「………なぁ?」
「………聞きたい事は大体察しがついてますが、何ですか?」
「…何故、俺たちはこんな事になってるんだ?」
「…私も逆にお伺いしたい所です」
………。
日も暮れかけた小山の麓で相応の年齢の男性二人が
全身に異臭を放つ汁を顔面に浴びて途方にくれている。
傍から観ればこの二人の関係を疑いたくなるような光景である。
ほんの少し前、
ウィーグラフと
中ボスは休憩の為に互いの支給された食料を確かめていた。
ウィーグラフが取り出した弁当箱に中ボスは見覚えがあったのか、
「ま、まさか、男二人の華の無い寂しい食事に色を添える物がこれほどの物とは!
喜んでくださいウィーグラフさん! この弁当の素晴らしさは私が保証します」
などとのたまいながら狂喜乱舞し、自らも続かんと取り出したのは小さな缶詰。
あまりのギャップの差に一瞬にして、意気消沈する中ボスに缶詰に見覚えの無いウィーグラフは説明を求めた。
「…アンマリダ、ナマエトイイコレトイイコノシウチハナンナンデスカ…ヘっ? あぁ、すいません。
ちょっと違う世界を覗いてました。
コレは所謂保存食の一つでして、中身は…はて?
シュールストレミング? 流石の私も聞いた事もありませんね」
缶詰を手に取りながら中ボスはラベルを興味深そうに繁々と眺める。
「私もその鉄の箱自体始めてみたが、そのような料理は聞いたことも無い。
…毒の可能性もあるな。
このような事をする奴だ、可能性は否定できん」
ウィーグラフも怪訝そうに中ボスが持っている缶詰を眺める。
「毒か如何かは開けてみれば分かりますよ。
ただ、缶切りは持ってませんし…
そうだ! ウィーグラフさん、あなたの剣で此処の所をがっちりやってください」
缶詰を地面に降ろし、隅の方を指差して中ボスはウィーグラフに指示を出す。
「ずいぶんと面倒な代物なんだな…此処で良いのか?」
ウィーグラフは半ば呆れながらも律儀に剣を取り出し、逆手に持つと剣先を缶詰に当てる。
「エェ、その辺で結構です。 割と堅いものなので勢いよくやっちゃってください」
「了解だ」
腕に力を込め、全力で剣を缶詰に押しつける。
缶詰の蓋が圧力に負け、穴を開けようとした瞬間、
湿り気を帯びた破裂音と共に
覗き込んでいた中ボスの顔面と缶詰の真上にいたウィーグラフの顔面に
その絶望的な異臭を放つ汁を撒き散らした。
………ちなみに、中ボスのバックにはこの缶詰に関しての注意文が収められていたのだが、
彼はその存在に全く持って気がついていなかった。
一時はただ呆然としていた二人だが鼻をつく、というより無理やりにねじ込んで来る
強烈な異臭に取り乱し始める。
「ギャァー、何ですかこの臭いは!? 臭ッ!! 半端じゃなく臭ッ!!」
「おい、止めろ! 暴れるな…って、グワッ!?」
「あぁ、すいません。 つい肘が…って、ヒギャァアアッ!! お弁当がぁぁぁッ!」
「ん? 今ので撒けてしまったか。 …コレは臭いな」
「撒けてしまったかって、これは無いですよウィーグラフさん!
既に香りもへったくれもあったものじゃありませんよ!」
「元はといえば貴様が無様に取り乱したからいけないんだろうが!
それにコレは俺に支給されたものだ!」
「やるんですか?」
「やる気か? 望む所だ!」
食い物の怨みは恐ろしいという事か。
大の大人二人がたった一つの缶詰が原因で睨み合う状況が、
今まさにこうして生まれたのである。
だが、すぐに二人は同時に溜息をつき、冒頭の会話に到る。
あまりの無意味さに脱力するしか他に為せる事は残されてはいなかった。
「おや? 俺の節介は要らなかったみたいだな」
お互いに何を如何切り出していいのかも分からなくなっていた状況を
変えたのは第三者の介入。
咄嗟に身構えた二人の視界に移るのは馴れ馴れしい態度で構えもせずに
ゆっくりと此方に歩いてくる初老の傭兵。
「おいおい、これが見えないンかね?
