13代目スレ 2006/10/06(金)
ハザリア「フハハ・・・、秋か、秋はよい。気温は過ごしやすく、それでいて人心は春ほどに浮かれてはいない。
まさに、一年のうちで人がもっとも中だるみしやすい季節!
こんな折も折、我らがすべきことはなにか、わかっているな!」
マリ「ああ、会長がふぬけにさせ、無茶な予算を通させる。
そしてこの野望を実現させる方法は、ただひとつ!」
ハザリア「そう、傑作を越えた超傑作! 怪異の域まで踏み込んだ舞台を観せてやり、
貴奴の正気を失わせるのみ!」
レイナ「正々堂々としてるんだか姑息なんだか・・・」
ヴィレアム「なんでレイナは演劇部の部室に入り浸ってるんだ?」
ハザリア「よぉーし、静まれ者ども。今回の舞台のコンセプトを発表するぞ!」バサッ
レイナ「あら、これ」
マリ「小さいころ、再放送で観たな」
ヴィレアム「なんというかこう、生まれて初めて親と一緒にテレビを観るのが怖くなった・・・」
ハザリア「フハハハハ! そう、今回の舞台のテーマはこれだ!
すなわち、エロカワイイ!」
マリ「エロ・・・、カワイイだと!?」
ハザリア「そして主演はマリ! 貴様に務めてもらう!
まぁ、貴様風情にエロカワイイ役など演じこなせるとも思えんがな。
演劇部の人手が足りず、俺も苦渋の決断をしたということだ!」
マリ「簡単だ。素のわたしに、カワイイを足せばいいんだろう?」
ハザリア「ほう。エロいことにかけては自信があると見える」
練習中
ハザリア「違う、違うぞ! そんなものがエロカワイイといえるものか!
ただカワイイだけではないか!」
ハザリア「バッカヤロウ! それではただエロいだけだぁっ!」
ハザリア「貴様ふざけてるのか! そういうのは、可憐というのだ!」
ハザリア「この能なしがぁっ! 愛くるしい顔をしてなんとする!」
マリ「・・・ハァッ、ハァッ」
ヴィレアム「あいつは、どうして平気な顔でああいうことがいえるんだろうな」
レイナ「考えてみると、エロくてカワイイって意味わかんないもんね」
マリ「・・・なら、これで!」
ハザリア「アホがぁっ! ぱっと見乳がでかくなるだけの一発芸をして、なにがエロカワイイものか!
貴様、まさか乳がでかいイコールエロいとでも考えているのか!?
だから貴様は考えが浅いのだ! ゼラドを見よ! あれがエロいか!
答えは否だ! 健康的でカワイイだけだぁっ!」
ゼラド「えっ、えっ?」
ヴィレアム「ハザリアぁ、お前、少し口を縫ったほうがいいようだな」
ハザリア「そしてレイナを見よ! こやつにカワイイ要素などどこにある!?
ひたすらにエロいだけだ! エロいを通り越してもはや破滅に向かっておるわ!
こういうのを姥桜と呼ぶのだ!」
レイナ「オッケェ、ハザリア。その姥桜から、校舎裏に呼び出しだ」
マリ「くそっ、エロカワイイ・・・。エロくて、なおかつカワイイだと?
いったい、どうしたら・・・」
リトゥ「マリ、あまり思い詰めないで。なんかハザリア君、明日まで生きてるかわかんないし」
ダテ家、夜
リュウセイ「マリ、思い詰めた顔してどうしたんだ?」
マリ「父さん、わからないんだ父さん。エロカワイイとはどういうものなのか。
教えてくれ父さん。一緒にフロに入ったリトゥはなにも教えてくれない!」
リトゥ「それは悪ぅございました!」
リュウセイ「エロカワイイかぁ・・・・・・」
翌日、放課後
ハザリア「フフフ。その格好で一日授業を受けた努力は評価するがな。
マリよ、残念なお知らせだ。アンジェルグの着ぐるみをエロカワイイと感じるのは、
よっぽど手遅れな感じの変態だけだぞ」
マリ「そんな、・・・父さん!」
リトゥ「うん。ズルッとクローゼットから出してきた時点で気付いてた」
ハザリア「それはエロカワイイというより、むしろエロカッコイイだ!
貴様、とんだ方向違いをしているぞ!」
リトゥ「あ、エロくはあるんだ」
ハザリア「ええい、やめだやめだ! 今日の稽古はこれまでだ!
おいヴィリアム、貴様も呑気なツラをさらしてる場合か。
役作りのため、ゴードンさんからカメラをかっぱらってくるくらいしたらどうだ!?」
ヴィレアム「気楽にいってくれるなぁ」
リトゥ「ちょっと! ダメ出しするだけして逃げるつもり? 監督なら」
ハザリア「フン。マリよ、エイス叔父はいっていた。
エロスとカワイさは、現実には決して同居しないとな」
リトゥ「無理難題だってわかってるんじゃない!」
ハザリア「それでわからんというなら、貴様はそれまでということだ!
