理科準備室の魔術師


26代目スレ 2008/09/27(土)

 【理科室】
 ガチャンッ ガチャンッ!
修羅兵の子(♀)「きゃあぁぁぁぁっ!」
エリート兵の子(♂)「どうしたんだい、修羅兵の子(♀)クン!?」
ゼラド「わっ、なぁに!?」
修羅兵の子(♀)「あそこに、あそこに・・・・・・、ヘンな男が!」
エリート兵の子(♂)「ここかい!? くっ、カギがかかってる!」ガチャガチャッ
ゼラド「誰か、先生呼んできてーっ!」
エリート兵の子(♂)「逃がすものか! このっ、踏み込みが甘いっ!」
 バァンッ!

ゼラド「うわっ、なにこの臭い!」
ルアフ「いけない! みんな、ハンカチで鼻と口を押さえて下がりたまえ!
 それから、すぐに換気を!」
ゼラド「えっと、ハンカチ、ハンカチ、えっと、えっと・・・・・・、えいっ!」ボフッ
レイナ「『えいっ』じゃないわよ! なんであたしの胸に顔埋めるの!」
ルアフ「ペロッ、これは、濃塩酸!」
レイナ「なんで濃塩酸を平気で舐めるの、あんたは!」

ルアフ「事件は、一限目の授業が始まる前の朝に起こった。
 今日の日直であるところの修羅雪ちゃんが
 授業の準備をするために理科室のカギを開けたところ、
 中に怪しい男がいたと」
レイナ「理科室の窓が開いてる。ここは1階だから、外から入ってくることは可能ね」
修羅兵の子(♀)「そいつ、いきなりあたしに襲いかかってきて」
エリート兵の子(♂)「なんだって!?」
修羅兵の子(♀)「あたしからカギの束を奪い取って、理科準備室の中に」
ルアフ「ところが、ドアを破ってみると誰もいなかった、と」
レイナ「あ、見て。テーブルの上にカギが。
 キーホルダーから外されて、バラバラになってる」
ルアフ「フムフム。
 この理科準備室では濃塩酸や濃硫酸をはじめとする劇薬が保管されているからね。
 安全のため、出入り口は理科室と繋がってるこのドア一枚切り。
 日光を嫌う薬品も多いから、窓ガラスなんかはひとつもないんだ」
エリート兵の子(♂)「どういうことですか?
 いったい犯人は、どこへ消えてしまったというんですか?」

ゼラド「落ち着いた?」
修羅兵の子(♀)「う、うん」
ゼラド「あ~あ、もう、髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃって。
 やってあげるね。リボンはこれ?」
修羅兵の子(♀)「あ、ありがと」
レイナ「ねえ修羅雪。あんた犯人の顔は見たの?」
ゼラド「よしなよレイナ。もうちょっと時間置いてからだって」
レイナ「だって時間かけてたら、逃げられちゃうじゃない」
修羅兵の子(♀)「一瞬だったから、あんまりよく見てないの。
 それに、なんだか黒いマスクみたいのかぶってて。
 かなり大柄の男の人だったと思うけど」
レイナ「そいつ、なんのために学校の理科準備室なんか狙ったのかしら」
ルアフ「どっかで太陽でも盗んできて、9番目の男になろうとしたんじゃない?」
レイナ「太陽なんかどこで盗んでくるのよ」
ルアフ「ま、そこまで行かなくても学校の理科準備室って地味に劇薬揃ってるからね。
 どっかの過激派が毒ガスでも作ろうとしたんじゃないの?」
レイナ「前っから思ってたんだけど、理科準備室にある危ないクスリとか
 キモいホルマリン漬けとか、授業で使うことないじゃない。
 なんでこんなもんがあるの」
ルアフ「ま、授業じゃ使わないんだけど、理科の先生が欲しがるんだよね。
 使わない薬品に限って、絶対必要なんだーって主張して」
レイナ「断んなさいよ、そんなもん。
 怪談のネタくらいにしかならないんだから」
ルアフ「そうはいうけど、怪談のない学校なんか味気ないもんだと思わないかい?」
レイナ「怪談のために学校の予算つかわないでよ」
ルアフ「そういえばさ、たまに数学の先生なんかが白衣着てたりするんだけど、
 あれはいったいなんなんだろうね」
レイナ「理系の先生の習性のことなんかどうでもいいのよ!」
ルアフ「うふふ、ねえレイナ、どうする?
 密室の謎だよ、これは」
レイナ「なにが密室よ。カギなんかいくらでも作れるじゃない。
 ね、カギの管理はどうなってるの?」
修羅兵の子(♀)「えっと、その日の日直が授業の始まる前に職員室から取ってきて、
 授業が終わったら返すっていうかたちだけど」
レイナ「カギは、そこにあるひとつだけ?」
ルアフ「基本、ひとつっきりだよ。
 マスターキーは用務員のアクセルくんが管理しているはずだ」

