奴隷剣士の反乱(後編) ◆LKgHrWJock
「これだから、ニンゲンってのは嫌なんだ」
F-5~6エリアを北上する
オグマ一行の姿を眺めながら、
ネサラは冷ややかに吐き捨てた。
オグマは
アイク捜索を放棄した、しかしそれが気に入らないのではない。
それ自体は、
臨時放送を聞いた時点で推測していたことだった。
彼が姉弟の元に戻る前に再度接触出来なかった、それはこちらの落ち度といえる。
ネサラが気に入らないのは、オグマの、ニンゲン特有の視点だった。
ニンゲンは、自分たちの基準でしか物事を考えようとしない。
自分たちこそが世界の支配者なのだと、無意識のうちに思い上がっているのだ。
だから、自分たちとはまったく異なる視点で世界を見ている生き物が
同じ次元に存在していることを想像出来ない、理解出来ない、容認出来ない。
こうして俯瞰されているなど夢にも思わず、平然と契約を反故にする。
そんなオグマの姿は、ネサラにとって、ニンゲンの思い上がりの象徴のように思えた。
――もっとも、その方が、俺としても好都合だがね。
ネサラは人型を保ったまま、天高く舞い上がる。
日は既に落ちていた。夜目の利かない鳥の姿では、移動すらもままならない。
かといって、飛行能力を有する人型生物は、この場においてはごく少数派。
ラグズの存在自体を知らない異邦人ばかりだからこそ、この姿を見られただけでも
想像のはるか斜め上を行く厄介ごとになりかねない。だが、空が死角になっている限り――
――ニンゲンの思い上がりが、図らずも俺を助けてるってワケだ。
さぁて、どうするかね? オグマを追ってみるか、それとも……。
……先ほどの金髪の少女の名は、既に把握していた。アルマ・ベオルブ。
肖像画つきの
参加者名簿を確認すれば、それで事足りた。だが――
森林に潜伏していたネサラは、
アルマが
イスラを狙撃しようとする現場を見た。
しかし、アルマは襲撃を断念し、一目散に逃走した。戦術としては正しい、と思う。
イスラたち3人は正規の軍隊で訓練を受けていることが明白で、
あのような少女にどうにか出来る相手ではない。たとえ3人が丸腰でも勝ち目はないだろう。
しかし、戦略としては論外だ。何故、弱さを利用して近付こうとしない?
何故、彼らの中に潜り込み、彼らを盾として利用しようとしない?
そこまで頭が回らないのか? それとも、顔を出せない事情でもあるのか?
――既に本性を知られている、ってのも大いに有り得る話か。
接触は、保留にするかな。腑に落ちない点が多すぎるんでね。
アルマという少女はどうも、精神の均衡を欠いているように思えてならない。
わけのわからない理由で笑い続けていたかと思えば、常軌を逸したこの逃げ足。
森を抜け、E-5エリアに入るまで、アルマは一度も立ち止まらなかった。
今も、走り続けている。ニンゲンが長距離を走るときのペースとは、まるで違う。
先ほどからずっと、アルマは全力で疾走していた。このような筋力が、持久力が、
あの身体の一体どこに隠れていたというのだろう。
いわくつきの魔導具に精神を蝕まれ、同時に加護を得ているのではないか。
そう考えたほうがしっくりくるほど、彼女は違和感に満ちていた。
魔導具による影響、その仮説を裏付けるかのように、
先ほど確認した参加者名簿の肖像画のアルマは、明るい瞳でネサラを見ていた。
臨時放送直後に目にしたあの笑顔とはまるで違う、純粋な輝き。
もし、彼女が髪形を変えていれば、同一人物だとはにわかに信じられなかっただろう。
とはいえ、たとえ魔法によって引き出され、増幅された狂気であっても、
その土台となった心自体はアルマ・ベオルブの中に元からあったのではないか、
とネサラは思う。参加者の中には、彼女と同じ姓の少年がいた。
ラムザ・ベオルブ。彼は、アルマの凶行の動機になり得るのだろうか――
『――ヴォルマルフッ!!
