バランガのなく頃に


24代目スレ 2008/07/24(木)

 【山間部 川辺】
 サラサラサラ
ゼラド「ヴィレアムくーん! どうだったぁー?」
ヴィレアム「う~ん、ダメだ。釣れなかった。
 水キレいだから、魚いると思ったんだけどなぁ」
ゼラド「えぇ~」
ヴィレアム「『えぇ~』って、ゼラド、さっき釣ってきてそこで焼いてた川魚三匹は?」
ゼラド「えっと」
ヴィレアム「食べちゃったのか?」
ゼラド「エヘヘ」
ヴィレアム「うん。いいよ。全然いいよ。また釣ってくるから。じゃんじゃん食べてくれよ」

ゼラド「でも、いいトコだよね。来てよかったよね。
 水も空気もキレイだし。ね、空気って、味があったんだね」
ヴィレアム「お~い、アオラ、お前のほうは・・・・・・。
 あれ、アオラは?」
ゼラド「えっ? さっきまでそこで、ルルちゃんと魚釣ってたけど」
ヴィレアム「いないぞ。ふたりとも」

 サラサラサラ

ゼラド「ちょっと待って! まさか、川に流されちゃったんじゃ!?」
ヴィレアム「えっ!? でも浅いし、流れだって緩やかなのに」
ゼラド「川じゃなにがあるかわかんないよ! 探さないと!」

 めきめきめきっ どすーん!

ゼラド「なんだろ、下流から音が!」
ヴィレアム「雑木林の中だ、行ってみよう!」

 【下流 雑木林】
ラーナ「あ、こんにちは」
ゼラド「ラーナちゃん、なにやってるの?」
ヴィレアム「作業服着てチェーンソー担いで、完全に林業を営んでる家のお子さんだよ」
ラーナ「思えばわたしは、解体解体また解体で、組んだり作ったりということはまったくできないんです」
ゼラド「あれだけ解体できたら、ちょっとくらい組めそうなものだと思うけど」
ラーナ「その弱点を克服するため、
 この夏休みは自分で木材を切り出して、自分でログハウスを組み立ててみようと思い立ったのです」
ゼラド「いきなりハードル高いんじゃないかな」
ヴィレアム「タミヤの木工模型とかから始めた方がいいと思うぞ?」
ラーナ「そういうのを夏休みの工作として提出する人って、軽蔑します」

ゼラド「あっ、そうだラーナちゃん。
 こっちに、うちの弟こなかった? ツインテールの女の子と一緒だったと思うんだけど」
ラーナ「えっ、さぁ。わたしはずっとこのあたりで手頃な木を物色してましたから、
 誰か流れてきたら気が付くと思いますけど」
ヴィレアム「流れてきたとか、縁起でもないこといわないでくれよ」
ラーナ「普通に歩いてきたなら、気が付かなかったかもわかんないです。
 わたしが見てたのは木であってひとじゃありませんから」
ゼラド「アオラ、どこ行っちゃったんだろ」
ラーナ「あ、上流の方にかかってる吊り橋の上に誰かいます。
 あそこからなら、このへん一帯見渡せるんじゃないですか?」

 【上流 吊り橋の上】
フィリオ「ミナトくん。君は、実写版ひぐらしにおけるエレピョンの扱いを不満に思っているかも知れない」
ミナト「当たり前っすよ、なんすかあれ!
 撮影に強力してくださった地元の子供と見分けつかなかったじゃないっすか!」
フィリオ「だが、待って欲しい。
 君も知っているだろう。すでに、実写版第2弾の制作が決定していることを!」
ミナト「うっす! 鉄とブームは熱いうちに打てってことっすねっ!?」
フィリオ「つまり、エレピョンをハリツケにしてあんなことした挙げ句にあんな粗相してみたり、
 バスタオル一枚のエレピョンに吊り橋の上から
 あんなことされるという希望と絶望が用意されているということさ!」
ミナト「さすがフィリオ先生! 一歩二歩先を読んでおられる!」
カル「どうしよう。なにいってるんだろうこのひとたち」
フィリオ「じゃ、イメージトレーニングを開始しようか」
ミナト「うっす! レッツ・バンジー!」
カル「ミナトが! あのフ抜けきっていたミナトが嬉々としてバンジーに挑むなんて!
 ひょっとしてフィリオさんは、ものすごい名トレーナーなのかもしれない!」
フィリオ「君はなんというか、都合がいいね」

