はいからゼラドが通る


29代目スレ 2009/07/09(木)

 【OG学園 グラウンド】
レイナ「ストラーイックっ!」
ゼラド「うん、球筋はだいたいわかった。
 次は打つよ、ヴィレアムくん!」
ヴィレアム「ツーアウトツーストライクまで追い込んでおいて、そうそう打たせると思うか」

マキネ「へいへ~い、ピッチャーびびってるぅ~!」
ヴィレアム「いくぞゼラド!」
ゼラド「来なさい、ヴィレアムくん!」
ヴィレアム「うりゃあっ!」

 どがっ

ヴィレアム「あ」
ゼラド「あぅ」
レイナ「で、デッドボール!」
ヴィレアム「ゼラド、大丈夫かゼラド!」
ゼラド「あ」

 カッ

 ♪いやだ いやだよ ハイカラさんはいやだ
 ♪頭の真ん中にさざえの壺焼き
 ♪ナンテ間がいいんでしょう

ヴィレアム「うぅ~ん、なんだ? どうしたんだ?
 なんで俺は、こんな古くさいデザインの洋服を着てるんだ?
 それにこの、人形だらけの部屋はいったい・・・・・・?

 ♪箱根山
 ♪むかしゃ背でこす カゴでこす
 ♪今じゃ夢の間 汽車でこす
 ♪煙でトンネルは マックロケのケ マックロケのケ

ヴィレアム「なんだ、この街並みは。
 レンガ造りの建物に、ガス燈、路面電車?
 これじゃまるで、明治か大正じゃないか!
 いまは、いったいいつなんだ?」

ヴィレアム「あった、雑誌の日付。
 大正12年、8月15日!?」

 【大正12年 8月18日】
ヴィレアム「どうやらここが、大正時代らしいことはわかった。
 あと、俺がまったく現金を持ってないこともわかった。
 なにかしようにも土地勘はないし交通費もないし、第一食費がない。
 腹減ったぁ~。
 三日間、なにも食べてない。
 なんとかして、食べ物を手に入れないと。
 あ、そうだ。この部屋、なんだかたくさん雑誌があるし、当面これを売っ払うか。
 この時代にも、ブックオフってあったのかな」

ヴィレアム「これは? 『新人作家募集 賞金100円』?
 ええと、たしか米が一升1円で高い高い騒いでたくらいだから、相当な大金だよな。
 そうか、この時代って、文学ブームだったんだっけ。
 よし、この時代で普通に職探しするのも難しいだろうし、ひとつ、やってみよう。
 ハザリアのやつがひと頃江戸川乱歩に凝ってたから、
 あいつの脚本を原稿に直せば、なんとかなるかな」

 【冗談社】
セレフ「ふぅん」
ヴィレアム「あの、どうでしょうか」
セレフ「ぷっ」
ヴィレアム「あ、面白いですか?」
セレフ「ハハハハ、面白い、たしかにこりゃ傑作だよ。
 まさか、こんなに堂々と盗作を持ち込んでくるなんてね!」
ヴィレアム「盗作だって!? そりゃ、たしかにちょっと江戸川乱歩に似てるかも知れないけど」
セレフ「江戸川乱歩?
 ああ、今年の春に『二銭銅貨』とかいう短編でデビューした新人のことか」
ヴィレアム「江戸川乱歩が新人? じゃあ、いったい誰の」
セレフ「ルリルア! ルリルア! ちょっと来て見ろよ。
 あんたの作品を盗作した人間が来たよ!」

 ガラッ
ルリルア「フハハハハハ! 異な事をお言いだね。
 盗む相手が書いている雑誌に持ち込みとは、なんたる大胆不敵!
 面白い、実に面白い!」
ヴィレアム「その馬鹿笑い、お前、ハザリアか!?」
ルリルア「誰をお呼びだい、お前さんは」
ヴィレアム「女? ハザリアじゃない?」
セレフ「呆れた、あんた、相手の名前も知らずに盗作したのか?」
ヴィレアム「じゃ、あの作品はこの女が?
 よく見ればこの編集長も、なんだかレイナに似てるような気がするし、
 いったいどうなってるんだ!?」

