23代目スレ 2008/03/23(日)
【演劇部 部室】
ハザリア「チャンバラだ。チャンバラなのだ。
チャンチャンバラバラ、チャンチャンバラバラ、血が沸き肉が踊り、
白刃と鉛と火薬とが舞いまわる。これだ」
マリ「また、お前は唐突だな」
ハザリア「思えば長い道のりだった。そして俺は辿り着いた。
そう、クロサワこそが至宝だ」
マリ「遅い! お前、辿り着くのすごく遅い!」
ハザリア「黙れ、黙れよ! つまり、今回はチャンバラだ!
では配役! 盲目の侠客座頭、レビ役にマリ!」
マリ「タップダンスとかするのか」
ハザリア「高橋ジョージの義理のお父さん役に、バランガ!」
マリ「そんな呼び方するのは世界中でお前だけだ!」
ゼラド「事件が会議室で起こってる方でいいの?」
ハザリア「あー、それはそれでよし。
題して、『座頭レビと用心ほっぺ』!」
マリ「また、えらく生臭い企画もの拾ってきたな。
しかもそれ、クロサワじゃなくてオカモトだからな」
ハザリア「マジでか」
マリ「あっさりメッキが剥がれたな」
ハザリア「頂上対決をやらずして、なにがチャンバラか。
牛の赤身やらネギの白いとこやら白豆の腐ったのやら、
赤白紅白混ぜ込んで、とどめとばかりにグチャグチャにかきまわした卵をブチ込んで!
これぞスキヤキ・ウェスタン!」
マリ「お前、すでに時代劇やる気ゼロじゃないか!」
ハザリア「誰が時代劇といったか、チャンバラだチャンバラ!」
【稽古中】
ハザリア「ああ、よせよせ、やめろ!
飄々とした世捨て人など気取るのはやめろ!
そんなことでパンツにコカイン入れて税関を突破できるかぁっ!」
マリ「そんなもの入れてたまるか!」
ハザリア「よし、わかった! ちょっとそこのオデン屋でコカイン勝ってくるから、
貴様それをパンツに入れろ!」
マリ「行くな! オデン屋にコカイン買いに行くな!
セクハラなのか麻薬取締法違反なのかもわかんないようなこというな!」
ハザリア「では貴様、そのフ抜けた仕込み杖さばきをなんとする!
そんなことで座頭レビ役をものにできるか! 貴様など蔦の市止まりだ!」
マリ「蔦の市バカにするな!」
ハザリア「貴様、どうやら盲目の演技を舐めてるな」
マリ「ちゃんと目をつむってるじゃないか」
ハザリア「たわけが! 目をつむるだけで、メクラになりきれるとでも思ったか!」
マリ「放送禁止用語やめろ」
ハザリア「放送禁止用語なんぞ知ったことか! メクラメクラメクラーっ!」
マリ「やめろっていってるんだ!」
ハザリア「よいか、盲目の演技というのはな、難しいように思えて実は簡単だ。
よく、ポジションのよくわからんタレントなりアイドルなりが
『初演技にして盲目という難しい役所に挑戦!』
とかいう触れ込みでドラマやら映画に出るだろう。
なぜこんなことが起こるかわかるか。簡単だからだ。
ようするに、目をつむっていれば、それっぽく見えるのだからな。
多少演技が下手でも、『まぁ目の見えないひとだからぎこちないよな』で済まされる!」
ミナト「なっちの悪口いうな!」
ハザリア「やかましいわ! あのろのノジマは頭おかしかったのだ!」
ミナト「ノジマがいつ頭おかしくなかったんだよ!」
マリ「わたしだって、べつに目をつむるだけでいいとは思ってないぞ。
ほら、目が見えない分ほかのとこが発達してるってことを表現しようと思って、
耳とか動かせるように練習したし」
ハザリア「たわけが! だから貴様は上っ面だけを見ているといっているのだ!」
マリ「じゃ、どうしろっていうんだ。
本気で視覚障害者の仕草まねろっていうのか。
あのな、舞台だぞ、フィクションだぞ。
そんなことしたら、殺陣がますますぎこちなくなるだけだぞ」
ハザリア「わかっとらん! 貴様はなにもわかっとらん!
