おっとどっこい時代劇(事件編)


23代目スレ 2008/03/15(土)

 【道ばた】
スリサズ「やぁやぁゼラドちゃん、久しぶり!」
アンサズ「その後どうだい」
ウルズ「よし、リボン結んであげよう」
ヴィレアム「えっ、アラドさんがたくさん!?」
ゼラド「ああ、ヴィレアムくん会ったことなかったっけ?
 わたしの叔父さんたち、のようなもの」
スリサズ「のようなものかぁ、地味に傷付くなぁ」
アンサズ「思えば、叔父らしいことをなにひとつしてないからなぁ」
ウルズ「よし、プレゼント上げよう」
ゼラド「そんなことより、いい加減定職に就いて欲しいって、
 こないだフェフ博士がうちに来て泣いてましたよ」
スリサズ「あっはっはっは、ほぅら指輪だよ」
アンサズ「黄色い指輪は嫌いかい?」
ウルズ「よし、叔父さんが着けてあげよう」
ゼラド「叔父さんたちぃ! わたしの話を」
 バシュンッ
ヴィレアム「なんだっ!? ゼラドが消えた!?」
スリサズ「おーおー、上手くいったよ?」
アンサズ「マシンセルとテスラドライブとソフィア博士のヘソのゴマを
 圧縮鍋に三日三晩入れて精製するとワープ装置ができるって、前々から理論だけはあったけど」
ウルズ「よし、まったく意味がわからない理論だ」
ヴィレアム「いったいなにをしたんだ、あんたたちは! ゼラドをどこに!?」
スリサズ「あっはっはっは、見なよ、青臭いねえ」
アンサズ「大丈夫大丈夫、戻ってこられる方法はちゃんとあるから」
ウルズ「よし、手を出すんだ」

 【和室】
ゼラド「なんだろう、この匂い・・・。
 え? あれ? 畳の匂い?
 ひどい散らかりよう。あれ、この紙、赤く汚れてる。え、これって、まさか、血?」
 え、えぇっ、ひとが、ひとが死んでるぅ~!?」

 ガタッガタッ
???「ごめんくださいまし。ピザキャットでございます。
 ベジタブルピザをお持ちしましてよ」
ゼラド「障子につっかえ棒がされてる? えっと、とにかくこれを取って」

 スルッ
レタス「失礼いたします」
ゼラド「レタスちゃん? なんで着物に、ネコ耳と尻尾付けてるの?
 あれぇ? わたしも着物だ! なんで? いつの間に!?」
レタス「ひっ、ひとごろしぃーっ!」
ゼラド「違うの! レタスちゃん、これは違うの!」

 どやどやどや!
ゼフィア「何事だ! 恐れ多くも青騎士ヘルダインさまの邸宅でかような騒ぎ!」
ゼラド「ゼフィア先輩までぇ!? いったい、なにがどうなってるのぉっ!?」
ゼフィア「ぬぅっ、そこな遺体はまさしく赤騎士デスカイン殿!
 殺ったのはお主か! くせ者め、そこに直れ!」
ゼラド「ゼフィア先輩! 違うんです、わたし」
ゼフィア「作州浪人ゼフィア・ゾンボルト! お主に先輩呼ばわりされる覚えはない!」
ゼラド「えぇ~!?」
ヴィレアム「ゼラド、こっちだ!」
ゼラド「ヴィレアムくん? どこから」
ヴィレアム「話はあとだ。とにかく、早く逃げるんだ!」
ゼフィア「うぬ、逃げるか。誰か、誰かある! 殺人だ!」

 【市中】
ゼラド「どうなってるの!? 建物もひとも、これじゃまるで時代劇だよ!」
ヴィレアム「ゼラドの叔父さんたちが渡した指輪は、ワープ装置だったんだ!
 ここはたぶん、別の世界だよ!」
ゼラド「ヴィレアムくんは、わたしが知ってるヴィレアムくんなの!?」
ヴィレアム「そうだ。ゼラド、お前も指輪を」
トウキ「そこのけそこのけ! そいつらはコロシの下手人だぁっ!」
ミナト「ふてえヤロウでヤンス! 俺たち兄弟が十手にかけてやるでヤンス!」
ゼラド「トウキくんたちまで! しかもミナトくんが、なんか子分口調だ!」
ヴィレアム「どこか建物の中に入るんだ!」

