DangDang気になるゼラド

18代目スレ 2007/07/29(日)

 唐突に電波が飛んできたので形にしてみた。


 お兄ちゃんが風邪をひいた。
 虚空の使者なんてやってて、体も結構丈夫なお兄ちゃんだけど、病気になったのを見たのは初めてだった。
 けどそれはお兄ちゃん自身も一緒だったらしくて、「敵の細菌兵器を食らったか!?」なんて物凄い勘違いをしていた。
 そんなお兄ちゃんも、今はおとなしくベッドで横になっている。
 それなりに重症らしくて、起き上がれない……ってほどじゃないにしても、食事もまともに喉を通らないみたい。
 で、私はというと――

「Dang Dang 気になる~、気のない~、振りして~るの~が~♪」

 今、鼻歌を歌いながら、台所で土鍋の様子を見張っていた。
 うちの台所は、ちょっとした業務用厨房なみに広い。コンロの横には業務用の大きな炊飯器が3つ並んでいて、それぞれマジックで『アラド』『ゼラド』『アオラ』って書かれている。その脇には、『その他』って書いてある普通の小さな炊飯器が、ちょこんと置いてあった。
 その中で、私の名前が書かれている業務用炊飯器が、その口を開けていた。中には炊きたてのご飯。私はそれを“少しだけ”土鍋に移して、今まさにお粥を作っているところだった。

 ぐつぐつと泡を噴く土鍋にちょこっとスプーンを入れて、ひょいぱくっと口に運んでみる。
 ……うーん、まだお米がちょっと硬いかな? あと、もうちょっと塩入れてみたらどうだろう?

 少し経ってから、もう一度ひょいぱくっと味見。……もうちょっと水足してみようかな。

 ちなみに、ディストラお姉ちゃんは、商店街の薬局に行っている。「薬箱にある風邪薬じゃ即効性に欠けます!」なんて言ってたけど、風邪の特効薬なんて存在しないって知ってるのかな?
 あと、背後霊さんも連れて行った。「この人がいたら治る風邪も悪化しますから」だって。ちょっと酷いような気もしたけど、反論できなかった私も一緒かも。ごめんね背後霊さん。

 心の中で背後霊さんに謝ってから、もう一度ひょいぱくっと味見。……うん、いいかも。

「完成っと♪」

 私は火を止めて、ミトンを両手に嵌めて土鍋を持ち上げた。そのまま台所を出て、トントンと階段を登り、お兄ちゃんが寝ている部屋の前で一旦足を止める。持ってた土鍋を床に置いて扉を開け、土鍋を持って部屋の中に入る。

「お兄ちゃん、お粥できたよ♪」

「……ん……」

 どうやらお兄ちゃんは寝ていたようで、私の声に反応して億劫そうに薄目を開けた。
 私は、お兄ちゃんの枕元に土鍋を置くと、眩しくないようにシャッと窓のカーテンを閉めた。
 ……その時、商店街の上空あたりで悪魔王と龍が戦っていたのが見えたけど、気のせいよね多分。時々感じる揺れも、ただの地震だと思う。うん、気のせいったら気のせい。

「……ゼラドか……」

「大丈夫?」

「……問題……ない……」

「ほらほら、無理しないで。お粥作ったんだよ。食べる?」

 強引に体を起こそうとしたお兄ちゃんに、私はその背中に手を添えて起き上がる手助けをした。上体を起こしたお兄ちゃんに、私は作りたてのお粥を見せる。

 ……けどお兄ちゃんは、私の見せた土鍋を見て、怪訝そうに眉をひそめた。

「ゼラド……」

「なに?」

「土鍋の容量に比べて、中に入ってる量が随分少ないようだが……」

 ギクッ。

「ナ、ナンノコトデセウ?」

「それとゼラド。ほっぺたにご飯粒がついてるぞ。しかもかなり」

 ギクギクッ。

「……どれほどつまみ食いした?」

「えーと……その……」

 図星を指されてしどろもどろになる私。お兄ちゃんは、そんな私の様子を見て、はぁと大きなため息をついた。
 うぅ……そんなため息までついて、いじめないでよ……お兄ちゃんの意地悪……