タマオさんが、なんのために相続放棄できない種類の借金を返し続けたと思っておるか!」
マリ「知るか、そんなもの!」
ハザリア「それとバランガ! 貴様はもっと、
なんでもないようなことが幸せだったと思っているような顔つきで演じろ!」
ゼラド「もはや義理のお父さんじゃなくて、ただの高橋ジョージになってない?」
【川べり】
ユウカ「なに、キスをしに来たの」
マリ「なんですか、キスキスって、好きなんですかキスが」
ユウカ「好きとか嫌い以前に、習慣」
マリ「そういうの、大事なとき用にとっといた方がいいですよ」
ユウカ「人生において大事なときなんて、わりとエンカウントしないのがリアルよ」
マリ「そういうこというもんじゃありませんよ」
マリ「だいたいあいつは、怒鳴るばっかりで具体的なことを教えないんだ。
どうしろっていうんだ、ほんと」
ユウカ「ギターの応用で琵琶をプレイする真似事くらいなら教えられるけど、
そういうことならお門違いよ。
ハートの深奥を音や詩に換える音楽と、
ハートの中心から別のものにチェンジする演技とじゃ、ルーツまるでが違う。
あたしが、あんたにアドバイスすることはできない」
マリ「でも、前は」
ユウカ「あのときは、なんだかわからないけど、
台本があたしのハートをざっくり刻みにかかってた。
そういうことをする男よ。バッドな男」
マリ「そういうとこあるんだ、あいつは。洞察力みたいなの、妙に鋭くて。
実際、ゼラドとかに対しての演技指導とかはけっこう的確だし丁寧なんだ。
なのに、わたしには怒鳴るばっかりで」
ユウカ「ラブじゃぁ、ないのね」
マリ「なんですか、急に!」
ユウカ「信仰に近い。
主がお亡くなりになるはずがない、主が石をパンに換えられないはずがない。
そういう感じ。あんたにその程度のことができないはずがないと思ってる」
マリ「できなかったら?」
ユウカ「改宗するでしょうね」
マリ「それは気に食わないけど」
ユウカ「なら、石をパンにエクスチェンジするしかない」
マリ「でも、なにが石でなにがパンなのかもわからないんです」
ユウカ「レイは、偉大なる盲目のジニアス・オブ・ソウルは、
賛美歌のリズムに乗せて男女のラブを歌った。
当時のキリスト教世界において、これは完全に教会への反逆だった。
彼はバッシングの嵐に晒された。それでも彼は歌うことをやめなかった」
マリ「すごく、好きなひとがいたとか」
ユウカ「彼の女癖の悪さは有名よ」
マリ「じゃ、なんで」
ユウカ「彼はただ、本質を知っていただけ。
ブッダもキリストも、レシピはおなじ。
神へのラブと、ひとへのラブを分けなきゃならないリーズンなんかどこにもない」
マリ「それは、目が見えない分本質が見られたとか、そういう」
ユウカ「関係あるようでいて、ないと思う。
ジョージアで生まれて、盲目になって、黒人差別と戦って、サザンのカバーして、
このうちのひとつでも欠けたら、彼はレイになってなかった。
人間て、わりとシンプルじゃない」
マリ「そうか、盲目は、単なる一部分」
ユウカ「Ellie my love so~♪」
マリ「ありがとうユウカさん! それじゃ」
ユウカ「流された。そしてまたも敬語」
ユウカ「レイは、偉大なるレイ・チャールズは、
神のエリアに達するためにドラッグの力を借りた。あんたは」
【本番当日】
マリ『お前さんがたぁ何かい、あっしをお斬りになろうっていうのかい』
チャリーン! チャリーン! チャリーン!
