3億資金事件


14代目スレ 2006/12/10(日)

マリ「おい、これはなんだ」
ハザリア「フンッ、なにを寝言をフンッ、いっているかフンッ。
 今回のフンッ、脚本に決まっているだろうがフンッ」
マリ「粗筋とメモ書きだけで、セリフがないじゃないか」
ハザリア「黙れフンッ、黙れよフンッ! 寄れば触れば文句ばかりいいおってフンッ!
 いつもいつもフンッ、どんなに丹誠込めて書いても貴様は文句ばかりだフンッ!
 だったらもうフンッ、勝手にやれという話だフンッ!」
マリ「あれか。予算会議で『14歳のバルシェム』とか『ママはゴラー・ゴレム1年生』
 の企画が立て続けに却下されたんでやさぐれてるのか」
ハザリア「黙れフンッ、黙れよフンッ!
 それともなにかフンッ、貴様、指針を示してやらんとフンッ、生意気ひとついえんのかフンッ!?」
マリ「わかったから、ハンマーを振りまわすのをやめろ」
ハザリア「フハハハハ。しかしフンッ、このハンマーというものはヤクいなフンッ。
 腕はとうに限界を迎えているというのに、まったくやめられんッ!」

マリ「ハザリアがあのザマだから、わたしらでミーティングして決めよう。
 今回は、『3億資金事件』を元にした話のようだ」
ヴィレアム「L5戦役中、もっとも意味不明と呼ばれた事件だな。
 戦場に、突如3億資金相当の金塊を背負った機体が現われたと思ったら、
 横から現われた、やはりこれも謎の機体によって撃破された。
 あとにはなにも残らなかったとかいう・・・。
 あまりの意味不明ぶりに、愉快犯説、連合政府への抗議活動説、異星人のイタズラ説
 と諸説を呼んでいるが、結局真相はわからないまま時効を迎えたんだよな。
 たしか、俺の両親が現場に立ち会ってたんだよ。
 母さんがえらく悔しがってたって聞いてる」
マリ「『犯人は、14歳の念動力者』だそうだ」
ヴィレアム「あいつ、ムチャクチャやるな」
マリ「わたしが実行犯の役で、ヴィレアムは犯行計画を立案したホームレスの役な」
ヴィレアム「なんで俺がホームレスなんか!」
マリ「メモによると、『ちょっとした失敗でどこまでも転落しそうだから』らしい」
ヴィレアム「不吉な予言をするなよっ!」
マリ「あいつも、あれで念動力者だからなぁ」
ヴィレアム「納得もするなよ! しかも淡々と!」

マリ(しかし、これは思ったより難しいぞ。
 今までは、なんだかんだいってあいつが作ったの骨格があった。
 今回は、一から自分で作らなければならない。
 しかも、粗筋だけはあるから厄介だ。下手なことをしたら、行動原理が意味不明の人物ができあがってしまう。
 くそ、あいつめ、器用に陰湿なイヤガラセをしてくれる!
 落ち着けマリ。取り乱したら、それこそヤツの思うつぼだ。
 まずは、行動原理から考えてみよう。
 しかし、この主人公はいったいなんなんだ? ホームレスに対して抱いている感情がさっぱりわからない。
 友情というには強すぎるし、愛情というには淡すぎる・・・。これは)

本番当日
マリ「まだハンマー振ってるのか。いい加減にしないと、右腕だけマッチョになるぞ」
ハザリア「フンッ、むしろフンッ、望むところだフンッ!」
マリ「望むなよそんなもの」
ハザリア「それよりフンッ、稽古はちゃんとできているのだろうなフンッ。
 下手なことをしてフンッ、俺の顔に泥をフンッ、塗るなフンッ!」
マリ「ま、見てろよ」

