おっとどっこい時代劇(解決編)

ゼフィア「馬鹿な。赤騎士殿がこの離れにいる間、
 青騎士殿は台所で家中の者に夕食の指示を出していたのだぞ。
 それは、ピザ屋も証言していること。
 どうやって赤騎士殿を殺すことができるというのだ」
青騎士ヘルダイン「それに、障子にはつっかえ棒がしてあった。
 いわば密室。これでは、儂はもちろん誰も入ることができん」
ゼラド「おかしいですよ。それじゃあ、あなたたちが捕まえたルルちゃんは、
 どうやって赤騎士さんを殺したっていうんですか?」
青騎士ヘルダイン「あやつは妖術使いだという話だ。
 なにか、そらおそろしい術でも使ったのであろう」
ハザリア「フハハハ! バカバカしい、貴様ら、そんなものが実在していると思っているのか」
ゼフィア「無礼であるぞ、芝居屋!」
ゼラド「前から思ってたんだけど、密室密室って、どうして殺人犯は犯行現場を密室にしたがるのかなぁ」
ハザリア「フハハハ! そんなもの、貴様、決まっているではないか!
 ええと、あれ、なんでだ」
マリ「そういえば、なんでなんだろ。特に意味ないよな」
ユウカ「密室って言葉の響きが、なんかミステリアスでオシャレだから?」
リトゥ「もぅ、違うよ。自分に疑いがかからないようにするためでしょう?
 誰にも犯行が不可能だっていうなら、自分にだって無理なんだから」
ハザリア「ああ、もう、どうでもよいわ。
 どのみち、紙と木ばかりの建築物で完璧な密室などできるはずがないのだ」
ゼラド「そう、こういう建物で密室ができるっていうのは不自然なんだよ。
 じゃあ、なんで密室が作られてるの?」
ゼフィア「なにがいいたい」
ゼラド「この密室は犯人さん側にメリットがないもん。
 そうすると、赤騎士さんが自分で作ったってことになるでしょ?
 ちょうど部屋の中にあった、この掛け軸を使って」
青騎士ヘルダイン「はははは。面白いことをいう娘じゃ。
 赤騎士がそのようなことをする必要がどこに」
ゼラド「それは、誰も部屋の中に入れたくなかったからじゃないかな。
 わたしが来たとき、この部屋は畳じゅう紙が散らばっていました。
 たぶん、その中に、赤騎士さんに宛てた手紙みたいのが混じってたんだと思う。
 赤騎士さんの弱みを握ったみたいな内容で、その証拠品をこの部屋の中に隠した、みたいな」
 それで赤騎士さんは、誰も部屋に入ってこないようにしてから、探し物をする必要があった。
 部屋が散らかってたのも、赤騎士さんが探し物をしてたからだよ」
青騎士ヘルダイン「フフフ、探し物をしただけでひとが死ぬとは初耳じゃ」
ゼラド「それは、この、東側にある違い棚を使ったんです。
 事件当時、ここには煙草盆かなにか、重いものが置いてあったんじゃないですか?
 それを重しに、違い板を支点代わりに、凶器になった壺が細い紐かなにかで吊されてた。
 赤騎士さんが探し物をするために煙草盆をどかしたら、支えを失った壺が落ちるっていう仕掛けです」
ゼフィア「しかし、そのような手紙など、この部屋からは」
ゼラド「騒ぎが起こった後に回収したんですよ。
 あれだけ紙がいっぱいあれば、一枚くらいなくなっててもわかんないもん」
ハザリア「なるほど。不可能な話ではない。
 しかし、ではピザ屋をどう説明する。
 青騎士側は、ピザ屋が配達に来る時間をある程度予想できたのだぞ?
 そんな隅っこのゴチャゴチャしたところにある煙草盆になど、いつ目がいくかわかったものか。
 ピザ屋が来た時点で赤騎士がまだ生きていたらなんとする。
 単にピザの受け渡しをするだけの、平凡なシーンができあがるだけだぞ」
ゼラド「それは、時間が関係してるんだよ。
 見て、この違い板、真東っていうか、北東の方角にあるもの。
 夕方、西日が差したらかなり目立つでしょう?
 そこで、いかにもなにか敷いてありますって感じで煙草盆の下に紙の切れ端でも覗かせておけば」

