2代目スレ 2007/11/19(月)
際限なく重なり合う並行宇宙を流されるように漂う、『私』の存在が、微かに揺らいだ
強烈な因果の「揺れ」だ
恐らくアカシック・レコードに強く記された事象の発現、たしか「奇跡が起きた」、などと言うらしいが・・・
その余波が、ごく僅かではあるが『私』に影響したのだろう
・・・『私』はその奇跡の発現した座標へ向かう
特に何かをする意図は無い。どのみち『私』に何かすることなどできはしない
『私』を動かすのはただ新しく生まれた「奇跡」に近づいてみたいという好奇心、さもなければ光に集まる虫の本能行動
そのようなものに従い、『私』は「奇跡」の起きたある一つの宇宙に顕れる
他の並行宇宙に比べ、その宇宙は混沌としていた
なにやら大規模な力の衝突、アカシック・レコードすらも書き換えるような「何か」があったようだ。そこかしこに生じる因果律のゆらぎを『私』は感知する
並行宇宙には因果律の乱れを正し、宇宙の秩序を維持する「番人」と呼ばれる者が存在する、という事は識っている
その「番人」とやらも、この有様ではさぞ苦労するだろう、などと思いながら、『私』は「奇跡」にさらに近づく
・・・どうやらこの「奇跡」は有機生命体の形をとって発現したらしい。小さな銀河、小さな惑星に繁栄する、小さな有機生命体の幼体
『私』はしばらくこの宇宙に留まる事にする
いずれ弾き出されるだろうが、まあ多少なりとも『私』の惹かれた「奇跡」の傍にいられる事は、悪くない
<ほう、「番人」を円満退職して「見張り番」をしていれば、さっそくおかしな因子を見つけたものだ>
不意に、『私』は何者かから明確な意思を持った干渉を受ける
<見たところ毒にも薬にもならん不確定因子のようだが、どうやら意志をもっているようだな>
これまで、『私』自体に対してこれほど強く干渉してきた者はいない
そいつの失礼な物言いに、『私』は存在を萎縮、身をちぢこませる
<ああ、そう怯えなくてもいい。・・・なに?驚いただけ、だと?・・・ふふ、意外と気の強い奴だな>
なんだか偉そうな奴だ、と『私』は感じる
・・・そうだ。それが『私』と『彼』との最初の接触だった
お互い、相手を排除しようという意志はなく、『私』と『彼』はすぐに和解に至った。
『彼』は『私』に興味を持ったようだった。
いうまでもなく、『私』の方も『彼』に興味を持った。『彼』は『私』と意思疎通を成立させた最初の存在だったからだ。
そして『彼』との干渉、接触、会話によって、『私』は自身が少しずつ変質していくのを感じ取っていた。
<戦闘能力という面では申し分ないのだがな。いかんせん奴は経験不足だ。次元の番人というものがどういうものかしっかりと理解していない>
奇しくも『彼』は話に聞く「番人」であるが、今では肉体を失い、自分の「番人」としての使命を後継者に託し、その後継者の補助をしているのだという。
『私』とはたまたま性質が近く、それゆえ干渉する事が出来たとの事だ
『彼』は色々な知識を識っていた。そして『彼』がまだ有機生命体であった頃の話を聞かせてくれた。
恨み言ではないが、自分がこのような境遇になった事に対して愚痴めいた事もたまに言っていた。
『私』では詳細な理解には及ばなかったが、概略すると『彼』は色々と面倒な事に巻き込まれたり、逆に他人を巻き込んだりした結果、肉体を失ってしまったらしい。
それは半分は自業自得なのではないかといってやると、『彼』は苦笑していた。
<ふむ、ではお前は自力で並行世界を自在に移動できる存在、という事か。・・・面白いな>
何が面白いのかは分からなかったが、確かに『私』はそういった存在だ。
アカシック・レコードに記されないイレギュラーだとか、初めから因果律に組み込まれていないだとか『彼』は言ってたが、理屈で理解するのは難しかった。
ただ自分が一つの宇宙に長く留まれない、という事実は少なからず『私』を落ち込ませた。
そう、『私』は初めて得た他者との関係を失う事が恐ろしかった。恐ろしいなどという感情が私に生じるとは思ってもいなかったが・・・
自分で悩んでもどうしようもなく、意見を聞くべき第三者などそもそも存在しない。どうにかならないものか、と『私』は『彼』に相談してみた。
<随分と人間くさくなったものだな・・・>
意外極まりない、という『彼』の言い草に少々腹が立った。考えるまでもなくそれは貴方の影響なのだが・・・
<お前の望みが一つの世界に留まれるようにして欲しい、というものなら、残念ながら俺には不可能だ>
・・・本気で残念だ。『私』はちょっとじゃなく落ち込む。
<まあ抜本的ではないが、解決策を一つ提供できる。・・・ただし良い事ばかりではないのだが>
教えて欲しい。
<・・・お前がそれを望むなら、俺はお前に名前と肉体を与えてやる事が出来る>
それは『私』が一個の有機生命体になれる、ということ。素晴らしい。そこまではとても素敵な申し出だ。
・・・それで、デメリットとは?
<お前は俺の力、黒い天使に組み込まれる事になる。お前の『名』と『形』には『力』と『使命』が伴う、「番人」としての終わる事の無い使命だ>
『私』は他者と交われるようになる代わりに、他者と果てしなく戦い続けなくてはいけなくなる、という事か
<そうだ。決して心安らかな人生ではなくなる。それでもお前は望むか?>
・・・・・・。
<悪いが俺がお前に与えられるのはこの選択肢だけだ。お前自身が選ぶと良い>
一つ聞きたい。
<なんだ?>
私が生まれ変わったとして、貴方を貴方と認識できるのか?
<今のお前の記憶は消える。完全に消えるわけではないが、意識として昇って来ることは無くなるだろうな。何せ全く異なる生命体になるんだ>
・・・・・・。もう一つ聞きたい。
<本当に人間じみてきたな。なんだ?>
貴方の名前を。
<・・・俺の名は
イングラム・プリスケン。運命に敗れた男だ>
イングレッタ「・・・・・・?」
アストラ「お嬢、肉体の修復率はまだ89%だ。もう少し休んでいろ」
イングレッタ「おかしなビジョンを見た・・・ような気がする」
アストラ「夢?お嬢は夢など見ない、と言っていなかったか?」
イングレッタ「そうね・・・きっとこれも、何処かの誰かの見た夢ね」
アストラ「納得したのなら休んでくれ。修復が完了したら知らせる」
イングレッタ「ええ・・・おやすみなさい、
アストラナガン・・・」
最終更新:2009年10月17日 15:04