闇の帝王のレシピ


28代目スレ 2009/05/09(土)

 【カラコルム山脈 標高5000M地点】
キャリコ「気を付けてくださいね、坊。
 足元が滑りやすくなっていますから」
ハザリア「ふん、この岩に刻まれている溝を合わせろということか。
 たやすい。ここカラコルム山脈に流れる氷河は7本。つまり」ガチャゴチョ
キャリコ「あけられますか?」
ハザリア「いや、あいていた」
キャリコ「は?」

 バタン!
ハザリア「これはいったい、どういうことだ!」
アルデバロン兵「うわっ! どうなすったんです、カイツさん。
 突然大きな声を上げられて」
ハザリア「白々しい芝居をするな!」
 べりっ!

マリ「ちっ」
ハザリア「さあ聞かせてもらおうか。
 ムンバイのホテルにいるはずの貴様が、なぜこんなカラコルム山脈の奥などにいる」
マリ「そっちこそ、クイズショウで2000万ルピー勝ち取るのだとか息巻いてたくせに、
 ひと晩あけたら『あっちの方が面白そうだからカラコルムまで行ってくる』って
 書き置き残して消えてるのは、どういうことだ」
ハザリア「氷河の下から面白そうな遺跡が出たと聞いたのでな。
 これはもう、じっとしてはおれんだろう!」
マリ「なんでそう計画性がないんだ、お前は!」
ハザリア「どうせ貴様はぶーぶーいうに決まっておるから置いてきたのに、
 現地に着いてみれば、髪の短い東洋系の女が盗掘をして逃げまわっているときたものだ。
 これはいったい、どうしたことだ」
マリ「してない、盗掘なんか!」
ハザリア「隠すことはあるまい。
 そら、なにを盗んだ。見せてみよ。
 ブツによっては、協力してやらんこともない」
マリ「お前は、わたしをなんだと思っているんだ」
ハザリア「なんだと?」
マリ「わたしは、お前の部下でもなければ齣でもない!」
ハザリア「おい、待て貴様!」
マリ「お前の協力なんかいらないし、事情を話す義理なんかないっていってるんだ!」

 どしーん!

ハザリア「ちっ、トラップを発動させたか」
キャリコ「あ~あ、坊、いったいなにをやらかしたんですか」
ハザリア「なにもしちゃおらんわ!」
キャリコ「ゆうべおじさんが、
 インドビール『キングフィッシャー』をたらふく飲んで寝ちゃったあとに、
 なんかやらかしたんじゃないんですかぁ?」
ハザリア「なにもしとらんといっておるだろう!」
キャリコ「でも、マリ嬢がこの石室にいたってことは、
 入り口の暗号を解読したっていうことですよね。
 なんでマリ嬢にそんなことできるんでしょう」
ハザリア「俺が暗号解読するのをしょっちゅう横で見ていたから、コツでも身に付けたのだろう。
 もともと、猿マネが得意な女だ」
キャリコ「なるほど、
 たしかにマリ嬢ほど、あなた様のやり口に精通した方はいらっしゃらないでしょう」
ハザリア「フン、それはお互い様だ」
キャリコ「そりゃまあ、坊も相当マリ嬢で精通していらっしゃるでしょうが」
ハザリア「助詞の使い方を間違っておるぞ、オッサン」