ルリルア「知らざあいって聞かせやしょう。
 原始、女性は太陽だった!
 いま、女性は月である! 他によって生き、他の光によって輝く!
 他とはなんだ? 男性か? 否!
 男だろうが女だろうが、俗物のごときは天才の輝きを受けて輝くのが関の山!
 ハーフブーツにえび茶のはかま、ひさし髪も解きほどき、これで決まりの女流作家、
 すべての凡愚は手前の真性な輝きの下にひれ伏すがいい!」
ヴィレアム「はぁ?」
セレフ「またそんなこといって。
 いっとくけど、らいてう先生あんたのこと大嫌いだからね。
 あんたみたいのがいるから女性が解放されないって、実名あげて批判してたからね」
ルリルア「チッ、あのババア、偉そうに」
ヴィレアム「ハザリア! お前、ハザリアなんだろ!」
ルリルア「しつこい男だね、誰だ、それは」
セレフ「誰と間違えてるのか知らないけど、そいつはルリルア・カイツ。
 元は士族のお嬢さんで、17で普通に輿入れしたんだけど」
ヴィレアム「輿入れ?」
ルリルア「17ともなれば、政略結婚のひとつもするだろう」
セレフ「でも、文学にかぶれて嫁の勤めをいっさい果たさないもんだからあっという間に離縁されて、
 以来、実家にも帰らずに我が社で作品を発表してるってわけ」
ヴィレアム「なんでハザリアが女な上にバツイチになってるんだ!?
 お前も、レイナだろう!
 大正時代にあるまじきロン毛だけど!」
セレフ「レイナというのは、女の名だろ?
 おれのどこが女に見える」
ルリルア「そやつはセレフ・レシタール。
 銀行家の倅だが、異様に若く見える母親と反りが合わずに家を出て出版社をやってるへそ曲がりだ」
ヴィレアム「若く見えても、中身は数百歳だろ!」
セレフ「なにいってるんだ?」

ルリルア「妙なことをいうやつだが、手前の作品を盗むとはなかなか見所がある。
 これ編集長、ちと興味がある。見せてみろ」
セレフ「興味があるもなにも、あんたが先月号で書いた作品そのものだよ。
 ほら、源氏とランカスター家が戦うっていう」
ルリルア「フム、なるほど。たしかにそのままだ。
 しかし、盗作にしてもこいつはひどいな。
 物語の筋は素晴らしいが、文章が不味すぎる。
 助詞の使い方は所々間違っておるし、視点もコロコロ変わりすぎだ。
 せっかく素晴らしい筋書きなのに、文章がすべてを台無しにしておる」
ヴィレアム「自画自賛じゃないか!」
ルリルア「しかし、妙だな。貴様、これをどこで読んだ」
ヴィレアム「どこでって」
セレフ「先月号の『冗談倶楽部』に決まってるでしょう?」
ルリルア「いや、それにしては妙だ。
 見よ、ここの、性別イグニションが馬を背負って登場するシーンだ」
セレフ「たしかに、そのシーンだけ違うね」
ルリルア「ウム。掲載されたシーンでは、カエル男が脱糞しながら登場していた」
ヴィレアム「そんなもの出版しちゃダメだろう!」

ルリルア「当節、ああいうのが流行りだから編集に渡す直前に修正したのだ。
 修正前は、たしかに性別イグニションが馬を背負って登場していた。
 しかし、そのことを知っておるのは手前だけだ。
 貴様、まさか手前が出した紙くずを盗んだのではなかろうな」
ヴィレアム「そんなこと、するわけないだろ!」
ルリルア「では、このシーンをどこで見た」
ヴィレアム「どこって、舞台だよ」
ルリルア「また、異な事をいう。
 手前は小説家であって劇作家ではないぞ?」
ヴィレアム「だから、お前は演劇部の部長だろ!
 名前はハザリア・カイツ! 女じゃなくて男!
 結婚もしてないしバツイチでもない!」
ルリルア「わからぬ男だな」
ヴィレアム「頼むから、しっかりしてくれ、ハザリア!」

