方向音痴とお絵かき少年


25代目スレ 2008/08/13(水)

【山道】
 ガサッ ガサッ
ランディ「・・・・・・ここは・・・・・・どこだ・・・・・・」

 ぶるるるるる
 ききっ
ランディ「ん?」
ミズル「あ、なんだ。ヒッチハイクじゃなかったの」

 ぶるるるるるるるる
ランディ「あっ、待って、待ってください! 町まで乗せてって・・・・・・!」

 ぷすん
ミズル「ありゃ、故障かな」
ランディ「ええと、ずいぶん若いようですけど」
ミズル「若いっていうか、中2だけど」

 ばたんっ! ずるずるっ!
ミズル「痛い痛い! いきなり引きずり下ろすなんてヒドいじゃないか!」
ランディ「ダメだろ、中学生がクルマなんて運転してちゃ!」
ミズル「ほら、あるだろ、空から突然ロボに乗った美少女が降ってきて、
 やむにやまれず操縦しなくちゃならないシチュエーション」
ランディ「ロボじゃなくてクルマだし、美少女も乗ってないぞ」
ミズル「うん、ま、美少女は乗ってないけど、見てよこの塗装!
 最高にサイケデリックでアバンギャルドだろ?」
ランディ「ラクガキし倒してあるようにしか見えないけど」
ミズル「わっかんないかなぁ。この色彩の芸術。
 特に、このブルーだよ、ブルー!
 透き通るようだろ! このブルーを調合したひとは天才だよ!」
ランディ「助手席に積んであるあれは、絵の道具か?
 お前、絵描きかなにか?」
ミズル「うん。専門はウォールアート」
ランディ「ああ、ガード下なんかにあるラクガキか」
ミズル「失礼だなぁ、偏見だよ、それって」
ランディ「それで、このスクラップはどこから盗んできたんだ?」
ミズル「盗んでなんかいないよ。うちは修理工場みたいなことやっててさ、
 このクルマ、処分してくれって運ばれてきたんだ。
 でもこんな芸術作品壊すなんて、あまりに忍びないから、俺が保護してるんだ」
ランディ「免許は?」
ミズル「ないけど」
ランディ「ないなら、ダメじゃないか」
ミズル「だからね、ほんとにやむにやまれない事情があったんだよ。
 うちには2つ以上の部品でできてるものならなんでも解体する凶悪な従姉妹がいて、
 こんなものガレージに置いておいたら、2秒でネジまでバラされて地球に優しくリサイクルされるんだよ。
 頼むよ、そんなことになったら俺、半年はヘコんでるよ」
ランディ「そっか、うちも、姉なのか妹なのかよくわからない肉親が冷たくてな」


 【30分経過】
 ぶるるるるる
ミズル「悪いね、修理してもらって」
ランディ「大したことはしてないさ。このクルマ、元が高級品みたいだからな、
 ずいぶんぶつけたり落っことしたりした形跡があるのに、シャフト類の歪みはまったくなかった。
 俺は、電気系統の接触が甘くなってたのを直しただけだ」
ミズル「工業高校かなにかに通ってるの?」
ランディ「いや、母親が技術者みたいなことやっててな」
ミズル「ふぅん。うちも母さん技術屋だけど、俺は機械いじりなんてからきしだよ。
 なにしろ、うちの従姉妹ときたらラジコンでもゲーム機でもなんでもバラしたがるから。
 小さいころから、俺のオモチャっていえば色鉛筆と画用紙だけでさ」
ランディ「前見て運転しろよ。涙は俺が拭いてやるから」
ミズル「ぐすっ、そうだ、名前、聞いてなかったね」
ランディ「ああ、ランディ・ゼノサキスだ」
ミズル「俺、ミズル・グレーデン。『ツ』じゃなくて『ス』に点々で、よろしく」

