産霊山秘録


23代目スレ 2008/04/08(火)

 ガタンゴトン
キャリコ「なぁ~んで、マリ嬢連れて来ちゃったんですか」
ハザリア「なにか、駅で捕まってしまった」
マリ「むしゃむしゃ」
キャリコ「そしてまた、なぜ駅弁を与えているんですか」
ハザリア「なにかこう、気が付いたら与えていた。
 おそらく、切符を買うときにコッソリカゴに入れられたのだと思う」
キャリコ「なんですか、そのヘタないいわけは。
 あなたは電車の切符買うのにカゴ持ってレジ通るんですか」
 なぜPASMOを持たないんですか、PASMOを」
ハザリア「PASMOを見せびらかすなPASMOを」
キャリコ「だって、PASMOベンリなんですよPASMO」
ハザリア「ああ、たしかにPASMOはベンリだがPASMOは」
マリ「PASMOPASMOうるさいよ。今度はPASMOの会社からなにかもらったのか」
ハザリア「なんだ、PASMOの会社というのは」
マリ「どうせまたお前、わたしに隠れてろくでもないとこ行くつもりなんだろう」
キャリコ「前に置いてかれたのが、相当気に食わなかったみたいですね」
マリ「そんなんじゃありませんけど」
キャリコ「じゃ、駅弁もう1個積みますから、帰っちゃくれませんか」
マリ「なんですか、いちゃいけないんですか、わたしが」
キャリコ「いちゃいけないってことはぁ、ないですけどぉ~」
ハザリア「オッサン、しつこいぞ。いつまでゴネとるか」
キャリコ「だってぇ~」
マリ「なんだよ、わたしにいえないようなところなのか?」
キャリコ「イエイエ、そういうところでしたらね、
 こんな、ひとんちの子より、自分ちの子供のほう先に連れていきますよ」
マリ「それはそれでやめてくださいよ」
キャリコ「だってねえ、宅の息子はねえ。
 真面目なのはいいんですが、どうにも、あのままじゃ今後の仕事に差し支えるというか。
 おじさんもこれで、ひとの親ですからねえ」
ハザリア「キャクトラの進路のことなど話されても、知るか」
マリ「で、結局どこ行くんだ」
ハザリア「ああ、それは、こやつに聞いた方がよかろう」

