ゼラドのタイムリープ

18代目スレ 2007/07/23(月)

 木曜日 学校
ヴィレアム「おい、実は」
ハザリア「黙れ、黙れよ! なんだなんだ貴様は!
 日ごろろくすっぽ絡んでもこないくせに、困りごとがあったときだけ寄って来おって!
 貴様にとって俺はなんだ! 都合のいい女扱いか! 夏が来るのか!
 そういえばママもお嬢様か!?」
ヴィレアム「いや、うちの母さんはお嬢様じゃない。
 わかったよ。今度みんなで野球やるときは、お前にも声かけるから」
ハザリア「ちょっと待てぇっ! なんだ貴様それは。
 なにか。俺を除け者にして、何度となく野球を楽しんでいたというのか!?
 フハハハ・・・、そういう悲しい秘密は、いっそ墓の中まで持っていって欲しかった!」
ヴィレアム「秘密ってほどのものじゃないだろ。
 お前、野球なんかくだらんとかいいそうだし。
 まさかそんな、涙目になるとは思わないじゃないか。
 今度は間違いなく声かけるから」
ハザリア「黙れ、黙れよ! いまさら・・・そんな、取り繕っても、
 俺は・・・ちっとも・・・ワクワクなど・・・グスッ」

ヴィレアム「実は、おかしなものが見えるんだ」
ハザリア「ああ。そのブルース・ウィルスなら、実は」
ヴィレアム「ブルース・ウィルスの話じゃない」
ハザリア「マコーレー・カルキンとかいったか、あの子役は」
ヴィレアム「ハーレイ・ジョエル・オスメントだ! 不吉な間違いをするな!」
ハザリア「それほどかけ離れた間違いでもないがなあ」
ヴィレアム「予知能力がおかしなヴィジョンを見せるんだ。
 俺が、ゼラドを殺そうとしているんだ」
ハザリア「なるほど。ニホンには阿部定という悲しい殺人者がいてだな」
ヴィレアム「茶化さないで話を聞け!
 場所はわからない。どこかの屋内だ。窓が割れて、床にガラスの破片が飛び散っていた。
 外は暗かったから、たぶん夜なんだと思う。
 ゼラドは真っ青な顔をして立っているんだ。縛られているわけでもないのに、動こうとしない。
 そのゼラドに向かって、俺が銃を構えている」
ハザリア「フロイト的にいうなら銃とは」
ヴィレアム「そんなんじゃない! すごく大きな銃なんだ。
 オートマティック式なんだが、少し変わった形をしていた。
 グリップは木製で、弾倉は引き金の前に付いてるみたいだった。
 あんな銃は見たことが」
ハザリア「なんだ、それはモーゼル拳銃ではないか。
 ドイツ製だが第一次世界大戦後の中国に大量に流出し、特に馬賊の武器として恐れられた拳銃だ。
 貴様の祖先には馬賊でもいたのか」
ヴィレアム「いや、考えてみるとうちの両親には祖先とかそういうのがいないと思うんだ」
ハザリア「妙、といえば妙だな。ただの淫夢にしてはディテールがはっきりし過ぎている」
ヴィレアム「お前、今の今まで淫夢だと思って聞いてたのか?」