 【用務員宿舎】
アクセル「カギなら金庫で保管してある。あそこのな」
レイナ「金庫の暗証番号はどうなってるんですか?」
アクセル「定期的に変えて、メモもなにも残していない。
 知っているのは俺だけだ、おそらくな」
レイナ「今朝、どこでなにしてましたか?」
アクセル「おいおい、俺を疑っているのか、まさかな」
レイナ「答えてください」
ゼラド「レイナぁ~、アクセルさんなら、今朝校門のあたりを掃除してたよ?」
レイナ「あれ、そうだっけ?」
ゼラド「そうだよ。一緒に挨拶したでしょ?」
ルアフ「あはははは、うちのレイナはうっかりさんだなあ」
レイナ「職員室のほうにあるカギの管理はどうなってたの?」
アクセル「毎日校門を閉めてから確認している。
 うん、きちんと日報にもあるぞ?
 昨日の放課後時点では、確実に職員室にあった」
レイナ「それは何時頃の記録ですか?」
アクセル「午後6時だな」
レイナ「午後の授業が終わるのはだいたい午後4時頃。
 たしか、昨日最後に理科室を使ったのはあたしたちのクラスだったわね。
 ねえ、昨日の日直って誰だっけ?」
ゼラド「え、たしか、リトゥちゃんだったけど」

 【理科準備室】
リトゥ「えっ、わたしが!?」
レイナ「それしか考えられないのよ。
 昨日の放課後、あんたは理科準備室のカギを自由にできる立場だった。
 授業が終わる午後4時からアクセル用務員がカギのチェックをするまで、2時間ほどあるわ。
 それだけあったら、角の文具店までひとっ走りしてスペアキーを造ることくらい余裕でしょ」
リトゥ「余裕でしょっていわれても、なんでわたしがそんなことを」
レイナ「なんでって、えぇ~と」
ルアフ「頑張ってレイナ! このへんのハッタリが名探偵の条件だ!」
レイナ「理解準備室の薬品で、なんか作るつもりだったとか」
リトゥ「なんかって?」
レイナ「惚れ薬とか、催淫剤とか」
ルアフ「大失敗だよレイナ! それ推理じゃなくて君の深層心理だよ!」
リトゥ「そんなもの、作る技術も知識もないけど」
エリート兵の子(♂)「いったい、どうしてそんな発想が出てくるんだ、あなたは!」
レイナ「なんでって、えぇ~と、その、
 リトゥ! あんた最近エリトゥって自称して特進科クラスに入り浸ってるでしょ?
 不自然じゃない。なにか目的があったんじゃないの?」
リトゥ「ないから! 自称してないし入り浸ってないし、目的なんていっさいないから!」
ゼラド「リトゥちゃんはそんなことする子じゃないよ!」
修羅兵の子(♀)「そうだよ、エリトゥちゃんはそんなことしない!」
エリート兵の子(♂)「第一失礼じゃないか!
 エリトゥクンの名前を間違えるなんて!」
リトゥ「え、えぇと、これ、かばわれてるの?」
ゼラド「でもレイナ、仮にスペアキーがあったとして、
 なんで犯人は修羅雪ちゃんからカギの束を奪っていったのかな」
レイナ「そんなの決まってるじゃない。
 密室を装って、捜査を混乱させるためよ」
ゼラド「う~ん、でも、それにしたって
 修羅雪ちゃんが理科室に来るまで待ってるのはおかしいと思うんだよね。
 誰もいないうちに、サッと理科準備室に入ってサッと出てくればいいでしょ?
 誰かに見られたら見られただけ危険が危ないし」
レイナ「でも、カギを室内に残したまま消えてなくなるなんてムリじゃない」
ゼラド「う~ん、あっ、ドアの上と下に隙間がある。
 ここからカギ一枚くらい通るんじゃないかな?」
レイナ「カギはバラバラになったカギ束と一緒に転がってたのよ。
 そんな隙間からねじ込んだだけじゃ、カギ束のとこまで狙いすますのはムリよ」
ゼラド「う~んと、理科準備室の中は」
ルアフ「入っちゃ危ないよ。
 濃塩酸は揮発しちゃってるけど、容器の破片が散らばってるから」
ゼラド「あっ、画鋲が落ちてる」
ルアフ「そこに落ちてるポスターを留めてたやつじゃないかい?」
ゼラド「う~ん、と」
修羅兵の子(♀)「なに?」
ゼラド「あ、そっか」ポン
レイナ「またなにかひらめいたの?」
ルアフ「はい、お酢持ってきたよ!」
ゼラド「わたしの頭は酢入りだから!」
レイナ「朝一から頭にお酢かぶっちゃって平気なの、あんた!」