ルリルア「ム・・・・・・」
ヴィレアム「ハザリア?」
ルリルア「胸のあたりが重いな。
 これは乳か? フム、ずっしりとまあ、母上譲りの立派な乳だ」
ヴィレアム「ハザリア! 正気に戻ったのか!?」
ルリルア「なんだ、つまらんな。
 自分で揉んでみたところで、特になにも感じぬ。
 案外こんなものなのか。それとも、この身体が不感症かなにかなのだろうか」
ヴィレアム「自分の乳揉んでる場合か!」
ハザリア「おお、貴様。ちょうどいい、ちと揉んでみろ」
ヴィレアム「やめろよ! ぞっとしない!」
セレフ「おい、ルリルア、あんたまでなにを言い出してるんだ」
ルリルア「貴様も正気に戻らんか」

 びびびびびび!

セレフ「きゃあっ! なによこれ! なんであたし、男になってるの!?」
ルリルア「男の姿で女言葉は気色悪いぞ、貴様」
ヴィレアム「水木ビンタで正気になるなら、俺もさっさとぶん殴っとくんだった」
ルリルア「しかし貴様、その、帝国男児にふさわしくないロン毛はどういうことだ。
 頭にワカメを載っけたようになっておるぞ」
セレフ「うるさいわね! 気が付いたらこうなってたのよ!」
ヴィレアム「とにかく! 状況をまとめよう!」

ルリルア「なるほど。つまり、野球に興じていた貴様がバランガにデッドボールをかました瞬間、
 なんだか白い光が迸って、気が付いたら大正時代にいたということか。
 皆で野球を! 俺抜きで!
 時空が吹っ飛ぶほどに楽しかったということか! 俺抜きの野球は!」
ヴィレアム「睨むなよ、お前、なんか留守にしてたじゃないか」
セレフ「あたしたち、タイムスリップでもしちゃったの?」
ルリルア「なるほど! こうしちゃおれん!」
ヴィレアム「なにか考えついたのか!」
ルリルア「いますぐ乱歩のところへ行って、
 どうせ貴様は本格推理とか書いてもつまらんから存分に怪奇趣味に浸るがよいと助言せねば!
 どうやら俺はそこそこの人気作家らしいし、乱歩はデビューしたての新人だ!
 この時代の文壇において、先輩後輩の上下関係は絶対だからな!」
ヴィレアム「あっさりと歴史を変えようとするな!」

セレフ「この出版社にある本見る限り、あんたとんでもないキワモノ作家みたいだから、
 文壇に友達いないっぽいわよ」
ルリルア「女言葉をやめぬか、このカマ野郎!」
セレフ「あたしは元々女よ!」
ルリルア「だいたい、ルリルア・カイツだのセレフ・レシタールだのという名前がまかり通っている時点で、
 ここが大正時代のニホンであるはずがない。
 なにをしたところで歴史など変わるものか」
セレフ「あたしたちの性別が変わっちゃってるのは、どういうことなのかしら」
ルリルア「この世界の乱歩も、若ハゲではないかもしれぬ」
セレフ「ひとまず、江戸川乱歩のこと忘れなさいよ」
ルリルア「どうやら俺は離婚歴があるらしいが、いったいどこの何者と結婚したのだろう。
 初夜の記憶を思い出そうとしているのだが、どうも上手くいかぬ」
セレフ「そんな記憶を思い出してどうするのよ!」
ルリルア「滅多にできぬ経験だからな」

ヴィレアム「おい、これを見てくれ!」
ルリルア「新聞がどうした」
セレフ「『旧ロシア貴族、クォヴレー・ゴードン侯爵が婚約者を伴って亡命』?」
ヴィレアム「この婚約者の写真を見ろ!」
セレフ「ゼラドじゃない! 名前はゼオドラ・バランガとかになってるけど」
ルリルア「どうやら、性別はそのままのようだな。
 フム、ロシア革命から逃げてきたらしい」
ヴィレアム「すぐに助けにいかないと!」
ルリルア「助けに、といってもゴードンさんといるのなら問題はないのではないか?」
ヴィレアム「だって、婚約者って!」
ルリルア「収まるところに収まるということではないか?」
ヴィレアム「収まってもらっちゃ困るんだよ!」
ルリルア「まあ貴様が、日ごろなにも積み重ねて来なかった結果だと思えば」
ヴィレアム「なんで説得するふうな口調になってるんだ!」