ここはどこだ! おまえは一体、何を企んでいるッ!!』
ネサラの脳裏に、
ラムザの声が響く。
彼の顔には見覚えがある。
ヴォルマルフと面識のある、あの少年だ。
となるとアルマは、ヴォルマルフと敵対関係にある少年の妹、ということか。
ヴォルマルフには、いわくつきの魔導具を支給品としてアルマに与えるだけの
動機がある、ということになる。しかし、それでもやはり、腑に落ちない。
臨時放送直後の、あの笑顔。悪辣極まりない、臨時放送の直後であるにも拘らず。
――いーや、ちょっと待てよ……。
不意に、
キュラーの言葉が蘇る。ネサラははっと息を呑む。
『今回はこのゲーム最大の“貢献者”からの素晴らしい提案により、
一部
ルール改定を行うことにいたしました』
ネサラは思う。主催に提案を持ちかけたのは、アルマではないだろうか。
彼女は殺し合いに乗っている。そして、常軌を逸した精神状態にある。
ルールの変更を提案したとしても、まったく不思議ではないだろう。
むしろ、そうなのだとすれば、あの笑顔にも納得がいく。
だが、どうやって? どうやって、主催陣と会話をした?
自身に支給された、“いわくつきの魔導具”を使ったのか?
彼女はいわくつきの品を支給され、内通者として利用されているのか?
しかし、キュラーのあの言い方だと、“貢献者”とやらは自発的に考えて、
そして自らの意思で主催に提案を持ちかけたように感じられる。
――主催と話す方法があるってなら、俺も知りたいもんだね。
アルマから聞き出してみようか、と思う。
だが、下手を踏めば、自分だけが主催に消されて終わりかねない。
それでなくても、あの逃げ足。彼女の精神は、錯乱しているに違いない。
交渉ごとには自信があるが、己の編み出す論理的な言葉が
狂人相手にも通じるなどと思い上がっているわけではなかった。
接触するのはまだだ、彼女が冷静さを取り戻してからだ。
そう考え、オグマ一行の追尾を再開する。
E-6エリアで街道に入った一行は、水分を補給しながら北上を続ける。
D-6エリアにさしかかろうとする彼らを見て、ネサラは淡く冷笑した。
彼らの進行方向には、人型の何かが転がっている。
それが参加者の死体であろうことは、ネサラにも容易に察しがついた。
オグマ一行の警戒心ならば、街道からでも見つかるだろう。
そしてそれは、オグマが蘇らせようとしている者たちの屍なのかも知れないのだ。
□ ■ □
熱いナイフがバターを切り分けるように、光の刃が死人の首を切断する。
オグマの手に迷いはなかった。ただひたすら事務的に、死体から首輪を回収する。
街道を北上し、D-6エリアに足を踏み入れてから、二度、死体を発見した。
一体目は、街道から西に外れた草原で。二体目は、街道が途切れたその先で。
それが一体誰なのか、オグマは一目で理解した。
ナバールと、
マルス。
ひとりは、互いに実力を認め合った戦友にしてライバルであり、
ひとりは、彼が生涯の忠誠を捧げた最愛の少女の婚約者だった。
オグマは
シーダを愛していた。彼女がマルスに出会う前から、ずっと。
彼女がマルスに惹かれていることを知って、何も思わなかったと言えば嘘になる。
しかし、命の恩人に対する忠誠心が、マルスの存在によって揺らぐことはなかった。
まして、恋敵であるマルスに対し、何らかの悪感情を抱くこともなかった。