シュウヤ「ヴィレアム、その風体はいったいどうしたんです。
 まるで、本物のホームレスじゃないですか」
ヴィレアム「フフ、やはり、一度本物のホームレスに接しないと、いい演技ができないと思ってな。
 なぁシュウヤ、お前の親父さん、いうほど悪い人じゃないぞ?
 いや、あれは別人だったか?」

ジーーーーー
 今から何十年も前に起こった、『3億資金事件』。
 わたしはその、実行犯だと思う。
 その当時、わたしはホームレスだった。

リトゥ『レビさま。地球連邦の組織構造のご報告を』
トウキ『レビさま。メギロートの新規製造プランの予算申請を』
シュウヤ『レビさま。地球におけるバナナの分布についてご報告を』

 雑務に追われる日々だった。
 いつからだろう。
 わたしは、地球上での戦場記録映像の中に、一人の男の姿を見つけるようになっていた。
 なぜだろう。
 服も前髪もヨレヨレのその男に、わたしはたまらない自由の香りを感じていた。

ヴィレアム『よし。それじゃ、俺がエリート兵をぶん殴った話を聞かせてやるよ』
マリ『もういいよ、その話は』

 激務の反動なのだろうか。
 わたしは週末ごとに、わざとボロを着て道楽ホームレスをやるようになっていた。
 戦場跡に行けば、あの男とは簡単に会えた。

マリ『おじさーん。このAMは、向こうでいいかー?』
ヴィレアム『戦争、様々だな。潰すのが空き缶からロボットになっただけで、
 買い取り額が一桁上がるんだもんな』
マリ『おじさんにはこれがあるから楽だろうけど、品物が重くなった分みんな苦労してるよ。
 なぁ、この機動兵器、なんなんだ? あちこち変なパーツ着けた上に、
 装甲に穴あいたとこをダンボールなんかで塞いでるから、元がなんだったのかわからないじゃないか』
ヴィレアム『うーん。憶えてない。気が付いたら、俺の寝床になってた』
マリ『だいたいおじさん、ホームレスのくせに、なんで機動兵器の運転なんかできるんだ?』
ヴィレアム『お前だって、ガキのくせに機動兵器の運転してるじゃないか』
マリ『わたしは、ほら、地球征服にやってきた異星人のボスだから』
ヴィレアム『ははっ、そりゃいいや! だったら俺は、地球を守るために異世界からやってきた戦士だな』

 わたしは男を『おじさん』と呼んだ。男はわたしを『お前』と呼んだ。
 お互いの名前すら知らない関係が、心地よかった。
 妙な男だった。
 四六時中ニコニコしているくせに、たまにふいと鋭い目をすることがあったのだ。

マリ『あーっ、おじさん、また売り物の新聞読んで!
 せっかくキレイなの拾ってきたんだから、しわにしないでよ』
ヴィレアム『あ、うん』
マリ『なんだ。またその黒いゲシュペンストの記事か。
 おじさん、変わってるよな。
 SRXチームとかATXチームとか、もっと派手で戦績上げてる機動兵器がいるのに、
 その黒いウサギみたいなののニュースばっか見てるんだもん』
ヴィレアム『なんでだろうな。気になるんだよ、この黒いの。
 なんだか、俺が元いたところを、こいつにメチャクチャにされたような気がする。
 俺がホームレスなのも記憶喪失なのも、全部こいつのせいなのかな』
マリ『おじさん、戦災孤児?』
ヴィレアム『孤児じゃないと思うけどなぁ。俺、ガキじゃないし』