ヴィレアム「なにをやってるんだお前たちは」
ゼラド「川、わりと浅いからバンジー失敗したら危ないよ?」
ミナト「見られたぁっ! 知り合いに見られたぁっ!? なんだか無性に恥ずかしい!」
フィリオ「落ちろー! 落ちてしまえーっ!」
ミナト「しかしフィリオ先生は躊躇することなくひぐらしごっこを続行ーっ!
 スゴいぞこのひとはぁーっ!?」
カル「どうしよう」
ヴィレアム「どうしようっていわれても」

ゼラド「あっちにあるマウンテンバイク2台とママチャリ1台、ミナトくんたちの?」
ヴィレアム「ホッカイドー行ったんじゃなかったのか、お前たち」
ミナト「ああ、帰り道のトーキョー下町で、
 ゴマキ弟の嫁とゴマキ姉が骨肉の争い繰り広げてる居酒屋に寄ったら予想以上にテンション下がってさ」
カル「居酒屋とは思えない凍り付いた空気でした」
ヴィレアム「なんでそんなイヤな居酒屋行っちゃったんだよ」
ゼラド「とりあえず、未成年なんだから居酒屋行ったらダメだと思うよ?」
ミナト「それで、厄醒しのために、ここ巡礼しようかって話になってさ」
ヴィレアム「相当離れてる上に、山奥だぞ。よく自転車で来れたな。しかもミナトはママチャリなのに」

フィリオ「ボクは地元の林業の子かな? 撮影は見学したかい?」
ラーナ「なんですか撮影って。あと、わたしボクじゃありません」
ゼラド「ねえミナトくん! アオラとルルちゃん見なかった?
 ここからなら、下、見渡せるでしょ?」
ミナト「え? 見てねぇぞ」
カル「我々も、ついさっきここに着いたばかりなんです」
ミナト「木が倒れるみたいなでっかい音がしたと思って下見たら
 一心不乱に魚食ってる女の子がいたけど、あれはゼラドだろ? 銀髪だったし」
ゼラド「えっと、ゴメン」
カル「そうだミナト。さっき山道を登るとき、茂みの向こうでガサガサしている人影を見なかったか?」
ミナト「え、いたか? そんなの」
カル「あれは、男女のカップルだったように思うんだが」
ゼラド「それホント!?」
ラーナ「それは、見に行って大丈夫なのでしょうか問題ないのでしょうか。
 茂みの中でガサゴソって、中学生の脳には1択の連想ゲームしかできないのですけど」
ゼラド「やめてラーナちゃん! そういうこといわないで!
 お姉ちゃん、お姉ちゃんだから、アオラがそんなことになってたらどんな顔したらいいかわかんないよぉっ!」
ラーナ「急ぎましょう! 過ちが終わるその前に!」
ヴィレアム「普段からは考えられない溌剌とした笑顔だ!」
ゼラド「終わる前じゃなくて、始まる前にだよぉーっ!」

 【川の東側 山道】
 ガサッ ガサガサッ
ハザリア「おっ、なんだ貴様ら、どうした」
マリ「奇遇だな」
ヴィレアム「お前らだったのか」
ゼラド「茂みの中でなにやってたの?」
ラーナ「過ちですか? 過ちを終えたあとなのですか?」
ハザリア「このオシャレメガネはなにをいっておるのだ?
 この近くにある廃村で、一風変わった土着信仰の祭具が手つかずでほったらかされていると聞いたのでな。
 この俺が、金目のものを見繕って売っぱ・・・・・・保管しようと」
マリ「エッ、そういう主旨だったのか? 山菜狩りツアーじゃなかったのか?」
ハザリア「ジギタリス、オトギリソウ、クサヨシ、マムシグサ、イラクサ。
 食うか? どれも毒だがな」
マリ「山道外れてそんなもの摘んでたのか、お前は!」
ヴィレアム「今回、キャリコさんどうしたんだ」
ハザリア「おや? そういえばおらんな。麓のあたりではたしかにいたのだが」
マリ「どうせそのへんでビール飲んでるよ」
ラーナ「旅慣れてます、このひとたち」