マルスは、自分を救ってくれた少女が心から愛した相手。
彼女が大切に思っているものを否定的な目で見るなど、出来るはずがなかった。
それに、純粋で心優しいマルスの人柄を、オグマは好ましく感じてもいた。
そのマルスの亡骸を、オグマは自らの手で冒涜した。
迷いはなかった。たとえこの骸がシーダだったとしても、同じように扱っただろう。
『殺し合いに乗った女の子が同じ年頃の女の子を殺すところを見た』
イスラが見たという、無残に殺された少女。
それがシーダである可能性を受け入れた上で、案内しろと言ったのだ。
自らの手で、首輪を回収するために。主催を殺すに足るだけの武具を得るために。
そう、武具。頼るべきは、信じるべきは、己自身の剣の腕、そして精神力だけだ。
自分に対する確信がなければ、出所の不確かな情報など何の役にも立たない。
だから、ネサラの提案を蹴った。だから、キュラーの甘言に乗った。
剣一筋に生きてきたオグマにとって、手にすべきものはやはり剣だった。
いや、“剣”ならば、既にある。支給品のライトセイバー。異世界の魔法剣。
己の意思ひとつで光の刃を顕現出来る上に、その切れ味は鋭く、ほとんど重さがない。
武器としては、秀逸だ。だが、オグマの手には馴染まない。あまりにも軽すぎるのだ。
重みがなければ、己の筋肉を鞭打つようなものでなければ、オグマにとっては
それはもはや『剣』ではない。振るうべきは、優秀な凶器ではなく、剣だった。
己の肉体にかかる負担と、敵の骨肉を断つ感覚、そんな負の側面を含めての、剣。
剣一筋に生きてきたオグマにとって、剣とは“重いもの”だった。
強力な武具を放出する。それは、主催陣の自信の裏返しといえた。
自らの安全を確信しているからこそ、そのような真似が出来るのだ。
殺されない自信があるからこそ、強力な武具を与えることが出来るのだ。
――だが、それはただの慢心に過ぎぬ。今に思い知らせてやる。
マルスの首輪を手にしたオグマは、亡骸に背を向け、姉弟の元へと戻る。
骸に語るべきことはない。そこにいるのはマルスではない。意思も心もすべて消えた。
マルス王子には、もはやいかなる言葉も届かない。彼は、もう、死んだのだから。
それでもオグマは心の中で呟かずにはいられなかった。
――マルス王子、しばしのご辛抱です。
□ ■ □
「オグマさんは、僕の思っていたような人じゃなかった」
首輪を回収するオグマの姿を遠目で見やりながら、イスラは姉に謝った。
最初の死体を発見したとき、イスラは首輪の回収役を申し出た。
しかし、オグマが退けた。「俺の知人だ。手出しは無用」とだけ言って。
押し殺した声からにじみ出る凄絶な覚悟に、さしものイスラも返す言葉がなかった。
「姉さん。僕は、オグマさんを信用する」
「イスラ……」
アズリアは安堵したように微笑んだが、その顔はどこか悲しげだった。
胸の奥が軽く疼く。イスラはそれを黙殺し、いつものように笑ってみせた。
「でもさ、姉さんが思っているような人とも、ちょっと違うみたいだけどね。
オグマさんは、嘘をついている。あの羽根の出所に心当たりがあるんだ」
「何故、おまえはそう判断した? 根拠を訊きたい」
イスラは姉に半歩近寄り、声のトーンを落として答えた。
「姉さんは、おかしいとは思わなかったのかい?