ゼラド「じゃーん、どうだ!」
ハザリア「いや、突然じゃーんとかいわれても、リアクションに困るじゃんといわざるを」
ヴィレアム「すごいじゃないかゼラド! 数学で100点なんて、初めてじゃないか?
 それ、今日の午前中にやった数学の小テストだよな」
ゼラド「ハザリアくん、これで信じてくれるでしょ?」
ハザリア「信じるもなにも、バランガになにか疑いを向けた覚えなど・・・、
 はて、なんだこれは」
ヴィレアム「うわ・・・、なんか、ずいぶん変わった解き方したんだな」
ハザリア「変わっているというか、これは俺の解法そのものだ」
ヴィレアム「お前、なに言い出すんだ!」
ハザリア「カンニング、ではないな。この最後の、
 『ゼラド×レイナ×ミッテ先生×アルベロ先生×ミロンガ×クリハを答えよ』
 だが、俺はこの問題に正答していない」
ヴィレアム「あー。最後にゼロかけてるから、なにやってもゼロっていう
 ラミア先生の冗談問題か。
 お前はそういう変な問題で間違えるよな」
ハザリア「だが、この解き方は紛れもなく俺そのものだ」
ヴィレアム「なあゼラド。お前、最近ルナとよく勉強してるだろ?
 バルマー留学組は基礎教育をバルマーで受けてるから、数学の解き方も」
ハザリア「そういう問題ではない。バランガ、貴様利き手はどちらだ」
ゼラド「右だけど?」
ハザリア「俺は両利きだ。
 元々は左利きだったが、行儀が悪いからということで矯正された結果そうなった。
 おかげで、時間のないテスト中などは両手を使って計算するというクセが残ってしまった。
 しかし、これを片利きの人間が真似するのは意味がないというか非効率的というか、
 余計に時間がかかるだけだ」
ゼラド「金曜日のハザリアくんから教わった通りにやったんだよ?」
ハザリア「金曜? はて、先週の金曜はたしか」
ゼラド「先週じゃないよ。今週の金曜日!」
ヴィレアム「ゼラド、今日はまだ木曜日だぞ」
ゼラド「だから、明日が昨日だったんだよ!」

ハザリア「そんな、マオ・インダストリーの社長が主題歌歌ってたB級映画のようなことをいわれてもなあ」
ヴィレアム「けっこういろんなことやってるんだな、マオ・インダストリーの社長は」
ゼラド「土曜の午前中までは普通に暮らしてたんだよ?
 でも、気が付いたら金曜の朝で、それで寝て起きたら、今度は木曜日になってるの」
ハザリア「どこかでラベンダーの匂いを嗅いだとでもいうつもりか?」
ゼラド「えーっと、土曜日は朝ご飯を食べてからちょっと駅前に出かけて、
 途中で野球に行く途中のヴィレアムくんと会ったよ。
 そうそう、ハザリアくんのことは本屋で見かけたっけ」


ハザリア「ふん。その程度のことで信じることはできんな。よくあるインチキ占いとおなじ手口だ。
 休日に俺がいる場所といえば本屋か模型店の二択だし、
 この薄情者が俺を除け者にしてベースボールゲームをエンジョイしているのもいつものことらしい」
ヴィレアム「恨みがましい目で見るな。どれだけ野球のこと根に持ってるんだ」
ゼラド「たぶんそういうだろうからって、金曜日のハザリアくんがテストの解答を丸暗記するようにって」
ハザリア「なるほど。このテスト問題は俺の差し金か。
 フハハハ。我ながら味な真似をしよるわ」
ゼラド「これで信じてくれるでしょ?」
ハザリア「いや。明日、金曜日の貴様の言動が今いったことと矛盾しないことを確認せねばな。
 ふむ。そうだな。右手を出せ」
ゼラド「ん?」
ハザリア「手の平に、『人』と・・・」キュッキュッ
ヴィレアム「おい! なに落書きしてるんだ!」
ハザリア「バルマー特製の強力油性インクだ。
 大丈夫だとは思うが、一応消えないようにに注意しておけ」
ゼラド「そっか、ここでだったんだ」
ヴィレアム「ここで?」

 金曜日
ゼラド「ヴィレアムくんヴィレアムくん、大変なの!
 なんで今日金曜日なの? 土曜の次は日曜でしょ!?
 朝起きたらお母さんが学校に行きなさいって、あれ? あたしいつ寝たんだろ。
 あ~ん、もう、自分でなにいってるかわかんないよぉ!」
ヴィレアム「落ち着けゼラド。お前は土曜日から来たんだな?」
ハザリア「なんで貴様はそう、あっさり信じるのか」
ゼラド「えぇと、土曜日ヴィレアムくんは野球でハザリアくんは本屋に」
ハザリア「なるほど、どうあっても俺を除け者にすると!」
ヴィレアム「まだ起こってもいないことで怒るのはやめてくれ!」
ハザリア「どれ、右手を見せてみろ」
ゼラド「え、あれ? 『人』の字? こんなの、いつの間に」
ハザリア「脈を見せてみろ」
ゼラド「うん」
ハザリア「フム。では目を剥いて舌を出してみろ」
ゼラド「あかんべえ」
ハザリア「なるほど」
ヴィレアム「なにかわかったのか?」
ハザリア「うむ。俺には脈や瞳孔を見るスキルなどなかった」
ヴィレアム「お前は! 昨日からムダにゼラドの手握ってないか!?」


