26代目スレ 投稿日:2008/10/05(日)
【浜辺】
ザザーン ザザーン
ユウカ「ン・・・・・・?」
フィオル『ユウカ、ユウカ』
ユウカ「あんたなの?」
フィオル『助けて欲しい』
ユウカ「誰かが、あんたに悪さしてんの?」
フィオル『違う。このままでは、俺が彼を殺してしまう』
ザザーン
ユウカ「どこまでも続く白い砂浜、右手には青い海、
左手にはうっそうと茂るジャングル。ガジュマルに似てるけど、よく見るとなんか違う。
おまけに、ブルースカイには太陽を追っかけてミニサイズの月がふたつも三つも。
なかなかナイスなロケーションね」
フィオル『ここは次元座標&924%$|~*=、~ΩHδ#銀河、@〆♂♀◎星系第5惑星だ』
ユウカ「ンー、オーサカのオバチャンでもわかるようにいってくれる?」
フィオル『ウメダ駅からブワーッ行って、グワー時空曲がって、
でっかい次元断層ボワーン立ってるからその角シュッ曲がったところにある星だ』
ユウカ「サンクス。どっかのアナザーワールドのミステリアスプラネットってことね」
フィオル『理解が早くて助かる』
ユウカ「あんたは? どこにいるの。カオ見せてよ」
フィオル『君のお腹の中にいる』
ユウカ「アイ・シー。心配しないで。
生まれてくるベイビィは、あたしひとりで立派に育てる」
フィオル『そんな決意は固めてくれなくていい。
いまの俺は体長約300ナノメートル、直径約18ナノメートル、
158アミノ酸に似たタンパク質が結合して棒状構造を結合している』
ユウカ「イジワルしないで」
フィオル『簡単にいえば、いまの俺はウィルスだ。
特性としては、君がいた地球にも存在する、植物がひく風邪に似ている』
ユウカ「マッドゴーレムになったりウィルスになったり、
あんたもなかなかバラエティ豊かな人生歩んでるのね」
フィオル『俺が感知している限り、この惑星には植物と原始的なバクテリアしか存在していない。
媒介となる昆虫や動物がいないから、免疫力が極めて弱いんだ。
俺から派生したウィルスが蔓延すれば、この惑星は死に絶えてしまうだろう』
ユウカ「アー、そういえばダイナソーが滅んだのは、
隕石かなんかに乗ってきたウィルスのせいだって説があったっけ。
あんた、いまそういう状態?』
フィオル『この星が死ねば、"彼"も死んでしまう』
ユウカ「誰よ、"彼"って」
フィオル『変異エクサランスの一種だ。
何億年も前からこの星に住み着いていて、植物たちの時間を食べて生きていたらしい』
ユウカ「だったら、あんたもそいつもさっさとスペースランナウェイすればいいじゃない」
フィオル『ダメなんだ。
向こうにとって俺は、数億年で初めて会う兄弟のようなものらしい。
寂しがって、俺をフィールドで包んで離してくれない』
ユウカ「どこにいるの、そいつ」
フィオル『わからないんだ。
いまの俺には、"彼"の存在をなんとなく感じることしかできない』
ユウカ「そいつだって、自分がヤバいことはわかってるんでしょ?」
フィオル『どうだろう。
彼の意識はひどく希薄で、判断力が残っているのかどうか怪しい。
こちらから何度も呼びかけているけれど、返事はなかった。
ただ、『寂しい』と泣く声が聞こえてくるだけなんだ』
ユウカ「フーン、"彼"っていってるけど、そいつ、男なの?」
フィオル『そういえば、どうなんだろう。
なんとなく男だと思っていたけれど、元の材料を考えると何割かは女性かもしれない』
ユウカ「オーライ、草の根分けてでも探し出して、抉り取ってやる」
フィオル『抉る!? なにを』
ユウカ「なかに誰もいないよね」
フィオル『男! 男だ! 男性に違いない!
