21代目スレ 2007/12/31(月)
【路上】
ユウカ「♪I am an anarchist! Don't know what I want!」
ルル「きゃーっ! クールですわーっ!」
アオラ「なんて美脚で勝負したギターテクなんだぁーっ!」
ルル「長らく路上でやってらしたアナーキー・ユーカさんですが、
今度満を持してライブを行うそうですわーっ!」
アオラ「うぉーっ! 絶対観に行くぜーっ!
その日をもって、
OG町の音楽シーンはユーカさんのものになるんだぁーっ!」
ルル「しかし以前、なにかメタルっぽいバンドがあったような気もしますがーっ!」
アオラ「そんなもん、すでに過去の遺物だぜーっ!」
ドサッ
レラ「・・・・・・!」
【練習スタジオ】
レラ「・・・・・・! ・・・・・・!」
ヴィレアム「なんだかわかんないけど、レラがお冠だ」
キャクトラ「レラ殿、まずは落ち着いてください。なんですか?
『バイトだの世界の危機だのいって、お前ずっとバンドをほったらかしじゃねぇか。
わたしたち、もうずっとまともに活動してないぞ。
ライブどころか、音合わせもろくにできてないじゃねぇか。
そんなことだからポッと出のグラマーインパクトに客持ってかれるんだよ!』
なるほど、その通りです!」
ヴィレアム「なんなんだよ、キャクトラ。
お前の、その、レラに対する全肯定!」
キャクトラ「しかし、もうかなり長い間ライブをやっていないのも事実!」
レラ「・・・・・・、・・・・・・」
キャクトラ「『このままじゃ本当にOG町の音楽シーンを持ってかれることになるぞ。
いいのか? お前それでいいのか!?』
レラ殿もこう仰っています」
ヴィレアム「いや、俺、別にOG町の音楽シーンとか興味ないから」
レラ「・・・・・・! ・・・・・・! ・・・・・・!」
キャクトラ「あぁっ! レラ殿、お怒りを鎮めてください!」
【カラオケボックス】
ユウカ「♪素敵なウソに抱かれたぁい~、ノンノンそれじゃ物足りなぁ~い」
イングレッタ「♪い~つも君のそばぁにい~るよっ、だぁからもぉひとりぃじゃない~」
レイナ「ねえ、なんなの、あんたたちさっきから。
パンクとかいって、ガールズポップばっか歌ってるし」
イングレッタ「『ZONE』はパンクなバンドだったわ。特にMIZUHOが」
ユウカ「今でこそガールズバンドは珍しくないけれど、
かつては女性がロック、しかもパンクをやるなんて考えられなかった。
その風潮をブレイクスルーしたのが『ザ・ランナウェイズ』だった。
彼女は存在自体がパンクだった。フェミニズムなんか超越してた」
レイナ「講義はまたの機会にしてくれる?
あたしはね、取材に来たの。
ユウカ。長らくステージに出ることを嫌がってたあんたが、
急にライブをやるって言い出したのはどういう心境の変化なの?」
ユウカ「既成概念を打ち砕く。それがパンク。
あたしは自らのハートに巣くったケージすらも破壊する。
そして脱却する。教室で微妙に浮いてる今のポジションから」
レイナ「人並みに気にしてたんだ」
ユウカ「そのロンリネスから」
レイナ「けっこう気にしてたんだ」
ユウカ「そのサッドネスから」
レイナ「どんだけ気にしてんのよ! あんた、ライブなんかやってる場合じゃないじゃない!
もっとクラスに溶け込む努力しなさいよ!」
ユウカ「クラスメイトで催されたクリスマスパーティ。
呼ばれなかったルサンチマン。今こそ音楽に昇華するとき」
レイナ「あんた! 目的と努力の方向がとっちらかってる!」
イングレッタ「♪ガッツポーズを決めようじゃない イチかバチかの毎日だものぉ~」
レイナ「そしてあんたはいつまで歌ってんの!?
しかも、ウチダユキがアイドル時代うっかりTENCA狙っちゃった曲!」
イングレッタ「私がライブの手配をしたのよ。
そう、初めてふたりが出会ったあの日に。
私はたしかなインスピレーションを感じた。
TENCAを狙ってたころのウチダユキとおなじ攻撃性を、彼女に見出した」
ユウカ「ウチダユキは北の国と南のコトーを一度は手に入れ、そして手放した。
あたしはウチダユキの二の轍を踏まない」
イングレッタ「本人的に、実写版キャッツアイはどういう位置づけなのかしら」
ユウカ「きっと、過去の教訓としてラックの中に大切に保管してあるのよ」
レイナ「ヘンなテンションで漫才を始めないで!