 ずるり
ユウカ「見つかった」
マリ「ユウカさん? どうしたんですか男装なんかして」
ハザリア「時代遅れのビジュアル系みたいになってるぞ、貴様」


 ゴトンゴトン
ハザリア「ここから私鉄に乗り換えて小一時間ほど行った東北の山奥に」
マリ「お前、東北好きだな」
ハザリア「ああ、俺は東北大好きだ」
キャリコ「おじさんはミヤギも好きですよミヤギも」
マリ「キャリコさんは県知事の思うつぼです」
キャリコ「でも、地鶏とビールのコラボはきっと絶品ですよ。試したことありませんけど」
ハザリア「やかましいわ」
キャリコ「よし! 予定変更して、ミヤギ行きましょうミヤギ!」
ユウカ「是非そうして。あたしは本来の予定通りサンレイ山に向かうから」
マリ「あれ? サンレイ山て、どこかで聞いたような」
ハザリア「大方、くだらんテレビ特番かなにかで見たのだろう。
 妙に三角形をしているものだから、トンデモ系の論者などにニホンのピラミッド呼ばわりされている山だ」
キャリコ「地元じゃ昔から山岳信仰の対象にされてたそうですよ。
 本来は女人禁制なんです」
マリ「ああ、それでキャリコさんゴネてたんですか」
ハザリア「このオッサンはオッサンなだけあって、妙に迷信深いのだ」
キャリコ「いやぁ、迷信とオジさんをバカにしちゃいけませんよ」
マリ「あれ、でもユウカさんは、そういうオカルト信じないひとじゃありませんでしたか?」
ユウカ「信じてない。
 山岳信仰の盛んな国で、ミステリアスな伝説くっついた山がたくさんあるのはナチュラルな話。
 これだけ国土がデコボコしてれば、ヘンに三角形した山がチラホラあるのも、まったくミステリーじゃない」
ハザリア「アオモリのオオイシガミ、ナガノのミナカミヤマ、ヒロシマのアシタケヤマ。
 ちょっと思い出しただけでも、ニホンのピラミッド呼ばわりされている山はいくらでもある」
キャリコ「ミヤザキにはないんですか、ミヤザキには」
ハザリア「聞いたことないな」
マリ「じゃ、ユウカさんはなにしに行くんですか。
 スキーには遅いし、お花見にでも行くんですか?」
ユウカ「花見だったら、こないだウエノに行ってきた。
 ひとりで。ひとりっきりで、ロンリネスに」
マリ「ひとりを強調しないでくださいよ。
 結局、なにしに行くんですか」
ハザリア「この記事だろう?」バサッ
マリ「週刊誌がどうかしたのか。なに、『サンレイ山に謎の発光物体出現!?』
 うさんくさい記事だなさ。
 『オラ見ただよ、この間の嵐の晩、イナズマが落ちたと思ったらよ、山のてっぺんさ、ボウッと青緑色に光ってでよ』
 なんで目撃証言が妙に訛ってるんだよ。アレ、ちょっと待て。
 『全長20メートルほどで全身が真っ赤。右腕には巨大なハサミが付いていて、頭からは巨大なツノ』?
 オイ、この妙に詳細な目撃証言、ひょっとして」
ハザリア「ああ、エクサランスのストライカーフレームに似とる。
 やることだけやって、さっさとどこかにトンズラこいた、こやつのオトコやもしれん」
ユウカ「トンズラなんかしてない。それに、やることもやってない」
キャリコ「なるほど、それで、やることやりに行くんですね?」
ユウカ「そうオープンにいわれると、少し照れる」
マリ「ユウカさん、本心はどうあれ表向きは否定しときましょうよ」
ユウカ「ウソをつくのって、得意じゃない」
マリ「でも、なんでお前が行こうとするんだよ」
ハザリア「中途半端な希望は、ときに残酷だ。
 ときにはキッパリスッパリ絶望を与えてやるのが、慈悲というものだろう」
マリ「お前は最悪だ!」

 【サンレイ山】
キャリコ「あ~あ、入山しちゃいましたよ。
 いいんですかねえ、女人禁制の霊山なのに」
ハザリア「まだいっとるのか。しつこいオッサンだな。
 昔はどうだったか知らんが、いまとなっては無人のボロ寺があるだけの山ではないか」
キャリコ「いやいや、霊山を舐めちゃいけませんよ。
 この山にはですね、650万年前にサナート・クマラなる魔王が降臨したという伝承がありましてね」
ハザリア「それはクラマ山の伝承だろうが」
マリ「650万年前って、それどこの誰が観測したんですか」
ユウカ「あたしが探してるのは、そんな鳥人間じゃない」
マリ「たぶんだけど、ユウカさんの想像は間違ってると思います」
ユウカ「わかってる。ONIシリーズの4作目だか5作目だかのラスボスでしょう」
マリ「それはそれで、間違ってはいませんけど」
ユウカ「あたし信じてる、ナムコクロスカプコンのキャラがオッケーなら、
 ONIシリーズのキャラもオッケーじゃない」
マリ「どうでしょう、向こうは向こうで、ややこしいプロデューサーがいますから」
ユウカ「あんたは、なぜ頑ななまでにあたしに敬語を使うの」

 【ボロ寺】
キャリコ「いやぁ~、特になにもないまま頂上に着いてしまいましたねえ」
ハザリア「フン・・・、ハァ、こんなとこだろうと・・・ハァ、思った・・・ハァ、わ・・・ハァ」ゼーゼー
ユウカ「ノン・・・ハァ、まだまだオードブル・・・・・・ハァ、メインはこれから・・・・・・ハァ」ゼーゼー
マリ「なんで登山でバテるのに山に来たがるかなあ」
ハザリア「やかましいわ! だいたい、なぜ貴様はケロっとしているのだ!」
マリ「舞台っていうのは意外と体力使うんだよ。
 問題はユウカさんですよ、なんですかその持久力のなさ!
 そんなんじゃライブでもちませんよ」
ユウカ「現に、持ったためしがない」
マリ「鍛えましょうよ。ランニングとかしましょうよ!」
ユウカ「それはダルい」

