刑事バランガ

26代目スレ 2008/11/18(火)

 はるか下からはパトカーのサイレンが鳴り響いている。
 わたしはパンプスを蹴り鳴らしながら階段を駆け上がっていた。
「ゼラド刑事、こちらです!」
 制服組のトウキくんが誘導してくれる。
「みんな下がって、防護盾を用意!」
 指示を飛ばしながら、わたしはデパートの屋上に飛び出した。
 ポリカーボネート製の盾に囲まれて、細いシルエットがライトに照らし出されている。
 わたしを見ると、銀色の髪を少し揺らした。
「手を挙げて、お兄ちゃん!」
 わたしは新式のニューナンブを構えた。

 クォヴレー・ゴードンは、少女時代のわたしが見上げ続けてきた姿と寸分も変わって
いなかった。
 その足元には、ロープで縛り上げられた男たちが3人、転がっていた。
 通報があった銀行強盗犯だろう。
「ゼラド、なのか」
「OG警察署生活安全課、ゼラド・バランガです」
 交通課勤務を希望していたはずなのに、どういうわけか生活安全課に配属されてしま
った。いまはこの人事に感謝している。こうやって、町を直に守ることができるから。
「クォヴレー・ゴードン、
 あなたの自警行為は航空法違反、器物破損、建造物不法侵入、
 消防法違反、猥褻メイド陳列罪に当たります!
 速やかに出頭してください!」
「俺は」
 お兄ちゃんは強盗犯たちに目線を落とした。
「犯罪者の取り締まりは警察の仕事です」
「しかし、警察は犯行現場に間に合わなかった」
「わたしは秩序の話をしてるんだよ、お兄ちゃん!」
 耳に痛いほどの沈黙が訪れた。
 お兄ちゃんは、銀髪の向こうからじっとわたしの顔を見つめている。
「もう、この町にはスーパーヒーローなんていらないんだよ。
 だから」
 帰ってきて。
 ずっと言いたかったはずの言葉は、なぜか喉の奥でつかえたまま出てきてくれなかった。
「俺は、俺の生き方を変えることはできない」
 お兄ちゃんがわずかに後じさる。
「動かないで!」
「その姿を見られてよかった、ゼラド」
 お兄ちゃんは一足でフェンスを乗り越え、屋上から身を躍らせた。
 わたしは声もなくフェンスに駆け寄った。
 真っ黒な霧が空中に現れてお兄ちゃんの姿を包んでいた。
 そして、消える。
「ゼラド刑事!」
「署に連絡! 検問を緊急配備して!」
 わたしはニューナンブをショルダーホルスターに納めて、足早に屋上を後にした。

 お兄ちゃん。
 クォヴレー・ゴードン。
 きっとあなたを捕まえてみせる。
 それが、あなたへの恩返しだって信じてるから。
 OG町の摩天楼を前に、わたしは何度目かの決意を新たにした。

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最終更新:2009年10月17日 13:02
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