オグマさんは、振り返って上空を確認しようとはしなかった。一度もね。
あれだけ大きな羽根を持つ鳥が近くにいることを知れば、
上空にも警戒の目を向けるのが当たり前なのにさ。
でも、オグマさんはしなかった。抜かりのなさそうな人なのに。
それどころか、僕らの注意が前方に向くような話題ばかり選んでいた」
天を仰ごうとするアズリアの腕を、イスラは慌てて引き寄せた。
「上を見ないで。姉さんはオグマさんの誠意を踏みにじりたいのかい?」
「す、すまない……」
「オグマさんは、その鳥が僕らを襲わないことを知っていたんだ」
「警戒を怠ったのではなく、警戒する必要がないと知っていた、ということか」
「うん。少なくとも、僕らがその鳥の姿を目にしない限りは、ね」
「オグマ殿は一体何を……」
「さあね、それは僕にも――」
話はそこで中断せざるを得なかった。
二つ目の首輪を回収したオグマが、こちらに戻ってきたからだった。
「イスラよ、少女の亡骸はあの城のさらに先だったな」
「そうだよ、オグマさん」
「ならば先に城に立ち寄り、この首輪ふたつを武器に換える」
「分かった。ただ、ひとつだけ、頼みがあるんだけどさ」
「なんだ? 言ってみろ」
「新しい武器が手に入ったら、オグマさんの支給品の剣を僕に譲ってほしいんだ。
あれ、軽くて使い易いからさ。僕には、重い武器は合わないんだ」
嘘だった。だが、イスラは腕を振り、「僕には腕力がないからね」と微笑んだ。
彼の願いは別にあった。回収した首輪はいずれもオグマの知人のものだという。
ならば、入手した武器はオグマに使ってほしい。それがイスラの想いだった。
元の所有者のことを知り、そして大切に思っているオグマにこそ、使ってほしい。
「承知した」。オグマはただ、そう答えた。
ふたりのやり取りを黙って聞いていたアズリアが、静かに口を開く。
「いや、オグマ殿……、その首輪、ひとつは手元に置いておかれよ」
「何故だ?」
「キュラーなる男は、所持品の入手について、『首輪との交換』と言っていた」
交換。アズリアは、その単語に力を込めた。
イスラが、そしてオグマが息を呑む。その音が、夜のしじまを打った。
イスラの脳裏に、キュラーの言葉が蘇る。
『……武器庫から所持品をお持ちできる条件を、一つお付けいたしました。
それは、その所持品の持ち主の首輪との交換というものです。よろしいですかな?』
首輪との交換。そう、『交換』。
新たな所持品が欲しいなら、首輪を寄越せと言っている。
それは、武器を手にした時点で、首輪を手放さざるを得ないことを意味していた。
アズリアは、解析用の首輪が手元に残らないことを危惧しているのだろう。
イスラは臨時放送をさらに脳裏で反芻する。キュラーはこうも言っていた。
『首輪そのものが箱の“鍵”の代わりになるとでも、お考え頂ければ宜しいかと』
巧妙な印象操作だ。『鍵』と言われれば、何度でも使えるものと思ってしまう。
しかし、それは勝手な思い込みに過ぎない。期待の見せる幻に過ぎない。
首輪交換所。そのシステムの狙いは、殺し合いの加速だとばかり思っていた。
しかし、それだけではないことに気付く。主催者は、死亡者の首輪を回収したいのだろう。
その構造を解析させないために。そう、主催陣は、首輪を解除されては困るのだ。
それは、首輪の解析が可能であることを意味していた。
それは、参加者の手で首輪を解除することが可能であることを意味していた。
だからこそ、彼らは首輪を回収したがっているのだ。
「……成る程、そういうことか。アズリア、感謝する」
「いや、その言葉は主催陣を撃破するまでは受け取れない。
ヴォルマルフの言葉が事実なら、ディエルゴはこの島のどこかにいるだろう。
ディエルゴがいるのならば、復活を遂げたばかりだ。力が弱く、ゆえに、
己の糧となる負の思念を早急に、しかも効率的に吸収せねばならない。
だから、オグマ殿、イスラ……、先を急ごう」
……やがて、一行は、C-6エリアに差し掛かった。