ゼラド「まず確認しておきたいんだけど」
修羅兵の子(♀)「なに?」
ゼラド「修羅雪ちゃん、あなた、犯人じゃあ、ないよね?」
修羅兵の子(♀)「えぇっ!?」
ゼラド「ちょっとこれ、貸してくれない?」シュルッ
レイナ「なにするの? そのリボンで」
ゼラド「えっと、まず、カギの束をバラしてテーブルの上に置くでしょ?
 それから、画鋲でリボンの片方を束のそばに固定して、片方をドアの上の隙間から通すの。
 外からカギをかけて、カギの上にある穴にリボンを通して隙間にねじ込んで、と。
 あとは外からリボンを引っ張れば、ゴンドラの要領でカギはカギ束のところまで落ちてくでしょ?
 最後にリボンを強く引っ張れば、画鋲が抜け落ちて、
 準備室のカギもほかのカギと一緒に落ちてたようになるってわけ。
 濃塩酸のビンを割ったのは、画鋲が落ちてることをカモフラージュするためだったんだね?」
ルアフ「フムフム、それが可能な人物というと」
レイナ「カギを持っていた本人!」
修羅兵の子(♀)「それは」
エリート兵の子(♂)「修羅兵の子(♀)クン! ほんとうなのかい!」
リトゥ「そんな、まさか」
修羅兵の子(♀)「ゴメンね」
リトゥ「え?」
修羅兵の子(♀)「そう、そうよ!
 侵入者なんかどこにもいない! あたしの自作自演だったのよ!」
リトゥ「そんな」
エリート兵の子(♂)「どうしてそんなことを!」
修羅兵の子(♀)「ぐすっ、ぐすっ、ゴメン、ゴメンね、エリトゥちゃん。
 エリトゥちゃんに疑いが行くなんて思わなくって」
リトゥ「そこはべつにいいんだけど。あの、わたしの名前」
エリート兵の子(♂)「泣いていてはわからないよ修羅兵の子(♀)クン!
 いったいなんのつもりでこんなっ!
 エリトゥクンにまで迷惑をかけて!」
修羅兵の子(♀)「寂しかった。寂しかったのよ!
 最近エジュニア、エリトゥクンエリトゥクンって、エリトゥちゃんばっかり構って!」
リトゥ「えぇ~」
エリート兵の子(♂)「なんてことをいうんだ。
 エリトゥクンは僕たちの仲間に入ったばっかりなんだから、
 誰かが気にかけてあげるのは当然じゃないか!」
リトゥ「えっと、入ってるの? 仲間に」
エリート兵の子(♂)「僕にとっては、キミもエリトゥクンも、おなじクラスの大事な仲間だ!」
リトゥ「おなじクラスの仲間じゃ・・・・・・!」
修羅兵の子(♀)「あんたが、そういうこというひとだってことはわかってた。
 でも、だから、だからあたしっ、どうしようもなくて!」
エリート兵の子(♂)「え・・・・・・」
修羅兵の子(♀)「わあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ゼラド「エジュニアくん、修羅雪ちゃんをあまり責めないで」
エリート兵の子(♂)「・・・・・・間違ってる」
ゼラド「え?」
エリート兵の子(♂)「バランガクン、君の推理は間違ってる!
 なぜなら、そう、僕だからだ!
 修羅兵の子(♀)クンからカギを奪い取り、濃塩酸のビンを割り、
 そこの棚にあるビニール紐を使ったトリックで密室を作り上げたのは!」
ゼラド「えぇっ、だってエジュニアくんは、悲鳴が起こったときわたしと廊下に」
ルアフ「バランガ君」
ゼラド「ルアフ先生」
ルアフ「やめたまえ。ここから先は、探偵の仕事じゃないのさ」

エリート兵の子(♂)「悪いのは僕だ! 僕を捕まえてくれ!」
修羅兵の子(♀)「やめて、やめてエジュニア!
 あたし、うれしかったから!
 あたしが悲鳴を上げたとき、一番に駆けつけてくれて!」
エリート兵の子(♂)「そんなの、当たり前じゃないか。だって」
修羅兵の子(♀)「ぐすっ、ぐすっ、ゴメン、ごめんなさい・・・・・・」

ルアフ「どんな名探偵にも、ひとの心の綾を解き明かすことは不可能なのさ」
レイナ「いまは、あんたがどこからあのお酢を出してきたのかの方が気になる」
ゼラド「いいひとたちなんだね」
リトゥ「いいひとたちではあるんだけど」
ゼラド「クラスメイトっていいね! 大事にしていきたいね!」

リトゥ「どうしよう。素直にウンっていえない。
 わたし、心が汚れてるのかなぁ・・・・・・」

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最終更新:2009年10月17日 11:34
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