Espionage ◆j893VYBPfU
『動くなッ、女…。まずは両手を頭の後ろに組むんだッ。』
声が響く。まだ年若い少年の、澄み切った声が。
だがそれは少年のものとは迫力が明らかに違い。
壮年の男性が、少年の声優を見事演じているような。
身近に喩えるなら、エクス総帥の声を聞いているような、
ある種の不自然さと違和感を感じた。
そして、その黒く禍々しい気配もまた、人間の少年のものではありえない。
暗殺者特有の機械的な殺意ではない。
戦闘狂がもつ猛々しい戦意でもない。
そう。喩えるならキュラ―達と同じ…。
人間の薄皮を被った悪魔とでも対峙する、そんな感覚にもその気配は似た。
「いけませんねー。年頃の少年が、よりによって覗きだなんてー♪」
「でもどうしても見たいって仰るんでしたら、少し位なら前に回って見ても良いですよー♪」
パッフェルは軽口を叩き、少年を誘う。
だが、無論ただで身体を見せるわけではない。
相手の隙を狙い、ぶちのめすつもりだからだ。
背中からでは、相手の位置が分からない。
間合いが掴めない。得物が把握出来ない。
せめて、何とかして少年を前に回らせて、敵を把握したい。
あわよくば、こちらの裸に見惚れている隙を付いて武器を奪い、
少年の胸板に突き入れる事も考えはいるのだが。
そのような隙は、残念ながら全く与えてくれない。
少年は一切の誘惑にも、挑発にも応じない。
「つまらない色仕掛けはよしてくれないかな、
マグナの恋人さん?」
―――うあっちゃー。ずっと前から潜伏していましたか…。
パッフェルは自らの不覚を呪い、同時に羞恥に顔を赤らめる。
緊急事態に裸を見られたところで別段恥ずかしくはないが、
先程の独り言をほじくり返されるのは、流石に少し辛いものがあった。
だが、パッフェルの恥らいを他所に。
少年はふと思い出したように、聞き捨てならない台詞を口にする。
「でも“マグナの女”、という事はもしかして…。そうか、君がパッフェルなのか?」
何故?
何故、この少年は私の名前が分かる?
驚きのあまり、立場も忘れて振り返ろうとしたパッフェルの首筋に。
ほんの少しだけ、蒼白く光る刃がめり込む。
首の皮一枚だけが斬られ、血がわずかに伝う。
傷こそ小さいが、その鋭い痛みは現状を再認識するには充分過ぎるものであった。
パッフェルはその無言の警告の意図を読み、再び硬直する。
「僕が許可するまでは、決して振り返らないでもらいたい。…いいね?」
警告の言葉とは裏腹に、どこかしら楽しげな口調で。
背中から、こちらの首筋に刃を突きつける少年。
もし、もう一度偶然・故意に関わらず不審な動きがあれば…。
この少年は、間違いなくこの自分を斬るだろう。
「では、パッフェルさん。僕から聞きたい事がある。
ディエルゴと君達の事、この世界の事、色々とね。」
少年はディエルゴと、“この世界”の事を聞き出す。
背後の少年も、何かに気付き出した可能性があるという事か。
このゲームに乗った人物なら、主催の情報など殆んど意味はない。
ならば、会話には乗ってもよいのかもしれない。
しかし、だからといって信頼できるわけでもない。
第一、こちらが無防備の時を狙って背後から剣を突き付ける辺り、
お世辞にもその態度は友好的なものではないのだから。
「…全部答えれば、私が助かるって保証は?」
パッフェルは、尋ねる。己の命運を。己の未来を。
安易にこちらが知る全ての情報を与えても、
「用が済んだら」という事にもなりかねない故に。
「君が僕の敵でないと、証明出来るものがあればそれでいい。
その為に、パッフェルさんには少しでも協力的であってほしい。
チャームを使って、君の心を捕えてから聞いてもいいけど…。
理性がなければ、難しい質問には到底答えられないからね。」
少年は礼を失するが、極めて合理的な返答を行う。
たしかに、これまでの行動と言葉は矛盾しない。
こちらを危険人物である可能性をも考慮に入れ、
もっとも無防備な瞬間を狙って、姿すら見せず交渉を持ちかける。
その後の対応は、相手次第。絶対の優位に立ってから交渉を行う。
不愉快な事この上ないが、緊急事態においてはある意味正しい対応でもある。
パッフェル自身でも、時と状況次第では同じ事をするかもしれないから。
ただし罪悪感だけは、心の奥底に噛み締めて。
だが、しかし…。この少年は、何かが違う。
どちらかと言えば蜘蛛の巣にかかった獲物を物色するように。
それは、心よりこの状況を楽しんでいるとしか思えなかった。
パッフェルはさも楽しげに、少年の非礼をなじってみる。
「うっわー。貴方って最っ低の性犯罪者ですねー♪
レディの裸を覗き見するだけじゃ飽き足らず、
やっぱり屍姦とかもやっちゃう人なんでしょうかー?