キャリコ「いやぁ、寺ン中ざらっと見てきましたけど、なにもありませんね。
 浮浪者が住み着いてた形跡もありませんし」
ユウカ「やっぱり、ここにもなにもなかったのね」
マリ「ユウカさん、あっさり諦めすぎですよ」
ユウカ「これまでも、しばしば学校ヴァニシングして彼を捜してた」
マリ「気持ちはわかりますけど、学校サボっちゃダメですよ」
ユウカ「いままで全部空振りだった。また、負けスコアがひとつ増えただけ」
マリ「ユウカさん、そんな顔しないでくださいよ」
ハザリア「いや、しかしこのあたりは、ちょっと妙な感じがするぞ」
マリ「なんだ、念動力的ななにかか」
ハザリア「そんな、あるんだかないんだかわからんような能力などハナからアテになどしとらんわ。
 単に感覚的な問題だ。どうも、磁場が少し乱れているらしい。
 入山したときにはなんともなかったのだが、山頂部付近だけこれとは、少々妙な感じだ。
 計測機器でもあれば、もう少し詳しくわかるのだが」

キャリコ「あっ、坊、坊! 寺の裏にヘンなもの見つけましたよ。
 読めますか、これ?」
マリ「なんだ、この岩。なにか書いてあるけど、これ文字か?」
ハザリア「ふむ、なになに。
 『大いなるマッドアングラー文明の遺産ここに眠る。
  大西洋がベルリン色に染まり、7872億7318784中の247224因子がトラフィックになった夜、
  聖なるガーベッジコレクションよりゴックがゾノが這い出るであろう』」
マリ「なんだ、その電波丸出しの文言は」
ユウカ「そんな、ゴックからゾノが出てくるなんて」
マリ「なに水陸両用モビルスーツに食い付いてるんですか」
キャリコ「なにかの暗号ですかね」
ハザリア「いや、なんら意味はないだろう。
 こいつは、ルーン文字とアステカ文字とトンバ文字と
 ヘブライ文字のギャル文字のチャンポンで書かれた、正真正銘の電波文だ」
マリ「それが読めるお前も、いったいなんなんだろうな」
ハザリア「彫られたのも、ずいぶん最近のようだ。
 大方、どこかの新興宗教が一方的に彫っていったのだろう」
キャリコ「じゃ、やっぱりここにはなにもありませんね。
 なにかしら不可思議なものがあったら、とっくの昔に新興宗教団体が祭り上げてるはずですからね」
ハザリア「いや待て。彫刻は新しいが、どうもこの岩自体は古いもののようだ」
ユウカ「向こうにも、似たようなのがあるけど」
ハザリア「なるほど、道しるべということか。ちょっと行ってみるか」

マリ「蒸し暑くなってきたな」
キャリコ「うぷっ、なんです、この臭い!」
ハザリア「イオウだな。見ろ、温泉が湧いてる」
キャリコ「わかりました。おじさんが一番風呂を使います」
ハザリア「勝手にしろ。明らかに100度以上ある湯がビュンビュン噴き上がっとるがな」
キャリコ「エヘヘヘ、やだな、坊」
ユウカ「ム」
マリ「どうしたんですか?」
ユウカ「ゴッドサンダーブーメラン!」

 ヒュンッ!

マリ「なんでブーメランなんか携帯してるんですか!」
ハザリア「そこはウソでもステルスブーメランとかいっておけ!」
ユウカ「それより見て、あれ」
マリ「なんだ、泥人形?」
ユウカ「いま、これが動いてた」
ハザリア「目の錯覚ではないか。動力のようなものは付いとらんぞ」
ユウカ「でも、動いてた」

 ゾロッ ゾロッ ゾロッ ゾロッ

ユウカ「いっぱい出てきた」
キャリコ「坊、ひとまず下がっててください!」ドンッ
ハザリア「わっ、押すな!」
マリ「オイ、引っ張るなよ!」


ユウカ「ふたりが洞の中に落ちた」
キャリコ「なるほど、間欠泉の中に洞窟が隠されてたんですね。
 あれじゃぁ新興宗教団体に見つけられないのも無理はありません」
ユウカ「洞の入り口が閉じたけど、大丈夫かな」
キャリコ「まぁ、勝手にやるでしょう」
ユウカ「ふたりになにかあったら」
キャリコ「なにかあればいいんですよ」
ユウカ「なにかって」
キャリコ「いいですかお嬢ちゃん、出てきたとき、なにかあったような感じだったら、
 ニヤニヤ笑いながら『おめでとう』といってあげればいいんです」
ユウカ「ちょっと、リアクションに自信持てない」