セレフ「『ゴードン氏は革命政府の追及を逃れて日本への永住を希望。
 平和を愛する我が国は喜んでこの要望を受け入れるものである。
 当面生活の準備が整うまでは、ルナマ・ティクヴァー伯爵邸に滞在予定』ですって」
ヴィレアム「ルナマって、ルナのことか?」
セレフ「不味いわね。
 事情を聞こうにも、相手が伯爵じゃ、こんな貧乏出版社じゃ取材もできないわよ」
ヴィレアム「お前は? 士族の娘ってことになってるんだろ?」
ルリルア「この時代の出戻り女など、ほとんど前科者のような扱いだ。
 まともに取り合うとは思えんな」
ヴィレアム「だったら、もう強行突破しかない!」
ルリルア「まあ待て、このルリルア・カイツなる人物の記憶をほじくってみたところ、
 使えそうな情報を見つけたぞ」

 【日本邸宅】
 ~月も朧に白魚の篝も霞む春の空♪

ヴィレアム「あれは、マリか?」
セレフ「あの子も性別はそのままなの? むしろ、なんであたしたちだけ」
ルリルア「なにをいっておる。あれは男だ。
 これ、マイセイ、マイセイ!」

マイセイ「フン、なんだ。黙って嫁に行った士族のお嬢さんが、
 歌舞伎役者風情になんの用だ」
ルリルア「なんだか離縁されておるらしいぞ、この手前は」
マイセイ「そんなこと知ってるよ!
 でもお前、ちっとも帰ってこないじゃないか!」
ルリルア「そら、貴様も正気に戻れ」

 びびびびびび!

マイセイ「ん? ん? お前、ハザリアなのか?
 なんだこの胸は! ふざけてるのか!」
ルリルア「フハハハハ! 羨ましいか妬ましいか!
 揉め揉め揉んでおけ!」
マイセイ「バカにするのもいい加減にしろ、このっ!」

ヴィレアム「マリは歌舞伎の女形か」
マイセイ「うん、なんか、気が付いたらそうらしい。
 どうなってるんだ、いったい」
ルリルア「これ、貴様。
 こんど貴様の一座は、ティクヴァー伯爵邸で開かれるパーティーで公演することになっておるだろう」
マイセイ「うん、なんか、そんな予定だ。
 うん? ティクヴァー伯爵?」
ヴィレアム「クォヴレーさんとゼラドも来るのか?」
マイセイ「あれ、なんだこの記憶。
 ああ、外交官やらなんやらが来るパーティで、亡命貴族のゴードン氏とゼオドラも出席予定らしい。
 このゼオドラっていうのがゼラドなのか?
 名前が違うじゃないか」
ヴィレアム「そんなもの、お前たちなんか性別まで違うじゃないか!」
マイセイ「そうだ、なんでわたし、歌舞伎の女形なんかになってるんだ!?」
セレフ「とにかく、一刻も早くこんなヘンな世界から逃げ出さないと!」
ルリルア「パーティは明日だ。そう慌てても仕方がない。
 せっかく滅多に来れぬ場所にいるのだ。
 帝国劇場にも行きたいし、白樺派やアララギ派の作家どもを冷やかしに行くのもよい」
ヴィレアム「大正時代を満喫しようとするな!」
マイセイ「のんびりなんかしてられるか!」
セレフ「そうよ! あたしたちがトイレ行きたくなったらどうするのよ!」
ルリルア「よしよし、ひとつ、あんみつでも食べに行こう」
マイセイ「よせよ!」

 【ティクヴァー伯爵邸】
マイセイ「じゃ、わたしは舞台に上がってくるから、その間なんとかしてクォヴレーさんたちと話を付けてくれ」
ヴィレアム「わかった」
ルリルア「しかし、けしからんな。
 せっかくの歌舞伎だというのに、どいつもこいつも酒と談笑に夢中だ。
 帝国臣民が、外国にかぶれおって!」
セレフ「異星人がなに怒ってるんだよ」