せいぜい吠え面をかく稽古でもしているがいい! フハハハハ!」
川辺
マリ(・・・ダメだ。わからない。考えれば考えるほど、エロカワイイの意味がわからない。
むしろ、エロいとかカワイイの意味すらわからなくなってきた。
ひょっとしたら、この世にはエロいもカワイイも存在せず、ただエロカッコよさがあるだけなのかもしれない・・・。
フフ、わたしは、なにをいっているんだろうな。
なんだか、演じるということすらわからなくなってきた。ひょっとしたら、わたしはこのまま演技ができなくなるかもしれない。
ダメだマリ。今さら演劇を捨てられるのか?
ロボットアニメだけを楽しみに、ちょろちょろとオタクくさい言動をするだけのわたしに戻りたいのか!?
でも、ダメだ。もう、なにもかもわからなくなってきた。
???「よぉお嬢ちゃん。なぁに、遊んでンだっての!」
マリ「わたしは、遊んでなんか!」
???「ホ! まぁいいや。食うか?」
マリ(なんだろう、この小太りのおじさん。若いような年寄りのような、
それでいて明らかに定職に就いてなさそうな、親の年金で生活してそうな。
それにこれは・・・、魚肉ソーセージ? しかも紫色の)
???「なんだ。遊んでんじゃねぇんなら、俺とは別宇宙のイキモンだっての!」
マリ「おじさん、いい歳して遊び歩いてるの?」
???「ホ! おじさんってか。俺はいつの間にそんな歳になっちまったっての!」
マリ「おじさん。息が魚肉ソーセージくさい」
???「おうとも。俺はずっとゲームで遊んできたっての!
俺が若い頃は戦争があってよ、世の中ゲームどころじゃなかったけど、それでもずっと遊んできたっての!
ずっと一緒に遊んでたヤツが大人になっちまってゲームしなくなっても、俺だけはやめなかったっての!
改造されても洗脳されても、ゲームだきゃ忘れなかったっての!
だって俺はそうしたかったんだってもの!
だからそのまんま、お前におじさんなんて呼ばれる歳になっちまったっての!」
マリ「おじさん、人生それでいいの?」
???「ホ! 大満足だっての! 俺はリアルにゃ価値観見いだしてねぇからな。
バーチャルを愛しちまってるから、バーチャルそのままに生きていけるんだっての!」
マリ「!」
???「食うかい?」
マリ「食べる。おじさん、ありがとう」
???「ホ! リアルのお礼なんかなぁ・・・」
本番当日
ヴィリアム『虚空に隠れて生きる!』
ゼラド『おれたちダイバー人間!』
マリ『早くタイムダイバーになりたい!』
レイナ「・・・マリの、あの演技はなんなの? 舞台の上で魚肉ソーセージをむさぼり食ってる! しかも紫色の。
違うわ。あたしが小さいころに観てた『ダイバー人間キャリ・スペ・アイン』はあんなのじゃなかった!
でも、どうしてかしら。魚肉ソーセージにがっつく姿がどこか艶めかしくて哀しくていじらしくて。
本物のダイバー人間スペは、あんな風じゃなかったのかしらとすら思えてくる。
これは、エロいともカワイイとも別次元の存在だわ。
たとえるならそう、エロカワイイ・・・」
ハザリア「フン! 俺は感激などせんからな!
それより見ろ。ダイバー人間アイン役のゼラドが、なかなかいい演技をしているではないか。
ちょろちょろと、いかにもヤンチャそうな、なおかつ指が三本しかなさそうなな!」
レイナ「あんたねぇ」
ハザリア「ハ。役者とは、まず役を愛することから始めるもの。たとえ演じる対象がこの世のものではなくてもな!
この程度、貴奴はとっくの昔から理解しているはずなのだ。
むしろ、てこずったことの方が予想外よ!」
マリ(わたしは、エロカワイイを理解しようとばかりしてきた。
エロカワイイを愛していなかった。憎んですらいた。
これでは、エロカワイイを表現できなくて当たり前だ。
まず愛していなければ、なりきることなんかできるはずがない。
紫色の魚肉ソーセージのおじさん、あなたのことは決して尊敬できないけど、なんかありがとう!)
会場外
エイス「・・・・・・君・・・・・・か・・・・・・」
テンザン「ホ! エイス先生、久しぶりだっての!
見せてもらったぜ。長年腐ってたあんたがコソコソ動き始めた理由ってやつをなぁ!
旧クロガネ一座の連中がはしゃぐわけだぜ。
なぁ先生、あんなバケモノを育てて、どうするつもりだい?」
エイス「・・・・・・望み・・・・・・・・・・・・ただ・・・・・・ひとつ・・・・・・。
よい・・・・・・舞台・・・・・・。この世・・・・・・ならざる・・・・・・・・・・・・ひととき・・・・・・の・・・・・・」
テンザン「ホ、ホ、ホ! なぁ先生、これだから俺はあんたのことが大好きだぜ。
最高のバーチャルのためならリアルがどうなっちまっても構いやしねぇ。
俺たちゃ最高に同じ穴のムジナだぜよ。そうだろ?
おたがい、ろくでもねぇ年寄りになっちまったもんだっての! ホ!」
エイス「・・・・・・もう・・・・・・ひとつ・・・・・・・・・・・・か・・・・・・」
最終更新:2009年10月17日 11:44