【舞台袖】
リトゥ「すごい、すごくアクロバティックな剣戟。
全身で仕込み杖を振るってるみたいな」
ハザリア「剣術に限らず、ニホンの武道は直線運動によって構成されている。
これはニホンの起伏に富んだ地形と、軽やかさよりも安定を優先する国民性によるものだ。
狙いを見据え、最短距離で刀を振るう。
これが通常のサムライの剣筋だ。
ところが座頭レビは違う。座頭は目が見えん。ゆえに視覚に頼らない戦法が要求される。
全身で転がりまわり、触れるなり相手を撫で切りにする。
目に寄らない、肉体による剣筋。これが座頭レビだ」
リトゥ「マリ、ちゃんとお稽古してるんじゃないの」
ハザリア「しかし、この程度のことは稽古を積めば誰にでも到達できる程度のもの。
いや待て、なぜ貴様がここにいる」
リトゥ「なんだか、ハザリアくんがぽつんとしてたから」
ハザリア「あ、そうか。今回うっかりレイナめにデカい役をくれてやったからな、
どおりで舞台裏が妙に広々しておるわけだ」
【舞台上 山中】
マリ『寒ぃ、寒ぃなぁ。浮き世は、寒い。
あっしは、いつまで浮き世を流れなきゃぁならんのか』
マリ『ああ、そうだ。あそこへ。なんでもないようなことが幸せだった、あそこへ』
【舞台上 小料理屋】
マリ『ごめんくださいまし』
エジュニア『何者だ』
エジュニイ『外から来たのか』
エジュニウ『赤か、それとも白か』
エジュニエ『しなものは、しなものは持っているのか』
【舞台袖】
リトゥ「エジュニアくん、兄弟いっぱいいたのね」
ハザリア「なにか、兄弟ではないらしい。従兄にはとこに、隣町に住む遠縁だったか。
今回エキストラが大量に必要だったからどうしたものかと困っていたが、
探せばいるものだな」
リトゥ「男Aとか男Bとかじゃ、ダメだったの?」
ハザリア「それはいかん。まかりならん」
【舞台上 小料理屋】
エジュニオ『旅人ってんじゃぁ、あるめぇ。
見たろう。道に轍の跡もねえ。この村はとっくに寂れちまってるんだ』
マリ『エ、エッへっへへ。旦那、あっしはほれこの通り、目が』
エジュニア『どこぞで迷ったのか』
マリ『エヘヘヘへ』
【舞台袖】
リトゥ「なに、マリのあの仕草。手もみなんかして。
さっきの剣戟シーンとは、まったく違う」
ハザリア「昔々、小人プロレスというものがあった。
彼らは売られてきたわけでもなんでもない。
自分の意志で、リングに立ってカネを稼いでいただけだ。
ところが世間はこれを許さなかった。こんなものをテレビに映すなというのだ。
結局のところ、人間は醜いものなど見たくはない。
自分の見とらんところで野垂れ死んでいけと思っているのだ。
人権意識などこの程度のものだ。
長らく、身体障害者は世の中にいないものとして扱われてきたのだ」
リトゥ「ひどい」
ハザリア「座頭レビが実在したとされるのは天保のころ。意識レベルは推して知るべしだ。
そういう浮き世で生きていかねばならんのだ。
飄々となど、できるはずがない。
盲人は健常者どもに頭を下げ、こびへつらい、自分の居場所を確保せねばならなかった」
【舞台上 小料理屋】
レイナ『あっ、座頭さんじゃありませんか。
ちょっと旦那がた、およしなさいよ。そのひとはなにも知りません。ただの座頭さんです』
マリ『女将?』
エジュニア『黙っていろ女将。客同士の取り込み中だ』
レイナ『客だって? バカいっておいでじゃないよ。
お代も払わずに、なにが客だい』
