クォヴレーバッドエンド


28代目スレ 2009/04/16(木)

 今回の勤めは、若干長くかかった。
 超次元怪獣δБЖЙФを倒すとき、こじれた次元の中に誘い込まれてしまっ
たことが悔やまれる。
 背中が痛い。目がくらくらする。
 今日は何曜日だっただろうかと考える。水曜なら二丁目のスーパーでフルー
ツの特売をやっているはずだ。小麦粉と砂糖はまだあっただろうか。
 買って帰って、あの姉弟に甘いお菓子でも作ってあげよう。
 まだ試していないレシピが2つほどある。喜んでもらえるだろうか。

 文化住宅の並ぶ街並みを歩き、曲がり角を曲がる。
 なにか妙だ。あの突き当たりには空き地があったはずだ。あの姉弟がまだ幼
かったころ、よくあそこで遊んでいたものだ。
 いまは、大きなマンションが建っている。新築には見えない。外壁はベージュ
色をしていた。
 道を間違えたのだろうか、とあたりを見まわす。
 家を一軒はさんだ曲がり角の奥から、小さな子供が笑う声が聞こえる。やは
り道を間違えたらしい。
「すまないが」
「え、なぁに?」
 道を訊こうと声をかけた姿勢のまま、凍り付く。
 女の子だった。6、7歳くらいだろうか。光沢のある銀髪に、ぷくぷくと柔ら
かそうな頬の持ち主だった。姉妹か誰かからのお下がりなのだろうか、年齢に
しては古めのブラウスを着ている。袖口のあたりが繕われている。5ミリほど
飛び出した糸を見て、愕然とする。自分とおなじ繕い方だった。しかし、こ
んなブラウスを繕った覚えはない。
「どうしたの?」
 女の子はきょとんとした顔で首を傾げている。
「このあたりで、ゼラドという」
「お兄ちゃん、ゼラドおばあちゃんのお知り合い?」
 背中に冷水を浴びせかけられた心地がした。
「ゼラドは、どこに」
「え、あっち」
 ぽちゃぽちゃした指が示す方向には、白い石碑がいくつも並んでいた。

 こういうとき、仕事があるとはありがたいものだ。
 Z・Oサイズを振るい、何体目かの超越時空体Ёчμδζの腹を切り刻む。
 大量に噴き出す体液を浴びながら、心が一瞬戦いを忘れる。
 胸の奥がさわさわとする。耳元でなにか囁かれているような気がする。そう
いえば、以前は耳元で絶えず囁いている存在が側にいたような気がする。あれ
は、誰だったのだろうか。顔も名前も思い出すことができない。
 そういえば、この機体を、操縦桿も握らずに動かせるようになったのはいつ
からだっただろう。この機体は、なんという名前だっただろう。
 極事象連続体Ωαюとの戦いはいつまでも続く。
 戦えば戦うほどに、なにかを失っていく。なにを失ったのかも覚えていない。
 自分の名前、自分の出自、もう興味すら湧かない。
 自分はどうして戦っているのだろうか。それだけは考えないことにしている。
戦いを失った自分になにが残るのか、想像するだに恐ろしい。
 時空が揺れる。
 また、次の戦いが始まる。
 次は何者と戦うのだろう。そういう興味すら湧かなくなっていた。
 とにかく、戦う相手はいる。それは幸せなことなのかもしれない。
「因子が足りない、因子が足りない、因子が足りない」
 ブツブツと呟きながらZ・Oサイズを握りしめる。

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最終更新:2009年10月17日 13:03
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