあれば護身程度はこなせるし、素手の格闘は私も心得ているからな。」
そういって、微笑を浮かべる。
今度は慇懃無礼なものでなく柔らかく。あくまでも柔らかく。
同じ騎士としての厚意をその行動と態度で示す。
「…ッ!そのようなもの、軽々しく受け取れるものかッ!!」
女騎士は息を呑む。私が剣を預けることに。
騎士がその生命線とも言える剣を預けるといった行為が、一体何を指すか?
住む世界は違えどもやはりそれが意味する事を察し、女騎士は目を剥き、驚きの声を上げる。
それでもやはり、そこまでの施しは受けられないという事だ。
「この行為は、貴公のみならず全ての者達に対する謝罪と、
この私の顔を立てるものと考えて借り受けて頂ければいい。
アグリアス殿。これが、私なりの謝罪の仕方なのだ。」
だが、私の提案と目の前のすがるべきものに目がくらみ、
心身の衰弱した状態でのその言葉が後押しとなったのか、
悩みに悩んだ後、女騎士は丁重にそれを受け取る。
ロンバルディアが持つ独自の鋼の輝きを女騎士が察し、
僅かな感嘆の声を上げたのを、私は聞き逃さなかった。
「…ならば、この剣は貴殿から確かに借り受けよう。
だが、貴殿の剣とその思いもまた、必ず返す事を約束しよう。
何事も借りっぱなしというのは、私の性に合わん。それに…。」
「…それに?」
「私はどうも貴殿のことを誤解していたようだ。
ラムザ達の事から、最初は信用ならぬものとばかり考えていた。
だが、これまでの立ち振る舞いから、貴殿は信頼に足ると見た。
ならば、私もまた貴殿の思いに答えたいッ。」
「そうか。そう言っていただけるとは私も光栄だ。
では、時間が惜しい。直ぐにでもラムザ達の元に向かうとしよう。」
私はそう言ってロンバルディアの鞘を腰から外す。
その行為を、二人は当然の行為と考えて見逃す。
――そう。見逃したのだ。
「ああ。言われなくともッ!では、私が前方を警備しよう。貴殿は最後部を警戒してくれ。
私がこのような銘剣を預かる以上、これは当然の事だ。フロンは、安全な中央にいるといい。」
「…心得た。」
「…さあ、行くぞッ!!」
自らを奮い立たせるような気合の声を上げ、女騎士は私に背を向ける。
天使の出来損ないは、女騎士に近づき早足で歩く。三人の距離は近い。
そして双方ともに油断しきっている。
――隙が、出来たな?
――そして、待っていた。待ちわびていたぞ。この瞬間を。
私は三人の位置関係とその占める空間をその呼吸から、
足音から、風を遮る感覚から、その匂いから、
視覚以外の五感を総動員して正確に把握する。
アグリアスは前に、フロンは左側に。歩速も計算済。
そう。これまでの二人に対する演技も、
女騎士に騎士剣をあえて与えたことも。
すべてはこの瞬間を生み出す為にこそあった。
話しの展開から、偶然に抜き身の剣をその厚意により
与えられたと考えれば、油断するのは必然である。
万一警戒心が残っていた所で、相手は徒手空拳となる以上、
生殺与奪の権利は自分こそが握ったと思い込む。
だが、それこそが罠なのだ。
全ては、この決定的隙を生みだすための布石。
そして、たかが刀剣の鞘であっても。
本来武器でないようなものでも。
護身はおろか、しかるべき部位に充分な力を乗せて打ち込めば、
わずか一撃でその生命を奪うには充分な力を持つのである。
それを、女騎士は失念してはならなかったのだ。
私は、真正面から襲いかかる事は最初から考えなかった。
二人がいかに丸腰とはいえ、一人は正規の訓練を受けた練達の騎士。
そして、一人は人間の常識を遥かに凌駕する、身体能力を持つ天使。
万が一ということも十分にありえるし、一人を相手している間に、
もう片方に逃げられる可能性もある。
そうなれば、いずれにせよ己の命運は尽きてしまうであろう。
ならばこそ、一度排除すると決断したからには
目撃者を一切残さず、必殺を期させねばならない。
そして、その絶好の機会は、私の手で手繰り寄せた。
――私が手繰り寄せた、完全なる“勝機”は、今、ここにあり。――
感情は最初から制御してある。気配は消したまま。
左足は前に、右足は後ろに、鞘は右肩に担ぐように構える。
右足を高速で前方へと蹴り出す。その勢いを余さず乗せ、
鞘を袈裟に、女の首筋に向けて全力で振り落す。
風が唸る。悲鳴を上げる。その斬り裂き音が女騎士に警告する。
危険だと。早く気づけと。速く逃げろと。
だが、その悲鳴がその耳に届く前に。私は事を為し遂げる。