 雨の日だった。
 男が、いつになく神妙な顔をしてわたしを呼んだ。

ヴィレアム『これを見てくれ』
マリ『金塊? すごい、3億資金はある!
 おじさん、ホームレスのくせになんでこんなの持ってるんだ?』
ヴィレアム『エリート兵をぶん殴って集めたカネだ。
 あと、コクピットの中にあった図面を持っていったら、
 イスルギとかいう変な古本屋のおばさんが高く買ってくれるんだよ』
マリ『このカネで、アパートでも借りるのか?』
ヴィレアム『いや、これであいつの鼻を明かしてやりたいと思う』
マリ『また、黒いゲシュペンストか?
 無茶だよ。あれのパイロット、すごいベテランだって聞くぞ?
 3億ぽっちのカネで改造したからって、たかが知れてる』
ヴィレアム『倒したいわけじゃないんだ。なんでか、倒してはいけないような気がする。
 ただ、悔しがらせたいだけなんだよ。
 たぶん、俺はこの黒いのと、乗ってるヤツが嫌いなんだな』
マリ『でも、悔しがらせるって、そんなのどうするんだ』
ヴィレアム『聞けば、ヤツらの隊は慢性的な資金不足らしい。
 なぁ、お前、機動兵器の操縦できるだろ?
 俺がもう一体機動兵器を調達してくるから』

 男が、3億の資金をひっさげて戦場に現われる。
 ハガネ隊、ヒリュウ隊の面々が喜び勇んで資金獲得にやってきたところを、
 横からやって来たわたしが資金をかっさらってしまう。
 まったく子供じみたその計画に、興味はなかった。
 ただ、あの男とやるということだけに魅力を感じていた。

レイナ「なに、マリのあの顔。
 淡すぎる・・・。友情よりは強いけど、愛情までにはいってない。
 あれは、未成熟な少女だけが持つ感情・・・?」

キャクトラ『なんだ、あの機体。資金を背負ってる!?』
ゼラド『すごい。3億はあるわ。あれを見逃す手はないじゃない!』
タカヤ『待て。3時の方向から、また別のアンノウン!』


ゼラド『え、あれ? 撃墜されちゃった。
 ちょっとちょっと、3億の資金はぁっ!?』

マリ『はははっ、やったぞおじさん! あいつらメチャクチャ悔しがってる!』
ヴィレアム『・・・・・・』
マリ『おじさん、大丈夫か? すまない。ちょっとやり過ぎたかもしれない。
 あぁ、ダンボールの外装が外れちゃって・・・。
 おい、なんだそれは、ヒゲの生えた機動兵器?』
ヴィレアム『思い出したぞ! ヘリオス! 黒いゲシュペンスト! 次元転移装置!
 リュケイオウス! アギュイエウス! そして、ベーオウルフ!』
マリ『おじさん!? どうしたんだ、おじさん!』
ヴィレアム『なんだお前は。どけぇっ!』

 なにが起こったのかわからなかった。
 あの男は、わたしが乗っていた中古のリオンを撃墜すると、どこかへ去っていった。
 マスタッシュマンと呼ばれる機動兵器がエアロゲイターと戦っていると聞いたのは、
 それから少し後のことだった。

リトゥ『レビさま。DC戦争後の情勢のご報告を』
トウキ『レビさま。宣戦布告の段取りを』
シュウヤ『レビさま。納豆が食べられる地球人と食べられない地球人について』

 あの男がいなくなると、ホームレス生活も急につまらなくなった。
 わたしは元通り、エアロゲイターの指揮官に戻った。

マリ『でもおじさん、わたしたちはまた会うよ。
 わたし、おじさんのこと見つけるの上手なんだ」


ジーーーーー
マリ「最近のお前の作は、どうも父親的な存在を打ち倒そうとしたがるところがあるな」
ハザリア「フン。なにかいいたいことでもあるのか」
マリ「お前は、あまりにも自分を投影した脚本に抵抗があったんじゃないのか?
 だからわたしに解釈を任せた。変にシャイなところあるよな、お前」
ハザリア「黙れ、黙れよ! 誰が俺の心理分析を頼んだ!?」
マリ「放っておいても、わたしはわたしの解釈で役を作る。
 だから、お前はお前の考えで脚本を書けよ。
 舞台って、そういうものだろう」
ハザリア「フンッ。知ったような口を」

ラミア「隊長、どうした?」
アクセル「べつに」

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最終更新:2009年10月17日 11:45
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