私は、ちょぉっとお断りですよー?」
「僕も、出来ればパッフェルさんには手荒な真似はしたくない。
丁重に帰されるかどうかは、全て貴女次第だッ。」
やはりというか。
少年にはこちらの辛辣な嫌味に一切動じることはなく。
己の非道をこちらに詫びる様子すら、一切なかった。
こちらに掛けるその言葉こそ優しいが、心の底では嘲笑っている。
パッフェルは少年に底知れぬ悪意というものを、
言葉の端々から感じ取っていた。
パッフェルは確信する。
これは、返答に関わらず無事に返すつもりは一切ない。
おそらくは、向こうの用が済んだら容赦なく始末される。
最大限の幸運が働いても、彼の慰み者にされてしまう位か。
どちらにせよ、あまり嬉しい結末ではない。
ネスティを襲った襲撃者、あるいは第三者というのも、
あるいはこの少年の薄皮を被った悪魔なのかもしれない。
――パッフェルは短い会話の中で、この姿見せぬ少年を敵だと認識した。
だが、この絶体絶命の危機は、同時に好機でもある。
この背後にいる少年は、ディエルゴの事に何故か興味を持っている。
そして、こちらが一目でパッフェルであることも知っていた。
おそらくは何か有益な情報を持ち得ている可能性がある。
会話次第では、うまく情報を引き出す事も可能だろう。
……但し、彼から無事逃げ出し、生き残る事が出来ればの話しだが。
――――ま、なんとかして逃げなきゃどうにもなりませんよね…。
パッフェルは一つ深呼吸をすると、改めて返答の為に重い口を開いた。
【C-6/城(小部屋)/夜(臨時放送後)】
【
デニム=モウン@タクティクスオウガ】
[状態]:プロテス(セイブザクィーンの効果)、身に打撲(軽症)、潜伏中、アドラメレク融合率60%、
[装備]:セイブザクィーン@FFT 炎竜の剣@タクティクスオウガ、ゾディアックストーン・カプリコーン@FFT
[道具]:支給品一式×3、壊れた槍、鋼の槍、
シノンの首輪、スカルマスク@タクティクスオウガ
:血塗れのカレーキャンディ×1、支給品一式×2(食料を1食分、ペットボトル2本消費)
ベルフラウの首輪、エレキギター弦x6、スタングレネードx5
[思考]:1:パッフェルを尋問し、まずはディエルゴ達に関する情報を集める。
2:デニム・モウンとして、
カチュアを守る。
3:アドラメレクとして、聖天使の器(カチュア)を覚醒へと導く。
4:パッフェルは用が済んだら始末して、その首輪を貰う。
但し、より良い使い道があればその時は別とする。
5:シノンの首輪を、地下の武器庫で交換しておきたい。
6:久しぶりの現界を楽しむ。
[備考]:アドラメレクとの融合により、人格に影響を及ぼしつつ有ります。
融合率が格段に増した事により、以前の“肉体(ダイスダーグ)”が
所持していたリアクション・アビリティ(潜伏)をも行使し始めています。
現在のクラスはソードマスター。転生により超自然との親和性が高まったため、
魔道書なしでもTO世界の神聖系を除く全ての補助魔法が行使可能です。
融合が完全なもの(100%)になれば、以前の聖石カプリコーンの持ち主であった
ダイスダーグとアドラメレクの所持する全てのスキルが使用可能になります。
パッフェルのデイバッグは、空のペットボトルを除いて
着替中にデニムが隙を見て全て奪い取りました。
ヴォルマルフとの会話により、別世界の存在を完全に認識し、
また進行役側の真の目的を正しく理解しました。
【パッフェル@サモンナイト2】
[状態]:健康。身体的疲労(中度) 、精神的疲労(中度)、全裸、
後悔と羞恥、首筋にかすり傷
[装備]:なし
[思考]1:火災が沈静次第、ネスティの探索及び手がかりの調査を行う。
2:これまでの考察をメモに纏めたい。
3:アティ・マグナを探す(その他の仲間含め、接触は慎重に行う)
4:見知らぬ人間と遭遇時、基本的には馴れ合うことは無い
5:背後にある致命的危機を、何としてでも脱する。
6:出来れば、背後の少年から出来るだけ情報を引き出しておきたい。
[備考]:参加者達は、それぞれ別々の世界・時間から集められていると確信しました。
ベルフラウを殺害した犯人は“殺しの素人”であると、ある程度の憶測を立てています。
パッフェルの目の前に、新品のアズリアの軍服と空のペットボトル2本が置かれています。
[共通備考]:ヴォルマルフ側のゲームの目的は“血塗られた聖天使”アルテマの再降臨です。
ただし、聖天使に“相応しい肉体”の器は複数存在し、
その内から最も適性の高い器を選び出す事にあります。
(
アティ、アルマ、カチュア、カトリ、
シーダ、フロン、
ミカヤ。以上7名です。)
器の覚醒の為の最適の環境が、このバトルロワイヤルという会場という事です。
聖天使アルテマを始めとするルカヴィのみがこのゲーム会場に残った場合、
その時点でゲーム終了(優勝者なし)というディエルゴとの取り決めになっています。
マグナがパッフェルED通過後の、サモンナイト3番外編終了後の登場で確定しました。
最終更新:2011年01月28日 15:34