 ぶろろろろ。。。。
ミズル「ランディさんてさ、不思議な色をしてるよね。
 緑のような、青のような、少しだけ赤のような」
ランディ「お前、プラーナが見えるのか?」
ミズル「なんだい、それは。ほら、よくひとをタヌキとかキツネに例えるだろ?
 俺はそういうの、なんとなく色に見えるんだよね。
 ランディさんみたいな色したひとは、初めて見るよ」
ランディ「感性が鋭いのかな」
ミズル「ランディさんてさ、コロニーのひとでしょう」
ランディ「いや、違うけど」
ミズル「あれ、アゴの骨格とかが地球のもの食べて育ったひとと少し違ったから、
 それならコロニーのひとだと思ったんだけど」
ランディ「コロニー生まれじゃないけど、地球生まれでもないっていうのは当たりだ。
 俺は、地底世界ラ・ギアスの神聖ラングラン王国の出身だからな」
ミズル「あははははは。あぁ、そう。
 じゃ、俺は1万3000年前に栄えた古代帝国を守り抜いた騎士とお姫様が
 生まれ変わった2人の間に生まれた運命の子供だよ」
ランディ「おい、俺は妄想いったわけじゃないぞ」
ミズル「うんうんわかってる。それで、どこに行くところだったの?
 その地底帝国?」
ランディ「帝国じゃないし、ラ・ギアスに帰る用もない。
 ちょっと、スイスにでも行こうと思ってて」
ミズル「ここ、ニホンアルプスの端っこだよ」
ランディ「いや、間違いだ。夕張山地に行こうと思ってて」
ミズル「ランディさんて、かなり危険なレベルの方向音痴なんじゃないかな」
ランディ「もちろん冗談だ。どこに行く当てもない、風から風の放浪旅行の途中だ。
 どこか広い道に出たら下ろしてくれ。あとは自分で勝手にやる。お前は?」
ミズル「うん? 俺は、どうしよう。
 とにかくこのクルマを守る使命感で頭いっぱいだったから、行き先までは考えてなかったな。
 そうだね、夏休みの課題提出にもなるし、どこかで適当にいい景色見つけたらスケッチでもするよ。
 このクルマに塗ってあるブルーみたいな青空があれば、もうサイコーなんだけど」

ランディ「そっか。いいな、そういう旅も」
ミズル「そして、そんな青空の下で弾む白や褐色やピンク色のおっぱいを描けたら、
 俺はもう死んでもいいよ」
ランディ「あぁ~」
ミズル「どうしたの?」
ランディ「いや、いいんだ。
 俺が勝手に、お前がデザイン専門学校なんかによくいる不思議系少年だと思い込んで、
 勝手にガッカリしてるだけだから」
ミズル「俺もね、おかしいとは思ってるんだよ。
 ここんとこ、気が付くと1日の8割くらいおっぱいのこと考えてるんだ。
 夏休みに入る前なんかさ、前に座ってる女子の背中にブラの線が透けてると、すごくドキドキしたんだ。
 俺、どこかおかしいのかな」
ランディ「心配するな。それ、ただの思春期だから」
ミズル「じゃ、お互い特に目的のない旅ってことで。
 国道なり県道に出たら解散ってことでいい?」
ランディ「頼む」

 【1時間経過】
ミズル「あれ、おかしいな」
ランディ「どうしたんだ?」
ミズル「ここ、そんなに大きい山じゃないから、小一時間もすれば抜けるはずなんだけどな。
 いつまで経っても登り道が終わらないんだよ」
ランディ「俺はそういうこと、よくあるけど」
ミズル「ランディさんだけだよ、そんな怪奇現象が起こるのは」
ランディ「ナビはどうなってる?」
ミズル「あぁ、ダメだよ。うちに運び込まれた時点でオシャカになってた」
ランディ「ずっと、一本道だったと思うんだけどな」
ミズル「ランディさん、コンパスかなにか持ってない?」
ランディ「なんでこんなところで円を描くんだ?」
ミズル「取りあえず、ランディさんが地球で教育受けてないってことはよくわかったよ」
ランディ「おい、あそこに大きな木が立ってるだろ。
 高いとこから見たら、道がわかるんじゃないか?」

 【木の下】
ミズル「ランディさぁ~ん、なにか見えたぁ~?」
ランディ「いや、ガスがかかって、遠くまで見えない」
ミズル「霧なんか出てないじゃないか。
 あのさぁ、ランディさんて、ひとには見えないものが見えるとか言い出すひとなの?」
ランディ「わりと、そういうとこあるけど」
ミズル「ランディさんてさぁ、ひょっとして、ひとりで出歩いたらいけない種類のひとなんじゃないの」
ランディ「どういう意味だ?」

 ガサガサッ
ミズル「あぁ、よかった。ひとがいたんだ。あの、地元のひとですか?
 ボクら道に迷っちゃって、山を下りるにはどっち行ったらいいか教えてもらえると、ありがたいんですけど」
ランディ「ミズルっ、離れろ!」

 ザシュッ!
ミズル「わっ、なんだよ、突然飛び降りてきて!
 しかもその剣! どこから湧いて出たんだよ!
 あのさ、いうまいいうまいと思ってたけど、ランディさん、
 やっぱ黄色い救急車が停まってる建物から逃げてきたんじゃないの!?」
ランディ「ミズル、お前、なにと話してた」
ミズル「なにって、だから、そこにいるジモティーのおじさんだよ」
ランディ「あれがか?」