ハザリア「それほどムダではなかった。どうやら、バランガは精神的に時間移動しているようだ。
 昨日書いた『人』の字が手の平にあるのがその証拠だ」
ヴィレアム「そっか。木曜に書いた字があるってことは」
ハザリア「少なくとも、バランガの肉体が存在しない超古代や超未来に飛ぶ危険はないわけだ」
ゼラド「でも、あたし、どうなるの?」
ハザリア「貴様は明日、木曜に飛ぶことになる。
 事態が収拾しなければ、その次は水曜に行くことになるだろうな」
ヴィレアム「どうにかならないのか!?」
ハザリア「精神的タイム・リープ現象といえば、過去に例がないわけではない。
 たしか、ワカマツという研究者が論文を発表していたはずだ。
 ときにバランガ。木曜に数学の小テストがあっただろう。何点だった」
ゼラド「えぇっと、65点?」
ハザリア「今日寝るときまでに、この模範解答を丸暗記しておけ。
 解答はもちろん、式の書き方までな。
 でなければ、我々の協力を得ることはできん。
 俺などはついさっきまであまり信じていなかったからな」
ゼラド「ふえぇ~!?」

ハザリア「おい、ちょっと来い」
ヴィレアム「なんだよ、ゼラドが」
ハザリア「いいから勉強させておけ。それよりも、読めたぞ。
 貴様が見たという淫夢のことだ」
ヴィレアム「まだ淫夢扱いしてたのか」
ハザリア「バランガのやつ、数学の小テストが65点だったといっていた。
 しかし、我々が知るバランガは100点を取っている。
 つまり、現在進行形で歴史を書き換えているわけだ。
 現在進行形というのもおかしな言葉だがな」
ヴィレアム「でも、未来を変えるのは問題ないんじゃ」
ハザリア「バランガにとっては過去のことだ。
 そしてこれが、後に大きな問題を生む可能性もある。
 仮にだ、今回のことがきっかけでバランガが数学に興味を持ったとする。
 仮に、数学科への進学を考えるようになる。仮に、大学に合格したとする。
 仮に、バランガの代わりに不合格になった人物がいたとする。
 仮に、その人物がのちに数学上の大発見をするはずだったとする。
 仮に、その発見がされなかったせいで文明の進歩が遅れるかもしれん」
ヴィレアム「でも、ゼラドは危険から逃げようとしただけなんだろ?
 それは悪いことじゃ」
ハザリア「善悪の問題ではない。時間とはデリケートなものなのだ。
 バランガが助かりたいと思ったばかりに、歴史が変わってしまう危険がある。
 貴様はその危険性を理解し、使命感と我が身の感情の板挟みになりながらも引き金を引くのだ!
 フハハハハ! 燃えるシチュエーションではないか」


ヴィレアム「冗談でも面白がるな! だいたい、なんでそんなことが」
ハザリア「精神的タイム・リープ現象は、危険からの一時待避手段だといわれている。
 おそらくバランガは、土曜になんらかのトラブルに巻き込まれ、精神だけ過去に避難したのだろう。
 しかし、避難した先で解決法が発見されるとは限らない。
 放っておけばバランガは過去に跳躍し続け、歴史はますます改変されていく」
ヴィレアム「わかった。つまり、土曜にゼラドを危険から守ればいいんだな!
 よし、なにを着ていこう・・・!」
ハザリア「貴様の私服のセンスがやばいのは、今さらもうどうしようもないぞ」

