ハザリアのいないバレンタインデー


22代目スレ 2008/02/14(木)

 【ダテ家】
ハザリア「おう、いま帰ったぞ」
マリ「ああ」
ハザリア「あぁ、寒い寒い! 暖房が効いている部屋はどこだ」
マリ「わたしだってまだ帰ってきたばっかりなんだ。
 コタツもヒーターも暖まってないよ」
ハザリア「仕方がない。強い酒でもあおるか」
マリ「あ、勝手に飲むなよ。減ってるのがバレたら、ラト母さんに叱られるんだ」
ハザリア「ロシア系め」
マリ「ラト母さん、ロシア人なのかな」

マリ「イヤ、ちょっと待て。お前、なんで当たり前のようにうちに帰って来てるんだ!」
ハザリア「俺の湯飲み茶碗はどこに行った?」
マリ「専用の湯飲み茶碗を置くな!」
ハザリア「黙れ、黙れよ! 寮ではルルやルナがうるさくてくつろげんのだ!」
マリ「うちではもっとくつろぐなよ!」
ハザリア「なんだ、迷惑か」
マリ「いや、そんなことは・・・、イヤッ、違うよ! そうだよ!」
ハザリア「どっちだ」
マリ「迷惑だよ! 迷惑に決まってるだろ! 迷惑迷惑大迷惑! 自分ちに帰れッ!」
ハザリア「フン、では帰るとするか」
マリ「ああ、帰れ帰れ! 迷惑だから二度と来るな!」
ハザリア「あまり迷惑迷惑いっておると、邪悪獣が出るぞ」
マリ「出ないよ、邪悪獣なんて!」

 【翌日 学校】
マリ「アレ、あいつは休みか」
リトゥ「うん、なんかいないね」
マリ「フン、ちょうどいい。今日は静かに授業を受けられそうだな」

 【三日後】
マリ「まだ来ないって、いくらなんでもおかしくないか?」
リトゥ「そんな、気にすることないと思うけど」
マリ「イヤ、でも」

 【バルマー寮】
ルナ「そういえば、3日ほど見ていないな」
マリ「ここにも帰ってないのか?」
キャクトラ「また、どこかほっつき歩いているのではないでしょうか」
マリ「どこ行っちゃったんだろ。帰るって、まさか実家まで帰っちゃったのかな」
ルル「あら、それはないでしょう。兄上はあまり地元に寄りつきませんから」
ルナ「お前たち兄妹は、もう少し地元に帰れ」
ルル「だって、つまらないんですもの、地元。
 娯楽などありませんし、テレビのチャンネルも2つしかありませんし」
ルナ「ただの地方出身者のようなことをいうでない」
キャクトラ「あながたは、お正月まで地球にいたままだったではありませんか」
ルル「まあ、キャクトラだって今年の年末年始はどこかに出かけていたではありませんか」
ルナ「そういえば、どこに行っていたのだ?」
キャクトラ「いや、あれは音楽的なプライドのぶつかり合いであり」
マリ「な、それよりあいつは」
ルナ「探す必要などないだろう」
キャクトラ「はい、あの方のことで骨を折るなど、まったくムダなことです」

 【喫茶店】
ユウカ「そんなの、あたしの知ったこっちゃない」
マリ「どうしちゃったんだろ。まさか、わたしが迷惑迷惑いったから、ほんとに邪悪獣が出て」
ユウカ「邪悪獣ならこないだ1匹出てたけど、あたしがゴッドサンダークラッシュで切り払っておいた」
マリ「出てたんですか、邪悪獣が。できるんですか、ゴッドサンダークラッシュが」
ユウカ「ねえ、敬語で話すのやめてくれる? なにか想像以上に傷付くの」
マリ「やめてくださいよ、その微妙な繊細さ」