ごきり。
鞘の打ち込まれた速度と角度、そして手に伝わる鈍い衝撃。
長年に渡り、飽きるほど体験し続けたその確かな手応えから、
おそらく女騎士は何が起きたかさえ理解できず、即死したものと確信する。
まだだ。
まだだ。これで終わりではない。
危機はまだ脱してはいない。
肝心は、ここからだ。
「――え?!」
天使の目が驚愕に見開く。
眼前の不測の事態に、天使の脳は処理を行いきれていない。
これもまた、私が生み出した隙。計算の内。
だが隙は数秒。僅かに数秒。そう想定する。
それを逃せば、憎悪に燃える天使は私を狩り殺そうとするだろう。
それも、恐らくは聖魔シャヘルにも匹敵する存在。そう推測する。
身体能力は、おそらくこちらを凌駕しているものと計算する。
まともに戦って、勝ち目は薄い。
だからこそ、天使がその真価を発揮する前に斃さねばならぬ。
この数秒の隙で仕留める。仕留め切る。
そうでなければ、敗北と死は私に訪れる。
そう覚悟する。
私は鞘を手離して前方に踏み込み、女騎士の背後を取る。
私は女騎士が力を失い崩れる前にその背中越しに、
その左手で左手首を握り、その右手で右掌を握る。
ロンバルディアは、“女騎士だった”死体に握られたまま。
私は女騎士の死体とタンゴを踊るかのように、円弧を描き高速で旋回する。
その付いた勢いは殺さぬままに。むしろ次なる刺突に活かすように。
私は前方となった天使に向けて強く、大きくその脚を踏み込む。
私は女騎士だった死体を通じて、目の前の天使の心臓を、完全に刺し穿つ。
ずぶり。
奥へと。
奥の奥へと。
そして最奥まで。
私は柄までめり込んだ剣をその感触で確認すると、
それを一度捻じり心臓を破壊してから引き抜く。
同時に左足で女騎士の背を前方へ蹴り、
崩れ落ちようとする天使の上に被せる。
遅れて噴き出す鮮血は全て、女騎士の死体が抱く様に受け止めた。
こちらには一滴たりともその血が降りかかることはない。
この間、わずか三秒。
――全て、終わったか。想定通りだ。
己を信頼した人間を背後から殺すことに対する良心の呵責もなければ、
不意打ちに成功した勝利に感慨することも、死体を嘲ることもない。
倒れた衝撃で、紫の宝石が女騎士の懐からこぼれ落ちる。
刀身についた鮮血は、血振るいで残さず落す。
非の打ちどころのない、反吐が出るほどに浅ましい、
“人殺しの技術”の粋は、ここにある。
ただひたすらに目的の為には一切の手段を選ばず、
用意周到に人を欺き、絶好の隙を狙う。
そして確実に、殺すべくして完殺する。
それは人殺しを生業をするのもののみが可能とする、
至高にして下劣極まる、卑しく磨き抜かれた殺人の技術。
そこに騎士道精神や人の誠意など、欠片もありはしない。
その人殺しの玄人ならではの、悪意の結晶たる技術の粋を、
純粋無垢たる天使が理解できようはずがなかった。
誠意を信じる実直なる女騎士に、想定しようがなかった。
人の理を超越した天使は、
人の誠意を信じる女騎士は、
人の悪意の結晶であるその卑劣を窮めた技術の前に、
あえなくその生命を儚く散らした。
私は二つの死体を製造した、その現実のみを認識する。
そして、これがもたらすであろう影響のみを計算する。
私は二人の双眸から完全に光が失われた事を確認する。
そして女騎士の懐から転がり落ちた紫の水晶を懐に入れ、
ロンバルディアの鞘を回収すると迅速に街道を離れた。
◇ ◇
二人の処遇については、もう一つ案があった。
それはフロンを殺すことによりラハールの不安定化を誘い、
女騎士を殺すことによってラムザの動揺を誘い、
一行の結束を完全に破壊してしまうことであった。
ラハールとラムザはこちらを最初から警戒している節があった。
ラムザは私に何か本能的に察する所でもあったのか、
こちらの言動を見落とすまいと目を離す事はなかったし、
何よりラハールは誰でも良いから暴れる相手と理由が欲しく、
それが何者相手であろうが一向に構わないといった風情であった。
何時暴れ狂うかもしれぬ狂犬と、こちらを警戒するその飼い主。
そして、何よりも空気を察する事が出来ぬ、愚かも極まる青年。
こちらが手駒とする相手としては、相応しくない者達であることは間違いない。
マグナへの殺意も勿論あるが、彼らは利用価値に乏しく、こちらの背負う危険は高い。
そういった理由も複合していたからこそ、私は彼らの元を離れたのだ。