だからそんな物騒なことを言わないでくれ!』
フィオル『俺にとっても、"彼"は肉親のようなものなんだ。
みすみす殺したくはない。でも、この身体では上手く活動できないから』
ユウカ「あたしをコールしたってことね」
フィオル『済まない』
ユウカ「ンフ、あたしを頼ってくれて、嬉し」
フィオル『とにかく、これ以上被害が広がるのを防ぎたい』
ユウカ「ツリードクターみたいなことはできないよ」
フィオル『難しいことはない。
感染した樹は葉にモザイク状の白い斑点が浮いているだろうから、
枝ごとへし折って海にでも流してくれればいい』
ユウカ「オーライ。それで"彼"なり"彼女"なりに会えたら、
あんたを解放してってプリーズすればいいのね」
フィオル『ウィルスの増殖を防ぐため、取りあえず君の中に入らせてもらったけれど、
体調に問題はないかい?』
ユウカ「そうね。おヘソの下がキュンキュンする」
フィオル『おかしいな。人体には影響が出ないはずなんだけれど』
ユウカ「バーカ、ときめいてるだけよ」
【ジャングルの入り口】
ゴソゴソ
ユウカ「斑点がないってことは、この葉っぱは安全なのね」
フィオル『なにをしているんだい?』
ユウカ「ひどいじゃない。あたし寝てたから、ティーシャツとパンツしか着けてない」
フィオル『済まない。"彼"のフィールドをかいくぐるのに精一杯で』
ユウカ「だからね、大きい葉っぱを巻き付けてサバイバルスタイル決め込もうと思って。
やってみたかったのよね、こういうの」
フィオル『気にすることはないのに。
いまの俺には視覚がほとんどないんだよ?』
ユウカ「わかってよ。
あんたのそばでダサいカッコしてたら、あたし死んじゃう」
ユウカ「ね、おヘソは出てた方がいい?」
フィオル『なあ、あまりそういう格好をしないでくれないか』
ユウカ「視覚がなくてもイメージはできるのね」
フィオル『ングッ』
ユウカ「ムッツリスケベ」
フィオル『そうじゃなくて』
ユウカ「なに、あたしがキレイにしてるのは嫌い?」
フィオル『その、見たりするじゃないか、ほかのひとが』
ユウカ「あたしがほかの男に見られたら、あんた、どんな感じ?」
フィオル『自分でなにをするかわからない』
ユウカ「オーライ、明日からもっと露出上げてく」
フィオル『いけない子だ』
ユウカ「ン、知らなかったの?」
【ジャングルの中】
ユウカ「"彼"っていうのは、どういうルックスなの」
フィオル『わからない。なにしろ、聞こえてくる声が小さすぎるんだ。
植物や岩かもしれないし、山や島なんかもしれない』
ユウカ「あんたみたいなウィルスだとか、一粒の砂だとかいわれたら、
あたしもうお手上げよ」
フィオル『何億年も生きているらしいから、相当大きな個体だと思う』
ユウカ「オーライ。樹齢何百年みたいな大木だとか、
いかにもなんかありそうな大岩だっていう可能性が高いのね」
【ジャングルの奥】
ユウカ「ね、聞かせてよ。
あんた、いままでどうしてたの」
フィオル『様々な世界に存在していた。
恐竜の世界、抽象数理数列のただ中、16次元の直線と曲線が入り混じった世界』
ユウカ「どうせだったら、
前いってたT-レックス倒す原人がいる世界に連れてってくれたらよかったのに」
フィオル『それはダメだ。彼はセクシーだから』
ユウカ「そう、あんたはキュートよ」
【川沿い】
ユウカ「いい風が吹くのね。
髪の毛を指で絡め取られてるみたい。あんたはしてくれないけど」
フィオル『無い物ねだりをしないでくれ』
ユウカ「ね、あたしはそれほど身持ちの堅い女じゃないから、
さっさと帰ってこないなら浮気するからね」
フィオル『できもしないことをいうべきじゃない』
ユウカ「イジワル」
【小道】
フィオル『どうしたんだい』
ユウカ「道がある」
フィオル『そんなバカな。知的生命体がいたら、いくらなんでも感知できたはずだ』
ユウカ「でも、ここだけ草も木もないし。
地面もなんか違う。砂がなんだかサラサラしてる」
フィオル『火星の運河のように、昔、川が通っていた跡じゃないだろうか』
ユウカ「そうかもね。やけに曲がりくねってるけど、どこに繋がってるのかしら」
【丘の上】
ユウカ「おべんと食べたい」
フィオル『そのあたりにある木の実が食べられると思うよ』
ユウカ「ノンノン、そうじゃなくて。
あたしだってリンゴをラビットに切るくらいのマネはできるわけよ。
してあげたいじゃない、ほら、アーンて」
フィオル『申し訳ない』
ユウカ「いちゃいちゃしたいのよ」
フィオル『あまりいじめないでくれ』
ユウカ「あんたがイジワルするからよ」
【大木の下】
ゲシゲシッ
ユウカ「ハイ、ハイ、レディーもしくはジェントルマン。
聞こえてる? 返事して」
フィオル『ダメだユウカ。この樹は違う。
あと樹を蹴ったらダメだ』
ユウカ「なかなか見つからないのね」
フィオル『困ったな。あまり長い時間をかけるわけにはいかないんだけれど』
ユウカ「そうなの?」
フィオル『あ、うん』
【砂浜】
ユウカ「ンー」ガリガリ
フィオル『なにをやっているんだい?』
ユウカ「このままフラフラしてたってラチがあかないじゃない。
ちょっと砂にマップ引いてんの」
フィオル『そうか。おなじところを探索してしまうリスクは回避できるね』
ユウカ「フフフッ」
フィオル『どうしたんだい?』
ユウカ「ね、ジャングルの中に道があったじゃない」
フィオル『ああ、曲がりくねっていたっていう』
ユウカ「あれね、上から見るとモアイの顔になってるの」
フィオル『なんだって!』
ユウカ「あのジャングル、ノン、もっと大きい。
このグレートアースが」
フィオル『星だ。この惑星そのものがエクサランスだったんだ!』
ザザーン
フィオル『そうか、時空の渦から押し出されるときに原始惑星系円盤状になってしまったのか、
それとも出現座標が惑星と重なってしまい』
ユウカ「どうでもいいじゃない、そんなの」ゴソゴソ
フィオル『なにをする気だい?』
ユウカ「視覚がなくて残念ね。ここ、いま貸し切りのヌーディストビーチよ」
フィオル『ングッ』
ユウカ「イメージしちゃった?」
フィオル『どうしてそんな』
ユウカ「惑星の3分の2はなに?」
バチャン
【海の上】
チャプチャプ
ユウカ「アー、メーデーメーデー、聞こえてる?