青騎士ヘルダイン「ああ、もうよい! 世迷い言と思い聞き流していれば、なんと無礼な!
 そのようなもの、すべて憶測じゃ!
 お主のいった仕掛けを使えば、誰にでもできる犯行ではないか。
 儂が下手人だという証拠など、なにひとつとしてない!」
ゼラド「でも、こんなことができるのは、赤騎士さんを、あの時間この部屋に通したあなただけで!」
ハザリア「ああ、よせよせ、あやつ、万一のときにはああやって言い逃れするつもりだったのだろう。
 それに、こうなったからには赤騎士ひとりの命などどうでもよいわ。
 おい青騎士、貴様には違法捜査と文書偽装に容疑がかかっておるぞ」
青騎士ヘルダイン「はははは、突然なにを」
ハザリア「貴様が逮捕した、あのルルという娘だ」
青騎士ヘルダイン「なにを。あの娘こそは国家転覆を企む反逆者で」
ハザリア「ああ、それは俺が流したホラだ」
青騎士ヘルダイン「世迷い言をいうな!
 ヤツが神社を燃やしたり商家を脅迫していたという証拠は、すでに押さえてあるのだぞ!」
ハザリア「あの娘は俺の妹だ。
 神社を燃やすどころか、得体の知れない春画ばかり描いて、滅多に外に出んわ。
 さて、行われてもいない犯行の証拠をつかんでいると主張する貴様は、いったい何者だ」
青騎士ヘルダイン「なにをいっておる!」
ハザリア「天下泰平も200年続けば、くだらん連中が出てくるものだ。
 青騎士ヘルダイン、貴様が率いる市中見回り組は、どうも書類に不審な点が多い。
 そこで試しにホラを流してみたわけだが、まんまとひっかかりおったな!
 貴様にしてみれば競争相手を消し、手柄を上げる一石二鳥の策だったのだろうが、
 そうは問屋がおろすものか、うつけものめ!」
青騎士ヘルダイン「ものぐるいめ!
 たかが芝居屋の主人に、そのようなことができるはず」
ハザリア「目ン玉かっぽじってよぉく見よ! 貴様、俺の顔を見忘れたか」
青騎士ヘルダイン「まさか、そんな! そんなはずは」
リトゥ「ひかえおろー! このお方を誰と心得る!
 北町奉行、ハザリア・カイツその人であらせられるぞ!」
ヴィレアム「ぶぎょう?」
ゼラド「ハザリアくんが!?」
ハザリア「フハハハハ! 恐れ敬いかしこまれ!
 ちょいと小粋な洒落者町人とは仮の姿! 市井の悪を暴き出し、裁いて捨てるがこの俺よ!
 さぁ遠慮はいらん! 地べたに頭擦りつけて拝むがよいわ!」
青騎士ヘルダイン「ニセモノじゃーっ!」
ハザリア「あれ」
マリ「あぁ、やっぱり」
ユウカ「本来レアケースのはずなのに、あんたの場合高確率でこのパターンだ」
リトゥ「だからたまには奉行所で仕事しようっていったんだよぉ!」
ハザリア「フム、奉行職は実質キャクトラめに任せっぱなしだからな」
青騎士ヘルダイン「奉行がこのようなところにいるものか!
 こやつは恐れ多くもお奉行さまを騙る不届き者!
 くせ者だ、出会え出会え!」

 ピィー ピィー ピィー
ゼラド「わっ、いっぱい来た!」

 カカカカカッ
ヴィレアム「手裏剣!?」
マリ「そこから近づくな」
ユウカ「タネガシマライフルが火を吹くよ?」
ハザリア「フハハハハ! こやつらをただの女と思ったか?
 奉行直属の愉快なくのいち軍団! 右から、女優霊! 眼鏡! 伝染歌!」
マリ「霊って付けるな」
リトゥ「なんでわたしだけ適当なのぉ?」
ユウカ「伝染じゃない。むしろパンデミック」
ハザリア「往生際が悪いぞ青騎士ヘルダイン。さあ、観念して裁きを受けよ」
青騎士ヘルダイン「ゼフィアーっ! お主がなんのためにここにいるか、わかっておるな!」
ゼフィア「承知」
ゼラド「やめてください先輩! 先輩だって、いまの話聞いてたでしょう!」
ゼフィア「主君の命は絶対だ」
ハザリア「ふん、世渡りベタな上に、ひとを見る目もないか。
 いつまで経っても仕官できないわけだ」
ゼフィア「いうな」
ゼラド「だって、青騎士さんが元々犯人に仕立て上げようとしてたのは、ゼフィア先輩なんですよ!
 レタスちゃんが悲鳴をあげれば、真っ先に駆けつけるのは用心棒のゼフィア先輩だもん!」
ハザリア「なるほど、難癖を付けて、実行犯に仕立て上げるつもりだったか。
 道理だ。そうでなくては、貴様ごとき食い詰め浪人を飼う理由などないわ」
青騎士ヘルダイン「耳を貸すなゼフィア! 斬れ、斬るのじゃぁっ!」
ゼフィア「一宿一飯の恩には、逆らえん」
ゼラド「ゼフィア先輩!」
ヴィレアム「よせゼラド。あのゼフィア先輩は、俺たちが知ってるゼフィア先輩じゃない。
 ここは俺がなんとかするから、お前は逃げるんだ」
ゼラド「ムチャだよ! 相手は刀持ってるんだよ!」
ヴィレアム「最初からこうすればよかったんだ。
 俺が持ってる指輪を渡せば、ゼラドひとりだけは元の世界に帰れる」
ゼラド「ヴィレアムくん! なにいってるの!」
ヴィレアム「お前だけでも元の世界に帰るんだ。いいな」
ゼラド「ハザリアくん! ヴィレアムくんを止めて!」
ハザリア「無理だな。ヤツはすでにゼフィアの間合いに入っておる。
 世渡りベタだが、腕だけは立つ男だ。もはや余人に手は出せん」
ゼフィア「よいか」
ヴィレアム「いいですよ、一応」
ゼラド「ヴィレアムくんっ!」

