ラザニアとガマン大会

29代目 2009/06/18(木)

 【レシタール家】
レイナ「ねえ、いい加減コタツしまわない?」
ルアフ「え~、やだ~」
レイナ「母さんからもなんかいってやってよ!」
セレーナ「いいんじゃないの。お父さん、トシだから冷えるのよ」
レイナ「ヘンなところで理解示さないでよ!」

ルアフ「だってさぁ~、梅雨は冷えるじゃないかぁ~」
エルマ「梅雨にしては気温も低いですしね」
レイナ「だからって、いつまでもコタツ出してちゃ体裁が悪いじゃない!」
ルアフ「べつにいいじゃん。家の中のことだけだし」
レイナ「みっともないじゃない、その、人呼んだりするとき」
レイナ「誰か呼ぶ予定でもあるの?」
エルマ「バランガさんだったら、嬉々としてコタツに入るじゃないですか」
セレーナ「体裁気にするような相手でも呼びたいのぉ~?」
ルアフ「ダメダメ、コタツは絶対片付けない!」
レイナ「ああもう! そういうんじゃなくて、とにかく困るったら困るの!」

ルアフ「わかったよ、もう、片付けるよ」
レイナ「文句いわずにさっさと片付ければいいのよ」
ルアフ「でも、ただ片付けるんじゃつまんないなあ」
レイナ「いらない。ヘンな創意工夫、いらないから!」

 【翌日 学校】
ルアフ「本日! 僕んちで我慢大会を開催する!」

レイナ「これだよ」
トウキ「せんせーい、大会やるにしても、なんか賞品とかあるんですかー?」
ルアフ「う~ん、単位上げるとかはワンパターンだからやめるとして。
 そうだ! 優勝者には、僕んちでお泊まり会を開く権利を与えよう!」
ミナト「お疲れっしたー」
トウキ「せんせーさよーならー」

レイナ「興味ゼロなの!?」
トウキ「だって、ルアフ先生んちって、ようするにレイナんちだろ?」
ミナト「わざわざ我慢大会なんかしなくても、ガキのころよく行ったじゃん」
トウキ「あ~、そういや一時期、誰かの家でお泊まり会するの流行ったよなあ」
ミナト「そうそう、レイナんちじゃ、エルマさんがラザニア作ってくれて」
トウキ「おお! あれ、美味かったよな!」
レイナ「あたしの家がどうこうより、ラザニアが重要!?」
ミナト「せんせーい、ラザニア出るんなら」
ルアフ「ラザニアは出さない!」
トウキ「じゃあいいや」
ミナト「お疲れやんしたー!」

 ガサゴソ
レイナ「なんであんたまで普通に帰り支度してんのよ!」
ヴィレアム「だって、ラザニア出ないんだろ?」
レイナ「そしてあんたまでラザニアに注目!?」
ゼラド「レイナレイナ、わたしはもちろん参加するよ!」
レイナ「あんたはやる気出さなくても、フツーにうちに泊まりに来るじゃない!」
ゼラド「だって美味しかったもん、エルマさんのラザニア!」
レイナ「だから、ラザニアは出ないっていってるでしょ!」
ゼラド「あ、そうだっけ」

ハザリア「ラザニアなら、俺が作ってやらんでもない」
レイナ「なに、あんた、まさか参加するつもりなんじゃないでしょうね」
ハザリア「なに、少し、貴様の部屋に興味があってな」
レイナ「は?」
ハザリア「聞くところによると貴様、
 ルアフ教諭から贈られた希覯本のホームズ全集を、ケータイ小説の山の中に埋めてあるそうだな!」
レイナ「ああ、あれ、そういえばまだ捨ててなかったかしら」
ルアフ「ふふふ、僕の書斎への侵入を果たせば、
 ホームズ連載当時の『ストランド・マガジン』がいくつか見つかるかもね」
ハザリア「フハハハハハ! うなじ洗って待っておれ!」
レイナ「洗ってたまりますか!」