エジュニイ『なんだと、貴様!』
エジュニウ『俺たちの温情で生かしてもらっていることを忘れたか!』
マリ『旦那がた、こんな狭いところで暴れたら、危ないよ』
ゼラド『なんでもないようなことがぁ~、幸せだったと思ぉう~♪』
エジュニオ『なんだ、お前は!』
レイナ『あぁ、あんたは関係ないの。引っ込んでて』
ゼラド『なぁに、ケンカ? それはいけないよ』
エジュニア『少し前に紛れ込んだ流れ者か。貴様には関係のないことだ』
ゼラド『そういうわけにもいかないよ。おれぁ、ここの用心棒だから』
レイナ『なにが用心棒だい。飯代も宿代も払わないでさ』
ゼラド『さぁさぁ旦那がた、ちょいとお外に出ようか。
寝入りっぱな起こされて、おれぁ気がたってるんだ』
チャリン
ゼラド『ほら女将、宿代と飯代だよ』
レイナ『呆れた』
マリ『女将、この村はいってぇ、どうしちまったので』
レイナ『ああ、前に座頭さんが来たときは、こんなじゃなかったね。
小さな温泉があって、あとは牛を飼って暮らしてるだけの、つまんない村だった。
でもね、変わっちまったのさ』
マリ『違う。女将、あんたぁ、そんな喋り方をするお方じゃなかった』
レイナ『だから、変わっちまったのさ。あたしもね』
マリ『ご亭主は』
レイナ『死んだよ。殺された。あいつらに刃向かって、真っ先にね』
マリ『あいつらぁ、いったい』
レイナ『オチウドさ。白が源氏で、赤が平家って名乗ってる。もちろんホンモノじゃないよ』
ゼラド『やぁ、違うよ。いまは赤い方、平家じゃなくてランカスター家なんだって。
あっちは赤が勝つから』
レイナ『じゃ、源氏とランカスター家』
マリ『その、源氏とランカスター家が、なんでまたこの村に』
レイナ『よくある話さ。人間はお宝を埋め、犬は食いかけの骨を埋め、リスはドングリを埋める。
どこから出たのか知らないけど、この村にお宝が埋まってるっていう噂が出たのさ。
パチモノじゃない、ホンモノの源氏だか平家だかが残したやつ。
かくして、ゴールドラッシュの始まりってわけ』
マリ『ほんとうにあるので、お宝が』
レイナ『あるわけないだろ。そんなものがホイホイ出るなら、イトイシゲサトは困んないさ』
ゼラド『イトイシゲサトって誰? 戦国武将?』
レイナ『それでもあいつらバカだから、あっちこっち掘りまくった』
ゼラド『えぇ、無視ぃ?』
レイナ『それで、なにも出てこなけりゃぁよかったんだけど。
平家の、じゃない、ランカスター家のキヨモリがお山を掘ってたら、
出てきちゃったのよ。『るるぶ』って書かれた書簡が』
マリ『『るるぶ』ってなぁ、なんのことで』
レイナ『わかりゃしないさ。それでもあいつらバカだから、妙な希望を持っちまった。
まだ出てもないお宝を取り合って、村をまっぷたつにして抗争始める始末さ』
マリ『それでは、そこの旦那も、赤か白のどっちかで』
ゼラド『どっちでもないよ。おれぁ、ここだよ。この小料理屋の用心棒だよ』
レイナ『冗談じゃないよ。とんだ押し掛けさ。
毎日毎日バクバク食べて。お代だって、これじゃとても足りてないよ』
マリ『旦那、お名前は、なんと』
ゼラド『ゼラド十六郎。もうじき、十七郎だけどね』
【舞台上 夜】
ゼラド『どこ行くの?』
マリ『へえ、湯屋に』
ゼラド『あそこはねぇ、危ないよ。賭場になってるから』
マリ『だから行くので』
ゼラド『え、だってオメさんには、賽の目が見えないでしょう?』
マリ『ナリワイに行くだけで』
