シャドウクォヴレー

18代目スレ 2007/08/04(土)

…時空間を駆け抜ける感覚は、決して疾走感のあるものでなく、
むしろ土の中を掘り進むときのそれに似ていて、ひどく不自由な閉塞感を覚える。
戦場へと向かうディス・アストラナガンの中で、クォヴレーは苛立ちを隠せなかった。
「まだか!? アストラナガン!」
『もう少しだけ待ってください!』
『早く! 早くしないとグレちゃんが!』
イングレッタからの救援要請を受けてから、まだそれほど時間が経ってはいない。
(しかし、あのイングレッタが一人では手こずると判断した……相当な強敵のはずだ。
 おそらくはエクサランス……いや、もしかすると……)
『! 見つかりました!』
(……ここで考えても仕方ない!)「よし! 行くぞ」
『GO!GO!GO!』
考えを寸断すると、クォヴレーは時空の壁を切り裂き、戦場への道を切り開いた。
最後にクォヴレーの頭に浮かんだ敵、それは――

「厄介なものね!」
イングレッタは毒づきながら、四方に意識を集中する。
敵の遠隔兵器の座標を、瞬時に読み取った!
「…いきなさい、ガン・ファミリア!」
指示とともにリボルバーの型を模したファミリアが射出される。
同時にイングレッタは射線上から機体を外し、敵機体に向けて全力でバーニアを噴かせた。
そして一瞬で距離を詰めると、右手のZ.Oソードを頭部目掛けて振り下ろした!
……しかし、イングレッタの攻撃は、敵の予想の範囲内であった。
敵はZ.Oソードと同じく、ゾル・オリハルコニウムをもって作られた大鎌で、
イングレッタの太刀を弾くと、そのまま肩部の装甲を展開する。
「くっ……しまった!」
戦闘によって歪んだ時空間の中では、いくらアストラナガンといえども、瞬時には態勢をを立て直せない。
やけにゆっくりと――メスアッシャーの中で渦を巻くエネルギー体が、イングレッタの目に映っていた。

「メスアッシャー!」

…しかしその声は、敵のものではなかった。
敵は急な攻撃にも関わらず、見事な回避行動でそれをかわした。
が、そのために一拍の遅れが生じ、イングレッタには態勢を立て直す余裕ができた。
「遅れてすまない」
これ以上ないタイミングで、増援が到着したのだ。
「間に合えば問題ないわ……それより――」
「ああ……」
イングレッタ、そしてクォヴレーは、敵を睨みつけた。
それはクォヴレーにとって、最も馴染みの深い機体だった。
「回線を開け……クォヴレー・ゴードン
彼はゆっくりと、敵の名を呼んだ。

『………』
映しだされた姿は、紛れもなくクォヴレー・ゴードンであった。
ただモニターの中の彼は、周りに何も寄せ付けまいとするオーラを纏い、
その目は、ギラギラと渇いた輝きを放っていた。
「おまえは今、因果律を誤った方向へ捻じ曲げようとしている。
並行世界の番人として、見逃すわけにはいかない……!」
クォヴレーは強く力をこめた。ディス・アストラナガンが敵と同じく、Z.Oサイズを構えた。
『……どいてくれ。 俺には、やらなくてはならないことがある!』
二機のディス・アストラナガンは同時に距離を縮め、そして衝突した!
互いにそのまま切り抜けると、反転し、また衝突を繰り返す。
交錯の度に閃光が散り、そしてそれらは全て、空間の歪みに消えていく。
「世界を捻じ曲げることはあってはならない。 そんなことは、おまえにはわかっているはずだ!」
『……俺の世界で、一つの家族が死んだ』
「!」
クォヴレーにはそれが、誰なのかわかった。
そう、彼と同じ存在に、使命を放棄させるほどの、それは……
『事故だった……俺は何もしなかった。 ただ、結果を受け止めることしかしなかった。
タイムダイバーとして使命を果たし、忘れようとしても……出来なかった。
……そして、俺は決めた。例え許されないことであるとしても、俺は……ゼラドたちを!』
渾身の一撃が振り下ろされた。クォヴレーはかろうじてそれを受け止める。
鍔迫り合いとなり、両機の腕部はギシギシと、悲鳴をあげた。
「……因果律を捻じ曲げたことによって、消えてしまう人たちはどうなる?
誰かを犠牲にしてまで生き返ることを、ゼラドたちが本当に望むと思うのか!?
……俺たちは世界を守らなくてはならない。生きている、そして、死んでいった人たちのためにも!」
《! ……ゼラド、俺は、間違っていたのか?》
ギィンという激しい音とともに、両機が離れた。一瞬の逡巡が頭をよぎった、そのときだった。
「インフィニティーシリンダー! マキシマムシュート!!」
『!』
イングレッタの援護射撃が、ディス・アストラナガンを掠めた。
しかしそのディプラーシリンダーによって発生させた10個もの中性子星による引力は、
ディス・アストラナガンを縛りつけ、一時的に動きを鈍らせた。
「……タイムダイバーという立場に立たされたものは、否応なくその悲しみを背負っていかなくてはならない。
にも関わらず、あなたは――秤にかけてはいけないものを、秤にかけたのよ」
『くっ……ディスレヴ、フルドライブ!』
「……ディスレヴ、フルドライブ!」
2機のディス・アストラナガンは胸部を開放させた。
『「テトラクトゥス・グラマトン!」』
2つのアインソフオウルは同時に放たれ、2機の間でぶつかった。
しかし性能が同じ分、インフィニティシリンダーの影響下にあり、
回転力の落ちたアインソフオウルは打ち破れ……そして中性子星が、辺りを取り囲んだ。

削られていくディス・アストラナガンの中、クォヴレーは宙を見つめていた。
「―――」
最後の言葉は、誰にも届くことはなかった……

「……」
自分の世界に戻るまで、クォヴレーが口を開くことはなかった。
『……おいおいどうした? えらく黙り込んじまって』
「ゼラドたちがいなくなったら、自分も同じような行動をとるかもしれない、というとこかしら?」
イングレッタは容赦なく言った。
「そ、そんなことは…ない……ですよ……」
ディストラは、歯切れ悪く答えた。
「安心して。もしそうなったら、私が止めてあげるから」
すぱっとイングレッタは言い切った。その口調に翳りはない。
「……いや、大丈夫だ。ゼラドが悲しむようなことを、みすみす行ったりはしない」
ここでやっと、クォヴレーは口を開いた。
それは質問に対する答えではなく、自分に対する決意だった。

やがて彼らは、窓から幸せそうな明かりの漏れる一軒家に辿りついた。
息を吐いて気持ちを落ち着けると、クォヴレーは右手で軽く、ドアをノックした。

「あっ、お兄ちゃん!」

変わらない、大切な笑顔が、クォヴレーを迎えた。

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最終更新:2009年11月14日 10:48
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