返事はしなくていい。けど最後まで聞いて。
彼だけど、このまま長居してるとあんたの星を滅ぼしちゃうんだって。
わかるでしょ? あんたもヤバイの。
だから、ね、彼を放してくんない?」
ザザーン ザザーン
ユウカ「ンッ!」
フィオル『ユウカ、どうした!?』
ユウカ「そう、オーライ、あたしの中に流れてる時間を食べてごらん。
そしたらトークしやすくなるんでしょう?」
フィオル『やめるんだユウカ!』
ユウカ「平気よ。ベジタリアンだけあって、この子食が細いみたい。
おっぱい含ませてるようなもんだから」
ザザーン
ユウカ「ン、伝わってくる。
寒かったのね。寂しかったのね。
何万年も何億年もひとりぼっちだっで、
草も木も優しいけれど、なにも話しかけてはくれなくて、
大気圏に触れる宇宙空間は冷たくて、星の光はあんたを抱きしめてはくれない。
身体の中で流れてるマグマだけがじりじりと熱くて、あんたを焦がしてたのね。
でも彼が現れて、あんたの一日は変わった。
だから、夢中で腕を伸ばしてたのね」
ザザーン
ユウカ「でもダメよ。彼の存在はあんたを殺すの。
彼は優しいひとだから、そんなことになったら泣くと思う。
でもね、あたしは怒るのよ」
ザザーン! ザザーン! ザザーン!
ユウカ「あたしね、彼に恋をしているの。
だから、彼を泣かせるやつは惑星だろうと太陽だろうと絶対に許さない」
ザパーン!
フィオル『よすんだユウカ! "彼"を刺激するな!』
ユウカ「暴れたってダメよ。
だって、あたしの方がずぅっと彼のこと好きだもの」
ザパーンッ! ザパーンッ!
ユウカ「ね、触れてみて。わかるでしょう」
ザザッ
ユウカ「ほら、潤ってる」
パンッ パンッ!
【ユウカの部屋】
ドサッ
ユウカ「ン、なにが起こったの?」
フィオル『弾き飛ばされたんだ』
ユウカ「なんだかすごい音がしたけど、あんた、なんかされてない?」
フィオル『頬をふたつ張られたような感触がある』
ユウカ「ふたまたかけたと思われたのね。
あれ、やっぱり女よ。大地母神っていうくらいだし」
フィオル『悪いことをしてしまった』
ユウカ「あの子は、これからどうなるの?」
フィオル『あのまま、草や木の穏やかな時間を食べながら生き続けていくだろう。
そして、数億年もかけてゆっくりと死んでいく。
俺が現れなければ、平穏な一生だったのに』
ユウカ「あんたが現れてくれなかったら、あたしの人生つまんなかったのよ」
フィオル『なあ、さっきの、『潤ってる』っていうのは』
ユウカ「お肌よ。ほかになんかある?」
フィオル『自己嫌悪がある』
ユウカ「そういう偽善的なこというから、あんたのこと好きよ」
フィオル『済まない』
ユウカ「謝ってばっかりなのね」
フィオル『あとは、栄養のあるものでも食べて暖かくしていてくれ。
弱いウィルスである俺は、人体の抵抗力に耐えられない。
ほどなくしてこの身体は消滅し、また別の宇宙で別の身体が再構成されるだろう』
ユウカ「そう、どっちに転んでも、あんたは消えるつもりだったのね」
フィオル『君を呼んだのは』
ユウカ「ひどいひと」
フィオル『でも、君以外の人間に殺されたくはなかったから』
ユウカ「そうじゃないのよ。
ファーストデートだったのに、キスのひとつもしてくれない」
フィオル『それは、こういう状態だったから』
ユウカ「30年後ぐらいに突然言い出して、高いリング買わせてあげる」
フィオル『指輪貯金するよ』
ユウカ「そう。今度会うとき、可愛がって」
フィオル『きっと』
ユウカ「待ったりなんかしないから。
銀河の果てまで追いかけてって、抱きしめてあげる」
フィオル『楽しみにしてる』
【
ジェグナンの喫茶店】
ユウカ「くしゅんっ!」
ユウキ「風邪か?」
ユウカ「今年の風邪は、目に来るのね」
最終更新:2009年10月17日 13:52