ゼラド『さっきので、まだ治まらないの』
マリ『なんのことで』
ゼラド『さっきの連中、オメさんほっといたら、皆殺しにしてたとこでしょう』
マリ『エヘヘヘ、ご冗談を。そんなことしたら、旦那が飯代を払えなかったじゃぁありゃせんか』
ゼラド『ばけものぉ』
マリ『けだものぉ』
ゼラド『はははは。本気で斬り合いたいと思ったのは、オメさんで2人目だよ』
マリ『へえ、1人目は』
ゼラド『会ったわけじゃないけど、『伝説』』
マリ『ほんとにいるのやら、いないのやら』
【舞台上 賭場】
エジュニ香『丁!』
エジュニ紀『半!』
エジュニ子『シソウの半!』
【舞台袖】
リトゥ「エジュニアくんのファミリーは、いったい何人いるの」
ハザリア「探してみると、無尽蔵にいた。ちょっと恐ろしかった」
【舞台上 個室】
エジュニ香『ああっ、くそ、負けがこんでやがる』
マリ『エッへへへ、旦那、だいぶ突っ張ってなさるようで』
エジュニ香『なんだ、座頭か』
マリ『エヘヘヘ、あんまは、いかがでござんしょう』
エジュニ香『ん? ああ、そうだな。頼もうか』
モミ モミ モミ
マリ『旦那は、赤と白の、どちらで』
エジュニ香『ああ、赤だ赤。平家、じゃないランカスター家の一員だ』
マリ『首尾は、どんなもんで』
エジュニ香『そりゃぁ、うちが勝つさ』
マリ『するとなにか、勝算がおありで』
エジュニ香『おいそれとは話せねえがな』
マリ『しなもの、ですかい』
エジュニ香『お前、なにを知ってる!』
マリ『そいつをひとつ、教えていただきたいので』
ギリギリギリッ
エジュニ香『痛ッ! 痛たたたたッ!』
マリ『教えちゃぁ、いただけやせんか』
エジュニ香『座頭! てめえ、いったい』
マリ『教えちゃぁ、いただけやせんか』
エジュニ香『切れる! 切れるから!』
マリ『教えていただけねえと』
ゼラド『やぁ、首尾はどう?』
マリ『旦那は』
ゼラド『うん、勝った勝った』
マリ『旦那、種銭などお持ちで』
ゼラド『なに、現地調達だよ』
マリ『けだものめ』
ゼラド『ばけものめ』
ゼラド『は、しなもの?』
マリ『バラバラに分解したのを、わかんねぇように、ちっとらっつ持ち込んでいたそうで』
ゼラド『へえ、それでやっこさんがた、なにを組み上げるつもりなんだか』
マリ『なんといいましたっけ、ガトリングとかなんとか。
鉄砲が12丁ばかり、グルグル巻きの束になってて、
そいつが1秒間に12発ばかり鉛玉を吐き出すんでそうで』
ゼラド『ははぁ、そんなものがあったら、源氏は勝てないねぇ』
マリ『だから行くので』
ゼラド『どっちに? 赤? それとも白?』
マリ『白で』
ゼラド『はははは、焚きつけて共倒れさせる気だ』
マリ『旦那は、なぜ赤にも白にも付かないので』
ゼラド『べつにぃ、なんか信念があるっていうわけじゃないよ。
源氏はキャラデザが高河ゆんだし、平家はちょっとバカだし、
どっちにしたもんかなぁって迷ってるうちに、なんとなくあぶれちゃっただけ。
それに、なんだかどうでもよくなっちゃったし』
マリ『旦那、女将とは』
ゼラド『なに』
マリ『なんでも』
【舞台上 源氏の屋敷】
スレイチェル『性別イグニションの可憐な登場である』
マリ『へへえ』
スレイチェル『リアクションが薄いな』
ゼラド『旦那、こちら、目が』
スレイチェル『なんだ、スレイチェル、ガッカリである』
【舞台袖】
リトゥ「なんでスレイチェル先輩は馬を担いで登場したの?」