キャリコ「しかし、これは問題ですね」
ハザリア「向こうにいる発掘チームの連中には黙っておけよ、面倒くさい」
キャリコ「や、おじさん、地球の学者さんたちのことなんか知ったことじゃありませんけどね」
ハザリア「なにがいいたい」
キャリコ「ねえ坊、おじさんがなんであなたに着いてまわってるとお思いですか?」
ハザリア「地球各地のビールを飲み歩くためだろう」
キャリコ「まあ、それも含めて祖国バルマーの利益のためです」
ハザリア「含まれておるのか」
キャリコ「しょせん、あの方はよその星のお嬢さんですよ。
 少しでもあなた様に反逆の意志ありとなれば、
 おじさん、倅に顔向けできない行いに及ばざるを得ませんよ」
ハザリア「貴様のとこの親子仲など知ったことか。
 取りあえずいまは、この大岩をどかすことだ。
 フム、このインダス文字に似たものが表しているのは、
 オレンジ、アンズ、チクー、マンゴー、バナナ。
 うち、このあたりに原生しておるのはアンズのみであるから」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 【石室内】
キャリコ「うわぁ~、広いですねえ。
 マイナスイオンがガンガン発生してる感じですよ」
ハザリア「しかし、これは妙だな。インダス文明といえば、赤レンガを使った建設だ。
 このような石造建築は、ギリシアあたりの文明に近い」
キャリコ「古代ギリシア人だってインド旅行くらいするでしょうよ」
ハザリア「標高5000メートルにか? 取りあえず、明かりだな」

 ぱっ
キャリコ「うわっ、なんですか、これは」
ハザリア「蓮華紋だな。マンダラなどに描かれておる」
キャリコ「ははあ、これが噂の蓮コラってやつですか」
ハザリア「この遺跡をこしらえた連中がそれほど酔狂であったら、逆に面白いな」
キャリコ「でも、おかしくありませんか?
 この遺跡って、5000年くらい前のもんだって話じゃないですか。
 仏教なんて、せいぜい紀元前5世紀でしょう?」
ハザリア「蓮自体は、信仰対象としてわりとポピュラーなものだ。
 ヴィシュヌ神のヘソから生えた蓮からブラフマーが生まれたともいわれておるしな」
キャリコ「地球人て、ほんとド変態ですね」
ハザリア「フム、花弁に一定のパターンがある。
 ベタとヌキが6つ連なって一輪。花弁は3重あるいは1重。
 2進法が6つ、6ビット。これにまたパターン、4つひと組。
 000111、0101111、010100、010110・・・・・・。
 さらにこれが3重になっているということは」

キャリコ「あ、なるほど、アミノ酸ですか」
ハザリア「先にいうなぁっ! オッサンが解いたみたいになるではないか!」
キャリコ「おじさんだってこれで、それなりの教養のあるおじさんなわけで」
ハザリア「アミノ酸がペプチド結合してタンパク質ができる。
 さらにこれを繋げていくと」
キャリコ「この蓮コラが、ゲノム情報だなんていうんじゃないでしょうね?」
ハザリア「これはもはや、仏教だヒンドューだというレベルではないな。
 どこぞの異星人が描き残していったものだろう」
キャリコ「うちのご先祖じゃないでしょうねえ」
ハザリア「認めるのも腹立たしいが、バルマーにアミノ酸を蓮に例えるような雅なセンスはない。
 系統的にはミケーネ帝国か、邪魔大王国あたりに近いな」
キャリコ「ふぅん。ひょっとしたらこれ、闇の帝王あたりのゲノム情報だったりするんですかね」
ハザリア「ミケーネの闇の帝王が結局どういう存在だったのかは諸説あるが、
 人間かそれ以上の存在だったというのなら、この程度の情報では足りぬ。
 それこそ、カラコルム山脈を蓮華紋で埋め尽くしても、まだ足りぬわ」
キャリコ「うはっ、想像しちゃった。気色悪っ!」