 ~♪鐘にうらみは数々ござる
 ♪初夜の鐘をつく時は 諸行無常とひびくなり

ヴィレアム「いた! ゼラド、ゼラド!」
ルリルア「これこれ、落ち着かぬか」

ゼオドラ「・・・・・・?」
ヴィレアム「ゼラド! 俺だ、すぐに脱出しよう!」
ゼオドラ「××× ××× ×××」
ヴィレアム「え? なんて?」
ルリルア「ロシア語だな。貴様は誰だと尋ねておる」
ヴィレアム「なにいってるんだゼラド! 俺だ、ヴィレアムだ!」

クォヴレー「申し訳ないが、妻はまだ日本語がわからないのだ。
 誰だかわからないが、お引き取り願いたい」
ヴィレアム「クォヴレーさんまで! 俺のことがわからなくなってるのか!?」
クォヴレー「どこかで会ったことが?」

???「ってぇー!」

 パン! パン! パン! パン! パン!

???「腐敗華族どもに天誅を!」
ヴィレアム「なんだ!?」
クォヴレー「社会主義者たちか」
ルリルア「大正デモクラシーというやつか。ずいぶん派手なことをするものだ」
クォヴレー「ゼオドラ、こちらへ」
ゼオドラ「・・・・・・」
ヴィレアム「待ってくれ! ゼラド、ゼラド!」
ルリルア「どうも雲行きが怪しくなってきた。おい、退くぞ」
ヴィレアム「でも!」
ルリルア「このっ、たわけ! バランガより我が身を大事に出来ぬのか!」

 キキッ
???「ヘイヘイ、誰だか知らねーけど、ここにいると怪我するよ。
 イノチが惜しーってなら、乗んなよ」

 【地下】
リューキ「海の向こうじゃ同志たちが帝国打倒に成功したっていうのに、
 この国じゃあいまだ伯爵だの侯爵だのがまかり通ってる。
 こんな歪を許すのかい!
 同志諸君! いまこそ我々聖十字デモクラシストは剣を取り、貴族制の打倒を!」

ルリルア「どうやら、あれはマキネのようだな」
ヴィレアム「大人しく野球やってればいいのに、どうして民主化運動なんて」
ヒロミ「帝都がハナヤかになってくいっぽーで、
 地方じゃ貧乏人の子が紡績工場やら炭坑やらに売っ払われてんだ。
 ブチキレるレンチューがいるのはトーゼンさ」
ヴィレアム「お前はマーズか?」
ヒロミ「そんな名は知らねーな。
 カズマおじちゃんが急に嫁作って出てっちまったもんだから、
 ミヒロかーさんが芋焼酎飲みながら組み立てたのが、このあてぇさ」
ヴィレアム「なんか、親まで変わってるし」
ルリルア「資本主義の権化のような貴様が社会主義とは、性別だけではなく思想まで反転したか?」
ヒロミ「あてぇは、特権階級とゆーやつがキライなだけさ。
 経済は、ビョードーのもとにジユーにキョーソーしてこそ伸びるもんよ」

リューキ「ゴードン侯爵に詰め寄ってたっていうのは、君たちか?」
ヴィレアム「いや、俺はゼラドを」
リューキ「ゼラド? ゴードン侯爵の婚約者の名はゼオドラだったはずだが、いいまつがいか?」
ヴィレアム「そうじゃなくて、あれはゼオドラじゃなくてゼラドで」
リューキ「よくわからないけど、どうだい、貴族を倒そうっていうなら、同志になるか」
ヴィレアム「そんな運動には興味ない! 俺はゼラドを!」
???「ゼラド? ゼラド・バランガ曹長のことか?」
ヴィレアム「ゼラドを知っているのか?」

