Wrath ◆imaTwclStk


静寂なる闇夜の中を黙々と歩を進める。
だが、それは張り詰めた空気というのとは若干異なる。
言うなれば、切っ掛けがないだけで
それ故に結果的に皆が押し黙って歩を進めているだけであり、
そこには以前の様な猜疑心や不信感と言ったものは最早存在しない。
純然たる信頼がその場にいる三人には芽生え始めていた。
暗がりの中、イスラが目を凝らして周りの風景と地図とを見比べ、
続いていた沈黙を破る事になる。

「うん、そろそろ目的地ですね」

「そうか」

一言だけの簡単な相槌。
本来なら、それだけで再び沈黙が再開される筈だったのだが、
少し何かを思案した表情のイスラが口を開いた。

オグマさん、一つ聞いてもいいですか?」

「イスラ?」

アズリアが唐突なイスラの行動に首を傾げる。

「あぁ、大した事じゃないよ姉さん。
 いえ、僕達は結構自分の事を話したと思うんですけど、
 そういえばオグマさんからは
 殆ど何も聞かされてなかったなと思って…」

ニコリと子供の様な彼特有の笑顔を浮かべて
イスラがオグマに対して初めて今までの経緯とは無関係な
言うなれば友好的な質問をしてくる。
今までの刺々しい態度が抜けたイスラの様子に
オグマは少々驚いた様で一度アズリアに視線を向け、
アズリアの困った様な表情を見て、
仕方が無いなと溜息をつく。

「別に黙っていた訳じゃないが、
 聞いた所で面白い話でもないが
 それでも構わないのか?」

「えぇ、構いませんよ」

即座にイスラが返答し、
オグマは改めて自分の過去を思い浮かべる。


「…産まれた場所の事は覚えていない。
 憶えているのは血と臓物と興奮と蔑みの視線の中で
 剣を振るっていた日々だった」

「それって…」

「あぁ、俺は所謂剣奴と呼ばれる奴隷だった。
 己の命を自分の為ではなく他人の金の為に賭ける。
 ……最低な日々だった」

オグマの言葉の端に遣り切れない怒りが込められる。
アズリアが思わす口を開こうとするがオグマがそれを止める。

「気にするな、思わず気持ちが昂ぶったがもう過ぎた事だ。
 ……そう過ぎた事だ。
 俺自身、そんな状況に納得していた訳じゃない。
 俺は反乱を起こし、あっさりと鎮圧されたよ」

「…………」

最初に質問したイスラも相槌を打つ事すら止め、
黙ってオグマの話に耳を傾ける。

「奴隷の常などいつも同じだ。
 衆人の様々な視線の中で処刑されるだけの筈だった
 俺の前にあいつが現れたのはそんな時だったな…」

「あいつ?」

「前に名前だけは話していただろう?
 シーダ王女だ。
 年端もいかない少女がただの奴隷の為に
 大勢の観衆のど真ん中で無闇に命を奪う、
 その行為を諌めた。
 …そして俺は命拾いしたと言う訳だ」

「……それは」

アズリアが顔を顰め、俯く。

「……安易な質問でした。
 すみません……」

イスラも又、同様に自分のした
悪気は無かった行為の結果に
表情を曇らせる。


「いや、良いんだ。
 むしろ、今なら聞いていて貰いたかった。
 これは既に過去の事だ。
 俺は先の為に動かなければならない。
 その為に振り切るべき事もある」

チャリっと彼のデイバックの中で微かな金属音が鳴る。
そう、既に引き返すことなど出来はしない。
その為に死者の尊厳を、かつて自分の命を預けた相手を辱めた。

「下らない話をしたな。
 さぁ、そろそろ目的地だ。
 気を引き締めてくれ」

オグマがこれ以上は話す気は無いと言う様に話を切り止めて、
視線を前に向ける。
彼の心中を察し、黙って頷き
アズリアも同様に足を踏み出す。
そのアズリアの横にイスラはそっと近寄り、
アズリアにだけ聞こえるようにぼそりと呟いた。

「あの人は強いね、姉さん。
 僕は馬鹿だった……」

「イスラ?」

「行こう、姉さん!」

アズリアがイスラの言葉に振り向いた時には
既に彼はいつもの調子に戻っていた。
だが、そんな弟の様子に一抹の不安が過ぎる。
それを払拭するように首を振り、
アズリアも先を行く彼らに続いた。