 【芝居小屋】
マリ「判官殿よと怪しめらるるは、おのが業の拙きゆえなり、
 思えば憎し、憎し、憎し、いでもの見せん~」
ユウカ「通れとこそはぁ~ののしりぬ~♪」べべんべんべん

ヴィレアム「芝居小屋みたいだな」
ゼラド「なんでみんなにそっくりなひとばっかりいるんだろう。
 マリちゃんは、やっぱりお芝居やってるんだ」

 どやどやどや!
ゼフィア「ご免! こちらにならず者が迷い込んだと聞いた!」
ヴィレアム「わっ、追ってきた!」
ハザリア「なんだなんだ、俺の小屋で騒ぐのは、どこの無粋者だ」
ゼフィア「ハザリア一座の道楽座長、お主の小屋だったか」
ハザリア「ふん、誰かと思えば、腕は立つが世渡りがヘタなばかりにどこにも仕官できず、
 青騎士に飼われている食い詰め浪人ではないか。
 貴様に観劇がわかるとは初耳だ」
ゼフィア「お前の芝居などに興味はない!」
ハザリア「ならば出てゆけ。ここはオディイでもっとも粋でイナセな場所だ。
 不作法者にくれてやる座布団はないわ」
ゼフィア「お前はまたそのようなことをいって!
 この小屋が前科者をかくまっているという噂は聞いているぞ。
 その件をあらためても」
ハザリア「おっと、その刀を抜くか? 権限もない浪人者が」
リトゥ「お待ちくださいお侍さま。
 この芝居小屋はルナ姫さまの認可を受けてのもの」
ハザリア「ここで刀を抜くということは、それすなわち姫への反逆だ。
 いよいよもって仕官の口がなくなるぞ。しょうもない田舎領主の元で冷や飯を食らいたいか?
 それでもなおというのなら、よし、さぁ抜け、抜くがよい」
ゼフィア「この、詭弁を使う!」
ハザリア「吠えるな、浪人者風情が。どうしてもというなら、令状を持って出直してこい」

 【座敷】
ゼラド「ありがとう、かくまってくれて」
ハザリア「かくまう? 勘違いするな。
 俺の縄張りで浪人者風情にデカい顔をされるのが気に食わんだけだ。
 それに、結果は大差ない。
 どうせ、浪人者や十手持ちごときに逮捕権などないのだ」
ゼラド「え? 浪人はともかく、十手持ちっていうのは、昔のお巡りさんみたいなものじゃないの?」
ハザリア「ものを知らん女だな。
 十手持ちだ岡っ引きだというのは、同心などの使いっ走りに過ぎん。
 出自を辿れば放免された軽犯罪者だ。
 ようするに、ベイカーストリートイレギュラーズのようなものだな」
ヴィレアム「なんでベイカーストリートイレギュラーズなんて言葉が出てくるんだよ」
ゼラド「えぇ~、でも、銭形平次は」
ハザリア「ゼニガタ? ああ、しょっちゅう犯罪者を捕り逃しては、
 悔し紛れに小銭を投げてるヘッポコの岡っ引きか。
 ヘッポコ過ぎて逆に有名になってしまった輩だ。
 おもしろいから、今度芝居のネタにしてやろうかと考えてる」
ゼラド「えぇ~」
ヴィレアム「そういえば、初期の銭形平次はそんなんだったって聞いたことあるな」
ハザリア「初期だ? おかしなことをいうヤツだな。
 初期もなにも、あのオッサンはずっと無能のままだぞ。
 ほかのホン書きがゼニガタをネタにしたという話も、まだ聞いていないが」
ゼラド「あっ、あのね、ハザリアくん」
ハザリア「ほぅ、俺の名を知っているか。くん付けというのが少々気に食わんが」
ゼラド「その、信じてはもらえないと思うけど」
ヴィレアム「俺たち、別の世界から来たんだ」
ハザリア「ほぅほぅ、なるほどなるほど。わかった、皆までいうな」
ゼラド「信じてくれるの!」
ヴィレアム「よかった、こっちのハザリアは、わりと話のわかるやつみたいだ」
ハザリア「貴様らもこれをやるのだろう? まわしてやろうか、ええ?」カチッ