ゼラド「そうだハザリアくん! アオラとルルちゃん見なかった!?」
ハザリア「ルルだと? あやつは今日、女友達の家で勉強会をしているはずだが」
ゼラド「えっ、聞いてないの?
 わたしとヴィレアムくんとアオラとルルちゃんで、魚釣りに来てたんだけど」
ハザリア「なんだと、あの、バランガ弟め!
 異性とお手々つないで旅行など、なんと破廉恥な男だ!」
ヴィレアム「お前が横に連れてるそれはなんだよ」
マリ「つないでないよ? 手はつないでないよ?」
ハザリア「ルルもルルだ! 男と旅行に行くとはどういうことなのか、覚悟はできているのだろうな!」
マリ「やめろよ、そういうの求めるなよ。戸惑うよ」
ゼラド「旅行っていうか、日帰りの魚釣りなんだけど。
 ほんとはルナちゃんとキャクトラくんも来るはずだったんだけど、生徒会の仕事があるとかで」
ハザリア「待たんか貴様ァッ! それは、寮で俺だけ誘われてないという悲しい事実発覚ではないか!?」
ゼラド「えぇ~、だって、ハザリアくんは3日前から留守にしてるっていうし」
ハザリア「うむ、ちょっとニホンカイに足を伸ばしていたからな!」
ラーナ「いろいろと理不尽です、このひと」

ゼラド「ほんとアオラったら、どこ行っちゃったんだろ」
マリ「事故なんかに遭ってなきゃいいけど。
 さっき、なんかドスーンて、地響きみたいな音してたし」
ラーナ「あ、それはわたしが木を切り倒した音です」
ゼラド「もう! わたしがちょっと川魚食べてる間に!」
ハザリア「待て、川魚だと? 貴様、何匹食べた」
ゼラド「え、3匹だけど」
ハザリア「3匹! まずいな、そいつはまずい!
 このあたりは廃村になる前から貧しくてな、助け合って生きていくため、食い物は必ず分け合っていたものだ。
 そんな中でだ! 川魚を三匹も独り占めする欲張りは、
 タタリガミのバチがあたって、たちまちその身が竜に変わるという伝説が!」
ゼラド「えぇっ!?」
マリ「それ、伝説じゃなくて児童文学じゃないか?」
ハザリア「いやいや、大本になった伝承がだな」
ヴィレアム「お前たち、そういう議論は1年くらい前に済ませとけよ」
ゼラド「どうしよう! わたし、竜になっちゃうの!?」
ヴィレアム「落ち着けゼラド。なるはずないだろ」
ハザリア「おっとどうかな。調べた限りでは、このあたりのタタリガミは大層根性が曲がっているそうでな。
 近しいものから順番に神隠しにしていくと」
ゼラド「アオラーっ!」
ヴィレアム「お前な! 不安をあおるようなこといってどうするんだ!?」
ハザリア「なに、そう慌てることはなかろう。
 川のこちら側にいないなら、向こう側を探せばよいだけだ」
カル「えっ、向こうは崖が切り立っていて、危ないですよ?」
ゼラド「じゃ、急がなくちゃじゃない!」

 【川の西側 森深く】
 ガサッ ゴソッ
マリ「ほんとに森が深いな、こっち側は!」
ゼラド「あっ、あれ!」
ハザリア「煙? いや、湯気か?」
フィリオ「毒ガスでも吹き出しているのかもしれないね」
ヴィレアム「ゼラド、下がってろ! 俺が様子を見てくる!」
フィリオ「あ、待ちなさい。危ないよ」