ハザリア「こちらにあるインダス文字の出来損ないのような記述によると、
 こいつは一種のウィルス兵器のようらしい。
 こいつに感染すると、ゲノム情報を10万前後書き換えられてしまうそうだ」
キャリコ「なぁんだ」
ハザリア「なぁんだとはなんだ」
キャリコ「だって、おじさんバルシェムですよ?
 ハザル様だってハイブリッド・ヒューマンじゃないですか。
 いまどき、遺伝子組み換え人間なんて珍しくもありませんよ」
ハザリア「あのな、ヒトゲノムは全体で30億ほどだが、
 ヒトをヒトたらしめているのは、そのうち4万弱なのだぞ。
 10万も書き換えたら、それはもうヒトではないわ!」
キャリコ「べつにぃ、生物兵器だっていうならヒトである必要なんかないじゃないですか」
ハザリア「バルシェムの人権をドブに捨てるようなことをいうのだな。
 "ヒトでない"というのは、単に倫理上の問題ではない。
 知能がヒト以下ならともかく、ヒト以上であったらどうするのだ。
 NT-DシステムもEXAMシステムも追っつかんわ!」
キャリコ「闇の帝王の作り方ってところですか」
ハザリア「茶化しておる場合か。
 オッサン、匿名で『地球文明抑止計画』にタレこんでおけ。
 地球人がこいつを悪用し始めたら、笑い事にもならぬ」
キャリコ「坊はどうするんですか?」
ハザリア「ヤツがかっぱらったものに、俄然興味が湧いてきた」

 【地底湖】
マリ「来るな!」
ハザリア「そこをどけ」
マリ「見るな!」
ハザリア「どけといっている」

ドラゴノザウルス(小)「きゅー、きゅー」

ハザリア「ハハハハハハハハ! 作りおったな! 地球人め!」
マリ「その子から離れろ!」
ハザリア「ベースに使ったのはマミズクラゲか。
 まったく地球人ときたら、わけのわからん技術を見つけたら、取りあえず試してみるのだから!」
マリ「うるさい! あっちに行け!」
ハザリア「貴様、なにをかっぱらったのか、わかっておるのか?」
マリ「かっぱらってなんかいない。
 お前たちを追っかけてたら、川岸にこの子が打ち上げられていたんだ」
ハザリア「なんだ、逃げられたのか。
 まったく、地球の学者どもはそれなりに優秀だが、セキュリティ意識が低いと見える。
 ま、よい。それを渡せ」
マリ「イヤだ!」
ハザリア「貴様も、ゲノム情報を読み取ったのならそれがどういうものかわかっているだろう」
マリ「ゲノム情報って、なんのことだ」
ハザリア「わからんで連れていたのか?」
マリ「でも、なんとなくわかったことはあるよ。
 この子は、遺伝子をいじられてこんな姿にされたんだろう!
 うちの母さんたちみたいに!」
ハザリア「ブーステッドチルドレンごときとは、だいぶレベルが違うのだがな」
マリ「そんな細かいことなんかわかるもんか。
 お前に渡したら、この子は研究材料にされるんだろ」
ハザリア「俺は生物学者でも遺伝学者でもない。
 そもそも地球の学者ではない。
 研究などさせるものか。
 そやつは、この場で絞めて燃やして灰にして水で溶かして湖に流す」
マリ「お前、それ本気でいってるのか!」
ハザリア「マミズクラゲのテストケースが成功したとわかれば、次はなんだ。
 ネズミか、犬か、サルか、ヒトか?
 いったい、どんなバケモノが生まれるかわかったものではない。
 地球側に、そんな危険なものをくれてやるわけにはいかん」
マリ「見損なったぞ」
ハザリア「貴様がそれほど俺を買っていたとは知らなんだ」

マリ「こんなこといいたくないけど、お前だってハイブリット・ヒューマンの子だろう!」
ハザリア「ゆえにこそだ。
 ほんの数万ゲノム情報を書き換えただけで戦争が起こるレベルの揉め事が起こるというのに、
 もはや別種の生き物になるほどにいじればどうなる!
 俺は、地球人が新種の神に粛正されるのを止めようというのだぞ!」
マリ「この子はなにも悪くない!」
ハザリア「安い同情はやめろ。
 貴様、まさかその怪物を水槽かなにかで飼うつもりではなかろうな?」
マリ「いや、自然の中で、安らかに生きさせてあげようって」
ハザリア「自然界にとって、外来種がどれほどリスキーであるかわからんのか!
 そやつは、何メートル程度に成長する!? なにを食う! どこに住む!
 どんな未知の病気を持っているかもわからん!
 そんなやつを野に放そうというのか!
 貴様は、カラコルムの生態系をメチャクチャにするつもりか!」