☆     ☆    ☆     ☆    ☆     ☆


先程の会話から幾許かの時間の後、
3人は目的の場所へと辿り着いた。

だが、

「……おかしい」

アズリアが周囲を見渡し、口を開く。
閉じられた城門。
だが、灯りが燈され周囲を爛々と照らしている。

「……居るな」

今までの建物にはこれほどの光源は存在しなかった。
誰かが意図的にでも行わない限りはこれは有り得ない。
3人が其々に目配せし、警戒しながら城門へと近づく。
罠や待ち伏せの気配は感じられない。
オグマが扉に手を当て、力を込めて少しだけ扉を開く。
重々しい音を立て、軋みながら扉が動く。
その隙間をアズリアが覗き、イスラがその背面をカバーする。

「大丈夫だ、隠れている気配はない」

アズリアの言葉に呼応する様にオグマが一気に扉を開く。
開いた空間に飛び込むようにアズリアとイスラが突入し、
周辺をぐるりと確認する。
アズリアがオグマに手で合図を送り、
オグマも内部へと侵入する。

「……相手の意図が読めんな」

あまりにも簡単に踏み込めた事に3人は困惑する。
罠を張るならば幾らでも仕掛ける事が出来たにも関わらず、である。

「遊んでいる…のかも?」

「若しくは愚か者のどちらかだな」

姉弟の言葉にオグマも頷きを返すしかない。

「進んでみるしかない…という事だな」

城内の探索は彼らをより困惑させた。
明らかに人の居た様子のある光景が所々に見られたが
肝心の人は見当たらない。
一つだけ、明らかに仕掛けられていた事と言えば
地下室へと通じる扉が厳重に施錠されていたという事だ。
これでは武器庫とやらを確認する事ができない。

「どうやら、無視する訳にはいかない相手と言う訳だ」


目的が武器庫であった以上、
このままでは此処に来た意味を失くしてしまう。
探索していない場所といえば、
目立つ大広間と其処を経由して行く事になる城主の間くらい。
相手の思惑は分からないが、
潜む所といえば、もう其処しか残されてはいない。
大広間の扉の前にはあっさりと着く事が出来た。
やはり、これまで通り罠も何も無く、
拍子抜けするほどにあっさりとである。

「さて、蛇が出るか鬼が出るか?」

扉の前で3人は足を止める。
これまでは罠らしき罠は一切無かった。
が、残る場所が此処しかない以上は
之まで通りとは行かないかもしれない。
考えあぐねる二人を置いてイスラが一歩前へと進み出る。