だが、このまま離反したまま彼らを放置しておけば、
彼らに悪評を流されぬとも限らない。だからこそ、先手を打つことにした。
彼ら二人をエスコートしてラムザ達に引き渡したなら、
確かに彼らから好感を得る事は可能であっただろう。
だが、そこまで媚入ってまで彼らに固執する必要性を、この私は感じなかった。
そして、到底味方として利用できぬ以上は、敵であるものと認識する。
たとえ私が主催に敵対する立場を取るにした所で。
こちらに敵意を持つ存在を、生かしておく道理はない。
「敵の敵は味方」という言葉もあるが、この状況下での制御不可能な味方という存在は、
「戦場での無能な味方」以上に極めて厄介な存在となる。
愚者が勝手に主催に何の計画性もなく暴れ、その結果として「こちらまで」警戒されると、
あるいはそのとばっちりで「まとめて」首輪を爆破される恐れさえあるからだ。
ならば、「厄介な存在」は大きくなる前に、その芽を積んでおくに限る。
それは例えこちらと利害が一致した所で、私の計画を乱し、
足を引っ張りかねぬ不確定要素となりかねないのだから。
故に、ラハールという名の狂犬の理性の拠り所を奪い、
その飼い主の心に揺さぶりをかけ、結束を破壊する。
そうすれば、こちらへの警戒どころの話ではなくなるだろう。
あとはゆっくりと自滅を待てばよい。
それに、なにより。
安易に仲間とやらを信じ、手前勝手な空想を押し付け、
一人勝手に悦に浸る夢想家への最高の意趣返しにもなる。
――あの青年に、現実というものを教えてやれる。
そう考えると、自然と笑みが噴きこぼれた。
可笑しく。可笑しく。ただ可笑しく。
私は声もなく、疾走しながら嗤い出した。
それは、これまでの私には全く相応しくない。
むしろ、自分さえも驚くような浅ましく卑しい、人がましい笑み。
この昏い喜びの正体を、粘着性を帯びた下劣な感情の名を、私はよく知っている。
――ようやく理解できたよ。私が貴様に殺意まで抱く真の理由が、一体何であるかを…。
人間は人間に対して殺意の感情を抱く。
人間は野良犬に対して殺意の感情を抱くこともあるが、むしろ稀である。だが。
人間は肥溜に群がる蛆虫に対して、殺意の感情は抱かない。抱く訳がない。
人間は比較に値するものにしか、特別な感情を抱かないものである。
私はマグナに対して殺意まで抱く理由に不可解さを感じており、
そしてまた戸惑いを感じてもいた。
本来、私にとって綺麗事ばかり口にし、不用心に過ぎるマグナなどは、
この殺し合いの場においてはいの一番に始末される救いようのない
愚物に過ぎず、それこそ人間にとっての蛆虫に等しき存在でしかない。
取り立てて憎むような存在では、決してないはずなのだ。
その軽蔑にすら値しない存在に対して殺意まで抱くというのは、
私が心のどこかで対等かそれ以上に見做している事を意味する。
その悪意の源泉が、私には理解できなかった。…これまでは。
昼食を取りながらのマグナの一方的な話しの際、明らかな苛立ちを私は感じていた。
それは人の心に土足で侵入しようとする、彼の配慮のなさから感じたものだと解釈していた。
確かに、それもあったのだろう。
だが、それ以外の。
だが、それ以上の。
心の奥底に沈澱する、煮え滾る悪意の源泉を、私は今理解した。
マグナには兄とも呼べる存在がおり、そして恋人かも知れぬ少女が存在する。
そして何一つ挫折を覚える事無く。そして何一つ別離を知る事無く。
裏切りを知らず。欲望を知らず。悪意を知らず。人の醜さを知らず。
のうのうと、純粋なまま笑顔のまま、マグナは生き続けてきたのだ。
現実というものを、まるで理解しようともせず。
この私とは、まるで真逆の人生を歩み。
だがそれは、否応なくこの私にもありえたかも知れない、
もう一つの未来を連想させずにはいられなかった。
レクトールがいれば。エレノアがいれば。
私は、今の私では決してなかったのかもしれない。
私は、目の前の青年のようになりえたのかもしれない。
あの青年とあの頃の私は、境遇が酷似しているが故に。
それは今となってはもはや思い出す事もなかった筈の、心の古傷。
今の私にとっては、失笑すべき、恥ずべき、青臭い過去。
この青年に出会わなければ、それはそのまま風化していた事であろう。
それをあの青年はあざとく見つけ出し、その傷口を抉り出し、
ご丁寧に塩まで塗りこんでくれるのだ。それも満面の笑顔で。
それに憎悪を抱かぬはずがあろうか?