 ガラッ!
マリ「阿片をやめろっていってるんだ、このバカッ!」
リトゥ「またこんな、ご禁制のものに手を出してぇ!」
ハザリア「あっ、なにをするか貴様ら! 煙管を返せ!」
ゼラド「ハザリアくん・・・」
ヴィレアム「前言撤回だ。こいつ、よりタチが悪い」

ゼラド「そういえば、ヴィレアムくんはどうしてこっちに来ちゃったの?
 戻れないかもしれないのに」
ヴィレアム「あ、いや、戻る方法はあるんだ。
 ゼラドが受け取ったのは黄色い指輪だけだろ?
 あれは行きの切符みたいなもので、戻るには、この緑の指輪が必要なんだよ」
ゼラド「じゃ、それがあれば」
ヴィレアム「ああ、黄色と緑をひとつずつ、両手に付ければいいだけだ。
 ゼラド、黄色の指輪は持ってるな?」
ゼラド「うん、ここに、あれ? ない、ない!」
ヴィレアム「そんな、あれがないと!」
ゼラド「どうしよぉ~、きっとあの屋敷に落としてきちゃったんだよぉ~」

ハザリア「あぁ、もういい、もういい、
 トールキンとかいうバテレンの文献学者の友達が書いた夢物語だろう、それは。
 まったく、バキンだかなんだか知らんが、ここのところそういう、少し不思議的なことをいう輩が増えて困る」
ゼラド「でも、わたしたちほんとに!」
ヴィレアム「じゃ、別の世界云々のことは信じてくれなくて構わないよ。
 とにかく、俺たちはすごく遠い土地から来たんだ。
 ここの状況がまったくわからない。
 さっきから聞いてると、どうも微妙にヘンなんだけど、ここはほんとに江戸時代なのか?」
ハザリア「エド? エドはるみがどうした」
ヴィレアム「なんでエドはるみを知ってるんだよ!」
ハザリア「知らいでか」
マリ「いま人気だよな」
リトゥ「あのね、ここはオディイポリスといって、世界でもっとも人口密度の高い都市なのよ」
ヴィレアム「オディイって、それまた、ひどく発音しにくいな」

ユウカ「ハイ、外で話を聞いてきたよ。
 マーダーケース、青騎士ヘルダインの屋敷で、赤騎士デスカインが殺されたってさ。
 下手人と思われるシルバーヘアの娘が目下エスケープの真っ最中」
ゼラド「それは!」
ハザリア「ほぅほぅ、なるほど。たしかに見事な銀髪だ。
 赤騎士青騎士といえば、いわずとしれた右大臣と左大臣。
 その片割れが殺されたとなれば、ティクヴァーのご治世がだいぶ揺らぐことになるな」
ユウカ「なかなかクールな話ね」
ハザリア「そういえば近ごろ、国家転覆を企む新興宗教団体が横行していると聞くな。
 なんでも、その首領は銀色の髪を持つ娘だとか。
 なんだ、貴様らはその一味か」
ヴィレアム「なんだよ、それ」
ゼラド「ルナちゃんが治めてるんだ」
ハザリア「なんだ、つまらん。知らんのか。
 ティクヴァーのご時世も、200年も続くと、ちと退屈だ。
 ちぃとは世の中引っかき回してくれる輩が出現した方が面白いのに」
マリ「面白ければいいってもんじゃないだろう。まったくお前は」
ゼラド「でも、わたし、ほんとにやってなくて」
リトゥ「ねえ、わたしはこのひとたち、無罪だと思うよ?
 ハザリアくんの名前知ってるあたり、なんだかうちの一座のファンみたいだし」
マリ「うちのファンだっていうなら、むしろ危ないんじゃないのか?
 いつもいつもお上に盾突くような演目ばっかりやってるし」
ハザリア「ん? おい、少し待て。そろそろ亥の刻だ。
 おいグラマーインパクト、ちょっと行ってフロに入ってこい」
ユウカ「あたしを一座のお色気担当みたいに扱うのをやめて」
ハザリア「なにをいうか! そのムダなグラマラスがなければ、貴様などただの三味線だろうが!」
ユウカ「ムダじゃない。わりとムダじゃない。
 そのうち有意義に使う予定」
ハザリア「いま有意義に使わんか! 元ルナシーのJに憧れたとかいうアホな理由で放火を働き、
 お尋ね者になった貴様を拾ってやった恩を忘れたか、ええっ!?」
マリ「違うだろ。ユウカさんは地元の悪代官を懲らしめようとして、ついやりすぎちゃっただけで」