レイナ「ねえ! ちょっと、あんた、聞いた!?
 ヘタすると、ハザリアがあたしの部屋に泊まっちゃうのよ!?」
ヴィレアム「いいんじゃないのか?
 本だって、大事にしてくれるひとのものになった方が幸せだろ」
レイナ「誰がホームズ全集の心配をしてるのよ!」
ヴィレアム「お泊まり会っていったって、親御さんだっているんだろ?
 べつにヘンなことにはならないじゃないか。
 せいぜいルアフ先生の晩酌に付き合って終わりだよ」

ミズル「ねえねえ、先生。
 ルアフ先生んちってことは、ルアフ先生の書斎に入ってもいいの?」
ルアフ「うん? べつに構わないよ?」
ミズル「ねっ、ねっ! ルアフ先生の書斎ってさ!」
ルアフ「あるよぉ~、出版社からもらったアレとか、
 原作者からパチってきた生原稿とか離婚届とか」
ミズル「うわ! おれ、出る! 参加する!」

レイナ「みんなしてラザニアとかあのオッサンとかに食い付きすぎよぉ~!」
克夜「泣いてはいけないよレシタールさん。
 なにしろ、僕が参加するんだからね!」
レイナ「ますます泣けてきた」
克夜「僕が優勝した暁には、君の邪道な乳揺れが身体に与える害を懇々と説明し、
 その上で清く正しい乳揺れ法をみっちり伝授しようじゃないか!」
レイナ「お願い、月に帰れーっ!」

 【レシタール家】
レイナ「まったく、うちを会場にしちゃうなんて」
セレーナ「あたしも長年乳揺らしてきたんだけど、最近歳のせいか乳の付け根が痛んでねえ」
克夜「いいえ奥さん、乳揺れに年齢など関係ありません。
 重要なのは姿勢! 姿勢なんです!
 このハンドブックに載っている紫雲家式呼吸法を1日10分、1日10続けるだけで!
 血行促進、新陳代謝増進、お肌はスベスベ、末永く健やかな乳揺れを維持することができるんです!
 いまでしたらこのハンドブックを、なんと特別価格で!」
レイナ「もはやうさんくさい通販番組みたいになってるから!」

 【司会席】
トウキ『さあ、始まりました!
 もう梅雨もあけるんじゃないというこの季節に入って、
 なおもコタツを出し続けるレシタール家を会場にした大我慢大会!
 司会はおなじみ! マイクがないと手が震えます!
 俺は病気だ! 俺の病名は司会者だ! 司会のトウキがお送りいたします!
 それでは、全選手入場!』

トウキ『地球の考古学的遺産はすべてハザリア卿のコレクションに!
 古い上に若干わかりにくいコスプレをして登場だ、ハザリア・カイツーっ!』

トウキ『特に理由はない! 子供がルアフ先生好きなのは当たり前!
 デスピニスさんにはナイショだ、ミズル・グレーデン!』

トウキ『ハーレム建設はどーしたッ! 乳揺れへの情熱、消える気配なし!
 揺らしはするが揉めそうはない! 紫雲克夜だ!!』

トウキ『メニューがなんであっても構わない!
 思い切り噛んで思い切り飲み込むだけ!
 我慢大会と大食い大会を若干勘違いしているぞゼラド・バランガー!』

トウキ『ここは自分ちだからここにいる! レシタール家長女!
 茶の間を守るため、レイナ・レシタール自ら出場だーッ!』

トウキ『どうして自分はここにいるんだろうと釈然としない顔をしているッ!
 その長ったらしい前髪を、どこかで誰かが待っている!
 ヴィレアム・イェーガーの登場だーッ!』

トウキ『なお、オブザーバー選手として、
 『ラザニアが出てきたら適当に食って適当にリタイアするわ』
 というテンションのミナト・カノウがあっちでDSやってます!』