 ダーン! ダーン! ダーン!
ミナト「銃声だ!」
ゼラド「ヴィレアムくん! 大丈夫!?」

 ダーン!
ユウカ「来るか、まだ来るか! オーライ、次来たヤツから挽き肉だっ!」

ゼラド「ユウカさん? 素っ裸でなにしてるの?」
マリ「取りあえず、お湯に浸かりましょうよ。そこにある、不自然に濁ったお湯」

 【数分経過】
ヴィレアム「う~ん」
ラーナ「ダメですねこれは。鼻血噴いて倒れたひとって、初めて見ました」つんつん
ハザリア「湯に浸かって身体が隠れるやつもな」
ゼラド「これ、天然の温泉?」
フィリオ「秘湯ってところかな。なかなかいい趣味かもしれない」
マリ「ユウカさん、こんなとこでなにしてるんですか」

 チャプーン
ユウカ「大怪我したから湯治に来たんだけど、『タトゥーお断り』の貼り紙から逃れ逃れて、
 気が付けば山奥の秘湯に浸かってるトラジディ、もしくはコメディ」
ヴィレアム「入ってるのか、タトゥーが」
ハザリア「なるほど。いままでに倒した正義超人の姿を彫ったモンモンが災いしたか」パシャパシャ
ユウカ「そんな大げさなモノ入れてないし、タトゥーを入れ墨と一緒にするのやめて
 タトゥーはファッション、入れ墨は刑罰」
ラーナ「ねぇねぇユウカさん、スカート貸してくださいよスカート。
 あそこにいる歩く死体のおじさんがわたしのことボクとかいうんです」パシャパシャ
ユウカ「・・・・・・根に持たれてる。こないだぶん殴ったこと、相当根に持たれてる」
マリ「お前たち、お湯かけるのやめろ。ユウカさん、普段はわりとヘナチョコなんだから」
ユウカ「ヒドいこといわれた」
ゼラド「ワンポイントタトゥーくらいなら大丈夫なんじゃないかな」
ユウカ「温泉宿のおばちゃんに呼び止められるストレス考えたら、
 ちょっとのハイキングなんか苦にならない」
マリ「なんで妙なとこで妙に弱気なんですか」

ゼラド「ね、ユウカさん。アオラとルルちゃん見なかった?」
ユウカ「知らない」
ゼラド「知らないって」
ユウカ「アオラとルルって、なに。怪獣の名前?」
ゼラド「あ、会ったことなかったっけ? わたしの弟と、ハザリアくんの妹なんだけど」
ハザリア「バランガ弟の方は、ま、見ればバランガの弟だとわかる。
 『あ、性格悪そうな女のガキがいる』と思ったら、それは間違いなくうちの妹だ」
ユウカ「やっぱり知らない。
 ここに登ってくる途中、『なんだこの女、山頂で悪魔呼び出す儀式でもするのか』
 って目で見てくる老夫婦とすれ違ったほかは、誰とも会ってない。
 いつだって、パンクは世間からつまはじき」
ハザリア「チェーンだの安全ピンだのジャラジャラさせたパンクファッションの女が、
 洗面器片手に山道ウロウロしてたら、そりゃ見るだろう」
ユウカ「一応、湯に浸かる前にこのあたりぐるりと見たけど、誰も見てないよ。
 あ、そうだ。ドスーンて、ノイジーな音が遠くからしたけど」
ラーナ「あ、それはわたしです。かなり響いてたんですね」
ミナト「うん、あれは響いてた」

ゼラド「どうしよう。アオラたち、どこにもいない」
ハザリア「うむ、面白い。東西南北、いずれでも目撃されずか。
 これは、広義での密室といえないこともないな、なぁ?」
マリ「『なぁ』じゃないよ。ならないよ。
 わたしたちは山道から外れてたんだし、ラーナちゃんひとりで雑木林全体カバーできるわけないし。
 ユウカさんは温泉入ってたんだし、いくらでも穴があるよ」