 【雑居ビル】
マーズ「えー? 見てねーよ。どーも、あーゆーメチャクチャなひとは苦手でね」

 【イスルギフード】
ミツハル「僕が知ってるはずないじゃないか」

 【ダテ家】
マリ「どこにもいない。それにしても、なんでみんなして妙に冷淡なんだ。
 あいつ、ひょっとしてけっこう嫌われてたのかな。
 そりゃ、あいつは、口は悪いし手癖悪いし性格ねじまがってるし、
 声でかいし、傍若無人だし、法律守らないし、男のくせに力仕事とか女にやらせるし、
 性格はもちろん、見た目も決してよくはないよ。
 でもさ、でもさ」

マリ「わたしが、あんなこといったからなのかな。
 あいつ、ヘンに繊細なとこあるからな。
 考えなしでものいうわりに、自分の感情はあんまり口に出さなかったりするし。
 なんで、ああいうふうにいっちゃうんだろうな、わたしは。
 もうちょっとこう、優しくいってやってもよかったんじゃないかな。
 ええと、こう」

 ガラッ
ハザリア「おぅ、いま帰ったぞ」
マリ「おかえりなさい! 寒かったでしょう」
ハザリア「なんだ、ずいぶん朗らかな出迎えだな。気色悪いぞ」
マリ「そうなんだよな。こういうふうにできたら」
ハザリア「あぁ、寒い寒い! やはりこちらは寒いな。暖房が効いてる部屋はどこだ」ドスドス
マリ「エ、あれ? 本物?」
キャリコ「ああ、いけませんよ、坊。上がる前に砂落とさないと。
 あ、どうも、すみませんね、マリ嬢」
マリ「キャリコさん?」
キャリコ「これ、お土産です。エジプト名物、微妙にぺちゃんこでパサパサなビッグマックですよ」
ハザリア「なるほど、砂だらけだ。こりゃヒドイな。
 おい、シャワーを借りるぞ」
キャリコ「ぃよぉ~し、おじさんがお背中流してあげますよ」
ハザリア「よさんか、気色悪い」
マリ「ちょっと待てよ! お前、なんでいるんだ!」
ハザリア「いちゃいかんか」
マリ「いけなくは・・・・・・、イヤ、ないけど! いけなくはないけど!
 どこ行ってたんだ、三日も!」
ハザリア「エジプトだが」
マリ「なんでエジプトなんか行ってるんだよ!」
ハザリア「ラーメン屋でテレビを見ていたところ、
 エジプトでネコのミイラがオークションにかかっているというのでな。
 これはと思い、オッサンを呼びつけて急行した次第だ」
キャリコ「困りますよ。おじさんにだってアフターファイブにはプライベートがあるのに、
 あんな気軽に呼びつけられちゃ」
ハザリア「オッサン、ひくほどのテンションで駆けつけてきたではないか」
キャリコ「だって、ネコのミイラですよ?」
マリ「お前、だって、帰るっていってたじゃないか!」
ハザリア「バカバカしい。なぜ俺が貴様の指図通りに動かにゃならんのだ」
キャリコ「あ、ひょっとしてマリ嬢も行きたかったんですか、エジプト」
ハザリア「いい加減断るだろうと思って、声をかけなかったのだが」

マリ「・・・・・・こういうやつだった!
 そうだよ、こいつ、わりとしょっちゅう学校サボってどっか行っちゃうんだよ。
 今までは、わたしも一緒だったから気が付かなかったんだ。
 みんなにとってはわりと日常的なことだったんだ。どうりで妙に落ち着いてるわけだよ!」

ハザリア「しかし、ナイルであんな事件に巻き込まれるとはな」
キャリコ「ええ、まさか氷槍メイシスさんの放った銃弾に、あんな意味があったとは」
ハザリア「しかし、フィリオ博士の異常な健康さには、正直ひいたな」
キャリコ「あそこで重震のマグナスさんが男を見せてくれていなかったら、どうなっていたことか」
ハザリア「トーマス氏も男泣きするわけだ」
キャリコ「最終的に、激震のミザル氏に全部持ってかれちゃったのは痛かったですねぇ」
ハザリア「ファーエデンさんがデュプリケートをしてくれていなければ、危なかったな」
マリ「ナイルでなにが起こってたんだよ!?」