トウキ『さあ、それでは開始です。
 会場はレシタール家の茶の間。
 畳敷きで8畳、南向き。上座には観音開きの家具調テレビが鎮座ましまし、
 白木造りのタンスの上には、なんかシャケ咥えてる木彫りの熊さんが置かれ、
 長女の成長を記録したのでしょう、柱には何本かの傷が刻まれています。
 この家の国籍はどうなっているんだろうと思うような、ニホンの原風景的な茶の間です。
 当然! 中央ではコタツがさすがの存在感を放ち!
 すべての扉は閉め切られ、4隅ではナショナルがしつっこく回収CM打ってるような、
 古いタイプのストーブがガンガン焚かれています!
 もはや熱さがどうこうより、一酸化炭素が心配です!
 畳の上に無造作に転がっている加湿器からはガンガン湯気が上がっています!
 さあ、各選手に毛糸のマフラー、腹巻き、靴下、ドテラなどが支給されます!
 現在、あの茶の間の不快度指数はどんなことになっているのかーっ!?』

 【茶の間】
 ガラッ
セレーナ「はーい、みなさん、鍋焼きうどんができたわよー」
ゼラド「わぁーい!」
レイナ「なんで若干協力的なのよ!」
ヴィレアム「食べるのか? それを」

 【司会席】
トウキ『さあ、第1関門、鍋焼きうどん対決の火ぶたが切って落とされました!
 各自、はふはふ息をしながらウドンをすすっていきます!
 おぉっと! バランガ選手、早い! 早い!
 おかわり! またもおかわり! 明らかに規定量を超えた量のウドンを平らげております!』
ハザリア「どうもあやつは、我慢大会と大食い大会を間違えておるきらいがある」
トウキ「ちょっと待て。ついさっきまで出場選手の中にいたお前が、
 なんで突然解説席にいるんだよ」
ハザリア「俺はなあ、今度のことで、つくづく理解した」
トウキ「なんだ?」
ハザリア「俺になあ! 忍耐力などあるはずないだろう!」
トウキ『リタイアです!
 忍耐力のカケラもないハザリア選手!
 目にも止まらぬスピードでリタイアーッ!』
ハザリア「ホームズ全集とか、創元推理文庫でよいわ」
トウキ『もはや清々しさすら感じられる根性のなさです!』
ハザリア「しかし、この司会席は、いったいどこから茶の間を中継しておるのだろうな」
トウキ『そこはまあ、スパイさんの家ですから!』

 【茶の間】
ミズル「うん、フツーに美味しいよ」つるつる
克夜「月では冷えた食べ物ばかりだったから、こういう温かいのは新鮮だよ」つるつる
レイナ「ほら、さっさと食べなさいよ」
ヴィレアム「・・・・・・なんだろう、このやらされてる感」ずるずる
ゼラド「ヴィレアムくん、絶対負けないんだから!」
ヴィレアム「・・・・・・俺、なんでゼラドに対抗意識燃やされてるんだろう」

 【司会席】
トウキ『さすが、このレベルでは各自難なくこなしていきます』
ハザリア「この程度で音を上げているようではお話にならぬわ」
トウキ『お話にならないひとは黙っててください』
ハザリア「フム、紫雲めは単純に地球の食べ物を楽しんでいるようだ」
トウキ『意外にもグレーデン選手はケロリとしていますね』
ハザリア「あやつはランディ1/2にくっついて、
 鳥取砂丘や、山陰海岸国立公園や、浜坂砂丘などに行っておるからな」
トウキ『全部鳥取砂丘じゃないですか』
ハザリア「ああ見えて、気温の変動には強いのだろう」
トウキ『その理論で行くと、世界各地をフラフラしてるあなたも相当環境の変化に強いはずなんですが?』
ハザリア「あやつの場合、単にニブいだけなのかもしれん」
トウキ『おそらく単にニブいだけなのでしょう、ミズル・グレーデン!』

 【茶の間】
セレーナ「さぁー、次は鉄板焼きよー」
ミズル「あ、パス」
ゼラド「それって、リタイアってこと?」
ミズル「う~ん、それでいいや」
克夜「なんだ、もう音を上げるのかい?」
ミズル「ピーマン、きらい!」