ユウカ「ここで会議始めないでくれる?」
フィリオ「君、そうじゃない。手はこうやって組んで、岩の上に寝そべるかたちで、
 お尻がギリギリお湯から出ないように」
ミナト「いやいやフィリオ先生。俺はこう、胴体にタオルかぶせて仰向けになったポーズの方が」
ユウカ「撃つよ。撃っていいよね? 撃つべきだよね、あたし」
ハザリア「黙れグラドル体型」
ユウカ「そんな体型、知らないし」

マリ「ミナトたちは、あんなんだし」
ゼラド「う~ん」
カル「俺は、どうしたらいいんでしょうか」
マリ「そんなこと、わたしに相談されたって知らないよ」
ハザリア「そうだな。手はこう、湯の中で着いて、背中を弓なりに反らし、
 ケツのテッペンが微妙に湯から突き出すようなポーズにするべきだ」
マリ「お前までなにいってるんだ!」
ユウカ「あたし的には、この美脚をアピールすべきだと思うんだけど」
マリ「ユウカさんまでなにちょっとノリ気になってるんですか!?」
ユウカ「これだけひとがいると、逆に恥ずかしくないというか、銭湯気分というか」
マリ「だから、銭湯に入れないからこんな山奥の秘湯まで来る羽目になったんでしょう!?
 ユウカさん銭湯入ったことないでしょう!
 違いますから! 銭湯でポージング指導されるなんて、聞いたことありませんから!」
ユウカ「敬語で叱られるのって、なんか傷付く」
ゼラド「ハザリアくんも! ルルちゃんのこと心配じゃないの!?」
ハザリア「なんだ貴様、まさか神隠し云々を信じていたのか?
 あんなものはな、貧しい村にはよくある話だ。
 貧しさに負けて我が子を口減らしする罪悪感から逃れるための、方便に過ぎん。
 現代ニホンにおいて、そんなものがありえるか」
ゼラド「でも、ルルちゃんになにかあったら!」
ハザリア「貴様、少し大げさなのではないか。
 ルルとて、いい歳だ。自分の意志で消えたなら、自分の意志で出てくるだろう。
 出てきたところで、ケツをひっぱたいてやればよい」
マリ「行こう。こいつらアテにならない」
ラーナ「きっとどこかに見落としがありますよ」
ゼラド「うん」

ハザリア「おお、そうだグラマーインパクト。
 貴様がすれ違ったという老夫婦、ひょっとするとルルめらの変装かもしれんな」
ユウカ「そういえばあの老夫婦、老夫婦のくせに手なんか繋いでた」
マリ「ユウカさん、その老夫婦とすれ違ったの、どのくらい前ですか?」
ユウカ「2時間くらい前?」
マリ「ゼラド、アオラたちが消えたのはいつなんだ?」
ゼラド「えっと、30分くらい前にはいたと思うけど」
マリ「ほら見ろ、食い違いがあるじゃないか。
 だいたいな、年寄りの演技って、それなりの小道具とテクが必要なんだよ」
ゼラド「え?」
ラーナ「どうしたんですか?」
ゼラド「あ、そっか」
マリ「なにかわかったのか」
ゼラド「この中に、『嘘』をついたひとがいるんだ」

 ザワァァァァァァー




ヴィレアム「・・・・・・う~ん。あれ、俺?」
ゼラド「状況を整理しよう。ヴィレアムくん、ヴィレアムくんが釣りから帰ってきたとき、
 もう川岸にはわたししかいなかったんだよね?」
ヴィレアム「え? ああ、そうだけど」
ゼラド「そして、木を切り倒す音がして、行ってみたらラーナちゃんがいた」
ラーナ「そうです」
ゼラド「木が倒れる音は相当大きくて、マリちゃんたちもユウカさんも聞いてる」
ユウカ「そうね」
ミナト「俺たちも聞いてるぜ?」
カル「そうです。それで下を見たら、ゼラドさんが」

ゼラド「嘘だッ!!」

 バサッ!  バサッバサッ!
ハザリア「おぉおぉ、こだまする叫びに驚いた鳥どもが、羽ばたいていくわ」
マリ「茶化すなよ。ゼラドがあんなに怒るなんて、滅多にないんだぞ?」