 ゾロッ ゾロッ ゾロッ ゾロッ

キャリコ「ひとまず、こいつらをどうにかしないと」
ユウカ「マッドゴーレムってとこね」
キャリコ「巨人としちゃ不完全な部類です。妖精キッカちゃんを呼んでこないと」
ユウカ「騎士ガンダムは機甲神伝説しかわからない」
キャリコ「むしろ、なぜ機甲神伝説のみ知ってるんですか。
 ともあれ、危険ですよ。下がっててください」
ユウカ「ノン」

 BLAM! BLAM! BLAM!

ユウカ「ラブ、そしてプライド。女が戦う理由は、それだけあればイナフよ」
キャリコ「いけませんよ、女子高生が拳銃持って電車乗っちゃぁ」
ユウカ「ソーコムピストルぶら下げてるオッサンにいわれたくない」
キャリコ「エンフィールドNo2ですか。危ないですよ、そんな年代物じゃ」
ユウカ「でも、デザインがスマートよ」
キャリコ「嫌いじゃありませんがね、そういうチョイスの仕方」


 前方から二体、マッドゴーレムが腕を振り上げながらやってくる。ユウカとキャリコ
はほぼ同時に踏み込んだ。蹴り、そして発砲。エンフィールドとソーコムが同時に火を
吹いた。
 右手、左手。何体ものマッドゴーレムが立て続けに砕け散る。
 敵の数は一向に減っていかない。むしろ、建ち並ぶ木々の隙間をぎっちりと埋め尽く
すほどに増えていく。
 ユウカとキャリコは背中合わせに構えた。大量の銃声が大気を引き裂く。360度に銃弾
を吐き散らす。土塊が飛ぶ。マッドゴーレムがその輪郭を崩し、泥の破片が地面に積もっ
てゆく。
 と、ユウカはやにわに銃口を真上に差し上げた。
 銃弾は枝の上から飛び降りようとしていたマッドゴーレムに命中する。土色の胴体に
風穴があき、あっという間にボロボロと崩れ去った。
「うかつよ、オジさま」
「吹くじゃぁないですか、アマチュアが」
 キャリコは悠然とマガジンを取り替える。
「いいですか、お嬢ちゃん。拳銃なんてのはね、狙い撃つようなもんじゃないんです」
 キャリコはゆらゆらとした足取りでマッドゴーレムの群れの中に進んでいった。ぶん
と唸りを上げる泥色の腕を、あっさりとかいくぐる。長い手足を四方八方に放ちだした。
なぎ倒したマッドゴーレムに対して、ソーコムの黒光りする銃口を突き付ける。
 淡々とした銃声がいくつか連続した。
「ねじこみゃいいんです、こんなものは」
「オジさまにかかったら形無しね。オーライ、せいぜい精進する」
「アマチュアにしちゃ、いい心がけです」
 ユウカは応えず、スピードローダーを使ってエンフィールドに弾丸を再装填した。



 【洞窟の中】
マリ「入り口が閉じちゃったぞ。どうするんだ」
ハザリア「どうするもこうするもあるか。
 ここでボケーっとしとるのも芸がない。奥に進むしかなかろう」
マリ「大丈夫か? 救助とか待った方が」
ハザリア「貴様は、あのオッサンがまともに救助してくれるとでも思っとるのか」
マリ「お前とキャリコさんの信頼関係がよくわかんないよ」

マリ「でも、ヘンな洞窟だなぁ。なんだか、壁がボンヤリ光ってるような感じだし」
ハザリア「この洞窟、自然物ではないな。
 見ろ、土で偽装されているが、下は金属だ。
 まったく錆びとらん。これはステンレスだな」
マリ「また、なにかの新興宗教か?」
ハザリア「こんな山奥に、わざわざステンレスで洞窟作る新興宗教があるのならな」
マリ「じゃ、なんなんだここは」
ハザリア「さぁ、なんなのだろうな。
 フム、下腹にズシンと来る。どうやら磁場の乱れは、このあたりが中心のようだな」