あんたたちキャラかぶってるのに、なんで一緒に出てくるのよ!」
イングレッタ「したっけ、私が北海道弁で喋ればいいっしょ」
ユウカ「あたしがウチナーグチで喋れば、なんくるないさ」
レイナ「言葉をオモチャにしちゃいけません!」
レイナ「ユウカ! あんたこんなわけのわかんないのと意気投合できるんなら、
なんでクラスメイトと仲良くできないのよ!?」
ユウカ「次、いつ会うかもわからない相手の前ならどうとでも振る舞える。
でも、毎日顔を合わせるクラスメイトには緊張しちゃう。あたしはそういう女」
レイナ「めんどくさっ! この女、めんどくさっ!」
イングレッタ「お互いフルネームすら知らないからこそ、
なんでも話すことができるというところもあるわ」
レイナ「フルネームすら知らないの!?
なに、あんたたち、ネットでしか友達作れない人!?
ユウカ「たしかに、ダディのパソコン使って
出会い系サイトにイタズラ書きしてたのが縁で知り合ったのはリアル」
レイナ「なに小学生みたいなイタズラしてるのよ」
イングレッタ「どんなオヤジが欲に皮突っ張らせて来るのかと、
喫茶店で手ぐすねひいて待つこと5時間。
待てど暮らせどオヤジは来ない。
そこに、すぐ隣でおなじようにオペラグラス片手にアクビをしている少女が一人。
それが出会いだった」
ユウカ「危うく、年末のビジィな時間をムダに過ごすところだった」
レイナ「充分ムダに過ごしてるから!」
ユウカ「♪All the things she said All the things she said~」
イングレッタ「♪Running through my head Running throu my head~」
ユウカ「♪This is not enough~」
レイナ「『t.a.t.u』ごっこをやめろーっ!」
ユウカ「ドタキャンはなしよ。オーライ?」
【練習スタジオ】
イングレッタ「今話した通り、アナーキー・ユーカは完全に
ODEを敵視しているわ」
ヴィレアム「いや、今の話、俺たちの名前すら出てこなかったじゃないか」
イングレッタ「売られた闘争は買うのがワカメタルの流儀。
対バンの申し込みを受けたわ」
ヴィレアム「売られたもなにも、
どう考えても若い母さんがマッチポンプしてまわってるようにしか聞こえなかったよ」
キャクトラ「対バン! それは複数のバンドやミュージシャンが共同で催すライブのこと!
お金のないインディーズミュージジャンにとっては開催費用を折半できる美味しい話!
反面、自分たちのバンド目当てで来た客を、
よそのバンドに持って行かれる危険をはらんでいる!
バンド対バンド、音楽対音楽の、まさに真剣勝負!」
イングレッタ「ハコはすでに押さえているわ。
開催日時は12月31日、深夜11時より。つまり、大晦日年越しライブよ」
レラ「・・・・・・! ・・・・・・!」ズダダダダダッ
キャクトラ「おお! レラ殿が、かつてないほどテンションを上げておられる!」
ヴィレアム「えぇっと、あの、俺、その日は」
イングレッタ「安心しなさい。紅白ならすでに出場辞退の電話を入れたわ」
ヴィレアム「呼ばれてないし、呼ばれるわけないよ!」
イングレッタ「『はぁ?』っていわれたわ」
ヴィレアム「そりゃそうだよ、若い母さん!」
イングレッタ「最終的には
『ププッ・・・、それは残念です。またの出場をお待ちしております』
と、若干同情された感じになってたわ」
ヴィレアム「意外にノリがいい国営放送職員にビックリだよ、若い母さん!」
イングレッタ「とんだ恥をかかされたわ」
ヴィレアム「自業自得もいいとこだよ、若い母さん!」
イングレッタ「あなたたち、メンツを潰されたままでいいの?」
レラ「・・・・・・! ・・・・・・!」ズダダダダダッ
キャクトラ「『プロデューサーの恥はバンドの恥。
アナーキーな尻も国営放送も、まとめてわたしのドラムテクでオールレンジ攻撃だ!』
はっ、レラ殿! このキャクトラも異存ありません!」
ヴィレアム「あの、盛り上がってるとこ悪いんだけど、
俺、大晦日にはいつも年またぎで初詣に行くから」
カアァァァァンッ!
ヴィレアム「あ痛ァッ!」
キャクトラ「レラ殿、いきなりスティックを投げつけるとは!」
レラ「・・・・・・、・・・・・・!?」
キャクトラ「友よ! レラ殿は
『なんなんだ、お前にとってこのバンドは、なんなんだよぉ!?』
と目に涙を滲ませて訴えておられる!」
レラ「・・・・・・グスッ! ・・・・・・グスッ!」
キャクトラ「『命なんだよ。このバンドは、わたしの命なんだよっ!