「……ま、俺の食べる量としては適切だがな。どうせ最初は、自分の食べる量を基準に考えていたんだろう?」

「ごめんなさい……」

 まさしくもってその通りだった。私は最初、土鍋いっぱいにご飯を入れてた。
 今土鍋に残ってる量は、私にとってはお腹を一割も満たさない程度の量だったけど、お兄ちゃんにとっては十分な量らしい。風邪で食欲がなくなってるんだろうけど、お兄ちゃんって随分小食だよね。

「いいさ。それに、ゼラドが作ってくれたものだしな。在り難く食べさせてもらおう」

 けどお兄ちゃんは、しょぼくれる私の頭に手を置いて、くしゃっと粗雑に撫でてくれた。たったそれだけなのに、失敗を指摘されて落ち込んでた気持ちが持ち直してくる。
 ……あったかいなぁ……お兄ちゃんの手……
 そんなことを思っていると、いつの間にか土鍋はお兄ちゃんの手元に移動してて、今まさにスプーンを使って口に運ぼうとしているところだった。

 ……あれ? そういえばそのスプーンって……

「あ……」

「…………?」

 小さく声を上げた私に、お兄ちゃんはスプーンをくわえたまま疑問符を浮かべた。
 ええっと、それって……今気付いたけど、私が味見に使ってたスプーン……
 こ、これって……間接キス……?

「どうしたゼラド? 顔が赤いぞ?」

「う、ううん。なんでもない」

「俺の風邪が移ったか?」

「だ、大丈夫だからっ」

 心配そうに見てくるお兄ちゃんに、私は少しどもりながらも、心配しないでと手を振った。

「ならいいんだが……」

 そう言って、お兄ちゃんはお粥をまた口に運んだ。その手に持ったスプーンがお兄ちゃんの唇に触れるたび、私は自分の顔が熱くなるのを感じる。

「……ん。美味いな」

「あ、うん……」

 その一言を貰えただけでも、作った甲斐があったと思う。私は自分の顔が緩んでいくのを、どうしても自制することができなかった。

 ぱく、ぱく、と。

 お兄ちゃんが最後の一掬いまで食べきるまで、私は横でその食事風景を見守っていた。

「……美味かった。ありがとう」

「お粗末様でした♪」

 そして空になった土鍋を受け取り、私は部屋を出て台所に向かった。
 その足取りが軽くなっているのは……たぶん、気のせいなんかじゃないだろう。

「看病っていうのも……悪くないかも」

 お兄ちゃんの風邪が長引けばいいなーなんて、ちょっと不謹慎なことを考えちゃったのは……乙女の秘密とゆーことで♪



 ――ちなみに。

「ただいまー」

「あ、ディストラお姉ちゃんお帰りなさーい。……あれ? なにそのネギ? お薬買いに行ったんじゃなかったの?」

「ああこれですか。とりあえず、風邪の特効薬……とでも言っておきましょうか♪」

 ネギを持ったお姉ちゃんは、そう言って悪戯っぽい笑顔を見せた。なんでかわからないけど、その小悪魔っぽい笑顔に悪寒が走ったのは、気のせいと思いたい。
 そして、そのままディストラお姉ちゃんは階段を上がってお兄ちゃんのベッドに向かって行った。しばらくして、ドタンバタンといった喧騒の後、「アッー!」という声が聞こえた。

 …………大丈夫、だよね?(汗)



 とまあこんなところで。もうちょっといちゃラヴさせたかったけど、俺の技量じゃここが限界。「はい、あーん」もさせたかったんだけどなぁw

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最終更新:2009年11月14日 10:48
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