マリ「なんだ、人形がたくさん」
ハザリア「どれも動力は付いとらん。純然たる人形だ。
 しかし、間接の造りが粗いな。今どきポリキャップも使っとらん」
マリ「なんで、こんなのが動いてたんだろ」
ハザリア「フハハハ、どうやら、こいつが中心のようだな」
マリ「神像? 仏像とはちょっと違うみたいだけど」
ハザリア「磁場の乱れはこいつが原因のようだな。
 見ろ、携帯電話を近づけると、一発で壊れる」
マリ「オイ、お前ケータイ壊しちゃっていいのか」
ハザリア「あ」
マリ「『あ』じゃないだろ、お前」
ハザリア「やかましい! 貴様の携帯電話も寄こせ! 壊してやる!」
マリ「イヤだよ! 壊されてたまるか!」
ハザリア「我々は一蓮托生だと誓ったではないか、あの日あのとき!」
マリ「あの日あのときっていつだよ! 誓った覚えないよ、そんなの!」
ハザリア「なら、いまここで誓え!」
マリ「エ、えと、急にそんなこといわれても・・・・・・、心の準備っていうか・・・・・・」
ハザリア「あ、あ~、その、な、そういう意味では、なかったのだが・・・・・・」


マリ「よそう。二人してモジモジしてるのって、ものすごく不毛だよ。
 で、コレなんなんだ」
ハザリア「ン、ああ、こいつはディーン・レブなりディス・レブなりの、5、6世代前のタイプだ。
 シヴァーおじいさまが着手したときのより、さらに古いようだな。
 ディス・レブは悪霊の力を取り出すシステムだが、こいつはそんな上等な取捨選択はできん。
 大でも小でもお構いなしだ。
 ま、大半は虫けらとか犬猫とか、霊魂でいう低級なやつだな。
 そいつを、そこらにある人形に憑依させて動かしていたのだ。
 長い間休眠状態だったようだが、雷かなにか浴びたショックで動き出したのだろう」
マリ「じゃ、エクサランスみたいなのが現れたっていうのは」
ハザリア「シラスのパックの中に、ちっちゃいイカとかタコとか混じっていたようなものだろう」
マリ「ちっちゃいイカとかタコとかって」
ハザリア「650万年前とまではいかずとも、
 何世紀か前にバルマーか、それに連なる技術を持った連中がここにやってきたのは確実だ。
 キャリコのオッサンが貴様らを入山させたがらなかったわけだ。
 国交も結んどらんうちからよその国土にこんなものを作って、
 挙げ句に実験は失敗しましたでは、どうにも格好が付かん」
マリ「失敗してるのか?」
ハザリア「失敗だな。こいつは呼び出したら呼び出しっぱなしだ。
 その後の制御というものをしとらん。
 何億何京何兆を超える別次元の中で、こちら側の都合に沿った物理法則を有したものがいくらあると思う。
 それこそ、天文学的を越える確率だ。
 うっかり対消滅的な反応でもしたらどうする。被害は惑星規模を越えるぞ」
マリ「なんだってお前の祖先は、そんなもの残してったんだよ」
ハザリア「べつに俺の親戚だと決まったわけではないがな。
 おそらく、後世の研究素材にでもなればとでも思ったのだろう。
 ディス・レブがすでに完成してメイドの邪悪獣になり果てている今日では、まったくの用なしだ。
 こんなものは壊すに限る」
マリ「壊せるのか?」
ハザリア「ウィルスを作るときは、ワクチンも一緒に作っておくのが常識だ。
 なにかしら準備がしてあるだろう。
 この神像は自爆させるとして、あとは、フム、植物油、ガソリン、ふんふん、それから。
 なるほど、古いが、まぁいけるだろう」