今まで、わたしの心臓は1年で10万回しか動いていなかった。
それが、それがよぉ、ドラム叩いてるとき、歌ってるときだけなんだよぉっ!
この胸が、心臓が、激しくビートを刻むんだ。
こんなの初めてだったんだ。だから、だから・・・・・・』
レラ殿ぉ! 皆までいってくれますなぁっ!
キャクトラとて、想いはおなじ!」
ヴィレアム「えぇ~、そこまでバンドに入れ込んでたのかよ。
悪いんだけど、俺にはそこまで」
スカアァァァァァンッ!
ヴィレアム「二発目ぇっ!?」
レラ「・・・・・・かっ・・・・・・た」
キャクトラ「『わかった。もうお前はアテにしない』
はっ、レラ殿、仰ることはもっともですが」
ヴィレアム「キャクトラ、お前は単に、押しが強い相手に弱いだけなんじゃないだろうな」
レラ「・・・・・・ブ、・・・・・・う」
キャクトラ「『ライブでは、わたしが歌う』ですと!?
しかしレラ殿! レラ殿の肺活量は!」
レラ「・・・・・・ふっき、・・・・・・、・・・・・・」
キャクトラ「『腹筋運動なら続けてる。お前らがフ抜けてる間な。そして、なによりも』」
レラ「・・・・・・たいっ、・・・・・・たいっ、・・・・・・たいっ!」
キャクトラ「『歌いたいんだ、歌いたいんだ、歌いたいんだ!』
レラ殿ォッ~! このキャクトラ、微力ながら協力を惜しみません!」
レラ「・・・・・・こう、・・・・・・デッ・・・・・・へ・・・・・・」
キャクトラ「『行こうぜ、デットエンドシュートの彼方へ』
はぁっ! どこまでもお供させていただきます!」
ヴィレアム「えぇ~、なんだよ、その固い抱擁。
お前らのムダに熱い友情、ちょっとひくよ」
イングレッタ「話は決まったわね。出て行きなさい」
ヴィレアム「なにをいってるんだ、若い母さんまで!」
イングレッタ「あなたの存在は、もはやバンドのモチベーションを下げるだけよ。
つまり、迷惑ってこと」
ヴィレアム「なんだよなんだよ! いいよ、べつに!
俺はもともと、こんなメタルバンドなんかやりたくなかったんだ!
解散だ! 音楽性の不一致だ!」
【カラオケボックス】
レイナ「えぇ~と、あたしはなんで譜面を持たされてるのかしら」
ユウカ「曲を覚えないと、ステージで歌えないでしょう」
レイナ「ちょっと待った! なんであたしが出ることになってるのよ!」
ユウカ「それは、あたしがクラスで友達いないから」
レイナ「同情ひこうとしないでよ! 完全に自業自得だから!
ずっと授業エスケープしてたと思ったら、
ピアスしまくってるわ制服着崩してるわ初対面の人間ギターでぶん殴るわ!
そんなもん、敬遠されるに決まってるじゃない!」
ユウカ「いつだって、大人たちはあたしを見た目で判断する」
レイナ「大人じゃないし、言動で判断してるからね?」
ユウカ「今日こそは『ユウカりんと呼んで』とかフレンドリーに接しようと決意して、
果たせない。そんなエヴリデイ」
レイナ「いや、そんな決意は果たさなくていいから。
よけいわけわかんない人だと思われるだけだから。
ユウカ「だから、その思いの丈をライブでシャウトしましょう」
レイナ「あたしを巻き込まないでよ!」
ユウカ「ハートにわだかまる鬱屈や不満をシャウトするのがパンク。
そしてあんたのハートには、へヴィな澱が溜まってる」
レイナ「は、あんた、なにいって」
ユウカ「あたしはミュージシャンだから、普通よりも感性が鋭いのよ?」
レイナ「それ、ただの念動力なんじゃ」
ユウカ「ノンノン。うちのダディはアンチサイエンスがディスライクよ」
レイナ「だったら、あんたになにがわかるって」
ユウカ「こうすれば、もっとわかる」
レイナ「ちょっとちょっと! その無闇にグラマーな身体押しつけないでよ!
って体温高っ!? 吐息熱っ!?
やめてよ、なんだか、クラクラしてくる!」
ユウカ「自問自答し続けてる。目を閉じていてもその人を頭から追い出せない。
今にもハートが押しつぶされそう。今にも頭がイカレそう。
その想い、シャウトする様を見たいのは、そう、あたし」
レイナ「わかったぁ! ハザリアが妙にあんたのこと気に入ってる理由!