旧日本兵『・・・・・・コー・・・・・・ォー』
ミズル「えぇと、サバイバルゲームをやるひとですか?」
ランディ「そんなふうに見えるか。あれは、旧日本軍の軍服だぞ」
ミズル「太平洋戦争なら終わりましたから、もう山から出ていいと思いますよ?」
ランディ「バカ、太平洋戦争が終わってから何世紀経ってると思ってるんだ」
ミズル「えぇと、えぇと、あなた方の犠牲をムダにしないためにも、
 ボクら次世代の子供は、戦争をしないさせないさせとかないをスローガンに」
ランディ「平和への誓いなんか建ててる場合か! 走れ!」

旧日本兵「コォォォォォッ!」
ランディ「ディスカッター、乱舞の太刀っ!」
 ザシュッ ザシュッ ザシュッ!

ミズル「あぁぁっ! なんなんだよ、いったい! こんなことなら山なんかに入るんじゃなかった!
 キンキンにクーラーが効いた部屋でデスピニスさんのおっぱいでも描いてればよかった!
 あ、デスピニスさんていうのはうちに住んでる女の人なんだけど、
 でもほんとは叔父さん夫婦の家にいることが多いんだ。
 なんでかっていうと、うちの父さんとデスピニスさんが一緒にいると、
 なんでかうちの母さんの方が場違いな感じになって家庭崩壊の足音が聞こえてきそうだからっていう事情があって、
 あ、でもデスピニスさんはいいひとだから、妙なこと考えたりはしないと思うよ。
 デスピニスさんのおっぱいっていうのはお日様の光によく干した布団みたいな匂いがして」
ランディ「デスピニスさんのおっぱいについてはあとで事細かに聞くから、
 とにかく走れ! 振り返らずに!」

 【山奥】
ランディ「ふぅ、もう追いかけてこないようだな」
ミズル「ランディさん、その髪の毛」
ランディ「ああ、興奮したりすると、なぜか赤くなるんだ。
 赤くなったからって、特に魔法が使えるわけでも身体能力が上がるわけでもないけどな」
ミズル「ランディさんは、黄色い救急車じゃなくて呪泉郷から逃げてきたんだね?」
ランディ「呪泉郷なんか存在しないし、逃げてきてもいない」
ミズル「声、ヤマちゃんだと思ってもいい?」
ランディ「ダメだ」
ミズル「じゃ、なに。ランディさんは、ほんとに1万3000年前に栄えた地底帝国を
 危機から救った騎士とお姫様が生まれ変わった2人の間に生まれた運命の子供だとでもいうの?」
ランディ「だから、帝国じゃないし、お前の妄想と混ぜるな。
 1万3000年も経ってないし、お姫様じゃないし、生まれ変わってもいない。
 いや、親父は9月ごろ生まれ変わるかもしれない」

ミズル「ランディ1/2さん」
ランディ「1/2って付けるな」
ミズル「あれ、なんだったんだろう」
ランディ「さぁな。この世のものでないことだけは確かだ。
 剣で斬っても、まるで手応えがなかった」
ミズル「ランディさんて、お化けとか退治できるひとなの?」
ランディ「さぁな。咒霊機とかは倒したことあるから、似たような感じでいけると思う」

ミズル「あ、でも、どうしよう。クルマ、あそこに置いてきたままだ」
ランディ「夢中で走ってきたからな。道順もわからなくなってる」
ミズル「まずいなぁ。放置してあるとこなんか従姉妹に見つかったら、
 あっという間に土に返されちゃうよ」
ランディ「お前の従姉妹は、妖怪かなにかか?」
ミズル「妖怪ではないけど、自動人形従えてそうなところはあるよ」
ランディ「とにかく移動しよう。立ち止まっていても埒があかない」

 【夜中 森深く】
ミズル「うん、わかってるわかってる。ランディさんは悪くない。
 ランディさんが、声ヤマちゃんな黒豚並の方向音痴だって判明してるのに、
 前を歩かせた俺が悪い」
ランディ「だから、声ヤマちゃんじゃないって」
ミズル「お好み焼き屋さんとブタ相撲部屋と、どちらが好き?」
ランディ「それはお好み焼き屋さんだ」
ミズル「Pちゃん」
ランディ「誰がPちゃんだ」
ミズル「3分間、夜空に向かってぷぎーぷぎーと鳴き続けてよ」
ランディ「なんだその地味に精神的苦痛を味わうペナルティ!」
ミズル「あぁ、靴擦れが痛い」
ランディ「ヤワだなぁ」
ミズル「だって俺、文化系だもん。山登りするつもりなんかなかったもん。
 あ~あ、デスピニスさんに耳掃除してもらうフリしておっぱい触りたい」
ランディ「デスピニスさんていうのがどういう人なのかは知らないけど、
 お前がそんなこと考えてるって知ったら、泣くと思うぞ」