 土曜日 学校
ヴィレアム「とにかく今日は、一日中ゼラドをガードする!」
ゼラド「え? なんであたし、学校に連れてこられてるの? 駅前に用があるんだけど。
 ヴィレアムくん、今日野球の約束があるんじゃなかったの?
 さっきキャクトラくんが探してたよ?」
ハザリア「そら見ろそら見ろ! こうやって歴史は改変されていくのだ!
 いいからさっさと本来の歴史通り野球をしろ! 俺を伴ってな!」
ヴィレアム「それでいったら、お前が持ってる明らかに新品のバットとグローブも充分歴史の改変だ!
 さっさと本屋に行ってこい!」
ハザリア「黙れ、黙れよ! 
 今日野球に行かないことによって、俺が将来的に強打者になる可能性が消えてしまうかもしれんのだぞ!?
 そうなれば、俺のホームランで元気づけられた手術を受ける決心をする子供はどうなる!
 貴様は病気の子供がどうなっても構わんのか!?」
ヴィレアム「その美談、新聞記者がでっち上げたデマだっていうぞ」
ハザリア「マジでか」
ヴィレアム「そもそもお前は今日、野球に行かないはずなんだから」
ハザリア「ああ! ああ! 貴様やはり、俺を野球に誘うつもりなどなかったのだな!
 もう人間など信用できない! 地球文明など滅んでしまえ!」
ヴィレアム「お前、いつからそんなに野球好きになったんだよ!」
ゼラド「ケンカやめなよぉ~」


ヴィレアム「いいから、ガードに身を入れろ!
 だいたいこういうことが起こると、いつも若い母さんが・・・」

ガシャンッ!
イングレッタ「・・・ぐ」
ヴィレアム「若い母さん! どうしたんだ、腕が千切れかけ・・・」
イングレッタ「再生処置を受ければすぐに元に戻るわ。
 それより、すぐに逃げ・・・」
ゼラド「きゃあっ!」
ヴィレアム「ゼラドっ!?」
イングレッタ「・・・しまった!」
ハザリア「おい、動くと傷が!」
ヴィレアム「なんだ、あれ! 金属製の蜘蛛みたいのが、ゼラドの耳に。
 くそっ!」

 バンッ
ヴィレアム「前に行けない!? なんだこれ、透明な壁みたいのが」
イングレッタ「エクサランス。時流エネルギーを求めてさまよう、時のハイエナよ。
 1920年代の中国で追い詰めたのだけど、1匹打ち漏らしてしまった・・・!」
ハザリア「外が急に暗くなったぞ! そうか、タイム・リープ現象の原因は!」
ゼラド「・・・ア・・・・・・ア・・・」
ヴィレアム「ゼラド! ゼラド! 動けないのか!?
 くそっ! 目の前にいるのに! 壁が! 透明の壁が!」
イングレッタ「これを使いなさい」
ヴィレアム「これは・・・、モーゼル拳銃!?」
イングレッタ「バリア貫通の特殊弾は一発しか残っていない。
 わたしは、この腕では精密射撃ができない。あなたが撃つのよ」
ヴィレアム「割れた窓。暗い外。立ち尽くしてるゼラド。モーゼル拳銃!
 そうか、ここを見たのか!」
イングレッタ「撃ちなさい。耳からエクサランスに侵入されたら、ゼラドは!」
ヴィレアム「そんなこといわれても実弾なんて・・・!
 くそ、手が震える。照門と照星が合わない。この銃、重くないか?
 引き金、引き金はどこだ? 安全装置って、どうなってるんだ?
 1920年代の中国から持ってきたって、メチャクチャ旧式の銃じゃないか。
 命中精度は大丈夫なのか?
 ダメだ! 射撃に集中しろ。弾は一発だけ・・・。
 くそっ、汗が目に染みる。当てられるのか!? 一歩間違えばゼラドに・・・!」
ハザリア「なにをごちゃごちゃいっておるか、さっさと撃て!」
ヴィレアム「気軽にいうな!」
ハザリア「必ず当たる。当てさせてやるから、引き金を引けぇっ!」
ヴィレアム「くっ、南無三ッ!」


 保健室
クォヴレー「そうか。俺がいないうちに、またそんなことが」
イングラム『しっかし、よくそんなピアスくらいの的に当てられたもんだよなあ。
 あの子、射撃の才能でも』
イングレッタ「例のツンデレ坊やが念動力でレールを作ってたのよ。
 あれなら外すはずがない。引き金を引く精神力だけが問題だったわ」
クォヴレー「今までも、何度か似たようなことがゼラドの身に起こっている。
 俺と接しているうちに、あの子におかしな影響が出ているのかもしれない。
 俺はもう、ゼラドと会わない方が」
イングレッタ「それは違うわ。異変が起こるのは、決まってあなたがいないときだもの。
 たぶん原因は」
イングラム『グレちゃん? どこ行くんだ。まだ腕の再生処置が』
イングレッタ「野球するのよ」

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最終更新:2009年11月14日 10:46
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