あんたたち、同類よ!」
ユウカ「そうと決まれば、オーライ、ビルガー、シェイプアップよ」
レイナ「決まってないし! なんでシェイプアップしなきゃなんないのよ!?」
ユウカ「最後まで服着てるパンクバンドがどこにあるの」
レイナ「既成概念を破るとかいって、あんたメチャクチャスタイルに囚われてるじゃない!」
ユウカ「あたし、ビルガーをシェイプアップすることにかけては誰にも負けたくない。
そう、あの人にも」
レイナ「あのさあ、あんた、いうほどイギリス人じゃないから。
むしろラテン。あんたの身体、半分以上がラテンだから」
【バランガ家】
ヴィレアム「えっ、いいのか!?」
ゼラド「うん。ケイサル神社に初詣でしょ?」
ヴィレアム(よ、よしっ! 来年はきっといい年になる!)
ゼラド「年またぎの初詣だったら、わたし、毎年行ってるし。
それに、どうせ神社にみんな来るだろうし」
ヴィレアム(うっ! 微妙に邪魔が入りそうな予感!)
ゼラド「あ、そうそう、アオラなんだけどね、なんかのライブに行くんだって。
もう、お正月くらい、静かに迎えればいいのにね」
ヴィレアム(ライブって、まさか・・・・・・。
いや、関係ない! もう関係ないんだ! そうだよ、元々俺はラブソングを歌うつもりだったんだ。
ゼラドの方が重要なのは、当たり前じゃないか)
【12月31日 野外ライブステージ】
ワーワーワー ワーワーワー ワーワーワー
アオラ「うぉーっ! 待ちかねたぜ、今日この日をーっ!」
ルル「アナーキー・ユーカさんとオービタル・デス・エナジーズ略してODEの対バンなんて、
お正月と5月5日ワカメの日が一緒に来たかのような騒ぎですわーっ!」
アオラ「長らく休眠状態だったODEが、
今まさに登り調子のアナーキー・ユーカにどこまで対抗できるか見物だぜーっ!」
ルル「レジェンドですわーっ!
私たちは、まさに雌雄を決する関ヶ原ウォーズに立ち会おうとしてるんですわーっ!」
【控え室】
レイナ「お客は大入り満員っと。
ヘンなメイクしてる客が多いとこ見ると、やっぱりODEってファン多いのね。
曲順もあたしたちが先だし、キャリア長い方に華持たせるってこと?」
ユウカ「♪快楽のパラダイス、最悪のシナリオは世界中に溢れてる~」
レイナ「ねえ!? なんでフカキョンが当たり役に恵まれてなかったころに出してた曲歌っちゃってるの!?」
ユウカ「フカキョンがユウコリンと仲悪いっていうのは、きっと、
『キョウコリンて呼んでください』とか口走ってたころの自分を思い出すからだと思う」
レイナ「フカキョンとユウコリンの関係なんかどうでもいいのよ!
なに、あんた、まさか、ビビッちゃってるの!?」
ユウカ「正味な話、あたしはマジでへヴィにビビッてる」
レイナ「えぇ、だってあんた、しょっちゅう路上ライブやってるじゃない」
ユウカ「通り過ぎてくことが前提な路上の客と、
わざわざおカネを払って見に来るステージの客は、ぜんぜん違う」
レイナ「ああ、そういえば、小さい頃ダンスやってたんだって?
なまじステージを知ってる分、ビビッちゃうわけね。
でも、この間は演劇部の舞台踏んでたじゃない。ふてぶてしい態度で」
ユウカ「あれは、ナードな彼にお尻を引っぱたかれてのこと。
今は、自分の意志でステージに上がろうとしてる。
やることはおなじなのに、こんなにも違うのね。自分で自分にサプライズ」
レイナ「じゃあどうすんの。やめる?」
ユウカ「ステージを投げ出すわけにはいかない。
それはあたしのプライドに反すること。
もう誰でもいいから、そのへんの人引っ張ってきてお尻引っぱたいてもらう」フラフラ~
レイナ「ストップ、ストップ、ストーップ!
あんた、それ以上人格疑われるマネしてどうすんの!?」
ユウカ「じゃあ、キスして」
レイナ「は、なにいってるのよ」
ユウカ「もう全部全部上げるから」
レイナ「いらないから! あー、もう! くっつかないでよ!
うっわ、お尻ばっかいわれてるけど胸も盛っちゃってるし、この子!
なに、そのワガママボディ!