 【森深く 古寺】
ランディ「誰もいないみたいだな。ちょうどいいから、今夜はここで寝て、
 明るくなったら道を探そう」
ミズル「えぇ、気が進まないなぁ。この建物、なんだかすごく気持ち悪い色調だよ。
 俺、色調がくるってるもの見るとクラクラするんだよね」
ランディ「じゃ、ひとりで外にいるか」
ミズル「やだなぁ、Pちゃん、一緒に寝ようよ」
ランディ「Pちゃんじゃないし、一緒にも寝ない」

 ぎぃぃぃぃぃぃっ
ランディ「ごめんくださ~い」
ミズル「わっ! わっ! わっ!」
ランディ「どうした!?」
ミズル「あれ!」
ランディ「ガイコツ? ボロボロに風化してるこれは、旧日本軍の軍服か?
 まさかあの幽霊、俺たちにこれを見つけてもらいたくて」
ミズル「そっちじゃなくて、あれ」
ランディ「なんだぁ? 壁一面が絵の具で汚れてるじゃないか。
 ひどいな。これじゃ化けて出るのもムリないか」
ミズル「いや、違うよ。劣化が激しくて強い色しか残ってないけど、
 これ、ちゃんとした作品だよ。かなり古くて、しかも未完成だけど」
ランディ「未完成って、なんでそんなことまでわかるんだ?」
ミズル「なんでっていわれても、説明が難しいな。
 あのさ、習字教室って行ったことある?
 習字の先生って、どんなに上手く二度書きしても、絶対見破っちゃうだろ?
 たぶん、ああいうのとおなじだと思う。なんとなくわかるんだよ」

 ボゥッ
旧日本兵『・・・・・・コー・・・・・・ォー』
ランディ「こいつ、またっ!」
ミズル「そうか。これ、あんたが描いたんだな?
 作品が未完成のままじゃ、それは成仏できないだろ。
 うん、わかったよ。俺がばっちり仕上げてやる」

 ゴトッ ゴトッ ゴトッ
ランディ「おい、なに始めるんだ?」
ミズル「少し黙っててくれない?
 えぇと、塗料は戦時中の代用品か。劣化を差し引いても、全体的にくすんだ感じ。
 暖色系、赤、オレンジ、黄色。その上から薄墨を少し。
 背景は、畳、窓ガラス、裸電球、米びつ? よくわからない、保留。
 昔のニホン家屋、窓の外はブルー、白い雲が3つとハトが1羽、平和の象徴?
 中央に女の子が1人、おかっぱ頭、年齢は10歳くらい?
 いいや、当時の栄養事情を考えると、これでも12、3歳かな。
 オーケイオーケイ、よーし、いい子だ。俺がキレイに仕上げてやるからな。
 下書きは木炭。
 ランディさん、そのへんで枯れ枝集めて、消し炭にしてくれない?」
ランディ「あ、あぁ・・・・・・」
ミズル「さぁて! 俺の絵筆は性格悪いぞ!」

 【朝】
 チチチチ.....
ランディ「ひと晩で仕上げるとはな」
ミズル「ふぅ~、魂削った感じ」
ランディ「そこで手帳を見つけた。この男は、元々芸術家志望だったらしい。
 ところが学校に上がる前に赤紙が来て、軍隊に入らされた。
 最前線のナバウルに飛ばされるって聞いて、移動中に脱走したまではいいものの、
 見つかったら銃殺だし、家族にも迷惑がかかる。
 それでこの山寺に隠れ住むようになったんだけど、
 どうやら、そのうち飢え死にするしかないっていう覚悟を決めてたみたいだな。
 自分が生きた、せめてもの証拠に絵を描き始めた。
 手帳はここで終わってる」
ミズル「あとは見たまんまだろ。完成する前に力尽きたんだ」
ランディ「でも、これでもう思い残すことはないだろう」