 【司会席】
トウキ『好き嫌いだぁーっ!
 中学2年生、ミズル・グレーデン、まさかの好き嫌いでリタイアー!』

ミズル「だって、ピーマンて噛むと苦い汁出るじゃん」
マーズ「ムリしてキライなモン食うこたーねーよ。
 ニンゲンなんざー脳細胞が欲するモンだけ食ってりゃーいーんだよ」
デスピニス「いけませんよ、ミズルさん。
 この間はピーマン食べられたじゃないですか」
ミズル「デスピニスさんが作ってくれた肉詰めピーマンじゃないと食べらんなーい!」
デスピニス「まったくもう、この子ったら」

トウキ『甘やかされています! グッズグズに甘やかされています!』
ハザリア「将来、ロクなもんにならんな」

 【茶の間】
レイナ「人数が絞れて来たわね」
克夜「そろそろリタイアしたい頃なんじゃないかな?」
ヴィレアム「うん、それじゃあ」

 むぎゅっ
ヴィレアム(ドテラから手を離せよ)
レイナ(だって、手ぇ離すとあんた、リタイアするじゃない)
ヴィレアム(だって俺、なんで自分が参加してるのかイマイチよくわかってないし、
 だいたい熱いのも蒸すのも苦手なんだよ)
レイナ(あんたは! あたしの家がお泊まり会の会場になったって構わないの?)
ヴィレアム(べつに、お泊まり会なんて小さいころよくやってたじゃないか。
 あ、そうだ、あのときのエルマさんのラザニア、美味しかったよなあ)
レイナ(ラザニアの話をするな!)

セレーナ「情けないわねえ、ひょっとしてウチの娘はモテないのかしら」
レイナ「会話に入ってこないでよ母さん!」
克夜「まあ、浮いた話はあまり聞きません」
ゼラド「レイナはちゃんとしてるから!」
セレーナ「じゃあモテないわね」
レイナ「やめてぇ~、同級生と母親が会話してるのって、妙な緊張感がある~!」
セレーナ「レイナ? 女はね、ちょっとヌケてるくらいに見せたほうがモテるのよ?」
レイナ「聞きたくないわよそんなアドヴァイス!」
セレーナ「まったくもう、母さんがあんたくらいの歳のころはね、
 5股6股当たり前で、靴箱にラヴレター入れまくったわよ!」
ゼラド「恋多き女なのか奥手なのかわかんない!」
克夜「やっぱり、母娘だね」
セレーナ「さ、次のメニューよ」

 じゅう~ じゅう~ じゅう~

克夜「うへっ! 焼き肉とは恐れ入った!」
ゼラド「うん、これはなかなかいい肉だね」
ヴィレアム「うん、肉だな。いかにも肉って肉だ」
レイナ「これは、カルビね。うん、美味い」
ヴィレアム「そういえば、克夜ってカルヴィナさんとこの子とは付き合いないのか?」
克夜「う~ん、小さいころ何度か会ったような気がするけど、
 あんまり覚えがないなあ」

 【司会席】
トウキ『焼き肉だぁ~! 全員、なんだか黙々と肉をつつき始めたぁ~!』
ハザリア「ごくっ! このワザとらしいメロン味!」
トウキ『やめてください! 集団での『孤独のグルメ』ごっこは、
 単なるウザい客の集まりです!』

 【茶の間】
ゼラド「真っ昼間から友達んちで焼き肉なんて食べるの、初めて!」
レイナ「そうね。あたしは自分ちで我慢大会開催されるのが初めてよ」
ヴィレアム「畳とかに、匂い付いちゃわないか?」
克夜「焼き肉とお泊まり会って、考えてみればものすごいダイレクトだよね」
レイナ「黙んなさい」
ゼラド「あっ、またネギ焦がしちゃった」
レイナ「もう、野菜焼くの苦手なんだから。貸しなさい」
ゼラド「でもこうなると、白いご飯が恋しいなあ」
ヴィレアム「白いご飯はないんですか?」
セレーナ「白いご飯はないのよ」
ゼラド「うぅ~ん、そうなると、ますます白いご飯が恋しいなあ」
克夜「ソースって、ザブングルの味だよね」
レイナ「あんたさっきからなにいってんの」
ゼラド「ああ、白いご飯・・・・・・。
 ここに白いご飯と、お新香のひとつもあれば・・・・・・!」

 がたっ!