マリ「そうと決まったわけじゃないじゃないか!」
ハザリア「そんなあやふやな感情でカラコルム山脈の自然を壊されてたまるか。
 俺はな、地球の自然が好きなのだ」
マリ「じゃあ、この子はいったいなんなんだ!
 人間の勝手で作られて、お前の勝手な判断で殺されなきゃならないっていうのか!」
ハザリア「ハンパ者め! 自分を聖女だとでも思っているのか!
 仮に、万が一にだ、そやつが環境に適応したとしよう。
 だが、それでどうなる。
 そやつはこの星に一種一体きり、正真正銘の異物だ。
 つがいもなく、孤独に死んでいけというのか。
 緩やかな死を与えるというのか、残酷な女め!」
マリ「そんなこといわれたって!」
ハザリア「なに、貴様はなにもする必要はない。
 俺がやってやる。
 いつも、ルナめが無責任に餌付けしておる野良猫どもにタマネギを食わせるのと、なにも変わらん」
マリ「お前のそういうところが、わたしは本当に好きじゃない!」
ハザリア「黙れ、黙れよ!
 貴様ができんだろうから、俺がやってやろうというのではないか!」
マリ「誰も頼んでないだろ、そんなこと!」
ハザリア「いいからよこせ!」
マリ「渡すもんか!」
ハザリア「このっ!」
マリ「ウッ!」

 ばしゃーん!

ハザリア「ぶはっ! 湖の中に!」
マリ「逃げろ、逃げるんだ、すぐに!」
ドラゴノザウルス(小)「きゅー、きゅー」
ハザリア「待て、待たぬか貴様ぁっ!」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ハザリア「なにごとだ!」
マリ「揺れてる? 地底湖全体が」

 ざぱーんっ!

ドラゴノザウルス(大)「グオォォォォォ」

ハザリア「なんだとっ!?」
マリ「ほかにもいたのか?」
ハザリア「いや、見ろ。表面に、コケだの貝だのがびっしり貼り付いておる。
 あれは、そうとう長い年月ここで生きてきたということだ」
マリ「それじゃ」

ドラゴノザウルス(小)「きゅー、きゅー」
ドラゴノザウルス(大)「グオォォォォォ」
ドラゴノザウルス(赤)「ガオォォォォォ」
ドラゴノザウルス(青)「ギュォォォォォ」

マリ「あんなに」
ハザリア「フハ、フハハハハハ!
 繁殖しておる、繁殖しておるわ!
 実験はすでに完了していた!
 5000年かけて、生態系はあのバケモノをも受け入れたというのか!
 大したものだ、地球の自然とは!」
マリ「それじゃ」
ハザリア「5000年も存続していたというのなら、あれは単なる希少動物だ。
 処分するどころか、傷ひとつでもつけたら俺がしょっぴかれる」

ドラゴノザウルス(小)「きゅー、きゅー」

マリ「行けよ、仲間のところに」
ドラゴノザウルス(小)「きゅー」
マリ「うん、ありがとう」
ハザリア「なにを、動物と会話したような気になっておるか」
マリ「うるさいなあ!
 お前はどうせ、一生動物と心通わせるようなことないんだから黙ってろ!」

キャリコ「坊~! マリ嬢~!」

マリ「キャリコさんだ」
ハザリア「さて、では、ここの学者どもはとっちめて『地球文明抑止計画』に突き出すか」
マリ「おい」
ハザリア「なんだ」
マリ「お前の本性を、少し見たような気がしたぞ」
ハザリア「ああ、うん、その、な」
マリ「お前のいうことも、あながち間違ってたとも思えないけど」
ハザリア「なあ、貴様」
マリ「なんだよ」
ハザリア「あまりカラフルなブラをするな。透ける」
マリ「お前はっ! やっぱりろくでなしだ!」

 ばちこーん

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最終更新:2009年10月17日 11:37
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