「開けます!」

「おい、待てイスラ!」

アズリアの呼び止めも聞き入れず、
イスラが一気に扉を押し開く。

罠は、無かった。

それでも突然のイスラの無謀な行為に
アズリアにしてみれば心臓が止まるような思いがした。

「無茶をするな、イスラ!」

「いや、核心はいってたんだ姉さん。
 この相手は直接僕達に会いに来るって…
 そうなんでしょう?」

パチパチパチと拍手が鳴る。
自然、3人の目は音の出所へと向けられる。
其処に王座に腰掛ける煌びやかな衣装で
飾り立てられた女性とその横で手を鳴らす青年がいた。

「よく来れました、といった所ですね。
 折角、僕が丁重に御もてなししてあげようと
 思っていたのに随分と待たせてくれましたけれどね」

青年が嘲笑うような表情で3人へと声を掛ける。
玉座に座る女性には変化は見られない。
いや、それ所か微動だにすらしない。


「あなたは!」

イスラには青年に見覚えがあった。
森の中で襲撃してきた青年である事は間違いがない。
だが、何かがあの時とは違う。

「あぁ、君はあの時の?
 そうか、どうやら無事に逃げ切れていたようだね。
 それでこそ楽しみ甲斐があるというものだよ」

あの時の青年はこれほどの邪悪な気を発してはいなかった。
それが、今ではオルドレイクかそれ以上に濃密な気を放っている。

「あいつが以前言っていた襲撃者か、イスラ?」

既に身構えていたアズリアがイスラに問い質す。

「うん…だけど、あの時とは何かが違う…」

あの青年にこの短時間で何があったのかは理解できないが
これだけははっきりとしている事がある。

「あれは既に別物だ……いや、人ですらあるのか」

困惑するイスラを余所に青年が3人に視線を送り、
値踏みするように確認する。

「楽しませてはくれそうではあるね……」

口元を邪悪に歪めて、青年が嗤う。
その表情にぞくりとアズリアの背筋に悪寒が走る。

「呑まれるな…死ぬぞ…」

沈黙を守っていたオグマがアズリアに声を掛ける。

「クッ……すまない、私とした事が…」

オグマの言葉で正気に返ったアズリアが唇を噛み締める。
その様子を愉快そうに眺めていた青年が急に表情を引き締める。

「さて……
 此処はヴァレリア王妃ベルサリア・オヴェリス・ヴァレリア陛下の御前である!
 早々に跪け!」

青年が厳かに3人へと命令する。
だが、無論3人が従う道理はない。


「そういうお前は如何なのだ?
 その陛下とやらに従っているといった様子ではないが?」

一度、気後れをした事を恥ずかしむ様に青年を睨みつけながら
アズリアは青年に対して問いかける。

「…従う?
 僕が? 姉さんに?
 フ…フフフ…アーハハハハ!!」

先程の厳かな態度は何だったのか、
今度は狂った様に青年は嗤いだす。

「何故!? 何故、僕が従わなくちゃいけない!?
 血筋? 正統な後継者?
 僕がいなければ何も出来はしない、
 この愚かな姉さんの癖に!?」

嗤いが収まったかと思えば今度は突然に喚き出す。
完全に行動が読めない。
喚き立てていた青年がピタリと止まり、
玉座に座り続ける女性へと向き直る。

「ゴメンよ、姉さん。
 姉さんを傷つける者はもういない。
 僕が姉さんの為に王国を立て直すから。
 そう、『僕達の為の』王国に」

青年は恭しく、頭を下げ玉座の女性へと口づけする。
だが、女性はその間も何一つ動く事が無い。

「……生きているのか、その女は?」

アズリアが思わず疑問を口にする。
その言葉に青年が反応し、アズリア達に向き直る。

「当然、生きているさ。
 ただ何も考えず、動かず、僕の愛を受けるだけだけどね」

青年は至って当たり前といった様子で
人形と化した女性の髪をなでる。

「もう苦しむ事も悩む事もない。
 姉さんを脅かす者は僕が全て排除する。
 どうだい? これ以上の幸せはないだろう?」

「……下らんな」

「……何だって?」

オグマの言葉に青年から笑みが消える。


「下らんといったんだ。
 誰かに隷属する人生ならば死んだ方がマシだ」

「……」

「己で選び取った結果で死のうが生きようが、
 それこそが自由というものだ。
 貴様の言っている事は高みから見下ろしているだけの
 屑のような話に過ぎんな」

オグマの過去はそれをまざまざと理解させてくれる。
例え、あの時に死んでいたとしてもオグマは
己の心の中に自由を勝ち得ているのである。

「力で縛られる貴様の言う『王国』とやらはさぞ地獄だろうな。
 いや、天国か? 貴様のような愚か者にとってだけはな!」

皮肉を込めたオグマの言葉に青年の身体が震えだす。

「ク…ククク…たかが人間風情の身でよくもぬけぬけと…」

青年が携えていた剣を投げ捨てる。

「良いだろう、本気で相手してあげよう。
 貴様が蔑んだ、僕の真なる力を持ってね!」

空気が一変する。
寒々とした冷気が辺りに立ち込め、
禍々しい気配が青年の周囲に集まる。
青年は懐から一つの光石を取り出すと
それを高々と翳す。

その瞬間、光が爆発した。

轟音と爆風が周囲を襲い、
3人は思わず顔を庇う。

「…クッ! 何が起きた!?」

顔を上げて青年が立っていた場所を覗き、息を呑む。
黒い波動の中心に“其れ”は立っていた。
先程までの青年の面影などは微塵も無く、
巨大な化け物が鎮座している。


『僕(我)は憤怒の霊帝アドラメレク。
 この世に於ける矛盾に対する怒りの顕現だ!!』

雄山羊の様な頭部を持った怪物が吼える。
魂まで凍てつく様な禍々しさを放ち、怪物が迫る。

「姉さんは下がって!
 その装備じゃ棄権だッ!」

「だ、だが…クソッ!」

庇う様に前に進み出る。
アズリアも反論しようとするが、
イスラの言う事が軍人としても
剣士としても正しい判断である以上、
歯噛みをする思いで素直に受け入れる。
それを横目で眺め、オグマがイスラに呟く。