レイナ「ゼラド?」
ゼラド「ゴメンレイナ! わたし、やっぱり白いご飯がガマンできないのー!」
レイナ「待ちなさいよ狩猟民族の子ーっ!」

 【司会席】
トウキ『おっと、ここでバランガ選手、
 白いご飯白いご飯と叫びながら自宅に戻って行ってしまいました』
ハザリア「やはり、白いご飯に勝る食材などないからな」
トウキ『さあこれで、残るはレシタール選手、イェーガー選手、紫雲選手の3名!』
ハザリア「しかし、ヴィレアムめは意外ともっておるようだな」
トウキ『ええ、ドテラの端を、何者かにガッシリとつかまれているかのように動きません!』

 【お茶の間】
ヴィレアム(なあ、いい加減ドテラ離してくれないか?)
レイナ(イヤよ)
ヴィレアム(熱いし腹いっぱいだし、俺もう限界だよ)
レイナ(あのねえ!)

克夜「ふふふ、イェーガーくん、これで事実上の一騎打ちになったね」
レイナ「なんかこいつはやる気になっちゃってるし」
克夜「イェーガーくん、君はそろそろ視点を切り替えるべきじゃないかな」
ヴィレアム「なにいってるんだ?」
克夜「幼馴染み同士の恋なんてねえ、成立するわけないじゃないか!」
レイナ「あんたの家の常識を世間に当てはめようとすんのやめなさい!」
克夜「よしんば幼馴染みでなくても、御婦人に悲しい恋をさせるなんて言語道断。
 僕は騎士として、君を屈服させなければならない!」
ヴィレアム「お前のいう騎士道っていうのは、イマイチわからないなあ」
セレーナ「さあさ、みんな、次のメニューよ」

 【司会席】
トウキ『厚揚げ豆腐だぁーっ!
 噛むと同時に、煮えたぎる熱湯が口に中に襲いかかる、ガマン大会の最終兵器ーっ!
 果たして、この難関を突破できる勇者はいるのかーっ!?』
ハザリア「というか、日本料理のレパートリーハンパないな、レシタール母」
トウキ『意外な夫婦関係がうかがえます!』

 【茶の間】
レイナ「アチッ! アチッ!」
克夜「そろそろ限界なんじゃないかい?」
ヴィレアム「うん、まあ、とっくに限界なんだけどさあ」

克夜(フフフ、不思議だね。
 目の前に座っているのは憎い仇のはずなのに、不思議と胸が躍っている。
 こんな気分になるのは、生まれて初めてかもしれないよ。
 やっぱり、地球に来てよかった。
 でもねイェーガーくん、僕は君を認めないよ。
 僕は、月で様々な男たちを見てきた。
 元総代騎士グ=ランドン、我が師アル=ヴァン、
 あと、よくうちの前の道を奇声上げながら歩いてたジュア=ム。
 考えてみると、ほんと月にはロクな男性がいなかったよ。
 そりゃ、うちのお父さんがモテるはずだ。
 でも、それだけじゃない。
 僕のお父さんは、紫雲統夜は、強かった、正しかった、優しかった。
 ゆえに、3人もの花嫁を迎えて幸せな家庭を築くことができたんだ。
 優秀な男性は、より多くの愛を獲得してしかるべきだ!
 イェーガーくん、その点で、僕は君を認めない。
 単純な能力だけでいえば、そこそこかもしれない。
 しかし、気概が足りない! 姿勢が足りない!
 御婦人は言葉を求めている! 御婦人は態度を求めている!
 御婦人を省みずよそ見をしている君は、騎士失格だ!)