こっちは構えてもいないんだ、物騒なもンは引っ込めろよ」
両手を軽く挙げて、何も持ってはいない事をアピールする。
そこまでされて中ボスは構えを解くが、
ウィーグラフは警戒の糸を緩めずに初老の傭兵を睨みつけている。
「騙まし討ちは貴様らの得意とする所だろう。
直接な面識は無かったが噂くらいは聞いてるぞ、
ガフガリオン。
それに…
ラムザにライオネル城で討たれたともな」
ウィーグラフの言葉に驚いたようにガフガリオンを見つめる中ボスに対し、
当の本人であるガフガリオンは少し眉を吊り上げただけで大して動揺もしていない。
「俺よりラムザの奴に戦場の運は向いていたってだけだ、別にあいつを恨んじゃいねぇさ。
あの時、俺が死んだのは事実だ。 だが、あんたに今の俺は如何映る?
少なくとも亡霊って奴じゃねーぜ?」
ガフガリオンは足を軽く叩いておどけてみせる。
「…それについては私も貴様に聞きたい所がある。
戦う気が無いというのなら、少なくとも腰の剣は地面に降ろして貰おうか?」
おどけてみせる相手に対しても、気迫でそれ以上の接近は許さぬままに
ウィーグラフはガフガリオンに武器を捨てるように要求する。
それに対してガフガリオンは意外にもあっさりと応じてみせた。
がしゃりと剣が地面に落ち、更にガフガリオンはそれをウィーグラフ達の方に向けて蹴って寄越す。
「…いいだろう」
ウィーグラフが構えを解く。
それに対して表向きは表情は変えぬまま、内心でガフガリオンはほくそ笑む。
(如何やら上手い事入り込めそうだな。
悪いが、やっぱりあんたには俺みたいな芸当は向いてないぜ)
自分の胸元に収められたゲルゲの吹き矢をそっと隠しながらウィーグラフ達に歩み寄っていく。
必要なのは彼らの情報だけである。
その後は不意打ちなり、協力する振りでもして利用するなりすればいい。
特に重要なのは
ヴォルマルフと同じ神殿騎士であるウィーグラフの情報。
だが、用心深そうなこの男から情報を引き出すのは難しいだろう上に
この神殿騎士の奴らは大陸全土の情報に精通しているという厄介ぶりだ。
案の定、この男は俺がラムザに殺されているという事を知っていた。
だが、その俺がこうして今この場に生きて参加しているという事自体は
奴も預かり知らない事だったのだろう。
俺が引けるカードは実際の所はこの一枚のみ。
それをどうやって相手に上手く見せるかだけが、取り入るチャンスだった。
その為ならば、友好的な振りも無抵抗を装うことも厭わない。
結局の所、最後に生き残りさえすれば過程など如何でもいい事なのだから。
そして、自分の演技は相手を上手く出し抜いたという事だ。
こいつらは俺が素手だと思い込んでいる。
いざって時にはそれが事を上手く運ぶ最良の手段にもなる。
(悪いな、あんたのお陰でこっちは手持ちが増えたぜ?)
狡猾な蛇が一匹、巣穴の中へと潜り込もうとしていた時、
それを妨げるのは理屈の通じぬ理不尽である。
「くっっさぁ~~ッ!! 何これ、おっさんだらけの加齢臭が原因?
まぁいいや、おっさん共! 私に良鋼を黙って寄越すか、家来にならないとぶち殺すわよ!!」
際どい格好の少女が盛大に物騒なことを叫び、
その後方で少年が鼻を抑えながら少女の行動におろおろとしている。
少女たちに対しての大人の反応はほぼ同時に起こった。
「ゲッ! 魔王…様」
「ガフおじいさん!!」
名前を呼ばれた双方が一方は嬉しそうに、一方は複雑な表情で返す。
そして、それらについていけない男がただ一人残される。
「…説明を、願おうか?」
嬉しそうにガフガリオンに近寄っていき、
途中で地面に落ちていた剣に気づいてそれを大事そうに抱え込むレシィに
それに対して本当に予想外であったと言う様な表情のガフガリオン。
お互いに妙に気まずそうな雰囲気の中ボスとエトナ。
その二組に対してウィーグラフは眉間を押さえながら説明を求めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まいったなぁ~。
何でよりにもよってこの人に会っちゃうかな私。
何か妙に腹立つから後でレシィの奴か
このおっさんのどっちかで憂さ晴らししよっと♪
おっさん共が何か話し込んでるけど、
私にはあんまり興味が無い話だから如何でもいい。
今、私が見てるのは目の前で困った顔をしているこの人。
正直、こいつが未だにあの魔王様だったなんて信じられないけど
実際にこの目で見ちゃったんだから信じるしかないでしょ?