このエリアの中ほどに、目指すべき城はある。しかし、ここからでは視認出来ない。
足元は平坦だが、右手には山があり、殺人者が潜むべき場所はいくらでもある。
一行は、周囲を警戒しながら、慎重に道なき道を行く。
城への到着は、どうやら未明になりそうだった。
【C-6/エリア南端部/初日・深夜】
【オグマ@紋章の謎】
[状態]:健康
[装備]:ライトセイバー@魔界戦記ディスガイア
[道具]:万能薬@FFT、ナバールの首輪、マルスの首輪、
基本支給品一式(水を多少消費)
[思考]
0:主催陣の殲滅と、死者蘇生法の入手。手段・犠牲の一切を問わない。
1:信じるべきは己の剣の腕のみ。
2:アズリアやイスラと共に、主催の潜伏場所・首輪解除の方法を探す。
3:ナバールの首輪を宝物庫に持って行き、武器を入手。
その後、イスラの案内のもと、少女(
ティーエ)の首輪を回収。
4:ゲームに乗る者や自分を阻害する者は躊躇せず殺す。
5:ネサラはしばらく泳がせておく。
6:マルスの首輪は解析用に所持、武器には換えない。
[備考]
※ネサラについては、マムクートのような存在ではないかと推測しています。
鳥のような姿に変身することが出来るのではないかと考えています。
【
アズリア@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:ハマーンの杖@紋章の謎
[道具]:傷薬@紋章の謎、基本支給品一式(水を多少消費)
[思考]
0:主催を倒し、イスラと共に生還する。
1:オグマ、イスラと協力し合う。
2:サモナイト石を探し、ここがリインバウムであるかを確かめる。
3:自分やオグマの仲間達と合流したい。(放送の内容によって、接触には用心する)
4:自衛のための殺人は容認。
【イスラ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:チェンソウ@サモンナイト2、メイメイの手紙@サモンナイト3
[道具]:支給品一式(水を多少消費)、筆記用具(日記帳とペン)、
ゾディアックストーン・ジェミニ、ネサラの羽根
[思考]
1:アズリアを守る。
2:ディエルゴが主催側にいるなら、その確証を得たい。
3:サモナイト石を探し、ここがリインバウムであるかを確かめる。
4:ティーエの首輪を回収する。
5:対主催者or参加拒否者と協力する。(接触には知り合いであっても細心の注意を払う)
6:自分や仲間を害する者、ゲームに乗る者は躊躇せず殺す。
[備考]
※拾った羽根がネサラのものであることは知りません。
聖石と羽根の持ち主には関係があるのではないかと疑っています。
※羽根の出所については、オグマが知っているのではないかと考えています。
※オグマが自分たち姉弟に隠し事をしていることに気付いていますが、不信感はありません。
□ ■ □
「ニンゲン特有の視点ってやつは、いけ好かないことこの上ないが……、
ま、今回はチャラってことでいいかな」
ネサラは大きく息を吸い、再び夜空に舞い上がる。
はるか下方で、オグマの金髪が、月明かりに淡く映えている。
C-6エリアに足を踏み入れた一行は、そのままゆっくりと北上を続ける。
彼らの目的地を、ネサラは既に把握していた。しかし、もう、追尾はしない。
「あばよ、オグマ。生きていれば、また会おうじゃないか」
……オグマ一行の通り過ぎたD-6エリアで、ネサラは二体の屍を見た。
いずれも首を切り落とされ、何者かに首輪を持ち去られたあとだった。
死体を見れば、死後数時間が経ってから、同一の刃物で首を落とされたのだと分かる。
その切断面の様子から、魔法的な力を宿した武器によるものだと推察出来る。
それを見たネサラはふと、オグマの振るっていた剣を思い出した。
刃自体が光で出来た、異国の魔法剣。
一行の足取りから見ても、オグマの所業であることは明白だった。
しかし、問題はそこではない。肖像画のついた参加者名簿を持つネサラには、