それに悪意を抱かぬはずがあろうか?
それに害意を抱かぬはずがあろうか?
マグナに対する殺意の源泉は、そこにあった。
先程の放送で「アメル」という名が呼ばれた時も、私は知らず笑みが噴き零れていたのだ。
彼女が主催者を始末する為の有力な駒となりうるかどうか、まだ確認すらしていないというのに。
マグナのが抱いた慟哭を想像するだけで、首が熱を帯び、どす黒い歓喜の感情が沸き上がった。
――私は貴様が、マグナが、妬ましかったのだな?
私は本来、人の死に対して一々喜びもしなければ、悲しみもしない。
一切の感情を、私は抱かない。それは、敵味方問わず同様であった。
感情に溺れれば、技は乱れ計画は霧消し、獣と変わらなくなるが故に。
だが。
だが、今の私は。
まるで愚痴ばかり零す愚かな民のように、他人の不幸を純粋に喜んでいる。
本来は関わりのないはずの愚物の絶望を、極上の甘露とし悦びとしている。
――近親憎悪。
それが、マグナに対して抱いた私の感情の正体であった。
過去の自分と似た、だがしかし自分とは真逆の未来を持ち、
人生を謳歌する存在を許容できる者は、おそらくはいまい。
確かに俗人の極みに位置する、下衆な感情ではある。
だが憎悪の黒い炎に身を灼くというのも、
殺意の溶岩にこの身を熔かすというのも、
決してそう悪くはない心地であった。
そして、これからマグナに襲いかかるであろう
不幸を想像するだけで、哂いを抑えきれなくなる。
上手くいけば、フロンの死に激怒したラハールは
その鬱憤晴らしに見境なく襲いかかることであろう。
そして戦友以上の存在を同時に失ったラムザに、
その狂犬を御し切れる精神的余裕は、おそらくない。
だが。
だが、願わくば。
マグナにはまだ生き永らえて欲しい。
マグナにはまだこの程度の修羅場では死なないで欲しい。
親友や仲間が全て死に絶えるまで、悲嘆と慟哭を繰り返して欲しい。
救い切れない人間の悪意というものを、骨の髄まで理解して欲しい。
そしてその心が完全に折れ、擦り切れてしまった所を。
私はこの手で、最大の絶望と後悔の中で葬りたいのだ。
そう心より、願った。
そう心より、願った所で。
――先程の放送より一時間後。
本来はあり得ざる、臨時の放送がもう一度訪れた。
【フロン@魔界戦記ディスガイア 死亡】
【アグリアス@ファイナルファンタジータクティクス 死亡】
【残り35名】
【F-3/街道/一日目・夜(19時)
臨時放送直前】
【ランスロット・タルタロス@タクティクスオウガ】
[状態]:健康、マグナに対する底無しの悪意。
[装備]:ロンバルディア@TO、サモナイト石(ダークレギオン)
[道具]:支給品一式(食料を1食分消費しています) ドラゴンアイズ@TO外伝 、リュナンの首輪
[思考]1:生存を最優先
2:ネスティ、またはカーチスとの接触を第一目的とする。
3:抜剣者と接触し、ディエルゴの打倒に使えるか判断する。
抜剣者もまた利用できないと判断した場合は、優勝を目指す。
4:ラムザに対して強い警戒感。
5:いかなる立場を取る場合においても、マグナだけは必ず後悔と絶望の中で殺害する。
[備考]:マイク型ハンディカラオケ(スピーカー付き) は、F-3/街道にそのまま放置されています。
アグリアスが完全に死亡した為、その首にかけてあるクリスタルが発光していますが、
その前にその場を立ち去ったため、
タルタロスはその事に気づいていません。
タルタロスも首輪の影響により悪意が増幅されてますが、自覚はありません。
またマニュアルがない為、サモナイト石の使用方法も理解してはおりません。
エンディング後の、騎士団壊滅状態からの参戦です。
最終更新:2011年01月28日 14:41