「…お久しぶりですね、エトナ」
困った顔をしたまま中ボスの奴…うぅん、魔王クリチェフスコイ様が私に話しかけてくる。
あっちも周りのことはあんまり目に入ってないみたい。
「お久しぶりって、その姿のあなたにならちょっと前に会ってますし…」
なんて返したらいいのかなんて分からない。
私は絶対に裏切っちゃいけないこの人の期待を裏切っちゃった訳だし…。
「エ、エェ…そうでしたね、ハハッ」
ぶっきら棒に返した私の反応にこの人は馬鹿正直に答えちゃうし。
この人はいつだってそうだ、悪魔の癖して妙に正々堂々に拘るし
私らの千分の一も生きられないような人間の女なんかと結婚するし…
ッ!
又だ、あの女のことを思い出すと胸の奥がイラっとする。
この感情が何なのか、多分私には一生分からない。
「…それで」
イライラする。
「えっ?」
この人の笑顔を見てると、
この人が魔王様なんだと思うと何故かホッとする自分にも。
「ここでやるんですか?
あんたはもう私の主人でも何でもないんだから私とは関係ないでしょ?
あんたは中ボス。 中ボスなら中ボスらしく私に倒されちゃいなさいよ!」
そうだ、あいつはもう魔王様なんかじゃない。
あいつは所詮、中ボスなんだからぶっ殺しちゃえば良いだけだ。
…本当に?
「出来ませんね」
きっぱりと言ってのけられちゃった。
「私はあなた達を守りたくて此処にいるのです。
知っての通り、既に私は死んだ身。
例え此処で死んだとしても、結果には何も変わりはありません。
私の目的は唯一つ。
あなたの前にこうして生き恥を晒してでも、
あなた達を無事に送り返す事だけです」
固まっちゃってる私を無視して一人で熱血しちゃってるし、
何なのよ本当にこの人は?
「それにエトナ。
私にしてみれば
ラハールと同じようにあなたを娘のように思ってるんです。
どうして娘と本気で拳を交えることなんて出来ましょうか」
娘と言われて胸の奥がチクッとする。
あの女の顔が妙にチラついて頭の中もモヤモヤ。
「…このッ!―――」
何を言おうとしたのかなんて分からない。
ただ、このモヤモヤを如何にかしてさっさと晴らしてしまいたかっただけ。
それなのに。
『――諸君、これから第一回目の放送を始める』
何で邪魔するかな、本当に。
「あぁ~、止め止め!
あんたよりこっちの方が大事だから一旦お預けね?」
そうだ、取りあえずはこっち優先で良いでしょ。
この人は多分、逃げない。
この後、如何するかなんてこれを聞きながらゆっくり決めればいいや。
「…エトナ」
聞かない。
というか、聞きたくない。
そっぽを向いた私にあの人はまだ何か言おうとしてたけど無視でいい。
あの人の声を聞くだけで私の胸がチクチクと痛むから。
【C-3・小山の麓/1日目・夕方(放送後)】
【エトナ@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:健康 、歩き続けによる疲労(極小)
[装備]:手斧@暁の女神、クレシェンテ@タクティクスオウガ、エクスカリバー@紋章の謎
[道具]:支給品一式(1/2食消費)(道具・確認済み)
[思考]1:あぁ~、何かイライラする!
2:魔剣良鋼が欲しい。
3:適当に弱そうな奴から装備を奪う。出来れば槍か斧が良いが贅沢は敵だ
4:優勝でも主催者打倒でも人助けでも、面白そうなこと優先 (とりあえず暫くは主催打倒でいいかも…)
5:レシィを家来にする。家来を増やすのもいいかもしれない。
6:それにしてもくっさいんだけど!