旧日本兵『コォー・・・・・・コォー』
ミズル「うん? なんだって? 『俺の構想と違う』?
 ナマイキいうなよ。あのね、いっちゃなんだけど、あんたヘタクソだよ。
 デッサンはくるってるし、遠近法なっちゃいないし、視点もバラバラだし。
 特に配色、時代差し引いても、これはないよ。
 馬脚を現したね、あんた、ちゃんと絵の勉強したことないだろ。
 は? なに? 『雑誌の挿絵描いてた』? 知らないよ貧乏な雑誌だったんだろ。
 なに、まだあるの? 『真ん中に描いてあるのは俺の姪っ子だ』?
 『ちゃんと服着せてた』? 『なんで裸にした』?
 うるさいなぁ、おっぱい描きたかったんだよ、おっぱいおっぱい。
 ほんとは16、7のグラマーにしたかったけど、ぐっとガマンしたおっぱいだよ、それは」
ランディ「こらこら! せっかく丸く収まりそうなのに、なんで幽霊にダメ出ししてるんだ!?」
ミズル「だってさ、わざわざ幽霊になるくらいだから、
 どれだけのものかと思ってたら、てんでヘタクソなんだもの。
 絵柄だって岸田劉生を貧乏くさくパクッただけだし、こいつ、とんだ自意識過剰だよ。
 よくいるんだ、中途半端な自称アーティストにこういうのが」
旧日本兵『コオォォォォォォォォーッ!』
ランディ「バカッ! だから、やめろって!」
ミズル「ああ、そう。行ってきなよ。そして、いつでも来なよ」

旧日本兵『ォォォォォ・・・・・・・・・・・・』

 シュウゥゥゥゥゥゥ

ランディ「消えた? なにしたんだ」
ミズル「べつになにもしてないよ。
 速攻で生まれ変わって、俺の作品壊しに来るんだってさ」
ランディ「恨みが強すぎて幽霊やめるって、これ、成仏っていうのかなぁ?」
ミズル「仏でも魔神でも、次会うときは少しは上手くなってればいいんだけど」
ランディ「性格悪いのは、絵筆じゃなくてお前だ」

 【山道】
ランディ「山寺のすぐ裏が県道だったなんてな」
ミズル「あぁよかった。クルマ、見つかって」
ランディ「俺は取りあえず東に向かおうと思ってるけど、お前はどうする」
ミズル「南向いてなにいってるのかわからないけど、じゃあ俺は西に行くよ」
ランディ「じゃあな。終わってみると、楽しい一夜だったよ」
ミズル「ねえ、また会えるかな」
ランディ「さぁな。風任せだから、俺は」
ミズル「うん、じゃ、風に任せた」
ランディ「おう、任せとけ」

 ぶるるるるる

ランディ「行ったか。妙な中学生だったな」

 ひゅるるるるる
ランディ「ん?」

 どすーんっ!
ランディ「なんだ!?」
マーズ「あっれー? たしかにいま、空からちらっと見えたんだけどなー?
 あ、ちょいちょい、そこのおにーさん、
 このへんにさ、キタノブルーに塗りたくったクルマ通らなかった?」
ランディ「あ、ああ、それならいま、西に」
マーズ「北指差してなにいってんのかわかんねーけども、
 あぁ、ちょっちょっちょっ! あすこの小屋ン中にあんの、なにさ!?
 知ってんぞ! 知ってんぞ!
 おれはアートなんざぁわかりゃしねーけど、
 このサイケデリックな色遣い! このアバンギャルドな筆遣い!
 データベースに入ってんぞっ!
 こいつぁー放浪の少年ウォールアーティスト『32゛6』の作品じゃねーの!
 なんでこんなイナカに転がってんだよーっ!?」
ランディ「有名なのか? あの、ミズルは」
マーズ「ゆーめーもなにも、あれ、ちょっと待って、『ミズル』?
 あーっ、こんちくしょーっ、ラーナちゃんめ、
 『うちの従兄弟はラクガキしか能のないロクデナシです』とかゆってたくせに、
 あっちゃこっちゃで賞取った注目株じゃねーの!」
ランディ「おい、ちょっと待て! なにしようとしてる!?」
マーズ「決まってんだろーっ、カベから引っぺがすんだよ!」
ランディ「やめろって! せっかく」
マーズ「こんな価値のあるもん、こんな山奥で風化させるなんざぁー、
 『知の記録者』としてのショクギョーイシキが許さねーっ!」
ランディ「あっ!」
マーズ「どーしたの?」
ランディ「デスピニスさんてひとのおっぱいについて事細かく聞くの、忘れてた」

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最終更新:2009年10月17日 14:45
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