ユウカ「でも、元ルナシーのJさんに憧れてたのはリアル」
マリ「憧れてたんですか」
ユウカ「あのころのルナシーはパンクだった」
ハザリア「ルナシーがパンクだったころのことなど、RYUICHIも覚えとらんわ」
ユウカ「ノンノン、そんなことない。RYUICHIはあれでけっこうちゃんとしてる」
ヴィレアム「待て、ルナシー存在してるのか、この世界」
ハザリア「案ずるな。SHAZNAは存在しとらん」
ヴィレアム「じゃ、なんで名前知ってるんだよ!」
ハザリア「正確にいうと、なかったことにされている」
ヴィレアム「それなら、いるんじゃないかSHAZNA!」
ハザリア「現実を直視しろ! そして間を置かずに目を逸らせ!
 あのころのIZAMはもういない! いるのはDV気味のオッサンだけだ!」
ゼラド「IZAMさんのことは、もうそっとしといてあげようよぉ~」

ハザリア「とにかく、貴様が青騎士の屋敷にいたのは間違いないのだろう?
 いったい、どこから入った」
ゼラド「それが、よくわかんなくて」
ハザリア「そら見たことか。おい、役人を呼べ。
 いくらなんでも殺人犯をかくまっておくわけにはいかん」
ヴィレアム「ちょっと待ってくれよ!」
ハザリア「ええい、うるさいヤツだな。だいたい、なぜ貴様は俺に対してタメ口なのだ。
 俺のファンならファンらしく、恐れ敬いかしこまれ」
ヴィレアム「べつにお前のファンじゃない!」
ハザリア「おい、こやつらを即刻つまみ出せ!
 コロシなど比べものにならん大罪人だ!」
マリ「お前少し黙ってろ。なぁ、落ち着いて、順を追って話してくれないか?」
ゼラド「マリちゃん」
マリ「このロクデナシと一緒にいると、よく似たようなことに巻き込まれるからな。
 混乱する気持ち、少しはわかるんだ」
ゼラド「えぇっと、まず、わたしはいつの間にか座敷にいて、
 そしたらピザ持ったレタスちゃんが障子越しに声かけてきて」
ハザリア「ピザ屋か。おい、そいつはネコ耳に尻尾と、
 あざといを通り越して軽くケンカを売っているような装いではなかったか?」
ヴィレアム「なにいってるんだ、そんなピザ屋がいるわけ」
ゼラド「うん、なんか、そんな格好だった」
ヴィレアム「なぁ! ここはどういう時代なんだ!?」
ハザリア「やはりな。ピザキャットだ。
 うむ、ちょうど腹が減ったころだ。本人を呼び出して聞いてみるか。
 おい、電話を持て」
ヴィレアム「あるのか、電話が」

 【市中】
咲美『まいどお騒がせしておりまぁす。ただいまより、ピザキャット名物特急便が発射いたしまぁす。
 危ないですからぁ、どなたさまも白線までお下がりになってご覧くださぁい』
 どかぁぁぁぁんっ!