ミナト「おいおい、なにいってるんだよ」
ゼラド「『木が倒れる』音を聞いたとき、『魚を食べてる女の子』を見た。
 ミナトくん、そういってたよね? よね?
 でもね、木が倒れたとき、わたしはヴィレアムくんといたんだよ?」
ミナト「それは、ちょっと言い漏らしただけで」
ゼラド「ううん。ミナトくんは、『嘘』をついた。
 木が倒れたとき、わたしはもう魚を食べ終わってたの。
 つまり、ミナトくんは木が倒れる前からわたしの姿を確認していたんだよ!」
ミナト「落ち着けって。
 音のインパクトが大きすぎて、記憶が前後しちゃってたんだよ、きっと」
ゼラド「カルくん、茂みの奥でガサガサしてるハザリアくんたちを見かけたっていってたよね。
 つまり、東側の山道を登ってきたってことだよね?」
カル「ええ。それは間違いありません」
ユウカ「あたしが登ってたのは西の道ね」
ゼラド「でもカルくん、この西側に来るとき、『向こうは崖が切り立っていて危ない』っていってたよ。
 東側から来たのに、どうして西側の様子を知ってるのかな、かな?」
カル「それは、少し足を伸ばしてですね」
ゼラド「フィリオさんは、この温泉の湯気を見たときに、
 『毒ガスでも吹き出しているのかもしれない』っていっていましたよね。
 あれは、わたしたちを怖がらせて、こちら側に来させないためじゃないんですか?」
フィリオ「考えすぎだよ」
ゼラド「フィリオさんたちが1人だったら、勘違いや思い違いで済むと思います。
 でも、3人が1人ずつちぐはぐなこといってるのに、
 ほかの2人が否定しないのって、おかしいんじゃないかな? かなッ?」
マリ「あ、そう、だよな。うん」
フィリオ「ふふふ」
ゼラド「どうなんですか、フィリオさん!」
フィリオ「あはははは、とんだところに、とんだ名探偵がいたのかもしれないね」
ミナト「フィリオ先生! ムダに悪ぶった笑い方しないでください!」
カル「そうですよ! べつに悪いことしたわけじゃないんですから!」
ゼラド「フィリオさん、わたし、いまちょっと怒ってますよ?
 アオラたちになにかあったら!」
フィリオ「来なさい。そうすればわかるから」

 【神社】
ハザリア「なんだ、ここは我々が目指していた神社ではないか」
ヴィレアム「そっか。お前たち、西に向かってたもんな」
ラーナ「わぁー、痛々しいイラスト入りの絵馬がいっぱいあります。なんですかこれ」
フィリオ「アオラくんたちは、あの祭具殿の中だよ」
ゼラド「アオラーっ!」

 【祭具殿】
ゼラド「アオラっ! 大丈夫!?」
ルル「ゼラドさま! アオラさまが!」
アオラ「・・・・・・うぐ」
ハザリア「なんだ、これは? 狩猟用の罠か? いやしかし、このサイズは、まさか」
ゼラド「ラーナちゃん! これ、分解できる!?」
ラーナ「かなり古いものですね。資料的な価値とかありそうな感じなんですけど、いいんですか?」
ハザリア「待て、もったいない」
ゼラド「やって! 早くッ!」
ラーナ「ぴぃっ!」

 キンッ

アオラ「うぅっ!」
ルル「あぁ、アオラさま、よかった!」
ハザリア「なんなのだ、この倉の中は! 拷問器具、しかも人間用ばかりではないか!
 まったく! ニホンの田舎者は、たまに猟奇趣味に走るから困る!」
ゼラド「フィリオさん、許しませんよ! アオラをこんなとこに閉じこめて!」
アオラ「・・・・・・やめてくれ姉ちゃん。フィリオさんは悪くない。
 ・・・・・・俺が勝手に来て、勝手に罠に引っかかっただけなんだ」
ゼラド「アオラ? なにいってるの?」