ユラキ「元帝国陸軍、第12師団カルチェラタン小隊長、ユラキ・ジェグナン。
 ゼラド・バランガ曹長は、かつて俺の部下だった」
ヴィレアム「なんだって!」
ルリルア「では、あのゼオドラはやはりバランガではないのか」
ヴィレアム「じゃあ、ゼラドはどこにいるんだ!」
ユラキ「死んだ」
ヴィレアム「そんなバカな!」
ユラキ「もとはといえば、シベリア出兵なんて介入戦争をやらかしたのがバカなことだったんだ。
 俺たちの隊は野営中にコサック兵の襲撃にあった。
 あいつは、バランガ曹長は、血路を切りひらくため一人で砲火の中に突っ込んでいって」
ヴィレアム「嘘だ!」
ユラキ「嘘だったら、どんなにいいか」
リューキ「軍隊に愛想つかして満州で馬賊やってたユラキを、俺が拾ったのさ」

ヴィレアム「いったい、どういうことなんだ。ゼラドがすでに死んでる?」
ルリルア「どうする?
 諦めて、この大正時代で暮らすことにするか?
 なんなら、俺の書生にくらいはしてやるぞ」
ヴィレアム「いや、別人にしては、あのゼオドラはゼラドに似すぎてる。
 それに、クォヴレーさんはそのものだ。
 もう一度会って、わけを聞いてみないと気が済まない!」

ルリルア「フン、貴様は、いつもバランガバランガなのだな」
ヴィレアム「お前は好きにしろよ。江戸川乱歩がいるっていうなら、会ってみたいだろうし」
ルリルア「フン、いわれずとも好きにするわ。
 乳首をこう、回転するようにいじると若干気持ちいいこともわかってきたしな」
ヴィレアム「なに開発してるんだよ!」
ルリルア「乱歩が『人間椅子』や『屋根裏の散歩者』を著すには、あと2年ほど間がある。
 それまで、退屈しのぎに付き合うのも悪くはない」
ヴィレアム「お前」
ルリルア「9月1日、ゴードン侯爵とゼオドラ・バランガが結婚式を挙げるそうだ。
 そのタイミングで、聖十字デモクラシストどもは襲撃をかける予定だ。
 乱入する機会があるとすれば、そのときだな」

 【大正12年 9月1日 午前】
リューキ「いるいる、華族や外交官どもがうじゃうじゃと」
ユラキ「ブタどもが。バランガ曹長の痛みを思い知らせてやる」
ヒロミ「同志ショクン、決行は正午ちょーど。トケーを合わせておきな」

ルリルア「ん? 正午?」
ヴィレアム「どうした」
ルリルア「おい、今日は何日だ?」
ヴィレアム「だから、9月1日だろ?」
ルリルア「小僧! いま何時だ!」
ヒロミ「小僧じゃねーよ、うるせーな。まだ11時58分だよ」
ルリルア「まずい! 全員、地面に伏せろ!」
リューキ「突然、なにいってるのさ」
ユラキ「臆病風に吹かれたってなら、引っ込んでな」
ルリルア「わからぬかたわけどもっ!
 大正12年9月1日午前11時58分32秒!
 関東大震災だ!」

 ズウ・・・・・・ゥン!

ヴィレアム「くっ、なんて衝撃だ。地面が一瞬消えたみたいだったぞ」
ルリルア「・・・・・・低気圧・・・・・・強風下での震度7.9。
 トーキョー・・・・・・カナガワ、チバ、シズオカ・・・・・・広範囲に甚大な被害をもたらした・・・・・・。
 日本災害史上最大の大地震だ・・・・・・」
ヴィレアム「ハザリア! おい、しっかりしろ!」
ルリルア「ルリルア・・・・・・だ。いまは・・・・・・な。
 フン・・・・・・、女の身体も・・・・・・悪くは・・・・・・ない。
 クッションには・・・・・・ちょうど・・・・・・よかろ・・・・・・」
ヴィレアム「俺を受け止めて? バカ! なんでこんなことを!」
ルリルア「勘違い・・・・・・するな。
 手前が倒れた上に・・・・・・貴様が降ってきたというだけの・・・・・・こと・・・・・・。
 この手前が・・・・・・貴様ごとき凡愚をかばう・・・・・・必要など・・・・・・ゴフッ」
ヴィレアム「血を吐いてるじゃないか!」
ルリルア「やかま・・・・・・し。手前はデカダンの・・・・・・女流作家だ。血ぐらい吐くわ。
 それより・・・・・・、さっさと行け」
ヴィレアム「行けって、この状況でどこへ」
ルリルア「空前絶後の大災害に・・・・・・、民衆どもは暴徒化する・・・・・・。
 特に島国根性の抜けない連中は・・・・・・、外国人を疑い徹底的に排除しようとした・・・・・・。
 旧ロシア貴族など・・・・・・格好の的だ・・・・・・」