そりゃぁ全体的に細いのが集まってるB組じゃ浮くわよ!」
ユウカ「小さい頃はあの人がいて、ステージに上がる前にはいつもキスしてくれた。
でも、もういない。あたしが遠ざけた。あたしの方から遠ざかった」
レイナ「あんた、震えてるの?」
ユウカ「あたしは情けない女。
こんなだから、クラスで友達がいない」
レイナ「クラスに友達いないのは関係ないと思うけど」
ユウカ「笑えない夜も泣けない夜も、味方なんかいない」
レイナ「あぁ、もう!
あんた、せっかくいいお尻してるんだから、シャキッとしなさいよ!」
レイナ「落ち着いた?」
ユウカ「オーライ。ちょっと、ほっぺがジンジンする」
レイナ「で、気分は?」
ユウカ「上々の、波に乗って弾き飛べファンキナイト」
【ライブ会場】
ユウカ「♪Be together! Be Together! こぉんやぁはぁ~!」
アオラ「まさかのスズキアミだぁーっ!」
ルル「パンクパンクいっといて、なんたる暴挙なんですのーっ!?」
マキネ「90年代後半、アイドル不在の時代と呼ばれていた、あのころ。
しかし、たった一人の例外がいた。
カハラのトモちゃんをぶった斬り、TKの寵愛を受けた彼女の名前はスズキアミ。
刹那の間だったけれど、彼女は間違いなく敵なき荒野に君臨する王者だった!」
アオラ「マキネさんはどこから現れたんだぁーっ!」
ルル「ラリッてるところを捕まって事務所クビになったトモちゃんの今後も心配ですわぁーっ!」
ユウカ「♪Cheep holiday in other people's misery!
I don't wanna holiday in the sun!」
アオラ「打って変わって本格派! 『さらばベルリンの陽』だぁーっ!」
ルル「きゃーっ! なんてワガママな選曲なんですのぉーっ!」
【控え室】
キャクトラ「お客の振りまわし方を知ってますね、あの方は。
レラ殿! すでに会場の空気をかなり持っていかれています!」
レラ「・・・・・・、・・・・・・」スッ
キャクトラ「レラ殿! どこに行くのですか!
まだ、アナーキー・ユーカさん側の演奏中です!」
レラ「・・・・・・だ」
キャクトラ「『決まってる。乱入だ。これは真剣勝負なんだぞ』ですと!
自ら死地に赴かんとするのですか、レラ殿!?」
レラ「・・・・・・レラレラに・・・・・・してやん・・・・・・よ・・・・・・」
キャクトラ「レラ殿! なんとなく目が回りそうです、それは!」
【ライブ会場】
ズダダダダダダダーッ!
アオラ「なんだぁーっ! 突然、全方位からのドラムソロだぁーっ!?」
ルル「あれを! 煙幕の向こうから、なにかが現れますわぁーっ!」
アオラ「あれはぁーっ!」
ダダダッ ダダダッ ダダダッ!
ルル「ODE! ドラム! レミュさんですわぁーっ!」
アオラ「メンバーきってのニュータイプで、
ファンネルとビットの区別が付くらしいーっ!」
ルル「きゃーっ! 私なんてガンバレルとドラグーンの区別がイマイチわかりませんのにーっ!」
アオラ「そしてあれはぁーっ!」
ヴァボボボボボボッ!
ルル「ODE! ベース! キャク様ですわぁーっ!」
アオラ「容姿端麗だが慇懃無礼!
ハイブリットヒューマンとの料理対決の末にODE入りした変わり種だぁーっ!」
ルル「乱入ですわーっ! ODEはアナーキー・ユーカさんを正面から潰すおつもりですわーっ!」
マキネ「フフ、思い出させてくれるじゃないさ。
スズキアミ対アベナツミの、あの伝説のガチンコ勝負を!」
ルル「この場において、マキネさんはいったいどういうポジションなんですのぉーっ!?」
アオラ「うぉーっ! これだよ、これ!
長い間忘れてた、この昂ぶり! この熱狂!
ゴー・トゥー・ODEーっ!」
ルル「しかし、ヴィレカイザーさんは? ヴィレカイザーさんがいらしていませんわーっ!」
アオラ「じゃあ、ボーカルはどうするんだぁーっ!」
レラ「♪Layla you got me on my kness
Layla, I'm beggin' darlin please~♪」
アオラ「『いとしのレイラ』だぁーっ!
なんて切なげなウィスパーボイスで歌い上げるんだぁーっ!」
ルル「まるでイングランド出身のオッサンが
友達の奥さんに横恋慕して歌っているかのような狂おしさですわぁーっ!」
アオラ「こんなにも美しい旋律に乗せて、なんて生の感情剥き出しの歌詞なんだぁーっ!?」
【ステージ上】
レイナ「乱入!? ODEってバンドはなんて掟破りなの!?」
ユウカ「上等。ゆっかゆかにしてあげる」
レイナ「なんかそれ、気持ちよさそうな響きになっちゃってるから!」
【神社の近く】
ゼラド「なんか聞こえるね? アオラがいってたライブかなぁ」
ヴィレアム(この声、まさか、歌ってるのはレラなのか?