マリ「それより、早く手当しないと!」
ハザリア「ああ、そうだな。おい貴様、
 魚釣りに来ていたなら、ハンゴウくらい持ってきているだろう。
 湯を300ミリリットルほど沸かして、こいつが半分ほどになるまで煮詰めて来い」
ヴィレアム「え? うん」
マリ「待てよ! それ、毒なんじゃ!?」
ハザリア「貴様は、なんだ。俺が無意味に毒草を摘んで歩く変質者だとでも思っていたのか?」
マリ「エ?」
ハザリア「オトギリソウはたしかに強力なヒペリシンなどが含まれておるが、
 適切に使えば傷薬や咳止めになる。
 炎症を起こすマムシグサやイラクサも、一方では腫れ物薬や毒蛇の解毒剤になる。
 毒草など、たいがいそんなものだ」
ルル「だったら初めから薬草といってくださいまし!」
ハザリア「ん~、おいバランガ弟、ついでにクサヨシもやっておくか?
 痛みがなくなるついでに、現実も捨てられるぞ?」
ゼラド「貸してハザリアくん! わたしが手当するから!」
ハザリア「ああ、そうだ、そうしろそうしろ。
 だいたい、俺が貴様の弟を手当する義理なんぞ」

 パシンッ

ゼラド「アオラ?」
アオラ「・・・・・・やめろよ、姉ちゃん、恥ずかしい」
ゼラド「アオラ! お姉ちゃん怒るよ! 勝手にいなくなって勝手に怪我して! どれだけ心配したと」
アオラ「うるさいんだよ! 俺をいくつだと思ってるんだ!?」
ゼラド「なにいってるの! ルルちゃんまで連れ出して!
 ルルちゃんになにかあったら、どうするつもりだったの!?」
アオラ「それがウザいっていってるんだよ!」
アオラ「アオラッ!」

フィリオ「そのくらいにしておきなさい。
 罠にかかったのは予想外だったけれど、彼だって悪気があったわけじゃない」
ゼラド「フィリオさんは黙っててください!」
フィリオ「彼のいうことも聞きなさい。アオラくんは小学生の子供じゃない。
 たった1つしか違わない姉に世話を焼かれ続けるなんて、男の子にはものすごい屈辱なんだよ?」
ゼラド「え・・・・・・」
アオラ「そうだよ。だから、見せてやりたかったんだよ。俺だけでもできるって」
ルル「兄上がこの村の祭具を狙っていることは知っていました。
 それで、先回りして祭具を見つけてしまおうと」
ハザリア「その挙げ句にこのザマか。いい格好だなぁ、ええ? バランガ弟」
アオラ「・・・・・・くっ」
マリ「お前は黙ってろ」

アオラ「最初は吊り橋の下に隠れてて、姉ちゃんたちが離れたら抜けだそうとしてたんだ。
 でもフィリオさんたちに会っちゃって、それで、頼んだんだ。
 俺たちのことは、見なかったことにしてくれって」
ミナト「ゴメンな。ずいぶん真剣に頼まれたから」
カル「まさか、怪我をすることになるとは思わなくて」
フィリオ「それに、君たち姉弟には必要なことだと思ったからね」
ゼラド「じゃ、わたしたちと会ったときにフィリオさんが吊り橋の上で騒ぎ続けてたのは、
 アオラたちにわたしたちが来たことを知らせるためだったんですか?」
フィリオ「ふふふ、それはどうだろうね」
ミナト「底知れねぇ! やっぱフィリオ先生は底知れねぇ!」
カル「やはり、名トレーナーなのでは」
マリ「演技には見えなかったけどなぁ」

ゼラド「アオラ、ごめんね。アオラがそんなふうに思ってるなんて、知らなかった。
 でもね、アオラはわたしの弟で、わたしはお姉ちゃんなんだよ?
 アオラがどれだけ大きくなっても、お姉ちゃんなんだよ?
 心配しないなんて、そんなの、ムリだよ」
アオラ「・・・・・・うん」
ゼラド「たったひとりの、弟なんだから」
アオラ「・・・・・・うん」