ハザリア「で、これがようやっと手に入れたネコのミイラというわけだ」
マリ「ふざけるな! こんなもの、こんなものッ・・・・・・!
 チョコレートぶっかけて食わせてやる!」
ハザリア「あぁっ、こら、なにをするか貴様ァッ! 返せ、返さんか!」

キャリコ「あ~ぁ、日付変更線行き来したもんだから、日時の感覚がメチャクチャですよ。
 いま、なんにちですかぁ? え? 2月14日?」


 ハザリア・カイツは目を疑った。
 どうと地面を揺らし、巨体がくずれ落ちる。分厚い脂肪が黒く泡立ち、肉の焦げる悪臭
を放っていた。
「馬鹿な、なぜ、貴様が」
 重震のマグナスはハザリアを見ると、分厚い唇をわずかに歪めた。笑おうとしたのかも
知れない。
「グフフ・・・、TSUTAYAでの借りは返したぜ、小僧」
「馬鹿な、馬鹿者め! あの程度のことで、貴様は!」
 重震のマグナスは答えない。黒ずんだ顔から、見る見るうちに生気が抜け落ちていく。
「マァグナァーッスッ!」
 ハザリアは怒りをもって視線を前に放った。
「これはどういうことだ! 答えろ! フィリオ・プレスティ!」
 吹き荒れる砂嵐の中で、フィリオ・プレスティはぽつんと佇んでいた。はためく白衣に
は、一点の汚れもない。眼鏡の奥で、その目は深い憂いをたたえていた。
「悲しむべきことだ。バルマーの若子よ」
「答えろ! 貴様はなぜ生きている! なぜ死なんのだ! なぜそうも健康なのだ! 答
えろフィリオ・プレスティーっ!」
 フィリオがうっすらと唇を開く。
 重い金属の音がしたのは、そのときだった。
「重震のマグナス」
 トーマス・プラット。常に皮肉な笑みを浮かべている顔が、いまは峻厳に引き締まって
いた。拳銃を握りしめる手が、ぶるぶると震えている。砂に吹き付けられる目に、わずか
だが光るものが見えた。あれは、涙なのだろうか。
「あいつは、あいつはキンダーハイム時代からのダチだった。許せねぇ。どうあっても許せねぇ」
「君は、気付いていないのだ」
 後頭部に拳銃を突き付けられながらも、フィリオは顔色ひとつ変えない。
「君と重震のマグナスがキンダーハイムにいたことなどないと。僕が、この場で生きてい
るはずがないと」
「黙りやがれ」
 トーマスが拳銃の撃鉄を起こす。
「悲しむべきことだ。その銃口から弾丸が吐き出される様を、僕は見ることができないだろう」
 トーマスが叫んだ。
 銃声。同時に、湿り気を帯びた音。そしてうめき声。
 ぼとと、トーマスが拳銃を取り落とす。だらりと下げた手からは、血が滴り落ちていた。暴発か。
「アン、ラッキー」
 トーマスががっくりと崩れ落ちる。
「あなたは気付いていたのですね。あのとき起こった銃声はひとつではなくふたつであっ
たこと。そして、私の放ったのが氷の弾丸であったとことを」
 氷槍メイシス。怜悧な美貌の持ち主が、静かな足取りで歩く。砂漠のただ中だというの
に、その全身からは痛いほどの冷気が放たれていた。
「そこから先は、私が」
 小太りの中年男が、バイセクシャルな声を出す。
 激震のミザルは、ゆったりとした法衣の腕の中で、ぎゅんぎゅんと回転するドリルを愛
おしそうに撫でていた。
「私は、このドリルに真実を見た」
「真実なんかない! すべてはまやかしだったんだ! ナイルが見せた、蜃気楼だったんだよ!」
 ムジカ・ファーエデンが高い声を上げる。
「だからいまこそ、デュプリケート! デュプリケート! デュプリケート!」
 そして、ナイル川の中央にまばゆいばかりの光の柱が現れる。

ハザリア「と、まぁ、こういうことが起こっていたわけだ」
マリ「いいから、さっさとそのネコのミイラのチョコレートあえを食べろ!」

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最終更新:2009年10月17日 12:30
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