ヴィレアム「でも、お前が!」
ルリルア「フン・・・・・・いらぬ心配だ。
 たしか・・・・・・5代目古今亭志ん生がどさくさまぎれに酒場泥棒を働いているはずだ。
 その現場を・・・・・・見物するのも・・・・・・悪くない・・・・・・」
ヴィレアム「冗談いってる場合か!」
ルリルア「グズグズとやかましい男だ!
 どうせ貴様の頭は、バランガのことを考える以上の容量などありはしないのだ!
 よそ見をするでない! バランガのことだけ見ておればよいのだ、貴様など!」
ヴィレアム「あ、ああ・・・・・・」

ルリルア「行った・・・・・・か」
ユラキ「ああ」
ルリルア「・・・・・・手間をかけさせおって、あの、たわけ・・・・・・」
ユラキ「気をしっかりもちな。すぐに手当てする。どこが痛い」
ルリルア「ああ・・・・・・、胸が痛む・・・・・・」

 ズズズズズズズズズ....

ヴィレアム「なんて地震だ。まだ揺れが止まらない。ゼラドは!」

 ゴオォォォォォォ...

ヴィレアム「教会に火が! ゼラド、ゼラド!」
クォヴレー「ヴィレアム、か」
ヴィレアム「クォヴレーさん! 俺がわかるんですか!」
クォヴレー「ああ、どうやら、地震のショックで目が覚めたらしい」
ヴィレアム「ゼラドは」
クォヴレー「ここにいる。連れて、逃げてくれ。小石川に避難所があるはずだ」
ヴィレアム「クォヴレーさんは?」
クォヴレー「ちょうど昼時で、あちこちから火の手が上がっている。
 ディストラを使って、避難民の救助に当たる」

ヴィレアム「待て」
クォヴレー「なんだ」
ヴィレアム「お前は、誰だ」
クォヴレー「なにをいっているんだ、この非常時に」
ヴィレアム「いくら非常時でも、クォヴレーさんがゼラドを他人に任せて救助活動するなんてあり得ない。
 あのひとは、自分でゼラドを守りながら救助するはずだ。
 それだけの能力があったし、現にいつもそうしてきた!」
クォヴレー「それは、お前を信頼して」
ヴィレアム「それこそあり得ないんだ!
 一度もクォヴレーさんに勝てないでいる情けない俺を、クォヴレーさんが信頼なんてするはずがない!
 お前はいったい何者なんだ!」

クォヴレー「ククッ」
ヴィレアム「なにを笑ってるんだ!」
クォヴレー「小石川は、いまごろ大火に覆われている。
 お前たちは暴徒化した民衆に襲われて、絶望し、すべてを憎むようになる。
 それこそ、恒久に続く闘争の時代の幕開けだ!」
ヴィレアム「その顔で、その声で、そんなことをいうな!
 お前はクォヴレーさんを冒涜してる!」
クォヴレー「もう、自分が本来どんな顔と声をしていたのかも覚えていない。
 俺は頭の中で響く声に従って、闘争の火種となる事象をこの世界と重ね合わせた。
 俺のメモリーに刻み込まれた、闘争とワカメの時代がやって来る!
 お前に邪魔などさせるものか!」
ヴィレアム「許さないぞ、お前は!」