ハザリア「そうだぞルルよ。貴様も、俺にとってはたったひとりの、
 かけがえのない政治的駒なのだからな」
ルル「まぁ兄上、わかっておりますわ」
マリ「台無しだよ!」
ルル「でも兄上、ルルはひとつだけ、兄上に勝ったんですのよ?」
ハザリア「ほぉう、面白い冗談だ」
ルル「残り容量を見てごらんなさいまし! もはや>>819ラン獲得は絶望的!」
ハザリア「くけぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

ヴィレアム「おーい! お湯沸かしてきたけど!」
ハザリア「あぁ、テンション下がった。もうどうでもよいわ。
 おい、適当にオトギリソウを手もみして、バランガ弟の足になすりつけてやれ。
 いっておくが、応急処置だからな。さっさときちんとした手当をせよ」
ラーナ「錆びた刃物でやられてますから、精密検査とか必要だと思います」
フィリオ「早く病院に運ぶことだね」
???「その役目、私たちに任せてもらいましょうか」

ゼラド「あなたたちは!?」
マリ「ユウカさんがすれ違ったっていう老夫婦?」
???「その実態は!」

 バリッ! バリッ! バリッ!
キャリコ「キャリコ!」
スペクトラ「スペクトラ!」
キャリコ「ふたりは!」
スペクトラ「おしどり夫婦!」

 カァー カァー カァー

ハザリア「なにをやっとるかこの中年夫婦は」
キャリコ「もう、せっかく夫婦水入らずの旅行楽しんでたんですから、
 面倒ごとに巻き込まれないでくださいよ」
マリ「なんで変装なんかしてたんですか」
キャリコ「いいですかマリ嬢、20年近くも夫婦やってると、ときには変わった刺激が必要なんですよ」
ラーナ「奥が深すぎて意味がわかりません」


 ババババババ
キャリコ「はいはい、メギロートヘリが到着しましたよ。怪我人をこちらに」
マリ「メギロート単体で飛べるじゃないですか。なんですかあのムダなヘリ装備」
ゼラド「じゃ、アオラ」
アオラ「うん」
ゼラド「迷惑かもしれないけど、病院まで付き添わせてね?」
アオラ「・・・・・・迷惑なんかじゃ」
ゼラド「え?」
アオラ「・・・・・・ゴメン」
ゼラド「・・・・・・お姉ちゃんも」
アオラ「・・・・・・うん」
ヴィレアム「あ、俺も付き添うよ!」
ルル「もちろん私も参りますわ!」

ゼラド「ハザリアくんたちは、どうするの?」
ハザリア「ああ、どうやら>>819ランは取れそうもないし、
 もう少しこの廃村を散策してみるわ。まだ面白いものがあるかもわからんしな」ボリボリ
マリ「な、お前、さっきから首掻いてるけど、虫にでも刺されたのか?」
ハザリア「いや、なんだかわからんが、痒くてたまらん」
マリ「掻くなよ、跡になるぞ」

フィリオ「じゃ、僕たちも行こうか」
カル「え、帰るのでは?」
フィリオ「ミナトくん、九州の名産といえば?」
ミナト「明太子! チャンポン! サツマアゲ! アイドル!」
フィリオ「さぁ行こうか。レイニャ生誕の地、そして元ハマサキクルミ現ハマサキアユミ生誕の地へ!」
ミナト「さすがフィリオ先生だ! いまだにアユをアイドルに数えてる!」
カル「どうしよう。この旅が続けば続くほど、ミナトがわからなくなる」
ゼラド「あのっ、フィリオさん、もうしわけありませんでした!
 その、失礼なこといっちゃって!」
フィリオ「忘れたさ。アユが龍虎の拳に出ていた経歴は決して忘れないけれどね」

ラーナ「あ、じゃあわたしは、ログハウス制作に戻りますので」
ゼラド「あれ、ラーナちゃん、いつスカートにはきかえたの?」
ラーナ「さっき借りてきました」

 【森深く 秘湯】
ユウカ「・・・・・・じゅーはち・・・・・・ごせんさんじゅーきゅー・・・・・・ごせん・・・・・・」

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最終更新:2009年10月17日 11:34
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