ハザリア「知らん。なにか、どうしてもやりたいといって直前にねじ込んできた。
役名もいわんし、おそらくあやつは俺の舞台を舐めている。舐めきっている」
【舞台上 源氏の屋敷】
スレイチェル『お前はモノノフか』
マリ『はあ?』
スレイチェル『スレイチェルはモノノフである。サムライではない。
モノノフとサムライは、まったく別なものだ。
サムライは生き様の問題だが、モノノフは戦う命そのものである。
サムライは、まだパンツを一枚はいている。
お気に入りの柄とか肌触りとか、そんなつまらない布きれ一枚を捨てきれないのだ。
バテレンの毛唐によると、命の最初は誰もがパンツなどはいていなかったのだ。
バカな女がヘビにそそのかされて、はくようになったのが、パンツだ。
パンツをはくことは、堕落に他ならない。
モノノフはそんなものをはかない。真っ裸の、戦う命そのものなのだ。
座頭、お前、パンツをはくのか』
マリ『へえ旦那。あっしは、いつもパンツだけぁはいているので。
でないと、ものを隠すときに困るので』
スレイチェル『では、モノノフでないお前が、なんの用だ』
マリ『しなもの、のことで』
スレイチェル『聞こうか』
【舞台上 ランカスター家の屋敷】
エジュニ紀『親分! キヨモリの親分!』
トウキ『なんだ』
ミナト『バカヤロウ! キヨモリじゃねえって何度いったらわかんでゲスか!
いいか、俺たちぁ、いまや赤薔薇ランカスター家なんでゲス!
そしたら、頭領の兄貴はヘンリィに決まってんじゃねぇでゲスか!』
トウキ『ヘンリィってお前、日本人丸出しの顔で』
ミナト『いいんでゲス! ヘンリィっつったらヘンリィなんでゲス!
業界用語でリヘンなんでゲス。ほら、利口の利の字の横っちょにあるやつでゲスよ!』
トウキ『シゲモリ、それ、りっとうっていうんだぞ』
ミナト『うるっせぇや! 俺ン中じゃリヘンなんでゲス!
利口の利の字を取って、今後兄貴のこたぁ、ランカスター利夫と呼ぶでゲス!』
エジュニ紀『そしたら、ランカスター利夫親分!』
トウキ『即座に呼ぶなよ、お前も』
エジュニ紀『源氏が攻めて来ました! スレイチェルが馬担いでやって来ます!』
ミナト『やべえ、超可憐でゲス』
トウキ『ああ、可憐だ』
スレイチェル『出てこい、ランカスター利夫!』
トウキ『もう来た!』
ミナト『よっしゃ! すでにランカスター利夫が広まってるでゲス!』
トウキ『なにがよっしゃだ。情報が漏れてるんだよ』
ミナト『おい、アレを持ってくるでゲス!』
エジュニ紀『ムチャですよ。アレはまだ、安全装置が組み上がってません!』
ミナト『安全装置だ、しゃらくせぇ、そんなもんはな、いらねぇんでゲス!
どうせ相手はキャラデザ高河ゆんなんだ。狙い撃ったらんかい!」
スレイチェル『剣の時代は剣でチャンバラ、銃の時代は銃でチャンバラ、
腹ごしらえにスキヤキも食らった。さぁ、モノノフが行くぞ!』
Roar! Roar! Roar!
【舞台上 山の中】
マリ『始まったようで』
ゼラド『おや、オメさん、どこ行ってたの』
マリ『どちらが勝つとお思いで』
ゼラド『そうだなぁ。源氏はキャラデザ高河ゆんだし、平家はバカだし、
たぶん双方だいぶうっちんで、最終的に、片っぽがちょんびり残るんじゃないの』
マリ『あとは、けだものにお願いしようと』
ゼラド『はははは。それは、おれのことかい』
マリ『いいえ、もっとたくさん』
モオォォォォッ! モオォォォォッ! モオォォォォッ!