 【山中】
 ゾロッ ゾロッ ゾロッ ゾロッ

ユウカ「キリがない」
キャリコ「次から次へと、まあ」
ユウカ「この声」
キャリコ「あ、ちょっと、お嬢ちゃん、どこ行くんですかぁ~!?」

 【森深く】
ユウカ「フィオル、いるんでしょう」

 ガサッ
マッドゴーレム「・・・・・・」
ユウカ「あんたなの?」
マッドゴーレム「・・・・・・」
ユウカ「あたし、ずっと探してた」
マッドゴーレム「・・・・・・俺を、撃つんだ」
ユウカ「なんてこと言い出すの」
マッドゴーレム「呼び出し過程に不備があった。間もなく、この器は崩壊する。
 ニュートリノ構造が崩壊するとき、その安定状態を支えていた過剰エネルギーが放出されるのとおなじだ。
 安定質量の1kgあたり10の8乗エルグの10倍ないし70倍のエネルギーが発生することになる」
ユウカ「なにをいっているのかわからない」
マッドゴーレム「小規模なウラン爆発に近いエネルギーだ」
ユウカ「そんなの、あたしの知ったことじゃない」
マッドゴーレム「撃つのはここだ。人間の心臓とおなじ場所だ。
 核を壊せば、この器は崩れ去る」
ユウカ「あたしの話を聞いて」
マッドゴーレム「やらなければ、君の友達が死ぬことになる」
ユウカ「友達なんかいない」
マッドゴーレム「そういうことをいう君は、好きじゃない」
ユウカ「ずるい」
 チャッ
ユウカ「あたし、あんたが好きよ。だから、あんたに嫌われるようなことはできない。
 わかってて、そういうことをいうのね」
マッドゴーレム「そうだ、それでいい」
ユウカ「別れはいわない。あんたを取り巻く、すべてのものに」

 BLAM!



 【山頂付近】

 どかぁぁぁぁぁぁんっ!

ハザリア「ハーッハッハッハッハ! 燃えろ燃えろ!
 即席だが、れっきとしたナパームだ! こんな片田舎の消防団程度に消せはせんぞ!
 ひとかけらも残さず燃え尽きるがいいわ!
 ン、おい貴様、どうした」
マリ「きゅぅ」
ハザリア「なんだ、あの程度の爆発で気絶したか。情けないヤツだな。
 よいせっ、と。なんだ、軽いな」
キャリコ「あ~、やっぱあなたでしたか。
 おっと、おやおや! マリ嬢を腰砕けにするなんて、しょっぱなからちょっと血気盛んすぎやしませんか?」
ハザリア「おい、俺はいま、ちょっとヘンなテンションになっているぞ。
 いらんこというな」
キャリコ「ヘンなテンションったってねえ、こりゃちょっと、やり過ぎじゃないですか?」
ハザリア「やかましいわ。どうせ、オッサンとて似たようなことをするつもりだったのだろうが。
 こんな国家の恥、跡形もなく焼き尽くすほかないからな」
キャリコ「だからってねえ、どうしてあなたはこう、やることが極端なんですか」
ハザリア「ああ、火は、勝手に寺で寝起きしてたホームレスが出したとか、そういうことにしておけ。
 どうせ偽装の手筈は済ませてあるのだろう」
キャリコ「だんだんヤな性格になってきますね、あなた様は」
ハザリア「半ばオッサンが仕込んだようなものだろうが」
キャリコ「気付いてやんの」
ハザリア「おい、ところでグラマーインパクトはどうした」
キャリコ「ああ、プルンプルンさせながらどっか行っちゃいましたよ」
ハザリア「なに、どこだ」
キャリコ「えっと、具体的にはお尻とかおっぱいとか、こう、弾力豊かな感じに」
ハザリア「誰がプルンプルンしてる部位のことを訊いたか!」
キャリコ「知りませんよ。なにか、うわごとみたいなこといいながら、フラフラ行っちゃったんです。
 私はてっきり、あなた方を見つけたもんだと」
ハザリア「おい! てっきり、あやつのことはオッサンが面倒見てると思って、
 盛大に火を放ってしまった俺の立場はどうなる!」
キャリコ「それは、ろくすっぽ確認もしないで放火したあなたの不注意でしょう。
 あまり火遊びしてると、オネショしちゃいますよ?」
ハザリア「誰が俺のオネショの話をしとるか!」
キャリコ「だって、あなたが最後にオネショしたのって、たしか」
ハザリア「黙れ黙れ黙れーっ!」