【中ボス】
[状態]:軽症(顔面の腫れと痛みは引きました)
[装備]:にぎりがくさい剣@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式 、ウィーグラフのクリスタル
[思考]:1:ゲームの打破
2:自分が犠牲になってでもラハール達の帰還
3:…困りましたね、反抗期?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
誤算だった。
死ンだとばかり思ってたが生きてたとは。
可能性が無かった訳じゃないが、
まさか律儀に追いかけてまで来るとはな。
しかも、何とまぁ間の悪い事か。
俺があいつらを油断させる為に降ろした剣をレシィの奴に抱え込まれちまった。
不意打ちに使える道具はこの吹き矢だけと来たか。
更に拙いのはレシィの奴が俺がこいつを見捨てた事をウィーグラフ達に伝える事だ。
折角、油断してたのに一気に警戒されちまうな。
さて、如何したもンかね?
「良かった、ガフお爺さんも無事だったんですね。
あの時、僕が転びさえしなかったら心配もかけなかったのに…」
策もへったくれも無いな、あっさりばらしやがった。
案の定、ウィーグラフの目の色が変わってやがる。
「少年、転びさえしなければとは如何いう事だ?
言葉だけで察すれば、この男は少年を見捨てたと受け取れるが」
流石に馬鹿じゃないな。
さて、こうなれば仕方ない。
「違うんです! ガフお爺さんは僕に逃げるぞって呼びかけてくれたのに
僕が転んで台無しにしちゃったんです。
あの時はエトナさんが如何いう人かも分からなかったから仕方なかったんです!」
俺が吹き矢を取り出そうしていた所でレシィの奴が必死に食い下がる。
ウィーグラフの奴がちらりと俺とレシィの奴を見比べると。
「信頼はされている…か。
まぁ、いいだろう。
少年、君に免じてこの場はこれ以上追求はしないと誓おう」
上出来だ。
馬鹿正直な奴らはお互いに通じるものがあるらしい。
俺も吹き矢を取り出そうと思っていた手を下げる。
さて、次は何とかしてレシィから剣を奪い返さんとな。
まぁ、その前に、こいつらの情報が先だが。
『――諸君、これから第一回目の放送を始める』
不意に声が響きやがった。
ウィーグラフやレシィの奴も周囲を見回している。
少し離れた場所にいるあの二人の様子は分からんが似たようなもンだろう。
これが例の『放送』ってやつか。
まずはゆっくりとこいつを聞く事から始めるとするか。
【C-3・小山の麓/1日目・夕方(放送後)】
【ガフ・ガフガリオン@FFT】
[状態]:健康
[装備]:(血塗れの)マダレムジエン@FFT、ゲルゲの吹き矢@TO、天使の鎧@TO
[道具]:支給品一式×2(1/2食消費) 生肉少量 アルコール度の高い酒のボトル一本
[思考]:1:どんな事をしてでも生き延びる。
2:まずはラムザと赤毛の女(
アティ)を探して情報収集。邪魔者は人知れず間引く。
3:
アグリアスには会いたくない。
4:…それにしても、この臭いはなんとかならンのか?
【レシィ@サモンナイト2】
[状態]:健康 、歩き続けによる疲労(小)、刺激臭で鼻が痛い
[装備]:絶対勇者剣@SN2 サモナイト石[無](誓約済・何と誓約したものかなど詳細は不明)@SN2or3
[道具]:支給品一式(1/2食消費) 碧の賢帝(シャルトス)@SN3 死者の指輪@TO 生肉少量
[思考]1:良かった、ご主人様の剣!!
2:殺し合いには参加せず、極力争いごとは避ける。
3:どうしよう? 臭いって正直に言った方がいいのかな?
【ウィーグラフ@FFT】
[状態]:健康
[装備]:キルソード@紋章の謎
[道具]:いただきハンド@魔界戦記ディスガイア、
ゾディアックストーン・アリエス、支給品一式
[思考]:1:ゲームの打破(ヴォルマルフを倒す)
2:仲間を集める
3:ラムザの捜索
4:ガフガリオンをあくまで警戒(不審な行動を見せれば斬る)
最終更新:2009年12月05日 19:59