ゼラド『牛!? ツノに松明付けられて!』
マリ『クリカラトウゲといいましたか』
ゼラド『ああ、どこまでも続く赤いテールランプがキレイで、
サイドシートの君はまるで子供のように』
【舞台袖】
リトゥ「ねえ、なんでゼラドの役は、ミフネさんていうか、
限りなくただの高橋ジョージさんになってるの?」
ハザリア「義理の息子だろう。なら、跡を継ぐだろう」
リトゥ「継がないと思うよ。ジョージさんはロックンローラーだもの」
ハザリア「なら、やはり継ぐだろう」
リトゥ「わからない。ハザリアくんの思考回路がわからない」
ハザリア「タロー・オカモトはいったものだ。
よい芸術には、バカヤローといわずにはいられない』
【舞台上 山の中】
マリ『旦那、この村はね、静かなところだったんでござんす。
小さな温泉があって、牛がモーモー鳴いてるだけの』
ゼラド『源平合戦が始まって、薔薇戦争が始まって、次に起こるのは南北戦争かな』
マリ『なんのこたぁねぇ。目開きの旦那がたが、そろいも揃って
源氏だ平家だ、赤だ白だ、北だ南だに分かれてお宝狙ってるだけでござんす』
ゼラド『そして、ゴールドラッシュが巻き起こる』
マリ『だからこの先は、単なるウェスタンの世界でござんす』
モオォォォォッ! モオォォォォッ! モオォォォォッ!
ミナト『兄貴ぃっ! ランカスター利夫兄貴ぃ! 牛が、牛がぁっ!』
トウキ『ひるむな、撃て撃てぇっ!』
Roar! Roar! Howl!
スレイチェル『祇園精舎の鐘の声ぇ、沙羅双樹の花の色ぉ、
盛者必衰の理をあらわしているのだ、わかったか赤提灯ども!』
トウキ『撃てぇっ! 撃て撃てぇっ! あの白薔薇ヤロウを、朱に交えて赤くしちまうんだよ!』
ミナト『いまだに未完てどういうことでゲスか源氏ーっ!』
トウキ『登場人物がデフォルトでホモってどういうことだーっ!』
スレイチェル『くたばれ、ぬふぅ兄弟!』
ミナト『誰がぬふぅ兄弟だぁっ!』
BLAM! BLAM!
トウキ『ぬふぅ』バタッ
ミナト『ぬふぅ』バタッ
スレイチェル『風の前のチリにおなじなのだ』
レイナ『違いないね』
BLAM!
スレイチェル『女将、お前は』
レイナ『なんでもないようなことが、幸せだと思ってたんだよ』
スレイチェル『その銃、まさか、お前が『伝説』・・・・・・』バタッ
マリ『女将、あんたぁ』
レイナ『座頭さん。あたしは変わったって、いったよね。
ゴメン、あれはウソよ。あたしは戻っただけ。血まみれだったあのころに』
ゼラド『血まみれ、『伝説』、まさか、血まみれサラスヴァティ』
レイナ『そうさ。あたしも、お宝を狙ってやって来たハイエナの一匹だった。
でも、マヌケな話ね。血まみれサラスヴァティは、宝の守人に恋をしちまった』
ゼラド『お宝は、やっぱりあったんだね』
レイナ『じきになくなるさ。
あの人の形見みたいに思ってたけど、どうやら火種にしかならないお宝だもの。
こんなものは、もっと早く川に流しちまうべきだったんだ。
書簡だのなんだの、お宝の在処を示すもんもひっくるめてね』
マリ『それは、いつ』
レイナ『明日の朝にでも』
マリ『左様で』
【舞台上 朝】
ゼラド『やるの』
マリ『へえ』
ゼラド『どうしても、やるの』
マリ『へえ』
ゼラド『ねぇ座頭、おれは、オメさんが好きなんだよ』