 ぶわっ

ハザリア「なんだっ!?」
キャリコ「火が、割れた?」
ハザリア「おい、あれは」
ユウカ「・・・・・・」


ハザリア「チッ、おい、フィオル・グレーデンとかいったか。
 いるのだろう、出てこい!」
フィオル『彼女を、頼む』
ハザリア「なんだと」
フィオル『俺は、じきに消える』
ハザリア「気に食わん、気に食わんな、そういう悲壮ぶった物言いは。
 貴様、戻ってこられるなら、もったいぶっとらんでさっさとしろ。
 でないと、そのケツ、俺がいらい倒すぞ」
フィオル『やめた方がいい。俺は、ひとを殺したくない』
ハザリア「フハハハ、少しはマシになった」
フィオル『それから君は、心にもないことをいうべきではない』
ハザリア「気に食わん! やはり気に食わんぞ、貴様!」
フィオル『いつか、また会う・・・・・・』

キャリコ「さ、坊! さっさと下山しないと、火に撒かれちゃいますよ!」
ハザリア「おいこらオッサン! ひとりで先に行くな! どちらか担げ!
 まったく、片方はヘンに軽いわ、もう片方はみっちり重いわ、バランスがとりづらくてかなわん!」
ユウカ「あたしが太ってるみたいにいわないで」
ハザリア「なんだ、貴様目が覚めたのか。
 この、みっちり詰まった肉が! みっちり詰まった肉が!」パシンパシン
ユウカ「おろして。おろせッ!」
ハザリア「おいオッサン、敬老精神だ。軽い方を持て、軽い方を」
キャリコ「どうしてあなたはそう、さかさまのことばっかりいいますかね」


 【山の麓】
ユウカ「結局、彼を連れ戻すことはできなかった」
マリ「ユウカさん、気を落とさないで」
キャリコ「だからミヤザキに行った方がいいっていったんですよ、ミヤザキに」
ハザリア「やかましいわ。そんなにミヤザキに行きたいなら、行ってくるがいい。
 そしてミヤザキマンゴーでも買っくるがいい」
キャリコ「いいんですか、行っちゃいますよ私は!」
ハザリア「ただし、地鶏は買うな。地鶏を買うことはまかりならん。
 よしんば地鶏を買ってみろ、貴様のボーナス査定担当にチクってやる!」
キャリコ「ひどい! それはあまりにも無体なお言葉!」
ハザリア「気色の悪い物言いはよせ!
 俺は携帯電話が壊れてしまってナーバスになっとるのだ」
マリ「それは、純然たるお前の不注意だからな」
ハザリア「仕方がない。ドコモショップで、番号ごと買い換えてくるか」
マリ「なにも、番号から変えることはないんじゃないのか?」
ハザリア「いやな、長いこと顔を突き合わせているというのに、
 そういえばケータイ番号を知らんなという相手がわりといるのだ。
 いまさら聞き出すのも気まずいし、番号を変えたことにかこつけてアドレス帳を充実させようという魂胆だ」
マリ「急に細かい話しはじめるよな、お前は」
ユウカ「なるほど」
マリ「ユウカさん、なにいい知恵もらったみたいな顔してるんですか」
ハザリア「では行くか! ドコモショップミヤザキに!」
マリ「ミヤザキまで行くことはないだろう!」

ユウカ「フィオル、あたしあきらめない。
 もっとあんたに好かれる女になって、きっとあんたを見つけてみせる。
 それはきっと、ミヤザキにドコモショップを見つけることよりイージーだから」
マリ「ユウカさんはまた、しみじみとなにいってるんですか。
 ありますよ、ミヤザキにだってドコモショップくらい。
 アレ、ある、よな?」
ハザリア「知らん」
キャリコ「ないんじゃないですかぁ? あっても電波通じないんじゃないですかぁ? 田舎だし」
マリ「よってたかって、ミヤザキをなんだと思ってるんですか!」
ハザリア「ま、行ってみればわかるだろう」
マリ「オイ、ほんとに行くのか? 
 あのさ、いま思い出したんだけど、今日って始業式じゃなかったか?」
ハザリア「あ」
マリ「『あ』じゃないだろ。お前、今日はやけにウッカリしてないか? 春だからか?」
ユウカ「あたしは覚えてた」
マリ「覚えてるだけじゃダメでしょう!」
キャリコ「さぁさぁ行きましょうか、ミヤザキに! 電車で!」
マリ「なんであくまで電車なんですか、もう!」

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最終更新:2009年10月17日 11:36
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