ミナト「兄貴ぃ、ピザ屋さん、またお空飛んでるでヤンスよぉ」
トウキ「ピザ屋さんも大変だなぁ」
ミナト「あの、風にはためく着物の裾がたまんねぇでヤンス」
トウキ「あのさぁミナト、お前のその口調、時代劇っていうより昭和の匂いがしてるからな」
ミナト「タハーッ! おやびん、そりゃないでヤンスよぉ」
トウキ「昭和の匂いしかしない」

 【芝居小屋】
レタス「お待たせいたしました。ご注文のピザをお持ちいたしましてよ」
ヴィレアム「なぁ、このピザ屋、いま空飛んでこなかったか」
レタス「ピザ屋が空を飛ぶのは、当たり前のことではなくて?」
ユウカ「おっとどっこいみーらい♪ おっとどっこいかーこ♪」
ヴィレアム「なんで親父さんの声ばっかりネタにするんだよ」
レタス「あら、お母さまの声をネタにしてよろしいのでして?」
ハザリア「うむ、それは決して使えない案ではないが、少し待とうか」
マリ「どうしよう。わたしも笛とか吹いて空飛んだ方がいいのかな」
ハザリア「そういうことを言い出すときりがないからなハレルヤ」
レタス「あら、よくよく見ればあなたは、先ほどの殺人犯。
 誰か、誰か!」
ゼラド「待ってレタスちゃん! わたしは無実で」
ハザリア「とまあ、本人はこのように主張しておる。
 もっとも俺は六四でクロだと思っておるがな。
 ちぃと判断が付かんから、目撃者である貴様から話を聞こうと思って呼び出した次第」
レタス「正気なのでして? 殺人犯をかくまったとなれば、
 市中引き回しの末打ち首獄門とまではいかなくとも、悪くすれば島流し、
 いえ、よくしても島流し、最高でも島流し最低でも島流し、
 あの姫さまの口から『島流しじゃ~!』と」
ハザリア「どれだけ島流しがオススメだ、貴様」
ヴィレアム「とにかく、話を聞かせてくれないか?」
レタス「先に、ピザの支払いを済ませてくださいませんこと?」

ゼラド「むしゃむしゃむしゃ!」
レタス「筆舌に尽くしがたい食べっぷりを見せる方ですのね」
ゼラド「ぐらっちぇぐらっちぇ」
レタス「ピンクの髪のあの方を思い出します」
ハザリア「なにか遠くから来たらしい。腹が減っているのだろう。
 では、事件のあらましを話してもらおうか」
レタス「あらましといわれましても、特に変わったところはなくってよ。
 いつも通り注文を受けて、赤騎士さまのおわすお座敷までお届けに上がりましたところ、
 障子の内側からつっかえ棒がされているようでして」
ハザリア「待て待て、貴様、なぜ座敷まで届けに行った。
 ピザなど、勝手口で下男にでも渡せばよかろう」
レタス「わたくしもそう思いましたが、青騎士さまから指示されたのです。それで座敷まで」
ハザリア「ははぁ、なるほど。貴様、ハメられたな」
ゼラド「うん、そうなんだよ、誰かが」
ハザリア「貴様ではない。ピザ屋だ」
レタス「は、わたくしが?」
ハザリア「ピザキャットの出前迅速ぶりはオディイじゅうに知れるところ。
 市中どこであっても、四半刻以内に配達に来る。
 つまり、到着の時間をある程度予測できるというわけだ」
レタス「では、一歩間違えばわたくしが容疑者にされていたと?」
ハザリア「そこまではいかんだろう。大方、貴様を呼びつけたのは第一発見者にするためだ。
 仮の犯人はあらかじめ、べつに用意されていたのだろう。
 ところが、そこな娘がどこからか現れた。
 犯人側からしてみれば、手間が省けたということだ」
ゼラド「いったい、誰がそんなこと」
ハザリア「それは、ピザを注文した人物に決まっているだろう」
レタス「青騎士さまが? しかし、なぜ」
ハザリア「情報がないから、なんともいえんな。
 うむ、時間も時間だ。情報収集に出るとするか」