ゼラド「ん、うん?」
ヴィレアム「ゼラド、目が覚めたのか」
ゼラド「あれ、ヴィレアムくん?」
ヴィレアム「目をつぶっていてくれないか」
ゼラド「えっ?」

   ,-i./.7 ,-、
   )´´`'´,U'__ _,....__      _,..----‐-c_
  /'!、' ~_6_ノ'-`ヽ`、__   /::::,イハ ̄亦`              ,-ュ
/l、`ー>、_! 、ヽ`、ヽ`}   `i、-{::/`   o`}             i'`く=ヽ
{   ̄ノ  !、; )))ハノ ノノ; /,.-``J    _>、_____,、_,.、,、,--| >`-/
\__ '´-'}'ノ`メ' '")/ // //l  _,-!、  ⊂l,,, ,,, '",,- ≡|:j lj .|} }7"|,.-‐'"
    ̄ ̄"77ー'"'" '"‐' /{{_;;;;,---‐`)ッ-'"-'"-'"´,,,-‐'"{ ' .' '/‐''"
      j / '""-"´, /,//''   /,,__,....===---==--'ゝ--',
      /,! ,..'"  ::  |,>',,,i'''"`、. /           |__,.|
      }|  、   `{{〃'    `        _,,,....__{|ハヽ,}_
      〉、_` \_`、 `{"           rッ''",、_:::::::::::::|、 ヽヽ,=、
     | 、`ー、___>ゝ㌧、,,,         i'//l´ `、::::::::::|  \ス-、
     / シ``-、`H`ー`て;;      ,.-,‐、‐O:0、_|;;;,-/、  `}.`l
    { ''" ::::::::::`ー、¬->、...___,,--'_`_ヽ`}、!'.  r,...,|'7|ヽ、`- /./
    |´       :::\_::::::::::: /  ̄  `--'->-' ,._`、ゝ、`// |
    ヽ、__ ,-' ,.  ,.  `;   {三≡==≡ {__人_ュ’≡`ーノ l}
     ヽ、`ー---/'" / /    ̄`ー――‐|'  ̄   _,..-〃ノノ
        ̄ ̄7'/ / /------------、____>、ー-、`ー '-__,.-へ--―――、
         /'" / ,...!'-―'''"""""  "``ー--一''"          \
         |  _,,.-'",,..-'"     ...::::::::::::::::::::::::....>:::'::::::::::::::::::::::::::::::::|||ヽ ::. ヽ
         j,.-'"  ,...:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::{::::::::::::::::::::::::::::::::_,..-、:|:::, ::.
        /"   ..::::::::::::::_,.-一'"" ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄"`ー、-'""",,>  >、:::.. :::
     _,...-' ヽ    ,..-一'"_                  ヽ,、"ゝ-"´ /ヽ::::::
  ,..-"::::::::::::>'<>-ュ'=-,''-"^)                  (''"  __/   l::::::
 /:::::::: :::::::/ >'"::::::::::/ヽ`/                   ヽ:::::::/     ヽ::::

???「つよ・・・・・・」
ヴィレアム「ワカメが好きだっていったか、お前」

 ガシャッ!

ヴィレアム「俺と・・・・・・おなじ・・・・・・さ」

ゼラド「ヴィレアムくん? いったい」
ヴィレアム「目をあけるなゼラド! お前が、こんな世界を見る必要はない!」

 ゴオォォォォォォ...


 【OG学園 グラウンド」
ゼラド「う、うぅ~ん」
レイナ「よかった、目が覚めたのね!」
ゼラド「あれ、わたし」
ヴィレアム「ゴメン、俺がデッドボール当てちゃって、お前は気絶してたんだ」
ゼラド「気絶? わたしが? でも」
ヴィレアム「気絶してたんだ」

ハザリア「女流作家、雑誌編集長、歌舞伎役者、運動家。
 あの世界で、我々はそれぞれの役割を演じていた。
 そして貴様の役割は、古流柔術の道場から逃げ出した貧乏探偵だったということか」
レイナ「あれ、ハザリア?」
マキネ「あんたどっから現れたの?」
ハザリア「黙れ、黙れよ! 貴様ら俺を除け者にして野球などしおって!
 バットを持て! グローブを持て!
 俺がハットトリックを決めてくれる!」
レイナ「あんた、全然野球のルールわかってないじゃない!」
ハザリア「やかましい! やるといったらやる! 男子がすなるという、アレをな!」
マキネ「すなるもなにも、あんた男子じゃん」
ヴィレアム「待てよ、お前、怪我は」
ハザリア「あんなもの、戻った瞬間に消えておったわ!」
ヴィレアム「ならいいけど」

ハザリア「少し疼くだけだ。汗をかけば忘れる」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年10月17日 12:18
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。