ふたりの死者の名が分かった。ナバールとマルス。いずれもオグマの仲間だった。
ネサラの名簿の肖像画の横には、ナバールに△、マルスに○がついている。
オグマの話しを盗み聞いて、ネサラ自身がつけた印だった。
しかしこれは、ゲームに乗る危険性と利用価値について記したものに過ぎない。
オグマの口ぶりを思い出せば、彼がナバールを戦友として認めていたことは明白だった。
マルスを自軍の指揮官として、いや、それ以上の存在として敬愛していたことは明白だった。
オグマの所業を知ったネサラは、大した男だ、と感心した。
守るべき民のためならば、唾棄すべきニンゲンと手を組むことも厭わなかった
鴉王ネサラだからこそ、オグマの覚悟のほどを察することが出来た。
次に会ったときには、別の形で手を組みたいものだ、と思う。
アイク捜索などに利用するのは勿体無い。
オグマは、汚れ仕事を平然とこなせる男なのだから。
そして、オグマのそんな姿を目の当たりにしてもなお、
レヴィノス姉弟は彼と行動を共にしている。
不満が表面化している様子は見受けられない。
姉は堅物、弟は気難しそうな印象を受けるにも拘わらず。
それもまた、オグマという男のカリスマ性のなせるわざなのか。
それとも、あの姉弟もまた、職業軍人らしいドライな一面を持ち合わせているということか。
ふたりには微妙な意識のずれと、どうしようもない甘さがあるようだったが――
――ま、姉弟喧嘩に介入するシュミはないんでね。
それに、真っ向からの反逆ってヤツは、どうにも俺の性には合わない。
ネサラは北西に進路を採る。
目指すはC-3エリアの村、ニンゲンが夜に集う場所。
あのアルマ・ベオルブという少女は、E-5エリアを全力で北上していた。
D-5エリアに入った後の足取りは捕捉していないものの、
もしも東側に進んだなら、こちらの視界に入るはず。
となると、彼女が向かったのは西である可能性が極めて高い。
そして、彼女はゲームに乗っている。しかし、殺しに関してはまったくの素人。
それでも殺さなければならない、ならば、無防備な状態を狙うだろう。
ネサラはアルマに接触すべく、C-3エリアの村へと向かった。
【D-6/マルスの死体付近・上空/初日・深夜】
【ネサラ@暁の女神】
[状態]:打撲(顔面に殴打痕)。
[装備]:あやしい触手@魔界戦記ディスガイア、ヒスイの腕輪@FFT
[道具]:支給品一式×2 清酒・龍殺し@サモンナイト2、筆記用具一式、
真新しい鶴嘴(ツルハシ)、大振りの円匙(シャベル)
[思考]
0:己の生存を最優先。ゲームを脱出する為なら、一切の手段は選ばない。
1:アルマの捜索。とりあえず北西(C-3村方面)に向かう。
2:オグマは手を組む価値あり。だがしばらく泳がせておく。
3:キュラーの言う“貢献者”(アルマ?)はどうやって主催と会話をしたのか?
4:ラムザとアルマの動向に興味。接触はアルマの精神状態を見てから。
5:アイク・
ソノラの情報は次の機会にでも。
6:脱出が不可能だと判断した場合は、躊躇なく優勝を目指す。
[備考]
※臨時放送の内容から、主催と連絡を取る方法があることに気付きました。
※主催にルール変更を持ちかけたのは、アルマの可能性が高いと考えています。
※アルマがゲームに乗っていることを知りました。
危険性の高いアイテムの影響下にあるのではないかと考えています。
※この舞台そのものが、ある種の『作りもの』ではないかと考えています。
そして、このゲームの主催者が女神アスタルテに匹敵する超越的存在であるが、
同時にその奇跡にも等しい力にも限界があるのではないかと踏んでいます。
※このゲームに、ラグズの存在さえ知らない異邦人が数多くいることを確信しました。
※ネサラの参加者名簿には顔写真(肖像画と認識)がついています。
名前の左隣にチェックを入れており、内容は以下のようになっています。
最終更新:2011年12月16日 20:46