 【湯屋】
ヴィレアム「なんで銭湯なんだよ」
ハザリア「なんだ、なにも知らんのだな。
 どうやら、貴様は山猿と一緒の温泉に入るような田舎から来たと見える。
 よいか、オディイの町は木造建築が密集しておる。
 火災予防のために、自宅に風呂の設備を構えることは厳しく制限されておるのだ。
 うちの芝居小屋のように大量の化粧を使うだとか、よほど裕福な商家でなければ、自前の風呂など持てん。
 つまり、湯屋にはあらゆる階級の者が集まる。
 ここはオディイの一大社交場なのだ」
ヴィレアム「時代考証しっかりしてるのかいい加減なのか、はっきりしてくれよ」

 ガラッ
マリ「遅いぞ。男のくせに、なに手間取ってたんだ」
ゼラド「えぇっ、ヴィレアムくん!?」
ヴィレアム「混浴だなんて聞いてないぞ!」
リトゥ「なに慌ててるの? 湯あみ着着てるんだから、裸ってわけじゃないのに」
ハザリア「どうやらこやつら、湯屋の作法をまったく知らんらしい。
 あらゆる階級が集まるといっただろう。
 サムライと町人がおなじ湯に浸かるというのに、男と女を分ける必要がどこにある。
 なるほど、ミズノとかいうへっぽこ老中が男女で分けようなどとのたまわったことはあるが、
 フハハハ! 即刻失脚させてやったわ!」
マリ「滅多なこというな。お前が失脚させたわけじゃないだろ」

 かぽーん
ゼラド「ふぅ、最初抵抗あったけど、入ってみると気持ちいいね」
ハザリア「おい、貴様、なにをそっぽを向いておるか。
 オイディっ子の風呂とは、もっとこう粋でイナセでなくてはならん」
ヴィレアム「お前たちとは論理感が違うんだよ!」
マリ「ほんとに湯屋に来たことないのか?」
ユウカ「クールじゃないのね」
ヴィレアム「無造作に目の前横切っていかないでくれるか!
 湯あみ着がお湯で透けててなぁっ!」
ゼラド「でも、ここで誰と会うの?」
ハザリア「そろそろ来るだろう。わりと規則正しい生活をしているやつだ」
 ガラッ
マーズ「イトーに行くならハットッヤ♪ かーいてい温泉いってみれば♪
 でんっわっはヨイッふろ♪ ハットッヤにぃ決めた♪」
ゼラド「マーズくんだ」
ヴィレアム「なんか、四本脚が木製になってる」
ハザリア「なんだ、湯屋で騒ぐくせに、あのカラクリには驚かんのか。
 キテレツ斉殿も、だいぶ名を売っているようだな」
ヴィレアム「いるのか、キテレツ斉」
ゼラド「ちょっと会ってみたいかも」
ハザリア「おいカラクリ、ちょっと来い」
マーズ「うへ、なんだ芝居小屋の道楽旦那じゃねーの。
 なーに? いっとくけど、お宅の券はもー受け付けねーよ。
 いくら売れるっつっても、お上に目ぇ付けられちゃかなわねーや」
ハザリア「そうではない。おい、青騎士の屋敷で赤騎士が殺されていたという事件は聞いているな。
 貴様、双方の屋敷に出入りしていただろう」

マーズ「あー、あれね。いっちゃなんだけど、しょーもないほーが残ったね。
 あの二人ってなぁー、登城がほぼおんなしでね、ずっと出世きょーそー繰り広げてきたんだってさ。
 でも、ここ最近赤騎士さんの出した法案がばんばか通っちゃってさ、だーいぶ水あけてんのよ。
 青騎士さんのほーでも、しょーもない市中見回り組作ったりして挽回を図ってっけど、
 ダメだね、オハナシになんねーよ。
 きょーびサムライに剣で仕事させるなんざ、流行るわけねーんだよ。
 まー、ゴンゲンさま的にはアリな流れなんじゃねーの。
 200年もかけてサムライの力削ったんだ。
 最近じゃーカネで士分買ったアキンドがばんばんのしてんもん。
 サムライの治世が終わる日もちけーね」
ハザリア「貴様の哲学などどうでもいい。
 赤騎士と青騎士は仲が悪かったのだな?」
マーズ「そりゃ、よくねーよ。そのくせ、家柄でいやー青騎士のほーが上だったからね。
 そーほーやりづらかったろーね。
 でも、ま、かたっぽ死んじゃったわけだし、当面青騎士の地位を脅かすモンは現れねーんじゃねーの」
ハザリア「フム、動機はアリか。しかし、それだけだな。
 なんだかわからんが現場に現れたという輩が一番怪しいことに変わりはない」
ゼラド「そんなぁ!」