ヴィレアム「・・・・・・熱っ」
克夜「・・・・・・!」

克夜(なんだ・・・・・・? イェーガーくんの、あの表情、あの手つき、あの姿勢!
 いかにもイヤイヤ、仕方なしに厚揚げ豆腐を口に運んでいる!
 わかる。伝わってくるぞ。
 本当なら、いますぐにこのサウナじみた茶の間から飛び出していきたい!
 ドテラなんか脱ぎ捨てて、冷えたコーラをがぶ飲みしたい!
 でも、しない!
 座して、厚揚げ豆腐を咀嚼し続けている!
 なんなんだ、あれは。
 まるで、ドテラの端をガッチリつかまれて立てずにいるような・・・・・・!
 イェーガーくん、まさか、そうか? そうなのか?
 その姿こそが、君のレシタールさんへの気持ちだということなのか!?
 口に出さず、態度にすら出さず! ただひたすらに厚揚げ豆腐を食べ続ける!
 これは、諦観? 忍耐? 虚勢という名の擬態?
 意志からも理性からも離れた場所に、
 レシタールさんへの気持ちがあるというのか、イェーガーくん!)

克夜「降参だ」ガクッ
ヴィレアム「え?」

 【司会席】
トウキ『降参だぁーっ!
 明らかにお前考えすぎなんじゃねえかという顔を数秒間続けたあと、
 紫雲克夜、突然の降参宣言ーっ!』
ハザリア「ヴィレアムめはもう意識朦朧、ほとんど機械的に厚揚げ豆腐を食っていただけなのだから、
 あと数秒粘れば勝てたというものを、解せない男だ」

 【茶の間】
レイナ「ふぅ~、ようやく凌いだ」
ヴィレアム「あ~・・・・・・、う~・・・・・・」
レイナ「ヴィレアムももう限界みたいだし、あとはあたしがさっさとリタイアすれば」

 ガラッ
エルマ「皆さーん、ラザニアをお持ちしましたよぉ~」
ヴィレアム「えっ、ラザニア!?」ガバッ
レイナ「復活した!」

ゼラド「えぇっ、エルマさんのラザニア!」ガラッ
レイナ「戻って来ちゃった!」
ミナト「そういうことなら話は別だぜ!」ガラッ
レイナ「入って来ちゃった!」
ハザリア「う~む、この香ばしいチーズ、
 ホウレン草のくきくきした歯ごたえ、固くて臭くて、まるで道ばたの草を食っているようだが、
 マズくない! けっしてマズくないぞ!
 ああ、美味い! なんとなつかしい味だ!」
レイナ「食べてるし!」
ミズル「そっかぁ。これ、子供のころキライだった味だ」
レイナ「いま現在でも好き嫌いいってる子供がなにいってんの!」
克夜「そうか、このラザニアが、このラザニアが2人の・・・・・・!」
レイナ「あんたはなんで泣いてるの!?」

 【司会席】
トウキ『あ~っと! ここでラザニアが! ラザニアが投入されたぁ~!
 しかも、エルマさん特性のラザニア!
 仲間内では、小さいころ何度も味わったことがある思い出の味!
 ほんのりと焦げ目のついたホワイトソース!
 リコッタチーズ! モッツァレラチーズ! パルメザンチーズ!
 3種類のチーズが奏でる魅惑的なワルツ!
 しかもホウレン草と卵をふんだんに使った!
 野菜嫌いなお子様でも美味しくお召し上がりいただける気配り仕様ーっ!
 その味を知っている幼馴染み連中以外も、次々と食い付いていくーっ!
 あぁっ! 申し訳ありませんみなさん!
 私も! この司会のトウキすらも! あのラザニアからの誘惑には耐えきれません!
 ラザニアウッヒョー!』

エルマ「皆さんがあんまりラザニアラザニアいうから、久しぶりに腕を振るっちゃいましたよ」
ミナト「うおっ! そうそう、この味だよ!」
トウキ「くわーっ! なんかもう、涙出てきた!」
デスピニス「あの、レシピを教えていただけませんか?」
ハザリア「このラザニアのためなら、何億光年の彼方からでも宇宙船サジタリウスに乗って戻って来ようというもの」

レイナ「なにこれ」
ゼラド「やっぱり、エルマさんのラザニアが一等賞だね!」
レイナ「なんの話よ!」

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最終更新:2009年10月17日 12:36
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