バカな! あいつの肺活量で!)
ゼラド「あ、やんだ」
ヴィレアム(レラの歌声が・・・、一瞬大きく膨れ上がって、弾けて消えた?
なにがあったんだ、まさか)
ゼラド「どうしたの? 早く行こうよ」
ヴィレアム(どちらを取るべきか? そんなの決まってる。ゼラドだ。
もともとあのバンドは、若い母さんが悪ふざけするために作ったようなものなんだ。
それに、俺はもういらないっていわれたんだぞ?
もう関係ないんだ。もう)
・・・・・・ざわっ ・・・・・・ざわっざわっ
ヴィレアム(なんだ? なにかが、聞こえる?)
・・・・・・ゴー・・・トゥ・・・ゴートゥー・・・・・・ゴォー・・・・・・ゴォトゥ
ヴィレアム(オーディエンスの声だ! オーディエンスが俺を呼んでいる。ODEの音を求めてる!)
ゼラド「ねえ、ヴィレアムくん?」
ヴィレアム(ゼラドはかけがえのない人だ。それは決まってる。
でも、いま! いま俺を待っているのは・・・・・・!)
ざわっ!
・・・・・・ODE! ・・・・・・ODE! ・・・・・・ODE! ・・・・・・ゴォトゥODE!
ゼラド「あっ、ちょっと、ヴィレアムくん!?」
ヴィレアム「ごめんゼラド。呼ばれたんだ。
俺を呼んでる、たくさんの声が聞こえるんだ!」
ゼラド「えぇと、よくわかんないけど、頑張って」
ヴィレアム「ありがとう」
【ライブ会場】
レラ「・・・・・・Layla・・・・・・darlin'・・・・・・」
アオラ「うわぁーっ! やめろ! もうやめてくれ! やめるんだレミュさぁーんっ!」
ルル「お顔があんなに紫色になって!
完全にチアノーゼ症状を起こしていますわーっ!」
レラ「・・・・・・レ・・・・・・ラ・・・・・・」カハッ
アオラ「歌わなくていい! あなたは、もう歌わなくていいんだぁーっ!」
ルル「そうですわ、歌なら、ボーカルならあの方がぁーっ!」
【ステージ上】
レイナ(向こうには悪いけど、助かった!
ああ見えて、ユウカはすでにいっぱいいっぱい!)
ユウカ「♪とぉってもとってもとってもとっても」
レイナ(・・・・・・すでにヒロスエがなんかやらかすたびに
ワイドショーでかかる曲なんか歌い始めちゃってるし。
テンションが危なくなったらアイドルソング歌い始める習性でもあるのかしら、この子。
この上、『まんがの森』がなにをとちくるったのかイイジマアイにやらせたテーマソング
を歌い始めたら、そのときがアウツ・・・・・・! でも、いまの流れなら)
ユウカ「ライオンだぁ~♪」
レイナ「意外に余裕がある!?」
【観客席】
マキネ「フフ、このミネラル臭、来るね」
ヴィレアム「南三陸カミワリワカメぇーーーーーーーっ!!」
アオラ「あれはぁっ!?」
ルル「まさかアレは!?」
アオラ「うおおおっ!」
ヴィレアム「SOUSHITSUせよ! SOUSHITSUせよ! SOUSHITSUせよ! SOUSHITSUせよ!」
アオラ「ヴィレカイザーさんだぁーっ! ヴィレカイザーさんがご降臨なされたぁーっ!」
ルル「いえ、あれは帰ってきたヴィレカイザーさんですわぁーっ!」
アオラ「しかも、見ろ! あの格好を!」
ルル「白塗りメイクを施したお顔に、もっさりジャンパー、色彩感覚のくるったマフラー、
そしてダメージジーンズとかでなくて普通に傷んだジーンズ!」
アオラ「うぉーっ! なんて私服のセンスがないんだぁーっ!」
ルル「まるでこれから初詣に行くおじいちゃんのようですわぁーっ!」
ヴィレアム(な、なんだよ。着替える時間がなかったんだから仕方がないじゃないか。
それに、このジャンパーは今日のために・・・・・・)
イングレッタ「なにをしに来たの」
ヴィレアム「若い母さん! わかってる。顔を出せた立場じゃないけど」
イングレッタ「ギターも持たずに?」ヒュン
ヴィレアム「ギター? 持ってきてくれたのか」パシッ
イングレッタ「ぶちかましてあげなさい。この町でもっともミネラル豊富なのは、誰なのか」
ヴィレアム「了解だ。若い母さん!」
【ステージ上】
キャクトラ「友よ! やはり来てくれたのだな! 私は信じていたぞ!」
ヴィレアム「勘違いするなよなっ! ただ、ちょっと歌いたくなっただけなんだからなっ!」
キャクトラ「だが、その私服のセンスは信じられないぞ」
ヴィレアム「うるさいよ!」
レラ「・・・・・・、・・・・・・」
ヴィレアム「レラ、そんな目で睨むなよ。わかってるって」
レラ「・・・・・・、・・・・・・」
ヴィレアム「『場は温めておいてやった』だって?