 ガラッ
トウキ「ふぅ~、今日もオディイの平和のために働いたなぁ」
ミナト「たまには一番風呂と洒落込みたいヤンスですよねぇ」
トウキ「お前、ヤンスを使いこなせてないぞ」
ミナト「あぁ~! 芝居小屋の道楽旦那!」

ヴィレアム「道楽者で有名なのか、お前は」
ハザリア「おお、目明かしか。どうだ、最近、嫁の来手は見つかりそうか」
ミナト「うっせーでヤンス!
 湯屋なんてね、やっぱ男女別にするべきなんでヤンスよ!
 中でカップルがいらんことするだけでヤンスから!」
ヴィレアム「ミナト、ここでもモテてないんだ」
ハザリア「やれ奉公だ大奥に上がるだで、女でもひとりで食っていける時代だからな。
 そうすると、男に養われなきゃならん理由などほとんどない。
 それでなくとも、男は10歳前後から奉公に出て、一人前になれるのはようやく30歳近くだ。
 子供が即労働力になる百姓ならいざ知らず、町人では生涯独身というのも珍しくない」
ミナト「絶望的なこというなでヤンス!」
マーズ「あんまり婚姻率が下がるもんだから、お上じゃ、いー歳こいて独り身のニンゲンから
 えげつない税金取り立てるってお触れを出そーとしてるって話だよ。
 んきゃきゃきゃっ! うちのオヤジもおー弱りさ」
ヴィレアム「恐ろしい恋愛格差社会だな」
ミナト「お前みたいにひとりできれいどころ何人も囲う外道がいるからでヤンス!」
マリ「わたしたちが囲われてるようなこというな!
 わたしは役者やって稼いでるだけだ!」
ユウカ「あたしは町で三味線教えたりしてるから、食べるには困ってない」
リトゥ「えっと、わたしは、その」
ハザリア「こやつらは我が一座の大切な商品だ。
 商品に手を付けるバカがどこにいるか」
マーズ「あーあ、そりゃーカンペキお茶屋の経営者の思考回路だよ」
ミナト「チクショウ! 俺もお前の一座に加えてくださいでヤンス!」
ヴィレアム「それ、敬語になってるのか」
ハザリア「うちは女剣劇だ。見苦しい男などお呼びではないわ」

トウキ「あれ、よく見ればあんたたち、夕方の」
ヴィレアム「やばい、気付かれた!」
ゼラド「えっと、あの、わたしね!」
トウキ「さっきは済まなかったね。もう疑いは晴れたから、安心していいよ」
ゼラド「え?」
ミナト「知らなかったんでヤンスか? 捕まったんでヤンスよ、犯人」
トウキ「ちょうどいま、市中を連行されてるところだ」
ハザリア「フハハハハ! それは面白い、どれ、観に行くか」
リトゥ「ちょっとちょっとハザリアくん! 湯あみ着脱げてるから!」
ハザリア「知るか。俺は元々湯あみ着は好かん」