マリ『あっしもで』
ゼラド『それでも、やるの』
マリ『へへえ』
レイナ『座頭さん! 旦那! なんでこんなことを』
ゼラド『女将、そこから近づいちゃぁ、いけないよ。
そしてこの勝負が終わったら、もとの、なんでもないような女将に戻るんだ。
もしもおれがやられても、女将、決して敵討ちなんか考えちゃぁ、いけないよ』
レイナ『座頭さんも、やめておくんな!』
【舞台袖】
リトゥ「静まりかえった。舞台が、すごく緊迫してる。殺気立ってる?」
ハザリア「長い恐ろしい間があって、勝負はギラッと刀がいっぺん光っただけで決まる。
ここから先は、とても筆では書けない」
リトゥ「書いてないの?」
ハザリア「書いとらん。ここから先は、俺でもどうなるかわからん」
リトゥ「ハザリアくん、すごく楽しそう」
【舞台上】
ゼラド『やぁっ!』
マリ『ぃえぁっ!』
【舞台袖】
リトゥ「えっ、マリがゼラドから飛び退いた!」
ハザリア「行く先は・・・・・・!」
【舞台上】
レイナ『ぎゃあぁぁぁぁっ!』
ゼラド『座頭! オメぇ』
マリ『利き腕は、そちらじゃありゃせんでしたか』
レイナ『座頭さん、なんで』
マリ『サラスヴァティは、2本の腕で琵琶を弾く芸能の神。
でも、たまぁに8本腕で弓やら矢やら矛やらつかんだ戦いの女神になるのでございゃしたか。
叩っ斬らなきゃならねぇ腕は、あと5本』
レイナ『ひっ!』
マリ『ご覧の通りの身の上で。カネは余分にいるんでございやす。
川に流されちゃぁ、たまったもんじゃありやせん』
レイナ『座頭さん、まさか、あんたまで』
ゼラド『残念だぞ、座頭!』
マリ『旦那、女はあんたにくれてやる。
あっしは、お宝をもらう』
ゼラド『座頭、オメは、オメも、そうなのか』
マリ『それでいいでございゃしょう、けだもの』
ゼラド『オメは、おれにそっくりだ!』
マリ『なんでもないような夜は、二度とは戻れない夜で』
ブー ブー ブー
【閉幕】
【舞台袖】
レイナ「あぁ、ビックリした。ほんとに腕を切り落とされたかと思っちゃった。
マリの演技は、どこまで昇るのかしら」
ハザリア「貴様ぁっ! 寂しかった、寂しかったぞ!
やはり舞台袖には貴様がおらんとダメだぁ!
なにか今回、妙にやりづらかった!」
リトゥ「えぇ~!」
レイナ「なんであんたは、そういうややこしくなるようなことばっかいうの!」
ハザリア「もう、金輪際貴様にデカい役はやらせん!」
レイナ「イヤよ。なんであたし、亭主がすでに死んでる役なのよ!」
ハザリア「貴様にハッピーエンドは似合わん」
レイナ「ヒドいこと断言しないでよ!」
マリ「おい、どうだった」
ハザリア「なんだ、貴様か。どうもこうもあるか。
せっかくバランガに仕込んだ血糊入りのホースやらポンプやらが、丸々ムダになってしまったわ」
マリ「なら、改宗するか」
ハザリア「なにをいっているのか。俺は宗教など持っとらんぞ」
マリ「じゃ、わたしがわりと普通に一騎討ちしてたら、どうした」
ハザリア「そのときは、貴様を見限るだけだ」
マリ「なぁ、お前さ、相続放棄できないような種類の借金なんか作るなよな」
ハザリア「なんだなんだ、貴様はさっきからわけのわからないことばかり!」
マリ「わたしは払わないからな、そんなの」
最終更新:2009年10月17日 11:47