ナマイキいってくれるじゃないか」
キャクトラ「友よ! レラ殿の言葉が!?」
ヴィレアム「言葉じゃない。音楽だ!」
ギャーギャギャギャギャ ギャーギャギャギャギャ!
ヴィレアム「♪Iron WAKAME! watching the DASHI of MISO-SHIRU!」
【観客席】
アオラ「『鋼鉄のワカメ』だぁーっ!」
ルル「なんて鉄分豊富なんですのぉーっ!」
アオラ「これは極上のへヴィ・ワカメタルだぁーっ!」
【ステージ上】
レイナ(なんなの、あの白塗り!? 一瞬で会場の空気を自分のものにした!?)
ユウカ「♪まんがらりんたらおもしろりぃ~ん」
レイナ(ユウカはすでに限界! あたしが行くしか!)
【観客席】
アオラ「うぉーっ! ユーカさんの横で、明らかに弾けてないギターぶらさげてた女が行くぞーっ!」
ルル「ヴィレカイザーさんに対抗できる手段があるとでもいうんですのぉーっ!?」
【ステージ上】
レイナ(すでに場は圧倒的にアウェー! でも!)
♪~チッチッチッチ
レイナ「♪アイツはアイツは、前髪ウザい!」
【観客席】
アオラ「この曲はぁーっ!?」
ルル「まさか、アラレちゃん!? 90年代バージョンのアラレちゃんですのぉーっ!?」
マキネ「90年代、DBGTの後番組としてアラレちゃんは2度目のアニメ化を果たした。
世にいう、『90'sドクタースランプ』!
そして、その初期OPこそが『顔でかーい』!
ひたすら『顔でかい』を連呼する歌詞は、
『人間の身体的欠陥を笑っているようで不快』とアサヒの投書欄を大いに賑わせた!」
ルル「マキネさんは、どのへんのポジションを狙っているんですのぉーっ!」
アオラ「ある意味伝説の曲だぁーっ!
いったい、ヴィレカイザーさんはどう対抗するっていうんだぁーっ!?」
【ステージ上】
ヴィレアム(こいつ、レイナか!? なんでこんなところに)
レイナ「♪ハチマキ巻けない 届かなぁーい!」
ヴィレアム(なんだ!?)
レイナ「♪カッコつけても前髪ウザい! ウキワが上から入らない!」
ヴィレアム(このっ、黙って聴いてれば!)
ヴィレアム「鋼鉄のワカメ! いろいろやってるんだ!」
レイナ「予知ができても前髪ウザい!」
ヴィレアム「鋼鉄のワカメ! 横から茶々を入れるな!」
レイナ「ヘディングできない視界が狭い!」
ヴィレアム「鋼鉄のワカメ! またとない機会投げ出してここに来た!」
レイナ「前髪ウザくて煮え切らない!」
ヴィレアム「ダシが染み出す鋼鉄のワカメ! 相手がどんなに遠くにあってでも!」
レイナ「ウザい前髪かき上げて、いい加減こっち見てよっ!」
【観客席】
アオラ「なんて凄まじい舌戦なんだぁーっ!」
ルル「まるで、長い間微妙な平行線状態だったふたりが、
とうとうぶち切れて口論を始めたかのような光景ですわーっ!」
アオラ「両者一歩も譲らないぜーっ!」
ルル「まさかの両雄並び立つ事態ですのぉーっ!?」
イングレッタ「フフ、果たしてそうかしら」
ズダダダダダッ!
ギャギャギャギャギャッ!
ヴィレアム「鋼鉄のワカメ! 築地じゃちょっと買えない代物!
鋼鉄のワカメ! カメレオンクラブじゃちょっと売られちゃいない代物!」
アオラ「うぉーっ!