 【市中】
ルル「わたしは無実ですわぁーっ!」

 ザワザワ
トウキ「あの銀髪の娘は国家転覆を企む新興宗教団体の頭領で、
 ルナ姫さまのご治世を揺るがすために今回のコロシを行ったそうだ」
ミナト「ほかにも神社に火を点けたり、商家を脅迫したりしていたそうでヤンスよ。
 ぶるる、恐ろしいでヤンス」
ハザリア「なるほど、凶悪な顔つきをしておるわ」
ヴィレアム「なにいってるんだ! お前の妹じゃないか!」
ハザリア「異なことをいうな。俺に妹などおらんぞ」
ゼラド「この世界では、そうなのかな」
ハザリア「ともあれ、これで一件落着だ。よかったではないか」
リトゥ「屋台で天ぷらでも食べて帰りましょうか」
ゼラド「待って! このままにしておけないよ!
 だってあの子、きっと無実だもん。赤騎士さんを殺したのは、青騎士さんなんでしょう!?」
ハザリア「こらこら、市中で滅多なことをいうでない。
 サムライがそうといえばそうなのだ。そういう世の中なのだ。
 それに、下手人が青騎士だというのは憶測に過ぎん」
ゼラド「でも、ダメだよ! わたし、もう一回あの屋敷に行ってみる!」
ヴィレアム「おい、ゼラド」
ゼラド「だって、ほっとけないよ。それに、指輪がないと元の世界には帰れないんでしょ?
 指輪はたぶんあの屋敷にあるんだから、どっちみちまた行かなきゃならないんだよ」

 【青騎士ヘルダインの屋敷 夜中】
ミナト「まったく、酔狂な方もいたものでヤンスねえ。
 せっかく自分の疑いが晴れたっていうでヤンスのに」
ミナト「ここが現場だ。ほんとは、俺たちにこんなことできる権限なんかないんだからな。
 気が済んだら、さっさと出て行ってくれよ」

ハザリア「フム、三方は壁に囲われ、出入り口は廊下に面した障子のみ。
 障子は南向きか。昼間なら、さぞかし日当たりがよいであろうな」
リトゥ「座敷の中央に書き物机、西側に床の間があって。
 東側は、なんだかゴチャっとしてるのね。違い棚があって、いろいろ置いてある。
 ええと、壺、煙草盆、丸めた掛け軸」
ミナト「事件発生は夕方、申の刻半ほど。
 赤騎士さまは、青騎士さまと今度出すお触れの件で打ち合わせに来ていたんでヤンス。
 途中、小休止ということでこの部屋に通され、書類の整理をしていたところ、
 賊に襲われ、あんなことに」

ハザリア「して、凶器は」
ミナト「壺でヤンス。その、違い棚に置いてあったものでヤンしょう」
ゼラド「ねえ、わたしが来たときは、この部屋、もっと散らかってたと思うんだけど」
トウキ「ああ、いま、その端に寄せてあるものと、
 赤騎士さまが持参なされた書類が部屋中にばらまかれてた。
 たぶん、赤騎士さまが賊と格闘なさったんだろう」
ハザリア「おかしいではないか。格闘していたというなら、声くらい上げるだろう。
 家人は誰も気付かなかったのか?」
ミナト「う~ん、ここは離れでヤンスからねえ」
マリ「障子にはつっかえがしてあったっていうけど?」
ゼラド「うん、たぶん、そこにある掛け軸を使ったんだと思う」
ヴィレアム「ゼラド、指輪は」
ゼラド「見つかんない。う~ん、違い棚と壁の間には、ちょこっと隙間があるんだ」
ヴィレアム「ゼラド、気持ちはわかるけど、俺たちはこの世界の人間じゃないんだ。
 そんなに熱中すること」
ゼラド「でも、ほっとけないよ。
 なんでだかわかんないけど、みんなにそっくりな人たちばっかりいるし、
 捕まったのはルルちゃんだもん。
 え~と、これを、あ、でも、あれ、ちょっと待って、この位置関係だと・・・・・・。
 これが、ああなるから、あ、そっか」

ゼフィア「お前たち、そこでなにをしている!」
ミナト「げっ! ゼフィアの旦那!」
青騎士ヘルダイン「混乱に乗じて物盗りにでも来たか。
 構わん、引っ立てよ!」
トウキ「えっ、ええと、青騎士さま、これはですね」
ミナト「現場百遍というか、操作の基本というかでヤンスね」
ゼラド「トウキくん、ミナトくん、言い訳しなくていいよ。
 わかっちゃったから、そのひとがどうやって赤騎士さんを殺したのか」
ミナト「ほんとうでヤンスかっ!?」

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最終更新:2009年10月17日 12:13
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