「死ぬなよ」

「貴方こそ」

イスラの返答に少しだけオグマが笑い、剣を構える。

3人が其々に構え、其れを迎え撃つ。
濃密なる死の気配の中で。


【C-6/城(謁見の間)/未明】
【オグマ@紋章の謎】
[状態]:健康
[装備]:ライトセイバー@魔界戦記ディスガイア
[道具]:万能薬@FFT、ナバールの首輪、マルスの首輪、
    基本支給品一式(水を多少消費)
[思考]
0:主催陣の殲滅と、死者蘇生法の入手。手段・犠牲の一切を問わない。
1:信じるべきは己の剣の腕のみ。
2:アズリアやイスラと共に、主催の潜伏場所・首輪解除の方法を探す。
3:ナバールの首輪を宝物庫に持って行き、武器を入手。
  その後、イスラの案内のもと、少女(ティーエ)の首輪を回収。
4:ゲームに乗る者や自分を阻害する者は躊躇せず殺す。
5:ネサラはしばらく泳がせておく。
6:マルスの首輪は解析用に所持、武器には換えない。

[備考]
※ネサラについては、マムクートのような存在ではないかと推測しています。
 鳥のような姿に変身することが出来るのではないかと考えています。


アズリア@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:ハマーンの杖@紋章の謎
[道具]:傷薬@紋章の謎、基本支給品一式(水を多少消費)
[思考]
0:主催を倒し、イスラと共に生還する。
1:オグマ、イスラと協力し合う。
2:サモナイト石を探し、ここがリインバウムであるかを確かめる。
3:自分やオグマの仲間達と合流したい。(放送の内容によって、接触には用心する)
4:自衛のための殺人は容認。


【イスラ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:チェンソウ@サモンナイト2、メイメイの手紙@サモンナイト3
[道具]:支給品一式(水を多少消費)、筆記用具(日記帳とペン)、
    ゾディアックストーン・ジェミニ、ネサラの羽根
[思考]
1:アズリアを守る。
2:ディエルゴが主催側にいるなら、その確証を得たい。
3:サモナイト石を探し、ここがリインバウムであるかを確かめる。
4:ティーエの首輪を回収する。
5:対主催者or参加拒否者と協力する。(接触には知り合いであっても細心の注意を払う)
6:自分や仲間を害する者、ゲームに乗る者は躊躇せず殺す。

[備考]
※拾った羽根がネサラのものであることは知りません。
 聖石と羽根の持ち主には関係があるのではないかと疑っています。
※羽根の出所については、オグマが知っているのではないかと考えています。
※オグマが自分たち姉弟に隠し事をしていることに気付いていますが、不信感はありません。



デニム=モウン@タクティクスオウガ】
[状態]:アドラメレク融合率100%、憤怒の霊帝化
[装備]:ゾディアックストーン・カプリコーン@FFT
[道具]:支給品一式×3、壊れた槍、鋼の槍、シノンの首輪、スカルマスク@タクティクスオウガ
   :血塗れのカレーキャンディ×1、支給品一式×2(食料を1食分、ペットボトル2本消費)
    ベルフラウの首輪、エレキギター弦x6、スタングレネードx5
[思考]:1:「弟」として、「姉(カチュア)」を守る。
    2:アドラメレクとして、いずれは聖天使の器(カチュア)を覚醒へと導く。
    3:3人(特にオグマ)を殺す
    4:シノンの首輪を、地下の武器庫で交換しておきたい。
    5:久しぶりの現界を楽しむ。
[備考]:武器庫には鍵を掛けただけでまだ行っていません。
    セイブザクィーン@FFT  炎竜の剣@タクティクスオウガを近くに投げ捨てています。

【カチュア@タクティクスオウガ】
[状態]:失血による貧血、チャーム
[装備]:魔月の短剣@サモンナイト3
[道具]:支給品一式、ガラスのカボチャ@タクティクスオウガ
[思考]:*チャームによる自己喪失につき思考不可

128 騎士の誕生 投下順 130 Desperado
124 Harvest Dance 時系列順 130 Desperado
120 奴隷剣士の反乱(後編) オグマ
120 奴隷剣士の反乱(後編) アズリア
120 奴隷剣士の反乱(後編) イスラ
115 欺き、欺かれて デニム
115 欺き、欺かれて カチュア
最終更新:2013年06月18日 00:01