ギターが! ベースが! ドラムが! なんてハイレベルに融合しているんだぁーっ!?」
ルル「そしてこれはーっ!?」
【ステージ上】
ヴィレアム「フコイダンアルギン酸ビタミンA・B群ビタミンC! ヨウ素カリウムカルシウム
セルロースアルギン酸タンパク質脂質糖質繊維灰分リン鉄ナトリウムカロチンナイアシン!
血中コレステロール低下血液サラサラ排泄促進脳卒中予防心筋梗塞予防
だだだだだだだーーーーーっ!!」
【観客席】
アオラ「怒濤のようなワカメに含まれる栄養分及び効能だぁーっ!」
ルル「きゃーっ! なんてヘルシーなんですのぉっ!?」
アオラ「いや! これはもはや健康にいいってレベルを超えている!
まさにタミフルの向こう側だぁーっ!」
イングレッタ「出エジプト記は語る。
かくてモーセは杖を取り、エジプト全土をカエルで埋め尽くした。
これは、いうなればワカメ版『マグノリア』。
まさに、『ワカメの雨』!」
マキネ「ヒャーハハハハ! 思い出させてくれるじゃないさ!
2001年9月! 台風シーズンまっただ中の雨空の下で行われた野外イベント!
アヤ・マツーラがステージに上がるたび、雨がやみ陽まで差したという神がかり的レジェンド!
スーパースターとはそういうものさ。
その存在は、天変地異にすら匹敵する!」
アオラ「まさにヒューマノイド・ワカメだぁーっ!」
ルル「そして、マキネさんの立ち位置は皆目わからないままですわぁーっ!」
アオラ「ていうかアヤヤすげーな、アヤヤー!」
テトラクテュスグラマトン! 5! テトラクテュスグラマトン! 4! テトラクテュスグラマトン 3! テトラクテュスグラマトン 2!
アオラ「そして出たぁーっ!
一秒間に10回テトラクテュスグラマトン発言! カウントダウンスペシャルだぁーっ!」
ルル「一秒間にカウントダウンしながらテトラクトゥスグラマドン発言なんて、
もはや時空がねじくれてるとしか思えませんわぁーっ!」
アオラ「ワカメにはフリーズドライなどという概念はないんだぁーっ!」
テトラクテュスグラマトン! 1!
アオラ「そして、ゼロだぁーっ!」
ルル「なんてワカメタル的な1年の幕開けなんですのぉーっ!?」
アオラ「今こそ高らかに! ゴー・トゥー・ODEぃーっ!」
【1月1日0時0分 神社】
パンパンッ
ゼラド「来年も、いい年になりますよーに」
・・・・・・ズズズズズ
ゼラド「あれ、なんだろう。除夜の鐘かな?
音が、世界をお湯で戻してるようなこの感じ・・・・・・」
【ライブ終了後 無人のステージ】
レイナ「立てる?」
ユウカ「オーライ、『クールランニング』のラスト近辺よりもクールよ」
レイナ「それ、熱すぎるから」
ユウカ「負けね。完敗。言い換えるならばパーフェクトルーズ」
レイナ「言い換えなくていいから」
ユウカ「でも、なぜかしら。ハートに吹き込むこの潮の香り」
レイナ「あのさぁ、ユウカ。あんた、土壇場で弱いとこ見せるとか、それちょっと卑怯よ。
あんたちょっとズルい女よ」
ユウカ「オーライ、あんたの男には使わない」
レイナ「また、なにいってんの、あんたは」
ユウカ「いったでしょう。感性が鋭いの、シャープなの、エッジなの」
レイナ「だから、あのねぇ! あ、もう、この女、ほんとめんどくさっ!」
ユウカ「で、誰なの。クラスに好きな男子いるの」
レイナ「なんで急に小5みたいなこと言い出してるのよ!」
ユウカ「で、気分は?」
レイナ「そうね。千の風になったような感じ」
【控え室】
ヴィレアム「バカバカ! 俺のバカ! 新年の出だしからなんてことを!」
キャクトラ「友よ、頭を抱えてどうした。これから打ち上げに行くぞ」
レラ「・・・・・・、・・・・・・」
キャクトラ「『払いは当然お前持ちだ』と、レラどのもこう宣告なさっている」
ヴィレアム「打ち上げ? 俺はダメだ! 神社に行くんだ!
まだ、まだ間に合うかもしれない!」
イングレッタ「人生にはね、取り返しの付かない事態が多々起こるものなのよ」
ヴィレアム「さらっと残酷なこといわないでくれ!」
レラ「・・・・・・、・・・・・・」
キャクトラ「『で、気分はどうだ』と、レラ殿が尋ねていらっしゃる」
ヴィレアム「なんていうか、千の風になったような感じ」
最終更新:2009年10月17日 14:40