???「インジュウばくだんっ!」

 どかぁぁぁんっ!
ゼフィア「ぬぅっ、何やつ!?」
レタス「ルナ姫直属、尻尾の生えたメタル忍者レタス! そして中身はインジュウ!」
ハザリア「貴様はそれでいいのか」
レタス「でもお母さまのことを考えると、意外なほどマッチしているのでは」
ハザリア「だからそういうことを言い出すとだなぁ」
レタス「ピザキャット名物特急便で、ルナ姫をお届けに上がりましてよ。
 さ、姫さま。心おきなく高らかに、『島流しじゃ~』を」
ルナ「けほっ、けほっ、レタスよ、
 『島流しじゃ~』といわせたいがために、わたしを夜の夜中に城から連れ出すのはやめてくれ」
青騎士ヘルダイン「ルナ姫、まさか・・・・・・」
ハザリア「ニセモノだぁーっ! こやつは恐れ多くもルナ姫を騙る痴れ者だぁーっ!」
ルナ「ハザリア、またお主か。
 まったく、奉行職をキャクトラに押しつけて、市中で妙な事件にばかり巻き込まれおって」
ハザリア「黙れ、黙れよ! これも国家安寧のため!」
ルナ「青騎士ヘルダインよ。事情は聞いた」
青騎士ヘルダイン「ははーっ!」
ハザリア「なぜルナのことはあっさり信じるのだ!」
ルナ「赤騎士デスカイン殺害、ルル逮捕に伴う違法捜査および文書偽造。
 いずれも言語道断。その罪、裁かれなければならん。
 青騎士家はお家取り潰し、そしてお主は」
レタス「行くのですか? 行くのですのね?」
ルナ「島流しじゃ~!」

 【朝】
トウキ「いつの間にか、夜が明けちまったな」
ミナト「いい朝日でヤンス」
ハザリア「貴様ら、騒ぎが起こった瞬間にどこか消えてたな」
ゼフィア「また、素浪人に逆戻りか」
ユウカ「偉いさんが気軽にお家取り潰しなんかするから、
 こうやって失業者が増え、治安は悪くなる一方なのもひとつのフェイスよ」
ルナ「耳の痛いことをいうでない」
レタス「証言が取れましてよ。
 青騎士は、赤騎士が外に女の方を作っていることをネタに脅していたそうです」
ハザリア「ふん、右大臣ともなれば女のひとりやふたり、勲章のようなものだろうに、不器用なヤツだ。
 ふぁ~あ、徹夜をしてしまった。さて、帰って茶漬けでも食って寝るか」
ルナ「これこれどこに行く。奉行所はあちらだぞ。
 お主、いつまでも市中で遊んでいないで、いい加減奉行職に専念せよ」
ハザリア「やかましいわ。どうせ奉行職など、キャクトラめが充分に務めるだろう。
 そんなことより俺は、この文化繚乱の世を謳歌するまで」
マリ「わたしも、くのいちより役者の方があってるからな」
ユウカ「ねえ、いい加減借りは返したでしょう。あたしを解放して。
 お上に飼われてるっていうのは、どうも気に食わない。
 また、三味線持って諸国をまわる」
リトゥ「ええと、わたしは、その」
ルナ「危機じゃ。ティクヴァーの治世は内側から崩れつつある!」

ゼラド「そうだゼフィア先輩! あの座敷に、指輪が落ちてませんでしたか?
 このくらいの大きさで」
ゼフィア「これか。証拠品として保管していたのだが、お前のものだったか」
ハザリア「そのまま懐に入れるつもりだったのではないか?
 しかし、貴様のような無骨者が指輪とは、どのような風の吹きまわしだ」
ゼフィア「お主の知ったことではないだろう!」
リトゥ「あ、赤くなった」
ヴィレアム「よかった。これで元の世界に戻れるぞ」
ゼラド「う~ん、でも、もうちょっとこの世界にいたいっていうとこあるかなぁ?」
ヴィレアム「おい、ゼラド! それじゃいままでの」
レタス「今日もオディイポリスは日本晴れでしてよ!」
ハザリア「貴様が締めるなぁっ!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年10月17日 12:14
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。